(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記取り出し構造体が形成される前記光学素子の前記表面及び/又は前記表面と反対側の前記光学素子の表面は、次の結晶面、即ち、{100};{110};{111};{113}のうちの1つによって又は前記結晶面のうちの1つから10°の範囲内に形成されている、請求項1又は2に記載の光学素子。
前記取り出し構造体は、凸面、マイクロレンズアレイ、固体浸漬レンズ(SIL)、複数個の表面窪み又はナノ構造体、回折格子、フレネルレンズ及び例えば反射防止膜のような被膜のうちの1つ又は2つ以上から成る、請求項1〜4のうちいずれか一に記載の光学素子。
前記取り出し構造体は、前記単結晶ダイヤモンド材料の第1の部分及び前記単結晶ダイヤモンド材料の第2の部分によって形成された凸面であり、前記第1の部分は、球形キャップを形成し、前記第2の部分は、球形セグメントを形成している、請求項1〜9のうちいずれか一に記載の光学素子。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の或る特定の実施形態では、光学素子であって、量子等級ダイヤモンド材料の少なくとも一部分及び光学素子の表面のところに設けられていて、光学素子の表面のところに設けられていて、量子等級ダイヤモンド材料からの光の取り出しを増加させる取り出し構造体を有する光学素子が提供される。極めて低い窒素環境及び/又は極めて低い
13C環境内において量子等級ダイヤモンド材料を成長させる。さらに、量子等級材料の表面の少なくとも一部分は、好ましくは、低い表面粗さを備えている。かかる材料は、国際公開第2010/010344号パンフレット及び同第2010/010352号パンフレットに記載されている。しかしながら、かかる量子等級ダイヤモンド材料の成長は、極めて注意深く制御される必要がある。さらに、窒素含有量が低いので、その結果として、基体からの側方成長が乏しい。これは、ダイヤモンドが相当大きな側方成長を行うことができると共にこれを高い速度で成長させることができる窒素含有量の高い環境内において成長させた低品質ダイヤモンドとは対照的である。したがって、本発明は、多段成長プロセスを用いることを提案し、かかる多段成長プロセスでは、低品質単結晶ダイヤモンド材料の第1の層を比較的高い窒素含有量環境中で成長させて比較的高い成長速度での側方成長を促進し、次いで、第2の成長段階を実施し、この第2の成長段階では、気相を変化させて第1の層状に高品質量子等級ダイヤモンド材料を形成する。
【0021】
かかる方法により、単一段プロセスと比較して多くの体積の量子等級ダイヤモンド材料を成長させることができる。したがって、大きなサイズの量子等級ダイヤモンド材料から成る光学素子を形成することができ、その結果、取り出し構造体を光学素子の表面のところに容易に形成することができ、それにより量子等級ダイヤモンド材料からの光の取り出しを増加させることができる。変形例として、本発明の方法により達成される量子等級ダイヤモンド材料の側方寸法の増大に起因して複数の光学素子を同一の量子等級材料片から形成しても良い。
【0022】
光学素子のダイヤモンド本体の形成後に取り出し構造体を形成することができ又は光学素子のダイヤモンド本体の形成中、光学素子のダイヤモンド本体を形成する方法の一体部分として形成することができる。取り出し構造体を、例えば、光学素子のダイヤモンド表面中に形成することができ、即ち、取り出し構造体は、光学素子のダイヤモンド表面によって一体に形成される。
【0023】
取り出し構造体が形成される光学素子の表面及び/又は表面と反対側の光学素子の表面は、次の結晶面、即ち、{100};{110};{111};{113}のうちの1つによって又はこれらの表面のうちの1つの近くに(上述の結晶面のうちの1つから10°以下、8°以下、5°以下、2°以下、1°以下又は0.5°以下に)に形成される。{111}平面が好ましい。というのは、かかる結晶方位により、光の取り出しが増加することが判明したからである。
【0024】
取り出し構造体は、凸面、マイクロレンズアレイ、固体浸漬レンズ(SIL)、複数個の表面窪み又はナノ構造体、回折格子、フレネルレンズ及び例えば反射防止膜のような被膜のうちの1つ又は2つ以上から成るのが良い。さらに、取り出し構造体は、高品質単結晶ダイヤモンド材料からの光の取り出しを増加させるよう位置決めされるのが良い。例えば、取り出し構造体は、収集効率を3倍、4倍、5倍、6倍、7倍、10倍又は15倍以上増加させることができる。
【0025】
本発明の方法により、大きな高品質単結晶ダイヤモンド材料片を形成することができるようにすることによってかかる取り出し構造体を高品質単結晶ダイヤモンド材料中に、上に又はこれによって容易に形成することができる。例えば、本発明の方法を利用することによって、固体浸漬レンズを極めて高い品質の単結晶ダイヤモンド材料、例えば量子等級単結晶ダイヤモンド材料から形成することが可能である。国際公開第2007/007126号パンフレットは、単結晶ダイヤモンドを滑らかな表面を備えたSILに形成する方法を開示している。この方法により、大きな単結晶ダイヤモンドSIL及び/又は高品質単結晶ダイヤモンドのSILを製造することが容易になる。
【0026】
本発明によれば、光学素子は、第1の単結晶ダイヤモンド材料層を全く含まないで第2の単結晶ダイヤモンド材料層で作られることが想定される。この場合、最初の成長段階は、高品質単結晶材料の第2の層を成長させる大きなベースを形成するよう機能する。しかしながら、或る特定の好ましい実施形態によれば、光学素子は、第1の層と第2の層の両方の少なくとも一部分で作られる。この場合、取り出し構造体は、少なくとも一部が、第1の単結晶ダイヤモンド材料層で作られた光学素子の部分に形成されるのが良い。かかる実施形態は、特に賢明である。というのは、かかる実施形態の結果として、取り出し構造体の形成中に除去されるべき高品質材料が少なくなると共に/或いは取り出し構造体を光学素子中に形成するのに必要な高品質材料が少なくて済むからである。かかる実施形態により、高級ダイヤモンド材料の一部分及び光取り出し構造体が一体的に組み込まれた状態で形成された低級ダイヤモンド材料の一部分を含む複合ダイヤモンド光学素子が提供される。これにより、取り出し構造体を表面中に形成するほど大きな高品質ダイヤモンド材料片を成長させるのに必要な追加の困難さ、時間及び費用が回避される。取り出し構造体を形成するために相当多くの量の極めて高価な高品質材料を除去する必要性も又回避される。
【0027】
第1の層は、有利には、0.25mm以上、0.5mm以上、1mm以上、1.25mm以上、1.5mm以上、2mm以上又は5mm以上の厚さまで成長させられる。第1の層が成長しているとき、外部結晶形態学的特徴は、45°だけ回るのが良い。即ち、単結晶ダイヤモンドは、基体の側部に対して側部が45°だけ回転し、基体のコーナー部の近くに至る。この回転は、当該技術分野においては周知である。側方成長は、この成長段階中に生じ、ついには、単結晶ダイヤモンドが完全に回転し、その後、それほどの側方成長は生じないようになる。第1の層を第2の層の成長に先立って丸一回転まで成長させ、それにより第1の成長段階において側方成長を最大にし、かくして第2の成長段階において第2の層状における高品質単結晶ダイヤモンド成長のサイズを増大させることが有利である。
【0028】
上述のことと関連して、化学蒸着技術を用いて第1及び第2の層を成長させる基体のサイズに対して高品質材料の第2の層の側方寸法を最大にすることが望ましいことが明らかであろう。これは、高い窒素濃度を利用して側方CVDダイヤモンド成長を促進し、次に低い窒素濃度を用いて高品質ダイヤモンド層を形成するよう成長に関する化学的性質を変更することによって達成される。成長に関する化学的性質の変更に加えて、基体の幾何学的形状は、基体に対するCVDダイヤモンド材料のサイズの比を増大させるよう選択されるのが良い。これを達成する特に好ましい一手法は、アスペクト比が少なくとも1.3:1の成長面を備えた単結晶ダイヤモンド基体を利用することである。開始基体の側方寸法と比較して大きな側方寸法を備えるダイヤモンド材料を提供するためのCVD成長は、かかるアスペクト比を備えた成長面を有するベース基体から達成されるのが良い。例えば、この方法は、単結晶ダイヤモンド材料を成長させるステップを含むのが良く、かかる単結晶ダイヤモンド材料の成長ステップは、(001)主要面を備えたダイヤモンド基体を提供するステップを含み、主要面は、少なくとも1つの<100>エッジによって境界付けられ、このエッジの長さは、上述の少なくとも1つの<100>エッジに直交する主要面の寸法を少なくとも1.3:1の比だけ超え、単結晶ダイヤモンド材料の成長ステップは、CVD合成条件下においてダイヤモンド材料表面の(001)主要面上にダイヤモンド材料をホモエピタキシャル成長させるステップを更に有し、ダイヤモンド材料は、(001)主要面に垂直な方向とこれから横の方向との両方向に成長する。例えば、基体は、辺の長さa,b(この場合、a>b)を備えた長方形の基体成長面を提供することができ、アスペクト比a/bは、1.3以上である。
【0029】
第2の層の厚さは、有利には、0.1μm以上、1μm以上、10μm以上、100μm以上、200μm以上、500μm以上又は1mm以上である。最終の光学素子中に高品質ダイヤモンド材料の十分に大きな部分を提供するよう第2の層を少なくともこれらの厚さまで成長させることが有用である。幾つかの量子用途に関し、単一格子源は、有利には、第1の層の低級材料から0.1μm、1μm、10μm、100μm、200μm又は500μm以上の距離のところに配置される。というのは、単一格子源に関するT2時間を単一格子源に近すぎるところに位置決めされた場合には低級材料の不純物及び欠陥によって減少する場合があるからである。したがって、かかる構成では、第2の層は、好ましくは、単一格子源を低級ダイヤモンド材料から十分に離隔させるほどの厚さのものであるべきである。
【0030】
1つ又は2つ以上の単一格子エミッタを単結晶ダイヤモンド材料の第2の層中に成長させるのが良い。変形例として、本発明の方法は、1つ又は2つ以上の単一格子エミッタを成長後に第2の単結晶ダイヤモンド材料層中に打ち込むステップを更に有しても良い。さらに別法として、この方法は、第3の層を第2の層上に成長させるステップを有しても良い。この場合、1つ又は2つ以上の単一格子エミッタを第3の層中に設けるのが良い。
【0031】
上述の方法を利用すると、第1の単一置換窒素濃度を有した単結晶ダイヤモンド材料の第1の部分と、第1の部分に結合されていて、第1の単一置換窒素濃度よりも低い第2の単一置換窒素濃度を有する単結晶ダイヤモンド材料の第2の部分と、光学素子の表面のところに形成されていて、光の取り出しを増加させる取り出し構造体とを有する光学素子を製造することができる。
【0032】
第1及び第2の部分は、光学素子内に第1及び第2の層を形成することができる。光学素子は、好ましくは、単結晶ダイヤモンド材料の第1及び第2の部分並びに取り出し構造体を有する自立型要素である。光学素子中に別のコンポーネントを設けることができる。例えば、ミラー、例えばブラッグミラーを第1の部分と反対側の第2の部分の側部に設けることができる。
【0033】
好ましくは、取り出し構造体の少なくとも一部分は、低級単結晶ダイヤモンド材料の第1の部分中に一体に形成される。或る特定の実施形態では、取り出し構造体全体は、低級単結晶ダイヤモンド材料中に形成されても良い。取り出し構造体は、本発明の第1の観点に関して説明した取り出し構造体のうちの任意の1つであって良い。
【0034】
量子用途に関し、単結晶ダイヤモンド材料の第2の部分は、20ppb以下、10ppb以下、5ppb以下、1ppb以下又は0.5ppb以下の単一置換窒素濃度、0.15ppb以下、0.1ppb以下、0.05ppb以下、0.001ppb以下、0.0001ppb以下又は0.00005ppb以下のNV
-濃度及び0.9%以下、0.7%以下、0.4%以下、0.1%以下、0.01%以下又は0.001%以下の
13Cの全濃度のうちの1つ又は2つ以上を有する単結晶ダイヤモンド材料で作られる。
【0035】
第1の部分は、30ppb以上、50ppb以上、100ppb以上、200ppb以上、300ppb以上、500ppb以上、700ppb以上又は800ppb以上の単一置換窒素濃度及び0.3ppb以上、0.5ppb以上、1ppb以上、2ppb以上、3ppb以上、5ppb以上、7ppb又は8ppb以上のNV
-濃度のうちの1つ又は2つ以上を有する単結晶ダイヤモンド材料で作られるのが良い。例えば、第1の部分は、第2の部分の単一置換窒素濃度の少なくとも5倍、10倍、20倍、50倍、100倍、500倍、1000倍又は10000倍の単一置換窒素濃度を有するのが良い。しかしながら、光学用途に関し、低級材料の窒素濃度は、光学素子にその意図した用途において悪影響を及ぼすほど高いものであってはならない。したがって、単結晶ダイヤモンド材料の第1の部分は、5ppm以下、2ppm以下又は1ppm以下の単一置換窒素濃度及び50ppb以下、20ppb以下又は10ppb以下のNV
-濃度のうちの1つ又は2つ以上を有する。低級材料の第1の部分も又、好ましくは、0.9%を超える
13Cの全濃度を有し、最も好ましくは、
12Cに対して自然な同位体存在度の
13Cを有する。同位体富化材料がT2時間を増大させるのに量子等級材料にとって有利であるが、これは、高価であり、したがって、量子等級のものであることが必要とはされない光学素子の他の部分について回避するのが良い。したがって、第1の部分と第2の部分とでは異なる
13C濃度を提供することが有利である。
【0036】
或る特定の実施形態によれば、単結晶ダイヤモンド材料の第1の部分は、国際公開第2004/046427号パンフレットに開示されているように光学等級材料から成るのが良い。この材料は、光学素子にとって良好な光学特性を保証するよう設けられるのが良い。例えば、単結晶ダイヤモンド材料の第1の部分は、低く且つ一様な光吸収率を有するのが良く、その結果、少なくとも0.5mmの指定された厚さのサンプルは、1.06μmの波長において0.09cm
-1又は0.05cm
-1以下の光吸収形成を有するようになる。
【0037】
光学素子は、好ましくは、第1の部分と第2の部分の両方を含む単結晶ダイヤモンドで作られ、第1の部分と第2の部分は、単結晶ダイヤモンド中に組み込まれることによって互いに結合される。しかしながら、第1の部分と第2の部分がファンデンワールス力により、クランプ装置により又は第1の部分と第2の部分との間に設けられた中間接着剤を介して互いに結合された別個独立の単一結晶である複合光学素子を形成することができることも又想定される。
【0038】
特に好ましい一実施形態によれば、取り出し構造体は、単結晶ダイヤモンド材料の第1の部分及び単結晶ダイヤモンド材料の第2の部分によって形成された凸面であり、第1の部分は、球形キャップを形成し、第2の部分は、球形セグメント又は切頭球状体である。かかる構成は、複合単結晶ダイヤモンド固体浸漬レンズ(SIL)を形成することができる。
【0039】
量子用途の場合、本発明の実施形態の光学素子は、0.05ms以上、0.1ms以上、0.3ms以上、0.6ms以上、1ms以上又は5ms以上のデコヒーレンス時間T2を有する1つ又は2つ以上の単一格子エミッタを更に有するのが良い。1つ又は2つ以上の単一格子エミッタは、NV
-欠陥、Si関連欠陥、Ni関連欠陥及びCr関連欠陥から成る群から選択されるのが良い。スピン欠陥、例えばNV
-を当該技術分野において知られているように打ち込み技術により成長させ又は形成するのが良い。成長だけでなく打ち込み及びアニーリングを用いて作られるNV
-欠陥と関連した幾つかの際立った特性が存在する。これら特性としては、例えば、741nmにおいて空孔中心(GR1)が存在し、これは、NV
-欠陥を作るための打ち込みルートの副生物である。
【0040】
1つ又は2つ以上の単一格子エミッタは、単結晶ダイヤモンド材料の第2の部分中に設けられるのが良い。オプションとして、光学素子は、第1の部分と反対側で第2の部分に結合された単結晶ダイヤモンド材料の第3の部分を更に有するのが良い。これは、例えば、本発明の第1の観点としての実施形態に従って第3の層を第2の層上に成長させることによって形成されるのが良い。この場合、1つ又は2つ以上の単一格子エミッタを光学素子内の単結晶ダイヤモンド材料の第3の部分中に設けるのが良い。
【0041】
特に好ましい構成により、単結晶ダイヤモンド材料の少なくとも一部分を有するダイヤモンド固体浸漬レンズ(SIL)であって、単結晶ダイヤモンド材料は、20ppb以下の単一置換窒素濃度及び0.9%以下の
13Cの全濃度のうちの一方又は両方を有することを特徴とするダイヤモンドSILが提供される。低い窒素濃度及び/又は低い
13C含有量を有する高級単結晶ダイヤモンド材料は、単一格子エミッタに関してデコヒーレンス時間を増加させる。さらに、SIL構造体は、光の取り出しを増加させる。したがって、この構造体は、量子要素にとって理想的であることが判明した。かかるSILは、上述の複合光学素子に従って低級単結晶ダイヤモンド材料の一部分を更に有するのが良い。変形例として、SILの本体は、高級単結晶ダイヤモンド材料だけで形成され又は少なくとも実質的に又は本質的にこれにより形成されても良い。本発明の第1の観点としての方法を用いてダイヤモンドSILを形成することができ、この場合、SILは、第2の単結晶ダイヤモンド層単独で又は第1の観点に従って成長させた第1の層と第2の層の両方から形成されるのが良い。本発明のこの観点について用いられる材料は、本発明の第1の観点の方法に関して上述した材料及び本発明の第2の観点の複合光学素子と同一であるのが良い。例えば、SILは、次の特徴のうちの1つ又は2つ以上を有するのが良い。
(a)ダイヤモンドSILは、半球体、超半球体、切頭半球体、楕円体又は非球面形状を形成するのが良い。
(b)ダイヤモンドSILは、次の結晶面、即ち、{100};{110};{111};{113}のうちの1つによって、好ましくは{111}によって、上述の結晶面のうちの1つから10°、8°、5°、2°、1°又は0.5°の範囲内に形成された平坦な表面を有するのが良い。
(c)ダイヤモンドSILの少なくとも一部分は、15ppb以下、10ppb以下又は5ppb以下の単一置換窒素濃度、0.15ppb以下、0.1ppb以下、0.05ppb以下、0.001ppb以下、0.0001ppb以下又は0.00005ppb以下のNV
-濃度及び0.7%以下、0.4%以下、0.1%以下、0.01%以下又は0.001%以下の
13Cの全濃度のうちの1つ又は2つ以上を有する単結晶ダイヤモンド材料で形成されるのが良い。
(d)ダイヤモンドSILは、0.05ms以上、0.1ms以上、0.3ms以上、0.6ms以上、1ms以上又は5ms以上のデコヒーレンス時間T2を有する1つ又は2つ以上の単一格子エミッタを更に有するのが良く、1つ又は2つ以上の単一格子エミッタは、NV
-欠陥、Si737nm欠陥、Ni欠陥、Cr欠陥及びCo欠陥から成る群から選択されるのが良い。
(e)1つ又は2つ以上の単一格子エミッタは、単結晶ダイヤモンド材料の低N/低
13C部分中に設けられると共にダイヤモンドSILの中心回転軸線から30μm以下、20μm以下、10μm以下又は5μm以下の側方距離のところに配置されるのが良い。
(f)ダイヤモンドSILは、単結晶ダイヤモンド材料の部分の平坦な側部に結合された単結晶ダイヤモンド材料の層を更に有するのが良く、1つ又は2つ以上の単一格子エミッタは、単結晶ダイヤモンド材料の層中に設けられるのが良い。
【0042】
固体中の単一原子エミッタの光学検出は、要望に応じた単一格子の発生を含む新技術及び量子情報処理の重要な要素である。かかる原子エミッタの輝度は、通常低く、これらの固有の光物理的パラメータ及び集光光学系の検出ロスによって制限される。金属ナノアンテナ及びフォトニックワイヤマイクロキャビティのようなエンジニアリング光学素子は、単一格子量子インターフェースを設計する上で重要であることが分かっている。本発明は、ダイヤモンド材料をホストとする単一ドーパント中に組み込まれた標準光学素子を用いる新規で簡単な方式を提供する。例えば、量子等級単結晶ダイヤモンド中に固体浸漬レンズを構成することにより、単一窒素空孔欠陥に関する集光効率は、桁違いに向上した。これにより、既存のダイヤモンドを利用した単一格子源の技術改良が提供されると共に単一のスピンを利用したダイヤモンド磁界センサの感度が向上する。
【0043】
本発明の実施形態では、位置が制御可能な単一欠陥エミッタ、良好な環境(即ち、最小限に抑えられた表面及び他の拡大した損傷及び低い点欠陥密度)における単一エミッタの提供及びこれら単一エミッタからの格子収集の向上が可能である。
【0044】
図1は、本発明の一実施形態を示しており、この実施形態では、CVD技術により基体12上に窒素をドープした単結晶ダイヤモンド材料の第1の層(Nドープト層)10を成長させ、第1の層10上に高純度単結晶ダイヤモンド材料の第2の層(HP層)14を成長させる。点線は、例えばレーザ切断により第1及び第2の層の部分を含むダイヤモンドSILをどのようにして形成できるかを示している。単一格子エミッタ16がダイヤモンドSILの焦点のところ又はその近くに設けられている。
【0045】
かかる構成は、多段CVD成長プロセスを用いて成長させられる。第1の成長段は、プロセス化学的性質への窒素追加を利用する。これは以下の利点、即ち、経済性及び大量生産に影響を及ぼす成長速度の増大、側方成長の増大、最終の構造の幾何学的形状への良好な適合及び初期段階の成長と関連した歪及び問題の減少を提供する。第2の成長段を第1の成長段の後で現場においてか高純度層を窒素ドープト層の頂部上に被着させる再処理段階と一致した停止及び再開によるかのいずれかによって提供することができる。これは、共焦点顕微鏡検査法を用いて改造されるべき単一欠陥と一致した層、良好な材料特性と一致したダイヤモンド材料(即ち、単一の中心が小さな歪、僅かな欠陥、僅かなスピン欠陥を意味する「最適な結晶環境」にある)、単一格子エミッタが長いデコヒーレンス時間を有すると共にスペクトル的に安定するような良好な材料特性が与えられる。
【0046】
上述のことと関連して、停止及び再開を介してではなく第1の成長段の後の現場で第2の成長段を提供した場合の一利点は、成長段と層相互間の良好な品質のインターフェースとの間に滑らかなプロセス移行が得られることにある。
【0047】
第1の成長段では、CVD反応器内のガス中の窒素含有量は、5ppm(百万分率)未満、2ppm未満又は1.5ppm未満であるのが良い。CVD反応器内ガス中の窒素含有量は、300ppb(十億分率)を超え、好ましくは400ppbを超え、好ましくは500ppbを超え、好ましくは600ppbを超え、好ましくは700ppbを超え、好ましくは800ppbを超え、好ましくは1000ppbを超えるのが良い。
【0048】
多段成長プロセスを利用することによってダイヤモンドのCVD製造内で制御することができる別の性質は、種々の結晶方向における相対成長速度である。かかる相対成長速度をパラメータαによって特徴付けることができる。パラメータαは、次のように定められる。
上式において、R
<001>は、<001>方向における成長速度であり、R
<111>は、<111>方向における成長速度である。パラメータαを特定のCVD反応器条件、例えば、ガス圧力、ガス温度、ガスの化学的組成(窒素濃度を含む)及び基体温度によって制御できる。したがって、被着されている単結晶ダイヤモンドの結晶方位(通常、基体の結晶方位によって決まる)を知ることによると共にαに影響を及ぼすCVD反応器条件のうちの1つを変化させることによって、被着されるダイヤモンドの幾何学的形状の進展に対して何らかの制御を及ぼすことができる。第1の成長段に関するパラメータαは、1.4〜2.6、1.6〜2.4、1.8〜2.2又は1.9〜2.1であるのが良い。
【0049】
窒素含有量は、パラメータαに影響を及ぼす。第1の成長段中、窒素が存在していると、これにより転位の形成が最小限に抑えられると共に<100>方向に沿う成長が促進される。したがって、主要な{100}成長結晶面及び{100}側部結晶面を備えた基体を用いた場合、ホモエピタキシャル成長時、被着ダイヤモンドは、主要成長面が基体の成長面よりも大きくなるよう成長することが可能である。CVD反応器内のガスの窒素含有量が減少すると、側方成長速度が減少するが、この拡大成長面上への別の被着が起こる。このことは、本発明の実施形態のCVD単結晶ダイヤモンド材料を被着させるために用いられる次の段が基体の寸法に一致するよう拘束されていない寸法を有することを意味している。1つの段から次の段への移行は、本発明の実施形態の高純度CVD単結晶ダイヤモンド材料を生じさせる成長段に先立つ成長段が成長面積の所望の増大を達成したときに起こるよう選択可能である。
【0050】
高純度CVD単結晶ダイヤモンド材料の被着前に成長面積をこのように増大させることができるということにより、その結果として、CVD単結晶ダイヤモンド材料は、通常利用されている基体と比較して、減少した転位密度、減少した窒素含有量及び増大した寸法を有する。
【0051】
第2の成長段では、CVD反応器内のガス中の窒素含有量は、250ppb未満、好ましくは200ppb未満、好ましくは150ppb未満、好ましくは120ppb未満であるのが良い。CVD反応器内のガス中の窒素含有量の減少の結果として、CVD単結晶ダイヤモンド材料中の窒素含有量が減少し、したがって吸収係数が低くなると共にデコヒーレンス時間が長くなる。CVD反応器ガス中の窒素含有量は、0.001ppbを超え、0.01ppbを超え、0.1ppbを超え、1ppbを超え又は10ppbを超えるのが良い。
【0052】
第2段の成長プロセスは、高い化学的純度に加えて高い同位体純度の原料ガスを用いるのが良い。例えば、炭素原料ガスは、99%、99.3%、99.6%、99.9%、99.99%又は99.999%以上であるよう増大した
12Cフラクションを有するのが良い。これにより、単一格子エミッタのデコヒーレンス時間を一段と長くすることができる。ガス組成物は、色中心の形成又はこれらの電荷安定化に関連した他の不純物、例えば珪素又は亜リン酸を更に含む場合がある。しかしながら、低窒素濃度に加えて或る特定の実施形態によれば、第2の成長段は、好ましくは、第2の層が好ましくは、100ppb以下の硼素濃度、100ppb以下の珪素濃度、1ppm以下の常磁性欠陥の濃度、5ppm以下の任意の単一非水素不純物の濃度、窒素及びその同位体を除く10ppm以下の全不純物含有量及び単結晶ダイヤモンドホスト材料中の10
18cm
-3以下の水素不純物の濃度のうちの1つ又は2つ以上を有することができるようCVD成長の間に単結晶ダイヤモンド中に混入される場合のある極めて低い濃度の他の不純物を更に有する。高純度材料は又、好ましくは、低い転位濃度を有する。例えば、高純度単結晶ダイヤモンド材料は、10
6転位cm
-2、10
4転位cm
-2、3×10
3転位cm
-2、10
3転位cm
-2、10
2転位cm
-2又は10転位cm
-2以下の転位束密度を有するのが良い。これは、注意深い基体の調製及びもし上述したように構成しなければ高純度単結晶ダイヤモンドの第2の層中に伝搬する転位の形成を阻止するための第1の成長段における窒素の使用によって達成できる。
【0053】
また、低い表面粗さRqを達成するようダイヤモンドホスト材料の表面を処理することが望ましい。国際公開第2010/010344号パンフレット及び同第2010/010352号パンフレットに記載されているように、ホスト材料として本発明の合成ダイヤモンド材料を用いて高いT2値及び高いスペクトル安定性を得ることができ、この場合、量子スピン欠陥は、かかる処理済み表面から100μmの以下の距離を置いたところに位置決めされるべきである。本発明の実施形態によれば、量子スピン欠陥は、好ましくは、かかる処理済み表面から100μm以下、好ましくは50μm、好ましくは20μm、好ましくは10μm、好ましくは1μm、好ましくは500nm、好ましくは200nm、好ましくは50nm、好ましくは20nm又は好ましくは10nmの距離のところに位置決めされるべきである。量子スピン欠陥のこの位置決めは、量子スピン欠陥を例えば導波路への光結合によって特徴付けると共に「読み出す」ことができるよう最終用途にとって容易に接近可能であることを意味している。かくして、量子等級単結晶ダイヤモンド中に量子スピン欠陥(単一格子源)を形成することが有利であり、この場合、ダイヤモンド材料の表面は、中心が量子スピン欠陥の形成される場所の最も近くに位置する表面上の点上に位置する半径が約5μmの円によって定められる領域内の単結晶ダイヤモンドの表面粗さRqが約10nm、5nm、1nm又は0.5nm以下であるよう処理される。この表面は、量子スピン欠陥の形成前又は形成後に処理されるのが良い。本明細書において説明するSIL構成例では、量子スピン欠陥は、平坦な表面の中央のところ又はその近くのSILの平坦な表面の近くに形成される。したがって、平坦な表面は、少なくとも低い表面粗さを有するよう量子スピン欠陥に隣接した部分が処理されるべきである。
【0054】
量子スピン欠陥の近くの表面のところの表面粗さが小さいことに加えて、表面下損傷が量子スピン欠陥/単一格子エミッタの近くでは低いようにすることも又有用である。表面下欠陥をエッチングによって、例えばプラズマエッチングを用いて減少させることができる。また、ダイヤモンドが量子スピン欠陥に悪影響を及ぼすような仕方で相互作用する種を末端基とはしないようにするよう量子スピン欠陥の近くでダイヤモンド表面のところの末端の形式を制御することが有用な場合がある。さらに、量子スピン欠陥の近くのダイヤモンド表面がゼロではないスピンを有する種、例えば窒素以外のスピンゼロ種、例えば酸素を末端基とするようにすることが有用な場合がある。
【0055】
また、光学性能を向上させるために低い表面粗さを有するよう取り出し構造体の表面を処理することが有利である。国際公開第2007/007126号パンフレットは、低い表面粗さを備えたSILを形成する方法を開示している。SILの凸面は、以下に記載する性質のうちの少なくとも1つ、好ましくは2つ、より好ましくは3つ、より好ましくは4つ、最も好ましくは5つを有するのが良い。
(i)凸面は、完全な球形セグメントからの山から谷までの最大偏差が約5μm以下、より好ましくは約3μm以下、更により好ましくは約2μm以下、より好ましくは約1.5μm以下、より好ましくは約1μm以下、より好ましくは約500nm以下、更により好ましくは300nm以下、より好ましくは約200nm以下、更により好ましくは約100nm以下、更により好ましくは約50nm以下、最も好ましくは20nm以下であるように球形セグメントを含む。
(ii)凸面は、球形セグメントを含み、球形セグメントの二乗平均(RMS)偏差が理想的な級から球形セグメントについて偏差の二乗について平均することにより測定して、約500nm以下、より好ましくは約210nm以下、より好ましくは約100nm以下、更により好ましくは約60nm以下、更により好ましくは約40nm以下、より好ましくは約20nm以下、最も好ましくは約10nm以下である。
(iii)凸面は、約30nm以下、好ましくは10nm、より好ましくは5nm、更により好ましくは3nm、より好ましくは1.5nmの二乗平均表面粗さ(アイ・エム・ハッチングス(I M Hutchings),「トライボロジー(Tribology)」,エドワード・アーノルド(Edward Arnold)出版,1992年,p8‐9に定義のRq)を有する。
(iv)凸面の曲率半径は、約20mm以下、好ましくは約10mm以下、より好ましくは5mm以下、更により好ましくは約2mm以下、更により好ましくは約1mm以下、更により好ましくは約0.5mm以下、更により好ましくは約0.2mm以下である。
(v)凸面は、約10°以上、好ましくは約20°以上、より好ましくは約40°以上、更により好ましくは約60°以上、より好ましくは約80°以上、更により好ましくは約90°以上、更により好ましくは約110°以上、より好ましくは約130°以上、最も好ましくは約160°以上の円錐半角を備えた球形セグメントを含む。
【0056】
単一格子エミッタを多種多様な仕方で製造することができる。例えば、SILを形成する処理に先立って単一格子エミッタを成長させることができ、SILの平坦部の製作に続き(SILの丸形部分を研磨する前又は研磨した後)に単一格子エミッタを打ち込んでも良く、或いは、既に処理された(研磨前又は研磨後)SILの平坦部上に単一格子エミッタを薄い層の状態で成長させることができる。
【0057】
SILの平坦なフェースを以下の結晶面、即ち、{100}、{110}、{111}、{113}のうちの1つによって形成されるのが良く又は実質的にこれら平面のうちの1つに近いのが良い(例えば、上述の結晶面のうちの1つから10°以下、8°、5°、2°、1°又は0.5°)。{111}平面が好ましい。というのは、かかる向きにより、光の取り出しが増加することが判明しているからである。ブラッグミラーがSILの平坦な表面に取り付けられ、被着され又はエッチングされるのが良い。さらに、SILは、第2の層に被着された単結晶ダイヤモンドの第3の層(図示せず)を有するのが良い。第3の層を現場で又は停止及び1つ又は2つ以上の処理ステップ、例えば別の成長段のための成長面を調製するためのプラズマエッチング後に成長させることができる。第3の層は、窒素がドープされると共に/或いは同位体的に富化されるのが良い。また、本明細書において説明する3つの成長段の前、間又は後に別の成長段を設けることができる。
【0058】
図2は、
図1に類似した構成例を示しているが、複数の単一格子エミッタがダイヤモンドSILのベースの近くに線をなして設けられている。
図3は、ダイヤモンドSILがもっぱら、高純度単結晶ダイヤモンド材料の第2の層から形成されている変形実施形態を示している。
図4は、複数のダイヤモンドSILが高純度単結晶ダイヤモンド材料の第2の層から形成されている別の変形実施形態を示している。これら全ての図において、上述の参照符号が同一の部分について用いられている。
【0059】
図5は、光学素子がダイヤモンドSIL中に形成されるのではなく、回折格子18を備えた別の実施形態を示している。この構成例では、光学素子は、第1及び第2の層10,14の一部分から形成され、回折格子18が第1の層中に形成されている。点線で表された構造が単結晶ダイヤモンド及び処理済み表面のバイレーヤ(二重層)から切断形成されるのが良い。
【0061】
中性電荷状態の[N
s0]含量は、電子常磁性共鳴(EPR)を利用して測定し得る。この方法は技術上周知であるが、完全を期してここに要約する。EPRを用いて行われる測定では、特定の常磁性欠陥(例えば中性単置換型窒素欠陥)の存在量は、当該中心に由来する全てのEPR吸収共鳴線の積分強度に比例する。このため、マイクロ波力飽和の影響を阻止し又は補正することに気を付けるという条件で、その積分強度を基準サンプルから観察される積分強度と比較することによって、欠陥の濃度を決定することができる。連続波EPRスペクトルは磁場変調を用いて記録されるので、EPR強度、ひいては欠陥濃度を決定するためには二重積分が必要である。二重積分に伴う誤差を最小限にするため、基線補正、積分の有限極限など、特に重なりEPRスペクトルが存在する場合には、スペクトルフィッティング法(ネルダー‐ミード(Nelder-Mead)シンプレックスアルゴリズム(ジェイ・エー・ネルダー(J. A. Nelder )及びアール・ミード(R. Mead)、ザ・コンピュータ・ジャーナル(The Computer Journal),7,1965年,308を用いる)を利用して、問題のサンプルに存在するEPR中心の積分強度を決定する。これは、サンプルに存在する欠陥のシミュレートしたスペクトルによる実験スペクトルのフィッティング及び該シミュレーションからそれぞれの積分強度を決定することを必要とする。実験的には、ローレンツ型(Lorentzian)線形もガウス型(Gaussian)線形も実験EPRスペクトルに良くフィットしないことが観察されるので、ツァリス(Tsallis)関数を用いてシミュレートスペクトルを生成する(デー・エフ・ホワース(D. F. Howarth),ジェイ・エー・ウェイル(J. A. Weil),ジー・ジンペル(Z. Zimpel),ジャーナル・マグネチック・レゾナンス(J. Magn, Res.),161,2003年,215)。さらに、低い窒素濃度の場合、変調増幅アプローチを利用するか又はEPR信号の線幅を超えて良い信号対雑音比を達成する(合理的な時間枠内で正確な濃度決定を可能にする)必要があることが多い。したがって、記録されたEPRスペクトルに良くフィットさせるため、ツァリス(Tsallis)線形と共に、疑似変調を利用する(ジェイ・エス・ハイド(J. S. Hyde),エム・パセンキヴィッチ‐ギェルラ(M. Pasenkiwicz-Gierula),アー・イェスマノヴィッチ(A. Jesmanowicz),ダブリュ・イー・アンソライン(W. E. Antholine),アプライド・マグネチック・レゾナンス(Appl. Magn. Reson),1,1990年,483)。この方法を用いて、±5%より良い再現性で濃度(ppm)を決定することができる。
【0062】
本発明の合成CVD単結晶ダイヤモンド材料中に存在する中性電荷状態の単一置換窒素の濃度も又、UV‐可視吸収分光法を用いて277nmピークの使用により測定できる。UV‐可視吸収分光法の技術は、当該技術分野においては周知である。
【0063】
合成CVD単結晶ダイヤモンド材料中の中性電荷状態の単一置換窒素の濃度は、1332cm
-1及び1344cm
-1の波数で赤外線吸収ピークを測定することによって分かる。解像度が1cm
-1の分光法を用いると、1332cm
-1及び1344cm
-1でのピークに関してcm
-1で表された吸収ケースの値と正に帯電した状態及び中性状態の単一窒素の濃度との間の変換係数は、それぞれ、5.5(エス・シー・ローソン等(S. C. Lawson et al.),ジャーナル・フィジックス・コンデンス・マター(J. Phys. Condens. Matter),10,1998年,6171‐6181)及び44である。しかしながら、注目されなければならないこととして、1332cm
-1ピークに由来する値は、上限に過ぎない。
【0064】
変形例として、二次イオン質量分析法(SIMS)を用いて窒素の全濃度を求めることができる。SIMSは、約0.1ppmのダイヤモンド中の窒素に関しての検出下限を有し、その使用は、当該技術分野においては周知である。CVD法によって作製される合成ダイヤモンドの場合、固体中に存在する窒素の大部分は、中性単一置換窒素の形態をしており、したがって、全窒素濃度のSIMS測定は、中性電荷状態の単一置換窒素の濃度に上限を不可避的にもたらすが、かかるSIMS測定は又、代表的には、その実際の濃度の妥当な推定を提供する。
【0065】
高感度アバランシェ光検出器及び励起源としての532nmレーザを備えた共焦点顕微鏡を用いて単一NV中心の蛍光を測定することができる。単一色中心の蛍光を散乱及び反射レーザ光から分離するため、ロングパスフィルタ(650nm)を検出チャネル内に配置するのが良い。能動安定化ピエゾ段を用いてSILの走査を実施することができる。周囲条件下において実験を実施するのが良い。この場合、簡単な計数法を用いてNV
-の濃度を求めるのが良い。この技術は、NV
-中心の濃度を代表的な10
13cm
-3未満のレベルで計算するのに有用である。或る場合には(一様な濃度が存在する場合)、NV
-欠陥のEPRシグナチュアであるW15EPR中心を用いたアンサンブルEPR測定法を利用して高い濃度を測定することができる。
【0067】
(001)の約5°の範囲内の1対のほぼ平行な主要面を備えた合成型1bHPHTダイヤモンドプレートを選択した。このプレートを以下のステップを含む方法によって単結晶CVDダイヤモンド材料のホモエピタキシャル合成に適した正方形基体の状態に作製した。
i)基体をレーザ切断して全て<100>エッジを備えたプレートを作製し、
ii)成長が起こる予定の主要表面をラップ仕上げすると共に研磨し、ラップ仕上げされると共に研磨された部分は、全ての結晶面{100}を備えた厚さ535μmの約3.6mm×3.6mmの寸法を有している。
【0068】
基体表面のところ又はこれよりも下に位置する欠陥レベルは、欧州特許第1,292,726号明細書、及び同第1,290,251号明細書に開示されているように基体の注意深い調製によって最小限に抑えられる。露呈(revealing)プラズマエッチングを用いることによりこの方法によって導入された欠陥レベルを露呈させることができる。露呈エッチング後に測定可能な欠陥の密度が主として材料の品質に依存し、5×10
3mm
-2未満、一般的には10
2mm
-2未満である基体を作製することが慣例的に可能である。基体を基体キャリヤに取り付けた。次に、基体及びそのキャリヤをCVD反応器チャンバ内に導入し、ガスを以下のようにチャンバ内に送り込むことによってエッチング及び成長サイクルを開始させた。
【0069】
先ず最初に、現場酸素プラズマエッチングを165トル圧力及び803℃の基体温度で実施し、次に、水素エッチングを行い、酸素をこの段階でガス流から除去した。次に、第1段成長プロセスを40sccm(毎分標準立方センチメートル)でメタンの追加によって開始させた。窒素を加えて気相中に700ppbのレベルを達成した。水素は又、プロセスガス中にも存在した。この段階での基体温度は、866℃であった。次に、メタン含有量を175sccmまで増大させた。これら成長条件は、先のテストランに基づいて2.0±0.2の範囲のαパラメータ値を与えるよう選択された。
【0070】
段階1の実施後、成長層は、厚さ1.7mmに達し、気相に追加された窒素を除去することによって段階2の成長を開始させた。段階2の成長層が厚さ0.9mmに達した後、成長を終了させた。
【0071】
成長したCVDダイヤモンドプレートの研究結果として明らかになったことは、この成長したCVDダイヤモンドプレートには(001)結晶面にツイン及びクラックが実質的になく、<110>側部によって境界付けられ、ツイン自由頂部(001)結晶面の合成後寸法を5.4mm×5.4mmまで増大させた。
【0072】
次に、CVDダイヤモンド材料を国際公開第2007/007126号パンフレットに記載された方法の使用によりダイヤモンドSILに加工した。
【0075】
幾何光学及びフレネルの反射の法則を用いてダイヤモンド中の単一エミッタからの格子収集効率を一次集光光学系として用いられたダイヤモンドSILを用いた又は用いないで計算した。平坦なダイヤモンド表面に平行に差し向けられた単一放出ダイポールの場合、s(resp. p)偏光を有する標準化フォトルミネセンス強度I
s(resp. Ip)は次のように書き表せる。
上式において、θは、放出角度であり、φは、ダイポール軸から測定した方位角である。
【0076】
平坦なダイヤモンド表面の下のダイポールは、
図6aに示されている。ダイヤモンドインターフェースのところでは、スネルの法則により、n
dsinθ=n
csinθ
cであり、この場合、n
dは、ダイヤモンド母材の屈折率であり、θ
cは、集光光学系媒体中の伝搬角度であり、屈折率n
cで特徴付けられる。その結果、フォトルミネセンスの大部分は、ダイヤモンド母材内に捕捉される。というのは、θ≧θ
TIR=arcsin(n
c/n
d)になるやいなや全反射が達成されるからである。ダイヤモンド‐空気インターフェース(n
c=1且つn
d=2.4)の場合、θ
TIR≒24.6°である。
【0077】
集光光学系の開口数NAにより定められた立体角について積分することにより集光効率η
s及びη
pが得られ、その結果、次式が成り立つ。
上式において、θ
m=arcsin(NA/η
d)であり、但し、T
s及びT
pは、それぞれ、インターフェースを介するs及びp偏光成分の透過係数である。かかる透過係数は、次のフレネルの式により与えられる。
【0078】
一次集光光学系として用いられた半球形ダイヤモンドSILの中心のところに位置するダイポールが
図6bに示されている。この場合、全ての光線は、SILからその表面に垂直な方向に出射し、かくして、インターフェースのところでの屈折効果が回避される。その結果、集光系効率η
s,η
pは、式(3)及び式(4)により定められ、但し、θ
m=arcsin(NA)を用いると共に次式が成り立つ。
【0079】
コンピュータ計算された集光効率は、ダイヤモンド母材内のダイポールの向きで決まる。NV
-欠陥の場合、フォトルミネセンスは、NV
-欠陥対称軸に垂直な平面内に位置する2つの互いに直交するダイポールD
x,D
yと関連している(
図6に示されているような{111}結晶軸である)。加うるに、2つの移行ダイポールの絶対方位をダイヤモンド母材中の非軸局部歪の方向によって定める。局部歪がダイヤモンドサンプル上にランダムに分布して位置しているので、2つの直交するダイポールの方位は、NV
-欠陥対称軸に垂直な平面内でランダムである。
【0080】
以下において、[100]方位ダイヤモンドサンプルを考察する。かかる結晶方位の場合、NV
-欠陥軸線と平坦なダイヤモンド表面との間の絶対角は、4つの考えられるNV
-欠陥方位について同一である。式(3)及び式(4)を用いて、平坦なダイヤモンド平面上の2つの互いに直交するダイポールの投影像を考慮しながら集光効率を評価した。2つのダイポール及び考えられる全ての歪により誘起される方位の平均を取った。計算結果が
図6dに示されている。0.85‐NA顕微鏡対物レンズを用いると、集光効率は、平坦なダイヤモンド表面について2.6%であり、半球形ダイヤモンドSILの中心のところに位置した単一のNV
-欠陥を考慮すると、19.6%に達する。これら単一の幾何学的考察から、集光光学系の特定のNAについて集光効率の7.5倍の向上が期待される。
【0082】
図7aに示されているダイヤモンドSILを作製するのに本発明のマイクロ波支援化学蒸着法を用いて調製されたウルトラピュア合成型IIaダイヤモンド結晶を研磨した。
【0083】
図7bに示されているように従来型共焦点顕微鏡検査法を用いてダイヤモンドSIL中の負の単一のNV
-欠陥を画像化した。
図7bに示されている実験セットアップは、次のコンポーネント、即ち、5%反射率の石英板(BS)、0.85開口数の顕微鏡対物レンズ(O)、50μm直径のピンホール(PH)、580nmロングパスフィルタ(F)及び集められたフォトルミネセンスを背面照明冷却CCDマトリックスを備えたイメージング分光計(アクトン・リサーチ(Acton research)社)又は50/50ビームスプリッタの出力ポート上に配置された2つのシリコンアバランシェフォトダイオード(APD)から成るハンブリー‐ブラウン及びツワイス(Hanbury-Brown and Twiss)干渉計に差し向けるフリップミラー(FM)を有している。
【0084】
0.85‐NA顕微鏡対物レンズを通してダイヤモンドSILの平坦な表面上に波長λ=532nmで動作するレーザを厳密に集束させた。一次集光光学系としてSILを用いて同一の対物レンズによってフォトルミネセンスを集め、そして580nmロングパスフィルタを用いて残りのポンプ光からスペクトル的にフィルタ処理した。次に、集めた光を50μm直径のピンホール上に集束させ、そして格子相関測定のために用いられる分光計又はハンブリー‐ブラウン及びツワイス(HBT)干渉計に差し向けた。
【0085】
ダイヤモンドSILの中心の近くの領域のフォトルミネセンスラスタ走査が
図7cに示されており、
図7cは、隔離されると共に明るいフォトルミネセンススポットを示している。この図は、200μWのレーザ出力の場合のダイヤモンドSILの中心の近くの領域の典型的なラスタ走査結果を示している。フォトルミネセンス強度をサイドスケールで符号化し、明るいスポットは、100:1のオーダの信号対バックグラウンド比で画像化された単一NV
-欠陥を示している。
【0086】
この点のところで記録されたフォトルミネセンススペクトルは、特徴的なゼロフォトンラインが波長λ
ZPL=637nmのところに位置する広帯域エミッションを示しており、この特徴的なゼロフォトンラインは、ダイヤモンド中の負に耐電したNV
-欠陥のスペクトルシグナチュアである。光学収差を共焦点ラスタ走査で明確に観察することができる。というのは、明るいスポットの形状は、完全には円ではないからである。かかる収差は、NV
-欠陥存在場所とダイヤモンドSILの中心との間の約10μmのギャップに起因している。したがって、少なくとも1つの単一格子エミッタをダイヤモンドレンズ、例えばダイヤモンドSILの回転中心軸線から30μm以下、20μm、10μm又は5μmの側方距離のところに配置することが有利である。最も好ましくは、単一格子エミッタは、ダイヤモンドSILの回転中心軸線上に又はほぼこの上に位置決めされる。
【0087】
単一格子エミッタの位置と取り出し構造体との正確な位置合わせを達成する考えられる一手法は、例えば正確な打ち込み法を用いることによって単一格子エミッタを注意深く位置決めすることである。変形例として、単一格子エミッタの識別/配置をダイヤモンド材料で行い、次に、取り出し構造体を形成して単一格子エミッタと正確に位置合わせするのが良い。例えば、単一格子エミッタをCVD成長プロセス中にダイヤモンド材料中に形成するのが良い。次に、単一格子エミッタの位置を成長後に定めるのが良く、取り出し構造体、例えばレンズ(例えば、ダイヤモンドSIL)を形成して単一格子エミッタと位置合わせするのが良い。
【0088】
標準型HBT干渉計を用いて2つの連続して位置する単一格子検出相互間の時間遅延のヒストグラムを記録することによって放出された格子の統計量を調査した。ポアソンの統計量への標準化後、記録したヒストグラムは、次式によって定められる2次自己相関関数g(2)(τ)の測定値と同等である。
上式において、I(t)は、時刻tにおけるPL強度である。
図7eに示されているように、明白な自己相関効果g(2)(0)≒0.1が、ゼロ遅延で明らかにされ、この効果は、単一NV
-欠陥に対処するシグナチュアである。
【0089】
一次集光光学系としてダイヤモンドSILを用いながら集光効率の向上を定量化する目的で、フォトルミネセンス率Rをレーザ出力Pの関数として測定した。次に、実験データを簡単な2レベルモデルを用いて次の関係式に当てはめた。
上式において、P
satは、飽和レーザ出力であり、R
∞は、飽和状態における放出率である。ダイヤモンドSILを介して画像化された研究対象の単一NV
-欠陥の場合、飽和パラメータは、R
∞SIL=493±5kcounts.s−1及びP
satSIL=61±1μWである。次に、同じ実験をSILの後側から画像化された即ち、平坦なダイヤモンド平面を介して画像化された単一NV
-欠陥について実施した。この構成では、飽和パラメータは、R
∞noSIL=80±2kcounts.s−1及びP
satnoSIL=1330±30μWである。
【0090】
図8は、レーザ出力の関数としてのバッググラウンド補正フォトルミネセンス(PL)強度を示している。この図は、ダイヤモンドSILを介すると共に平坦なダイヤモンド平面を介して画像化された単一NV
-欠陥についての結果を示している。線は、式(8)を用いて当てはめられたデータである。信号とバックグラウンドの比は、60μWの励起電力の場合100のオーダのものである。
【0091】
したがって、一次集光光学系としてダイヤモンドSILを用いながら6倍の向上が達成されている。かかる値は、簡単な幾何学的光学議論(
図6で参照)により予測される値よりも僅かに小さい。この不一致は、ダイヤモンドSILの中心へのNV
-欠陥の不完全な位置決めに起因して生じる光学収差の原因となっている。本発明者の注目するところによれば、同様な集光効率の向上がSILの中心から約10μm離れたところに位置する2つの他の単一NV
-欠陥について得られた。この距離が30μmを超える場合、向上結果がなくなる。SILの中心のところのNV
-欠陥の正確な位置決めは、イオン打ち込み技術を用いて達成できる。加うるに、集光効率は、半球面に被着された反射防止膜を用いると共にSILの平坦な表面に被着された正しく設計されているブラッグミラーを用いることによって一段と向上させることができ、その目的は、後方に放出された格子を集めることにある。
集光効率の向上を超えて、ダイヤモンドSILを介する励振に勝って励振レーザの良好な収束が行われ、かくして僅かな励振体積が得られることが注目された。確かに、飽和レーザ出力P
satは、ダイヤモンドSILを介して単一NV
-欠陥を励起させながらほぼ一桁だけ減少する。この効果は、STED(stimulated emission depletion)顕微鏡との関係で興味深い用途を有する。というのは、STEDの解像力は、次式に比例するからである。
【0092】
最後に、一次集光光学系として用いられるダイヤモンドSILの幾何学的形状は、単一NV
-欠陥のスピン操作にとって何ら制限を与えることはないということが示されている。ダイヤモンドSILを幾何学的形状を
図9に示されているようにマイクロ波ストリップライン上に固定しながら単一NV
-欠陥の電子スピン共鳴を進めた。負に帯電したNV
-欠陥の場合、基底状態は、スピンサブレベルm
s=0とm
s=±1との間のゼロフィールド分割D
gs=2.87GHzのスピントリプレット状態
3Aである。フォトルミネセンス強度は、m
s=0状態がポピュレートされたときには高く、それにより、光学的に検出される磁気共鳴(ODMR)により単一NV
-中心のスピン回転の光学的検出が可能である。ODMRは、フォトルミネセンス強度をモニタしながらストリップラインを介してマイクロ波を加えることによって記録された。マイクロ波周波数がm
s=0とm
s=±1基底状態サブレベル相互間の移行と共鳴状態にあるとき、
図9に示されているようにフォトルミネセンス信号の一時的減少としてスピン回転が証拠づけられる。
【0093】
本発明を好ましい実施形態に関して図示すると共に具体的に説明したが、特許請求の範囲に記載された本発明の範囲から逸脱することなく、形態及び細部の種々の変更を行うことができることは当業者には理解されよう。