(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
従来より、半導体の物性の解析や、LSIの故障解析の分野において、電磁波の一種であるテラヘルツ波を利用することが提案されている(非特許文献1参照)。テラヘルツ波を用いた分析方法では、1ピコ秒未満のパルス幅と数十MHzの繰り返し周波数を持ついわゆるフェムト秒レーザを用いたテラヘルツ時間領域分光法(THz−TDS)が広く知られている。
【0003】
テラヘルツ時間領域分光法においては、一般には、以下に説明する測定装置が利用される。この測定装置においては、具体的には、レーザ光源から出射されたフェムト秒レーザ光が、ビームスプリッタにより2つ(ポンプ光およびプローブ光)に分岐される。ポンプ光はテラヘルツ波を発生する発生部(光スイッチ素子など)に照射され、該発生部から発生したテラヘルツ波パルスが試料に照射される。そして試料を透過(または反射)したテラヘルツ波パルスは、光スイッチ素子等で構成される検出部に入射する。
【0004】
また、他方のプローブ光は、検出部に照射される。検出部は、このプローブ光の照射に応じて、試料を透過(または反射した)テラヘルツ波パルスの電場強度を検出する。プローブ光の光路長は、直線移動が可能な移動鏡で構成される光路長変更手段によって変更できるように構成されている。光路長変更手段によってポンプ光が検出部に到達する時間が変更されることによって、いくつかのタイミングでのテラヘルツ波パルスの電場強度のサンプリングが行われ、テラヘルツ波の時間波形が復元される。
【0005】
ここで、光路変更手段による光路長の変更方法としては、主に2つの方式(ステップスキャン方式およびラピッドスキャン方式)が知られている。
【0006】
ステップスキャン方式では、測定中、移動鏡が所定距離を移動して所定時間停止し、再び所定距離移動するという動作を繰り返して、所定範囲を1回走査する。これにより、光路長がステップ状に変更される。この場合、停止時の各位置を高精度に調整しやすいため、測定精度が高くなる。また、ステップスキャン方式の場合、光路長を変更する際の各位置において、検出部における電場強度の検出信号が、積算平均されることになる。このため、SN比を高めることもできる。
【0007】
ステップスキャン方式の場合、1回の走査にかかる時間が長くなりやすいため、フェムト秒レーザの強度の揺らぎの影響を受け易くなる。このため、例えば移動の開始時と終了時とにおいて、発生部から出射されるテラヘルツ波の電界強度が相違する虞がある。よって、ステップスキャン方式の場合、試料に対するテラヘルツ波パルスの周波数スペクトル形状が歪みやすくなる虞がある。
【0008】
これに対して、ラピッドスキャン方式では、所定範囲内において移動鏡を等速で往復移動させることによって、光路長が連続的に変更される。そして、一定時間間隔でサンプリングが行われる。この場合、フェムト秒レーザの強度に時間経過に伴う揺らぎがあっても、その影響は特定の位置に片寄らないため、揺らぎの影響が低減される。
【0009】
しかしながら、ラピッドスキャン方式では、移動鏡を高速で繰り返し往復走査させた場合に、完全な等速移動を実現することが困難である。移動鏡が等速移動でない場合に、一定時間間隔でサンプリングを行ったとしても、一定変位間隔毎のサンプリングにはならない。そこで、往復移動する移動鏡の変位量に基づいて、検出部にて取得されたデータを適宜補完処理する必要があり、測定精度が低下する虞がある。
【0010】
そこで特許文献1では、このラピッドスキャン方式における上記問題を改善する技術として、移動鏡の位置をレーザ干渉計によって精密に測定している。つまり、移動鏡が一定間隔移動するのをレーザ干渉計によって検出し、一定間隔移動する毎に検出部によるサンプリングが行われるようにしている。この場合、移動鏡が複数回往復移動したときに、光路長が一致した状態でのサンプリングを複数回行うことができる。この場合、電場強度を補正する必要が無いため、サンプリング精度を向上させることができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
ところが、特許文献1に記載された技術の場合、遅延回路やカウンター回路、および、レーザ干渉計を必要とし、装置構成が非常に高コストとなってしまうという問題があった。また、ハードウェアを制御するためのソフトウェアも複雑になってしまうという問題がある。
【0014】
そこで、本発明は上記課題に鑑みなされたものであり、効率良く安価に電磁波パルスの測定精度を向上する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するため、第1の態様は、試料に電磁波パルスを照射して、該試料を透過または反射した電磁波パルスを測定する電磁波パルス測定装置において、レーザ光源から出射されたレーザ光の照射に応じて電磁波パルスを発生する発生部と、試料を透過または反射した前記電磁波パルスの電界強度を、前記レーザ光の照射に応じて検出する検出部と、前記レーザ光源から前記
発生部までの第1光路または前記レーザ光源から前記検出部までの第2光路のうち少なくとも一方の光路長を段階的に変更することによって、前記検出部が前記電磁波パルスの電界強度を検出するタイミングを段階的に変更する光路長変更部と、前記光路長を変更する変更範囲を設定する変更範囲設定部とを備え、前記変更範囲設定部は、前記光路変更部が、前記光路長を第1の変更範囲で段階的に変更した場合に、前記試料を透過または反射した前記電磁波パルスが前記検出部で検出されるときの前記光路長を含む前記光路長の範囲を、第2の変更範囲に設定し、前記光路長変更部は、前記光路長を第2の変更範囲で段階的に変更する際に、前記第1の変更範囲で変更する場合よりも、前記光路長を細かく変更する。
【0016】
また、第2の態様は、第1の態様に係る電磁波パルス測定装置において、前記変更範囲設定部は、前記試料を透過または反射した前記電磁波パルスの電界強度が検出され始めるときに対応する前記光路長を基準にして、前記変更範囲の境界値を設定する。
【0017】
また、第3の態様は、第1または2の態様に係る電磁波パルス測定装置において、前記変更範囲設定部は、前記試料内部で複数回反射した前記電磁波パルスの反射波の電界強度のピークが前記検出部にて検出されるときの前記光路長を基準にして、前記変更範囲の境界値を設定する。
【0018】
また、第4の態様は、第3の態様に係る電磁波パルス測定装置において、前記変更範囲設定部は、前記試料の屈折率と厚みとに基づいて、前記反射波の電界強度がピークとなるときの前記光路長を特定する。
【0019】
また、第5の態様は、第1から第4の態様までのいずれか1態様に係る電磁波パルス測定装置において、前記第1の変更範囲、または、前記第2の変更範囲で前記光路長が変更されたときに、前記検出部において検出された電界強度から、時間波形を構築する時間波形構築部と、前記時間波形構築部が構築した時間波形を表示する表示部とをさらに備える。
【0020】
また、第6の態様は、第1から第5の態様までのいずれか1態様に係る電磁波パルス測定装置において、前記電磁波パル
スが、周波数が0.01THz以上100THz以下のテラヘルツ波パルスを含む。
【発明の効果】
【0021】
第1の態様に係る電磁波パルス測定装置によると、第1の変更範囲で光路長を変更して電磁波パルスが検出される光路長の範囲を特定し、その光路長を含む第2の変更範囲に限定して、より高精度な電磁波パルス測定を行うことができる。したがって、電磁波パルスに対する試料の応答特性の測定を、高精度にかつ効率良く行うことができる。
【0022】
第2の態様に係る電磁波パルス測定装置によると、第2の変更範囲で光路長を変更して電界強度を検出する時に、試料を透過または反射した電磁波パルスを検出することができる。したがって、電磁波パルスのサンプリング頻度を高めることができる。
【0023】
第3の態様に係る電磁波パルス測定装置によると、反射波が検出される光路長については、第2の変更範囲からなるべく除外することができる。したがって、電磁波パルスの高精度な測定を効率良く行うことができる。
【0024】
第4の態様に係る電磁波パルス測定装置によると、試料の屈折率と厚みとに基づいて、複数回反射する反射波の電界強度のピーク値が検出されるときの光路長を算出することで、第2の変更範囲を設定することができる。
【0025】
第5の態様に係る電磁波パルス測定装置によると、時間波形が表示部に表示されることによって、検出結果を視覚的に把握することができる。
【0026】
第6の態様に係る電磁波パルス測定装置によると、テラヘルツ領域の電磁波パルスを測定に利用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0028】
<1. 実施形態>
<1.1. テラヘルツ波測定装置100の構成および機能>
図1は、実施形態に係るテラヘルツ波測定装置100の構成を示す図である。テラヘルツ波測定装置100(電磁波パルス測定装置)は、テラヘルツ波パルス(以下、単にテラヘルツ波とも称する。)を利用した、テラヘルツ時間領域分光法(THz−TDS)により、試料Wを検査するため。ここで、テラヘルツ波は、0.01THz以上100THz以下(特に0.1THz以上30THz以下)の任意の周波数帯の成分を有する電磁波である。
【0029】
図1に示したように、テラヘルツ波測定装置100は、レーザ光源11、照射部12、検出部13、遅延部14、移動機構15および制御部17を備えている。
【0030】
レーザ光源11は、パルス光(パルス光LP1)を放射する。レーザ光源11としては、例えば、フェムト秒パルスレーザが用いられる。パルス光は、例えば、中心波長が近赤外領域のうちの780〜830nm程度、周期が数kHzから数百MHz、パルス幅が、数十〜数百フェムト秒(例えば10〜150fsec)程度の直線偏光のパルス光とされる。フェムト秒ファイバーレーザが用いられる場合、波長は1〜1.5μm程度とされる。
【0031】
パルス光は、ビームスプリッタB1により2つに分割される。分割されたパルス光のうちの一方は、ミラーM1を経由してポンプ光(ポンプ光LP11)として照射部12に入射する。照射部12は、光スイッチ素子を備えている。該光スイッチ素子にポンプ光が照射されることにより、テラヘルツ波(テラヘルツ波LT1)が発生する。つまり、照射部12は、テラヘルツ波の発生部として機能する。発生したテラヘルツ波は曲面鏡M2,M3で構成される光学系によって集光され、試料Wに照射される。つまり、照射部12は、ポンプ光の照射に応じて、試料Wに向けてテラヘルツ波を照射する。試料Wを透過したテラヘルツ波は、曲面鏡M4,M5で構成される光学系によって集光され、検出部13に入射する。
【0032】
ビームスプリッタB1により分割されたパルス光のうちの他方は、プローブ光(プローブ光LP12)として遅延部14およびミラーM6,M7を経由し、検出部13に入射する。検出部13は、光スイッチ素子を備えている。光スイッチ素子に試料Wを透過したテラヘルツ波が照射された状態で、プローブ光LP12が光スイッチ素子に照射されると、光スイッチ素子に瞬間的にテラヘルツ波の電場強度に応じた電流が生じる。この電場強度に応じた電流は、I/V変換回路、A/D変換回路などを介してデジタル量に変換される。このようにして、検出部13は、プローブ光の照射に応じて、試料Wを透過したテラヘルツ波の電場強度を検出する。なお、本実施形態では、照射部12または検出部13において光スイッチ素子を利用しているが、その他の素子、例えば非線形光学結晶を利用することもできる。
【0033】
遅延部14は、ビームスプリッタB1から検出部13までのプローブ光LP12の到達時間を連続的に変更するための光学素子である。遅延部14は、プローブ光LP12をその入射方向に向けて折り返させる反射ミラー14Mと、該反射ミラー14Mをプローブ光LP12の入射方向に沿って移動させる移動ステージ141とを備えている。遅延部14は、制御部17の制御に基づいて移動ステージ141を駆動して反射ミラー14Mを直線的に移動させることにより、プローブ光LP12の光路長を精密に変更する。これにより、遅延部14は、テラヘルツ波が検出部13に到達する時間と、プローブ光LP12が検出部13へ到達する時間との時間差を変更する。遅延部14を駆動して、プローブ光LP12の光路長(レーザ光源11から検出部13までの第2光路の光路長)を変更するによって、検出部13がテラヘルツ波の電界強度を検出するタイミング(検出タイミング、または、サンプリングタイミング)を遅延させることができる。以上のように、本実施形態においては、遅延部14が光路長変更部を構成している。
【0034】
具体的に、例えば反射ミラー14MをビームスプリッタB1から15μm遠ざけた場合、プローブ光LP12の光路長は往復分である30μm延長されることとなる。光路長が30μm延長された場合、プローブ光LP12が検出部13に到達する時間は、光速cを秒速3.0x10
8mとすると、100fsecだけ遅延されることとなる。
【0035】
なお、遅延部14は、その他の方法でテラヘルツ波とプローブ光LP12の検出部13への到達時間を変更するようにしてもよい。例えば、電気光学効果を利用することができる。すなわち、印加する電圧を変化させることで屈折率が変化する電気光学素子を、遅延素子として用いてもよい。具体的には、特開2009-175127号公報に開示されている電気光学素子を利用することができる。
【0036】
また、本実施形態では、プローブ光LP12の光路長を変更させているが、ポンプ光LP11の光路長(レーザ光源11から照射部12までの第1光路の光路長)を変更するようにしてもよい。このような場合においても、検出部13が照射部12から出射されたテラヘルツ波を検出するタイミングを任意に遅延させることができる。
【0037】
移動機構15は、図示を省略するX−Yテーブルを備えている。移動機構15は、このX−Yテーブルにより、試料Wを保持した状態で、照射部12に対して試料Wを相対移動させる。テラヘルツ波測定装置100は、移動機構15により、試料Wを2次元平面内で任意の位置に移動させる。これにより、テラヘルツ波測定装置100は、試料Wの広い範囲にテラヘルツ波を照射することができる。
【0038】
なお、移動機構15の駆動機構は、X−Yテーブルに限定されるものではなく、試料Wを2次元平面上において移動させることができるのであれば、どのように構成されていてもよい。また、移動機構15は、オペレーターが手動で操作することにより、試料Wを移動させることができるように構成されていてもよい。また、試料Wを移動させる代わりに、または、試料Wを移動させるとともに、照射部12、曲面鏡M2〜M5および検出部13などを2次元平面内で移動できるようにしてもよい。これらの場合においても、試料Wの広い範囲について、テラヘルツ波を照射する行うことが可能となる。
【0039】
制御部17は、CPUおよびRAMなど備えた一般的なコンピュータとして構成されている。制御部17は、レーザ光源11、照射部12、検出部13、遅延部14、移動機構15に接続されており、これらの要素の動作を制御したり、これらの要素からデータを受け取ったりする。具体的に、制御部17は、検出部13からテラヘルツ波の電界強度に関するデータを受け取る。また、制御部17は、遅延部14の移動ステージに対して移動を指示したり、移動ステージに設けられたリニアスケールなどから移動距離などの反射ミラー14Mの位置に関するデータを受け取ったりする。
【0040】
また、テラヘルツ波測定装置100は、時間波形構築部21、屈折率取得部22、変更範囲設定部23を備えている。これらの各要素は、制御部17に接続されている。時間波形構築部21は、検出部13において検出される電場強度から、時間波形を構築する。詳細には、制御部17が遅延部14を制御することによって、相互に異なる複数の検出タイミングで電場強度が検出部13にて検出され、該データが制御部17に送られた後、時間波形構築部21にて時間波形が構築される。この時間波形の構築の詳細については後述する。
【0041】
屈折率取得部22は、テラヘルツ波の時間波形に基づいて、検査対象物である試料Wに関する屈折率を取得する。詳細には、屈折率取得部22は、試料Wが存在しない状態で検出されるテラヘルツ波(つまり、照射部12から出射されるテラヘルツ波LT1自体)の時間波形と、試料Wを透過したテラヘルツ波の時間波形とをそれぞれフーリエ変換することにより、周波数に関する振幅強度スペクトル、および、位相スペクトルを取得する。屈折率取得部22は、試料Wの厚さとこれらのスペクトル解析結果から、複素屈折率を算出し、その実部を試料Wの屈折率として取得する。なお、屈折率を算出する詳細な演算手法については、従来技術やそれに類似する技術を適宜利用することができる。なお、試料Wの屈折率が既知である場合など、屈折率を改めて取得する必要がない場合には、屈折率取得部22を省略してもよい。
【0042】
変更範囲設定部23は、プローブ光の光路長を変更するときの、変更範囲を設定する機能を備えている。テラヘルツ波測定装置100は、この変更範囲設定部23によって設定された範囲でプローブ光の光路長を段階的に変更しつつ、検出部13にて試料Wを透過したテラヘルツ波の電界強度を検出する。
【0043】
また、
図1に示したように、制御部17には、記憶部31、入力部32、および、各種画像を表示する表示部33が接続されている。記憶部31は、ハードディスクなどの記憶媒体で構成されており、各種データを保存することができる。入力部32は、操作者が各種データをテラヘルツ波測定装置100に対して入力するために操作するマウス、キーボード等の入力デバイスで構成されている。また、表示部33は液晶パネルなどで構成される。なお、表示部33をタッチパネルで構成することによって、表示部33が入力部32の機能の一部または全部を備えていてもよい。
【0044】
<ステップスキャン方式>
図2は、ステップスキャン方式によるテラヘルツ波の検出を説明するための図である。
図2において、横軸は時間を示し、縦軸はプローブ光LP12の光路長を示している。
図2に示した例では、測定中、反射ミラー14Mは、プローブ光LP12の光路長の変更範囲R1を走査範囲として、一定距離(=ΔR1/2)ずつステップ状にプローブ光LP12の光路長がL11〜L12の範囲で変化するように駆動される。そして反射ミラー14Mが移動する度に、プローブ光LP12の光路長がΔR1ずつ増大することとなる。反射ミラー14Mは、一定距離だけ移動して、その位置に一時的に停止し、さらに所要時間経過後に、再び一定距離だけ移動するという動作を繰り返す。この一時的に停止している間に、検出部13において電界強度が複数回検出され、その値が加算平均される。そして検出された電界強度に基づいて、時間波形構築部21が時間波形を構築することとなる。
【0045】
以上のように反射ミラー14Mが移動することで、プローブ光LP12の光路長が段階的に変更され、各光路長にあるときの電場強度が検出部13において検出(サンプリング)され、電界強度を示すデータが収集される。
【0046】
ここで、反射ミラー14Mが一回走査することで、プローブ光LP12の光路長がR1増大する。このとき、反射ミラー14Mを間欠的に停止させる距離の間隔(=ΔR1/2)が小さくすると、サンプリング頻度が増大するため、より高精細な時間波形を構築することができる。しかしながら、この場合、一回の走査時間が長くなるため、測定時間が長くなってしまう。一方、反射ミラー14Mを間欠的に停止させる距離の間隔(=ΔR1/2)が大きくすると、サンプリング回数が少なくなり、時間波形が粗くなる。しかしながら、一回の走査時間が短くなることで測定時間を短くすることができる。そこで、本実施形態では、精度を上げたい部分(主にテラヘルツ波が検出される部分)で高精度な時間波形を構築するように、反射ミラー14Mの変更範囲などを設定している。この詳細については後述する。
【0047】
<1.2. テラヘルツ波測定装置100の動作>
図3は、照射部12から出射されるテラヘルツ波(参照波)を解析するときの流れ図である。参照波は、照射部12から出射されたテラヘルツ波LT1であり、試料Wがセットされていない状態で検出部13において検出される。この参照波の解析は、主に試料Wの屈折率を算出するために行われる。
【0048】
テラヘルツ波測定装置100は、参照波の解析を開始すると、照射部12からテラヘルツ波が出射されている状態で、遅延部14を制御することにより、プローブ光LP12の光路長を段階的に変更する(ステップスキャン)。そしてテラヘルツ波測定装置100は、検出部13により、光路長毎の電界強度を検出する(ステップS11)。
【0049】
テラヘルツ波測定装置100は、ステップS11において取得された電界強度から、参照波の復元を行う(ステップS12)。具体的には、ステップS11において取得されたデータから、時間波形構築部21が、横軸を時間、縦軸を電界強度とする参照波の時間波形を構築する。
【0050】
また、テラヘルツ波測定装置100は、復元した参照波について、フーリエ変換を行うことによって、周波数スペクトルを取得する(ステップS13)。テラヘルツ波測定装置100は、ステップS12、ステップS13において取得したデータを記憶部31に保存する(ステップS14)。
【0051】
なお、ステップS13において取得された周波数スペクトルデータは、屈折率取得部22により試料Wの屈折率が取得される際に利用される。以上のようにして、参照波の解析が実施される。次に、試料Wを透過する透過波の解析について説明する。
【0052】
図4は、試料Wを透過したテラヘルツ波(透過波)を解析するときの流れ図である。透過波を解析する場合、試料Wが所定位置にセットされ、試料の厚み(L)や照射部12から出射されるテラヘルツ波のパルス幅(P)などが入力される(ステップS21)。
【0053】
次に、テラヘルツ波測定装置100は、照射部12からテラヘルツ波が出射されている状態で、遅延部14を制御することにより、プローブ光LP12の光路長を段階的に変更する(ステップスキャン)。そしてテラヘルツ波測定装置100は、検出部13により、光路長毎の電界強度を検出する(ステップS22)。このとき、
図2に示したように、プローブ光LP12の光路長が変更範囲R1で段階的に変更される(つまり、光路長L11から光路長L12まで一定光路長ΔR1ずつ変更される)ように、遅延部14の反射ミラー14Mが走査するものとする。
【0054】
ステップS22において段階的に光路長を変更するときの変更量は、ステップS21において入力されたパルス幅を基準にして設定されるようにしてもよい。例えば、パルス幅が500fsecでパルス幅の1/5の時間間隔にて透過波を検出するように設定することができる。この場合、100fsec毎ごとにサンプリングすることになるため、反射ミラー14Mは、15μm(=3.0×10
8(m/sec)×100(fsec)/2)の移動と停止とを繰り返し行うこととなる。
【0055】
テラヘルツ波測定装置100は、ステップS22において取得された電界強度から、透過波の復元を行う(ステップS23)。具体的には、時間波形構築部21が、ステップS22において取得したデータに基づき、横軸を時間、縦軸を電界強度とする透過波の時間波形を構築する。
【0056】
また、テラヘルツ波測定装置100は、復元した透過波について、フーリエ変換を行うことによって、周波数スペクトルを取得する(ステップS24)。テラヘルツ波測定装置100は、屈折率取得部22によって、ステップS13において取得した参照波の周波数スペクトルとステップS24において取得された透過波の周波数スペクトルとに基づいて、試料Wの屈折率nを取得する。
【0057】
次にテラヘルツ波測定装置100は、ステップS23において、透過波の電界強度が検出されるときの各光路長を抽出し、抽出された各光路長を含むように、プローブ光LP12の光路長の変更範囲を設定する(ステップS25)。この変更範囲の設定は、変更範囲設定部23によって行われる。テラヘルツ波測定装置100は、ステップS25において設定された変更範囲に基づいて、反射ミラー14Mを走査させてプローブ光LP12の光路長を段階的に変更させつつ、検出部13において電場強度を検出する(ステップS26)。ステップS25およびステップS26の工程については、
図5を参照しつつ説明する。
【0058】
図5は、プローブ光LP12の光路長の変更範囲を設定する方法を説明するための図である。参照波41は
図3のステップS11において検出されるテラヘルツ波に相当し、透過波42は
図4のステップS22において検出されるテラヘルツ波に相当するものである。また、反射波43は、後述するように試料Wの内部において試料Wの裏面部分と表面部分とにおいて反射を繰り返して試料Wを透過したテラヘルツ波に相当するものである(
図7参照)。また、
図5中、横軸は時間を示しており、縦軸は電界強度を示している。また、
図5においては、サンプリングが行われるタイミングを、参照波41、透過波42または反射波43とは別の時間軸上に示している。
【0059】
検出部13において参照波41が検出される時間は、透過波42が試料Wを透過する場合よりも、検出部13にて早く検出される。この時間差ΔTは、試料Wを透過する時間分に相当するものであり、光速をc、試料Wの屈折率をn、試料の厚みをLとすると、ΔTは、以下の式1で表すことができる。
【0060】
ΔT={L・(n−1)}/c ・・・ (式1)
【0061】
ステップS22の測定に基づいて、透過波42が検出されるときのプローブ光LP12の光路長が抽出される。このステップS22の測定は、サンプリングの時間間隔が比較的粗い測定となっている。これに対し、ステップS26では、ステップS22において、透過波42が検出される光路長の範囲(期間ΔSに相当する。)について、サンプリングの時間間隔をより細かくして測定が行われる。したがって、ステップS26では、プローブ光LP12が検出部13に到達するタイミングが、ステップS22に比べて細かく変更される。以下の説明においては、ステップS22の測定を「粗測定」と称し、ステップS26の測定を「精密測定」と称する。
【0062】
図6は、ステップスキャン方式による精密測定を説明するための図である。
図6に示したように、精密測定では、プローブ光LP12の光路長が、光路長L21から光路長L22の範囲(変更範囲R2)で、一定距離ΔR2ずつ段階的(ステップ状)に変更されるように、反射ミラー14Mが走査する。また、
図6に示したように、精密測定における光路長の変更ピッチ(=ΔR2)は、粗測定の場合の変更ピッチ(=ΔR1)よりも小さくなっている。また、変更範囲R2は、粗測定におけるプローブ光LP12の光路長の変更範囲R1に含まれている。また、変更範囲R1,R2の境界値である光路長L11,L12,L21,L22の関係は、L11<L21<L22<L12となっている。ここで、光路長L21,L22の設定方法について、以下に説明する。
【0063】
まず光路長L21については、透過波42が検出され始める直前のタイミングに対応する光路長とされる。つまり
図5に示したように、透過波42の電界強度が略ゼロに収束するとき(時間t0)のプローブ光LP12の光路長L21が、精密測定時における光路長の変更範囲R2の境界値とされる。この光路長L21からプローブ光LP12の光路長を変更させていくことで、精密測定において透過波42の略全てを漏らさずに検出することができる。
【0064】
また、もう一つの境界値である光路長L22については、試料W内部で2回以上反射したテラヘルツ波(反射波)の電界強度のピーク(最大値)が検出部13にて検出されるときよりも早いタイミングに対応するプローブ光LP12の光路長とされる。ここで、反射波43について
図7を参照しつつ説明する。
【0065】
図7は、試料Wに照射されたテラヘルツ波を示す概念図である。
図7は、試料Wの断面の一部を図示したものであり、上側から下側に向けて、照射部12から出射されたテラヘルツ波が照射されているものとする。透過波42は、試料Wの内部を反射することなく透過したものであり、反射波43は、試料Wの下面と上面とで反射した後、下側に透過したものである。ここで、光速をc、試料Wの屈折率をn、試料Wの厚さをLとすると、透過波42が検出部13に到達する到達時間と、反射波43が検出部13に到達する到達時間との時間差ΔPは以下の式で表される。
【0066】
ΔP=2・L・n/c ・・・ (式2)
【0067】
ここで、透過波42の電界強度がピークとなる時間t1は、ステップS22における粗測定の結果に基づいて構築された時間波形から特定することが可能である。つまり、
図5に示したように、透過波42の電界強度がピークとなる時間t1に、上記時間差ΔPを加算することによって、反射波43の電界強度がピークとなる時間t2を算出することができる。ステップS25においては、この反射波43の電界強度がピークになる時間t2よりも早い時間t3に対応する光路長L22が、上記変更範囲の境界値とされる。このように光路長の変更範囲R2を設定することによって、反射波43が精密測定の対象から除外されるため、高精度なテラヘルツ波の測定を効率的に行うことができる。
【0068】
なお、上記のようにして精密検査における光路長の変更範囲R2の境界値を取得した後、さらに所要の割合(例えば、1.2倍)でその変更範囲R2を拡大することによって、変更範囲R2にマージンを設けるようにしてもよい。これにより、精密検査において、より確実に透過波42の電界強度を検出することができる。
【0069】
なお、上述した変更範囲R2の設定は、変更範囲設定部23が自動で行うようにしてもよいが、オペレーターの操作入力に基づいて行われるようにしてもよい。例えば、ステップS22で取得された電界強度から、時間波形構築部21が構築した時間波形を表示部33に表示すれば、オペレーターが、透過波42を検出できる光路長を把握することができる。そこで、オペレーターが入力部32を介して、透過波41が検出される光路長の範囲を変更範囲R2に設定できるようにしてもよい。
【0070】
図4に戻って、テラヘルツ波測定装置100は、ステップS26の精密測定において取得した電界強度のデータと、ステップS22の粗測定において取得した電界強度のデータとを合成する(ステップS27)。
【0071】
図8は、粗測定と精密測定とで取得された電界強度を合成した合成データ50の一例を示す図である。この合成データ50においては、粗測定において反射ミラー14Mを15μm(ΔR1/2に相当する。)ずつ移動させており、精密測定において反射ミラー14Mを1μm(ΔR2/2に相当する。)ずつ移動させている。また、粗測定において反射ミラー14Mの移動を開始させた時点を、時間0.000psec(ピコ秒)として、プローブ光LP12の検出部13への遅延時間を示している。この合成データ50によると、透過波42の電界強度が検出される時間2.2000psec〜2.800psec付近において精密測定による電界強度の検出結果が採用されており、その他の時間については、粗測定において取得された電界強度が採用されている。
【0072】
以上のように粗測定と精密測定とで取得された電界強度が合成されることにより、試料Wの物性を主に反映する透過波42の電界強度については、サンプリング時間間隔が比較的細かいデータとなっており、重要度が相対的に低い部分については、サンプリング時間間隔が比較的粗いデータとなる。したがって、ステップスキャンを行うことにより、測定時間を無駄に増やすことなく、効率良くテラヘルツ波の測定精度を向上させることができる。
【0073】
図4に戻って、データを合成すると、テラヘルツ波測定装置100は、合成したデータに対してフーリエ変換を行うことにより、周波数スペクトルを取得して、該周波数スペクトルを表示部33に表示する。これにより、操作者は、試料Wのテラヘルツ波に関する周波数特性を視覚的に捉えることができる。なお、合成されたデータから、時間波形構築部21が時間波形を構築したものを表示部33に表示するようにしてもよい。これにより、オペレーターが時間波形を視覚的に捉えることができる。
【0074】
なお、
図5に示したように、参照波41についても、ステップS26にて説明した精密測定が行われてもよい。つまり、比較的粗く光路長を段階的に変更して、参照波41が検出されるときの光路長を抽出する(粗測定)。そして、抽出された各光路長を含むように光路長の変更範囲が設定され、その変更範囲で光路長を比較的細かく段階的に変更することで、参照波41の電界強度を詳細に検出する(精密測定)。これにより、参照波41についても、高精度な測定を効率良く行うことができる。参照波41の測定精度を向上することによって、試料Wの屈折率nを高精度に求めることができる。
【0075】
本実施形態に係るテラヘルツ波測定装置100によると、精密測定では、プローブ光LP12の光路長の変更ピッチ(=ΔR2)は比較的短いため、測定に時間がかかってしまが、この光路長の変更範囲を限定してやることで、精密測定を必要な部分に絞りこんで行うことができる。したがって、ラピッドスキャン方式に比べて装置コストの増大を抑制でき、かつ、高精度なテラヘルツ波の測定を効率良く行うことができる。
【0076】
図9は、試料Wの広い範囲について検査するときの流れ図である。試料Wの様々な領域について検査を行う場合、テラヘルツ波測定装置100は、移動機構15を駆動することによって試料Wを所要位置に移動させる(ステップS31)。そしてテラヘルツ波測定装置100は、ステップS26と同様の精密測定を行う(ステップS32)。これにより、試料Wを透過した透過波の電界強度が取得される。なお、ステップS32において、
図4に示したステップS22〜ステップS27までが実行されることによって、粗測定と精密測定の測定結果を合成した合成データが取得されるようにしてもよい。
【0077】
次に、テラヘルツ波測定装置100は、試料Wの測定対象領域の全てについて測定が完了したかどうか判断する(ステップS33)。未測定の部分がある場合(ステップS33においてNo)、テラヘルツ波測定装置100は、ステップS31に戻って試料Wを移動させ、次の測定対象領域について測定を行う。なお、測定対象領域が連続して設定されているような場合、テラヘルツ波測定装置100が、試料Wを主走査方向および副走査方向に移動させて2次元走査するようにすればよい。
【0078】
全ての検査対象領域について測定を完了した場合(ステップS33においてYes)、テラヘルツ波測定装置100は各領域毎に、時間波形を構築したり、または、フーリエ変換によって周波数スペクトルを取得したりする。そして時間波形、または、周波数スペクトルの結果を表示部33に表示する(ステップS34)。
【0079】
以上のように、テラヘルツ波測定装置100においては、移動機構15によって試料Wを移動させることができるため、広い範囲を測定することが可能である。
【0080】
<2. 変形例>
以上、実施形態について説明してきたが、本発明は上記のようなものに限定されるものではなく、様々な変形が可能である。
【0081】
例えば、上記実施形態では、照射部12から出射したテラヘルツ波を試料Wに照射し、透過した透過波42を検出部13にて検出するようにしている。しかしながら、テラヘルツ波を照射した試料Wの面側に反射してくるテラヘルツ波を検出部13が検出するようにしてもよい。
【0082】
また、上記実施の形態に示した時間波形構築部21、屈折率取得部22および変更範囲設定部23は、CPUが所定のプログラムにしたがって動作することによりソフトウェア的に実現されるようにしてもよいし、これらの機能の一部または全部を専用の論理回路などでハードウェア的に実現してもよい。
【0083】
さらに、上記各実施形態および各変形例で説明した各構成は、相互に矛盾しない限り適宜組み合わせることができる。