(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
「製紙プロセス(papermaking process)」という用語は、パルプから各種の紙製品(たとえば、紙、薄葉紙、ボール紙など)を製造する方法を意味しており、水性のセルロース系製紙完成紙料(papermaking furnish)を形成させるステップと、その完成紙料の水切りをしてシートを形成させるステップと、そのシートを乾燥させるステップと、が含まれる。それらの製紙完成紙料の形成ステップ、水切りステップ、および乾燥ステップは、当業者に一般的に公知の方法で実施すればよい。その製紙プロセスには、パルプ化ステップ、たとえば木材粗原料からパルプを製造するステップ、および漂白ステップ、たとえば、白色度を改良するためにパルプを化学的処理するステップが含まれていてよい。完成紙料には、フィラーおよび/またはその他の夾雑物が含まれていてもよい。
【0012】
「バルクサンプル」という用語は、その成分を特別に分離していないサンプルを意味しているが、ただし例外的に、バルクサンプルには、サイズを基準にした分離は含まれていてよい。たとえば、バルクサンプルには、たとえば懸濁液からの樹脂粒子の分離は含まれない。
【0013】
「ソルバトクロマチック(solvatochromatic)染料」とは、その周囲環境の極性に依存してシフトする吸収および/または蛍光の発光波長を有する染料である。
【0014】
「流体」という用語には、製紙プロセスからの水性製紙懸濁液、たとえば、パルプ化ステップ中の繊維を含む流体、低濃度紙料、高濃度紙料、製紙プロセス、たとえば、製紙機からの各種の位置またはパルプ化プロセスから抜き出される水性懸濁液、ウールボックス(uhl box)、加圧脱水セクション、および/または製紙プロセスの各所の中の水性流体などが含まれているが、当業者であれば、それらの何処で疎水性夾雑物のモニターが必要となるかについて思い至ることができるであろう。
【0015】
先に述べたように、本発明は、蛍光を使用することによって、製紙プロセスにおける1種または複数のタイプの疎水性夾雑物をモニターする方法を提供する。
【0016】
サンプルに添加する疎水性染料は、疎水性夾雑物、たとえば、ピッチ粒子を染色するか、またはそれらと相互作用を有するものでなければならない。
【0017】
一つの実施態様においては、疎水性染料をモニターする方法が、上述の要素から実質的になっている。
【0018】
また別の実施態様においては、その流体が、パルプスラリーの水性濾液である。
【0019】
また別の実施態様においては、その流体の濁度もまた測定される。さらなる実施態様においては、前記化学薬剤添加の前および後に、前記流体の濁度を測定する。
【0020】
また別の実施態様においては、前記染料の前記添加の前、または前記染料の前記蛍光測定の前に、その流体を濾過するか、希釈するか、またはそれらを組み合わせて実施するが、ここで前記流体を前記濾過または希釈することによって、前記流体を蛍光光度的にモニターすることが可能となる。
【0021】
また別の実施態様においては、そのサンプルを、製紙プロセス、たとえば、抄紙機から外れた希釈サンプルポイントから抜き出す。さらなる実施態様においては、そのサンプルポイントが、製紙プロセスの白水(white water)である。この採取/サンプルポイントを想定した理由は、長い繊維が存在しないか、またはいかなる繊維も実質的に存在せず、濾過を必要としないであろうからである。
【0022】
また別の実施態様においては、1種または複数のサンプルを、篩別/分離ステップにかけて、サンプル溶液の中に懸濁された夾雑物から長い繊維を分離させる。たとえば、分離プロセスから得られる濾液/水性フラクションが受ける希釈の程度は、いずれも濁度に関連する、主として二つの因子に依存する。その濾液/水性フラクションが濁度計にかけるには濁りすぎている場合には、希釈をして、その濁度が濁度計の測定範囲に入るようにする必要がある。本発明で特許請求されている一つの実施態様である、精度を必要とせず「迅速ではあるが汚れた(quick and dirty)」試験を望む場合以外では、このことがあてはまる。
【0023】
また別の実施態様においては、その濁度が2000NTU(比濁法濁度単位(nephelometric turbidity unit))よりも高いならば、製紙プロセスからのサンプルを希釈し/さらに分離した後で、染料を添加して蛍光測定をするのが好ましい実施態様である。2000NTUという値は、測定器または測定法に依存していてよい。
【0024】
また別の実施態様においては、その染料が、以下のものからなる群より選択される。例えば、9−ジエチルアミノ−5H−ベンゾ[アルファ]フェノキサジン−5−オン、1−ジメチルアミノ−5−スルファモイル−ナフタレン、ピレン、1−ピレンカルブアルデヒド、ライハルト染料(Reichardt’s dye)、4−アミノフタルイミド、4−(N,N−ジメチルアミノ)フタルイミド、ブロモナフタレン、2−(ジメチルアミノ)ナフタレン、およびそれらの組合せ等である。
【0025】
また別の実施態様においては、その染料が、ソルバトクロマチック染料である。
【0026】
また別の実施態様においては、その染料が、N−(n−ブチル)−4−(n−ブチルアミノ)−ナフタルイミドを含まない。
【0027】
また別の実施態様においては、その流体が、前記製紙プロセスのウェットエンドから得られる。
【0028】
先に述べたように、サンプルに添加される染料は、前記染料が前記流体の中の前記夾雑物と相互作用をするに十分な時間を与えてから、その蛍光測定を実施しなければならない。当業の通常の技量を有する者ならば、余分な実験をしなくても、前記相互作用のための十分な時間を求めることができるであろう。
【0029】
一つの実施態様においては、その染料を溶媒と混合してから、それを前記流体に添加する。当業の通常の技量を有する者ならば、余分な実験をしなくても、混合に十分な時間を求めることができるであろう。
【0030】
また別の実施態様においては、その夾雑物が以下のものからなる群より選択される。例えば、ピッチ、繊維、フィラー、微小物(fines)、コートブローク、ミルブローク、リサイクル、砕木、熱砕木パルプ、化学−熱砕木パルプ、化学パルプ、脱インキパルプ、インキ、粘着剤、粘着性物質(stickies、tackies)、ワックス、バインダー、ならびに溶解物質および/またはコロイド状物質、ならびにそれらの組合せ等である。
【0031】
また別の実施態様においては、その方法が、オンライン法、および/またはバッチサンプル法である。
【0032】
また別の実施態様においては、蛍光光度測定が、プリセット基準、断続基準、および/または連続基準で実施される。たとえば、前記疎水性夾雑物の蛍光を測定するための手段として、フローセルを使用することができる。さらに詳しくは、一つの実施態様においては、測定のためのプロセスには、製紙プロセスから得られたサンプルに、前記フローセルにおいてその蛍光測定をするより前に、1種または複数の蛍光トレーサーを添加することが含まれる。当業の通常の技量を有する者ならば、余分な実験をしなくても、このプロセスを実施することが可能であろう。たとえば、上述の測定方式を実施するのに、フローインジェクション分析法および/またはシーケンスインジェクション分析法を使用することが可能であろう。
【0033】
また別の実施態様においては、携帯型の蛍光光度計を用いて、その蛍光光度測定を実施する。他のタイプの蛍光光度計を用いて蛍光測定を実施してもよい。
【0034】
本発明はさらに、製紙プロセスにおいて1種または複数の疎水性夾雑物の量を低下させる1種または複数の化学薬剤の有効性を測定する方法も提供する。流体中における疎水性夾雑物の量についての情報を利用して、1種または複数の化学薬剤を添加するための制御ループを形成することが可能であり、それを使用して、疎水性夾雑物の量を制御することができる。
【0035】
一つの実施態様においては、上述の蛍光法およびその各種の実施態様によって、疎水性夾雑物をモニターするための方法を評価することが可能である。
【0036】
また別の実施態様においては、蛍光量の定量を上述の方法によって測定し、次いでこのステップに続けて、その製紙プロセスに、疎水性夾雑物を処理する、たとえば、疎水性夾雑物抑制のための同一の化学物質を増減したり、疎水性夾雑物抑制のための化学薬品処理プログラムを変更したりするための1種または複数の化学薬剤を添加し、次いでその処理ステップに続けて、上述の方法によって、前記製紙プロセス中の夾雑物の量を再測定する。
【0037】
また別の実施態様においては、それらの化学薬剤は、以下の、固着剤、粘着抑制剤、分散剤、界面活性剤、および歩留まり助剤、の少なくとも1種である。
【0038】
本発明はさらに、製紙プロセスにおいて、疎水性夾雑物をモニターし、そして前記疎水性夾雑物のサイズを求める方法も提供する。
【0039】
一つの実施態様においては、上述の蛍光法およびその各種の実施態様によって、疎水性夾雑物をモニターするための方法を評価することが可能である。
【0040】
また別の実施態様においては、その水性フラクションが、1種もしくは複数の浮遊物質、または1種もしくは複数の粒子を含んでいる。
【0041】
また別の実施態様においては、分離を実施することが可能な手段が、遠心分離機、フィルター、またはそれらの組合せである。
【0042】
各種のタイプの装置/方法が使用可能であり、たとえば各種の孔径を有するフィルターを使用して、サイズに基づいて成分を分離させることができる。
【実施例】
【0043】
<A.標準試験手順>
(コートブローク濾液の蛍光測定)
I.装置:グリーンオプティックチャンネル(green optic channel)(A)を備えたターナー・デザインズ・アクアフルオール(Turner Designs Aquafluor)(登録商標)蛍光光度計ユニットを使用した。
II.較正:アクアフルオール(Aquafluor)蛍光光度計ユニットは、アルコール中に30ppmのナイルレッド染料を含む溶液(3mLのアルコール中0.01重量%ナイルレッド染料の溶液、3マイクロリットル)の蛍光値を測定することにより較正する。この蛍光発光を、その機器で600ユニットとセットし、脱イオン水の蛍光発光を測定して、「ブランク」として使用した。
III.コートブローク処理:表に記載したコートブローク処理試験を実施してから(ブロークを混合するためには、ブリット(Britt)ジャープロペラを使用する)、その濾液を希釈して、オンスケール(on−scale)の濁度の読みを得る。
【0044】
【表1】
【0045】
IV.蛍光測定:
1.希釈した溶液の濁度を読み取ってから、希釈コートブローク濾液の3mLを使い捨てのキュベットに入れ、アクアフルオール(Aquafluor)ユニットの電源を入れる。
2.軟らかい布を用いてキュベットの外側をぬぐい、キュベットをアクアフルオール(Aquafluor)ユニットの中にとりつけ、蓋をしめ、読み取りボタンを押し、バックグラウンドの蛍光を記録する。
3.アルコール中0.01%のナイルレッド染料溶液6マイクロリットルをキュベットに加える。よく混合する。軟らかい布を用いてキュベットの外側をぬぐう。
4.キュベットをアクアフルオール(Aquafluor)ユニットの中にとりつけ、蓋をしめ、読み取りボタンを押し、生の蛍光測定の結果を記録する。
5.終わったら、サンプルを廃棄する。すすぎができなかったら、キュベットを廃棄する(throw out)。
6.すべてのサンプルについて繰り返す。
7.サンプルの蛍光からバックグラウンド蛍光を差し引いて、補正した蛍光を得る。
【0046】
V.データ解析:それらのデータは各種の方法、たとえば次の方法でプロットすることができる。
1.疎水性の低下%(蛍光低下%)対ポリマー量。
2.それぞれの量曲線(dosage curve)についての濁度対蛍光。
【0047】
<B.実施例>
以下の実施例では、先に挙げた蛍光測定のための「標準試験手順」を使用している。
【0048】
(実施例1)
抄紙機のウェットエンドの、図に示したような各所から、パルプサンプルを捕集してきた。それらのサンプルを150ミクロンの篩を通すことによって、サンプルから長繊維を除去した。濾液の濁度を測定し、次いで、濾液3ミリリットルに対してアルコール中0.01重量%のナイルレッド染料溶液6マイクロリットルを添加してから、濾液の蛍光測定を行った。それらの結果からは、
図1に見られるように、濁度および疎水性、または夾雑物の存在が、必ずしも相互に関連している訳ではないことがわかる。
【0049】
(実施例2)
コートブロークの調製を以下のようにして行った。1.5×1.5インチ平方に切断したドライコート紙から、コートブロークを調製した。3.5重量%の目標濃度となるように、140gのドライコートブロークを、3,860mLの合成水道水の中に20分間浸漬させた。次いでそのサンプルを、容量4リットルのアディロンダック・パルパー(Adirondack Pulper)に移し、目盛り5で90分間かけて再パルプ化させた。
【0050】
図2に、0.8、3、5、10、および76ミクロンの、各種のサイズの媒体を通過させた濾過した、未処理および処理済みのコートブローク濾液の疎水性を示している。それぞれの濾液について測定した蛍光から、どの粒径領域が最も高いレベルの疎水性粒子を含んでいるかについての指標が得られる。この図からはさらに、固着剤を添加しても、ホワイトピッチの凝集がまったく起きていないことも判る。固着剤は、総合的な疎水性を低下させるが、その一方で粒径分布のプロファイルは保持されている。
【0051】
(実施例3)
この疎水性試験方法を用いて、コートブロークサンプルのための、可能な処理プログラムを評価した。
【0052】
試験手順を以下のようにして行った。
1.出来上がりで0.3〜0.5重量パーセントとなるように固着剤溶液を調製する。
2.混合ブリットジャー(Britt jar)の混合を500rpmに設定する。
3.400mLのビーカーに200mLのコートブロークを加える。
4.ブロークの中にブリットジャー(Britt Jar)プロペラを挿入し、ブリットジャー(Britt Jar)ミキサーのスイッチを入れると同時にストップウォッチを起動させる。
5.以下の混合シーケンスに従って、コアギュレート剤を添加する:t=0、ミキサー始動;t=10秒、コアギュレート剤を添加;t=30秒、ミキサー停止、ストップウォッチをリセットする。
6.400mLビーカーで支えた100メッシュの篩の中に処理した紙料全部を入れ、ストップウォッチを始動させる。濾過が完了したら、ビーカーから篩を外し、濾過時間をモニターする。
7.濁度計を使用して、その濾液の濁度を測定する。濾液の濁度が範囲外の場合には、濾液を希釈する。ポリマー性能を相対的に評価するためには、ポリマー添加した紙料からのそれぞれの濾液に対して同一の希釈を実施しなければならない。
8.3mLの希釈した濾液を採り、アルコール中0.01重量%濃度のナイルレッド染料の3マイクロリットルを加え、蛍光を測定する。
9.ポリマー処理をしないもの(ブランク)にも、ステップ3〜8を繰り返す。
【0053】
図3は、固着剤が異なると、コートブロークへの影響も異なってくることを示している。固着剤を変化させても同一の濁度とすることが可能ではあるが、それらのサンプルの間でも疎水性は大いに異なっている。