特許第5762290号(P5762290)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5762290
(24)【登録日】2015年6月19日
(45)【発行日】2015年8月12日
(54)【発明の名称】作業用手袋
(51)【国際特許分類】
   A41D 19/00 20060101AFI20150723BHJP
【FI】
   A41D19/00 Z
   A41D19/00 P
   A41D19/00 A
【請求項の数】8
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2011-527625(P2011-527625)
(86)(22)【出願日】2010年8月2日
(86)【国際出願番号】JP2010062999
(87)【国際公開番号】WO2011021494
(87)【国際公開日】20110224
【審査請求日】2013年7月30日
(31)【優先権主張番号】特願2009-189627(P2009-189627)
(32)【優先日】2009年8月19日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】591161900
【氏名又は名称】ショーワグローブ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001298
【氏名又は名称】特許業務法人森本国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岸原 英敏
【審査官】 笹木 俊男
(56)【参考文献】
【文献】 実開昭62−170717(JP,U)
【文献】 特開2007−039839(JP,A)
【文献】 特開2008−013874(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A41D 13/00
A41D 13/08 〜 13/10
A41D 19/00 〜 19/04
D02G 3/04
D02G 3/28
D02G 3/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィラメント糸と導電性繊維とを含む複合糸によって手袋の全体または一部分が編まれたものであり、
前記複合糸に含まれるフィラメント糸全体の伸縮復元率が010%であり、
前記導電性繊維は、合成繊維の表面にピロールを重合した繊維、合成繊維の表面に硫化銅を被覆した繊維、またはカーボンをポリエステル繊維もしくはナイロン繊維へ練り込んで得られた繊維であり、
JIS B 9923(タンブリング法)に従って測定される、10枚の手袋から発塵した、1cft当たりの気中に浮遊している0.5μm以上のパーティクルの個数が10個未満であり、
手袋の表面抵抗値が1×10〜1×1010Ω/sq.であることを特徴とする作業用手袋。
【請求項2】
フィラメント糸が芯糸であり、導電性繊維が前記芯糸の周囲に巻き付けられたカバーリング糸であることを特徴とする請求項1記載の作業用手袋。
【請求項3】
フィラメント糸が芯糸であり、導電性繊維が前記芯糸に添えられた添え糸であり、これら芯糸と添え糸とがカバーリング糸でカバーリングされていることを特徴とする請求項1記載の作業用手袋。
【請求項4】
導電性繊維が芯糸であり、フィラメント糸が前記芯糸の周囲に巻き付けられたカバーリング糸であることを特徴とする請求項1記載の作業用手袋。
【請求項5】
複合糸は、フィラメント糸と導電性繊維とが合撚されたものであることを特徴とする請求項1記載の作業用手袋。
【請求項6】
導電性繊維は、合撚糸の形態であることを特徴とする請求項1から5までのいずれか1項記載の作業用手袋。
【請求項7】
指先部分、掌部分、または表面の全体が、合成ゴムまたは樹脂で被覆されていることを特徴とする請求項1から6までのいずれか1項記載の作業用手袋。
【請求項8】
捲縮加工糸の伸縮復元率を低下させる工程と、
伸縮復元率を低下させた捲縮加工糸を少なくとも一部に含有し、全体の伸縮復元率が0〜10%であるフィラメント糸を得る工程と、
合成繊維の表面にピロールを重合した繊維、合成繊維の表面に硫化銅を被覆した繊維、またはカーボンをポリエステル繊維もしくはナイロン繊維へ練り込んで得られた繊維を、導電性繊維として準備する工程と、
前記フィラメント糸と導電性繊維とを用いて複合糸を得る工程と、
前記複合糸を、手袋であって、
JIS B 9923(タンブリング法)に従って測定される、10枚の手袋から発塵した、1cft当たりの気中に浮遊している0.5μm以上のパーティクルの個数が10個未満であり、
手袋の表面抵抗値が1×10〜1×1010Ω/sq.である
手袋に編み上げる工程と、
を有することを特徴とする作業用手袋の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体製造工程、塗装工程またはクリーンルーム内作業など、導電性と低発塵性とが要求される分野において使用される作業用手袋およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体製造工程、塗装工程またはクリーンルーム内作業などにおいては、導電性を有する作業用手袋が用いられている。このような作業用手袋には、カーボンをポリエステルやナイロン繊維に練り込んで得られた導電性繊維が用いられている。また、このような作業用手袋には、アクリル繊維を硫化銅で染色したりポリピロールで被覆したりして得られた導電性繊維をウーリーナイロン、ウーリーポリエステル等のフィラメント糸に編み込んで得られた複合糸なども用いられている。さらに、滑り防止を目的として、このような手袋の指先部分や掌部分を、ポリウレタン樹脂もしくは合成ゴムなどで被覆した作業用手袋なども使用されている。
【0003】
例えば、JP2009−102779Aには、合成繊維の表面に金属性皮膜層が形成された導電性糸材が、手指部や手背部に縫い付けられた手袋が開示されている。日本国実用新案登録3042096号には、プラチナを主成分にシリカやアルミナなどの鉱物を配合した材料から得られる電磁波繊維製の糸素材と銅イオン性繊維製の糸素材とを互いに絡ませながら織り込まれた導電性繊維生地が記載されている。さらに該導電性繊維生地から製造された手袋や布帛などが開示されている。JP2006−63456Aには、導電性糸が用いられた手袋が開示されている。日本国実用新案登録公開平6−54720号公報には、電気抵抗値が10Ω/cm以下である導電性糸条が、手袋の指を形成する部分に用いられることが開示されている。上記したいずれの手袋においても、一定レベルの導電性と低発塵性が得られている。
【0004】
しかしながら、上述した公知の手袋には、導電性繊維をフィラメント糸にそのまま編み込んで得られた複合繊維が用いられている。このような手袋は、導電性繊維の物性に起因して、着用時に十分なフィット感を有するほどの伸縮性を得ることができなかった。また、導電性繊維が高価であるため、得られた複合糸や手袋などにおいても、コストアップの問題が存在していた。
【0005】
静電気の防止または抑制、あるいはコストダウンを目的として、ウーリーナイロン繊維やウーリーポリエステル繊維などのフィラメント糸に導電性繊維をカバーリングすることによって得られた複合糸や、該複合糸が用いられた作業用手袋が提案されている。カバーリングとは、芯となる糸の外周に巻き糸となる糸を一定の間隔で巻いていき複合糸を得る方法である。カバーリングは、合撚などにより複合糸を得る場合と比較すると、必要とされる糸の長さが短いので、コスト的なメリットが期待できる。また、カバーリングの機械は、合燃機械と比較すると広く市場に出回っており汎用されているため、生産性の観点からも有効である。
【0006】
ところが、このような複合糸からなる手袋を着用して作業を行う場合には、作業中の摩擦や摩耗によって、該手袋中の導電性繊維が脱離するという問題があった。そのため、例えば、半導体製造工程などにおいて、脱離した導電性繊維に起因する半導体基板の絶縁破壊などのトラブルが発生する場合があった。
【0007】
手袋中の導電性繊維が脱離する原因は、以下の通りであると推測される。従来の静電気対策用手袋は、手袋のフィット性を増すために、通常、Japanese Industrial Standard L 1013に従って測定される伸縮復元率が20%〜50%の捲縮加工されたフィラメント糸(例えば、ウーリーナイロン糸など)を芯糸に使用し、導電性繊維を巻き糸に使用している。このようなフィラメント糸を用いた場合には、カバーリングにより複合糸を得る際や、該複合糸から手袋を製造する際には、工程上、糸に張力を付与しながらの作業が必要となる。この張力は作業後に取除かれる。すると、該フィラメント糸が元に戻るに伴い、カバーリングした戻りの小さい導電性繊維が、複合糸の表面から外に飛び出してしまう。そして、外に飛び出した導電性繊維が、摩擦や磨耗により脱離し易くなると推測される。特に、導電性繊維の太さがフィラメント糸の太さよりも細い場合は、導電性繊維が複合糸の表面から飛び出す現象がより顕著なものとなる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、作業時の摩擦や磨耗による導電性繊維の脱離を防止するために、カバーリング後や手袋の製造後に張力を除いた後においても、戻りの小さい導電性繊維が外側に飛び出すことを抑制することが必要であった。
【0009】
本発明の課題は、上記問題に鑑み、導電性繊維の脱離が長期にわたって防止され、導電性と低発塵性を兼ね備えた作業用手袋を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、導電性繊維の回復性(復元性)と、該導電性繊維に組み合わせられて複合糸を構成するフィラメント糸の回復性(復元性)とを近づけることを見出した。その結果、導電性繊維の脱離が防止された複合糸や、該複合糸から得られる作業用手袋および布帛を得ることが可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。なお、フィラメント糸は、芯糸としての導電性繊維に巻きつけられるカバーリング糸、カバーリング糸としての導電性繊維が巻き付けられる芯糸、芯糸としての導電性繊維に添えられる添え糸、導電性繊維と撚り合わせられて合燃糸となる糸などとなるものである。
【0011】
すなわち、本発明は、以下の(1)〜()を要旨とするものである。
(1)フィラメント糸と導電性繊維とを含む複合糸によって手袋の全体または一部分が編まれたものであり、
前記複合糸に含まれるフィラメント糸全体の伸縮復元率が010%であり、
前記導電性繊維は、合成繊維の表面にピロールを重合した繊維、合成繊維の表面に硫化銅を被覆した繊維、またはカーボンをポリエステル繊維もしくはナイロン繊維へ練り込んで得られた繊維であり、
JIS B 9923(タンブリング法)に従って測定される、10枚の手袋から発塵した、1cft当たりの気中に浮遊している0.5μm以上のパーティクルの個数が10個未満であり、
手袋の表面抵抗値が1×10〜1×1010Ω/sq.であることを特徴とする作業用手袋。
(2)フィラメント糸が芯糸であり、導電性繊維が前記芯糸の周囲に巻き付けられたカバーリング糸であることを特徴とする(1)の作業用手袋。
(3)フィラメント糸が芯糸であり、導電性繊維が前記芯糸に添えられた添え糸であり、これら芯糸と添え糸とがカバーリング糸でカバーリングされていることを特徴とする(1)の作業用手袋。
(4)導電性繊維が芯糸であり、フィラメント糸が前記芯糸の周囲に巻き付けられたカバーリング糸であることを特徴とする(1)の作業用手袋。
(5)複合糸は、フィラメント糸と導電性繊維とが合撚されたものであることを特徴とする(1)の作業用手袋。
(6)導電性繊維は、合撚糸の形態であることを特徴とする(1)から(5)までのいずれかの作業用手袋。
(7)指先部分、掌部分、または表面の全体が、合成ゴムまたは樹脂で被覆されていることを特徴とする(1)から(6)までのいずれかの作業用手袋。
(8)捲縮加工糸の伸縮復元率を低下させる工程と、
伸縮復元率を低下させた捲縮加工糸を少なくとも一部に含有し、全体の伸縮復元率が0〜10%であるフィラメント糸を得る工程と、
合成繊維の表面にピロールを重合した繊維、合成繊維の表面に硫化銅を被覆した繊維、またはカーボンをポリエステル繊維もしくはナイロン繊維へ練り込んで得られた繊維を、導電性繊維として準備する工程と、
前記フィラメント糸と導電性繊維とを用いて複合糸を得る工程と、
前記複合糸を、手袋であって、
JIS B 9923(タンブリング法)に従って測定される、10枚の手袋から発塵した、1cft当たりの気中に浮遊している0.5μm以上のパーティクルの個数が10個未満であり、
手袋の表面抵抗値が1×10〜1×1010Ω/sq.である
手袋に編み上げる工程と、
を有することを特徴とする作業用手袋の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明においては、導電性繊維に組み合わせられて複合糸を構成するフィラメント糸のJapanese Industrial Standard L 1013にて測定される伸縮復元率を0〜10%に規定する。その結果、導電性繊維の回復性(復元性)とそれに組み合わせられて複合糸を構成するフィラメント糸の回復性(復元性)を、ほぼ一致させることが可能となる。これにより、導電性繊維を芯糸として用いた場合、カバーリング糸として用いた場合、芯糸の添え糸として用いた場合のいずれの場合においても、カバーリング後に張力を除く際に、戻りの小さい導電性繊維が外に飛び出すことが防止される。その結果、摩擦や磨耗による導電性繊維の脱離を抑制することができる。加えて、長期間にわたる実使用においても、導電性繊維の脱離を効果的に抑制することが可能である。従って、導電性と低発塵性とを兼ね備えた作業用手袋を得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】芯糸がフィラメント糸でありカバーリング糸が導電性繊維である複合糸と、該複合糸にかかる張力が除かれた場合の対比を示す概略図である。
図2】フィラメント糸である芯糸と導電性繊維である添え糸がフィラメント糸でカバーリングされている複合糸と、該複合糸にかかる張力が除かれた場合の対比を示す概略図である。
図3】フィラメント糸が複数本引き揃えられてなる芯糸が導電性繊維でカバーリングされた複合糸と、該複合糸にかかる張力が除かれた場合の対比を示す概略図である。
図4】芯糸である導電性繊維がフィラメント糸でカバーリングされた複合糸と、該複合糸にかかる張力が除かれた場合の対比を示す概略図である。
図5】導電性繊維が複数本引き揃えられてなる芯糸がフィラメント糸でカバーリングされた複合糸と、該複合糸にかかる張力が除かれた場合の対比を示す概略図である。
図6】掌部分が樹脂により被覆された本発明の作業用手袋を示す概略図である。
図7】フィラメント糸の伸縮復元率を測定するに際し、(0.176mN×20×表示テックス数)の荷重7と(8.82mN×20×表示テックス数)の荷重8とをかけた試料6を、水中に垂下する状態を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の作業用手袋は、複合糸によって手袋の全体または一部分が編まれたものである。該複合糸は、導電性繊維と、該導電性繊維と組み合わせられる糸(すなわち、芯糸としての導電性繊維に巻きつけられるカバーリング糸、カバーリング糸としての導電性繊維が巻き付けられる芯糸、芯糸としての導電性繊維に添えられる添え糸、導電性繊維と撚り合わせられて合燃糸となる糸など)を含むものである。
【0015】
本発明に用いられる導電性繊維は、低発塵性の観点から、フィラメント糸(つまり、長繊維)であることが好ましい。
【0016】
導電性繊維としては、アクリル繊維などの合成繊維表面にピロールなどを重合した繊維、アクリル繊維表面に硫化銅などを被覆した繊維、カーボンをポリエステル繊維やナイロン繊維へ練り込んで得られた繊維などが挙げられる。
【0017】
なかでも、手袋としての風合いの向上や静電気対策上の要望の観点からは、アクリル繊維などの合成繊維表面に硫化銅などを被覆した繊維、カーボンをポリエステル繊維やナイロン繊維へ練り込んだ繊維が好ましい。
【0018】
導電性繊維は、発塵量と脱離量を低減する観点から、合撚糸であることが好ましい。かかる場合は、導電性繊維と非導電性繊維とを合撚してなるものであってもよいし、導電性繊維のみを合撚してなるものであってもよい。なかでも、導電性繊維と非導電性繊維とを合撚してなるものであれば、脱離しても絶縁破壊を生じず安全であるため好ましい。
【0019】
導電性繊維が導電性繊維と非導電性繊維との合撚糸である場合には、Japanese Industrial Standard L 1013にて測定される伸縮復元率が0〜10%であるフィラメント糸と導電性繊維を合撚してなるものが好ましく、伸縮復元率が0〜7%であるフィラメント糸と導電性繊維を合撚してなるものがより好ましい。導電性繊維と合撚されるフィラメント糸の伸縮復元率が10%を超えると、発塵量と脱離量が多くなる場合があるため好ましくない。また、伸縮復元率が0%未満であるフィラメント糸は、実質的には存在しない。
【0020】
本発明における伸縮復元率は、糸の回復性(復元性)の指標として用いられるものであり、その測定方法は、実施例において後述する。
【0021】
導電性繊維とフィラメント糸を合撚して合撚糸を得る場合は、1mあたり50回から700回合撚してなる合撚糸が好ましく、100〜500回合撚してなる合撚糸がより好ましい。合撚回数が50回未満であると、糸としての屈曲性に劣り、さらに合撚機械で良好に合撚できず、生産性が低下する場合がある。一方、合撚回数が700回を超えると、得られる合撚糸が硬くなりすぎ実用的でない場合がある。
【0022】
導電性繊維に複合されて複合糸を構成する糸は、糸端部の複合糸からの飛び出しを防止する観点から、フィラメント糸、すなわち長繊維であることが必要である。フィラメント糸としては、ポリエステル、アクリル、強化ポリエチレン、アラミド、ナイロンなどから形成された繊維を、単独で使用したものでもよいし、もしくは二種以上を併用したものでもよい。
【0023】
該フィラメント糸を、複合糸の芯糸や添え糸として用いる場合は、その太さは1本あたり50d〜450dが好ましく、50d〜200dがより好ましい。太さが50d未満である場合は、芯糸や添え糸とした場合の安定感や強度に劣る場合がある、一方、太さが450dを超えると、硬くなり過ぎて、複合糸とした場合の風合いや触感に劣る場合がある。
【0024】
該フィラメント糸を、複合糸のカバーリング糸として用いる場合には、その太さは1本あたり2d〜5dが好ましく、1.3d〜2.9dがより好ましい。太さが2d未満である場合は、発塵量と脱離量が多くなる場合があり、一方、太さが5dを超えると、風合いが悪くなる場合がある。
【0025】
フィラメント糸の伸縮復元率は、捲縮加工などにより得られた糸であれば、通常、20〜50%程度である。本発明においては、導電性繊維の伸縮復元率と、該導電性繊維と複合されるフィラメント糸の伸縮復元率の値とを近づけることが必要である。このようにすることにより、複合糸とした場合の導電性繊維の脱離を抑制することが必須である。導電性繊維の伸縮復元率は、通常1〜5%程度であるため、複合されるフィラメント糸の伸縮復元率は0〜10%であることが必要であり、0.1〜10%が好ましく、1〜7%がより好ましい。なお、このフィラメント糸が、伸縮復元率の異なる複数の糸から構成される場合は、フィラメント糸全体の伸縮復元率が上記範囲を満たすことが必要である。
【0026】
一般的には、導電性繊維と、該導電性繊維と組み合わせて用いられる(すなわち、複合される)その他の糸との回復性(復元性)をほぼ一致させるためには、たとえば、該導電性繊維を捲縮加工すればよいと考えられる。しかしながら、銅染色繊維やカーボンを練り込んだ導電性繊維であると、素材の性質上、伸縮性を持たせる捲縮加工を行うことが困難である。たとえ伸縮性が得られたとしても、その伸縮復元率は2〜3%程度の低い値となってしまい、作業用手袋とした際のフィット感が得られなくなるため実用的ではない。従って、本発明のように、導電性繊維と組み合わせて用いられるフィラメント糸全体の伸縮復元率を0〜10%とすることが必要なのである。
【0027】
フィラメント糸としては、生糸の状態であっても、伸縮復元率が上記の範囲を満足していれば利用できる。しかしながら、わずかに伸縮性がある方が手袋にした時のフィット感が向上するので、捲縮加工糸の伸縮復元率を低下させて、フィラメント糸として用いることが好ましい。
【0028】
フィラメント糸は、伸縮復元率が上記の範囲内である市販品を用いてもよいし、伸縮復元率が上記の範囲を超えるフィラメント糸の伸縮復元率を低下させて、上記の範囲内としたものを用いてもよい。フィラメント糸の伸縮復元率を低下させる方法としては、たとえば、以下のようなものが挙げられる。
【0029】
まず、フィラメント糸を巻き密度0.2〜0.3g/cmとなるようにボビンにソフト巻きし、約70〜100℃で0.17〜1時間の湯洗いを行う。次いで、1〜30分間脱水し、60〜100℃で40〜300分間の乾燥を行う。このように熱処理することにより、フィラメント糸の伸縮復元率を低下させることができる。このような処理は、例えば、公知の染色機を流用して行うことができる。
【0030】
なお、上記の条件は、フィラメント糸を構成する材質などにより、適宜調整することが可能である。
【0031】
カバーリングに用いられるカバーリング糸としては、たとえば、上記の導電性繊維が用いられてもよいし、ポリエステル、強化ポリエチレン、アラミド、ナイロン、アクリル製繊維の生糸、もしくはこれらを捲縮加工した捲縮加工糸などが用いられてもよい。
【0032】
本発明における複合糸の構成としては、以下の(i)〜(v)が挙げられる。複合糸の構成(i)〜(v)を、図1図5を用いて説明する。
【0033】
(i)フィラメント糸を芯糸とし、導電性繊維が、カバーリング糸として、前記芯糸の周囲に巻き付けられた構成である。図1の(a)は、(i)の構成を有する複合糸を示すものである。すなわち、フィラメント糸1を芯糸とし、この芯糸を導電性繊維2でカバーリングすることにより得られた複合糸を示している。カバーリング後や手袋などを製造した後に、張力を除いた場合であっても、図1の(b)に示すように、戻りの小さい導電性繊維2が外側に飛び出すことが抑制されている。
【0034】
(ii)フィラメント糸を芯糸とし、導電性繊維を前記芯糸に添えられた添え糸とし、これら芯糸と添え糸とがカバーリング糸でカバーリングされている構成である。図2の(a)は、(ii)の構成を有する複合糸を示すものである。すなわち、フィラメント糸1を芯糸とし、導電性繊維2を添え糸とし、前記芯糸と添え糸をフィラメント糸1でカバーリングすることにより得られた複合糸を示している。カバーリング後や手袋などを製造した後に、張力を除いた場合であっても、図2の(b)に示すように、戻りの小さい導電性繊維2が外側に飛び出すことが抑制されている。
【0035】
(iii)フィラメント糸を複数本引き揃えたものを芯糸とし、導電性繊維が、カバーリング糸として前記芯糸の周囲に巻き付けられた構成である。つまり、上記構成(i)の場合において、芯糸が複数本である構成である。図3の(a)は、(iii)の構成を示すものである。すなわち、フィラメント糸1を複数本引き揃えて芯糸とし、前記芯糸を導電性繊維2でカバーリングすることにより得られた複合糸を示している。カバーリング後や手袋などを製造した後に、張力を除いた場合であっても、図3の(b)に示すように、戻りの小さい導電性繊維2が外側に飛び出すことが抑制されている。
【0036】
(iv)導電性繊維と芯糸とし、フィラメント糸が、カバーリング糸として、前記芯糸の周囲に巻きつけられた構成である。図4の(a)は、(iv)の構成を有する複合糸を示すものである。すなわち、導電性繊維2を芯糸とし、前記芯糸をフィラメント糸1でカバーリングすることにより得られた複合糸を示している。カバーリング後や手袋などを製造した後に、張力を除いた場合であっても、図4の(b)に示すように、戻りの小さい導電性繊維2が外側に飛び出すことが抑制されている。
【0037】
(v)導電性繊維を複数本引き揃えたものを芯糸とし、フィラメント糸が、カバーリング糸として前記芯糸の周囲に巻き付けられた構成である。つまり、上記(iv)の場合において、芯糸が複数本である構成である。図5の(a)は、(v)の構成を有する複合糸を示すものである。すなわち、導電性繊維2を複数本引き揃えて芯糸とし、前記芯糸をフィラメント糸1でカバーリングすることにより得られた複合糸を示している。カバーリング後や手袋などを製造した後に、張力を除いた場合であっても、図5の(b)に示すように、戻りの小さい導電性繊維2が外側に飛び出すことが抑制されている。
【0038】
複合糸中のフィラメント糸全体の伸縮復元率が10%を超えると、図1の(b)、図2の(b)、図3の(b)、図4の(b)、図5の(b)と比較して、導電性繊維が複合糸表面または手袋表面から飛び出す現象が顕著となる。すなわち、本発明においては、複合糸中のフィラメント糸全体の伸縮復元率を0〜10%に規定しているため、導電性繊維の複合糸表面または手袋表面からの飛び出しを抑制できるのである。
【0039】
上記のなかでも、導電性繊維の脱離を効果的に抑制する観点から、(i)の構成を有する複合糸が最も好ましい。
【0040】
カバーリング回数は芯1mあたり50〜700回程度が好ましく、より好ましくは、100〜500回であり、さらに好ましくは200〜400回である。カバーリング回数が700回を超えると、複合糸が硬くなり、編みにくく、手袋としての風合いが悪くなる場合がある。カバーリング回数が50回未満であると、公知慣用のカバーリング用機器ではカバーリングが不可能であり、複合糸の生産ができない場合がある。
【0041】
カバーリングするに際し、その巻き方としては、S字巻きやZ字巻きなどが挙げられる。なお、カバーリングする際には、芯糸の逆巻き(つまり、芯糸がS巻きならZ巻きにカバーリング糸を巻く巻き方、芯糸がZ巻きならS巻きにカバーリング糸を巻く巻き方)をすることにより、複合糸および編み製品の撚りがなくなり、良好な仕上がりとなるため好ましい。
【0042】
なお、導電性繊維あるいはその合撚糸をカバーリング糸として用いると、導電性繊維が複合糸表面や手袋表面に露出する面積が大きくなる。その結果、表面抵抗率を下げる効果が向上する。しかしながら、その一方で、導電性繊維が複合糸表面や手袋表面に露出する面積が大きくなるため、導電性繊維の脱離量が多くなる。したがって、導電性繊維の脱離量を抑える観点からは、導電性繊維あるいはその合撚糸は、カバーリング糸としては用いず、芯糸、添え糸、撚り合わせる糸に用いることが好ましい。
【0043】
上記のような構成を有する複合糸は、以下のような方法により得られる。
【0044】
すなわち、フィラメント糸の伸縮復元率を、上述のような方法により0〜10%に低下させる工程と、伸縮復元率を低下させたフィラメント糸を少なくとも一部に含有し全体の伸縮復元率が0〜10%であるフィラメント糸を必要に応じて得る工程と、前記フィラメント糸と導電性繊維と用いて、カバーリングや合撚などにより複合糸を得る工程とを経ることにより得られる。
【0045】
上述のようにして得られた複合糸を編むことにより、本発明の作業用手袋や布帛を得ることができる。なお、本発明において、布帛とは、編物、織物、不織布などを称する。
【0046】
複合糸の編み方としては、公知慣用の方法や装置を用いて、手袋全体を上述の複合糸だけで編む方法であってもよいし、もしくは手袋の一部分たとえば指先を選択して複合糸で編む方法であってもよい。作業用手袋の一部分を上述の複合糸で編む場合には、例えば、複合糸とフィラメント糸を1:1〜1:10コースで編む(すなわち、複合糸で1段編み、それに続く1段〜10段をフィラメント糸で編む)ことも好ましい。複合糸は、導電性繊維を含むことで導電性繊維を含まない場合に比べて伸縮性が低下する。従って、複合糸とフィラメント糸を1:1〜1:10コースで編むことにより、伸縮復元率の高い(たとえば50%程度の)フィラメント糸やポリウレタン弾性糸のみで編む部分を選択的に含めることができる。その結果、作業用手袋や布帛などとしてのフィット感や風合いを向上させることができる。加えて、作業用手袋や布帛全体に、均一な帯電性を付与することが可能となる。
【0047】
複合糸を用いて、本発明の作業用手袋や布帛を得る場合、その表面抵抗値は、1×10〜1×1010Ω/sq.であることが必要で、好ましくは1×10〜1×10Ω/sq.である。表面抵抗値がこの範囲であると、静電気を緩やかに拡散することができるため好ましい。表面抵抗値が1×10Ω/sq.未満であると、導電性繊維が脱離する場合に、感電したりショートしたりする場合がある。一方、表面抵抗値が1×1010Ω/sq.を超えると、静電気放電による絶縁破壊が発現する場合がある。複合糸を編む場合の編み方(つまり、複合糸とフィラメント糸のコース数の割合)や、複合糸中の導電性繊維とフィラメント糸の混繊率を適宜調整することにより、表面抵抗値を上記の範囲に制御することができる。
【0048】
複合糸を編むことにより得られた作業用手袋、または複合糸を編むことにより得られた布帛を縫製して得られた作業用手袋においては、指先部分、掌部分、もしくは全体の表面を、合成ゴムあるいは樹脂などを用いて滑り防止を目的とした加工が施されていてもよい。
【0049】
滑り防止加工としては、たとえば、指先部分もしくは掌部分に、ポリウレタン樹脂や合成ゴム等で滑り止め皮膜を形成したり、合成ゴムやPVC系重合体等で滑り止め凸部を形成したりする加工が挙げられる。たとえば、得られた手袋を手の形をした浸漬型に被せ、ポリウレタン製樹脂溶液などに浸漬し、水置換、乾燥する。このような方法により、指先部分もしくは掌部分に、ポリウレタン樹脂や合成ゴム等で滑り止め皮膜を形成したり、合成ゴムやPVC系重合体等で滑り止め凸部を形成したりすることができる。
【0050】
図6の(a)は、上記のような滑り防止加工が施された手袋を甲部分から見た図である。図6の(b)は、滑り防止加工が施された手袋を掌部分から見た図である。手袋3において掌部分は、樹脂4により被覆されている。
【0051】
合成ゴムとしては、NBR、クロロプレン、アクリル、ポリウレタン、酢酸ビニル−PVC共重合体、PVC単独重合体などが挙げられる。
【0052】
また、合成ゴムコンパウンドや酢酸ビニル−PVC共重合体、PVC単独重合体を、手袋の掌部において、スキージーすることにより、凸状の孔版が印刷して滑り止め加工が施されていてもよい。
【0053】
また、得られた手袋に上記の滑り防止加工を施す際には、樹脂等が手袋表面に浸漬しすぎることを防止するため、目止めを行ってもよい。具体的には、硝酸カルシウム凝固剤につけた手型をNBR、クロロプレン、アクリル、ポリウレタンなどの合成ゴムゴンパウンドに浸漬し、乾燥し、リーチング、キュアをすることにより、目止めを行うことができる。または、目止めの他の方法としては、浸漬・乾燥後、製品を離型して、リーチング、脱水、キュアをする方法であってもよい。
【0054】
本発明の複合糸、該複合糸から得られる作業用手袋や布帛は、半導体製造工程、塗装工程またはクリーンルーム内作業など、導電性と低発塵性が要求される分野において、特に好適に使用される。
【実施例】
【0055】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明する。これらの実施例は本発明を限定する意図のものではない。
【0056】
実施例および比較例に用いられる評価方法を下記に示す。
1.表面抵抗値
実施例および比較例にて得られた手袋から、直径約8cmの円状の編地を切り出し試験片とした。該試験片を表面抵抗値測定装置(MONROE ELECTRONICS社製、「272A型」)(印加電圧:10V)にセットし、15秒後の値を読み取って表面抵抗値とした。15秒後の値を読み取る場合、EN1149−1に一部準拠した。測定条件は、室温23℃、湿度45%とした。
2.導電性繊維の脱離量
2.1 発塵性試験
実施例および比較例で得られた手袋を、各々1000枚準備した。準備した手袋を、50gのノニオン系活性剤(ゲンブ社製、商品名「スーパーL」)を純水113Lに入れた洗液で15分間洗い、次いで、超純水で3回すすいでクリーン洗浄を行った。クリーン洗浄後、Japanese Industrial Standard B 9923(タンブリング法)に従って、10枚の手袋から発塵した1cft当たりに気中に浮遊している0.5μm以上のパーティクルの個数(手袋10枚分のパーティクルの個数)を測定した。測定値を繊維の脱離量に対応するとして評価した。
【0057】
本発明においては、浮遊しているパーティクルの個数が、10個未満であるものが実用に耐えうるものであるとする。
2.2 粘着テープ強制剥離試験
実施例および比較例で得られた手袋を、各々3枚準備した。準備した手袋のうち、学振型染色堅ろう度試験機(大栄科学精器製作所社製、商品名「RT−200」)を用い、1枚を綿白布で100回摩擦し、別の1枚を綿白布で300回摩擦した。次いで、摩擦していない手袋、100回摩擦した手袋、300回摩擦した手袋に、それぞれ粘着テープ(ニチバン社製、「セロハンテープ」)(サイズ:20mm×20mm)を、荷重300gにて5秒かけて貼り付けた後剥がす、という操作を、同一の粘着テープを用いて5回繰り返した。その後、粘着テープ表面をマイクロスコープ(KEYENCE社製、商品名「VHX−900」)で観察して、付着した導電性繊維の本数をカウントした。この本数の測定値を、繊維の脱離量に対応するものとして評価した。
【0058】
本発明においては、付着した導電性繊維の本数が10本未満であるものが実用に耐えうるものであるとする。
3.伸縮復元率
Japanese Industrial Standard L 1013にて定義される伸縮復元率測定法を、図7を用いて以下に説明する。
【0059】
実施例および比較例で得られた手袋を構成する複合糸から、フィラメント糸を採取して、フック5に巻きかけ、(0.176mN×表示テックス数)の荷重7をかけ、かせ長約40cm、巻き数10回の小かせを作り、合計で20本の糸束となる試料6とした。次いで、60℃の水に20分間漬浸してから水切りし、ろ紙上で24時間自然乾燥させた。この試料6を、図7にて示すように、(0.176mN×20×表示テックス数)の荷重7に、さらに(8.82mN×20×表示テックス数)の荷重8をかけた状態で、温度20±2℃の水9の中に静かに垂下して2分間浸漬した。その後、水中から取り出してかせ長を測り、直ちに、荷重取り外し用リング10を用いて、(8.82mN×20×表示テックス数)の荷重8を除き、2分間放置した後、再びかせ長を測った。そして次式によって伸縮復元率Er(%)を算出した。
【0060】
Er=[(a−b)/a]×100
a:(0.176mN×20×表示テックス数)の荷重7に、更に(8.82mN×20×表示テックス数)の荷重8を加えたときのかせ長(mm)
b:(0.176mN×20×表示テックス数)の荷重7をかけたときのかせ長(mm)
なお、測定は5回行い、その平均値を伸縮復元率とした。
【0061】
次に、実施例および比較例に用いられる材料を下記に示す。
(A)フィラメント糸
・(A−1)ウーリーナイロン(70d−24f、伸縮復元率24%)(東レ社製)
・(A−2)ウーリーナイロン(70d−24f、伸縮復元率7%)
ウーリーナイロン(A−1)をボビンにソフト巻きし、巻き密度を0.2〜0.3g/cmに調整した。次いで、ボビンにソフト巻きしたウーリーナイロン(A−1)を、染色機(日阪製作所社製、商品名「LLCD−50/90」)に入れ、約90℃×約1時間の湯洗いを経て、脱水15分間、乾燥70℃×200分間を行うことにより、伸縮復元率を7%に低下させて用いた。
・(A−3)ポリエステル糸(50d−36f生糸、伸縮復元率1.5%)(KBセーレン社製)
・(A−4)ウーリーナイロン(70d−24f、伸縮復元率10.0%)
ウーリーナイロン(A−1)をボビンにソフト巻きし、巻き密度を0.2〜0.3g/cmに調整した。次いで、ボビンにソフト巻きしたウーリーナイロン(A−1)を染色機(日阪製作所社製、商品名「LLCD−50/90」)に入れ、約75℃×約1時間の湯洗いを経て、脱水15分間、乾燥70℃×200分間を行うことにより、伸縮復元率を10.0%に低下させて用いた。
・(A−5)ウーリーナイロン(70d−24f、伸縮復元率5%)
ウーリーナイロン(A−1)をボビンにソフト巻きし、巻き密度を0.2〜0.3g/cmに調整した。次いで、ボビンにソフト巻きしたウーリーナイロン(A−1)を染色機(日阪製作所社製、商品名「LLCD−50/90」)に入れ、約100℃×約1時間の湯洗いを経て、脱水15分間、乾燥70℃×200分間を行うことにより、伸縮復元率を5%に低下させて用いた。
・(A−6)ウーリーポリエステル(75d−36f、伸縮復元率1.2%)
ウーリーポリエステル(75d−36f、伸縮復元率20%)をボビンにソフト巻きし、巻き密度を0.2〜0.3g/cmに調整した。次いで、ボビンにソフト巻きした前記のウーリーナイロンを染色機(日阪製作所社製、商品名「LLCD−50/90」)に入れ、約95℃×約1時間の湯洗いを経て、脱水15分間、乾燥70℃×200分間を行うことにより、伸縮復元率を1.2%に低下させて用いた。
・(A−7)高強度ポリエチレン(100d−36f、伸縮復元率2%)(東洋紡社製)
・(A−8)アラミド繊維(200d生糸、伸縮復元率2.5%)
(B)導電性繊維
・(B−1)銅染色繊維糸(50d−30f、伸縮復元率3.0%)(日本蚕毛社製、商品名「サンダーロン」)
・(B−2)カーボン繊維糸(20d−3f、伸縮復元率2.9%)(KBセーレン製、商品名「9R1」)
・(B−3)ステンレス繊維(32.7d、伸縮復元率1.2%)(日本精線製、商品名「ナスロン」)
・(B−4)銅染色繊維糸(75d−18f、伸縮復元率3.0%)(ショーワグローブ社製、硫化銅複合繊維)
・(B−5)銅染色繊維糸(40d−13f、伸縮復元率2.5%)(日本蚕毛社製、商品名「サンダーロン」)
・(B−6)銅染色繊維糸(40d−13f、伸縮復元率3.0%)(日本蚕毛社製、商品名「サンダーロン」)
(実施例1)
(A−2)4本を芯にして(B−1)1本を300T/Mで巻いてカバーリングして複合糸を得た。カバーリング(および後述する合燃)は、錘−ダブルカバーリング機(カキノキ社製、商品名「KC5D108」)で行った。得られた複合糸を手袋全体(指先から裾まで)に用いて手袋を編んだ。手袋の編製は13G編機(島精機社製、商品名「New SFG」)にて行った。
【0062】
(実施例2)
実施例1にて得られた複合糸と(A−1)を用いて、複合糸:(A−1)=1:2のコース割合で手袋を編んだ。
【0063】
(実施例3)
実施例1にて得られた複合糸と(A−1)を用いて、複合糸:(A−1)=1:10のコース割合で手袋を編んだ。
【0064】
(実施例4)
(A−2)1本を芯にし、(B−1)1本を添え糸とし、これらを(A−2)2本を用いて300T/Mで巻いてカバーリングして複合糸を得た。得られた複合糸中のフィラメント糸全体の伸縮復元率は7.1%であった。得られた複合糸を手袋全体に用いて手袋を編んだ。
【0065】
(実施例5)
(A−2)4本を芯にして、(B−2)1本を300T/Mで巻いてカバーリングして複合糸を得た。得られた複合糸中のフィラメント糸全体の伸縮復元率は7.3%であった。得られた複合糸を手袋全体に用いて手袋を編んだ。
【0066】
(実施例6)
(A−2)2本を芯にして、(B−2)1本を添え糸とし、これらを(A−2)2本を用いて300T/Mで巻いてカバーリングして複合糸を得た。得られた複合糸中のフィラメント糸全体の伸縮復元率は7.3%であった。得られた複合糸を手袋全体に用いて手袋を編んだ。
【0067】
(実施例7)
(A−2)3本を芯にして、予め(B−1)1本と(A−3)1本とを200T/Mで合撚して得られた合撚糸を300T/Mで巻いてカバーリングして複合糸を得た。得られた複合糸中のフィラメント糸全体の伸縮復元率は6.3%であった。得られた複合糸を手袋全体に用いて手袋を編んだ。
【0068】
(実施例8)
(B−1)に代えて(B−2)1本を用いたこと以外は実施例7と同様にして複合糸を得た。得られた複合糸中のフィラメント糸全体の伸縮復元率は6.7%であった。得られた複合糸を手袋全体に用いて手袋を編んだ。
【0069】
(実施例9)
(A−2)1本を芯にし、予め(B−1)1本と(A−3)1本とを200T/Mで合撚して得られた合撚糸(伸縮復元率2.9%)を添え糸とし、これらを(A−1)2本を用いて300T/Mで巻いてカバーリングして複合糸を得た。得られた複合糸中のフィラメント糸全体の伸縮復元率は5.2%であった。得られた複合糸を手袋全体に用いて手袋を編んだ。
【0070】
(実施例10)
(B−1)に代えて(B−2)1本を用いたこと以外は実施例9と同様にして複合糸を得た。得られた複合糸中のフィラメント糸全体の伸縮復元率は5.7%であった。得られた複合糸を手袋全体に用いて手袋を編んだ。
【0071】
(実施例11)
(B−1)3本を200T/Mで合撚して得られた合撚糸を芯にし、(A−2)2本を300T/Mで巻いてカバーリングして複合糸を得た。得られた複合糸中のフィラメント糸全体の伸縮復元率は5.5%であった。得られた複合糸を手袋全体に用いて手袋を編んだ。
【0072】
(実施例12)
(A−2)1本を芯にし、予め(B−1)2本を200T/Mで合撚してある糸を添え糸とし、これらを(A−2)2本を300T/Mを用いて巻いてカバーリングして複合糸を得た。得られた複合糸中のフィラメント糸全体の伸縮復元率は6.2%であった。得られた複合糸を手袋全体に用いて手袋を編んだ。
【0073】
(実施例13)
(B−1)2本を300T/Mで合撚して得られた合撚糸と、(A−2)2本とをさらに300T/Mで合撚して複合糸を得た。得られた複合糸中のフィラメント糸全体の伸縮復元率は5.9%であった。得られた複合糸を手袋全体に用いて手袋を編んだ。
【0074】
(実施例14)
(B−1)1本と(A−2)1本とを300T/Mで合撚して得られた合撚糸を芯糸とし、(A−2)1本を用いて300T/Mでカバーリングして複合糸を得た。得られた複合糸中のフィラメント糸全体の伸縮復元率は6.9%であった。得られた複合糸を手袋全体に用いて手袋を編んだ。
【0075】
(実施例15)
実施例1で得られた手袋を金属製浸漬型に被せ、ポリウレタン(DIC社製、商品名「クリスボンMP−812」)をN,N‘ジメチルホルムアミドに溶解させた溶液(固形分濃度:10質量%)に、掌のみ浸漬し、50℃×1時間で温水置換した。その後、100℃×30分間乾燥して、掌部分がポリウレタン樹脂で被覆された手袋を得た。
【0076】
(実施例16)
(A−4)2本を芯にし、(B−1)1本を300T/Mで巻いてカバーリングし、複合糸を得た。得られた複合糸中のフィラメント糸全体の伸縮復元率は8.5%であった。得られた複合糸を手袋全体に用いて手袋を編んだ。
【0077】
(実施例17)
(A−6)2本を芯にし、(B−1)1本を300T/Mで巻いてカバーリングし、複合糸を得た。得られた複合糸中のフィラメント糸全体の伸縮復元率は2.2%であった。得られた複合糸を手袋全体に用いて手袋を編んだ。
【0078】
(実施例18)
(A−7)2本を芯にして(B−1)1本を300T/Mで巻いてカバーリングし、複合糸を得た。得られた複合糸中のフィラメント糸全体の伸縮復元率は2.7%であった。得られた複合糸を手袋全体に用いて手袋を編んだ。
【0079】
(実施例19)
(A−8)1本を芯にし、(B−1)で300T/Mで巻いてカバーリングし複合糸を得た。得られた複合糸中のフィラメント糸全体の伸縮復元率は3.2%であった。得られた複合糸を手袋全体に用いて手袋を編んだ。
【0080】
(参考例1[実施例20は欠番])
(B−3)1本と(A−6)2本を芯にし、(B−1)で300T/Mで巻いてカバーリングして複合糸を得た。得られた複合糸中のフィラメント糸全体の伸縮復元率は2.2%であった。得られた複合糸を手袋全体に用いて手袋を編んだ。
【0081】
(実施例21)
(A−5)4本を芯にして、(B−4)1本を300T/Mで巻いてカバーリングし複合糸を得た。得られた複合糸中のフィラメント糸全体の伸縮復元率は5.0%であった。得られた複合糸を手袋全体に用いて手袋を編んだ。
【0082】
(実施例22)
(A−5)4本を芯にして、(B−5)1本を300T/Mで巻いてカバーリングし複合糸を得た。得られた複合糸中のフィラメント糸全体の伸縮復元率は5.2%であった。得られた複合糸を手袋全体に用いて手袋を編んだ。
【0083】
(実施例23)
ウーリーナイロン30d、1本にて丸編機(八田縦編社製、商品名「MA100」)によりトリコット編み生地(布帛)を得た。該トリコット編み生地全体に、実施例1で得られた複合糸を用いて一本針本縫い電子千鳥縫い自動糸切りミシン(ブラザー社製、商品名「LZ2−B856E−301」)を用い、1cm間隔でミシンをかけた。その後、手袋形状にカットし、縫製した。
【0084】
(比較例1)
(A−1)3本を芯にして、(B−1)1本を300T/Mで巻いてカバーリングし複合糸を得た。得られた複合糸中のフィラメント糸全体の伸縮復元率は20.5%であった。得られた複合糸を手袋全体に用いて手袋を編んだ。
【0085】
(比較例2)
(A−1)4本を芯にして、(B−1)に代えて(B−2)を用いた以外は比較例1と同様にして複合糸を得た。得られた複合糸中のフィラメント糸全体の伸縮復元率は23.2%であった。得られた複合糸を手袋全体に用いて手袋を編んだ。
【0086】
(比較例3)
(A−1)1本を芯にし、(B−1)1本を添え糸とし、これらを(A−2)2本で300T/Mにて巻いてカバーリングし複合糸を得た。得られた複合糸中のフィラメント糸全体の伸縮復元率は11.7%であった。得られた複合糸を手袋全体に用いて手袋を編んだ。
【0087】
(比較例4)
(B−1)に代えて(B−2)1本を添え糸とした複合糸を用いた以外は、比較例3と同様にして手袋を編んだ。得られた複合糸中のフィラメント糸全体の伸縮復元率は12.6%であった。
【0088】
(比較例5)
(A−1)2本を芯にし、(B−1)1本にて300T/Mで巻き、その上を(A−1)1本で300T/Mで逆まきにて巻き、更にその上を(A−1)1本で300T/Mで逆まきにて巻いて、導電性繊維が隠れるようにした複合糸を得た。得られた複合糸中のフィラメント糸全体の伸縮復元率は21.7%であった。得られた複合糸を手袋全体に用いて手袋を編んだ。
【0089】
(比較例6)
(B−1)に代えて(B−2)を用いた以外は、比較例5と同様にして複合糸を得た。得られた複合糸中のフィラメント糸全体の伸縮復元率は23.4%であった。得られた複合糸を手袋全体に用いて手袋を編んだ。
【0090】
(比較例7)
(A−1)4本を合撚して得た糸を、手袋全体に用いて手袋を編んだ。得られた複合糸中のフィラメント糸全体の伸縮復元率は24.5%であった。
【0091】
(比較例8)
(A−2)に代えて(A−1)を用いた以外は、実施例13と同様にして複合糸を得た。得られた複合糸中のフィラメント糸全体の伸縮復元率は15.8%であった。得られた複合糸を手袋全体に用いて手袋を編んだ。
【0092】
(比較例9)
(A−2)に代えて(A−1)を用いた以外は、実施例14と同様にして複合糸を得た。得られた複合糸中のフィラメント糸全体の伸縮復元率は13.1%であった。得られた複合糸を手袋全体に用いて手袋を編んだ。
【0093】
(比較例10、11)
比較例1、2にて得られた手袋を用いたこと以外は、実施例15と同様にして、掌部分がポリウレタン樹脂にて被覆された手袋を得た。
【0094】
(比較例12)
(B−6)3本を芯にし、(A−1)2本を300T/Mにて巻いてカバーリングし、複合糸を得た。得られた複合糸中のフィラメント糸全体の伸縮復元率は14.8%であった。得られた複合糸を手袋全体に用いて手袋を編んだ。
【0095】
(比較例13)
ウーリーナイロン30d、1本にて丸編機(八田縦編社製、商品名「MA100」)によりトリコット編み生地(布帛)を得た。該トリコット編み生地全体に、比較例1で得られた複合糸を用いて、一本針本縫い電子千鳥縫い自動糸切りミシン(ブラザー社製、商品名「LZ2−B856E−301」)を用い、1cm間隔でミシンをかけた。その後、手袋形状にカットし、縫製しようとしたが、複合糸が伝線してしまい、縫製することができなかった。
【0096】
実施例、参考例、比較例にて得られた手袋の物性を試験した。実施例1〜12の評価結果を表1に、実施例13〜19、参考例1、実施例21〜23の評価結果を表2に、比較例1〜13の評価結果を表3に示す。
【0097】
【表1】
【0098】
【表2】
【0099】
【表3】
【0100】
実施例1〜19、21〜23の結果から明らかなように、導電性繊維の脱離量を低減させるためには、導電性繊維を巻きつける芯糸、添え糸、あるいは撚り合わせる糸の伸縮復元率を0〜10%とすることが必須である。伸縮復元率を0%〜10%とすることによる効果は、比較例と比べると明らかである。
【0101】
また、実施例21、22から明らかなように、導電性繊維は、1フィラメントあたりのデニール数が多いほど脱離量が少なくなる傾向にあることがわかった。また、実施例9と実施例10の対比から明らかなように、カーボン繊維での脱離量は銅染色繊維での脱離量よりも少なくなっていることがわかった。
【0102】
さらにまた、実施例7〜14の結果から、以下のことが明らかである。つまり、カーボン繊維、銅染色繊維の双方とも、導電性繊維同士もしくはポリエステル糸などと合撚することによって、テープ強制剥離試験においてより脱離しにくくなることがわかった。また、芯に導電性繊維を用いる場合、導電性繊維どうしを合撚して用いると、導電性繊維の脱離量を低減できることがわかった。さらに導電性繊維と、他繊維、すなわち生糸や伸縮復元率が10%以下であるポリエステル・強化ポリエチレン・アラミド・ナイロン・アクリル製繊維とを合撚した場合であっても、導電性繊維の脱離量を低減できることがわかった。
【0103】
比較例5から明らかなように、導電性繊維を用いた手袋では、導電性繊維が隠れるようにしても脱離量に変化がないことがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0104】
本発明の作業用手袋は、静電気対策と低発塵性の要望を充たすものであり、半導体製造工程、塗装工程、クリーンルーム内作業などでの使用に有用である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7