(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5762219
(24)【登録日】2015年6月19日
(45)【発行日】2015年8月12日
(54)【発明の名称】シールド電線の編組シールド層とドレイン線との接続方法、及び、接続構造
(51)【国際特許分類】
H01R 13/648 20060101AFI20150723BHJP
【FI】
H01R13/648
【請求項の数】3
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2011-188799(P2011-188799)
(22)【出願日】2011年8月31日
(65)【公開番号】特開2013-51141(P2013-51141A)
(43)【公開日】2013年3月14日
【審査請求日】2014年7月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006895
【氏名又は名称】矢崎総業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100060690
【弁理士】
【氏名又は名称】瀧野 秀雄
(74)【代理人】
【識別番号】100108017
【弁理士】
【氏名又は名称】松村 貞男
(74)【代理人】
【識別番号】100134832
【弁理士】
【氏名又は名称】瀧野 文雄
(74)【代理人】
【識別番号】100165308
【弁理士】
【氏名又は名称】津田 俊明
(72)【発明者】
【氏名】花▲崎▼ 恒
【審査官】
前田 仁
(56)【参考文献】
【文献】
特開2006−156299(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01R 13/648 、4/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の導線素線から構成されたドレイン線と、前記ドレイン線の導線素線よりも細い導線素線を複数引き揃えて構成された複数本の導線束が編組されて形成された編組シールド層が最外層として設けられたシールド電線の該編組シールド層と、を電気的に接続するシールド電線の編組シールド層とドレイン線との接続方法であって、
前記シールド電線の端部近くに段部を介して拡径部を有するリング状のシールドターミナルを外挿するシールドターミナル外挿工程、
前記シールド電線の、前記シールドターミナルより端部側の前記編組シールド層を折り返して該シールドターミナルの外周面に、前記編組シールド層の端部が前記シールドターミナルの前記段部に位置するように積層するシールド層折返し積層工程、
前記編組シールド層が積層された外側面の一部に前記ドレイン線を積層するドレイン線積層工程、
前記編組シールド層が積層された外側面と前記ドレイン線が積層された部分とにシールドリングを前記シールドターミナルの前記段部に達するまで外挿するシールドリング外挿工程、そして、
前記ドレイン線が積層された部分に該当する前記シールドリングの部分を該シールドリングの外周から該シールドリングの軸線方向に向かって加圧し該加圧された部分を凹状に変形させる加締め工程を順次備えたことを特徴とするシールド電線の編組シールド層とドレイン線との接続方法。
【請求項2】
前記加締め工程を、前記ドレイン線の前記導線素線を変形させ、かつ、前記編組シールド層の導線素線を変形させない加圧力で行うことを特徴とする請求項1に記載のシールド電線の編組シールド層とドレイン線との接続方法。
【請求項3】
複数の導線素線から構成されたドレイン線と、前記ドレイン線の導線素線よりも細い導線素線を複数引き揃えて構成された導線束が複数本編組されて形成された編組シールド層が最外層として設けられたシールド電線の該編組シールド層と、を電気的に接続するシールド電線の編組シールド層とドレイン線との接続構造であって、
前記シールド電線の端部近くに段部を介して拡径部を有するリング状のシールドターミナルが外挿され、
前記シールド電線の、前記シールドターミナルより端部側の前記編組シールド層が折り返されて、前記編組シールド層の端部が前記シールドターミナルの前記段部に位置するように該シールドターミナルの外周面に積層され、
前記編組シールド層が積層された外側面の一部に前記ドレイン線が積層され、
前記編組シールド層が積層された外側面と前記ドレイン線が積層された部分とにシールドリングが前記シールドターミナルの前記段部に達するまで外挿され、
前記ドレイン線が積層された部分に該当する前記シールドリングの部分が該シールドリングの外周から該シールドリングの芯線方向に凹状に加圧変形され、
前記シールドターミナルと前記シールドリングとの間に挟まれた部分の前記ドレイン線の素線導体が加圧変形され、かつ、
前記シールドターミナルと前記ドレイン線の素線導体との間に前記編組シールド層の素線導体が係止されていることを特徴とするシールド電線の編組シールド層とドレイン線との接続構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気自動車等に用いられるモータなどの電気機器との接続に用いられるシールド電線の編組シールド層と、アース接続するためのドレイン線との接続方法に関する。
【背景技術】
【0002】
導体から外部への電磁波漏洩を防止し、あるいは、外部からの導体への電磁波の影響を排除するために、導線素線を複数引き揃えて構成した導線束をさらに複数本編組して形成された編組シールド層が最外層として設けられたシールド電線が用いられる。
【0003】
これらシールド電線ではそのシールド効果を得るためには通常、編組シールド層を電気的にアース、すなわち、接地する。このために、接地線、すなわちドレイン線3と編組シールド層1aと
図3に示すように電気的にする。
図3の例では半田付け(符号5は半田付け部分を示す)によって接続されている(特許文献1、特許文献2)。
【0004】
このような半田付け箇所では、特に半田付けの温度が高く、半田付けに要する時間が長い場合に、いわゆる、銅喰われが発生、すなわち、半田付け部分の銅が溶解して、最終的に断線してしまうために、信頼性に乏しいと云う問題があるうえに、作業者が半田付け作業に熟練している必要がある。
【0005】
一方、特開2007−184172公報(特許文献1)では、編組シールド層を引き出し、その末端に直接、アース端子を圧着接続することにより半田付けを不要としているが、この技術ではシールドで保護されていない部分が大きくなってしまい、その結果、シールド性能が低下すると云う問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−184172公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記した従来の問題点を改善する、すなわち、半田付けなどの習熟が必要な作業が不要で、編組シールド層を引き出して直接アース端子を圧着接続したときに問題となる非シールド部分範囲の増大なしに、容易に実施でき、かつ、信頼性の高い接続が可能なシールド電線の編組シールド層とドレイン線との接続方法、及び、接続構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のシールド電線の編組シールド層とドレイン線との接続方法は上記課題を解決するため、請求項1に記載の通り、複数の導線素線から構成されたドレイン線と、前記ドレイン線の導線素線よりも細い導線素線を複数引き揃えて構成された複数本の導線束が編組されて形成された編組シールド層が最外層として設けられたシールド電線の該編組シールド層と、を電気的に接続するシールド電線の編組シールド層とドレイン線との接続方法であって、前記シールド電線の端部近くに
段部を介して拡径部を有するリング状のシールドターミナルを外挿するシールドターミナル外挿工程、前記シールド電線の、前記シールドターミナルより端部側の前記編組シールド層を折り返して該シールドターミナルの外周面に
、前記編組シールド層の端部が前記シールドターミナルの前記段部に位置するように積層するシールド層折返し積層工程、前記編組シールド層が積層された外側面の一部に前記ドレイン線を積層するドレイン線積層工程、前記編組シールド層が積層された外側面と前記ドレイン線が積層された部分とにシールドリングを
前記シールドターミナルの前記段部に達するまで外挿するシールドリング外挿工程、そして、前記ドレイン線が積層された部分に該当する前記シールドリングの部分を該シールドリングの外周から該シールドリングの軸線方向に向かって加圧し該加圧された部分を凹状に変形させる加締め工程を順次備えたことを特徴とするシールド電線の編組シールド層とドレイン線との接続方法である。
【0009】
本発明のシールド電線の編組シールド層とドレイン線との接続方法は請求項2に記載の通り、請求項1に記載のシールド電線の編組シールド層とドレイン線との接続方法において、前記加締め工程を、前記ドレイン線の前記導線素線を変形させ、かつ、前記編組シールド層の導線素線を変形させない加圧力で行うことを特徴とする。
【0010】
本発明のシールド電線の編組シールド層とドレイン線との接続構造は、請求項3に記載のとおり、複数の導線素線から構成されたドレイン線と、前記ドレイン線の導線素線よりも細い導線素線を複数引き揃えて構成された導線束が複数本編組されて形成された編組シールド層が最外層として設けられたシールド電線の該編組シールド層と、を電気的に接続するシールド電線の編組シールド層とドレイン線との接続構造であって、前記シールド電線の端部近くに
段部を介して拡径部を有するリング状のシールドターミナルが外挿され、前記シールド電線の、前記シールドターミナルより端部側の前記編組シールド層が折り返されて
、前記編組シールド層の端部が前記シールドターミナルの前記段部に位置するように該シールドターミナルの外周面に積層され、前記編組シールド層が積層された外側面の一部に前記ドレイン線が積層され、前記編組シールド層が積層された外側面と前記ドレイン線が積層された部分とにシールドリングが
前記シールドターミナルの前記段部に達するまで外挿され、前記ドレイン線が積層された部分に該当する前記シールドリングの部分が該シールドリングの外周から該シールドリングの芯線方向に凹状に加圧変形され、前記シールドターミナルと前記シールドリングとの間に挟まれた部分の前記ドレイン線の素線導体が加圧変形され、かつ、前記シールドターミナルと前記ドレイン線の素線導体との間に前記編組シールド層の素線導体が係止されていることを特徴とするシールド電線の編組シールド層とドレイン線との接続構造である。
【発明の効果】
【0011】
本発明のシールド電線の編組シールド層とドレイン線との接続方法によれば、容易に実施でき、信頼性の高い接続が可能であり、さらに、最終的にシールドリングに凹部が形成されるので、加工の終了を視認によりきわめて容易に判定できる。
【0012】
本発明のシールド電線の編組シールド層とドレイン線との接続構造は、信頼性の高い接続が可能であり、さらに、最終的にシールドリングに凹部が形成されるので、加工の終了を視認によりきわめて容易に判定できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は本発明のシールド電線の編組シールド層とドレイン線との接続方法を説明するためのモデル図である。
【
図2】
図2はシールド電線の編組シールド層とドレイン線との接続方法によって編組シールド層とドレイン線とが接続されたときの状態の一例を示すモデル図である。
【
図3】従来の編組シールド層とドレイン線との接続方法を示すモデル図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明のシールド電線の編組シールド層とドレイン線との接続方法を、図面を用いて説明する。
【0015】
図1(a)には編組シールド層1aをドレイン線と接続するシールド電線1の一端付近をモデル的に示す。
【0016】
シールド電線1の最外層に設けられた編組シールド層1aはこの例では後述するドレイン線を構成する導線素線よりも細い導線素線(本例では外径0.24mm。材質は、金属メッキ繊維)を複数(この例では80本)引き揃えて構成された導線束が複数本編組されて形成されている。
【0017】
このシールド電線1の端部から
図1(b)に側面図と正面図をモデル的に示したシールドターミナル2を外挿する(このときのモデル側面図とモデル側面図のAAにおけるモデル断面図とを
図1(c)に示す)。シールドターミナル2はリング部2aと、リング部2aと段部2a1を介して接続されかつリング部2aよりも拡径された拡径部2bとから構成されている。
【0018】
拡径部2bの内側面にはリング部2aの内側面よりも内径が拡径された内部拡径部2cが形成されており、内部拡径部2cにより拡径部2b側からシールド電線1にシールドターミナル2が外挿される際に作業が容易かつ確実となり、そして、この外装作業の際での編組シールド層1aの不要なめくれの発生が防止されている。
【0019】
図1(c)にモデル的に示した、シールド電線1の端部近くにリング状のシールドターミナル2を外挿するシールドターミナル外挿工程ののち、
図1(d)にモデル側面図とモデル側面図のAAにおけるモデル断面図とに示すようにシールド電線1の、シールドターミナル2より端部側の編組シールド層1aを折り返してシールドターミナル2の外周面に積層するシールド層折返し積層工程を行う。
【0020】
この例ではシールドターミナル2には拡径部2bが設けられており、シールドターミナル2のリング部2a全体に編組シールド層1aが積層される、すなわち、編組シールド層1aの端部がシールドターミナル2の段部2a1に位置するように、前記のシールドターミナル外挿工程でシールドターミナル2の外挿位置を決定する。
【0021】
なお、
図1(c)中、符号1bはシールド電線1の編組シールド層1aで覆われていた電線本体部である。
【0022】
次いで、編組シールド層1aが積層された外側面の一部にドレイン線3を積層するドレイン線積層工程を行う。この例のドレイン線3は、上述した編組シールド層1aを構成する素線導体よりも細い素線導体(本例では外径0.024mm。材質は、金属メッキ繊維)80本を撚り合わされて構成される。このドレイン線積層工程では、ドレイン線3の末端部分を一部、撚り戻し、ドレイン線3を積層した部分が積層しない部分に対して著しく太くならないようにすることがドレイン線3と編組シールド層1aとの電気接触性、及び、この電気接触の耐久性が高まるので好ましい。
【0023】
次いで、編組シールド層1aが積層された外側面とドレイン線3が積層された部分とにシールドリング4を外挿するシールドリング外挿工程を行う。
【0024】
図1(f)にシールドリング4の正面図及び部分断面図をそれぞれモデル的に示す。この例におけるシールドリング4の内径は編組シールド層1aが積層された外側面とドレイン線3が積層された部分との外径よりも太く、かつ、シールドターミナル2の拡径部2bの外径よりも細く、また、シールドリング4の長さは、シールドターミナル2のリング部2aの長さと等しくなっており、この工程では、シールドリング4はシールドターミナル2の段部2a1に達するまで外挿される(
図1(g)参照)。
【0025】
そして、最終工程として、
図2にモデル断面図とドレイン線3部分を拡大した拡大モデル断面図とを示したように、ドレイン線3(その素線導体3a)が積層された部分に該当するシールドリング4の部分をシールドリング4の外周からシールドリング4の軸線方向に向かって加圧し該加圧された部分を凹状に変形させる(インデントを形成する)加締め工程を行う。
【0026】
この加締め工程では、
図2の拡大モデル断面図に示したようにドレイン線3の導線素線3aを変形させ、かつ、編組シールド層1aの導線素線を変形させない加圧力で行うことにより、高い接続強度が得られ、接続抵抗が低い、良好な接続状態が得られる。
【0027】
編組シールド層を構成する素線導体は細いために、応力が一点に集中すると切れてしまう。しかし、上記構成によれば、加締め工程時には、シールドターミナルとシールドリングドレイン線との間に挟まれた部分で、編組シールド層の素線導体よりも太いドレイン線の素線導体にまず加締め力が加わり、ドレイン線の素線導体の径形状が変形し、かつ、シールドターミナルとドレイン線の素線導体との間に前記編組シールド層の素線導体が係止された状態で接続されるために、上記のような優れた接続状態が得られる。
【0028】
さらに、上述のようにドレイン線3(その素線導体3a)が積層された部分にインデントを形成することにより、接続強度をさらに高めることができる。このようなインデントを形成する加締めは、六角加締め(
図2に例を示す)、あるいはスウェージングなどにより可能となる。
【符号の説明】
【0029】
1 シールド電線
1a 編組シールド層
1b 電線本体部
2 シールドターミナル
2a リング部
2a1 段部
2b 拡径部
2c 内部拡径部
3 ドレイン線
3a ドレイン線の素線導体
4 シールドリング