(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5762485
(24)【登録日】2015年6月19日
(45)【発行日】2015年8月12日
(54)【発明の名称】最小数の減結合コンデンサを有する多電極埋込型刺激器装置のためのアーキテクチャ
(51)【国際特許分類】
A61N 1/32 20060101AFI20150723BHJP
【FI】
A61N1/32
【請求項の数】21
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2013-177712(P2013-177712)
(22)【出願日】2013年8月29日
(62)【分割の表示】特願2012-506054(P2012-506054)の分割
【原出願日】2010年3月29日
(65)【公開番号】特開2013-236964(P2013-236964A)
(43)【公開日】2013年11月28日
【審査請求日】2013年8月30日
(31)【優先権主張番号】12/425,505
(32)【優先日】2009年4月17日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】507213592
【氏名又は名称】ボストン サイエンティフィック ニューロモデュレイション コーポレイション
(74)【代理人】
【識別番号】100092093
【弁理士】
【氏名又は名称】辻居 幸一
(74)【代理人】
【識別番号】100082005
【弁理士】
【氏名又は名称】熊倉 禎男
(74)【代理人】
【識別番号】100088694
【弁理士】
【氏名又は名称】弟子丸 健
(74)【代理人】
【識別番号】100103609
【弁理士】
【氏名又は名称】井野 砂里
(74)【代理人】
【識別番号】100095898
【弁理士】
【氏名又は名称】松下 満
(74)【代理人】
【識別番号】100098475
【弁理士】
【氏名又は名称】倉澤 伊知郎
(74)【代理人】
【識別番号】100130937
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 泰史
(72)【発明者】
【氏名】パラモン ジョルディ
(72)【発明者】
【氏名】カルブナル ラファエル
【審査官】
村上 聡
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2008/048321(WO,A1)
【文献】
特開2008−183248(JP,A)
【文献】
米国特許第06125300(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61N 1/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の電極と埋込可能なケースとを有する埋込型医療装置を操作する方法であって、
複数のスイッチを含む制御回路により、前記複数の電極のうちの1つの第1の電極であってアノード及びカソードとして作動するように前記制御回路により指定可能な前記第1の電極を、前記スイッチの1つを介して第1の極性の電流ソースに結合することによって、前記第1の電極だけをカソード又はアノードのいずれか一方として指定して第1の電流路を確立し、同時に、前記複数の電極のうちの複数のY個の第2の電極であってそれぞれがアノード及びカソードとして作動するように前記制御回路により指定可能な前記Y個の第2の電極を、前記複数のスイッチを介して第2の極性の電流ソースに結合することによって、前記Y個の第2の電極をカソード又はアノードのうちの他方として指定してY個の第2の電流路を確立するステップを含み、前記第1の電極と前記複数のY個の第2の電極は、1つ又はそれ以上のリード線によって前記埋込可能なケースに結合され、
前記第1及び第2の電流路のうちの1つだけがコンデンサを含まないように、Y個だけのコンデンサが前記第1又は第2の電流路内に配置される、ことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記Y個のコンデンサは前記第2の電流路内に配置され、従って前記第1の電流路はコンデンサを含まないことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記コンデンサのうちのY−1個が前記第2の電流路内に配置され、前記コンデンサのうちの1つが前記第1の電流路内に配置され、従って前記第2の電流路のうちの1つだけがコンデンサを含まないことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記第1の電極はアノードとして指定され、前記第2の電極はカソードとして指定されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記第1の電極はカソードとして指定され、前記第2の電極はアノードとして指定されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記第1の電極は、前記複数の電極のうちのいずれかから指定されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記第1の電極は、前記複数の電極のうちの専用の1つを含むことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
埋込可能なケースと、
第1のスイッチマトリクス及び第2のスイッチマトリクスを含む制御回路と、
前記埋込可能なケースに1つ又はそれ以上のリード線によって結合された複数のN個の電極であって、前記N個の電極のすべてがそれぞれアノード及びカソードとして作動するように前記制御回路によって指定可能であり、前記制御回路が、前記N個の電極のうちの少なくとも1つの第1の電極を第1の電流路を有するカソード又はアノードのいずれか一方として指定し、N個の電極のうちの少なくとも1つの第2の電極を第2の電流路を有するカソード又はアノードのうちの他方として指定するように作動する、複数のN個の電極と、
各々のアノード電流ソースが前記第1の電極のうちの1つに結合可能な、複数のJ個のアノード電流ソースと、
各々のカソード電流ソースが前記第2の電極のうちの1つに結合可能な、複数のI個のカソード電流ソースと、を備え、
前記J個のアノード電流ソースの各々が、前記第1のスイッチマトリクスによって任意の前記第1の電極に結合可能であり、前記I個のカソード電流ソースの各々が、前記第2のスイッチマトリクスによって任意の前記第2の電極に結合可能であり、
さらに、複数のJ+I−1個のコンデンサを備え、前記複数のJ+I−1個のコンデンサは、前記第1及び前記第2の電流路のうちの1つだけがコンデンサを含まないように、前記第1及び第2の電流路内に配置される、ことを特徴とする埋込型医療装置。
【請求項9】
JはNよりも小さく、IはNよりも小さいことを特徴とする、請求項8に記載の装置。
【請求項10】
J+I−1はNよりも小さいことを特徴とする、請求項8に記載の装置。
【請求項11】
前記少なくとも1つの第1の電極がアノードとして指定され、前記少なくとも1つの第2の電極がカソードとして指定されることを特徴とする、請求項8に記載の装置。
【請求項12】
前記少なくとも1つの第1の電極は、前記N個の電極のうちのいずれかから指定されることを特徴とする、請求項8に記載の装置。
【請求項13】
前記J個のアノード電流ソースはコンプライアンス電圧に結合され、前記I個のカソード電流ソースは基準電圧に結合されることを特徴とする、請求項8に記載の装置。
【請求項14】
JはIに等しいことを特徴とする、請求項8に記載の装置。
【請求項15】
埋込可能なケースと、
スイッチマトリクスを含む制御回路と、
前記埋込可能なケースに1つ又はそれ以上のリード線によって結合された複数のN個の電極であって、前記N個の電極のすべてがそれぞれアノード及びカソードとして作動するように前記制御回路によって指定可能であり、前記制御回路が、前記N個の電極のうちの少なくとも1つの第1の電極を第1の電流路を有するカソード又はアノードのいずれか一方に指定し、N個の電極のうちの少なくとも1つの第2の電極を第2の電流路を有するカソード又はアノードの他方に指定するように作動する、複数のN個の電極と、
各々の電流ソースが、前記第1の電極のうちの1つに前記スイッチマトリクスによって結合可能なアノード電流ソースとして、又は前記第2の電極のうちの1つに前記スイッチマトリクスによって結合可能なカソード電流ソースとしてプログラム可能な複数のX個の電流ソースと、
複数のX−1個のコンデンサと、
を備え、
前記X−1個のコンデンサは、前記第1又は第2の電流路のうちの1つだけがコンデンサを含まないように前記第1及び第2の電流路内に配置される、
ことを特徴とする埋込型医療装置。
【請求項16】
XはNより小さいことを特徴とする、請求項15に記載の装置。
【請求項17】
前記少なくとも1つの第1の電極はアノードとして指定され、前記少なくとも1つの第2の電極はカソードとして指定されることを特徴とする、請求項15に記載の装置。
【請求項18】
前記少なくとも1つの第1の電極は、前記N個の電極のうちのいずれかから指定されることを特徴とする、請求項15に記載の装置。
【請求項19】
複数の電極と埋込可能なケースとを有する埋込型医療装置を操作する方法であって、
複数のスイッチを含む制御回路により、前記複数の電極のうちの少なくとも1つのP個の第1の電極であってアノード及びカソードとして作動するように前記制御回路により指定可能な前記少なくとも1つのP個の第1の電極を、前記スイッチを介して第1の極性の電流ソースに結合することによって、前記少なくとも1つのP個の第1の電極をカソード又はアノードのいずれか一方として指定してP個の第1の電流路を確立し、同時に、前記複数の電極のうちの複数のQ個の第2の電極であってアノード及びカソードとして作動するように前記制御回路により指定可能な前記複数のQ個の第2の電極を、複数の前記スイッチを介して第2の極性の電流ソースに結合することによって、前記複数のQ個の第2の電極をカソード又はアノードのうちの他方として指定してQ個の第2の電流路を確立するステップを含み、前記少なくとも1つのP個の第1の電極と前記複数のQ個の第2の電極は、1つ又はそれ以上のリード線によって前記埋込可能なケースに結合され、
前記第1及び第2の電流路のうちの1つだけがコンデンサを含まないように、P+Q−1個だけのコンデンサが前記第1又は第2の電流路内に配置される、ことを特徴とする方法。
【請求項20】
前記P個の第1の電極及び前記Q個の第2の電極は、前記複数の電極のうちのいずれかから指定されることを特徴とする、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記第1の電流ソースはコンプライアンス電圧に結合され、前記第2の電流ソースは基準電圧に結合されることを特徴とする、請求項19に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に多電極埋込型刺激器装置に関する。
本願は、2009年4月17日出願の米国特許出願第12/425,505号に基づく国際(PCT)出願であり、これに対する優先権を主張するものある。
【背景技術】
【0002】
埋込型刺激器装置は、種々の生物学的疾患の治療のための電気刺激を生成し、神経及び組織に加えるものであり、例えば、心不整脈を治療するためのペースメーカ、心細動を治療するための除細動器、難聴を治療するための蝸牛刺激器、視覚障害を治療するためのレチナール刺激器、四肢協調運動をもたらすための筋刺激器、慢性疼痛を治療するための脊髄刺激器、運動障害及び心理的障害を治療するための皮質及び脳深部刺激器、片頭痛を治療するための後頭神経刺激器、並びに、尿失禁、睡眠時無呼吸、肩関節亜脱臼などを治療するための他の神経刺激器などがある。埋込型刺激器装置は、特許文献1に開示された型の微小刺激器装置、又は特許文献2に開示された型の脊髄刺激器、又は他の形態を含むことができる。
【0003】
微小刺激器装置は、典型的には、所望の電流刺激を生成するための電極を保持する小型の、一般に円筒型の筐体を備える。この型の装置は標的組織の近傍に埋込まれ、刺激電流が標的組織を刺激できるようにして治療を施す。微小刺激器のケースは、通常、直径が数ミリメートル及び長さが数ミリメートル乃至数センチメートルの程度であり、通常、患者の組織に接触させるための刺激電極を含む又は保持する。しかし、微小刺激器はまた、又は代わりに、1つ又はそれ以上のリード線を介して装置本体に結合した電極を有する。
【0004】
従来技術の幾つかの微小刺激器2は、
図1に示すように1つだけの2電極を含み、それゆえに「2電極」微小刺激器と呼ばれる。2電極微小刺激器装置の例としては、カルフォルニア州Valencia所在のBoston Scientific Neuromodulation Corporation社によって製作されたBion(登録商標)が挙げられる。単一のアノード電極Eanode(E
アノード)が電流を抵抗R、即ちユーザの組織に供給する。電流の戻り経路は単一のカソード電極Ecathode(E
カソード)によって設けられる。アノード又はカソード電極のいずれかが装置のケース、又はケースの他の導電部分を含むことができる。電流は電流ソース20の動作によって流れ、この電流ソース20は、通常、デジタル−アナログ・コンバータ又は「DAC」20を備え、これは所望の治療電流I
outを患者組織に供給するようにプラグラム可能である。この電流Ioutは、
図1の底部に示すように通常はパルス化されており、患者に適した周波数及び負荷サイクルを有することができる。
【0005】
電流ソース又はDACはまたアノードに結合することができる。しかし、図示するように、DAC20内にプラグラムされた電流Ioutを供給するのに十分な強度のコンプライアンス電圧V+に結合される。このコンプライアンス電圧は、微小刺激器2内部の電池12によって供給される電池電圧Vbatから生成することができる。DC−DCコンバータ22は、Vbatを所望のコンプライアンス電圧V+まで高めるのに用いられ、V+モニタ及び調節回路18によって制御される。コンプライアンス電圧生成のためのそのような回路は周知のものであり、本開示によって提示される問題には直接密接に関係しないので、さらに詳述することはしない。
【0006】
また
図1には、アノード及びカソードにそれぞれ配線結合された減結合又は阻止コンデンサ42及び44を示す。周知のように、そのような減結合コンデンサのみが、DAC20によって供給される電流のAC成分のみを通過させ、従って患者組織RへのDC電流注入を防止する(Idc=0)。組織内へのDC電流注入を防止することは、安全のために望ましい。電流のDC成分が除去されると、患者組織内の電流蓄積の可能性が最小限になる。
【0007】
2つの減結合コンデンサを
図1に示すが、DC電流注入を防ぐためには、DAC20に結合された1つのコンデンサだけが必要である。従って、
図2に示すようにDAC20がカソード側の電流路に現れるときは、カソードコンデンサ44のみが必要となる。同様に、DAC20がアノード側の電流路にあったとすると、アノードコンデンサ42のみが必要となる(
図2には図示せず)。減結合コンデンサは、微小刺激器2内部の残りの回路に比べてかなり大きくなり易く、ケース内の相当なスペースを占めるので、1つだけの減結合コンデンサ42又は44を用いることが好ましい。従って、減結合コンデンサの数を減らすことにより、微小刺激器2を小さくすることができ、これが埋込み手術を簡単にし、患者に都合良くなる。
【0008】
2電極微小刺激器2には簡単さの利点がある。サイズが小さいために、それら微小刺激器2は患者の治療が必要な部位に、前述のような治療電流を本体から離れて移送するリード線なしに、埋込むことができる。しかし、それら2電極微小刺激器は治療上の柔軟性に欠ける。即ち、ひとたび埋込まれると、単一カソード/アノードの組合せは、それらの近傍の神経だけを漸加し、該近傍は一般には患者組織内で装置の位置を操作しない限り変えることができない。
【0009】
治療上の柔軟性を向上させるために、2個を越える電極を有する微小刺激器が提案されており、それの装置は、本明細書では「多電極」微小刺激器と呼んで前述の2電極刺激器から区別する。このようにして電極の数を増やす場合、ひとたび装置が埋込まれると電極を選択的に活性化して、装置の位置を操作せずに治療を施す自由度が得られる。
【0010】
例示的な多電極微小刺激器4、6、及び8を、それぞれ
図3A、
図3B、及び
図3Cに示し、これらは上で引用した特許文献1に開示されている。その名が示すように、多電極微小刺激器は複数の電極を備え、その電極は様々な仕方でケース上に、例えば、
図3A−
図3Cの右底部の絵に示すように、ケースの2つの面上に配置することができる。この及び後の例においては、いずれかの電極が埋込物ケース又はその導電性部分を含むことができることに留意されたい。
【0011】
図3Aの実施形態において、専用アノード電極Eanodeが備えられる。対照的に、E1cathode−Encathodeのうちの1つがカソードスイッチ62
1−62
nを介してカソードとして選択される。特定のカソードをその対応するカソードスイッチを閉じることによって選択することにより、そのカソードをDAC20に結合する。例えば、
図3AはE1cathodeが選択されるときに完成する回路を示す。この設計は、単一の減結合コンデンサ42をアノード経路内に用いることに留意されたい。
【0012】
図3Aにはまた、回復スイッチ64並びに66
1−66
nを示す。上で引用した特許文献1に記載されているように、回復スイッチ64並びに66
1−66
nは刺激パルスの供給後のある時点で活性化され、減結合コンデンサ44上且つ患者組織内に残ったあらゆる残りの電荷を回収する目標を有する。従って、刺激パルスの後、回復スイッチ64及び少なくとも1つのスイッチ66
1−66
nが閉じられる。これらのスイッチの閉鎖により、減結合コンデンサの各板302の上に同じ基準電圧がかかるので、あらゆる蓄積電荷が除去される。一実施形態において、便利のために、用いる基準電圧は微小刺激器4内部の電池の電池電圧Vbatとするが、任意の他の基準電圧を用いることができる。従って、回復中、Vbatは、回復スイッチ64を介してコンデンサ44の左板上にかかり、同様に、回復スイッチ66
1−66
nのうちの1つ又は全てを介して右板(患者組織Rを通して)にかかる。回復は特許文献1に詳しく記載されており、また本開示には直接密接に関係しないので、さらには論じない。
【0013】
図3Bの実施形態は、
図3Aの実施形態を、カソード電極に加えてアノード電極を選択できるように改良したものである。従って、この装置はN個の電極E1−Enを含み、これらのうちのいずれも任意の所与の時間にアノード又はカソードを構成することができる。前と同様に、どの電極がカソードとして働くかは、特定のカソードスイッチ62
1−62
nを選択することによって決められる。どの電極がアノードとして働くかは、特定のアノードスイッチ68
1−68
nを選択することによって決められる。例えば、
図3Bは、E1がアノードとして選択され、E2がカソードとして選択されるときに完成する回路を示す。どの電極がアノードとして選択されるかに関わらず、この設計でもやはり単一の減結合コンデンサ42がアノード経路内に用いられることに留意されたい。
【0014】
図3Aと
図3Bの実施形態は、単一の減結合コンデンサ42が、患者組織RへのDC電流注入を防ぐ、即ちIdc=0である点で類似している。その結果、これらの設計は前述の理由により一般的に安全であると考えることができる。さらに、これらの設計は一般的にコンパクトであり、最も重要なことであるが、単一の減結合コンデンサ42のみを必要とする。
【0015】
しかし、
図3A及び3Bの実施形態は、単一のDAC20を備えることによる欠点、即ち、2つ又はそれ以上の異なるカソードにおける電流を同時且つ独立に修正することができないという欠点を有する。2つ(又はそれ以上)の異なるカソード電極における電流をそのように修正できることは、一例において1つのカソードから別のカソードへ電流を「操作する又は導く」のに望ましい。電流を操作することの構想は特許文献3において取り扱われているので、本明細書では
図4を参照しながら簡潔にのみ説明する。
図4は、E2がアノードとして指定され、E4がカソードとして指定された初期状態を示す。これらの電極によってもたらされる正味の電流量はゼロでなければならないので、E2は10mAを供給し、一方E4は10mAを吸い込む。次の状態においては、吸い込み(シンク)電流の一部(−2mA)がカソード電極E4からE3に移動又は「操作」されている。2mAの増分の操作は最後の状態まで続けられ、全てのシンク電流(−10mA)がカソードE3に移動し、一方元のカソードE4はここでオフとなる。幾つかの刺激器においてはアノード電流を同様に操作することができるが、これは図示しない。このように電流を操作できることは、患者に施すことができる治療の複雑さを改善するばかりでなく、特定の患者に関して活性化するのに最良の電極を決定するための適合操作中に安全で快適な実験を可能にする。しかし、
図3A及び3Bの設計では、2つの異なる電極における電流を同時に操作することはできない。
【0016】
上で引用した特許文献1に開示された電流操作可能な実施形態を
図3Cに示す。この微小刺激器8は、
図3Bの微小刺激器6から、各々の電極E1−Enがそれぞれ専用の独立に制御可能なDAC20
1−20
nを有するように改善したものである。その結果、1つより多くの電極を、任意の所与の時間において2つ又はそれ以上のカソード選択スイッチ62
1−62
nを選択することによって、カソードとして選択することができ、そして各々において吸い込まれた電流は、
図4に示す種類の電流制御が可能な対応するDAC20
1−20
nによって独立に制御することができる。
【0017】
残念ながら
図3Cの微小刺激器8は、単一の減結合コンデンサ42を備えることに関連する欠点、即ち、電流操作中に患者組織RへのDC電流注入を誘導する可能性を有する。
このことを
図5に示す。第1の回路は、アノードとしてExの選択、及びカソードとして単一電極Eyのみの選択を示す。この状態において減結合コンデンサ42は、全電流路を通してDC電流注入を防ぐ。しかし第2の回路は、カソードとして電極Ey及びEzの選択を示すが、これはEyにおける電流の一部をEzに向けて操作するときに起こり得る。
この構成において、減結合コンデンサ42はアノード経路内でのDC電流注入を防ぎ、Idc
a=0となる。しかし、そのような減結合コンデンサはカソード経路には現れないので、DAC20y及び20zが患者の組織を通してDC電流を供給することは防止されない。要約すれば、
図3Cの設計は電流操作を可能にし、単一のコンデンサ42のために比較的コンパクトになり得るが、各々のカソード電極へのDC電流注入の誘導がないことを保証しない。
【0018】
図6は多電極埋込型刺激器10のさらに別の設計を与える。この型の設計は、上で引用した特許文献2に示されるように、脊髄刺激器(SCS)に用いられることが多い。SCS10は典型的には、リード線によって電極アレイに結合されたケースを有することになる。電極アレイは患者の背骨に埋込まれ、一方ケースは患者の臀部などの離れた危険性の低い位置に埋込まれる。ケースは刺激を必要とするその位置に埋込まれないので、SCS10のケースは通常、これまでに説明した種々の微小刺激器よりも大きくすることができる。
【0019】
図6に見られるように、SCS10は複数の電極E1−Enを有する。各々の電極に減結合コンデンサC1−Cnが配線結合され、これら各々のコンデンサにDAC20
1−20
nが結合される。この特定の設計において、DACは電流ソース又は電流シンクとして動作するように制御することができ、従ってそれらに関連する電極はアノード又はカソードを含むことができる。
図6に示すのは、DAC20
2が電流ソースとして活性であり、従ってE2をアノードとして指定し、そしてDAC20
4が電流シンクとして活性であり、従ってE
4をカソードとして指定した例である。全ての他のDAC及びそれらに関連する電極は不活性である。
【0020】
SCS10は、各々の電極に専用の個々に制御可能なDACを有するので、2つの電極の間で電流を容易に操作することができる。即ち、同時に、2つ又はそれ以上の電極がカソード(シンク)として機能することができ、及び/又は2つ又はそれ以上の電極がアノード(ソース)として機能することができる。さらに、各々の電極が減結合コンデンサC1−Cnに配線結合されているので、電流操作中でも患者の組織R内へのDC電流注入を誘導する危険性はない。
【0021】
従って、SCS10のシステムは多くの有益な機能性の利点を有する。しかし、N個の電極の各々を専用の減結合コンデンサに配線結合する要件は、N個の減結合コンデンサを備える必要があることを意味する。前述のように、これらのコンデンサは、埋込型刺激器のケース内の相当なスペースを占める可能性がある。このことは、埋込型刺激器が、例えばSCS10である場合には、前述のように、この型の装置は一般に大きなケースをサポートすることができるので、あまり重大な問題とはならないことがある。しかし、小型の微小刺激器に関する場合、各々のN個の電極に対してN個のコンデンサの必要性は法外なことである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0022】
【特許文献1】米国特許出願公開第2008/0097529号
【特許文献2】米国特許出願公開第2007/0135868号
【特許文献3】米国特許出願公開第2007/0239228号
【特許文献4】米国特許出願公開第2007/0038250号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0023】
従って、本発明者は、埋込型刺激器技術、特に多電極微小刺激器技術は、装置サイズを最小限にし、患者の安全を確実にすることになるアーキテクチャによって利益を得るものと確信する。特に望まれるのは、必要な減結合コンデンサの数を最小限にするが、それでもなお電流操作中においてもDC電流注入を防ぐことになる設計である。そのような解決策の実施形態を本明細書で提供する。
【課題を解決するための手段】
【0024】
N個の電極を有する埋込型刺激器のアーキテクチャを開示する。本アーキテクチャはX個の電流ソース又はDACを含む。単一アノード/複数カソード設計において、1つの電極をアノードとして指定し、X個までの電極をカソードとして指定してX個のDACのうちの1つによって独立に制御できるようにして、複合的な患者治療及び電極間の電流操作を可能にする。この設計には少なくともX個の減結合コンデンサを使用し、X個のコンデンサがX個のカソード経路内にあるか、又は1つがアノード経路内にありX−1個がX個のカソード経路内にあるようにする。X個のDACを有する複数アノード/複数カソード設計においては、全部でX−1個の減結合コンデンサが必要となる。DACの数Xは通常、電極の総数(N)よりも遥かに小さいので、これらのアーキテクチャは減結合コンデンサの個数を最小限にし、これによりスペースが節約され、さらに電流操作中でもDC電流注入が起らないことが保証される。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】従来技術による2電極微小刺激器の基本的な電気部品を示す。
【
図2】従来技術による2電極微小刺激器の基本的な電気部品を示す。
【
図3A】従来技術による多電極微小刺激器の基本的な電気部品を示す。
【
図3B】従来技術による多電極微小刺激器の基本的な電気部品を示す。
【
図3C】従来技術による多電極微小刺激器の基本的な電気部品を示す。
【
図4】多電極刺激器装置内の電極間の電流操作の概念を示す。
【
図5】
図3Cの多電極微小刺激器の操作中のDC電流注入を示す。
【
図6】従来技術による脊髄刺激器の基本的な電気部品を示す。
【
図7A】本発明の一実施形態による、最小数の減結合コンデンサを有する単一アノード/複数カソード刺激器を示す。
【
図7B】本発明の一実施形態による、最小数の減結合コンデンサを有する単一アノード/複数カソード刺激器を示す。
【
図7C】本発明の一実施形態による、最小数の減結合コンデンサを有する単一アノード/複数カソード刺激器を示す。
【
図8A】本発明の一実施形態による、最小数の減結合コンデンサを有する別の単一アノード/複数カソード刺激器を示す。
【
図8B】本発明の一実施形態による、最小数の減結合コンデンサを有する別の単一アノード/複数カソード刺激器を示す。
【
図8C】本発明の一実施形態による、最小数の減結合コンデンサを有する別の単一アノード/複数カソード刺激器を示す。
【
図8D】本発明の一実施形態による、最小数の減結合コンデンサを有する別の単一アノード/複数カソード刺激器を示す。
【
図9】単一アノード/複数カソード刺激器に対する、1つの付加的減結合コンデンサを有する修正物を示す。
【
図10】単一アノード/複数カソード構成における本発明の実施を示す。
【
図11A】最小数の減結合コンデンサを有する複数アノード/複数カソード構成における本発明の実施を示す。
【
図11B】最小数の減結合コンデンサを有する複数アノード/複数カソード構成における本発明の実施を示す。
【
図12】
図11Aの複数アノード/複数カソード刺激器に対する、1つの付加的減結合コンデンサを有する修正物を示す。
【
図13】最小数の減結合コンデンサを有する複数アノード/複数カソード構成における本発明の別の実施を示す。
【
図14】
図13の複数アノード/複数カソード刺激器に対する、1つの付加的減結合コンデンサを有する修正物を示す。
【発明を実施するための形態】
【0026】
改良された多電極刺激器100の第1の実施形態を
図7A及び7Bに示し、第2の実施形態100’を
図8A及び8Bに示す。刺激器100及び100’は、以前に
図3Cに示した微小刺激器8と同様に、単一アノード/複数カソード刺激器を含む。しかし刺激器100又は100’はまた、
図6に示したものに類似の脊髄刺激器10内部で、又は任意の他の埋込型刺激器内部で用いることができる。
【0027】
刺激器100及び100’は、N個の電極E1−Enを備える。図示した構成において、電極のいずれか1つをアノードとしてプログラムすることができ、1つ又はそれ以上の他の電極をカソードとしてプログラムすることができる。
図7B及び
図8Bに最も良く示されるように、電極E1−Enのうちのいずれも、その対応するアノード選択スイッチ68
1−68
nの選択によりアノードとしてプログラムすることができる。しかし、アノード電極がプラグラム可能であることは本発明にとって重要ではない。代りに、
図3Aに示した微小刺激器4と同様に、専用のアノード電極を用いることもできる。
【0028】
完全性のために、回復スイッチ64並びに66a−66xを
図7B及び
図8Bに示す。
しかしそれら回復回路の動作は前述したのと基本的に同じであり、また本発明の実施形態には必要ないので、それらの回路を再び論じることはしない。
【0029】
両方の刺激器100及び100’内部には、X個のDAC20a−20x、及び、これらのDACを電極E1−Enのいずれかに結合するためのX個のスイッチマトリクス81a−xがある。各々のスイッチマトリクス81は、所与のDAC20をN個の電極のうちの任意のいずれかに結合するためのN個のカソード選択スイッチ62
1-nを備える。例えば、DAC20bを電極E1に結合し、従って電極E1をカソードとして指定することを望む場合、スイッチマトリクス81b内の選択スイッチ62b
1が選択されることになる。
【0030】
X個のDAC20a−20xが存在するので、最大X個の電極が任意の所与の時間にカソードとして機能することができる。(実際には、これらカソードの幾つかが1つのDACを共用する限り、X個より多くの電極がカソードとして機能することができるが、この可能性に付いてさらに論じることはしない)。さらに、それらX個のカソード電極の各々における電流は個々に且つ同時に制御することができる。X(DACの数、又はカソードの最大数)がN(電極の数)よりも小さい場合が普通である。これは、一般には、所与の時間に一部の電極(全電極ではなく)がカソードとして機能できるようにすることのみが望ましいために事実である。例えば、N=8の電極を有する微小刺激器において、同時に最大でX=3のカソードを指定することが望ましいことがある。刺激器100’の実施を表す
図8Dに示すさらに簡単な例においては、N=4の電極及びX=2のDACが存在する。これは、1つの電極がアノードとして動作できるようにし、同時に最大で2つの電極がカソードとして動作できる。いずれの場合にも、X個の個々に制御可能なDAC20を使用するために、改良された刺激器100内の電流は、
図4に示すように操作することができる。前述のように、電流の操作は埋込型刺激器における有用な特徴である。
【0031】
図3Cの微小刺激器8とは異なり、そのような操作は刺激器100及び100’内で、患者組織RへのDC電流注入なしで安全に行うことができる。さらに、
図6のSCS10とは異なり、そのような安全性は最小数の減結合コンデンサを用いることによって達成することができる。
【0032】
具体的には、刺激器100及び100’の各々において、DC電流注入が起らないことを保証するためには、X個だけの減結合コンデンサ(即ち、DACの数に等しい)が必要である。
図7A及び7Bの改良された刺激器100において、アノード経路内にはコンデンサがなく、カソード経路内にはX個のコンデンサ44a乃至44xが存在する。
図8A及び8Bの改良された刺激器100’においては、アノード経路内に1つのコンデンサ42が存在し、カソード経路内にはX−1個のコンデンサ44a乃至44(x−1)が存在する。やはり、通常、XはNより小さいので、このことは、例えば
図6の手法と比べるとき、減結合コンデンサの総数をNからXに削減する。
【0033】
全部でX個だけのコンデンサのみを用いるときにも、改良された刺激器100及び100’は、電流操作中であってもあらゆる経路においてDC電流注入が起らないことを保証する。このことは、刺激器100及び100’それぞれに関して
図7C及び
図8Cに示す種々のシナリオから認識することができる。
【0034】
刺激器100及び
図7Cから出発して、シナリオIは、減結合コンデンサ44aを有するDAC20aを用いた単一カソード電極Eyの選択を示す。この場合、カソードコンデンサ44aが電極EyにおけるDC電流注入を防ぐ(Idc
c1=0)。患者組織Rによって確立される共通ノードにおいてDC電流の和はゼロに等しくなければならないので、電極Exのアノード経路内の電流(Idc
a)も、アノード経路にコンデンサがなくてもゼロに等しくなければならない。
【0035】
シナリオII及びIIIは、付加的なカソード電極の選択を含み、例えば、一般的に言えば、1つのアノードとY個のカソードが所与の時間に同時に指定される。しかし、各々のカソード経路が1つのコンデンサを含み、それゆえにDC電流を引き込まないので、単一アノード経路の電流(Idc
a)はやはりゼロにならなければならない。
【0036】
図8A及び8Bの刺激器100’においては、X−1個だけの減結合コンデンサがカソード電流路内にあるので、1つのDAC(例えば、20x)はコンデンサに結合されない。しかし、刺激器100’はまたアノード経路内にコンデンサ42を含むので、1つのカソード経路内にコンデンサがないことは、電流操作中であってもDC電流注入に関する懸念を起こさない。
【0037】
このことは
図8Cに示す異なるシナリオから認識することができる。シナリオIは、減結合コンデンサ44aを有するDAC20aを用いた単一カソード電極Eyの選択を示す。この場合、アノードコンデンサ42及びカソードコンデンサ44aの両方が、確立された唯一の電流路に沿ったDC電流注入を防ぐ。シナリオIIは、減結合コンデンサを有しないDAC20xを用いた単一カソード電極Eyの選択を示す。この場合、アノードコンデンサ42が、確立された唯一の電流路に沿ったDC電流注入を防ぐ。
【0038】
シナリオIIIからVまでは、一般的に言えば、1つのアノードとY個のカソードが所与の時間に同時に指定されるような付加的なカソード電極の選択を示す。シナリオIII及びIVは2つのカソード電極Ey及びEzがカソードとして選択され、これらは所与の患者に対する恒久的な治療設定とすることができ、又は電極間での電流操作中に行われるような一時的設定とすることができる。シナリオIIIにおいては、それぞれがコンデンサ44a及び44bを有するDAC20a及び20bが用いられる。コンデンサがアノード経路内及び両方のカソード経路内に存在するので、基本的にDC電流注入の可能性はない。シナリオIVにおいては、コンデンサのないDAC20xがコンデンサ44bを含むDAC20bとともに用いられる。この場合、アノード経路内のDC電流は、アノードコンデンサ42のために、Idc
a=0となる。DAC20bによって確立されるカソード経路内のDC電流は、カソードコンデンサ44bのためにIdc
c1=0となる。患者組織Rによって確立される共通ノードにおけるDC電流の和は0に等しくなくてはならないので、DAC20xによって確立されるカソード経路内のDC電流(Idc
c2)は、その経路に減結合コンデンサがなくても、ゼロとなる。シナリオVは、この例を、さらに別のカソード経路に加えることによってさらに進めるが、それでもなお、DAC20xによって確立されるカソード経路内のDC電流(Idc
c3)はゼロとなる。
【0039】
要約すれば、刺激器100’において、DAC20xのよって確立されるカソード経路は減結合コンデンサを含む必要がなく、その理由は、患者組織Rへの全ての他の経路、即ち、アノード経路及び全ての他のカソード経路が減結合コンデンサを含むことになるからである。従って、この回路は、DAC20xのカソード経路内に減結合コンデンサがないにも関わらず、患者組織へのDC電流注入を有しないことを保証される。
【0040】
X個だけのコンデンサを用いることはサイズの点で有利であるが、別の実施形態において、
図9に示す刺激器100”のようにX+1個のコンデンサを用いることもできることに留意されたい。この実施形態においては、アノード経路内の1つのコンデンサ42、及びカソード経路内のX個のコンデンサ44aから44xまでが存在する。刺激器100”は、刺激器100及び100’と比べると、1つの付加的なコンデンサを含むが、N個のコンデンサを必要とする従来の手法よりも、依然としてコンデンサの数をより少なくすることができる、即ちX+1を依然としてNよりも有意に小さくすることができる。例えば、N=8の電極を有し、X=3のカソード電極が同時に活性化可能である、以前に論じた微小刺激器の例を考える。3個(X)又は4個(X+1)のコンデンサのいずれが用いられるかに関わらず、総数は依然として8(N)よりも有意に小さく、実質的なスペースの節約をもたらす。
【0041】
本開示のこの時点まで、改良された刺激器100又は100’は単一アノード/複数カソード設計を含むものと仮定してきた。しかし、
図10に示すように、これら実施形態のいずれもまた複数アノード/単一カソード設計において実施することもできる。
図10は、刺激器100’を原型とする、単一のカソード経路コンデンサ42及びX−1個のアノード経路コンデンサ42aから42(x−1)までを有する複数アノード/単一カソード刺激器102を示す。この設計では、回路はカソードスイッチ62
1−62
nを含む様に修正されており、これが電極E1−Enのいずれか1つがカソード又は電流シンクとして機能することを可能にする。複数のアノードはアノード選択スイッチ68a
1から68x
nまでを介して選択することができ、これらスイッチがDAC20a−20xとともに、同時に1つより多くの電極がアノードとして又は電流ソースとして機能できるようにすることができる。カソードの選択には関わりなく、減結合コンデンサ44はカソード経路内に留まることになる。再び、DAC20a−20(x−1)が減結合コンデンサ42a−42(x−1)に結合され、一方DAC20xを含んだアノード経路は減結合コンデンサを含まないことに留意されたい。しかし、前述したのと同じ理由で、それらのアーキテクチャは依然としてDC電流注入が起らないことを保証し、この点で安全である。
【0042】
本開示のこの時点まで、本発明の実施形態は単一アノード/複数カソード又は複数アノード/単一カソードの構成で説明してきた。しかし、本発明はまた、
図11Aの刺激器110に示すように、複数アノード/複数カソードの構成に拡張することができる。図示したように、個々のDACがアノード及びカソードの両方として機能するように備えられる。具体的には、NDAC20a−20iが電流シンクを含み、従ってカソード電流ソースとして動作し、カソード選択スイッチ62を介して電極E1−Enのいずれかをカソードとして指定するように結合可能である。同様にPDAC21a−21jは逆極性のアノード電流ソースを含み、アノード選択スイッチ68を介して電極E1−Enの任意のいずれかをアノードとして指定するように結合可能である。当業者であれば認識するように、「N」又は「P」DACへの言及はDAC回路内で用いるのが好ましい装置の極性に関係し、PDACは一般にPチャネルトランジスタを含み、NDACは一般にNチャネルトランジスタを含む。例えば、特許文献4を参照されたい。図示したように、I個のNDAC20が存在し、従って(DAC共用が無いと仮定して)任意の所与の時間に電極のうちのI個がカソードとして機能することができる。J個のPDAC21が存在し、従って(共用が無いと仮定して)任意の所与の時間に電極のうちのJ個がアノードとして機能することができる。この例においては、I+J=Xであり、これは全部でX個のDAC20又は21が存在し、同時に活性化することができる電極(I個のカソード及びJ個のアノード)が最大でX個であることを意味する(以前の例と一致)。実用的な用途においては、IとJを等しくすることができる。
【0043】
複数アノード/複数カソード刺激器110は少なくともX−1個の減結合コンデンサを備える。これは、図示したX個のNDAC20又はPDAC21のいずれかから1つの減結合コンデンサを省くことができることを意味するが、図示したようにコンデンサは最後のPDAC21jに結合したアノード経路から省かれている。従って、図示した例においては、全部でX−1個のコンデンサに対して、I個のカソード経路コンデンサとJ−1個のアノード経路コンデンサが存在する。
【0044】
PDAC21jのアノード経路からコンデンサが省かれているにもかかわらず、ここでもやはり全ての他のアノード及びカソード経路内のコンデンサの存在がDC電流注入を防ぐために、この設計は依然としてあらゆる電極においてDC電流注入が起り得ないことを保証する。
図11Bに示したシナリオは、以前の類似の説明図に基づいて、このことが一目瞭然であることを示す。一般的に、少なくともPDAC21jに結合した電極Eyを含むP個の電極をアノードとして指定することができると仮定する。同様に、Q個の電極を同時にカソードとして指定する。その結果は種々の経路内のP+Q−1個のコンデンサとなる。しかし、コンデンサが省かれているにも関わらず、RDAC21jのアノード経路へのDC電流注入は存在し得ない。従って、X−1個のコンデンサが、患者組織Rによって形成されるノード内へのDC電流注入が起らないことを保証する。コンデンサがアノード経路内で省かれるように示したが、コンデンサをカソード経路の1つから省いても同じ効果をもたらすことができる。
【0045】
図11Aの刺激器110にはX−1個だけの減結合コンデンサが必要であるため、またXは普通、電極の総数Nよりも小さくすることができるために、刺激器110はN個の減結合コンデンサを必要とする手法(例えば、
図6を参照されたい)よりも小さくすることができる。例えば、N=16の電極を有し、3つのNDAC20及び3つのPDAC21を有し、それゆえに全部でX=6の電極(I=3のアノード、J=3のカソード)を同時に活性化することができる脊髄刺激器を考える。このような設計は、従来の脊髄刺激器設計に典型的であった16ではなくX−1=5だけの減結合コンデンサを必要とすることになる。
【0046】
図12は、
図11Aの刺激器110の実施形態に対する、アノード又はカソード経路のいずれからも減結合コンデンサが省かれない修正物を示す。この刺激器110’は、刺激器110に比べると1つの付加的なコンデンサを必要とするが(X対X−1)、依然として、必要なコンデンサの数の実質的な削減をもたらすことができる。例えば、引き続き上の例を考えると、脊髄刺激器内のコンデンサの数は例えば16から6に削減することができる。
【0047】
図13は、さらに別の多数アノード/多数カソード刺激器120を示す。別々のNDAC及びPDACを用いて実施された
図11Aの刺激器110と比べると、刺激器120はX個の一般的なDAC27a−xを備える。DAC27a−xは、カソード(シンク)電流ソース又はアノード(ソース)電流ソースのいずれかとして動作するようにプログラム可能であり、従って、既知のNDAC及びPDAC回路の組合せを含むことができる。DAC27a−xは、スイッチマトリクス83a−xによってN個の電極のいずれかに結合可能である。DAC27a−xは、電流を吸込むか又は供給するようにプログラム可能であるので、スイッチマトリクス83の各々の中の選択スイッチ69は、Pチャネル及びNチャネルのトランジスタの両方を有し、供給されるか又は吸込まれる電流を等しい効率で通過させることができる伝送ゲートとして実施することができる。X個のDAC27a−xは、X個の電極が任意の所与の時間にカソード又はアノードとして機能できるようにする。より具体的には、任意の所与の時間に少なくとも1つのカソード及びアノードが存在しなければならないので、Mを正の整数として、任意の所与の時間に活性なM個のカソード及びX−M個のアノードが存在し得る。
【0048】
刺激器110と同様に、複数アノード/複数カソード刺激器120は、
図13に示すように少なくともX−1個の減結合コンデンサを備える。このことは図示したX個のDAC27のいずれかから1つの減結合コンデンサ45を省くことができることを意味するが、図示したようにコンデンサはDAC27xに結合した電流路から省かれている。DAC27xの電流路からコンデンサが省かれているにも関わらず、この設計は依然として、ここでもやはり全ての他の電流路内のコンデンサの存在がDC電流注入を防ぐので、あらゆる電極においてDC電流注入が起こり得ないことを保証する。要約すると、X−1個のコンデンサが、患者組織Rによって形成されるノード内へのDC電流注入を防ぐので、コンデンサが省かれているにも関わらず、PDAC27xの電流路へのDC電流注入は存在し得ない。以前の実施形態と同様に、X−1個だけの減結合コンデンサが必要であるので、刺激器120は一般により小さくすることなどが可能である。
【0049】
図14は、
図13の刺激器120の実施形態に対する、減結合コンデンサがいずれの電流路からも省かれない修正物を示す。この刺激器120’は刺激器120に比べて1つの付加的なコンデンサを必要とする(X対X−1)が、これは依然として、必要なコンデンサの数の実質的な削減をもたらす。
【0050】
本開示の刺激器は従来技術を改良したものである。これらは、電極の数(N)に比べてより少数のDAC(X個)を含み、従ってより少数の減結合コンデンサ(考える実施形態に応じて、X−1、X、又はX+1個)を含むので、この刺激器は比較的小さいケースの中に組み込むことができる。これは、例えば多電極微小刺激器としての使用を容易にし、又は、脊髄刺激器のケースを遥かに小さくすることを可能にする。さらに、本開示の設計は、電流操作中、即ち、1つより多くのカソード及び/又は1つより多くのアノードの同時の活性化中においても、DC電流注入が起らないことを保証する。
【0051】
本開示は、「アノード」が電流のソースであり、「カソード」が電流のシンクであると言及した。しかし、この指定は相対的であるので、「アノード」をまた電流のシンクであるとすることもでき、そして「カソード」をまた電流のソースであるとすることもできる。従って、本明細書で用いる「アノード」と「カソード」は単に逆の極性を有するものと理解されたい。
【0052】
本明細書で開示した本発明は、その特定の実施形態及び用途によって説明したが、当業者であれば、それに対する多くの修正及び変形を、添付の特許請求の範囲において説明される本発明の文字通りの範囲及び同等の範囲から逸脱せずに施すことができるであろう。
【0053】
以下に本発明の実施態様を記載する。
〔態様1〕1つの第1の電極だけが、第1の電流路を有するカソード又はアノードのいずれか一方として指定され、第2の複数の他の電極が、各々が第2の電流路を有するカソード又はアノードのうちの他方として指定可能な、複数のN個の電極と、
各々の電流ソースが前記第2の電極のうちの一つに結合可能である、N個より少ない複数のX個の電流ソースと、
前記第1又は第2の電流路内に配置された、複数の少なくともX個のコンデンサと、
を備えることを特徴とする埋込型医療装置。
〔態様2〕前記装置は、前記第1又は第2の電流路の各々が1つのコンデンサを含むように、X+1個のコンデンサを備えることを特徴とする、態様1に記載の装置。
〔態様3〕前記装置は、前記第1又は第2の電流路のうちの1つだけがコンデンサを含まないように、X個だけのコンデンサを備えることを特徴とする、態様1に記載の装置。
〔態様4〕前記X個のコンデンサは、前記第2の電流路内に配置され、従って前記第1の電流路だけがコンデンサを含まないことを特徴とする、態様3に記載の装置。
〔態様5〕前記コンデンサのうちのX−1個が前記第2の電流路内に配置され、前記コンデンサのうちの1つが前記第1の電流路内に配置され、従って前記第2の電流路のうちの1つだけがコンデンサを含まないことを特徴とする、態様3に記載の装置。
〔態様6〕前記第1の電極はアノードを含み、前記第2の電極はカソードとして指定可能であることを特徴とする、態様1に記載の装置。
〔態様7〕前記第1の電極はカソードを含み、前記第2の電極はアノードとして指定可能であることを特徴とする、態様1に記載の装置。
〔態様8〕前記第1の電極は、前記N個の電極のうちのいずれかから選択することができることを特徴とする、態様1に記載の装置。
〔態様9〕前記第1の電極は、前記N個の電極のうちの専用の1つを含むことを特徴とする、態様1に記載の装置。
〔態様10〕複数の電極を有する埋込型医療装置を操作する方法であって、
1つの第1の電極だけをカソード又はアノードのいずれか一方として指定して第1の電流路を確立し、同時に、複数のY個の第2の電極をカソード又はアノードのうちの他方として指定してY個の第2の電流路を確立するステップと、
Y個だけのコンデンサを前記第1又は第2の電流路内に配置して、前記第1又は第2の電流路のうちの1つだけがコンデンサを含まないようにするステップと、
を含むことを特徴とする方法。
〔態様11〕前記Y個のコンデンサは前記第2の電流路内に配置され、従って前記第1の電流経路はコンデンサを含まないことを特徴とする、態様10に記載の方法。
〔態様12〕前記コンデンサのうちのY−1個が前記第2の電流路内に配置され、前記コンデンサのうちの1つが前記第1の電流路内に配置され、従って前記第2の電流路のうちの1つだけがコンデンサを含まないことを特徴とする、態様10に記載の方法。
〔態様13〕前記第1の電極はアノードとして指定され、前記第2の電極はカソードとして指定されることを特徴とする、態様10に記載の方法。
〔態様14〕前記第1の電極はカソードとして指定され、前記第2の電極はアノードとして指定されることを特徴とする、態様10に記載の方法。
〔態様15〕前記第1の電極は、前記複数の電極のうちのいずれかから選択することができることを特徴とする、態様10に記載の方法。
〔態様16〕前記第1の電極は、前記複数の電極のうちの専用の1つを含むことを特徴とする、態様10に記載の方法。
〔態様17〕前記第2の電極は、各々を電流ソースに結合することによって指定されることを特徴とする、態様10に記載の方法。
〔態様18〕少なくとも1つの第1の電極が、第1の電流路を有するカソード又はアノードのいずれか一方として指定可能であり、少なくとも1つの第2の電極が、第2の電流路を有するカソード又はアノードのうちの他方として指定可能な複数のN個の電極と、
各々のアノード電流ソースが前記第1の電極のうちの1つに結合可能である、複数のJ個のアノード電流ソースと、
各々のカソード電流ソースが前記第2の電極のうちの1つに結合可能である、複数のI個のカソード電流ソースと、
前記第1及び第2の電流路内に配置される、複数の少なくともJ+I−1個のコンデンサと、
を備えることを特徴とする埋込型医療装置。
〔態様19〕JはNよりも小さく、IはNよりも小さいことを特徴とする、態様18に記載の装置。
〔態様20〕前記装置は、前記第1又は第2の電流路の各々がコンデンサを含むように、J+I個のコンデンサを備えることを特徴とする、態様18に記載の装置。
〔態様21〕前記装置は、前記第1又は前記第2の電流路のうちの1つだけがコンデンサを含まないように、J+I−1個だけのコンデンサを備えることを特徴とする、態様18に記載の装置。
〔態様22〕前記少なくとも1つの第1の電極がアノードとして指定可能であり、前記少なくとも1つの第2の電極がカソードとして指定可能であることを特徴とする、態様18に記載の装置。
〔態様23〕前記少なくとも1つの第1の電極は、前記N個の電極のうちのいずれかから選択することができることを特徴とする、態様18に記載の装置。
〔態様24〕前記J個のアノード電流ソースの各々は、前記第1の電極のうちのいずれかにスイッチマトリクスによって結合可能であり、前記I個のカソード電流ソースの各々は、前記第2の電極のうちのいずれかにスイッチマトリクスによって結合可能であることを特徴とする、態様18に記載の装置。
〔態様25〕前記J個のアノード電流ソースはコンプライアンス電圧に結合され、前記I個のカソード電流ソースは基準電圧に結合されることを特徴とする、態様18に記載の装置。
〔態様26〕JはIに等しいことを特徴とする、態様18に記載の装置。
〔態様27〕少なくとも1つの第1の電極が、第1の電流路を有するカソード又はアノードのいずれかに一方に指定可能であり、少なくとも1つの第2の電極が、第2の電流路を有するカソード又はアノードの他方に指定可能である複数のN個の電極と、
各々の電流ソースが、前記第1の電極のうちの1つに結合可能なアノード電流ソースとして、又は前記第2の電極のうちの1つに結合可能なカソード電流ソースとしてプログラム可能な複数のX個の電流ソースと、
複数のX−1個だけのコンデンサと、
を備え、
前記X−1個のコンデンサは、前記第1及び第2の電流路内に配置され、従って前記第1又は第2の電流路のうちの1つだけがコンデンサを含まない、
ことを特徴とする埋込型医療装置。
〔態様28〕XはNより小さいことを特徴とする、態様27に記載の装置。
〔態様29〕前記少なくとも1つの第1の電極はアノードとして指定可能であり、前記少なくとも1つの第2の電極はカソードとして指定可能であることを特徴とする、態様27に記載の装置。
〔態様30〕前記少なくとも1つの第1の電極は、前記N個の電極のうちのいずれかから選択することができることを特徴とする、態様27に記載の装置。
〔態様31〕前記X個の電流ソースの各々は、前記N個の電極のうちのいずれかにスイッチマトリクスによって結合可能であることを特徴とする、態様27に記載の装置。
〔態様32〕複数の電極を有する埋込型医療装置を操作する方法であって、
少なくとも1つのP個の第1の電極をカソード又はアノードのいずれか一方として指定してP個の第1の電流路を確立し、同時に、複数のQ個の第2の電極をカソード又はアノードのうちの他方として指定してQ個の第2の電流路を確立するステップと、
P+Q−1個だけのコンデンサを前記第1又は第2の電流路内に配置して、前記第1又は第2の電流路のうちの1つだけがコンデンサを含まないようにするステップと、
を含むことを特徴とする方法。
〔態様33〕前記P個の第1の電極及び前記Q個の第2の電極は、前記複数の電極のうちのいずれかから選択することができることを特徴とする、態様32に記載の方法。
〔態様34〕前記P個の第1の電極の各々は第1の極性の第1の電流ソースに結合され、前記Q個の第2の電極の各々は第1の極性とは逆の第2の極性の第2の電流ソースに結合されることを特徴とする、態様32に記載の方法。
〔態様35〕前記第1の電流ソースはコンプライアンス電圧に結合され、前記第2の電流ソースは基準電圧に結合されることを特徴とする、態様32に記載の方法。
【符号の説明】
【0054】
2:微小刺激器
4、6、8:多電極微小刺激器
10:多電極埋込型刺激器、脊髄刺激器(SCS)
12:電池
18:V+モニタ及び調節回路
20、20
1−20
n、20a−20x、20y、20z、27a−x:電流ソース、DAC(デジタル−アナログ・コンバータ)、NDAC
21:PDAC
22:DC−DCコンバータ
42、42a−42x、44、44a−44x:減結合コンデンサ
62
1−62
n:カソードスイッチ
64、66
1−66
n、66a−66x:回復スイッチ
68
1−68
n:アノードスイッチ
81a−81x:スイッチマトリクス
100、100’、110、110’、120、120’:多電極刺激器
C1−Cn:減結合コンデンサ
E1−En:電極