【課題を解決するための手段】
【0006】
上述の課題を解決するための本願発明として、本願発明者は、以下の2つの発明を提案する。
【0007】
第1発明は、シート基材の少なくとも一方の表面であり、光触媒層が設けられることで光酸化機能が与えられる特定表面に、光触媒層を形成する光触媒シートの製造方法である。
この製造方法では、前記特定表面に、線膨張係数が5(10
−5/℃)以上である合成樹脂及び/又はゴム材料と、線膨張係数が2(10
−5/℃)以下である光触媒粉を含有する分散液を塗布し、前記分散液を塗布したシート基材を加熱し、加熱したそのシート基材を常温まで冷却することで、前記特定表面に光触媒層を設ける。
第1発明では、合成樹脂及び/又はゴム材料と、合成樹脂及び/又はゴム材料とは線膨張係数が異なる光触媒粉とをともに含む分散液をシート基材の表面に塗布し、それを加熱してから冷却する。このようにすると、合成樹脂及び/又はゴム材料と光触媒粉との間における線膨張係数の相違により、両者の間に微細な隙間が生じる。この隙間がクラックとなるので、この方法により作られた光触媒層は、その表面に3次元構造を持つものとなり、その表面積が大きくなることにより、優れた性能を有するものとなる。
第1発明では、前記特定表面に、線膨張係数が5(10
−5/℃)以上である合成樹脂及び/又はゴム材料を含有する分散液である前処理分散液を塗布し、前記前処理分散液を塗布したシート基材を加熱し、前記前処理分散液中の前記合成樹脂及び/又はゴム材料を固化させてから、前記分散液の塗布を行うようにしてもよい。前処理分散液に含有された合成樹脂及び/又はゴム材料を含む層を前記特定表面に固定的に設けるには、例えば、前記前処理分散液を塗布したシート基材を加熱した後に、乾燥及び/又は冷却を行えばよい。
以上の方法では、分散液によって形成される上述の光触媒層は、前処理分散液に含有されていた合成樹脂及び/又はゴム材料によって形成される層の上に形成されることになる。前処理分散液に含有されていた合成樹脂及び/又はゴム材料によって形成される上述の層に含まれている合成樹脂及び/又はゴム材料は、線膨張係数が5(10
−5/℃)以上と比較的大きい。したがって、前処理分散液を用いると、線膨張係数の小さい光触媒粉を含む光触媒層にクラックが入りやすくなる。
【0008】
第2発明は、以下のようなものである。
第2発明は、シート基材の少なくとも一方の表面であり、光触媒層が設けられることで光酸化機能が与えられる特定表面に、光触媒層を形成する光触媒シートの製造方法である。
この製造方法では、前記特定表面に、線膨張係数が5(10
−5/℃)以上である合成樹脂及び/又はゴム材料を含有する分散液である前処理分散液を塗布し、前記前処理分散液を塗布したシート基材を加熱し、前記前処理分散液中の前記合成樹脂及び/又はゴム材料を固化させてから、線膨張係数が2(10
−5/℃)以下である光触媒粉を含有する分散液を塗布し、前記分散液を塗布したシート基材を加熱し、加熱したそのシート基材を常温まで冷却することで、前記特定表面に、光触媒粉が85重量%以上を占める光触媒層を設ける。
第2発明における光触媒層は、光触媒粉が85重量%以上を占めるものとされており、第1発明の場合と違って、ほぼ光触媒粉のみでできているといえる。第2発明では、このような光触媒層を、光触媒粉よりも線膨張係数が大きい合成樹脂及び/又はゴム材料によって形成される層の上に重ねて作る。前処理分散液に含有された合成樹脂及び/又はゴム材料を含む層を前記特定表面に固定的に設けるには、例えば、前記前処理分散液を塗布したシート基材を加熱した後に、乾燥及び/又は冷却を行えばよい。
第1発明と同様の分散液を塗布したシート基材の加熱、冷却を行うと、光触媒粉と合成樹脂及び/又はゴム材料との間の線膨張係数の相違により、最終的に得られる光触媒層には、微小なクラックが入ることになる。これにより、シート基材の表面に設けられた光触媒層は、その表面に三次元構造を有するものとなり、その表面積が大きくなることにより、優れた性能を有するものとなる。
同様の作用効果を、以下の第2発明による光触媒シートの製造方法によっても得ることができる。
その製造方法は、シート基材の少なくとも一方の表面であり、光触媒層が設けられることで光酸化機能が与えられる特定表面に、光触媒層を形成する光触媒シートの製造方法である。この製造方法では、前記シート基材として、前記特定表面に、線膨張係数が5(10
−5/℃)以上である合成樹脂及び/又はゴム材料を含有する層を有するものを用い、前記特定表面に、線膨張係数が2(10
−5/℃)以下である光触媒粉を含有する分散液を塗布し、前記分散液を塗布したシート基材を加熱し、加熱したそのシート基材を常温まで冷却することで、前記特定表面に、光触媒粉が85重量%以上を占める光触媒層を設ける。
【0009】
第2発明では、前記分散液に含有される前記光触媒粉を接着する接着層を生成してから、その接着層の上に前記分散液を塗布するようにしてもよい。この接着層は、これには限定されないが、例えば、日本曹達株式会社製の商品名ビストレイター(品番NRC−350A)等を利用して接着層を形成することができる。接着層を設けることにより、光触媒粉の特定表面に対する強固な固着を行えるようになるとともに、光触媒作用によるシート基材の劣化を防止できるようになる。
【0010】
以下の内容は、第1発明と第2発明に共通する。
分散液によって形成される光触媒層の厚さには特に制限はないが、前記分散液によって形成される光触媒層の厚さを、0.5μm以上とすることができる。このようにすることで光触媒層にクラックが生じやすくなり、光触媒層に三次元構造を与えるに好適である。
【0011】
前記光触媒粉は、既知の光触媒の粉末であれば基本的にどのようなものでも構わない。光触媒としては、二酸化チタン、三酸化チタン、酸化亜鉛などの公知の材料を利用できる。なお、これらの線膨張係数は、0.8(10
−5/℃)前後である。
光触媒粉は、例えば、高活性タイプの光触媒と、ガス吸着タイプの光触媒の少なくとも一方を含むものとすることができる。
高活性タイプの光触媒は、セルフクリーニング機能をより良く発揮するようにされた光触媒であり、例えば石原産業株式会社製の品番ST−01、や品番ST−21がこれにあたる。高活性タイプの光触媒の例として、二酸化チタンの場合であれば、アナターゼ型とルチル型の2種類が光触媒として一般的に用いられる。特に、その粒子径を小さくしてその表面積を増大させることによってその活性を増大させたアナターゼ型の二酸化チタンは、高活性タイプの光触媒の典型例である。
ガス吸着タイプの光触媒は、光触媒粉の周りに気体中の有害ガスを吸着するための物質が被覆されているものであり、例えば石原産業株式会社製のST−31がこれにあたる。
前者を用いるとセルフクリーニング効果を効率よく発揮させることができるという利点が、後者を用いると、気体中の有害物質が効率よく吸着分解されるため気体浄化に優れるという利点をそれぞれ得られるが、両者を用いると両者を併せた効果を得られるだけでなく、両者を単独で利用するよりもガス分解性が高くなるという利点を得られる。
【0012】
第1発明、第2発明の光触媒シートの製造方法では、いずれの場合でも、分散液を塗布したシート基材を加熱する。この場合の加熱の条件は、適当に決定すればよい。
例えば、第1発明の場合における分散液を塗布したシート基材を加熱する際の温度は、分散液に含まれている合成樹脂、ゴム材料の種類によって選択することが可能である。分散液が合成樹脂を含み、それがフッ素の樹脂である場合には、その加熱温度を、300〜380℃とするのが好ましい。この場合の加熱は、焼成と呼んでもよい程度の高温となる。また、分散液がフッ素以外の合成樹脂、又はゴム材料を含む場合には、分散液を塗布したシート基材を加熱する際の加熱温度は70〜200℃とするのが好ましく、その加熱温度を70〜120℃とするのがより好ましい。分散液がフッ素以外の合成樹脂、又はゴム材料を含む場合における、分散液を塗布したシート基材を加熱する際の温度を70℃より高くするのは、それより低い温度の加熱では、分散液中の溶媒を飛ばすに不十分となり易いからであり、加熱する際の温度を200℃より低くするのは、それより高い温度の加熱では基材を痛めるおそれがあるからである。
第2発明の場合における分散液を塗布したシート基材を加熱する際の加熱温度は、上述の第1発明における加熱温度の場合と同様に決定することができる。
また、第1発明、第2発明の場合とも、分散液を塗布したシート基材の加熱を行った後、加熱したシート基材を常温まで冷却するのに必要な時間を10分以内とすることもできる。このようにすると、光触媒層にクラックをより効率的に生じさせられる。
【0013】
本発明におけるシート基材はどのようなものでも構わない。
例えば、その素材は、ガラス繊維、シリカ繊維、バサルト繊維等の無機繊維であってもよいし、ポリエステル系繊維、ポリ塩化ビニル系繊維、ポリ塩化ビニリデン系繊維、アクリル系繊維、ポリビニルアルコール系繊維、ポリプロピレン系繊維、ポリエチレン系繊維等の合成繊維であってもよい。また、その素材は、ケナフ繊維やジュート繊維等の天然繊維とすることもできる。
シート基材は、また、織布であってもよいし、編物であってもよいし、不織布であってもよい。
シート基材は、また、織布、編物、不織布などによって形成された芯材の少なくとも一方の面に、合成樹脂及び/又はゴム材料を被覆したものであってもよい。かかる被覆を行う場合には、その被覆により形成される層は何層であってもよい。なお、この被覆により形成された層は、シート基材自体が、前処理分散液によって形成される層を予め有している場合における当該前処理分散液によって形成される層であると把握することができる場合がある。
【0014】
以下の合成樹脂とゴム材料が、本願発明における分散液、又は前処理分散液に含まれる場合がある。なお、以下に例示する合成樹脂とゴム材料は、上述したシート基材における芯材の被覆にも用いることができる。
合成樹脂の例としては、塩化ビニル樹脂(PVC)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、エチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)、ポリウレタン(PU)、ポリスチレン(PS)、アクリルニトリルブタジエンスチレン共重合体(ABS)、ポリアミド(PA)、アクリル樹脂(PMMA)、ポリカーボネート(PC)を挙げられる。
合成樹脂の他の例として、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン-エチレン共重合体(ETFE)、ポリビニリデンフルオライド(PVDF)、ポリビニルフルオライド(PVF)などのフッ素樹脂を挙げることができる。
ゴム材料の例としては、クロロプレンゴム(CR)、クロロスルフォン化ポリエチレンゴム(CSM)、天然ゴム、ブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ブチルゴム、アクリルゴム、ウレタンゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム、エチレンプロピレンゴム(EPDM)を挙げることができる。
以上で例示した合成樹脂、ゴム材料は、1種だけで使用しても、2種以上を混合して使用してもよい。また、合成樹脂、ゴム材料は、一つの層に複数種類含まれていてもよい。ただし、フッ素樹脂は、他のフッ素樹脂との混合は可能であるが、フッ素樹脂以外の合成樹脂やゴム材料と混合することはできない。
以上で例示した合成樹脂、ゴム材料の線膨張係数を以下の表1に示す。
【表1】