(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5762321
(24)【登録日】2015年6月19日
(45)【発行日】2015年8月12日
(54)【発明の名称】手術シミュレーション用モデル作成方法及びその装置並びに手術シミュレーション方法及びその装置
(51)【国際特許分類】
G09B 9/00 20060101AFI20150723BHJP
G06F 19/00 20110101ALI20150723BHJP
【FI】
G09B9/00 Z
G06F19/00 500
【請求項の数】8
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-12619(P2012-12619)
(22)【出願日】2012年1月25日
(65)【公開番号】特開2013-152320(P2013-152320A)
(43)【公開日】2013年8月8日
【審査請求日】2014年1月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000176730
【氏名又は名称】三菱プレシジョン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087756
【弁理士】
【氏名又は名称】船越 猛
(72)【発明者】
【氏名】坂本 英男
(72)【発明者】
【氏名】本郷 新
(72)【発明者】
【氏名】後藤 修一
(72)【発明者】
【氏名】長坂 学
【審査官】
植野 孝郎
(56)【参考文献】
【文献】
特開2010−279631(JP,A)
【文献】
特開2008−292534(JP,A)
【文献】
特開2008−134373(JP,A)
【文献】
緒方正人 外6名,患者固有の形状データに基づく手術手技訓練用シミュレータ,情報処理学会論文誌,2012年 1月15日,第53巻第1号,第421−431頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G09B 9/00
G09B19/00−19/26
G09B23/28−23/34
G06F19/00−19/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンピュータにより処理する方法であって、
コンピュータにより機能する有限要素形成手段が、コンピュータグラフィックス技術により模擬臓器を有限要素に分割した有限要素のモデルを形成してそのデータを得る有限要素形成過程と、
コンピュータにより機能する探索要素設定手段が、前記有限要素形成過程で得た要素の任意の1つを選択する探索要素設定過程と、
コンピュータにより機能するメタデータ作成手段が、前記探索要素設定過程で選択した1つの要素を起点として、前記起点から近く順次隣接する一定数の要素群を選択してメタデータを作成する第1のメタデータ作成過程と、
コンピュータにより機能するメタデータ作成手段が、1つのメタデータにおいて他のメタデータに接続していない端面の任意に選択した1つの要素を起点として、前記起点から近く順次隣接する前記一定数の要素群を選択して新たなメタデータを順次作成し当該模擬臓器の全ての要素を含むようにする第2のメタデータ作成過程と、
メタデータ格納手段に、前記第1及び第2のメタデータ作成過程で作成したメタデータを格納するメタデータ格納過程とからなることを特徴とする手術シミュレーション用モデル作成方法。
【請求項2】
コンピュータにより処理する方法であって、
コンピュータにより機能する力覚模擬手段が、手術者が操作する模擬手術操作具の位置と模擬臓器との接触位置に応じた反力を発生させる力覚模擬過程と、
コンピュータにより機能する模擬運動演算手段が、請求項1に記載の手術シミュレーション用モデル作成方法におけるメタデータ格納過程から手術対象である模擬臓器のモデルデータを得て前記力覚模擬過程による模擬手術操作具の移動及び模擬手術操作具と模擬臓器との接触による反力を計算して前記力覚模擬過程に与えるとともに模擬臓器の反応との運動とを計算する模擬運動演算過程とからなることを特徴とする手術シミュレーション方法。
【請求項3】
請求項2の手術シミュレーション方法であって、
模擬運動演算過程において、手術対象である臓器のモデルデータと模擬手術操作具との接触判定をコンピュータ内で行い、接触に応じた模擬臓器の移動位置を計算することを特徴とする手術シミュレーション方法。
【請求項4】
請求項2又は請求項3の手術シミュレーション方法において、
模擬臓器が血管であって、血管からの出血を模擬するに際して、経路探索手段が、血管の上流から経路探索して損傷箇所に到達した場合に出血させ、到達しない場合は血管の下流から経路探索して損傷箇所に到達した場合で逆流可能な血管モデルの場合は出血させる経路探索過程を備えることを特徴とする手術シミュレーション方法。
【請求項5】
コンピュータにより構成する装置であって、
コンピュータグラフィックス技術により模擬臓器を有限要素に分割した有限要素のモデルを形成してそのデータを得る有限要素形成手段と、
前記有限要素形成手段で得た要素の任意の1つを選択する探索要素設定手段と、
前記探索要素設定手段で選択した1つの要素を起点として、前記起点から近く順次隣接する一定数の要素群を選択してメタデータを作成するとともに、1つのメタデータにおいて他のメタデータに接続していない端面の任意に選択した1つの要素を起点として、前記起点から近く順次隣接する前記一定数の要素群を選択して新たなメタデータを順次作成し当該模擬臓器の全ての要素を含むようにするメタデータ作成手段と、
前記メタデータ作成手段で作成したメタデータを格納するメタデータ格納手段とからなることを特徴とする手術シミュレーション用モデル作成装置。
【請求項6】
コンピュータにより構成する装置であって、
手術者が操作する模擬手術操作具の位置と模擬臓器との接触位置に応じた反力を発生させる力覚模擬手段と、
請求項5に記載の手術シミュレーション用モデル作成装置におけるメタデータ格納手段から手術対象である模擬臓器のモデルデータを得て前記力覚模擬手段による模擬手術操作具の移動及び模擬手術操作具と模擬臓器との接触による反力を計算して前記力覚模擬手段に与えるとともに模擬臓器の反応との運動とを計算する模擬運動演算手段とからなることを特徴とする手術シミュレーション装置。
【請求項7】
請求項6の手術シミュレーション装置であって、
模擬運動演算手段において、手術対象である臓器のモデルデータと模擬手術操作具との接触判定をコンピュータ内で行い、接触に応じた模擬臓器の移動位置を計算することを特徴とする手術シミュレーション装置。
【請求項8】
請求項6又は請求項7の手術シミュレーション装置において、
模擬臓器が血管であって、血管からの出血を模擬するに際して、血管の上流から経路探索して損傷箇所に到達した場合に出血させ、到達しない場合は血管の下流から経路探索して損傷箇所に到達した場合で逆流可能な血管モデルの場合は出血させる経路探索手段を備えることを特徴とする手術シミュレーション装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内視鏡下の手術をする事前訓練のための手術シミュレーション用モデル作成方法、手術シミュレーション方法、及びその装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
医療技術と医療機器の進歩により、腹部手術の多くが腹腔鏡下に行われるようになってきた。腹腔鏡下手術は、3次元のものを2次元の画像表示装置を見ながら操作するので、その習得にはトレーニングが不可欠である。実際の腹腔鏡下手術では患者毎に血管の本数や走行、臓器の位置関係、例えば腫瘍の位置や大きさが異なり、それぞれに対応した手術が要求される。
近年、医療関係者が行う手術の訓練のために、仮想現実技術を用いた訓練装置が用いられる。この装置は、臓器、血管、リンパ管等をモデルデータとして構成し、仮想現実として表現した臓器、血管、リンパ管等を表示装置に表示できるようにし、表示装置に映し出された施術部分を見ながら模擬術具を用いて、模擬術具の操作移動に応じて臓器、血管、リンパ管等の移動変化の表示をバーチャルリアリティとして体験訓練できる装置である。
【0003】
臓器、血管、リンパ管等のモデルデータを生成するために、医用画像から幾何情報を取得し、必要な臓器のボリュームデータを構築し、このボリュームデータを所定の手順で分割することにより有限要素モデルを生成し、必要により有限要素モデルを覆うように複数層の模擬膜を形成し、模擬膜間に仮想膜間用バネを配置するように構成するものがある。
このように臓器を有限要素モデルで生成した場合は、実際に即した臓器の変形挙動を計算機を使ったシミュレーションで模擬することができる有効な利点を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−134373号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
手術シミュレーションにおいては、構造解析分野で用いられる有限要素法を使用することで、実際に即した臓器の変形挙動を模擬することができるため、有効である。しかし、この手法を有効なものとするには、詳細かつ大規模な臓器モデルを必要とする。大規模なモデルを扱うにあたって、以下のような課題が存在する。
1.仮想手術を実現するには、臓器単体の挙動だけでなく、臓器と模擬術具との相互作用の計算が必要である。このような両者の接触処理を行う場合、有限要素モデルで構成した大規模な臓器モデルデータと、術具データとの接触及び交差判定が必要となる。計算処理の負荷を軽くするには、モデルの厳密さをある程度粗くした簡略モデルで計算処理を行うことが考えられるが、そのために両者のめり込み(模擬術具の移動に対応する臓器の変化移動の対応が追随せず、臓器が変形せず模擬術具が臓器の内部に位置すること)や、すり抜け(模擬術具の移動に対応する臓器の変化移動の対応が追随せず、臓器が変形しないで模擬術具が臓器を通過すること)が発生する。特にすり抜けに関しては、1つ前の計算時間刻みでの位置と現在の計算時間刻みでの位置との軌跡の交差判定が必要であり、これを考慮すると必然的に計算処理の負担が重くなり実時間処理が困難となる。
2.模擬術具の操作を失敗し術具が臓器を傷つけたときは出血現象を模擬することが必要となるが、血液の流れを模擬するには、その時間的変化の情報をリアルタイムで保持するためのデータ構造が必要となる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため請求項1に係る手術シミュレーション用モデル作成方法は、コンピュータにより処理する方法であって、コンピュータにより機能する有限要素
形成手段が、コンピュータグラフィックス技術により模擬臓器を有限要素に分割した有限要素のモデルを形成してそのデータを得る有限要素形成過程と、コンピュータにより機能する探索要素設定手段が、前記有限要素形成過程で得た要素の任意の1つを選択する探索要素設定過程と、コンピュータにより機能するメタデータ作成手段が、前記探索要素設定過程で選択した1つの要素を起点として、前記起点から近く順次隣接する一定数の要素群を選択してメタデータを作成する第1のメタデータ作成過程と、コンピュータにより機能するメタデータ作成手段が、1つのメタデータにおいて他のメタデータに接続していない端面の任意に選択した1つの要素を起点として、前記起点から近く順次隣接する前記一定数の要素群を選択して新たなメタデータを順次作成し当該模擬臓器の全ての要素を含むようにする第2のメタデータ作成過程と、メタデータ格納手段に、前記第1及び第2のメタデータ作成過程で作成したメタデータを格納するメタデータ格納過程とからなることを特徴とするものである。
【0007】
請求項2に係る手術シミュレーション方法は、コンピュータにより処理する方法であって、コンピュータにより機能する力覚模擬手段が、手術者が操作する
模擬手術操作具の位置と模擬臓器との接触位置に応じた反力を発生させる力覚模擬過程と、コンピュータにより機能する模擬運動演算手段が、請求項1
に記載の
手術シミュレーション用モデル作成方法におけるメタデータ格納過程から手術対象である模擬臓器のモデルデータを得て前記力覚模擬過程による模擬手術操作具の移動及び模擬手術操作具と模擬臓器との接触による反力を計算して前記力覚模擬過程に与えるとともに模擬臓器の反応との運動とを計算する模擬運動演算過程とからなることを特徴とするものである。
【0008】
請求項3に係る手術シミュレーション方法は、請求項2の手術シミュレーション方法であって、模擬運動演算過程において、手術対象である臓器のモデルデータと模擬手術操作具との接触判定をコンピュータ内で行い、接触に応じた模擬臓器の移動位置を計算することを特徴とするものである。
【0009】
請求項4に係る手術シミュレーション方法は、請求項2又は請求項3の手術シミュレーション方法において、模擬臓器が血管であって、血管からの出血を模擬するに際して、経路探索手段が、血管の上流から経路探索して損傷箇所に到達した場合に出血させ、到達しない場合は血管の下流から経路探索して損傷箇所に到達した場合で逆流可能な血管モデルの場合は出血させる経路探索過程を備えることを特徴とするものである。
【0010】
請求項5に係る手術シミュレーション用モデル作成装置は、コンピュータにより構成する装置であって、コンピュータグラフィックス技術により模擬臓器を有限要素に分割した有限要素のモデルを形成してそのデータを得る有限要素形成手段と、前記有限要素形成手段で得た要素の任意の1つを選択する探索要素設定手段と、前記探索要素設定手段で選択した1つの要素を起点として、前記起点から近く順次隣接する一定数の要素群を選択してメタデータを作成するとともに、1つのメタデータにおいて他のメタデータに接続していない端面の任意に選択した1つの要素を起点として、前記起点から近く順次隣接する前記一定数の要素群を選択して新たなメタデータを順次作成し当該模擬臓器の全ての要素を含むようにするメタデータ作成手段と、前記メタデータ作成手段で作成したメタデータを格納するメタデータ格納手段とからなることを特徴とするものである。
【0011】
請求項6に係る手術シミュレーション装置は、コンピュータにより構成する装置であって、手術者が操作する
模擬手術操作具の位置と模擬臓器との接触位置に応じた反力を発生させる力覚模擬手段と、請求項5
に記載の
手術シミュレーション用モデル作成装置におけるメタデータ格納手段から手術対象である模擬臓器のモデルデータを得て前記力覚模擬手段による模擬手術操作具の移動及び模擬手術操作具と模擬臓器との接触による反力を計算して前記力覚模擬手段に与えるとともに模擬臓器の反応との運動とを計算する模擬運動演算手段とからなることを特徴とするものである。
【0012】
請求項7に係る手術シミュレーション装置は、請求項6の手術シミュレーション装置であって、模擬運動演算手段において、手術対象である臓器のモデルデータと模擬手術操作具との接触判定をコンピュータ内で行い、接触に応じた模擬臓器の移動位置を計算することを特徴とするものである。
【0013】
請求項8に係る手術シミュレーション装置は、請求項6又は請求項7の手術シミュレーション装置において、模擬臓器が血管であって、血管からの出血を模擬するに際して、血管の上流から経路探索して損傷箇所に到達した場合に出血させ、到達しない場合は血管の下流から経路探索して損傷箇所に到達した場合で逆流可能な血管モデルの場合は出血させる経路探索手段を備えることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0014】
請求項1に係る手術シミュレーション用モデル作成方法によると、模擬臓器を有限要素に分割した有限要素のモデルについて、一定数の要素群ごとのメタデータを模擬臓器の全てについて作成するから、新たにメタデータによるモデルを作成することができる。
【0015】
請求項2に係る手術シミュレーション方法によると、新たにメタデータによるモデルを模擬手術操作具の移動及び模擬手術操作具と模擬臓器との接触による模擬臓器の反応の運動を計算することができる。
【0016】
請求項3に係る手術シミュレーション方法によると、手術対象である臓器のモデルデータと模擬手術操作具との接触判定をコンピュータ内で行い、接触に応じた模擬臓器の移動位置を計算するから、めり込みやすり抜けを生ずることなく臓器と模擬手術操作具と相互作用による正確な位置を計算することができる。
【0017】
請求項4に係る手術シミュレーション方法によると、血管からの出血を模擬するに際して、経路探索手段が、血管の上流または下流からの経路探索を行い損傷箇所の到達と逆流可能な血管モデルの場合は出血させることにより、容易に血管に応じた出血の模擬をすることができる。
【0018】
請求項5に係る手術シミュレーション用モデル作成装置によると、模擬臓器を有限要素に分割した有限要素のモデルについて、一定数の要素群ごとのメタデータを模擬臓器の全てについて作成するから、新たにメタデータによるモデルを作成することができる。
【0019】
請求項6に係る手術シミュレーション装置によると、新たにメタデータによるモデルを模擬手術操作具の移動及び模擬手術操作具と模擬臓器との接触による模擬臓器の反応の運動を計算することができる。
【0020】
請求項7に係る手術シミュレーション装置によると、手術対象である臓器のモデルデータと模擬手術操作具との接触判定をコンピュータ内で行い、接触に応じた模擬臓器の移動位置を計算するから、めり込みやすり抜けを生ずることなく臓器と模擬手術操作具と相互作用による正確な位置を計算することができる。
【0021】
請求項8に係る手術シミュレーション方法によると、血管からの出血を模擬するに際して、経路探索手段が、血管の上流または下流からの経路探索を行い損傷箇所の到達と逆流可能な血管モデルの場合は出血させることにより、容易に血管に応じた出血の模擬をすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】手術シミュレーション用モデル作成装置及び手術シミュレーション装置の1実施例の機能ブロック図である。
【
図2】手術シミュレータ用モデル作成方法及び手術シミュレーション方法を説明するフロー図である。
【
図4】メタデータともとの要素群との対応付けを示した図である。
【
図5】メタデータを使用した場合の接触判定のシミュレーション例を説明する図である。
【
図6】メタデータの連結情報を用いた経路探索による出血判定フローチャートである。
【
図7】メタデータでの切断又は損傷を説明する図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
詳細かつ大規模な臓器モデルを扱う手術シミュレーションに、構造解析分野で用いられる有限要素法で構成したモデルを使用する際に、計算処理の負担が重くなり実時間処理が困難となることを回避することを、コンピュータグラフィクスのモデルをメタデータで再構成することにより実現した。
【実施例1】
【0024】
図1は、手術シミュレーション用モデル作成装置及び手術シミュレーション装置の1実施例の機能ブロック図である。
図1において、101は手術シミュレーション用モデル作成装置、102は有限要素形成手段、103は探索要素設定手段、104はメタデータ作成手段、105はメタデータ格納手段、110は手術シミュレーション装置、111は力覚模擬装置、112は模擬運動演算手段、113は経路探索手段、114は出血実行処理手段、115は画像生成手段、116は画像表示装置である。
図2(a)は、手術シミュレータ用モデル作成方法を説明するフロー図、
図2(b)は、手術シミュレーション方法を説明するフロー図である。
【0025】
手術シミュレーション用モデル作成装置101において以下のようにモデルデータ生成がされる。
有限要素形成手段102にはコンピュータグラフィックス技術により所定部位に備える物理特性を設定した模擬臓器、血管、リンパ管等を有限数の要素に分割した有限要素のモデルを形成してそのデータが格納されている(
図2(a)の有限要素形成過程P101)。有限要素のモデル形成は例えば以下のように行う。
図示しないセグメンテーション部は、臓器を図示しないCTあるいはMRIにより3軸方向について所定の間隔で撮像した撮像データを入力し、このデータから臓器が形成する面をその特徴点から医学的知識を用い決定することにより臓器を抽出する。
図示しない物理定数設定部は、セグメンテーション部で抽出した複数臓器の各臓器を構成する前記3軸の交点について臓器の所定の各部位毎に備える物理特性を設定する。このときの、物理定数にはヤング率、比重等がある。
図示しない有限要素分割部は、前記物理定数設定部で物理特性を設定された所定部位を有限要素に分割する。
モデルデータは図示しない記憶装置に所定のデータ構造で記憶される。例えば、有限要素は四面体により構成する。
探索要素設定手段103は、前記有限要素形成手段102で得た要素の任意の1つを選択する(
図3(a)参照)(
図2(a)の探索要素設定過程P102)。この選択された要素を探索要素SEとして与える。
メタデータ作成手段104は、この探索要素SEを起点とし、要素同士の繋がりを追跡していき、全ての要素に対し、探索要素SEを起点として繋がり要素の個数を単位とした距離情報を求める。さらに、距離情報は、全ての要素についてその要素を起点とする探索要素SEとして求められる。ここで、メタデータを作成する際に、操作者により、探索要素SEの設定とメタデータを構成する要素の数をαと設定される。メタデータ作成手段104は、任意の1つの要素を起点として、距離情報の近い(小さい)順からα個の要素を選択し、α個の選択要素群によりメタデータFMが作成される(
図3(b)参照)(
図2(a)の第1のメタデータ作成過程P103)。メタデータは、円柱、直方体、球体の単純な幾何形状で表す。
さらに、メタデータ作成手段104は、前記1つのメタデータにおいて他のメタデータに接続していない端面の任意の要素を選択し、その要素を起点として、前記起点から近く順次隣接する前記一定数α個の要素群を選択して新たなメタデータを作成し、さらに同様に順次メタデータを作成して、当該模擬臓器の全ての要素を含むようにする(
図3(c)参照)(
図2(a)の第2のメタデータ作成過程P104,P105)。このとき、メタデータを作成する際に要素群の数がα個に満たない場合があるが、他のメタデータに接続していない端面以降に要素がないメタデータとして構成する。
図4は、メタデータともとの要素群との対応付けを示した図であり、後述する式(1),(2)により関係づけられる。メタデータが円柱とした場合を示す。
図4(a)は、もとの要素群の頂点がメタデータの前記円柱の表面に位置するものを示し、メタデータが形成する当該円柱の上端下端の円の中心を結んだ線をローカル線と呼ぶ。
図4(b)は、各頂点が保持するデータであるパラメトリック座標sとパラメトリック座標(t,v)を示し、sはメタデータのローカル軸方向のパラメトリック座標、(t,v)はメタデータのローカル軸と直交方向のパラメトリック座標である。
図4(b)のP0、P1はメタデータの端点であり、当該メタデータに含まれる要素のうち両端部に位置する要素の頂点であって、メタデータが形成する当該円柱の最上端最下端かつ最外表部のものである。このように作成された各メタデータには識別符号が付され、互いに連結する他のメタデータの識別符号が付される。
メタデータ格納手段105は、メタデータ作成手段104で作成したメタデータを図示しないコンピュータの制御により格納する(
図2(a)のメタデータ格納過程P106)。
【0026】
手術シミュレーション装置110において以下のように動作する。
手術項目に従って、データをメタデータ格納手段104より選択し読み出す。画像生成手段115は、読み出したデータにより手術対象である模擬臓器の画像を生成し、画像表示装置116に表示する。
手術操作者は画像表示装置116に表示されている模擬臓器の画像を参照しながら手術操作具として例えばメス又は/及び鉗子、クリップを操作する。メス又は/及び鉗子、クリップは力覚装置111により模擬される。力覚装置111は3自由度に支持され、定められた一定空間内を自在に移動可能な機構で臓器を模擬する位置に配置され、メス又は/及び鉗子、クリップを模擬する操作移動に応じて図示しないエンコーダがその移動量を検出し、その位置を計測し、手術模擬操作者が操作するメス又は/及び鉗子、クリップとしての手術操作具の位置と模擬臓器との接触位置の物理特性に応じた反力を例えばモータにより発生させる(
図2(b)の力覚模擬過程P201)。メス又は/及び鉗子、クリップ並びに臓器は、その位置及び形状により画像表示装置116の画面に表示される。
メタデータと臓器データの対応付けがパラメータによりされ、これにより、メタデータで行った処理結果を、要素群データに反映することができる。
図3で示したように血管を、四面体の要素群で模した細長いモデルとその一部を含有する長方形のメタデータを示す。メタデータに含まれる頂点の座標x
iは、メタデータを基準としたローカル座標系における、パラメトリック座標(s,t,v)とメタデータの位置姿勢マトリクスMから
x
i=M
i(l
is
ji+q
it
ji+q
iv
ji) (1)
で表される。
ここで、lはメタデータのローカル軸方向の変形スケール、qはローカル軸との直交方向の変形スケールである。各座標、マトリクス及びパラメトリック座標の添字のiはメタデータの番号、jは初期の頂点の番号(有限要素の頂点数)である。
さらに、例えば端点の場合、複数のメタデータに含有する場合がある。そのときは重みw
jiを用いて、
x
i=Σw
jiM
i(l
is
ji+q
it
ji+q
iv
ji) (2)
ここで Σw
ji=1,w
ji≧0
となる。
初期形状において、パラメトリック座標(s,t,v)を求めておくことで、メタデータが変形したときのM,l,qから、変形形状が得られる。
このようにして、模擬運動演算手段112は、力覚模擬手段111による模擬手術操作具の移動及び模擬手術操作具と模擬臓器との接触による模擬臓器の反応との運動による変形すなわち位置変化を上記(1),(2)式により計算する(
図2(a)の模擬運動演算過程P202)。画像はメタデータにより表される例えば円柱の図形がメス等で移動変位する位置変化を式(1)又は(2)でもとの要素にパラメータ変換されてその変化の画像が表示される。
画像生成手段115は、上記計算による位置変化による画像を生成し、その画像を画像表示装置116で表示する。
なお、模擬運動演算手段112による模擬手術操作具の移動及び模擬手術操作具と模擬臓器との接触による反力の計算は、運動式により反力を計算して力覚模擬手段111に与える。
【0027】
図5は、メタデータを使用した場合の接触判定のシミュレーション例を説明する図である。メタデータが形成する円柱の半径r、移動の速度v、画像生成処理のサンプリング時間Δtから、処理回数K=v×Δt/rとし、手術者が操作具を移動することにより例えばメスを構成するメタデータを移動させたとき、1サンプリング前の位置から、現在位置まで、コンピュータの演算処理内部でv×Δtずつ移動させ、移動の軌跡に沿って、メタデータ幾何形状により、例えばメス又は鉗子と血管との幾何形状がコンピュータの演算処理内部で交差するかの交差判定を行う。計算上交差した場合、血管のメタデータを接触する位置まで移動させる。前記接触したメタデータに繋がっているメタデータについては、隣り合うメタデータとの関係から、例えばメタデータのつながりをバネモデルで形成し、そのバネモデルのシミュレーションにより、前記接触したメタデータの変位情報を伝播させ、移動させる。これらの移動による変位情報を模擬運動演算手段112が前記(1)又は(2)式により計算し、その変形状態の画像を画像生成手段115が生成する(
図5(a))。このとき、メスが血管を傷つけ又は切断したときは、式(1)又は(2)によらず、後述するように出血実行処理手段114が、メスの血管との接触状態により切断した箇所のもとの要素を用いて、要素間の連結を離す。
メタデータが交差判定の容易な幾何形状なこと、またメタデータが一定数からなるもとの要素群を構成し、メタデータの数がもとの要素数に比較して少なくなっていて、メタデータにより計算する回数Kも少なくなることから、メスが血管と接触する状況にあってもメスの移動v×Δtによって接触を越えてメスが血管をすり抜ける状況が発生しないように軌跡を考慮した処理も実時間可能となった。
【0028】
メスが血管を切断、損傷したとき出血の際にクリップ等の止血処理の模擬について、メタデータを用いて判定することで、前記同様、臓器モデルの要素で行うよりも簡易に処理できる。
図6は、メタデータの連結情報を用いた経路探索による出血判定フローチャートである。
メス等により臓器、血管を損傷した(
図6の過程P301)。血管については、それが動脈又は静脈の区別を血管データに設定している。経路探索手段113は手術対象部分の血管の上流(心臓側)から経路探索して損傷箇所に到達したかを判断する(
図6の過程P302)。到達したと判断した場合は、出血させる(
図6の過程P303)。到達したと判断されない場合は、下流から経路探索して損傷箇所に到達したかを判断する(
図6の過程P304)。到達したと判断されない場合は、出血させない(
図6の過程P305)。到達したと判断した場合、静脈のような逆流防止弁を有して逆流可能なモデルかを判断し、逆流可能モデルと判断した場合は過程P303に移り、逆流不可能モデルと判断した場合は過程P305に移る(
図6の過程P306)。
実際の動脈と静脈では、出血の様子が異なるため、これにより動脈、静脈を区別した判定が可能となる。
経路探索においては、真二つに切れる場合(
図7(a))との部分的に損傷した場合(
図7(b))があり、クリップを
図7(a)(b)の血管の左右端に挟む模擬処理を力覚模擬装置111の手術操作具により行う。
クリップや損傷情報のあるメタデータに関しては、要素での詳細判定を行う。
出血判定をしたときの出血表現については、経路探索手段113が損傷したメタデータを構成するもとの要素同士のつながりを追跡した後、出血実行処理手段114は損傷又は切断箇所に隣り合うもとの要素群を用いて、要素間の連結を離し、連結を離したその重心位置から、損傷面積に比例した出血をさせる。画像生成手段115により出血画像を生成し、画像表装置116により表示を行う。これにより、要素毎に出血の有無を判断して出血表示させるよりも、メタデータを用いて出血判断をした方が負荷軽減となる。
【符号の説明】
【0029】
101 手術シミュレーション用モデル作成装置
102 有限要素形成手段
103 探索要素設定手段
104 メタデータ作成手段
105 メタデータ格納手段
110 手術シミュレーション装置
111 力覚模擬手段
112 模擬運動演算手段
113 経路探索手段
114 出血実行処理手段
115 画像生成手段
116 画像表示装置