(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
従来から、エンジンで発生するノック現象をエンジンのブロックに直接取り付けられた振動センサ(以下、ノックセンサ)にて検出する方法が知られている。これは、エンジンの運転中にノックが発生すると、燃焼過程にエンジンのボア径やノックの振動モードに応じて固有の周波数帯の振動が発生することが知られており、予め設定されるノックによる振動の発生が予測される区間(以下、ノック検出区間)におけるノックセンサ出力に対して、例えばDFT(Discrete Fourier Transform)等のデジタル信号処理により時間−周波数解析を実施することでノック検出区間における振動強度(以下、ノック信号)を算出し、算出されたノック信号に基づいてノック検出を行うものである。
【0003】
ノック検出はノック信号がノック判定閾値を上回ったか否かで判定されるが、ノック判定閾値は一般的に、フィルタ処理により算出されるノック信号の平均値と予め適合しておいたゲインとオフセットを用いて設定するものや、フィルタ処理により算出されるノック信号の平均値と標準偏差を用いて設定するものが知られており、ここでは後者について〔数式1〜4〕を用いて説明する。
ノック判定閾値VTHは、まず〔数式1〕に示すなまし処理にてノック信号VPの平均値VBGLを算出し、次にノック信号VPと平均値VBGLを用いて、〔数式2〕に示すようになまし処理にてノック信号VPの分散VVARを算出した後に〔数式3〕に示すように平方根を算出することでノック信号VPの標準偏差VSGMを算出する。〔数式4〕に示すように平均値VBGLに標準偏差VSGMに所定係数KTHを乗算した値を加算してノック判定閾値VTHを算出する。
【0004】
〔数式1〕
VBGL[n]=KBGL×VP[n-1]+(1−KBGL)×VP[n]
(VP:ノック信号、KBGL:フィルタ係数、n:行程数)
〔数式2〕
VVAR[n]=KVAR×VVAR [n-1]+(1−KVAR)×(VP―VBGL)[n]
2
(VVAR:ノック信号の分散、KVAR:分散算出用フィルタ係数、n:行程数)
〔数式3〕
VSGM[n]=VVAR[n]
1/2
(VSGM:ノック信号の標準偏差)
〔数式4〕
VTH=VBGL+KTH×VSGM
(VTH:ノック判定閾値、KTH:ノック判定閾値係数)
ここで、各数式にて用いられる各フィルタ係数は「0.95」程度の値を用いて、ノック信号VPの高周波成分を除去し、運転状態が過渡時には早く追従するように「0.95」よりも小さい値を設定し、ノック判定時には遅く追従するように「0.95」よりも大きい値を設定する。また、ノック判定閾値係数KTHはノックが発生しない場合はノック判定閾値VTHがノック信号VPより大きく、ノックが発生した場合はノック判定閾値VTHがノック信号VPより小さくなるよう、その値が予め設定される。
【0005】
また、ノック検出時には点火時期を遅角側へ補正することでノックを抑制し、ノック非検出時には点火時期を進角側に復帰することでトルク低下を最小限に抑えるノック制御装置が知られている。これは、エンジンの特性として、点火時期を進角させるとエンジン出力トルクは向上するがノックは発生し易くなり、逆に点火時期を遅角させるとエンジン出力トルクは低下するがノックは発生しにくくなることが知られており、ノック検出時には点火時期を遅角側に補正し、ノック非検出時には進角側に復帰することで、ノックの発生を抑制しつつ最もトルクが発生するノック限界点火時期にてエンジンを運転するよう制御するものである。但し、エンジンが低負荷で運転されている場合等においては、トルクが最大となる点火時期まで進角してもノックが発生しない場合があり、このような運転領域では上記ノック制御は不要である。
【0006】
近年、インジェクタを筒内に配設して燃料を気筒内に直接噴射する筒内噴射式エンジンや、エンジンの運転状態に応じて吸気バルブや排気バルブの開閉タイミングを可変制御する可変吸排バルブ機構を備えたエンジンが実用されているが、このようなエンジンでは特に、インジェクタの燃料噴射に伴う振動(以下、インジェクタノイズ)や吸排バルブ開閉に伴う振動(以下、バルブノイズ)がノック信号に重畳しやすい。
さらに、前記インジェクタの噴射時期や吸気バルブ及び排気バルブの開閉タイミングは多様に変更されるため、前記ノック検出区間への出入りを防止することは困難である。従来のノック制御装置では、これらのノイズが前記ノック検出区間に出入りすると、ノック信号のレベルが急変するため、フィルタ処理により算出される前記ノック判定閾値の追従が遅れてノックが発生していないにも関わらずノックが発生したと誤検出をしてしまうという問題があった。
【0007】
これに対して、特許文献1では、インジェクタノイズがノック検出区間の近傍に重畳する状態においてノック検出区間をインジェクタノイズが完全に含まれるように変更することで、インジェクタノイズがノック検出区間の内外の何れにあるかを限定的に検出し、インジェクタノイズの出入りによるノック信号レベルの変化度合を正確に予測し、インジェクタノイズの出入りに応じてノック判定閾値の嵩上げを行う方法が提案されている。また特許文献2では、ノック検出区間を常にバルブノイズが含まれるように設定することで、バルブノイズの出入りによるノック信号の急変を防止し、ノック誤検出を回避する方法が提案されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1のノック制御装置によれば、インジェクタノイズの出入りによりノック信号レベルの変化が生じてもノック誤検出を抑制できるという効果を得られるが、ノック検出区間へノイズが出入りする際のノック信号の変化は生じるため、ノック判定閾値の嵩上処理や、ノック回避制御の禁止等を行わなければならず、ノック判定閾値を嵩上げする場合には、ノイズレベルのバラツキまで考えてある程度の余裕代を持って嵩上量を設定する必要があるため、ノック検出漏れが生じるという問題があり、また、ノック回避制御を禁止する場合には、禁止中に発生するノックを検出できないという問題があった。
さらに、ノック検出区間を拡大することにより、本来ノック検出を行う必要のない、ノックが発生する区間以外でノイズが重畳している状態においてもノック検出を行うため、ノイズによる振動レベルよりもノックによる振動レベルが小さい場合にはノック検出漏れを生じるという問題があった。また、インジェクタやバルブによるノイズ以外の不要なノイズをノック検出区間に含むことによるノック誤検出やノック検出漏れを生じるという問題があった。
【0010】
また、特許文献2のノック制御装置によれば、ノイズの出入り自体を回避することでノック信号レベルの変化を生じることなくノック誤検出を回避できるという効果を得られるが、ノック検出区間が特許文献1よりもさらに拡大されることにより、恒常的に、ノイズによる振動レベルよりもノックによる振動レベルが小さい場合にはノック検出漏れを生じるという問題があった。また、インジェクタやバルブによるノイズ以外の不要なノイズをノック検出区間に含む可能性が高く、ノック誤検出やノック検出漏れを生じるという問題があった。
【0011】
従来のノック制御装置における問題について、
図7及び
図8を用いて説明する。なお、ここではノックウィンドウの設定方法以外については本発明と同じ構成とした場合について説明する。
図7は、燃焼過程におけるデジタル信号処理後のスペクトルを示す図であり、(a)〜(c)はノイズの重畳状態がそれぞれ異なる。
(a):ノックが発生する可能性のある区間から離れた位置にノイズが重畳した状態
(b):ノックが発生する可能性のある区間の近傍にノイズが重畳した状態
(c):ノックが発生する可能性のある区間にノイズが重畳した状態
をそれぞれ示している。
各状態において、ノック検出区間におけるスペクトルのピークホールド値がノック信号として算出される。
図8は、
図7のノイズ重畳状態が(a)→(b)→(c)と推移した際のノック信号の平均値VBGLとノック判定閾値VTHの動作を示すタイムチャートを示している。
【0012】
図7(1)及び
図8(1)は従来のノック制御装置による動作を示している。従来のノック制御装置では、
図7(1)の(a)及び(b)ではノイズがノック検出区間外(閉区間CLS)で重畳しており、
図7(1)の(c)ではノック検出区間OPN(開区間OPN)に重畳している。
図8(1)においては時間T2でノイズがノック検出区間OPNに重畳し、その後ノック信号VPはノイズによる振動レベルに急増するが、ノック信号VPをなまし処理することで算出されるノック判定閾値VTHは一定の遅れをもって算出されるため、T2以降で、ノックが発生していないにも関わらずノック信号VPがノック判定閾値VTHを上回ってしまいノック誤検出が生じる。
【0013】
図7(2)及び
図8(2)は特許文献1のノック制御装置による動作を示している。特許文献1のノック制御装置では、
図7(2)の(a)ではノイズがノック検出区間外(閉区間CLS)で重畳しており、
図7(2)の(b)ではノイズがノック検出区間OPNの近傍にあることを検出してノック検出区間OPNを拡げるためノイズがノック検出区間OPNに重畳しており、
図7(2)の(c)ではノイズはノック検出区間OPNに重畳している。
図8(2)においては、
図8(1)の時間T2よりも早いタイミングの時間T1でノイズがノック検出区間OPNに重畳し、その後ノック信号VPはノイズによる振動レベルに急増するが、時刻T1からT1’まで嵩上処理を実施し、ノック判定閾値VTHを嵩上げしてノック判定閾値VTH’を算出することでノック誤検出を抑制することができるが、VTH’の設定によってはノック判定閾値が不適切なレベルに設定されてしまいノック検出漏れが生じる。また、例えばノックによる振動レベルVKNKが図示しているレベルである場合には、時間T1以降ではノックを検出することができない。
【0014】
図7(3)及び
図8(3)は特許文献2のノック制御装置による動作を示している。特許文献2のノック制御装置では、ノイズが常にノック検出区間OPNに含まれるように設定されるため、
図7(3)の(a)、(b)、(c)、全てでノイズがノック検出区間OPNに重畳している。
図8(3)においては、ノック信号が常にノイズによる振動レベルに維持されるため急変することなくノック誤検出を回避することができるが、例えばノックによる振動レベルVKNKが図示しているレベルである場合には、常にノックを検出することができない。
【0015】
そこで本発明は、適合工数の増大や、ノック検出におけるS/N低下や実行頻度の減少を招くことなく、各種ノイズがノック検出区間に出入りする際のノック信号の急変を抑制することでノック誤検出を抑制することができるエンジンのノック制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、エンジンのノックによる振動を検出するためのノックセンサと、予め設定されるデジタル信号処理区間の前記ノックセンサ
の出力に基づいて時間‐周波数解析を行うデジタル信号処理手段と、
前記デジタル信号処理手段による処理結果に対し
てピークホールド値をノック信号として算出し、前記ノック信号を算出した位置をノック信号位置として算出するノックウィンドウ設定手段と、前記ノック信号を用いてノック判定閾値を算出し、算出されたノック判定閾値と前記ノック信号を比較することでノック検出を行うノック検出手段と、前記ノック検出手段による検出結果と前記ノック信号位置に基づいてノック抑制を行うノック抑制手段とを備えたエンジンのノック制御装置において、前記ノックウィンドウ設定手段は、
前記デジタル信号処理区間内に、前記ノックによる振動が発生する区間をノック検出区間である開区間として設定し、前記開区間と前記ノック検出区間以外の区間である閉区間との間に補間区間を設けると共に、前記開区間では前記デジタル信号処理手段による処理結果に対して開ゲイン1を乗算し、前記閉区間では前記デジタル信号処理手段による処理結果に対して閉ゲイン0を乗算し、前記補間区間では前記デジタル信号処理手段による処理結果に対して
、前記開ゲインと、
0または1、もしくは0と1との中間の値に設定した補間ゲインとの線形補間値を乗算するものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、ノック検出区間(開区間)と閉区間の間に補正区間を設けて、補間区間にある信号に開ゲイン(=1)と補間ゲインとの線形補間値を乗算することで、インジェクタノイズやバルブノイズ等がノック検出区間へ出入りする際のノック信号レベルの急変を抑制することができ、ノック判定閾値の追従遅れによるノック誤検出を抑制することが可能となる。
さらに、ノイズによる振動レベルは補間区間において徐々に大きくなるように補正されるため、ノイズが補間区間に存在する場合においても、ノイズによる振動レベルがノックによる振動レベルを超えない限りはノック検出を精度良く行うことが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
実施の形態1.
以下、図面を参照しながら、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
図1、
図2はこの発明の実施の形態によるエンジンとエンジン制御部を概略的に示す構成図である。
図1において、エンジン1の吸気系の上流に吸入空気流量を調整するために電子的に制御される電子制御式スロットルバルブ2が設けられている。また、電子制御式スロットルバルブ2の開度を測定するために、スロットル開度センサ3が設けられている。なお、電子制御式スロットルバルブ2の代わりに図示しないアクセルペダルに直接ワイヤで繋がれた機械式スロットルバルブを用いてもよい。
更に、電子制御式スロットルバルブ2の上流には吸入空気流量を測定するエアフロセンサ4が設けられており、電子制御式スロットルバルブ2の下流のエンジン1側には、サージタンク5内の圧力を測定するインマニ圧センサ6が設けられている。なお、エアフロセンサ4とインマニ圧センサ6に関しては、両方とも設けてもよいし、いずれか一方のみが設けられていてもよい。
サージタンク5下流の吸気ポートに設けられた吸気バルブには、吸気バルブの開閉タイミングを可変制御できる可変吸気バルブ機構7が取り付けられており、また、吸気ポートには燃料を噴射するインジェクタ8が設けられている。なお、インジェクタ8はエンジン1のシリンダ内に直接噴射できるように設けられてもよい。
更に、エンジン1のシリンダ内の混合気に点火するための点火コイル9及び点火プラグ10、エンジンの回転速度やクランク角度を検出するためにクランク軸に設けられたプレートのエッジを検出するためのクランク角センサ11、エンジンの振動を検出するためのノックセンサ12がエンジン1に設けられている。
【0020】
図2おいて、エアフロセンサ4で測定された吸入空気流量と、インマニ圧センサ6で測定されたインマニ圧と、スロットル開度センサ3で測定された電子制御式スロットルバルブ2の開度と、クランク角センサ11より出力されるクランク軸に設けられたプレートのエッジに同期したパルスと、ノックセンサ12で測定されたエンジンの振動波形は、電子制御ユニット(以下、「ECU」と称す)13に入力される。また前記以外の各種センサからもECU13に測定値が入力され、さらに、他のコントローラ(例えば、自動変速機制御、ブレーキ制御、トラクション制御等の制御システム)からの信号も入力される。
ECU13では、アクセル開度やエンジンの運転状態などを基にして目標スロットル開度が算出されて電子制御式スロットルバルブ2を制御する。また、その時の運転状態に応じて、吸気バルブの開閉タイミングを可変制御する可変吸気バルブ機構7は制御され、目標空燃比を達成するようにインジェクタ8は駆動され、目標点火時期を達成するように点火コイル9への通電が行われる。
なお、後述の方法でノックが検出された場合には、目標点火時期を遅角側(リタード側)に設定することでノックの発生を抑制する制御も行われる。さらに、前記以外の各種アクチュエータへの指示値も算出される。
【0021】
次に
図3を参照しながら、ECU13内で行うノック制御の概要について説明する。
図3はノック制御全体の構成を示したブロック図である。
図3において、ECU13は各種I/F回路とマイクロコンピュータからなり、マイクロコンピュータはアナログ信号をデジタル信号に変換するA/D変換器、制御プログラムや制御定数を記憶しておくROM領域、プログラムを実行した際の変数を記憶しておくRAM領域等から構成されている。
14はノック制御用のI/F回路を示しており、ノックセンサの信号出力の高周波成分を除去するためのローパスフィルタ(LPF)である。15はマイクロコンピュータのA/D変換器により実施されるA/D変換処理部で、一定の時間間隔(例えば、10μsや20μs等)毎に実行される。なお、LPF14では、A/D変換処理部15で全振動成分を取り込むために、例えば、2.5Vにバイアス(振動成分の中心を2.5Vにする)しておき、2.5Vを中心に0〜5Vの範囲に振動成分が収まるよう、振動成分が小さい場合には2.5Vを中心に増幅し、大きい場合には2.5Vを中心に減少させるゲイン変換機能も含まれている。
なお、このA/D変換は常時行っておいて、デジタル信号処理に必要な期間(以下、デジタル信号処理区間と称す)、例えば、BTDC10°CAからATDC80°CA等のデータのみデジタル信号処理手段16以降へ送るようにしても良いし、デジタル信号処理区間のみA/D変換を行いデジタル信号処理手段16以降へ送るようにしても良い。
【0022】
デジタル信号処理手段16では、時間−周波数解析が実施される。このデジタル信号処理として、例えば、離散フーリエ変換(DFT)や短時間フーリエ変換(STFT)と呼ばれる処理により、所定時間毎のノック固有周波数成分のスペクトル列が算出される。
なお、デジタル信号処理手段としては、IIR(無限インパルス応答)フィルタやFIR(有限インパルス応答)フィルタを用いてノック固有周波数成分を抽出するようにしてもよい。また、デジタル信号処理手段16は、デジタル信号処理区間におけるA/D変換の完了後に処理を開始し、後述するノックウィンドウ設定手段17からノック回避手段20の処理を実施するクランク角同期の割り込み処理(例えば、BTDC75°CAでの割込み処理)までに終了しておく必要がある。
ノックウィンドウ設定手段17により、デジタル信号処理手段16にて算出したスペクトル列から以降のノック検出及びノック回避に用いるノック信号及びノック信号位置を算出する。
【0023】
ここで、ノックセンサからノック信号及びノック信号位置が算出されるまでを、
図4を用いて説明する。
図4に示すように、デジタル信号処理区間(
図4(ii)参照)におけるノックセンサ信号(
図4(
i)参照)を例えば20μs毎にA/D変換する処理を行っている(
図4(iii)参照)。次に、例えば離散フーリエ変換(DFT)により、所定のクランク角度毎にノックセンサ信号から所定の周波数帯のスペクトルが算出される(
図4(iv)参照)。
次に、ノックによる振動が発生する区間を予めノック検出区間OPN(開区間OPN)として設定し、ノック検出区間の両端に補正区間iNTを設定し、それ以外を閉区間CLSとして設定する。また、開区間OPNでは開ゲインとして1を設定し、閉区間CLSでは閉ゲインとして0を設定し、補間区間iNTでは開ゲインと所定の補間ゲインの線形補間値を設定するが、ここでは補間ゲインとして0を設定した場合について示している(
図4(v)参照)。
図4(iv)で算出されたスペクトルに対して
図4(v)で設定したノックウィンドウを乗算し、乗算後のスペクトルのピークホールド値をノック信号VPとして算出し、ノック信号VPが算出された位置をノック信号位置VPOSとして算出する(
図4(vi))。
【0024】
続くノック判定閾値算出部18及び比較部19にてノック検出手段を構成する。ノック判定閾値算出部18では、行程毎に算出されたノック信号VPを用いて、以降の比較の際に用いるノック判定閾値VTHを次式(1)〜(4)に基づいて算出する。
VBGL[n]=KBGL×VP[n-1]+(1−KBGL)×VP[n] (1)
(VBGL:ノック信号VPの平均値、VP:ノック信号、KBGL:フィルタ係数、n
:行程数)
VVAR[n]=KVAR×VVAR [n-1]+(1−KVAR)×(VP―VBGL)[n]
2 (2)
(VVAR:ノック信号VPの分散、KVAR:分散算出用フィルタ係数、n:行程数)
VSGM[n]=VVAR[n]
1/2 (3)
(VSGM:ノック信号VPの標準偏差)
VTH=VBGL+KTH×VSGM (4)
(VTH:ノック判定閾値、KTH:ノック判定閾値係数)
【0025】
ここで、各数式にて用いられる各フィルタ係数は「0.95」程度の値を用いて、ノック信号VPの高周波成分を除去し、運転状態が過渡時には早く追従するように「0.95」よりも小さい値を設定し、ノック判定時には遅く追従するように「0.95」よりも大きい値を設定する。
また、ノック判定閾値係数KTHはノックが発生しない場合はノック判定閾値VTHがノック信号VPより大きく、ノックが発生した場合はノック判定閾値VTHがノック信号VPより小さくなるよう、その値が予め設定される。
【0026】
比較部19では、式(5)によりノック信号VPとノック判定閾値VTHとを比較することでノック判定を行い、ノック強度VKを算出する。
VK[n]=max{(VP[n] −VTH[n])/(VP[n] −VBGL[n]), 0}(5)
(VK:ノック強度、VK>1 でノックと判定する)
【0027】
続くノック回避手段20として、点火時期を遅角することでノックを回避する場合について説明する。
まず、1点火毎のノック強度に応じた遅角量△RTDを次式(6)により算出する。
△RTD[n]=VK[n]×KRTD @VK[n]>1かつVPOSがノック検出区間内
△RTD[n]=0 @上記以外 (6)
(△RTD:1点火毎遅角量、KRTD:遅角量反映係数)
【0028】
ここで1点火毎遅角量△RTDは、ノック検出手段によりノックと判定された際のノック信号位置VPOSがノック検出区間内にある場合のみ、1点火毎遅角量を算出する。
続く式(7)によりノック補正量RTDを算出する。
RTD[n]=RTD[n-1]−△RTD[n] @△RTD[n]>0
RTD[n]=RTD[n-1]+△ADV @上記以外 (7)
(RTD:ノック補正量、△ADV:進角量)
なお、ここでは1点火毎遅角量△RTD、ノック補正量RTDの何れも進角側を正、遅角側を負としている。ノック補正量RTDに基づいてエンジンの点火時期を補正することでノックの発生を回避する。以上により、ノック制御を実現する処理方法の概要について説明した。
【0029】
続いて、本実施形態において実際にノイズがノックウィンドウに重畳する際の動作について、
図5及び
図6を用いて詳細に説明する。
図5は、燃焼過程におけるデジタル信号処理後のスペクトルを示す図であり、(a)〜(c)はノイズの重畳状態がそれぞれ異なる。
(a):ノックが発生する可能性のある区間から離れた位置にノイズが重畳した状態
(b):ノックが発生する可能性のある区間の近傍にノイズが重畳した状態
(c):ノックが発生する可能性のある区間にノイズが重畳した状態
をそれぞれ示している。
各状態において、ノック検出区間におけるスペクトルのピークホールド値がノック信号として算出される。
【0030】
図6は、
図5のノイズ重畳状態が(a)→(b)→(c)と推移した際のノック信号VPの平均値VBGLとノック判定閾値VTHの動作を示すタイムチャートを示している。
図5(1)及び
図6(1)は本発明の実施の形態1による動作を示している。
実施の形態1では、補間ゲインとして閉区間CLSで設定される閉ゲインと同じ0が設定されており、
図5(1)の(a)ではノイズが閉区間CLSで重畳しており、
図5(2)の(b)ではノイズが補間区間iNTで重畳しており、
図5(1)の(c)では開区間OPNに重畳している。
図6(1)においては時間T12でノイズが補間区間iNTに重畳し、その後、時間T22でノイズがノック検出区間OPNに重畳するが、上述したように本実施の形態
1によるノックウィンドウでは1と0の線形補間値が補間区間に設定されるため、ノイズがノック検出区間OPNに近づくにつれてノック信号VPが徐々に大きくなるため、ノック信号VPの急増によるノック判定閾値VTHの算出遅れを抑制することができ、ノック誤検出を抑制することができる。さらに、例えばノックによる振動レベルVKNKが図示しているレベルである場合には、時間T3までノック検出を行うことができる。
【0031】
実施の形態2.
次に、
図5(2)及び
図6(2)は本発明の実施の形態2によるノック制御装置の動作を示している。
実施の形態2では、補間ゲインとしてノック検出区間OPNで設定される開ゲインと同じ1が設定されており、
図5(2)の(a)ではノイズが閉区間CLSで重畳しており、
図5(1)の(b)ではノイズが補間区間INTで重畳しており、
図5(2)の(c)では開区間OPNに重畳している。
図6(2)においては時間T11でノイズが補間区間INTに重畳し、その後、時点T21でノイズがノック検出区間OPNに重畳する。ノイズが補間区間INTに重畳する時点T11においてノック信号VPはノイズによる振動レベルに急増し、ノック信号VPをなまし処理することで算出されるノック判定閾値VTHは一定の遅れをもって算出される。このため、T11以降で、ノックが発生していないにも関わらずノック信号VPがノック判定閾値VTHを上回ってしまうが、ノイズの重畳位置が補間区間INTである場合にはノック信号VPがノック判定閾値VTHを上回ってもノック回避手段20によりノック補正量RTDが算出されることはないので、ノックを誤検出することがない。
【0032】
実施の形態3.
図5(3)及び
図6(3)は本発明の実施の形態3によるノック制御装置の動作を示している。実施の形態3では、補間ゲインとしてノック検出区間に出入りするノイズによる振動レベルが、少なくともノック検出区間におけるノック以外の燃焼による振動レベルと略等しくなるように設定されており、
図5(3)の(a)ではノイズが閉区間CLSで重畳しており、
図5(3)の(b)ではノイズが補間区間iNTで重畳しており、
図5(3)の(c)では開区間OPNに重畳している。
また、補間ゲインをノイズによる振動レベルがノック検出区間OPNにおける振動レベルと同等となるように設定することで、補間区間iNTを上述した実施の形態2に比べて狭く設定することができるため、
図5(3)に示すようなエンジンや運転状態に特有で発生位置が略一定である固定ノイズを除去することができる。
図6(3)においては時間T13でノイズが補間区間iNTに重畳し、その後、時間T23でノイズがノック検出区間OPNに重畳するが、上述したように本実施の形態3によるノックウィンドウでは1と所定の補間ゲイン(例えば0.5)の線形補間値が補間区間に設定されるため、ノイズがノック検出区間OPNに近づくにつれてノック信号が徐々に大きくなるため、ノック信号VP
の急増によるノック判定閾値VTHの算出遅れを抑制することができ、ノック誤検出を抑制することができる。さらに、例えばノックによる振動レベルVKNKが図示しているレベルである場合には、時間T4までノック検出を行うことができる。
【0033】
以上のように本発明のノック制御装置によれば、ノックウィンドウ設定手段17は、予めノックにより振動が発生する区間をノック検出区間(開区間OPN)として設定し、ノック検出区間ではデジタル信号処理手段16による処理結果に対して開ゲインを乗算し、ノック検出区間以外の区間(閉区間CLS)ではデジタル信号処理手段16による処理結果に対して閉ゲインを乗算し、さらに、開区間OPNと閉区間CLSとの間に所定の補間区間INTを設け、補間区間INTではデジタル信号処理手段16による処理結果に対して開ゲインと所定の補間ゲインとの線形補間値を乗算するもので、各種ノイズがノック検出区間に出入りする際のノック信号レベルの急変を生じることないためノック判定閾値の追従遅れによるノック誤検出を抑制することができ、さらに、ノック検出区間を不要に拡げることがないためノック検出区間以外でのノック誤検出を回避することができるという優れた効果を得ることができ、結果としてノック制御性を向上することができる。
【0034】
なお、上述した各実施の形態においては、ノック検出区間の後側の補正区間について説明したが、ノック検出区間の前側についても同様に構成することで、同様の効果を得ることができる。
また、ノック検出区間の前後で重畳するノイズが異なるような状態においては、ノック検出区間の前後で補間区間の設定を個別に設定することで、より一層精度良くノイズによるノック誤検出を抑制することができる。
【0035】
また、燃焼過程に重畳するノイズは運転状態によっても変わるため、補間区間及び補間ゲインをエンジン回転速度、エンジン負荷のうち少なくとも一つに基づいて設定することで、より一層精度良くノイズによるノック誤検出を抑制することができる。