特許第5762276号(P5762276)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5762276多彩模様塗膜の膜厚変動による色差の予測方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5762276
(24)【登録日】2015年6月19日
(45)【発行日】2015年8月12日
(54)【発明の名称】多彩模様塗膜の膜厚変動による色差の予測方法
(51)【国際特許分類】
   G01J 3/46 20060101AFI20150723BHJP
【FI】
   G01J3/46 Z
【請求項の数】10
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2011-285987(P2011-285987)
(22)【出願日】2011年12月27日
(65)【公開番号】特開2013-134201(P2013-134201A)
(43)【公開日】2013年7月8日
【審査請求日】2014年8月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001409
【氏名又は名称】関西ペイント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】増田 豊
【審査官】 松谷 洋平
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−030018(JP,A)
【文献】 特開2007−090171(JP,A)
【文献】 特開2010−194049(JP,A)
【文献】 特表2007−526997(JP,A)
【文献】 特開平11−228877(JP,A)
【文献】 特開2001−290429(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01J 3/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
制御手段を備えた予測装置を用いて、多彩模様形成用塗料を有色の基材に塗装する際の多彩模様塗膜の膜厚変動による色差を予測する方法であって、
前記多彩模様形成用塗料が、透明な塗膜形成成分及び複数色の着色粒子を含み、
複数色の前記着色粒子の各々の配合比率及び色度値、前記基材の色度値、及び前記多彩模様形成用塗料に含まれる複数色の前記着色粒子の質量比率、並びに
標準塗布量をもとに決定された、標準塗布量の場合を含む複数の塗布量(n)からなる塗布量ベクトルを基に予測する際に、
前記制御手段が、
前記質量比率を基に、標準塗布量の多彩模様形成用塗料の塗装によって形成される多彩模様塗膜の所定領域に含まれる複数色の前記着色粒子の総数を求める第1ステップを実施し、
前記塗布量ベクトルのi番目の塗布量の多彩模様形成用塗料の塗装によって形成された多彩模様塗膜の所定領域に含まれている複数色の前記着色粒子のi番目の総数を求める第2ステップ、
前記着色粒子のi番目の総数、各前記着色粒子の配合比率及び色度値、及び前記基材の色度値を基に、前記i番目の塗布量に対応する多彩模様塗膜の画像のデータを生成する第3ステップ、及び
前記i番目の塗布量に対応する多彩模様塗膜の画像の平均RGB値を計算して、L値に変換する第4ステップ
を、i=1、・・・、nとして、n回繰り返して実施し、さらに、
n組の前記L値を用いて、各前記塗布量に対応する多彩模様塗膜の画像と前記標準塗布量に対応する多彩模様塗膜の画像との間の色差を計算する第5ステップ
を実施することを特徴とする多彩模様塗膜の膜厚変動による色差の予測方法。
【請求項2】
前記多彩模様塗膜の画像のデータを生成する第3ステップが、
前記基材の画像のデータを第1画像データとして生成するステップと、
前記着色粒子の色のノイズ画像のデータを生成して前記基材の画像のデータを書き換え、第2画像データとして生成するステップと、
前記着色粒子の多彩模様の画像のデータを生成して前記第2画像データを書き換え、前記多彩模様塗膜の画像のデータとするステップとを含むことを特徴とする請求項1に記載の多彩模様塗膜の膜厚変動による色差の予測方法。
【請求項3】
前記予測装置に加えて、表示手段を備え、
前記多彩模様塗膜の画像のデータを生成する第3ステップの後、前記制御手段が、
前記i番目の塗布量に対応する多彩模様塗膜の画像のデータをi番目の多彩模様塗膜の画像として前記表示手段の所定の領域に表示するステップを実施することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の多彩模様塗膜の膜厚変動による色差の予測方法。
【請求項4】
前記i番目の塗布量に対応する多彩模様塗膜の画像の平均RGB値を計算する第4ステップの後、前記制御手段が、
前記i番目の平均RGB値の画像を、前記i番目の多彩模様塗膜の画像に隣接して前記表示手段に表示するステップを実施することを特徴とする請求項3に記載の多彩模様塗膜の膜厚変動による色差の予測方法。
【請求項5】
前記色差を計算する第5ステップの後、前記制御手段が、
前記i番目の塗布量に対応する前記色差を、前記i番目の多彩模様塗膜の画像に対応して前記表示手段に表示するステップを実施することを特徴とする請求項3又は請求項4に記載の多彩模様塗膜の膜厚変動による色差の予測方法。
【請求項6】
制御手段を備えた予測装置と表示手段とを有するシステムにおいて実行される、多彩模様形成用塗料を有色の基材に塗装する際の多彩模様塗膜の膜厚変動による色差の予測プログラムであって、
前記多彩模様形成用塗料が、透明な塗膜形成成分及び複数色の着色粒子を含み、
複数色の前記着色粒子の各々の配合比率及び色度値、前記基材の色度値、及び前記多彩模様形成用塗料に含まれる複数色の前記着色粒子の質量比率、並びに
標準塗布量をもとに決定された、標準塗布量の場合を含む複数の塗布量(n)からなる塗布量ベクトルを基に予測する際に、
前記制御手段に、
前記質量比率を基に、標準塗布量の多彩模様形成用塗料の塗装によって形成される多彩模様塗膜の所定領域に含まれる複数色の前記着色粒子の総数を求める第1の機能を実現させ、
前記塗布量ベクトルのi番目の塗布量の多彩模様形成用塗料の塗装によって形成された多彩模様塗膜の所定領域に含まれている複数色の前記着色粒子のi番目の総数を求める第2の機能、
前記着色粒子のi番目の総数、各前記着色粒子の配合比率及び色度値、及び前記基材の色度値を基に、前記i番目の塗布量に対応する多彩模様塗膜の画像のデータを生成する第3の機能、及び
前記i番目の塗布量に対応する多彩模様塗膜の画像の平均RGB値を計算して、L値に変換する第4の機能
を、i=1、・・・、nとして、n回繰り返して実現させ、さらに、
n組の前記L値を用いて、各前記塗布量に対応する多彩模様塗膜の画像と前記標準塗布量に対応する多彩模様塗膜の画像との間の色差を計算する第5の機能を実現させることを特徴とする多彩模様塗膜の膜厚変動による色差の予測プログラム。
【請求項7】
前記多彩模様塗膜の画像のデータを生成する第3の機能の後、前記制御手段に、
前記i番目の塗布量に対応する多彩模様塗膜の画像のデータをi番目の多彩模様塗膜の画像として前記表示手段の所定の領域に表示する機能をさらに実現させる、ことを特徴とする請求項6に記載の多彩模様塗膜の膜厚変動による色差の予測プログラム。
【請求項8】
前記i番目の塗布量に対応する多彩模様塗膜の画像の平均RGB値を計算する第4の機能の後、前記制御手段に、
前記i番目の平均RGB値の画像を、前記i番目の多彩模様塗膜の画像に隣接して前記表示手段に表示する機能をさらに実現させることを特徴とする請求項6に記載の多彩模様塗膜の膜厚変動による色差の予測プログラム。
【請求項9】
前記色差を計算する第5の機能の後、前記制御手段に、
前記i番目の塗布量に対応する前記色差を、前記i番目の多彩模様塗膜の画像に対応して前記表示手段に表示する機能をさらに実現させることを特徴とする請求項7又は請求項8に記載の多彩模様塗膜の膜厚変動による色差の予測プログラム。
【請求項10】
請求項6〜請求項9の何れか一項に記載の多彩模様塗膜の膜厚変動による色差の予測プログラムを記録したコンピュータ読取可能な記録媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多彩模様形成用塗料の塗布量、あるいは塗料に含まれた着色粒子の濃度の相違により、塗装対象物に形成された多彩模様塗膜の膜厚変動によって生じる色差を予測する方法、予測プログラム及びその記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
多彩模様塗膜を形成するための多彩模様形成用塗料は、透明な塗膜を形成するビヒクル成分と微小な不定形の着色粒子とを含んでいる。着色粒子の平均粒子径は、0.1〜7mmの範囲で任意に決定することができ、粒子径の分布は対数正規分布に近い。多彩模様形成用塗料が塗装された場合、同色の着色粒子が接触し、重なり合うことによって、連続した同一色の不定形領域(斑)が形成される。異なる色の着色粒子を組み合わせて配合することによって、様々な多彩模様塗膜を形成可能な塗料を製造することができる。
【0003】
このような多彩模様形成用塗料を塗装して多彩模様塗膜を形成する場合、塗膜は、被塗物(基材)を完全には隠蔽しない。このため、多彩模様形成用塗料を塗装するときに、単位面積当たりの塗布量、あるいは着色粒子の量が変動すると、着色粒子による斑の大きさや面積が変わり、得られた多彩模様塗膜(模様及び膜厚)も変動する。
【0004】
図1は、塗布量が異なる多彩模様塗膜に関する2つの例を概念的に示す塗膜の平面図である。図中の小さい多角形の図形は、各種の着色粒子を表している。図1により、塗布量の多い塗膜の平面図(a)における模様が、塗布量の少ない塗膜の平面図(b)における模様と著しく異なり、かつ、ビヒクル成分が透明なため、下地の基材が見えることが分かる。
【0005】
図2は、目標とする塗装状態を概念的に示す図である。図2の左側(a)及び(b)は平面図であり、(a)は着色粒子による斑の加法混色と同色の基材、(b)は(a)の基材上に形成された多彩模様塗膜である。図2の右側の(c)は塗装状態を概念的に示す断面図であり、表層が多彩模様塗膜であり、その下は基材、保護膜のシーラー、及び素地である。図1と同様に、表層内の多角形が各着色粒子を表し、着色粒子の間が透明なバインダー(ビヒクル)である。
【0006】
多彩模様形成用塗料をスプレー塗装する場合、形成された多彩模様塗膜のうち、着色粒子の重なり部分は、膜厚が他の部分と異なる。すなわち、図2の最上位層の多彩模様塗膜は、一様な膜厚を有しないことになる。このため、膜厚が異なる隣接の部分では、それぞれの色の間で色差が現れてくる。色差が大きくなると、塗膜の模様が不均一で連続せず、同じ模様の塗膜のように見えなくなる。この膜厚の変動による色差の影響を軽減するために、従来では、被塗物の色を、着色粒子による斑の大きさや面積が変わっても目立ちにくい色に設定している。例えば、特許文献1では、基材の色及び着色粒子によって形成された模様の色がともに周囲の色に近似する、あるいは周囲の色と調和するように、多彩模様及び、多彩模様形成用塗料、具体的には着色粒子の配合比率を設計している。ここに、着色粒子によって形成された「模様の色」とは、基材や周囲の色を考慮せずに、着色粒子のみによる斑の色、又は斑の集合の色のことをいう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−79171号公報
【特許文献2】特開2008−30018号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、被塗物の色と着色粒子によって形成される模様の色が近似すると、模様のコントラストが小さくなり、模様の特徴が薄れ、面白みにかけるという問題がある。また、この場合、塗料を調製するための選択可能な着色粒子の色が制限されるだけでなく、被塗物の色も限定された色に制限され、多彩模様塗膜を構成する色が少なくなる。しかし、より多くの色が選択可能なように、被塗物の色を着色粒子の色と顕著に異なるものにすると、前述の色差の問題が生じる。
【0009】
本発明は、上記のような従来の問題点を解決するために案出されたものであり、被塗物の色及び着色粒子の色が規定されている場合に、単位面積当たりの塗布量又は着色粒子の量が変動し、多彩模様形成用塗料の塗装によって形成される、膜厚の変動する多彩模様塗膜を塗装せずにシミュレーションすることにより、膜厚の変動による色差及び色差の変化を予測することができる予測方法、予測プログラム及び予測プログラムを記憶した媒体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するために、本願発明に係る多彩模様塗膜の膜厚変動による色差の予測方法は、制御手段を備えた予測装置を用いて、多彩模様形成用塗料を有色の基材に塗装する際の多彩模様塗膜の膜厚変動による色差を予測する方法であって、前記多彩模様形成用塗料が、透明な塗膜形成成分及び複数色の着色粒子を含み、複数色の前記着色粒子の各々の配合比率及び色度値、前記基材の色度値、及び前記多彩模様形成用塗料に含まれる複数色の前記着色粒子の質量比率、並びに標準塗布量をもとに決定された、標準塗布量の場合を含む複数の塗布量(n)からなる塗布量ベクトルを基に予測する際に、前記制御手段が、前記質量比率を基に、標準塗布量の多彩模様形成用塗料の塗装によって形成される多彩模様塗膜の所定領域に含まれる複数色の前記着色粒子の総数を求める第1ステップを実施し、前記塗布量ベクトルのi番目の塗布量の多彩模様形成用塗料の塗装によって形成された多彩模様塗膜の所定領域に含まれている複数色の前記着色粒子のi番目の総数を求める第2ステップ、前記着色粒子のi番目の総数、各前記着色粒子の配合比率及び色度値、及び前記基材の色度値を基に、前記i番目の塗布量に対応する多彩模様塗膜の画像のデータを生成する第3ステップ、及び前記i番目の塗布量に対応する多彩模様塗膜の画像の平均RGB値を計算して、L値に変換する第4ステップを、i=1、・・・、nとして、n回繰り返して実施し、さらに、n組の前記L値を用いて、各前記塗布量に対応する多彩模様塗膜の画像と前記標準塗布量に対応する多彩模様塗膜の画像との間の色差を計算する第5ステップを実施することを特徴とする。
【0011】
一実施の形態によれば、上記多彩模様塗膜の膜厚変動による色差の予測方法において、前記多彩模様塗膜の画像のデータを生成する第3ステップが、前記基材の画像のデータを第1画像データとして生成するステップと、前記着色粒子の色のノイズ画像のデータを生成して前記基材の画像のデータを書き換え、第2画像データとして生成するステップと、前記着色粒子の多彩模様の画像のデータを生成して前記第2画像データを書き換え、前記多彩模様塗膜の画像のデータとするステップとを含む。
【0012】
また、別の実施の形態によれば、上記多彩模様塗膜の膜厚変動による色差の予測方法において、前記予測装置に加えて、表示手段を備え、前記多彩模様塗膜の画像のデータを生成する第3ステップの後、前記制御手段が、前記i番目の塗布量に対応する多彩模様塗膜の画像のデータをi番目の多彩模様塗膜の画像として前記表示手段の所定の領域に表示するステップを実施する。
【0013】
また、別の実施の形態によれば、好ましくは、前記i番目の塗布量に対応する多彩模様塗膜の画像の平均RGB値を計算する第4ステップの後、前記制御手段が、前記i番目の平均RGB値の画像を、前記i番目の多彩模様塗膜の画像に隣接して前記表示手段に表示するステップを実施する。
【0014】
また、別の実施の形態によれば、好ましくは、前記色差を計算する第5ステップの後、前記制御手段が、前記i番目の塗布量に対応する前記色差を、前記i番目の多彩模様塗膜の画像に対応して前記表示手段に表示するステップを実施する
また、本願発明に係る多彩模様塗膜の膜厚変動による色差の予測プログラムは、制御手段を備えた予測装置と表示手段とを有するシステムにおいて実行される、多彩模様形成用塗料を有色の基材に塗装する際の多彩模様塗膜の膜厚変動による色差の予測プログラムであって、前記多彩模様形成用塗料が、透明な塗膜形成成分及び複数色の着色粒子を含み、複数色の前記着色粒子の各々の配合比率及び色度値、前記基材の色度値、及び前記多彩模様形成用塗料に含まれる複数色の前記着色粒子の質量比率、並びに標準塗布量をもとに決定された、標準塗布量の場合を含む複数の塗布量(n)からなる塗布量ベクトルを基に予測する際に、前記制御手段に、前記質量比率を基に、標準塗布量の多彩模様形成用塗料の塗装によって形成される多彩模様塗膜の所定領域に含まれる複数色の前記着色粒子の総数を求める第1の機能を実現させ、前記塗布量ベクトルのi番目の塗布量の多彩模様形成用塗料の塗装によって形成された多彩模様塗膜の所定領域に含まれている複数色の前記着色粒子のi番目の総数を求める第2の機能、前記着色粒子のi番目の総数、各前記着色粒子の配合比率及び色度値、及び前記基材の色度値を基に、前記i番目の塗布量に対応する多彩模様塗膜の画像のデータを生成する第3の機能、及び前記i番目の塗布量に対応する多彩模様塗膜の画像の平均RGB値を計算して、L値に変換する第4の機能を、i=1、・・・、nとして、n回繰り返して実現させ、さらに、n組の前記L値を用いて、各前記塗布量に対応する多彩模様塗膜の画像と前記標準塗布量に対応する多彩模様塗膜の画像との間の色差を計算する第5の機能を実現させることを特徴とする。
【0015】
一実施の形態によれば、上記多彩模様塗膜の膜厚変動による色差の予測プログラムにおいて、前記多彩模様塗膜の画像のデータを生成する第3の機能の後、前記制御手段に、前記i番目の塗布量に対応する多彩模様塗膜の画像のデータをi番目の多彩模様塗膜の画像として前記表示手段の所定の領域に表示する機能をさらに実現させる。
【0016】
また、一実施の形態によれば、上記多彩模様塗膜の膜厚変動による色差の予測プログラムにおいて、前記i番目の塗布量に対応する多彩模様塗膜の画像の平均RGB値を計算する第4の機能の後、前記制御手段に、前記i番目の平均RGB値の画像を、前記i番目の多彩模様塗膜の画像に隣接して前記表示手段に表示する機能をさらに実現させる。
【0017】
さらに、上記多彩模様塗膜の膜厚変動による色差の予測プログラムにおいて、好ましくは、前記色差を計算する第5の機能の後、前記制御手段に、 前記i番目の塗布量に対応する前記色差を、前記i番目の多彩模様塗膜の画像に対応して前記表示手段に表示する機能をさらに実現させる。
【0018】
さらに、本発明に係るコンピュータ読取可能な記録媒体は、上記の多彩模様塗膜の膜厚変動による色差の予測プログラムを記録したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、被塗物の色及び着色粒子の色が規定されている場合に、多彩模様塗膜を実際に塗装することなく、シミュレーションによって塗布量及び膜厚の変動と色差との関係を求め、許容できる色差の範囲内で多彩模様塗膜に所定の特徴、面白みを付与することが可能な膜厚、あるいは単位当たりの塗布量や着色粒子の量を提示することができるという効果がある。
【0020】
また、本発明によれば、多彩模様形成用塗料の配合を変えることなく、すなわち、着色粒子の色や配合比率等を変えることなく、塗布量による膜厚の制御のみによって色の変動をもたらし、塗膜に所定の特徴、面白みを付けることができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】塗布量の異なる2つの多彩模様塗膜を概念的に示す平面図である。
図2】多彩模様塗膜を概念的に示す平面図および断面図である。
図3】本発明の実施の形態に係る多彩模様塗膜の膜厚変動による色差の予測方法の実施に用いられる予測システムの概略構成を示す模式図である。
図4】本発明の実施の形態に係る多彩模様塗膜の膜厚変動による色差の予測方法を説明するためのフローチャートである。
図5】多彩模様を有する花崗岩の表面を示す写真である。
図6】本発明の実施の形態に係る多彩模様塗膜の膜厚変動による色差の予測方法における、多彩模様塗膜の画像の作成を説明するためのフローチャートである。
図7】本発明の実施例による色差の予測結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0023】
図3は、本発明の実施の形態に係る多彩模様塗膜の膜厚変動による色差の予測方法を実施するために用いられるコンピュータシステムの概略構成を示す図である。本予測システムは、色差予測装置(以下、予測装置とも記す)1及び表示装置2を備える。また色差予測装置1は、各部を制御し、後述する所定の処理を実行するCPU11(制御手段)と、メモリ12と、複数種類の着色粒子の色情報やコード名等の情報を対応づけるデータを含むデータベース、各種の設定情報、及び処理結果等を格納する記録部13と、外部からの指示を受け付ける操作部14と、操作部14及び外部機器とのインタフェースの役割をするインタフェース部(以下、I/F部と記す)15と、各部の間でデータを伝送するためのデータバス16とを備えている。本予測装置1は、I/F部15を介して、表示装置2に画像データ等を表示させる。
【0024】
操作部14は、キーボードおよびマウスのような装置であってもよい。
【0025】
CPU11は、操作部14で受け付けた外部の指示により、さらに外部からの入力を受け付け、又は記録部13より所定のデータを読み出してメモリ12に一時的に記憶し、後述する方法で、種々の塗布量の塗料の塗装により形成される多彩模様塗膜をシミュレーションし、これらの多彩模様塗膜間の色差を計算するとともに、必要に応じて、種々の画像処理及び表示を行う。なお、CPU11は、特定の命令を自前で備えて各種の処理を行うことができるのはもちろん、特定のソフトウェアがインストールされて一連の処理を自動的に行うように構成することも可能である。
【0026】
表示装置2は、例えばフルカラー表示が可能なCRT表示装置、液晶表示装置などの画像表示装置であり、CPU11は、所定の処理の結果を所定の形式で、I/F部15を介して表示装置2に表示させたり、また各処理段階で得られた情報を表示させたりすることができる。
【0027】
本発明の実施の形態に係る多彩模様塗膜の膜厚変動による色差の予測方法は、概略的には次のとおりである。まず、基材の色及び多彩模様形成用塗料配合用の3種類の着色粒子の色を決め、多彩模様形成用塗料における3種類の着色粒子の配合比率及び着色粒子の割合(質量比率)を決めて、単位面積の標準塗布量を決定する。次に、塗布量の変動の上下限値を決め、上下限値の間にある複数の塗布量を設定する。各塗布量の下での多彩模様塗膜をコンピュータグラフィックス(CG)によってシミュレーションし、標準塗布量に対応する多彩模様塗膜のCG画像とその他の塗布量に対応する多彩模様塗膜のCG画像との間の色差を計算する。この色差を膜厚の変動による色差とする。色差の計算の一例としては、各多彩模様塗膜の画像の平均RGBを計算し、平均RGBをXYZに変換した後、さらに、L表色系の3刺激値に変換し、L表色系の空間における各多彩模様塗膜間の色差を計算する。
【0028】
次に、本発明の実施の形態に係る多彩模様塗膜の膜厚変動による色差の予測方法に関して、詳細に説明する。
【0029】
以下の説明において、予測装置1が、操作者(デザイナーなど)による操作を受けて行う処理は、CPU11が、記録部13から所定のデータを、内部の一時記憶手段であるメモリ12に読み出し、または、外部からの入力を受け付け、メモリ12をワーク領域として使用して行う処理であり、CPUは適宜処理結果を記録部13に記録することとする。「記録する」と明記されなくても、情報は記録されていると解釈することも可能である。また、以下の説明においては、特に断らない限りCPU11が行う処理として説明する。
【0030】
なお、予測装置1の記録部13には、着色粒子を特定する情報(色名やコードなど)と着色粒子の色情報として三刺激値(色度値)とが対応させてデータベース化されているとする。三刺激値とは、色を人間の感覚と合う形式で数値として表現する心理物理量を意味する。具体的には、XYZ値、L値、RGB値等を挙げることができる。着色粒子の色の三刺激値を求める方法には種々の方法がある。例えば、実際の着色粒子を測色して得られた分光反射率や三刺激値から、所望の表色系の三刺激値を求めることができる。あるいは、実際の着色粒子に配合される着色材(着色顔料や染料など)の組成から、公知のCCM(コンピューターカラーマッチング)を行なって、三刺激値を計算することができる。
【0031】
図4は、図3に示したシステムを用いた多彩模様塗膜の膜厚変動による色差の予測方法を説明するためのフローチャートである。
【0032】
ステップS1において、デザイナーが特定の模様、例えば、図5の写真に示されている花崗岩の多彩模様を想定し、その多彩模様を基に、3種類の斑の色、すなわち3種類の着色粒子の色を決定し、さらに基材の色、及び特定の模様における各種類の斑の面積比率を決定する。
【0033】
それらの色は、操作者が予測装置1の操作部14を操作して、記録部13のデータベースの中から多彩模様形成用塗料に配合する候補の着色粒子を指定することにより、または、外部からの直接入力を受け付けることにより、入力されることができる。
【0034】
そして、それらの4種類の色の三刺激値であるRGB値を、外部からの直接な入力により、あるいは、予め記憶されたデータベースより直接読み出し、又は読み出して変換することにより、4種類の色のRGB値を決定することができる。複数種類の三刺激値のうち、RGB値を利用するのは、表示装置の画面上に斑を構成する着色粒子、より具体的には、多角形のような図形を描画するために、それらの色を各8ビット(0〜255)のRed、Green、Blueで表す必要があるためである。本実施の形態では、3色の斑は、それぞれX01、X02、X03と呼び、それぞれの面積比率は、70%、10%、20%とする。
【0035】
ステップS2において、多彩模様塗膜形成用塗料における透明な塗膜を形成するビヒクルと着色粒子との質量比率、各着色粒子の配合比率、及び描画される着色粒子の大きさである図形の大きさパラメータDiaを決定する。質量比率及び図形の大きさパラメータDiaは操作部14を介して予測装置1に入力される値、又は記録部13より読み出される値とすることができる。
【0036】
塗料の貯蔵性、塗膜形成時の作業性、塗膜の性能等の制限から、透明な塗膜形成成分であるビヒクルと着色粒子の質量比率は、通常、ビヒクル/着色粒子=60/40〜70/30の範囲に制限される。すなわち、実際の塗料において、塗膜外観と性能の点から、着色粒子の総量が規定されている。そのため、各着色粒子の量は、着色粒子の全量に対するそれぞれの割合である配合比率(%)で指定される。着色粒子の比重がどの色も同じであると仮定すると、着色粒子の面積比率は、重量又は質量の比率に等しい。したがって、本実施形態の3色の着色粒子の配合比率は、ステップS1において設定した斑の面積比率に等しく、それぞれ70%、10%、20%とすることができる。なお、説明を便宜的に行うために、3色の着色粒子の呼び名もX01、X02、X03とする。さらに、本実施の形態では、ビヒクルと着色粒子の質量比率は、70/30とする。着色粒子は、基材や重なり合った他の着色粒子を完全に隠蔽するので、塗料の濁度は100(%)が指定される。
【0037】
なお、多彩模様塗膜における着色粒子は通常、内装用多彩模様塗膜よりも外装用多彩模様塗膜のほうが大きい。さらに、多彩模様塗膜のCG画像と多彩模様塗膜の実物とを目視で比較すると、外装用多彩模様塗膜のCG画像シミュレーションには図形の大きさパラメータDiaを15画素とし、内装用多彩模様塗膜のCG画像シミュレーションには図形の大きさパラメータDiaを10画素とするのが好ましいことが分かった。
【0038】
本実施の形態では外装用多彩模様を想定し、図形の大きさパラメータDiaを、3色全て15(画素)と指定する。また、本実施の形態で想定している多彩模様塗膜のCGは250×250画素が約6.4cm×6.4cmの大きさで描画されるため、15画素が画面上で3.9mmに相当する。
【0039】
ステップS3において、多彩模様塗膜形成用塗料を標準の塗布量で塗装して形成される多彩模様塗膜をシミュレーションする場合、所定領域内に描画する全種類の着色粒子の総数NT、あるいは図形総数NTを式1で求める。さらに、塗布量ベクトルVを決定する
NT=画像全体の画素数×着色粒子の割合×実行効率×係数 (式1)
ここで、このように、ここでいう着色粒子の総数とは、画素数のことではなく、描画する図形の個数のことである。また、着色粒子の割合とは、上記ステップS2で決定された、ビヒクルに対する着色粒子の質量比率である。
【0040】
式1で「実行効率」を導入したのは、実際の塗装においては、着色粒子は塗膜内部に分布し、全ての着色粒子が表面に位置することはなく(図2の多彩模様塗膜の断面図参照)、且つ、微細な粒子(粒径が0.2mm以下)は目視で着色粒子としては認識できないからである。実験結果から、実行効率=0.6が望ましい。
【0041】
また、「係数」は、描画した多彩模様の画像と実際の塗板との違いを調整するためのパラメータである。多数の絵柄を描画して得た画像と実際の塗板とを目視で比較した結果、係数=0.4が望ましい。
【0042】
例えば、ビヒクルに対する着色粒子の質量比率=0.30(ビヒクル/着色粒子=70/30)であれば、1辺が250画素の正方形の画像を描画する場合、NT=250×250×0.3×0.6×0.4=4500である。
【0043】
変動する膜厚をシミュレーションするために、異なる塗布量で形成される異なる膜厚の多彩模様塗膜をシミュレーションする必要がある。このために、変動する塗布量からなる塗布量ベクトルVを予め決定する。この塗布量ベクトルVは、入力され、又はデータベースより読み出されるようにしてもよい。標準塗布量のときの塗布量を100%とする。例えば上下に30%変動する場合、下限の塗布量である70%から、上限の塗布量である130%まで一連の塗布量を決定して、塗布量ベクトルVとして記録する。この場合、例えば、最も簡単でかつ予測の計算量も少ない塗布量ベクトルVを(70%,100%,130%)とすることができる、数値シミュレーション上では、塗布量が0%さえ超過すれば、膜厚の変動による色差を予測可能であるが、塗装時の塗布量の通常のばらつきの上限を考慮すると、約70%〜130%が適当である。施工管理を厳しくした場合、色差の予測に際しては、塗布量を約80%〜120%とすれば十分であり、それは塗布量のばらつきはおよそ20%以内に収まるためである。一方、塗料における透明なビヒクルの成分に対して、着色粒子の配合量がかなり少ない場合、塗布量を約60%〜140%とすることもありうる。
【0044】
次に、各塗布量に対して、以下のステップS4〜ステップS7の処理を実行する。
【0045】
ステップS4において、i番目の塗布量Vのとき、塗装に使用される多彩模様塗膜形成用塗料の塗布量は、標準塗布量と変動の割合でもある値Vとの積である。このため、i番目の塗布量に対応する、所定の領域の多彩模様塗膜のために描画する全着色粒子の数NT、すなわち、描画する図形の総数NTは、標準値である総数NTと変動の割合であるVとの積となる。すなわち、
NT =NT × V (式2)
ステップS5において、i番目の塗布量の塗料を被塗物上に塗装することによって形成される多彩模様塗膜の画像を作成する。多彩模様塗膜の画像作成は、以下のように、特許文献2に開示された方法を利用する。以下、図6のフローチャートを参照しながら、多彩模様塗膜の画像の作成を具体的に説明する
ステップS51において、基材の画像(CG)を描画する。表示装置の表示画面のうち、NP×NP個の画素を有するある四角形の領域における、すべての画素の色値が基材のRGB値となるように画素値を書き換えて、基材の画像データを生成し、基材の色の画像を表示する。すなわち、予測装置1は、所定サイズ(NP×NP)の領域に基材の色を描画する。
【0046】
ステップS52において、着色粒子の色のノイズを描画する。着色粒子は不定形な粒子であり、その大きさは一定ではなく、かつ、大きさの分布は広い。したがって、目視で粒子と認識することができない直径0.2mm以下の着色粒子を、基材へのノイズとして描画する。これにより、CG描画処理が速くなること、及び画像の質感がより実際の塗膜に近くなるという利点がある。このノイズの描画プロセスは、以下のとおりである。
【0047】
上記のステップS1で決定された着色粒子X01、X02、X03のそれぞれのRGB値、及び、上記のステップS2で決定されたビヒクル/着色粒子の質量比率=70/30、着色粒子のそれぞれの配合比率=X01/X02/X03=70/10/20を利用する。
【0048】
予測装置1は、3色の着色粒子のうちの1色を選択し、描画するRGB値を決定する。次に、予測装置1は、基材の色の画像上でランダムに1画素を選択し、選択された画素に上記選択された色のRGB値を設定する処理を、画像中のその着色粒子の数(図形の数)だけ繰り返す。例えば、画像のサイズ250画素×250画素の場合、X01の着色粒子に関して、250(縦の画素数)×250(横の画素数)×0.30(総画素数に対する総着色粒子数の割合、質量比率)×0.7(総着色粒子の量に対する各着色粒子の量の割合、配合比率)=13125の画素をランダムに描画する。同様に、X02のノイズを1875(=250×250×0.30×0.1)個、X03のノイズを3750(=250×250×0.30×0.2)個、ランダムに描画する。
【0049】
なお、着色粒子は複数(ここでは3色)使用するので、配合比率が少ない着色粒子のノイズから順に描画する方が、配合量が多い色の着色粒子によるノイズが隠れることがないため、実際の塗膜に近い印象の画像が得られる。従って、ここでは、X02、X03、X01の順でノイズを描画するのが望ましい。
【0050】
ステップS53において、着色粒子の粒度分布が対数正規分布であると仮定し、直径0.2mmよりも大きい着色粒子を描画するためのパラメータを決定する。
【0051】
予測装置1は、CGによって直径0.2mmよりも大きい着色粒子を表す図形、具体的には、多角形を描画するための条件を決定する。
【0052】
描画条件は、(i)着色粒子の色(描画色)、(ii)色毎の着色粒子の粒度分布(図形の大きさパラメータDiaによって決まる)、(iii)生成する乱数(詳細は後述する)と着色粒子の色との対応関係である。
【0053】
(i)着色粒子の色: これらの条件のうち、着色粒子の色はステップ1で決定された値を使用する。
【0054】
(ii)色毎の着色粒子の粒度分布: 描画される着色粒子の大きさgの分布、すなわち、図形の大きさの分布が、着色粒子の直径の分布に類似し、同様に対数正規分布とする。このような対数正規分布を有する図形の大きさの分布は、着色粒子の粒径に対応する図形の大きさパラメータDiaを特徴としている。図形の大きさパラメータDiaはステップS2で決定された値をそのまま用いる。
【0055】
したがって、次のように、描画される粒子の粒度分布、すなわち、図形の粒度分布を計算することができる。公知のアルゴリズム(「JAVAによるアルゴリズム事典」(奥村晴彦ら、技術評論社、平成15年5月)のpp.152〜153記載の正規分布発生アルゴリズム)で、正規分布(平均値=0、標準偏差=1)する変数fを発生させ、次式3のように、変数fを指数とするexp(f)を計算し、それにexp(0.5)を乗じ、さらに図形の大きさパラメータDiaを乗じて、対数正規分布する図形粒度分布、即ち対数正規分布する変数である図形の大きさgを生成することができる。
g=Dia×exp(f)/exp(0.5) (式3)
さらに、式3で生成された図形粒子の大きさgを用いて次式4から、着色粒子を多角形として描画するとき、描画する多角形の中心と多角形の頂点との距離Rを決定することができる。
R=0.5×g (式4)
なお、本実施の形態では、3色の着色粒子の粒度分布及びその図柄の粒度分布は同一とする。
【0056】
(iii)生成する乱数と着色粒子の色との対応関係: 着色粒子の粒度分布、図形の大きさパラメータDiaがどの色も同じであると仮定すると、各色の着色粒子の配合比率は、着色粒子の個数比率に等しい。したがって、多彩模様のCG生成では、着色粒子の個数比率に配合比率をセットし、個数比率に応じた頻度で、着色粒子を表す図形を描画することになる。
【0057】
これにより、着色粒子の個数比率から、描画時に発生する乱数と対応させる着色粒子の色(描画色)との関係を決定することができる。即ち、色jの着色粒子の個数比率βjに応じて、発生する乱数の範囲rmin〜rmaxを比例配分し、描画色に対応させる乱数の範囲を決定する。
【0058】
具体的に一例を示せば、次のとおりである。例えば、上記の説明のように、X01、X02、X03の着色粒子の個数比率がそれぞれ、0.7、0.1、0.2と決定され、一様乱数を0.0〜1.0の範囲で発生させる場合、各描画色に対応する乱数の範囲を、
X01着色粒子用の乱数rの範囲 0.0≦r≦0.7
X02着色粒子用の乱数rの範囲 0.7<r≦0.8(=0.7+0.1)
X03着色粒子用の乱数rの範囲 0.8<r≦1.0
と決定することができる。
【0059】
ステップS54において、以上によって決定されたパラメータ(着色粒子の描画に使用する色、着色粒子の色毎の粒度分布、生成する乱数と描画色との対応関係)を用いて多彩模様のCG画像を描画する。
【0060】
実際の着色粒子は、不定形であり、さらに、塗装してから塗膜形成時に変形することも考えられる。したがって多彩模様塗膜においては、不定形の多角形となる。そこで、本ステップS54では不定形の多角形を描画する。即ち、描画する多角形の中心座標を一様ランダム関数で生成し、n角形毎に指定した確率で、形状がランダムなn多角形を生成する。例えば、三角形(n=3)を1/3の確率で、四角形(n=4)を1/3の確率で、五角形(n=5)を1/3の確率で発生させる。多角形の頂点の数nが決まるため、式3及び式4を用いて対数正規分布する距離Rをn回生成する。そして、中心からの距離がRである位置座標をn個決定し、決定したn個の位置を頂点とするn角形の内側に位置する画素に、着色粒子のRGB値を設定する。なお、ここでは、n角形の頂点の位置は、中心からの距離Rが指定されるだけで、任意に決定されるので、描画される多角形は必ずしも凸多角形ではない。従って、凹多角形や、辺が交差した多角形の場合もあるので、n角形の内側とは、少なくとも3本の辺で囲まれた領域を意味する。
【0061】
したがって、本ステップS54において、多彩模様のCG画像の描画は、具体的には、次のとおりに行う。即ち、
(A) 0.0〜1.0の範囲で一様乱数rを発生させ、
(B) 発生した乱数rと描画色との対応関係(上記のステップS53で決定)に従って描画色(RGB値)を決定し、
(C) 多角形の頂点の数n(nは3以上の自然数)、及び、中心の位置座標をランダムに発生させ、
(D) (B)で決定した描画色に対応する図形の大きさパラメータDiaを用いて、式3及び式4から対数正規分布する距離Rをn回生成させ、
(E) 画像領域上で上記ランダムに決定した点を中心とし、中心から頂点までの距離がRであるn多角形内の画素データを、(B)で決定した描画色で上書きする
という一連の処理(A)〜(E)を、描画する着色粒子の総数NTの回数(NT回)だけ繰り返す。
【0062】
ここで、(E)で決定する多角形の中心位置は、(C)で発生した、0.0〜1.0の範囲の一様乱数を利用すればよい。例えば、1辺が250画素の正方形の画像の場合、発生させた乱数r1を用いて、r1×250(画素)を超えない整数値をX座標とし、次に発生させた乱数r2を用いて、r2×250(画素)超えない整数値をY座標とすることができる。
【0063】
このように順次描画処理が実行され、ビデオメモリ上のデータが多彩模様塗膜のCG画像として表示装置2に表示される。なお、i番目の多彩模様塗膜の画像とi+1番目の多彩模様塗膜の画像とは、画像領域上に、たとえば横に隣接して作成することができる。
【0064】
図4に戻り、ステップS6において、i番目の多彩模様塗膜の画像の平均RGB値を求め、公知の方法によってL表色系の3刺激値に変換する。
【0065】
具体的には、多彩模様塗膜の画像の全画素に関してR値を積算し、積算の結果を全画素の数で除算し、除算の結果を平均R値とする。同様な方法で平均G値及び平均B値を求める。得られた平均RGB値をsRGB(standard RGB)値と仮定して、公知の方法でXYZ値に変換し、さらにL値に変換する。RGB値からL値への変換は、JAVA(登録商標)言語の標準関数として公知のtoCIEXYZを使用することができる。また、インターネット上で公開されている関数を使用することもできる(http://www005.upp.so-net.ne.jp/fumoto/linkp25.htm)。求められた平均RGB値、及びこれらの平均RGB値より変換されたL値を記録部13に記録する。
【0066】
次に、平均RGB画像を、i番目の多彩模様塗膜の画像に、例えば縦に隣接して描画する。平均RGB画像の描画は、基材の画像と同じ手法で行うことができる。
【0067】
ステップS7において、すべての塗布量Vに対して、上記ステップS4〜ステップS6を実施し、各塗布量Vに関する多彩模様塗膜の画像のL値が得られているか否かをチェックする。各塗布量Vに関するL値が得られていない場合、ステップS4に戻り、次の塗布量Vに対して上記した一連の処理を行う。得られている場合、ステップS8へ進む。
【0068】
ステップS8において、標準塗布量に対応する塗布量V=100%、及びそれに対応する多彩模様塗膜の画像のL100100100値を基準として、その他の塗布量Vの多彩模様塗膜の画像のL値との色差dEを式5によって計算する。
dE=((L−L100)+(a−a100)+(b−b100)0.5 (式5)
計算された色差を記録部13に記録し、かつ、色差及び塗布量を対応する平均RGB画像上に表示する。
【0069】
上記ステップS1〜ステップS8までの一連の処理によって実施されたシミュレーションにより、異なる塗布量によって引き起こされた多彩模様塗膜の膜厚の変動による色差を定量的に予測することができるとともに、表示装置の画面に画像を表示することにより、色差をビジュアル的にも把握、確認することができる。したがって、本発明では、シミュレーションの結果を基に、塗料を調製し塗装によって多彩模様塗膜を実際に形成することなく、任意の多彩模様塗膜の膜厚の変動による色差を予測すること、許容できる色差の範囲内の塗布量を決定すること、及び、塗布量の変動のみで色差が許容範囲にありながら、より色差が大きい多彩模様塗膜を形成することができるという効果が得られる。
【0070】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明は上記の実施の形態に限定されない。当業者であれば、本発明に係る技術的思想から逸脱しない範囲内で、実施の形態に対する様々な変更が可能であり、それらも本発明の技術的範囲に属する。
【0071】
たとえば、上記の実施の形態では3種類の色の着色粒子を用いて多彩模様塗膜形成用塗料を調製する場合を説明していた。しかし、本発明に係る着色粒子の色は、3種類に限定されるものではなく、2種類以上であればよく、かつ、これらの色は、目標とする多彩模様塗膜の色に応じて適宜に選択することができる。
【0072】
また、ステップS53において、各色の図形の大きさパラメータDiaが同じと仮定して、着色粒子の個数比率は面積比率、ひいては配合比率と等しいとして、生成させた乱数と着色粒子の色との対応関係を決定した。しかし、各色の図形の大きさパラメータDiaが異なる場合、着色粒子一個の面積比率に応じて着色粒子の個数比率を決めることにより、生成させた乱数と着色粒子の色との対応関係を決定することもできる。
【0073】
また、上記のステップS1〜ステップS8まで外部からの入力や内部からの読み出しにより様々な条件を決定する場合を説明したが、これらの条件を自動的に決定しても良い。そして、自動的に決定されたシミュレーションための条件を用いてCG画像を描画し、色差を計算することも可能である。
【0074】
また、例えば、上記の実施の形態では、ステップS54における多彩模様のCG画像の描画において、描画時に発生する乱数と対応させる着色粒子の色(描画色)との関係を決定し、着色粒子を表す多角形を1個ずつ描画することとした。しかし、JAVA(登録商標)言語によるマルチスレッドを用いて、複数色の着色粒子を同時に描画するようにしてもよい。即ち、公知技術(「Java完全マスターブック」(高田美樹著、技術評論社、平成16年5月)のpp.97〜109参照)であるJAVA(登録商標)マルチスレッドを用いた描画方法を採用する。これは、1つの塗装用ガンで行う噴霧塗装に対応する描画処理を、コンピュータプログラムの単位であるスレッドとして作成し、ガンの数と同じ数のスレッドを用意して、複数のスレッドを同時に実行しながら描画するものである。描画の際、複数のスレッドが描画する着色粒子の総数を逐次、あるいは常時モニターし、描画する着色粒子の総数が総数NTを超えるとき、描画処理を終了させればよい。
【0075】
なお、上記では、本発明を図4及び図6のフローチャートに基づいて説明したが、本発明は、必ずしも図4及び図6に示されているとおりに各ステップを実施する必要はなく、当業者であれば、それらのステップ及び/又はそのサブステップを異なる順序で実施しても同様な効果が得られることが容易に理解できるであろう。たとえば、図4におけるステップS6、ステップS7の代わりに、i番目の多彩模様塗膜のCG画像を作成することのみにして、すべて多彩模様塗膜のCG画像の作成が完了した後、保存していた各多彩模様塗膜のCG画像を用いて、それらの平均RGB値やL値を計算して色差を算出してもよい。
【実施例1】
【0076】
以下に実施例を示し、本発明の特徴をより明確に説明する。
【0077】
まず、デザイナーが図5の花崗岩の多彩模様を想定し、多彩模様塗膜における着色粒子のみによる斑の色を、多彩模様形成用塗料に配合する着色粒子の色とし、表1に示す3種類の着色粒子の色を選択した。次に、それらの三色のそれぞれの色度値(三刺激値)を測定した。
【0078】
【表1】
表1において塗膜の斑のコード(着色粒子の粒子コード)をX01、X02、X03とした。なお、これらの3色は、社団法人日本塗料工業会発行の2007年D版塗料用標準色(以下、日塗工色見本という)から選択されたもので、日塗工番号DN−95、DN−55、DN−20に規定されている色である。各着色粒子の色は、日塗工色見本と同一であるので、社団法人日本塗料工業会発行の2007年D版塗料用標準色(ポケット版)のサンプルを測色した。測色には、照明光としてD65光源、45度照射、0度の受光角という受光の条件で分光光度計を使用した。得られた分光反射率から、D65光源、10度視野の三刺激値XYZに変換した後に、さらにL値に変換した。また、XYZ値からsRGB値への変換には、http://www005.upp.so-net.ne.jp/fumoto/linkp25.htpに記載の変換行列を使用した。
【0079】
図5に示している花崗岩の斑の配合(あるいは配合比率)を、デザイナーによって、表2に示すとおりに特定した。すなわち、X01/X02/X03=70/10/20とした。
【0080】
【表2】
上記斑の配合で3色を併置加法混色として得られた混合色(G03)について、その三刺激値(XYZ値、L値)を計算した。表3に示しているように、混合色は、日塗工番号DN−85に指定されている色と最も近似することが分かった。
【0081】
【表3】
上記斑の配合を3色の着色粒子の配合比率として、さらに、3色の着色粒子とビヒクルとの質量比率を30/70として、多彩模様塗膜形成用塗料を調製するとした。なお、シミュレーションにおいて、図形の大きさパラメータDiaを10とした。
【0082】
第1のシミュレーションにおいては、上記の混合色の近似色DN−85を基材の色(被塗物の色)とし、基材上に上記の多彩模様塗膜形成用塗料を塗装して得られた多彩模様塗膜をシミュレーションした。塗布量は、塗装時の通常のばらつきの上限を考慮して、70%、100%、130%とした。ここでいう「100%」の塗布量は、標準塗布量、すなわち、標準塗布量から変動のない場合に対応する。さらに、式1を基に、標準塗布量の場合、250×250ピクセルからなる領域に描画する着色粒子の総数NTを計算した。
NT=画像全体の画素数×着色粒子の割合×実行効率×係数
=250×250×0.3×0.6×0.4=4500
第2のシミュレーションにおいては、日塗工番号DN−60に規定されている色を基材の色として使用する以外、その他の条件は、第1のシミュレーションにおける条件と同一とした。すなわち、第1のシミュレーションでは、3色の着色粒子の色を併置加法混色した色を基材の色としたが、第2のシミュレーションでは、デザイナーによって任意に選択された一意匠色を基材の色とした。したがって、2通りのシミュレーションに使用される条件をまとめると、表4のとおりである。
【0083】
【表4】
上記のシミュレーション条件を基に、図4に示したフローチャートのステップS4〜ステップS8を実施し、表5〜表7、及び図7に示すシミュレーションの結果を得た。
【0084】
【表5】
表5に示すように、250×250=63500ピクセルという同じサイズの画像内に、100%という標準塗布量の場合に、描画する多角形の数が4500個に対し、70%の塗布量の場合は、多角形の数が3150個であり、130%の塗布量の場合は、多角形の数が5850個であった。そして、描画された画素が互いに重なり合った場合には一回のみカウントするものとして、画像内に全多角形が占めた面積の比率、すなわち、斑の面積(%)を計算した。70%、100%、130%の塗布量に対応して、それぞれの斑の面積は49%、72%、及び87%であった。斑の面積を求める最も簡単な方法は、画像領域内の全画素に関して、描画が行われた画素にフラグ(=1)を設定し、フラグの数をカウントし、その結果を全画素の数で除算して、斑の面積とする方法である。なお、ここでは、ノイズ描画のときに描画された画素を考慮せずに、多角形が描画された画素のみ考慮して斑の面積を求めても良い。それは、斑を表す多角形の描画される画素数がノイズの描画される画素数よりはるかに多いことにより、ノイズ描画を考慮しなくても良いためである。
【0085】
表6には、各シミュレーションにおいて得られた異なる塗布量に対応する多彩模様塗膜の画像の平均RGB値、平均RGB値より変換されたXYZ(rgb)値及びL(rgb)値を示している。さらに、塗布量が100%の場合に得られたL(rgb)値を基準値に、塗布量が70%の場合のL(rgb)値及び塗布量が100%の場合のL(rgb)値のそれぞれと基準L(rgb)との間の幾何学距離を示している。この幾何学距離は、塗布量が70%の場合又は100%の場合の多彩模様塗膜の画像と標準塗布量の多彩模様塗膜の画像との間の色差dE(rgb)である。表6から分かるように、基材の色が併置加法混合色のDN−85の場合、塗布量が70%及び100%の間では、1.27の色差が生じ、塗布量が130%及び100%の間では、2.09の色差が生じた。また、任意に選択された意匠色(DN−60)を基材の色としたシミュレーション2では、塗布量が70%及び100%の間では、4.21の色差が生じ、塗布量が130%及び100%の間では、2.90の色差が生じた。
【0086】
一般に、多彩模様では色差が3以上になると、膜厚変動による色差が遠くからでも目立つため、塗装作業性の観点から色差が3以下の塗膜を合格の塗膜とする。したがって、上記の2つのシミュレーションの場合、基材の色がDN−85のときには、塗布量が上下に30%変動しても、得られた塗膜は許容できる品質を有するが、基材の色がDN−60のときには、塗布量が上下に30%変動すれば、得られた塗膜はその色差が許容できないレベルになることが分かる。
【0087】
【表6】
上記2通りのシミュレーション結果をさらに図7に示している。図7は、標準塗布量からの変動によって生じた膜厚の変動に伴う色差を、多彩模様塗膜の画像及び対応する平均RGB画像とともに示すCG画像である。図7の(a)は、基材の色が併置加法混合色のDN−85の場合の第1のシミュレーションに対応し、図7の(b)は、基材の色が任意に選択された意匠色(DN−60)の場合の第2のシミュレーションに対応する。(a)及び(b)のそれぞれの中央の画像は、標準塗布量の場合に対応する。なお、各多彩模様塗膜の画像の下側には対応の平均RGB値の画像を示し、平均RGB値の画像にはさらに塗布量及び色差を示している。
【0088】
このように、表6の予測値のみによって、たとえば色差が3以下の多彩模様塗膜を合格とすることができる。図7をさらに考慮すれば、目視により、合格とする多彩模様塗膜をさらに吟味し、選択することが可能となる。このように、シミュレーションを介した色差の予測により、異なる基材の色を有する多彩模様塗膜間の比較が容易になり、また、色域が広い多彩模様塗膜が選択可能になる。さらに、所定の多彩模様塗膜が塗布量の変動のみによって作製されることができる。
【0089】
また、上記と同様なシミュレーションを、基材の色がそれぞれ日塗工番号DN−70、DN−75、DN−80、日塗工番号DN−90、日塗工番号DN−95の場合に関しても行った。これらの5つのシミュレーションの結果を、前述の2つのシミュレーションの結果とともに表7にまとめた。
【0090】
【表7】
表7から分かるように、塗布量が標準の70%及び標準の130%の二つの場合において色差がともに3以下であれば、塗膜が合格とする場合、基材の色が日塗工番号DN−60、DN−90、DN−95に規定されている色である場合の多彩模様塗膜が不合格になる。すなわち、基材の色が併置加法混色方法で得られた混色から隔たりがあるほど、色差が大きくなりやすくなるという傾向があると言える。
【0091】
平均RGB値より計算された各多彩模様塗膜の明度L*(rgb)と花崗岩の写真より測定された明度(=84.00)とを比較した結果を、表7の右側の欄に示した。これらのシミュレーションの結果は、写真よりやや暗い多彩模様塗膜の方が色差が小さいことを示している。
【0092】
参考のために、本実施例に関わる各種の3刺激値を表8にまとめて示す。このような3刺激値は、データベース化してシステムに記憶することができる。
【0093】
【表8】
【符号の説明】
【0094】
1 色差予測装置
2 表示装置
11 CPU
12 メモリ
13 記録部
14 操作部
15 I/F部
図3
図4
図6
図1
図2
図5
図7