(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5762272
(24)【登録日】2015年6月19日
(45)【発行日】2015年8月12日
(54)【発明の名称】車両用天井材
(51)【国際特許分類】
B60R 13/02 20060101AFI20150723BHJP
【FI】
B60R13/02 A
【請求項の数】1
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2011-279999(P2011-279999)
(22)【出願日】2011年12月21日
(65)【公開番号】特開2013-129308(P2013-129308A)
(43)【公開日】2013年7月4日
【審査請求日】2013年4月25日
【審判番号】不服2014-14216(P2014-14216/J1)
【審判請求日】2014年7月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】000124454
【氏名又は名称】河西工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100144048
【弁理士】
【氏名又は名称】坂本 智弘
(72)【発明者】
【氏名】須藤 憲一
【合議体】
【審判長】
和田 雄二
【審判官】
氏原 康宏
【審判官】
平田 信勝
(56)【参考文献】
【文献】
特開2003−053758(JP,A)
【文献】
特開2001−158306(JP,A)
【文献】
実開昭64−011721(JP,U)
【文献】
特開2011−104887(JP,A)
【文献】
特開2008−062930(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 13/02
B29D 9/00
B32B 1/00-35/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、前記基材の表面側に設けられる補強用の第1繊維層と、前記第1繊維層の表面に付着された第1接着剤と、前記第1接着剤により前記第1繊維層に接着される車室内の天井面を形成する表皮層と、前記基材の裏面側に設けられる補強用の第2繊維層と、前記第2繊維層の表面に付着させた第2接着剤と、前記第2接着剤により前記第2繊維層に接着される赤外線反射層と、を有する車両用天井材であって、
前記赤外線反射層がベースフィルムに0.03〜0.09μmのアルミニウムの蒸着層を形成したアルミ蒸着フィルムで構成されており、
前記アルミ蒸着フィルムには、前記蒸着層を被うように、5〜25μmの厚さのポリエステル系樹脂(PET)又はポリプロピレン系樹脂からなる透明の保護層がラミネート加工されており、
前記第1接着剤および前記第2接着剤がイソシアネートの湿気硬化型接着剤であることを特徴とする車両用天井材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のルーフの内側に装着される車両用天井材に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の車両用天井材として、たとえば下記特許文献1に開示されているように、基材の表面側に表皮層を設け、基材の裏面側に裏面層を設けた車両用天井材が知られている。
【0003】
すなわち、
図6に示すように、車両用天井材10は、ウレタン製の基材11と、この基材11を挟むように配設される表面側繊維層12および裏面側繊維層13と、表面側繊維層12の表面に設けられ車室の天井面を形成する表皮層14と、裏面側繊維層13の裏面に設けられる裏面層15と、を積層して構成されている。
【0004】
車両用天井材10のうち、基材11、表面側繊維層12、裏面側繊維層13、表皮層14は、通気性の材料で構成される。このため、裏面層15を非通気性の材料で構成することにより、車室内から車両用天井材10の裏側への空気の流れを止め、表皮層14の表面に埃等が付着することを防止している。
【0005】
このような車両用天井材10の製造方法を
図7に基づいて説明する。なお、
図7では、成形素材10’の向きに合わせ、上位に表皮層14を配置させ、下位に裏面層15を配置させて示している。
【0006】
まず、
図7(a)に示すように、基材11、表面側繊維層12、裏面側繊維層13、表皮層14、裏面層15を積層させて、成形素材10’を用意する。成形素材10’のうち表面側繊維層12および裏面側繊維層13のそれぞれの表裏面には、予め、接着剤17が全面に亘って塗布されている。次に、
図7(b)に示すように、成形素材10’を上型41および下型42で挟んでホットプレス成形を行う。このとき、表皮層14の裏面を表面側繊維層12の表面に接着し、裏面層15の表面を裏面側繊維層13の裏面に接着する。これにより、
図6に示すように、全ての層を一体化して所定形状の車両用天井材10を得る。
【0007】
なお、本発明に関連のある技術としてはたとえば下記特許文献2に開示されるものがある。下記特許文献2には、基材およびルーフパネル側に向けて取り付けられる赤外線反射層から構成され、ルーフパネルの上から太陽光が入射しても、熱は赤外線反射層で遮蔽されるようにした自動車用内装材が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2004-162659号公報
【特許文献2】特開2001-158306号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1に示した車両用天井材10において、非通気性の材料からなる裏面層15をたとえばアルミ蒸着膜(以下、アルミ蒸着フィルムと称する)で構成し、このアルミ蒸着フィルムを赤外線反射膜として機能させ、これによりルーフパネル側からの熱を遮蔽するように構成した。この場合、熱サイクル試験によって、アルミ蒸着フィルムの基材11(正確には裏面側繊維層13)に対する剥がれが生じ易くなる不都合が生じることが判明した。
【0010】
このような現象は、アルミ蒸着フィルムにはアルミ蒸着の際にピンホールあるいは亀裂が生じており、作業者の手に触れた箇所において皮脂等が該ピンホールあるいは亀裂の部分に入り込み、熱サイクル試験によって、基材11(正確には裏面側繊維層13)に対する接着強度の低下を助長させるからであると考えられる。
【0011】
それ故、本発明は、このような事情に基づいてなされたものであり、その目的は、基材の表面に形成された赤外線反射膜を該基材から剥がれ難く構成した車両用天井材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
このような目的を達成するために、本発明は、赤外線反射層の基材と反対側の表面において樹脂からなる透明の保護膜を形成するように構成したものである。この場合、保護膜は、赤外線反射層の赤外線反射効率を低下させないために透明性が高く、かつ、ホットプレスの際に高温(130〜150℃)となる型に接着してしまうことのない成形性の良好な材料で構成することが必要となる。このような保護膜の材料としては、たとえばポリエステル系樹脂(PET)、あるいはポリプロピレン系樹脂(PP)が好ましいことを見出した。また、保護膜の厚さとして、5〜25μmの範囲とすることが好ましいことを見出した。保護膜の厚さが5μmより小さい場合は該保護膜の剥がれが生じ易く、25μmより大きい場合は該保護膜の赤外線透過率(60%以上は必要)が悪化してしまうからである。
【0013】
このように構成した車両用天井材は、たとえばアルミ蒸着フィルムからなる赤外線反射層にたとえピンホールあるいは亀裂が生じていても、その表面は保護膜によって被われ、この保護膜によって、作業者の手に触れた箇所における皮脂等がピンホールあるいは亀裂の部分に入り込むのを回避することができる。このため、熱サイクル試験によって、赤外線反射層の基材に対する接着強度の低下を防止でき、該基材から剥がれ難く構成できるようになる。
【0014】
なお、保護膜は、ホットプレスの際の熱(130〜150℃)によって、赤外線反射層にいわゆるラミネート加工させることにより、保護膜の基材に対する接着力が赤外線反射層の基材に対する接着力よりも強くなる。これにより、たとえ赤外線反射層が基材から剥がれるようなことがあっても、保護膜は赤外線反射層を保護できる効果を奏する。
【0015】
本発明は、以下の構成によって把握することができる。
(1)本発明の車両用天井材は、基材と、前記基材の表面側に設けられる補強用の第1繊維層と、前記第1繊維層の表面に付着された第1接着剤と、前記第1接着剤により前記第1繊維層に接着される車室内の天井面を形成する表皮層と、前記基材の裏面側に設けられる補強用の第2繊維層と、前記第2繊維層の表面に付着させた第2接着剤と、前記第2接着剤により前記第2繊維層に接着される赤外線反射層と、を有する車両用天井材であって、前記赤外線反射層の表面に樹脂からなる透明の保護層が形成され、前記保護層の厚さは、5〜25μmの範囲に設定されていることを特徴とする。
(2)本発明の車両用天井材は、(1)の構成において、前記保護層は、ポリエステル系樹脂(PET)、あるいはポリプロピレン系樹脂(PP)の材料で構成されていることを特徴とする。
(3)本発明の車両用天井材は、(1)の構成において、前記赤外線反射層は、アルミ蒸着フィルムによって構成されていることを特徴とする。
(4)本発明の車両用天井材は、(1)の構成において、前記赤外線反射層は前記保護膜とラミネート加工されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
このように構成した車両用天井材は、基材の表面に形成された赤外線反射層を該基材から剥がれ難く構成することができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の車両用天井材の実施態様1における層構造を示す図である。
【
図2】本発明の車両用天井材が適用される車両を示す斜視図である。
【
図3】本発明の車両用天井材を
図2の矢印C方向から観た平面図である。
【
図4】本発明の車両用天井材の製造方法を示す説明図である。
【
図5】本発明の車両用天井材の実施態様2を示す説明図である。
【
図6】従来の車両用天井材の層構造の一例を示す図である。
【
図7】従来の車両用天井材の製造方法の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、添付図面を参照して、本発明を実施するための形態(以下、実施形態という)について詳細に説明する。なお、実施形態の説明の全体を通して同じ要素には同じ番号を付している。
(実施態様1)
図2は、本発明の車両用天井材が適用される車両を示している。
図2に示すように、車両20は、車体21、前輪22、後輪23、車室24を備えている。車両用天井材10は、車室24の上方を覆うルーフ25の内側に設けられ、この車両用天井材10によって、車室24の天井面を内装するようになっている。
【0019】
図3は、車両用天井材10を、
図2の矢印C方向から観た平面図である。前部31が略平板状に形成され、該前部31から後方部分は、中央に行くに従って高くなる湾曲部32が形成されている。車両用天井材10には、たとえば、室内灯(ルームランプ、マップランプ等)を取り付けるための開口部33A、サンバイザを取り付けるための開口部33B、グリップを取り付けるための開口部33Cが設けられている。
【0020】
図1は、車両用天井材10の層構造を示す断面図である。
図1に示すように、車両用天井材10は、基材11と、基材11を挟むように配置される補強用の表面側繊維層12および裏面側繊維層13と、表面側繊維層12の表面に設けられ車室内の天井面を形成する表皮層14と、裏面側繊維層13の表面に接着される赤外線反射層15’との積層構造を有し、さらに、赤外線反射層15’の表面に保護層16が形成されて構成されている。なお、表面側繊維層12および裏面側繊維層13のそれぞれの表裏面には、予め、接着剤17が全面に亘って塗布されている。また、
図1で、製造工程における各層の位置に合わせ、上位に表皮層14を配置し、下位に保護層16を配置している。
【0021】
ここで、基材11は、たとえば半硬質ウレタンフォーム等の発泡材料から構成されている。表面側繊維層12、裏面側繊維層13は、ガラスマット等の繊維材料から構成されている。表面側繊維層12、裏面側繊維層13は、その表裏面の全面に亘って接着剤17が塗布されているのは上述したとおりである。表面側繊維層12、裏面側繊維層13は、車両用天井材10を補強する補強層であるとともに、表皮層14および赤外線反射層15’を基材11側に接着する接着層として役割を果たす。表皮層14は、不織布、織布、ニット等の通気性の材料から任意に選択される。赤外線反射層15’は、たとえばアルミ蒸着フィルム等の材料から構成し、その蒸着膜厚は、たとえば0.03〜0.09μmが適当となる。これにより、赤外線反射効率が80〜95%の赤外線反射層15’が得られるようになる。また、このように構成される赤外線反射層15’は、赤外線を反射させる機能の他に非通気性の機能をも有するようになる。接着剤17としては、イソシアネート等の湿気硬化型接着剤または熱硬化性樹脂接着剤が好適である。なお、ここでは、表面側繊維層12および裏面側繊維層13に接着剤17を塗布して表皮層14、赤外線反射層15’を接着するようにしたが、基材11に接着剤17を塗布または含浸させるようにしてもよい。この場合、基材11に塗布または含浸された接着剤17を表面側繊維層12および裏面側繊維層13に浸透させ、表面側繊維層12の表面および裏面側繊維層13の裏面に接着剤17を付着させる。この付着した接着剤17によって、表面側繊維層12および裏面側繊維層13のそれぞれに表皮層14および赤外線反射層15’を接着する。
【0022】
次に、上述のように構成される車両用天井材10の製造方法を
図4に基づいて説明する。車両用天井材10の製造方法は、成形素材10’を得る素材準備工程と、この成形素材10’を用いてホットプレス成形を行う成形工程からなる。
図4(a)に示すように、素材準備工程では、基材11、表面側繊維層12、裏面側繊維層13、表皮層14を積層させるとともに、赤外線反射層15’の裏面側繊維層13と反対側の面に保護層16をラミネート加工された一体物を配置させることによって成形素材10’を得る。ここで赤外線反射層15’は、ベースフィルム15A’の表面にたとえばアルミニウムの蒸着層15B’を形成することによって構成されたアルミ蒸着フィルムとなっている。保護膜16は、該蒸着層15B’の表面を被うようにしてラミネート加工されている。そして、成形素材10’を成形金型40に搬送し、セットする。さらに、成形工程では、
図4(b)に示すように、表皮層14側を成形する上型41および保護膜16側を成形する下型42からなる成形金型40を用い、上型41と下型42を合わせて型締めし、成形素材10’を上型41と下型42で挟持することにより、130〜150℃の型温によって、ホットプレスを行う。
【0023】
このように構成された車両用天井材10は、たとえばアルミ蒸着フィルムからなる赤外線反射層15’にたとえピンホールあるいは亀裂が生じていても、その表面はラミネート加工によって保護膜16によって被われ、この保護膜16によって、作業者の手に触れた箇所における皮脂等がピンホールあるいは亀裂の部分に入り込むのを回避することができる。このため、熱サイクル試験によって、赤外線反射層15’の基材11に対する接着強度の低下を防止でき、該基材11から剥がれ難く構成することができるようになる。
【0024】
以上、実施形態を用いて本発明を説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施形態に記載の範囲には限定されないことは言うまでもない。上記実施形態に、多様な変更または改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。また、その様な変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【符号の説明】
【0025】
10……車両用天井材、10’……成形素材、11……基材、12……表面側繊維層、13……裏面側繊維層、14……表皮層、15……裏面層、15’……赤外線反射層、16……保護層、17……接着剤、20……車両、21……車体、22……前輪、23……後輪、24……車室、25……ルーフ、31……前部(車両用天井材の)、32……湾曲部(車両用天井材の)、33A、33B、33C……開口部、40……成形金型、41……上型、42……下型。