特許第5762377号(P5762377)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5762377インピーダンス整合回路およびアンテナシステム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5762377
(24)【登録日】2015年6月19日
(45)【発行日】2015年8月12日
(54)【発明の名称】インピーダンス整合回路およびアンテナシステム
(51)【国際特許分類】
   H03H 7/38 20060101AFI20150723BHJP
   H04B 1/40 20150101ALI20150723BHJP
【FI】
   H03H7/38 B
   H04B1/40
【請求項の数】4
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2012-215469(P2012-215469)
(22)【出願日】2012年9月28日
(65)【公開番号】特開2014-72593(P2014-72593A)
(43)【公開日】2014年4月21日
【審査請求日】2013年5月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000204284
【氏名又は名称】太陽誘電株式会社
(72)【発明者】
【氏名】飯塚 文隆
(72)【発明者】
【氏名】中村 健太郎
【審査官】 ▲高▼橋 徳浩
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭60−174534(JP,A)
【文献】 特開2003−174367(JP,A)
【文献】 特開2004−312741(JP,A)
【文献】 特開2004−336250(JP,A)
【文献】 特開2005−311762(JP,A)
【文献】 特開2006−180047(JP,A)
【文献】 特開2011−109440(JP,A)
【文献】 特開平09−055633(JP,A)
【文献】 特開2010−200310(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/001769(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03H7/30−H03H7/54
H04B 1/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インピーダンス整合を要する回路ブロックに接続される信号線路とグランドとの間に接続されるインピーダンス整合回路であって、
容量が可変の第1の容量性素子とこれに直列接続され第1のインダクタンスを有する第1の誘導性素子とを有する第1の回路と、
第2のインダクタンスを有する第2の誘導性素子とこれに直列接続されたスイッチとを有する第2の回路とを具備し、
前記スイッチのオン時、前記信号線路と前記グランドとの間に前記第1の回路と前記第2の回路が並列に接続され、この並列回路によって前記インピーダンス整合回路の第1のアドミタンスが生成され、
前記スイッチのオフ時、前記第1の回路によって前記インピーダンス整合回路の第2のアドミタンスが生成されるように構成されることを特徴とするインピーダンス整合回路。
【請求項2】
前記インピーダンス整合を要する回路ブロックの入力インピーダンスが誘導性か容量性かを判断し、誘導性の場合に前記スイッチをオフの状態に設定し、容量性の場合にオンの状態に設定し、前記第1の容量性素子に印加される電圧を制御する制御部
を有することを特徴とする請求項1記載のインピーダンス整合回路。
【請求項3】
前記第2の誘導性素子に、前記第2の誘導性素子とはインダクタンスが異なる第3の誘導性素子を並列に接続し、
前記制御部は、
前記スイッチを介して前記第1の回路に接続される前記第2または第3の誘導性素子を切り換えることを特徴とする請求項記載のインピーダンス整合回路。
【請求項4】
アンテナと、
前記アンテナの直近に配置され、前記アンテナに接続される信号線路とグランドとの間に接続され、容量が可変の第1の容量性素子とこれに直列接続され第1のインダクタンスを有する第1の誘導性素子とを有する第1の回路と、第2のインダクタンスを有する第2の誘導性素子とこれに直列接続されたスイッチとを有する第2の回路とを具備し、前記スイッチのオン時、前記信号線路と前記グランドとの間に前記第1の回路と前記第2の回路が並列に接続され、この並列回路によって第1のアドミタンスが生成され、前記スイッチのオフ時、前記第1の回路によって第2のアドミタンスが生成されるように構成されるインピーダンス整合回路と、
前記アンテナの入力インピーダンスが誘導性か容量性かを判断し、誘導性の場合に前記スイッチをオフの状態に設定し、容量性の場合にオンの状態に設定し、前記第1の容量性素子に印加される電圧を制御する制御部と、
を有することを特徴とするアンテナシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インピーダンス整合を要する、例えば、携帯無線機等のアンテナに接続して好適な、インピーダンス整合回路およびアンテナシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話等の無線通信を行う電子機器は、例えば、特許文献1,2,3に開示されているように、アンテナと送受信回路との間にインピーダンス整合回路が配置される。インピーダンス整合回路を配置することにより、送受信回路からアンテナを見た際のインピーダンスが送受信回路側のインピーダンスと合う(整合する)ように設定され、通常、50Ω近傍に整合されることが多い。
【0003】
特許文献1には、無線機等で一般的に用いられるインピーダンス整合回路が開示されている。特許文献1の図3には、アンテナと送受信回路の間に誘導性素子(インダクタ)が直列に接続され、誘導性素子の前後に容量素子(キャパシタ)が並列に接続され、グランドに接地されたΠ型のインピーダンス整合回路が例示されている。
【0004】
ところで、携帯電話では、使用中、アンテナが人体や他の携帯機器等に近接するため、自由空間に置かれた状態と異なりアンテナインピーダンスが変化し、送受信回路との間でインピーダンスの不整合が生じアンテナ特性が変化する。アンテナの特性変化とはアンテナの効率の劣化をいい、反射係数の変化、或いはゲインの劣化により発生する。反射係数が変化すると、アンテナの特性が変化するだけにとどまらず、送受信帯域の通過域損失も大幅に増加する。そのため、人体等の周囲環境により生じた不整合をインピーダンス整合回路により補償し、アンテナ特性の劣化を抑制する必要がある。
【0005】
しかしながら、人体等周囲の環境影響によって変動したアンテナインピーダンスの不整合は、固定値をとる素子を組合せた回路では解消できない程度に大きい。そのため、インピーダンス整合回路を構成する各素子の容量を可変にし、変動したインピーダンスに柔軟に対応し、整合させる方法が採用されている。携帯電話機で商用利用される周波数では、実用的な可変誘導性素子が無いため、特許文献1の図1に開示されているように、バラクタダイオード等の可変容量素子が利用される。
【0006】
インピーダンスの不整合度はVSWR(Voltage Standing Wave
Ratio)で定量化されることが知られている。具体的には、VSWRが1で反射係数が0になって完全な整合を表し、不整合度が増すことによりVSWRが1より大きくなる。人体等、環境の影響によりVSWRが最小となる周波数がシフトすればVSWRが劣化する。したがって、特許文献1の図1に示すインピーダンス整合回路によれば、使用する周波数でVSWRが最小となるように回路を構成する素子値を調整することができる。
【0007】
現状、携帯無線機器に搭載できる小型かつ低損失(高Q)の実用的な可変の誘導性素子は無いため、代わりに容量性素子を可変にしたインピーダンス整合回路が検討されている。特許文献2には、図1に、3つの可変容量素子を組み込んだインピーダンス整合回路が開示されている。特許文献2に開示された技術によれば、可変容量の可変比が20〜200以上に大きくできればアンテナインピーダンスが変化してスミスチャート上のどの領域に移動したとしてもインピーダンス整合が可能な回路になる。また、スミスチャート上の広い領域をカバーできることは、アンテナの形状や特性に依存しないことを意味し、どのようなアンテナにも適応できる汎用的なインピーダンス整合回路であるといえる。
【0008】
しかしながら、バリキャップダイオードやRF−CMOS、強誘電体バラクタといった可変容量素子で実用上利用できる可変比は10以下であり、可変比が10以下になると、スミスチャート上でカバーできる領域は挟まってしまう。また、バリキャップダイオードや強誘電体バラクタ等の可変容量素子について制御電圧を低電圧化すると可変比は一層小さくなり、例えば、3以下になる。このため、特許文献3では、例えば、有限の可変幅を持つ可変容量素子を用いて、リアクタンスおよびサセプタンスを無限大の範囲で変化させる回路を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開昭59−4313号公報
【特許文献2】特開2008−306428号公報
【特許文献3】特開平9−74325号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献3に開示された技術は、理想素子としての特性についてのみ記載されており、容量性素子や誘導性素子に必ず存在する寄生抵抗成分が考慮されていない。すなわち、有限の可変幅を有する可変容量素子を用いてリアクタンスおよびサセプタンスを無限に変化させることができる、図13に示すインピーダンス整合回路30(特許文献3の図1)のアドミタンスYは以下の(1)式で与えられる。
【0011】
【数1】
【0012】
このため、Cmin<C<Cmax(但し、Cは可変容量素子の容量(キャパシタンス)、Cminはキャパシタンスの最小値、Cmaxはキャパシタンスの最大値)で変化する可変容量に対し、L=1/(ωmax),L=1/(ωmin)となるように誘導性素子のインダクタンスLとLを設定する(但し、ωは角周波数)。そして、この回路を、インピーダンス整合を要する回路ブロックの信号線とグランドとの間に接続し、2つの可変容量素子の容量Cを同時に変化させた場合、例えば、図14の特性図(容量Cに対するコンダクタンスGおよびサセプタンスBの特性を示すグラフ)に示すように、コンダクタンスGが0のままサセプタンスBを無限に変化させることができ、抵抗による損失なしにインピーダンス整合を行うことができる。
【0013】
しかしながら、実際の誘導性素子や容量性素子を用いて図13に示す整合回路を実現しようとすると、各素子には寄生抵抗成分が必ず存在するため、例えば、図15に示す等価回路のように動作する。但し、図15において、RとRは、それぞれ誘導性素子と可変容量素子の寄生抵抗の総和である。このとき、図13に示すインピーダンス整合回路30のアドミタンスYは以下の(2)式で与えられる。
【0014】
【数2】
【0015】
このため、例えば、図16の特性図に示すように、サセプタンスBの変化範囲は可変容量素子の可変範囲内において、無限ではなくなり、C=1/[ω(ωL+R)]で最大値、C=1/[ω(ωL−R)]で最小値をとる。代わって、コンダクタンスGが、CminおよびCmax付近で非常に大きくなってしまう。ここで、コンダクタンスGは、Cminでの1/Rを極大値としてCminから離れるに従って減衰する成分と、Cmaxでの1/Rを極大値としてCmaxから離れるに従って減衰する成分との和になるため、CminとCmaxとの差が小さい。つまり、可変比が小さいほど容量可変域全体にわたってコンダクタンスGが大きくなり、信号線とグランド間の抵抗成分が小さくなっていく。サセプタンス値は大きく減少してしまうものの依然可変容量のみと比較して大きな変化量は保たれていて、インピーダンス整合のとりやすさには寄与できるが、信号線とグランドとの間に小さい抵抗が存在すると、その小さな抵抗からグランドへと流れる信号が多くなるため、信号伝達効率が低下する。
【0016】
さらに、LとLの設定条件から、周波数が低いほど大きなインダクタンスが要求されるので、誘導性素子内部の導体長が長くなるため、寄生抵抗の増加がより顕著になり、特性劣化を引き起こす。
【0017】
本発明は上記した課題を解決するためになされたものであり、より小さな可変比を持つ可変容量素子に対して寄生抵抗による特性劣化を抑制しながら広いインピーダンス変化に対応可能な、インピーダンス整合回路およびアンテナシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記した課題を解決するために本発明の第1の観点に係るインピーダンス整合回路は、インピーダンス整合を要する回路ブロックに接続される信号線路とグランドとの間に接続されるインピーダンス整合回路であって、容量が可変の第1の容量性素子とこれに直列接続され第1のインダクタンスを有する第1の誘導性素子とを有する第1の回路と、第2のインダクタンスを有する第2の誘導性素子とこれに直列接続されたスイッチとを有する第2の回路とを具備し、前記スイッチのオン時、前記信号線路と前記グランドとの間に前記第1の回路と前記第2の回路が並列に接続され、この並列回路によって前記インピーダンス整合回路の第1のアドミタンスが生成され、前記スイッチのオフ時、前記第1の回路によって前記インピーダンス整合回路の第2のアドミタンスが生成されるように構成される
【0019】
本発明のインピーダンス整合回路は、前記インピーダンス整合を要する回路ブロックの入力インピーダンスが誘導性か容量性かを判断し、誘導性の場合に前記スイッチをオフの状態に設定し、容量性の場合にオンの状態に設定し、前記第1の容量性素子に印加される電圧を制御する制御部を有するものであってよい。
【0020】
本発明において、前記第2の誘導性素子に、前記第2の誘導性素子とはインダクタンスが異なる第3の誘導性素子を並列に接続し、前記制御部は、前記スイッチを介して前記第1の回路に接続される前記第2または第3の誘導性素子を切り換えることを特徴とする。
【0021】
本発明の第2の観点に係るアンテナシステムは、アンテナと、前記アンテナの直近に配置され、前記アンテナに接続される信号線路とグランドとの間に接続され、容量が可変の第1の容量性素子とこれに直列接続され第1のインダクタンスを有する第1の誘導性素子とを有する第1の回路と、第2のインダクタンスを有する第2の誘導性素子とこれに直列接続されたスイッチとを有する第2の回路とを具備し、前記スイッチのオン時、前記信号線路と前記グランドとの間に前記第1の回路と前記第2の回路が並列に接続され、この並列回路によって第1のアドミタンスが生成され、前記スイッチのオフ時、前記第1の回路によって第2のアドミタンスが生成されるように構成されるインピーダンス整合回路と、前記アンテナの入力インピーダンスが誘導性か容量性かを判断し、誘導性の場合に前記スイッチをオフの状態に設定し、容量性の場合にオンの状態に設定し、前記第1の容量性素子に印加される電圧を制御する制御部と、を有する。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、より小さな可変比を持つ可変容量素子に対して寄生抵抗による特性劣化を抑制しながら広いインピーダンス変化に対応可能な、インピーダンス整合回路およびアンテナシステムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の実施の形態に係るインピーダンス整合回路の回路構成を示す図である。
図2図1の可変容量素子のキャパシタンスに対するコンダクタンスおよびサセプタンスの特性を示す図である。
図3図2に示す特性を用いたインピーダンス整合回路である。
図4図13に示す特性を用いた比較例としてのインピーダンス整合回路である。
図5図3のインピーダンス整合回路のスミスチャート上での動作を示す図である。
図6図3のインピーダンス整合回路のVSWR特性を示す図である。
図7図3のインピーダンス整合回路の整合利得特性を示す図である。
図8図4のインピーダンス整合回路のスミスチャート上での動作を示す図である。
図9図4のインピーダンス整合回路のVSWR特性を示す図である。
図10図4のインピーダンス整合回路の整合利得特性を示す図である。
図11】本発明の実施例1に係るインピーダンス整合回路の回路構成を示す図である。
図12】本発明の実施例2に係るインピーダンス整合回路の回路構成を示す図である。
図13】従来のインピーダンス整合回路の一例を示す図である。
図14図13の可変容量素子のキャパシタンスに対するコンダクタンスおよびサセプタンスの理想特性を示す図である。
図15図13のインピーダンス整合回路の等価回路を示す図である。
図16図15の可変容量素子のキャパシタンスに対するコンダクタンスおよびサセプタンスの特性を示す図である。
図17図1のインピーダンス整合回路の等価回路を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
(実施形態の構成)
以下、添付図面を参照して本発明を実施するための実施の形態(以下、単に本実施形態という)について詳細に説明する。
【0025】
図1は、本実施形態に係るインピーダンス整合回路3の回路構成を示す図である。図13に示す従来のインピーダンス整合回路30との構成上の差異は、一方の誘導性素子と直列に接続されている可変容量性素子に変わってスイッチSWが接続されたことにある。
【0026】
すなわち、図1に示すように、本実施形態に係るインピーダンス整合回路3は、容量Ct0がCmin<Ct0<Cmaxで可変の第1の容量性素子Cと第1のインダクタンスLa0を有する第1の誘導性素子Lとが直列接続された第1の回路と、第2のインダクタンスLb0を有する第2の誘導性素子LとスイッチSWが直列接続された第2の回路とが並列に接続された回路ブロック(第2の回路ブロック)を有する。なお、このインピーダンス整合回路3は、後述するように、一端が信号線路に、他端がグランドに接続された、インピーダンス整合を要するインピーダンス整合対象回路(第1の回路ブロック)に接続される。
【0027】
上記構成は寄生抵抗を考慮すると、例えば、図17に示す等価回路のように動作する。図17において、1/[ω(ωLa0+R)]が可変容量素子の最大容量値Cmaxより小さくなるように第1の誘導性素子La0を設定する、つまりLa0を(1/(ωCmax)−R)/ωより小さく設定することで、寄生抵抗によるコンダクタンスの急増を抑えることかできる。Rは、第1の回路の誘導性素子Lの寄生抵抗値と可変容量素子Ctの寄生抵抗値の総和である。また、ここで設定されたLa0は従来技術のL=1/(ωmax)より小さくすることができ,誘導性素子内部の導体長も短くなることで、同じQ値を持つ誘導性素子であれば寄生抵抗も小さくできる。
【0028】
一方、第2の誘導性素子Lは、スイッチSWがオフ時のサセプタンスを負の方向へシフトさせる役割を持ち、インダクタンスLb0が小さいほど大きくシフトさせることができる。そのため、コンダクタンスを増加させることなくサセプタンス領域を変えることができる。スイッチSWがオフのとき、図1に示すインピーダンス整合回路3のアドミタンスY図17(a)のように動作し、以下の(3)式で与えられる。
【0029】
【数3】
【0030】
一方、スイッチSWがオンのときのアドミタンスY図17(b)のように動作し、以下の演算式(4)で与えられる。Rは、第2の回路ブロックの誘導性素子の寄生抵抗値とスイッチSWの寄生抵抗値の総和である。
【0031】
【数4】
【0032】
図2に、可変容量性素子のキャパシタンスCt0に対するコンダクタンスおよびサセプタンスの特性を示す。但し、G,Bは、スイッチSWオフ時、B,Gは、スイッチSWオン時の、それぞれ、コンダクタンスおよびサセプタンスである。この特性図に示されるように、Ct0の可変域において、スイッチSWのオンオフでサセプタンス可変域を大きく保ったまま、コンダクタンスの増加を防ぐことができている。このインピーダンス整合回路3を使用することにより、インピーダンス整合対象回路が誘導性であればスイッチSWをオフしてキャパシタンスが大きくなるように制御し、容量性であればスイッチSWをオンにしてキャパシタンスが小さくなるように制御する。
【0033】
(実施形態の性能評価)
ここで、本実施形態に係るインピーダンス整合回路3の性能評価結果について説明する。インピーダンス整合が必要なインピーダンス整合対象回路2の信号線11とグランド12との間に本実施形態に係るインピーダンス整合回路3を接続した評価回路100を図3に、従来のインピーダンス整合回路30(図13)を接続した比較回路200を図4にそれぞれ示してある。
【0034】
評価回路100(図3)、比較回路200(図4)ともに、Cmin=1.5[pF]、Cmax=3.0[pF]の可変容量(可変比2)の容量性素子Cを使用するものとする。そして、比較回路200は、周波数800[MHz]でCminおよびCmaxの条件から、13.1[nH]のインダクタンスを持つ誘導性素子L、26.4[nH]のインダクタンスを持つ誘導性素子L、評価回路100では、7[nH]のインダクタンスを持つ誘導性素子L、4.5[nH]のインダクタンスを持つ誘導性素子Lを設定する。また、LのインダクタンスはLのインダクタンスより小さくて良く、Lのインダクタンスは状況に応じて適宜設定する。各誘導性素子のQ値はいずれもQ=35とし、SWの挿入損失を0.1dBとした。
【0035】
評価回路100に対する整合後の反射係数Γin、VSWR特性、および整合利得特性を、それぞれ、図5図6図7にそれぞれ示す。図5図7において、いずれも上段は容量性負荷Γ=−0.5−j0.4の場合、下段は、誘導性負荷Γ=0.2+j0.5の場合である。ここで、Gは、出力インピーダンスが基準インピーダンスZ=50[Ω]である系に、図3および図4に示すインピーダンス整合回路3を接続したときと、インピーダンス整合回路3無しで接続した場合のトランスデューサ・ゲインの比を示す整合利得である。このGは、Sパラメータとインピーダンス整合回路3のアドミタンスYを用い、以下の(5)〜(7)式で計算される。
【0036】
【数5】
【0037】
同様に、比較回路200に対する整合後の反射係数Γin、VSWR、およびマッチング・ゲインGを、それぞれ、図8図9図10にそれぞれ示す。図8図10において、いずれも上段は容量性負荷Γ=−0.5−j0.4の場合、下段は、誘導性負荷Γ=0.2+j0.5の場合である。結果は一例であるが、接続する系のVSWRを改善し、評価回路100によれば、容量性負荷の場合はSWをオン、誘導性負荷の場合はSWをオフにすることで、比較回路200に比べて不整合損失を改善することができる。また、容量変化に対してGやVSWRは緩やかに変化するため、制御が容易になる。
【0038】
(実施形態の効果)
上記した本実施形態に係るインピーダンス整合回路3は、一端が信号線路11に他端がグランド12に接続された、インピーダンス整合を要する第1の回路ブロック(インピーダンス整合対象回路2)に接続される。そして、容量Ct0が可変の第1の容量性素子Cと第1のインダクタンスLa0を有する第1の誘導性素子Lとが直列接続された第1の回路と、第2のインダクタンスLb0を有する第2の誘導性素子LとスイッチSWとが直列接続された第2の回路とが並列に接続された第2の回路ブロックを有する。そして、一端を第1の回路ブロックの信号線路11に、他端を第1の回路ブロックのグランド12に接続することによって構成される。
【0039】
本実施形態に係るインピーダンス整合回路3によれば、Rを第1の回路の寄生抵抗の総和として、1/[ω(ωLa0+R)]を可変容量素子の最大容量値Cmaxより小さくなるように、つまりLa0を(1/(ωCmax)−R)/ωより小さくなるように第1の誘導性素子Laを設定することで、寄生抵抗によるコンダクタンスの急増を抑えることかできる。また、従来のL=1/(ωmax)のときと比べて、インダクタンスLa0を小さくすることができ、誘導性素子内部の導体長も短くなるので、同じQ値を持つ誘導性素子であれば寄生抵抗も小さくなる。また、第2の誘導性素子Lは、スイッチSWがオフ時のサセプタンスを負の方向へシフトさせる役割を持ち、インダクタンスLb0が小さいほど大きくシフトさせることができる。そのため、コンダクタンスを増加させることなくサセプタンス領域を変えることができる。
【0040】
また、特性図(図2)に示されるように、スイッチSWのオンオフでサセプタンス可変域を大きく保ったまま、コンダクタンスの増加を防ぐことができる。このインピーダンス整合回路3を使用することにより、インピーダンス整合対象回路が誘導性であればスイッチSWをオフしてキャパシタンスが大きくなるように制御し、容量性であればスイッチSWをオンにしてキャパシタンスが小さくなるように制御することで、より小さな可変比を持つ可変容量素子に対して寄生抵抗による特性劣化を抑制しながら広いインピーダンス変化に対応が可能なインピーダンス整合回路3を提供することができる。
【0041】
(実施例1)
次に、図11を参照して実施例1に係るアンテナシステム10Aについて説明する。実施例1では、図1に示すインピーダンス整合回路3をアンテナ1直近に配置してアンテナシステム10Aを構築する。実施例1では、アンテナ1とインピーダンス整合回路3を見た入力インピーダンスが誘導性か容量性かを判断し、LとCとの間に印加される電圧を制御する制御部4を付加した。制御部4は、容量性であればインピーダンス整合回路3を構成するスイッチSWをオンにしてキャパシタンスが小さくなるように、誘導性であればスイッチSWをオフにしてキャパシタンスが大きくなるように強誘電体バラクタやバリキャップの電圧を制御する。このとき、その制御回路がインピーダンス整合回路3へ影響を及ぼさないように配慮した。すなわち、特性に影響を与えない容量を持つキャパシタCを、誘導性素子と可変容量性素子との間に挿入し、インピーダンス整合回路へ不要な電流が流れないようにした。さらに、高い抵抗値を有する抵抗Rを制御部4と第1の回路ブロックとの間に介することで信号が制御回路側へ流れ出ないようにする構成をとっている。
【0042】
制御部4は、ソフトウェアで実現してもハードウエアで実現してもよく、いずれの場合も、入力インピーダンスが容量性か誘導性か判断するための機能ブロック4aと、その判断結果にしたがいスイッチSWを設定するための機能ブロック4bと、インピーダンス整合回路3を構成する可変容量素子に印加される電圧を制御する電圧設定のための機能ブロック4cとを含む。
【0043】
上記構成によれば、アンテナ1の直近に配置された図1に示すインピーダンス整合回路3と、第1の回路ブロック(アンテナ1とインピーダンス整合回路3)の入力インピーダンスが誘導性か容量性かを判断し、誘導性の場合にスイッチSWをオフの状態に設定し、容量性の場合にオンの状態に設定し、第1の誘導性素子(インピーダンス整合回路3のL)と第1の可変容量性素子(インピーダンス整合回路3のC)との間に印加される電圧を制御する制御部4とにより、シンプルな構成でアクティブ・インピーダンス整合と低コスト化を実現する、例えば、携帯電話用無線モジュール等のアンテナシステム10Aを提供することができる。
【0044】
(実施例2)
図12を参照しながら実施例2に係るアンテナシステム10Bについて説明する。図12において、図11に示す実施例1との構成上の差異は、インピーダンス整合回路3を構成する誘導性素子LとLを並列に接続し、スイッチSWで切り替える構成にしたことである。更に、制御部4に、外部から帯域選択を行うための機能ブロック4dが付加される。
【0045】
上記構成によれば、第2の誘導性素子(L)に、第2の誘導性素子とはインダクタンスが異なる第3の誘導性素子(L)を並列に接続し、このとき、制御部4は、スイッチSWを介して第1の回路(アンテナ1)に接続される第2または第3の誘導性素子(LまたはL)を切り換える構成とすることで、帯域選択の指定に伴うスイッチSW切替えによって2つの周波数帯域への対応が可能であり、更に、並列に接続される誘導性素子の数を増やせば、より多くの周波数帯域への対応も可能である。したがって、実施例2によれば、図11に示す実施例1が持つ効果に加え、柔軟性、拡張性に富んだアンテナシステム10Bを構築することができる。
【0046】
以上、本発明の好ましい実施形態について詳述したが、本発明の技術的範囲は上記実施形態に記載の範囲には限定されないことは言うまでもない。上記実施形態に、多様な変更または改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。またその様な変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【符号の説明】
【0047】
1…アンテナ、2…インピーダンス整合対象回路、3…インピーダンス整合回路、4…制御部、10A,10B…アンテナシステム、11…信号線路、12…グランド、100…評価回路、200…比較回路、C…第1の可変容量素子、L…第1の誘導性素子、L…第2の誘導性素子、L…第3の誘導性素子、SW…スイッチ、R…抵抗。
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