【文献】
古谷尚稔,パッシブトリートメント技術を用いた抗廃水処理に係る研究事例,Journal of MMIJ,日本,2010年 5月25日,Vol.126 No.6,Page232−233
【文献】
Evvie Chockalingam,Chemosphere,英国,2006年 2月,Vol.62 No.5,Page.699−708
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記穀物殻は、前記被処理水とともに嫌気状態で静置され前記硫酸還元菌を含む硫酸イオン還元活性に関わる細菌群が馴養されたものである一方、前記有機物含有材料は前記馴養後に添加されたものである請求項1または2に記載の被処理水の生物学的浄化剤。
前記穀物殻を前記被処理水とともに嫌気状態で静置して前記硫酸還元菌を含む硫酸イオン還元活性に関わる細菌群を馴養する工程と、その後前記有機物含有材料を添加する工程と、を有し、その後前記連続通水工程を行う請求項4に記載の被処理水の生物学的浄化方法。
前記馴養工程は、前記穀物殻の一部を菌源および前記被処理水とともに嫌気状態かつ水温20〜30℃で静置して前記硫酸還元菌を含む硫酸イオン還元活性に関わる細菌群を培養する前培養工程と、
引き続き、該前培養工程を経た前記穀物殻と残りの穀物殻および前記被処理水を嫌気状態かつ水温10〜15℃で静置して前記硫酸還元菌を含む硫酸イオン還元活性に関わる細菌群をさらに培養する本培養工程と、
を有する請求項5に記載の被処理水の生物学的浄化方法。
前記馴養工程は、前記穀物殻の一部を菌源および前記被処理水とともに嫌気状態かつ水温20〜30℃で静置して前記硫酸還元菌を含む硫酸イオン還元活性に関わる細菌群を培養する前培養工程と、
引き続き、該前培養工程を経た前記穀物殻と残りの穀物殻および前記被処理水を嫌気状態かつ水温10〜15℃で静置して前記硫酸還元菌を含む硫酸イオン還元活性に関わる細菌群をさらに培養する本培養工程と、
を有する請求項12に記載の被処理水の生物学的浄化剤の製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1において、硫酸還元菌の馴養は水温30℃で行っており、その後の被処理水の連続通水による金属イオンの除去工程でも水温25℃以上の場合を想定していた。ここで、鉱山は冬季に気温が下がる地域にも多く存在し、そのような鉱山から排出される坑廃水は、地中熱や坑内水熱を利用したとしても、15℃以下の水温になることが想定される。しかしながら、本発明者らがさらに検討を進めたところ、特許文献1に記載の、硫酸還元菌を保有する穀物殻を含む生物学的浄化剤では、水温が低い場合には金属イオンの除去効果が短時間しか得られないことが判明した。
【0008】
そこで本発明は、上記課題に鑑み、水温15℃以下の低温環境下においても、金属イオンおよび硫酸イオンを含有する被処理水中の金属イオンを長期間にわたって除去することができる生物学的浄化剤、生物学的浄化方法、および生物学的浄化システムを提供することを目的とする。さらに本発明は、前記生物学的浄化剤の好適な製造方法を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この目的を達成すべく本発明者らは、硫酸還元菌の呼吸基質となる有機物を与えるための有機物含有材料の種類に着目して鋭意研究した。その結果、水温が15℃以下の低温環境下では、有機物含有材料として穀物殻に加え、粗タンパク質が5質量%以上含まれる有機物含有材料を用いることで硫酸還元菌を十分に活性化できることを見出した。穀物殻は、その一部が分解されて硫酸還元菌の呼吸基質となる有機物となる役割を有するのみならず、硫酸還元菌を含む硫酸イオン還元活性に関わる細菌群を担持する役割をも有する。このため、本発明においては、穀物殻は必須であり、さらに粗タンパク質が5質量%以上含まれる有機物含有材料を添加することで初めて、低温環境下での金属イオン除去効果を長期間持続させることができる。
【0010】
上記知見に基づき完成した本発明の要旨構成は以下のとおりである。
(1)金属イオンおよび硫酸イオンを含有する被処理水中で、前記金属イオンの硫化物を析出させて、前記
被処理水から前記金属イオンを除去するための生物学的浄化剤であって、
硫酸還元菌を保有する穀物殻と、
粗タンパク質が5質量%以上含まれる有機物含有材料と、
を含有することを特徴とする被処理水の生物学的浄化剤。
【0011】
(2)前記有機物含有材料に含まれる粗繊維が50質量%以下である上記(1)に記載の被処理水の生物学的浄化剤。
【0012】
(3)前記穀物殻は、前記被処理水とともに嫌気状態で静置され前記硫酸還元菌を含む硫酸イオン還元活性に関わる細菌群が馴養されたものである一方、前記有機物含有材料は前記馴養後に添加されたものである上記(1)または(2)に記載の被処理水の生物学的浄化剤。
【0013】
(4)前記有機物含有材料が、酒粕、おから、米ぬか、茶葉、ミヤコグサ、チモシー、およびクローバーより選択された少なくとも一種からなる上記(1)〜(3)のいずれか1項に記載の被処理水の生物学的浄化剤。
【0014】
(5)前記有機物含有材料が、酒粕、おから、および米ぬかより選択された少なくとも一種からなる上記(1)〜(3)のいずれか1項に記載の被処理水の生物学的浄化剤。
【0015】
(6)金属イオンおよび硫酸イオンを含有する被処理水から前記金属イオンを除去するための生物学的浄化方法であって、
硫酸還元菌を保有する穀物殻と、粗タンパク質が5質量%以上含まれる有機物含有材料と、を含有する生物学的浄化剤を嫌気状態に維持しつつ、該生物学的浄化剤に対して前記被処理水を連続通水する工程により、前記金属イオンの硫化物を析出させて、前記被処理水から前記金属イオンを除去することを特徴とする被処理水の生物学的浄化方法。
【0016】
(7)前記穀物殻を前記被処理水とともに嫌気状態で静置して前記硫酸還元菌を含む硫酸イオン還元活性に関わる細菌群を馴養する工程と、その後前記有機物含有材料を添加する工程と、を有し、その後前記連続通水工程を行う上記(6)に記載の被処理水の生物学的浄化方法。
【0017】
(8)前記馴養工程は、前記穀物殻の一部を菌源および前記被処理水とともに嫌気状態かつ水温20〜30℃で静置して前記硫酸還元菌を含む硫酸イオン還元活性に関わる細菌群を培養する前培養工程と、
引き続き、該前培養工程を経た前記穀物殻と残りの穀物殻および前記被処理水を嫌気状態かつ水温10〜15℃で静置して前記硫酸還元菌を含む硫酸イオン還元活性に関わる細菌群をさらに培養する本培養工程と、
を有する上記(7)に記載の被処理水の生物学的浄化方法。
【0018】
(9)金属イオンおよび硫酸イオンを含有する被処理水から前記金属イオンを除去するための生物学的浄化システムであって、
硫酸還元菌を保有する穀物殻と、粗タンパク質が5質量%以上含まれる有機物含有材料と、を含有する生物学的浄化剤が収容され、嫌気状態が維持された処理容器と、
該処理容器内に前記被処理水を連続供給する供給系と、
前記処理容器内で前記生物学的浄化剤によって前記金属イオンの硫化物が析出され、前記金属イオンが除去された処理水を前記処理容器から連続排出する排出系と、
を有することを特徴とする被処理水の生物学的浄化システム。
【0019】
(10)金属イオンおよび硫酸イオンを含有する被処理水中で、前記金属イオンの硫化物を析出させて、前記
被処理水から前記金属イオンを除去するための生物学的浄化剤の製造方法であって、
硫酸還元菌を保有する穀物殻を前記被処理水とともに嫌気状態で静置して前記硫酸還元菌を含む硫酸イオン還元活性に関わる細菌群を馴養する工程と、
その後、粗タンパク質が5質量%以上含まれる有機物含有材料を添加して、生物学的浄化剤とする工程と、
を有することを特徴とする被処理水の生物学的浄化剤の製造方法。
【0020】
(11)前記馴養工程は、前記穀物殻の一部を菌源および前記被処理水とともに嫌気状態かつ水温20〜30℃で静置して前記硫酸還元菌を含む硫酸イオン還元活性に関わる細菌群を培養する前培養工程と、
引き続き、該前培養工程を経た前記穀物殻と残りの穀物殻および前記被処理水を嫌気状態かつ水温10〜15℃で静置して前記硫酸還元菌を含む硫酸イオン還元活性に関わる細菌群をさらに培養する本培養工程と、
を有する上記(10)に記載の被処理水の生物学的浄化剤の製造方法。
【発明の効果】
【0021】
本発明の生物学的浄化剤、生物学的浄化方法、および生物学的浄化システムによれば、水温15℃以下の低温環境下においても、金属イオンおよび硫酸イオンを含有する被処理水中の金属イオンを長期間にわたって除去することができる。また、本発明の製造方法によれば、上記のような生物学的浄化剤を好適に得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施形態を説明することにより、本発明を作用効果とともにより詳細に説明する。
【0024】
(被処理水の生物学的浄化剤)
本発明に従う生物学的浄化剤は、金属イオンおよび硫酸イオンを含有する被処理水中で、前記金属イオンの硫化物を析出させて、前記
被処理水から金属イオンを除去するためのものである。本発明が対象とする被処理水は、金属イオンおよび硫酸イオンを含有するものであれば特に限定されず、例えば、金属鉱山の坑廃水のような鉱山由来の排水や、工業用排水などを挙げることができる。例えば、我が国(日本国)の金属鉱山の坑廃水は、一般に、Fe,Zn,Cu,Pb,Cd,As等の重金属を含む金属イオンを含有し、さらに、硫酸イオン(SO
42-)も50〜3000mg/L程度含有している。なお、本明細書において「被処理水」とは、生物学的浄化剤による浄化処理、すなわち金属イオンの除去処理を施す前の水を意味し、「処理水」は、当該浄化処理後の水を意味する。被処理水のpHは、通常3.0〜8.0程度である。
【0025】
硫酸還元菌(SRB)は、硫酸イオンの存在下で有機物を呼吸基質として活動する従属栄養細菌であって、以下に示す反応式(1)のように硫酸イオンを還元する作用を有する。すなわち、硫酸還元菌は有機物と硫酸イオンを取り込み、硫化水素イオンを吐き出す。
【0026】
2CH
2O + SO
42- =2HCO
3-+ HS
- + H
+・・・・(1)
但し、CH
2Oは有機物
【0027】
硫酸還元菌は、主に中性域(pH5〜8)で活動し、嫌気性細菌であって、有機物を呼吸基質として活動し、硫酸を還元する菌であればよく、特に限定はされないが、例えばDesulfovibrio vulgaris等が挙げられる。また、実際の試験では、Desulfovibrio magneticus,Desulfarrculus baariss,Desulfotomaculum acetoxidans,Desulfobulbus propionicusなどを検出している。
【0028】
上記反応式(1)の還元反応(反応式(1)の右方向の反応)が進むと、硫化水素イオン(HS
-)が生成し、この生成した硫化水素イオン(HS
-)が被処理水中の金属イオンと化合して、以下に示す反応式(2)のように、金属イオンの硫化物が析出し、被処理水から金属イオンが除去される。
【0029】
Me
2+ + HS
-= MeS↓ + H
+・・・・(2)
但し、Meは金属
【0030】
本発明に従う生物学的浄化剤は、硫酸還元菌を保有する穀物殻と、粗タンパク質が5質量%以上含まれる有機物含有材料と、を含有する。この生物学的浄化剤によれば、被処理水の水温が15℃以下と低温であっても、上記反応式(1)の硫酸イオン還元反応を十分に起こし、反応式(2)により金属イオンの硫化物を析出させる効果を長期間にわたって得ることができる。
【0031】
穀物殻は、硫酸還元菌を含む硫酸イオン還元活性に関わる細菌群を担持するのに適した形状を有する。このため穀物殻は、その一部が分解されて、硫酸還元菌の呼吸基質となる有機物(低分子有機物)となるのみならず、硫酸還元菌を含む硫酸イオン還元活性に関わる細菌群を担持する役割をも有する。穀物殻としては、モミガラ、ソバ殻等が挙げられる。自然界から採取した穀物殻には、通常もともと硫酸還元菌を含む硫酸イオン還元活性に関わる細菌群が付着している。穀物殻に対して、何の処理も施していないものであってもよい。また、採取した穀物殻に対して、さらに硫酸還元菌を含む硫酸イオン還元活性に関わる細菌群を付加してもよいことはいうまでもない。
【0032】
穀物殻は、本来は廃棄されるバイオマス資源であり、大量入手が容易で、入手コストもほとんどかからない。また、形も粒状で切断・破砕等加工する必要がなく取り扱いが簡易で、材質のバラツキも比較的少ない。
【0033】
本実施形態の生物学的浄化剤は、穀物殻に加えて、粗タンパク質が5質量%以上含まれる有機物含有材料を含むことが重要である。有機物含有材料中の粗タンパク質は、生物学的浄化剤中に含まれる種々の細菌によって、硫酸還元菌が呼吸基質として利用可能な有機物成分に分解される。よって、粗タンパク質の含有量が多い有機物含有材料を添加することで、硫酸還元菌をより活性化することができる。有機物含有材料中の粗たんぱく質の含有量の上限は特に限定されないが、25質量%程度とすることができる。
【0034】
有機物含有材料中の粗脂肪も生物学的浄化剤中に含まれる種々の細菌によって、硫酸還元菌が呼吸基質として利用可能な有機物成分に分解される。よって、粗脂肪の含有量も多いほうが好ましい。本実施形態において有機物含有材料中の粗脂肪の含有量は、2質量%以上とすることが好ましい。有機物含有材料中の粗脂肪の含有量の上限は特に限定されないが、20質量%程度とすることができる。
【0035】
有機物含有材料中の粗繊維は、細菌によって分解されない残存成分であるため、少ない方が好ましい。本実施形態において、有機物含有材料に含まれる粗繊維が50質量%以下であることが好ましい。下限は特に限定されないが、5質量%程度とすることができる。
【0036】
本実施形態において好適な有機物含有材料としては、酒粕、おから、米ぬか、茶葉、ミヤコグサ、チモシー、およびクローバーを挙げることができる。これらの材料は、入手が容易であり、入手したものに何らの加工処理をすることなく、そのまま用いることができる。
【0037】
なお、硫酸イオン還元活性に関わる細菌群のうち、硫酸還元菌以外の細菌は、有機物含有材料、および一部の穀物殻を分解して、硫酸還元菌が呼吸基質として利用可能な低分子有機物を供給する嫌気性細菌である。ほとんどの嫌気性細菌は有機物を消化し、酢酸を排出する。酢酸は硫酸還元菌が利用可能な有機酸の一種であるため、特に嫌気性細菌群の種類を指定することなく硫酸還元菌が吸収可能な有機物を供給できる。よって、種類が限定されることはないが、例えば、酢酸菌、乳酸菌、脱窒菌、大腸菌、枯草菌、水素生成菌、真菌である酵母などが挙げられる。また、実際の試験ではAzospira sp, Clostridium sp, Dechloromonas sp, Hydrogenophaga sp, Simplicispira sp, Hydrogenophaga sp, Nitrospira sp, Spirochaeta spなどを検出している。これらの細菌は、穀物殻あるいは後述の菌源に付着している。
【0038】
本発明の効果を確実に得る観点から、穀物殻は、被処理水とともに嫌気状態で静置され硫酸還元菌を含む硫酸イオン還元活性に関わる細菌群が馴養されたものである一方、有機物含有材料は馴養後に添加されたものであることが好ましい。これは後に詳述する。
【0039】
(生物学的浄化剤の製造方法)
次に、本発明の生物学的浄化剤の製造方法の一例を説明する。
【0040】
まず、硫酸還元菌を保有する穀物殻を被処理水とともに嫌気状態で静置して硫酸還元菌を含む硫酸イオン還元活性に関わる細菌群を馴養する。ここで、馴養(acclimation)工程は、穀物殻の一部を菌源および被処理水とともに嫌気状態かつ水温20〜30℃で静置して硫酸還元菌を含む硫酸イオン還元活性に関わる細菌群を培養する前培養工程と、引き続き、前培養工程を経た穀物殻と残りの穀物殻および被処理水を嫌気状態かつ水温10〜15℃で静置して硫酸還元菌を含む硫酸イオン還元活性に関わる細菌群をさらに培養する本培養工程と、の二段階の培養とすることが好ましい。
【0041】
<前培養(pre-cultivation)工程>
前培養工程では、穀物殻を菌源および被処理水とともに嫌気状態かつ水温20〜30℃で静置する。例えば、穀物殻10〜20g(本培養工程で添加する穀物殻の5質量%)に、バーク堆肥、腐葉質土壌などの菌源を0.5〜1g程度の微量添加し、これを被処理水100〜200mLに混ぜる。これを嫌気状態かつ水温20〜30℃で7〜14日間静置する。水温20〜30℃は硫酸還元菌を含む硫酸イオン還元活性に関わる細菌群の培養に適した温度であり、この工程により、細菌群を培養および活性化することができる。
【0042】
<本培養(cultivation)工程>
本培養工程では、穀物殻、石灰石および被処理水を追加し、引き続き、これらを嫌気状態かつ水温10〜15℃で静置して硫酸還元菌を含む硫酸イオン還元活性に関わる細菌群をさらに培養する。具体的にはまず、前培養工程を行った穀物殻に、追加で穀物殻200〜400g、石灰石800〜1600gを加え、これらをカラムに移す。その後、被処理水2000〜3000mLをカラム内に加える。これを嫌気状態かつ水温10〜15℃で7〜14日間静置する。これにより、硫酸還元菌を含む硫酸イオン還元活性に関わる細菌群をさらに培養することができる。
【0043】
馴養工程の後、粗タンパク質が5質量%以上含まれる有機物含有材料をカラム内に添加して、生物学的浄化剤を完成させる。
【0044】
以上の工程における本実施形態の第1の特徴は、上記有機物含有材料を添加せずに硫酸還元菌を含む硫酸イオン還元活性に関わる細菌群の馴養を行うことである。これらの有機物含有材料は、被処理水の連続通水の段階では、水温が15℃以下でも硫酸還元菌を含む硫酸イオン還元活性に関わる細菌群を活性化させ、硫酸イオン還元活性を促進する一方で、馴養の段階では、硫酸イオン還元活性の発現を遅らせることを本発明者らは見出した。この傾向は、馴養時の被処理水の水温が15℃以下であっても20〜30℃であっても同様であった。そこで、これらの有機物含有材料は硫酸還元菌を含む硫酸イオン還元活性に関わる細菌群の馴養後、被処理水の連続通水前に添加することが好ましい。これにより、馴養により高い硫酸イオン還元活性を得ることができ、その後の連続通水において金属イオンを除去する効果をより十分に得ることができる。
【0045】
本実施形態の第2の特徴は、低温環境下での本培養工程の前に、穀物殻の一部を用いて前培養工程を行うことである。本培養工程は、被処理水の連続通水を行うカラム内で行うことが効率的である。本発明では、連続通水を15℃以下の低温環境下で行うことを前提としていることから、この本培養工程も水温15℃以下の低温環境下で行うことになる場合がある。しかし本発明者らの研究によると、低温環境下では、硫酸還元菌を含む硫酸イオン還元活性に関わる細菌群の硫酸イオン還元活性が得られない場合があり、また、得られた場合でも非常に長時間を要した。
【0046】
そこで本発明者らは、少量の穀物殻を用いて水温20〜30℃の常温で硫酸還元菌を含む硫酸イオン還元活性に関わる細菌群の培養を行い、この穀物殻を低温環境下での馴養時に混入したところ、短時間で硫酸イオン還元活性が十分に得られることを見出した。
【0047】
なお、生物学的浄化剤として用いる全ての穀物殻を水温20〜30℃の常温で馴養できる場合には、上記のような二段階の培養は必要ない。
【0048】
本実施形態の生物学的浄化剤における、原料ベースでの割合としては、穀物殻が73〜83質量%、追加の有機物含有材料が12〜22質量%、菌源となる材料が0〜5質量%とすることが好ましい。追加の有機物含有材料が12質量%以上とすれば、本発明の効果を十分に得ることができる。また、追加有機物含有材料が22質量%以下とすれば、過剰な有機物汚染を起こすことがない。
【0049】
(生物学的浄化方法/生物学的浄化システム)
次に、本発明の生物学的浄化方法および生物学的浄化システムの実施形態を説明する。
図1は、本発明の一実施形態による生物学的浄化システム100の模式図である。処理容器である密閉系のカラム10には、既述の生物学的浄化剤が収容される。
図1のカラム10は、その内部で硫酸還元菌の馴養を行い、その後有機物含有材料を添加した後の状態を示している。符号12は、穀物殻および石灰石の混合物を示し、符号14は、穀物殻、後から添加した有機物含有材料、および石灰石の混合物を示す。
【0050】
このように本実施形態の生物学的浄化システムでは、穀物殻はカラム10内の全体に分布する一方で、追加の有機物含有材料はカラム10内の上部にのみ分布する。しかし、カラム10の上部で有機物含有材料が分解された結果生じた有機物は、連続通水時の被処理水の流れによって、カラム10全体に供給されるため、カラム10内の全体の硫酸還元菌を活性化することができる。
【0051】
石灰石は、pHが3.5〜5.0程度の酸性の被処理水を浄化する場合には、pH緩衝材として添加することが好ましい。
【0052】
カラム10内に被処理水を連続供給する供給系20は、被処理水用タンク22と、供給管24、およびダイヤフラムポンプ26からなる。供給管24は、タンク22とカラム10の上部とを連結する。ダイヤフラムポンプ26を駆動して、タンク22内の被処理水を、供給管24を介してカラム10の上部供給口からカラム内に供給する。
【0053】
本実施形態では、排出管30が、処理水をカラム10から連続排出する排出系を構成する。排出管30は、処理容器10の排出口と連結し、カラム内の水位と同じ高さで排水するように構成した。なお、カラム10には5箇所の採水孔16A〜16Eを設け、定期的にカラム内の被処理水をサンプリングできるようにした。
【0054】
本実施形態の生物学的浄化方法では、本発明の生物学的浄化剤を収容したカラム10を嫌気状態に維持しつつ、この生物学的浄化剤に対して被処理水を連続通水する。被処理水がカラムの上部から下部へと移動する過程で、被処理水中で金属イオンの硫化物が析出し、被処理水から金属イオンが除去される。
【0055】
カラム内での被処理水の滞留時間、被処理水の量に対する生物学的浄化剤の量などは、被処理水の含まれる金属イオンの濃度、目標とする金属イオンの濃度などに応じて適宜設定することができる。
【0056】
本発明では、このような簡易なシステムおよび方法により、水温15℃以下の低温環境下においても、金属イオンおよび硫酸イオンを含有する被処理水中の金属イオンを長期間にわたって除去することができる。
【実施例】
【0057】
本発明の効果をより明確にするべく、以下の発明例および比較例にかかる実験を行った。
【0058】
(実験例1)
直径10cm、高さ40cmの円柱形の塩化ビニル製カラムを用いて、
図1に示すような試験装置を組み立てた。5箇所の採水孔は、以後上部から順に1段目、2段目、3段目、4段目、5段目と呼ぶ。カラム内に以下の混合物を充填した。なお、ケイ石はカラム内の空隙確保のための構造材である。モミガラは、コイン精米機で脱穀され、乾燥状態で保存されたものを入手し、それをそのまま、粉砕等の一切の加工をすることなく使用した。このモミガラには硫酸還元菌が付着している。
モミガラ:330g
菌源:17g(前培養したモミガラ)
石灰石:300g
ケイ石:730g
【0059】
被処理水として、鉱山坑廃水(pH:3.3〜3.8,SO
42-:350〜400mg/L,Zn:15〜18mg/L,Cu:3〜10mg/L)を用いた。カラム内に被処理水を3000mL添加し、嫌気状態かつ水温15℃で14日間静置して、硫酸還元菌を含む硫酸イオン還元活性に関わる細菌群を馴養した。なお、以下全ての実験例で同様の被処理水を用いた。
【0060】
馴養後、被処理水をポンプアップし、カラム上方から下方に通過させた。通水量は60mL/h、カラム内滞留時間は50時間とした。処理水はカラム底部に取り付けたシリコンチューブを通り、カラムの水位と同じ高さで排水した。被処理水の水温を25℃とした場合と15℃とした場合の2通りの実験を行った。
【0061】
<硫酸イオン還元特性の評価>
各実験において、定期的に5箇所の採水孔から被処理水をサンプリングし、ORP計(TOA-DKK製,RM-20P)を用いてORP値(mV)を測定した。ORP値は減少するほど被処理水が嫌気状態となっており、硫酸還元菌が活動しやすくなっていることを示す。水温25℃の場合を
図2に、水温15℃の場合を
図3に示す。
【0062】
図2に示すように、水温25℃の場合、カラムの1段目、2段目では通水開始直後に酸化環境となったが、3段目は30日後、4段目は60日後まで還元環境を維持した。一方、
図3に示すように、水温15℃の場合、通水開始から10日後以降は、4段目までが酸化環境となった。さらに、5段目も−100mVを上回り、カラム全体が早々に還元環境を維持できなくなったことがわかる。
【0063】
<金属イオン濃度の測定>
処理水のZnイオン濃度を定期的に測定した。水質汚濁防止法(平成二三年八月三〇日法律第一〇五号)及び排水基準を定める省令(平成二三年一〇月二八日環境省令第二八号)によって定められたZnイオンの排水基準は、2mg/Lである。水温25℃では、通水開始から100日以上継続して排水基準を満たした。しかし、水温15℃では、通水開始から13日目に排水基準を大きく超える5.7mg/Lが検出された。
【0064】
(実験例2)
<発明例1>
前培養工程として、小型の容器にモミガラ17g、菌源としてバーク堆肥を0.9g、被処理水200mLを加え、嫌気状態かつ水温25℃で14日間静置した。続いて、前培養したモミガラに、追加でモミガラ260g、石灰石1050gを加え、これらを実験例1と同様のカラムに移し変えた。その後、被処理水3000mLをカラム内に加え、本培養工程として、これらを嫌気状態かつ水温15℃で14日間静置した。モミガラは、コイン精米機で脱穀され、乾燥状態で保存されたものを入手し、それをそのまま、粉砕等の一切の加工をすることなく使用した。このモミガラには硫酸還元菌が付着している。
【0065】
その後、酒粕100g、モミガラ90g、石灰石350gの混合物をカラムの上部に添加した。酒粕としては、市販されている湿潤状態のものを、乾燥させることなくそのまま使用した。
【0066】
その後、実験例1の水温15℃の場合と同様にして被処理水の連続通水工程を行い、実験例1と同様にORP値の測定および処理水のZnイオン濃度の測定を行った。測定結果を
図4に示す。
【0067】
<発明例2>
酒粕100gに替えて、おから100gを用いた以外は発明例1と同様の実験を行った。おからとしては、市販されている湿潤状態のおから(卯の花)を、乾燥させることなくそのまま使用した。測定結果を
図5に示す。
【0068】
<発明例3>
酒粕100gに替えて、米ぬか100gを用いた以外は発明例1と同様の実験を行った。米ぬかとしては、コイン精米機から排出され、乾燥状態で保管されたほぼ粉末状のものを入手し、それをそのまま、一切の加工をすることなく使用した。測定結果を
図6に示す。
【0069】
<発明例4>
酒粕100gに替えて、茶葉100gを用いた以外は発明例1と同様の実験を行った。茶葉としては、市販されている緑茶の茶葉を、一切の加工をすることなく乾燥状態のまま使用した。測定結果を
図7に示す。なお、緑茶に替えてウーロン茶や紅茶の茶葉を使用しても、同様の結果が得られる。また、茶葉としては出がらしを使用しても同様の結果が得られる。
【0070】
<発明例5>
酒粕100gに替えて、ミヤコグサ100gを用いた以外は発明例1と同様の実験を行った。ミヤコグサとしては、実験施設の周辺に自生していたミヤコグサ(セイヨウミヤコグサ)を刈り取り、数日間自然乾燥させたものを使用した。測定結果を
図8に示す。
【0071】
<発明例6>
酒粕100gに替えて、チモシー100gを用いた以外は発明例1と同様の実験を行った。チモシーとしては、牧草として使用される乾燥状態のものを、一切の加工をすることなくそのまま使用した。測定結果を
図9に示す。
【0072】
<発明例7>
酒粕100gに替えて、クローバー100gを用いた以外は発明例1と同様の実験を行った。クローバーとしては、実験施設の周辺に自生していたシロクローバー(シロツメクサ)を刈り取り、数日間自然乾燥させたものを使用した。測定結果を
図10に示す。
【0073】
<比較例1>
酒粕100gに替えて、モミガラ100gを用いた以外は発明例1と同様の実験を行った。処理水のZnイオン濃度の経時変化を、他の発明例とともに
図11に示す。
【0074】
<比較例2>
酒粕100gに替えて、シラカバチップ100gを用いた以外は発明例1と同様の実験を行った。シラカバチップとしては、乾燥したチップ状のシラカバを、一切の加工をすることなくそのまま使用した。処理水のZnイオン濃度の経時変化を、他の発明例とともに
図11に示す。
【0075】
<考察>
まず、発明例1〜7および比較例1,2で使用した、追加の有機物含有材料について、粗タンパク質、粗脂肪、粗繊維、および水分の含有量を測定し、結果を表1に示す。なお表1には、
図11に基づき、処理水のZnイオン濃度が排水基準を満たした日数も示した。
【0076】
【表1】
【0077】
図4に示すように、モミガラに加えて有機物含有材料として酒粕を用いた場合、Znイオン濃度は通水開始から110日間も排水基準を下回り、ORP値についても4段目で80日程度、5段目では120日程度は十分な還元状態(−100mV以下)を維持した。
図5に示すように、有機物含有材料としておからを用いた場合、Znイオン濃度は通水開始から160日間も排水基準を下回り、ORP値についても4段目および5段目で130日程度は−100mV以下を維持した。さらに、
図6に示すように、有機物含有材料として米ぬかを用いた場合、Znイオン濃度は通水開始から430日経過後もほとんど検出されず、ORP値についても4段目および5段目では430日間十分な還元状態−100mV以下を維持した。
【0078】
図7〜10に示すように、有機物含有材料として茶葉、ミヤコグサ、チモシーまたはクローバーを用いた場合も、通水期間中継続して、Znイオン濃度は排水基準を下回り、少なくとも4段目および5段目のORP値は十分な還元状態−100mV以下を維持した。
【0079】
しかし、
図11に示すように、有機物含有材料としてモミガラおよびシラカバチップを用いた場合には、Znイオン濃度が排水基準を満たした日数はそれぞれ35日および50日に過ぎなかった。
【0080】
有機物含有材料を添加しない場合は、通水開始から13日目ですでに、Znイオン濃度が大きく排水基準を超えたのに対し、粗タンパク質の含有量が5%以上と多い特定の有機物含有材料を添加した場合、Znイオン濃度が排水基準を下回る日数が顕著に長くなり、非常に大きな効果の差があった。このように本発明例によれば、水温15℃の低温環境下においても、被処理水中の金属イオンを長期間にわたって除去することができた。中でも米ぬかを用いた場合、特に高い効果を得ることができた。
【0081】
(実験例3)
次に、水温4℃という、より低温環境下での硫酸イオン還元活性について実験した。具体的には、小型の容器にモミガラ17g、菌源として腐葉土質土壌を0.9g、被処理水200mLを加え、嫌気状態かつ水温25℃で14日間静置した。硫酸イオン還元が発現した後に、小型容器内の被処理水を排出し、新たな被処理水を250mL加え4℃で静置し、ORP値の測定を併せて行った。硫酸イオン還元が起こらないことを確認した後に米ぬかを1g添加し、4℃で静置し、引き続きORP値の測定を行った。結果を
図12に示す。
【0082】
図12に示すように、モミガラの場合水温4℃という、より低温の環境下では、試験開始直後から一貫して酸化状態を維持し、還元状態を得ることができなかった。一方、モミガラに米ぬかを添加した場合、水温4℃の環境下でも−100mVを30日以上維持し、高い硫酸イオン還元活性が長期間得られた。
【0083】
(実験例4)
二段階の培養の際に、米ぬかを添加する場合としない場合とで、馴養段階での硫酸イオン還元活性を比較する実験を行った。具体的には、前培養工程として、小型の容器にモミガラ17g、菌源として腐葉土質土壌を0.9g、被処理水200mLを加え、嫌気状態かつ水温25℃で14日間静置した。続いて、前培養したモミガラに、追加でモミガラ350g、石灰石1400gを加え、これらを実験例1と同様のカラムに移し変えた。その後、被処理水3000mLをカラム内に加え、本培養工程として、これらを水温15℃で静置した。ここで、カラム内に米ぬか100gを添加する場合と、しない場合とを比較した。ORP値の測定および硫酸イオン濃度の測定を行った結果を
図13(A),(B)に示す。
【0084】
馴養時に米ぬかを添加する場合、
図13(A)に示すように還元環境が安定せず、
図13(B)に示すように、硫酸イオン濃度の減少が遅くなった。このことから、米ぬかは低温環境下での連続通水試験時には硫酸イオン還元活性を促進するが、馴養の段階では硫酸イオン還元活性の発現を遅らせることがわかる。
【0085】
(実験例5)
モミガラと米ぬかを用いた生物学的浄化剤(発明例3)を用いて、自然の温度条件下で大型のカラム試験を行った。
【0086】
直径25cm、高さ110cmの円柱形の塩化ビニル製カラムを用いて、
図1に示すような試験装置を組み立てた。カラム内にモミガラ4.275kg、菌源として現場周辺から採取した表層土壌を17.5g、および石灰石18kgの混合物を充填した。これに被処理水35Lを加え、嫌気状態かつ水温15〜25℃で10日間静置した。10日後には、ORP値が−200mV〜−300mVとなり、硫酸還元菌が活性化しカラム内が還元環境となっていた。
【0087】
その後、米ぬか1.5kg、モミガラ0.225kgの混合物をカラムの上部に添加した。
【0088】
被処理水をポンプアップし、滞留時間50時間でカラム上方から下方に通過させた。なお、被処理水の温度管理は行わず、カラムを設置した環境も自然の温度環境下とした。
【0089】
図14に、カラム内温度の経時変化およびカラムから排出された処理水のZnイオン濃度の経時変化を示す。また表2に、通水244日での被処理水および処理水のpHおよび含有成分を示す。
【0090】
【表2】
【0091】
図14に示すように、試験期間中カラム内の温度は最低で5℃にまで低下した。しかし、Znイオン濃度は通水期間中継続して排水基準を下回った。表2に示すように、Znイオン以外の金属イオンも十分に除去された。
水温15℃以下の低温環境下においても、金属イオンおよび硫酸イオンを含有する被処理水中の金属イオンを長期間にわたって除去することができる生物学的浄化剤を提供する。
本発明は、金属イオンおよび硫酸イオンを含有する被処理水中で、前記金属イオンの硫化物を析出させて、前記非処理水から前記金属イオンを除去するための生物学的浄化剤であって、硫酸還元菌を保有する穀物殻と、粗タンパク質が5質量%以上含まれる有機物含有材料と、を含有することを特徴とする。