特許第5762612号(P5762612)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5762612磁気ディスク基板用アルミニウム合金板及びその製造方法、ならびに、磁気ディスクの製造方法
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  • 特許5762612-磁気ディスク基板用アルミニウム合金板及びその製造方法、ならびに、磁気ディスクの製造方法 図000005
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5762612
(24)【登録日】2015年6月19日
(45)【発行日】2015年8月12日
(54)【発明の名称】磁気ディスク基板用アルミニウム合金板及びその製造方法、ならびに、磁気ディスクの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 21/06 20060101AFI20150723BHJP
   C22F 1/047 20060101ALI20150723BHJP
   G11B 5/73 20060101ALI20150723BHJP
   G11B 5/82 20060101ALI20150723BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20150723BHJP
【FI】
   C22C21/06
   C22F1/047
   G11B5/73
   G11B5/82
   !C22F1/00 613
   !C22F1/00 623
   !C22F1/00 660Z
   !C22F1/00 681
【請求項の数】3
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2014-197651(P2014-197651)
(22)【出願日】2014年9月27日
【審査請求日】2015年3月3日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000107538
【氏名又は名称】株式会社UACJ
(74)【代理人】
【識別番号】100155572
【弁理士】
【氏名又は名称】湯本 恵視
(72)【発明者】
【氏名】北脇高太郎
(72)【発明者】
【氏名】林稔
(72)【発明者】
【氏名】橋本吉司
(72)【発明者】
【氏名】久本利一
【審査官】 鈴木 毅
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−102415(JP,A)
【文献】 特開2013−023737(JP,A)
【文献】 特開2013−112884(JP,A)
【文献】 特開2009−242843(JP,A)
【文献】 特開平11−315338(JP,A)
【文献】 特開平2−097639(JP,A)
【文献】 特開平2−111839(JP,A)
【文献】 特開昭56−105846(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 21/06 − 21/18
C22F 1/04 − 1/057
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Mg:3.0〜8.0mass%、Cu:0.005〜0.150mass%、Zn:0.05〜0.60mass%、Cr:0.010〜0.300mass%、Fe:0.001〜0.030mass%、Si:0.001〜0.030mass%含有し、更に(Ti+V+Zr):0.0010〜0.0100mass%、B:0.0001〜0.0010mass%を含有し、残部Al及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金からなり、5μmを超える最長径を有するTi−V−B−Zr系介在物の存在密度が0個/6000mmであり、3〜5μmの最長径を有するTi−V−B−Zr系介在物の存在密度が1個/6000mm以下であることを特徴とする磁気ディスク基板用アルミニウム合金板。
【請求項2】
請求項1に記載の磁気ディスク基板用アルミニウム合金板の製造方法において、前記アルミニウム合金の溶湯を保持炉中で700〜850℃で30分以上保持する溶湯保持工程と、当該溶湯保持工程で保持した鋳塊を鋳造する工程であって、鋳造開始時の溶湯温度を700〜850℃とする鋳造工程と、鋳造した鋳塊を熱間圧延する熱間圧延工程と、熱間圧延板を冷間圧延する冷間圧延工程とを含むことを特徴とする磁気ディスク基板用アルミニウム合金板の製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載される磁気ディスク用アルミニウム合金板を円環状に打ち抜いてディスクブランクを調製す工程と、前記ディスクブランクを加圧焼鈍して平坦化する工程と、平坦化したディスクブランクに削加工、研削加工、脱脂処理及びエッチング処理を施す加工処理工程と、加工処理したアルミニウム合金板をジンケート処理する工程と、ジンケート処理したアルミニウム合金板を下地めっき処理する工程と、下地めっき処理したアルミニウム合金板の表面に磁性体を付着する工程とを備えることを特徴とする磁気ディスクの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、めっき表面が平滑である磁気ディスク基板用アルミニウム合金板、当該アルミニウム合金板を低コストで製造可能な製造方法、ならびに、当該アルミニウム合金板を用いた磁気ディスクの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コンピュータの記憶装置に用いられるアルミニウム合金製磁気ディスクは、良好なめっき性を有することとともに機械的特性や加工性が優れたJIS5086(Mg:3.5〜4.5mass%、Fe≦0.50mass%、Si≦0.40mass%、Mn:0.20〜0.70mass%、Cr:0.05〜0.25mass%、Cu≦0.10mass%、Ti≦0.15mass%、Zn≦0.25mass%、残部Al及び不可避的不純物からなる)を用いたアルミニウム合金基板、また、JIS5086中の不純物であるFe、Si等の含有量を制限してマトリックス中の金属間化合物を小さくしたアルミニウム合金基板、或いは、CuやZnを添加してめっき性を改善したアルミニウム合金基板等から製造されている。
【0003】
一般的なアルミニウム合金製磁気ディスクは、まず、円環状アルミニウム合金基板を作製し、この円環状アルミニウム合金基板にめっきを施し、次いで、この基板表面に磁性体を付着させることにより製造される。
【0004】
例えば前記JIS5086合金によるアルミニウム合金製磁気ディスクは、以下の工程により製造される。まず、アルミニウム合金を鋳造し、その鋳塊を熱間圧延し、次いで冷間圧延を施す。なお、必要に応じて焼鈍を施して圧延材を作製する。次に、この圧延材を円環状に打抜き、円環状アルミニウム合金板を積層する。更に、積層体の上下から加圧しつつ焼鈍を施して平坦化する加圧焼鈍を行うことにより、円環状アルミニウム合金基板が作製される。
【0005】
このようにして作製された円環状アルミニウム合金基板に、前処理として切削加工、研削加工、脱脂、エッチング、ジンケート処理(Zn置換処理)を施し、次いで、下地処理として硬質非磁性金属であるNi−Pを無電解めっきし、このめっき表面にポリッシングを施した後に、磁性体をスパッタリングしてアルミニウム合金製磁気ディスクが製造される。
【0006】
ところで、近年、磁気ディスクには、マルチメディア等のニーズから大容量化及び高密度化が求められており、近い将来には、面記録密度2Tb/inが達成されようとしている。そして、磁気ディスクの記録密度の向上には、データ読み取り時にエラーの原因となる磁気ディスク表面のめっきピット(孔)をより少なくすることが必要とされ、めっき表面に高い平滑性が要求されている。
【0007】
めっきピットの発生原因としては、アルミニウム合金基板表面に存在する大きな窪みが一因として知られており、この大きな窪みは、基板表面に存在する粗大な非金属介在物や金属間化合物などの異物が研削加工やめっき前処理時に脱落して、発生することが判明している。
【0008】
このような実情から、近年ではアルミニウム合金基板に存在する異物の低減が強く望まれ、検討がなされている。特許文献1には、鋳造における凝固時の冷却速度を高めてAl−Fe−Mn系金属間化合物等の異物を微細化する方法が記載されている。
【0009】
特許文献2には、アルミニウム溶湯の不純物であるTi、V及びZrを偏析精製に先立って、Bとの反応を有効に利用して低減させる方法が記載されている。この方法で製造した高純度地金を磁気ディスク基板用アルミニウム合金板の原料として使用することで、TiB、VB、ZrB等の異物の生成を抑制している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開昭56−105846号公報
【特許文献2】特開2002−173718号公報
【0011】
しかしながら、特許文献1に記載の方法では、Al−Fe−Mn系金属間化合物を微細にすることは可能であるが、粗大な介在物を低減させることは出来ないため目標とする高平滑性が得られないという問題が残った。
【0012】
また、特許文献2に記載のように複数回の精錬の実施により高純度とすることで粗大な介在物は低減するが、通常の精錬よりも工程数が多いためコストが増加するという問題が残った。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、上記問題点を解決すべくなされたもので、高平滑性のめっき表面を有し、低コストで製造可能な磁気ディスク基板用アルミニウム合金板、ならびに、当該アルミニウム合金板を用いた磁気ディスクの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは上記問題点の解決のために、介在物としてTi−V−B−Zr系介在物に注目し、この介在物の分布状態とめっき表面の平滑性の関係、ならびに、この介在物の生成と製造条件の関係について鋭意調査研究した。その結果、(Ti+V+Zr)の含有量とBの含有量、鋳造前の保持炉での溶湯温度と保持時間、ならびに、鋳造開始時の溶湯温度が、Ti−V−B−Zr系介在物の生成と研削面の平滑性に大きな影響を与えることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0015】
すなわち、本発明は請求項1において、Mg:3.0〜8.0mass%、Cu:0.005〜0.150mass%、Zn:0.05〜0.60mass%、Cr:0.010〜0.300mass%、Fe:0.001〜0.030mass%、Si:0.001〜0.030mass%含有し、更に(Ti+V+Zr):0.0010〜0.0100mass%、B:0.0001〜0.0010mass%を含有し、残部Al及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金からなり、5μmを超える最長径を有するTi−V−B−Zr系介在物の存在密度が0個/6000mmであり、3〜5μmの最長径を有するTi−V−B−Zr系介在物の存在密度が1個/6000mm以下であることを特徴とする磁気ディスク基板用アルミニウム合金板とした。
【0016】
更に本発明は請求項2では、請求項1に記載の磁気ディスク基板用アルミニウム合金板の製造方法において、前記アルミニウム合金の溶湯を保持炉中で700〜850℃で30分以上保持する溶湯保持工程と、当該溶湯保持工程で保持した鋳塊を鋳造する工程であって、鋳造開始時の溶湯温度を700〜850℃とする鋳造工程と、鋳造した鋳塊を熱間圧延する熱間圧延工程と、熱間圧延板を冷間圧延する冷間圧延工程とを含むことを特徴とする磁気ディスク基板用アルミニウム合金板の製造方法とした。
【0017】
本発明は請求項3では、請求項1に記載される磁気ディスク用アルミニウム合金板を円環状に打ち抜いてディスクブランクを調製す工程と、前記ディスクブランクを加圧焼鈍して平坦化する工程と、平坦化したディスクブランクに削加工、研削加工、脱脂処理及びエッチング処理を施す加工処理工程と、加工処理したアルミニウム合金板をジンケート処理する工程と、ジンケート処理したアルミニウム合金板を下地めっき処理する工程と、下地めっき処理したアルミニウム合金板の表面に磁性体を付着する工程とを備えることを特徴とする磁気ディスクの製造方法とした。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る磁気ディスク基板用アルミニウム合金基板は、高純度地金を使用することなく優れためっき表面の平滑性が得られるため、大容量化及び高密度化が可能な磁気ディスク基板用アルミニウム合金板を低コストで提供することができる。更に、このようなアルミニウム合金板を用いることにより、大容量及び高密度の磁気ディスクを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明に係るアルミニウム合金板の製造工程から磁気ディスクの製造に至る工程のフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を詳細に説明する。
先ず、アルミニウム合金板の製造工程から磁気ディスクの製造工程を図1に示すフローに従って説明する。ここで、ステップ1〜5までは、アルミニウム合金板製造の工程であり、ステップ6〜11は、製造されたアルミニウム合金板を磁気ディスクの成形する工程である。
【0021】
1.製造工程
(1)ステップ1:溶解炉で所望組成のアルミニウム合金に配合した(例えば、後述の表1に示す組成に配合した)溶湯を保持炉に転湯する。更に、保持炉において、溶湯を所定温度で所定時間保持する。
(2)ステップ2:配合したアルミニウム合金溶湯を鋳造する。
(3)ステップ3:鋳造した鋳塊を面削し、均質化処理を施す(均質化処理工程は、必須ではない)。
(4)ステップ4:面削した、又は、均質化処理した鋳塊を熱間圧延して圧延板とする。ここで板厚は3.0mm程度とする。
(5)ステップ5:熱間圧延した圧延板を冷間圧延してアルミニウム合金板とする。なお、冷間圧延の前又は途中において焼鈍を施す(焼鈍は、必須ではない)。
(6)ステップ6:アルミニウム合金板を円環状に打ち抜き、ディスクブランクを作成する。
(7)ステップ7:ディスクブランクを加圧焼鈍により平坦化する。
(8)ステップ8:平坦化したディスクブランクに切削加工、研削加工、脱脂、エッチングを施して磁気ディスク用アルミニウム合金基板とする。
(9)ステップ9:磁気ディスク用アルミニウム合金基板の表面にジンケート処理(Zn置換処理)を施す。
(10)ステップ10:ジンケート処理した表面を下地処理(Ni−Pめっき)する。
(11)ステップ11:下地処理した表面にスパッタリングで磁性体を付着させて磁気ディスクとする。
【0022】
2.アルミニウム合金組成
まず、ステップ1のアルミニウム合金の各組成の配合について詳細に説明する。アルミニウム合金の成分組成限定理由は次の通りである。
【0023】
Mg:3.0〜8.0mass%
Mgは、主としてアルミニウム合金板の強度を向上させる効果を有する元素である。また、ジンケート処理時のジンケート皮膜を均一に、薄く、かつ、緻密に付着させるので、ジンケート処理工程の次工程である下地処理工程において、Ni−Pからなるめっき表面の平滑性が向上する。Mgの含有量を3.0〜8.0mass%(以下、単に「%」と記す)に規定した理由は、3.0%未満では強度が不十分であり、更に、ジンケート処理により生成するジンケート皮膜が不均一となり、めっきの密着性や平滑性が低下するためである。8.0%を超えると粗大なAl−Mg系金属間化合物が生成して、エッチング時、ジンケート処理時、切削や研削加工時において、金属間化合物が脱落して大きな窪みが発生し、めっき表面の平滑性が低下するためである。Mgの含有量は強度と製造性との兼合いから、3.5〜7.0%とするのが好ましい。
【0024】
Cu:0.005〜0.150%
Cuはジンケート処理時においてAl溶解量を減少させ、また、ジンケート皮膜を均一に、薄く、かつ、緻密に付着させる効果を有する元素である。このような効果により、ジンケート処理工程の次工程である下地処理工程において、Ni−Pからなるめっき表面の平滑性が向上する。
【0025】
Cuの含有量を0.005〜0.150%に規定した理由は、0.005%未満では上記効果が十分に得られないためである。一方、0.150%を超えると粗大なAl−Cu−Mg−Zn系金属間化合物が生成して、エッチング時、ジンケート処理時、切削や研削加工時において、金属間化合物が脱落して大きな窪みが発生し、めっき表面の平滑性を低下させるためである。更に、0.150%を超える場合には、材料自体の耐食性を低下させるため、ジンケート処理により生成するジンケート皮膜が不均一となり、めっきの密着性や平滑性が低下するためである。好ましいCu含有量は、0.005〜0.100%である。
【0026】
Zn:0.05〜0.60%
ZnはCuと同様に、ジンケート処理時のAl溶解量を減少させ、また、ジンケート皮膜を均一に、薄く、かつ、緻密に付着させるので、ジンケート処理工程の次工程である下地処理工程において、Ni−Pからなるめっき表面の平滑性が向上する。
【0027】
Znの含有量を0.05〜0.60%に規定した理由は、0.05%未満では上記効果が十分に得られないためである。一方、0.60%を超えると粗大なAl−Cu−Mg−Zn系金属間化合物が生成して、エッチング時、ジンケート処理時、切削や研削加工時において、金属間化合物が脱落して大きな窪みが発生し、めっき表面の平滑性を低下させるためである。更に、0.60%を超える場合には、材料自体の加工性や耐食性を低下させるため、ジンケート処理により生成するジンケート皮膜が不均一となり、めっきの密着性や平滑性が低下するためである。好ましいZn含有量は、0.05〜0.50%である。
【0028】
Cr:0.010〜0.300%
Crは鋳造時に微細な金属間化合物を生成するが、一部はマトリックスに固溶して強度向上に寄与する元素である。また、切削性と研削性を高め、更に再結晶組織を微細にしてめっき層の密着性を向上させめっきピットの発生を抑制する効果を有する。
【0029】
Crの含有量を0.010〜0.300%に規定した理由は、0.010%未満では上記効果が十分に得られないためである。一方、0.300%を超えると、鋳造時に過剰分が晶出すると同時に粗大なAl−Cr系金属間化合物が生成して、エッチング時、ジンケート処理時、切削や研削加工時において、この金属間化合物が脱落してめっきピットの原因となる大きな窪みを発生するためである。好ましいCr含有量は、0.010〜0.200%である。
【0030】
Fe:0.001〜0.030%
Feはアルミニウム母材中には殆ど固溶せず、Al−Fe系金属間化合物としてアルミニウム地金中に存在する。このAl−Fe系金属間化合物は研削面において欠陥となるため、アルミニウム合金中にFeが含有されることは好ましくない。しかしながら、Feを0.001%未満まで取り除くのは、アルミニウム地金を高純度に精錬することになりコスト高を招く。一方、Fe含有量が0.030%を超えると粗大なAl−Fe系金属間化合物が生成して、エッチング時、ジンケート処理時、切削や研削加工時において、この粗大なAl−Fe系金属間化合物が脱落して大きな窪みが発生し、めっき表面の平滑性が低下する。従って、Feの含有量を0.001〜0.030%となるように調整する。好ましいFe含有量は、0.001〜0.025%である。
【0031】
Si:0.001〜0.030%
Siは本発明のアルミニウム合金板の必須元素であるMgと結合し、研削面において欠陥となるMg−Si系金属間化合物を生成するため、アルミニウム合金中にSiが含有されることは好ましくない。しかしながら、Siはアルミニウム地金に不可避的不純物として存在する。ステップ1におけるアルミニウム合金の調整には純度の高い、例えば純度99.9%以上のアルミニウム地金を用いるが、このような地金にもSiが含有されている。アルミニウム地金からSiを0.001%未満まで取り除くのは、アルミニウム地金を高純度に精錬することとなりコスト高を招く。一方、Si含有量が0.030%を超えると粗大なMg−Si系金属間化合物が生成して、エッチング時、ジンケート処理時、切削や研削加工時において、この粗大なMg−Si系金属間化合物が脱落して大きな窪みが発生し、めっき表面の平滑性が低下する。従って、Siの含有量を0.001〜0.030%となるように調整する。好ましいSi含有量は、0.001〜0.025%である。
【0032】
(Ti+V+Zr):0.0010〜0.0100%
Ti、V、ZrはBと結合し、研削面において欠陥となるTi−V−B−Zr系介在物を生成するため、アルミニウム合金中にTi、V、Zrが含有されることは好ましくない。しかしながら、Ti、V、Zrはアルミニウム地金に不可避的不純物として存在する。アルミニウム地金中のTi、V及びZrの合計含有量を0.0010%未満にするには、アルミニウム地金を高純度に精錬することとなりコスト高を招く。一方、Ti、V及びZrの合計含有量が0.0100%を超えると粗大なTi−V−B−Zr系介在物が生成して、研削加工時にこの介在物が起点となり研削傷が発生したり、この介在物が脱落して大きな窪みが発生したりすることにより、めっき表面の平滑性が低下する。従って、Ti、V及びZrの合計含有量を0.0010〜0.0100%となるように調整する。Ti、V及びZrの好ましい合計含有量は、0.0010〜0.0060%である。
【0033】
なお、Ti、V、Zrの各元素の好ましい含有量は、Ti:0.0003〜0.0050%、V:0.0006〜0.0050%、Zr:0.0001〜0.0010%である。また、Ti、V及びZrの合計含有量とは、これら3種類の元素が全て含有されている場合には3種類の含有量の合計であり、いずれか2種類が含有されている場合にはこれら2種類の含有量の合計であり、いずれか1種類のみが含有されている場合にはこの1種類の含有量である。
【0034】
B:0.0001〜0.0010%
BはTi、V、Zrと結合し、研削面において欠陥となるTi−V−B−Zr系介在物を生成するため、アルミニウム合金中にBが含有されることは好ましくない。しかしながら、Bはアルミニウム地金に不可避的不純物として存在する。アルミニウム地金中のBの含有量を0.0001%未満にするには、アルミニウム地金を高純度に精錬することとなりコスト高を招く。一方、Bの含有量が0.0010%を超えると粗大なTi−V−B−Zr系介在物が生成して、研削加工時にこの介在物が起点となり研削傷が発生したり、この介在物が脱落して大きな窪みが発生したりすることにより、めっき表面の平滑性が低下する。従って、Bの含有量を0.0001〜0.0010%となるように調整する。好ましいB含有量は、0.0001〜0.0005%である。
【0035】
その他の元素
鋳造時において、Mgの溶湯酸化を抑制するため微量のBeを添加してもよい。但し、Be含有量が0.0001%未満では上記効果が十分に得られず、一方、0.0050%を超えてBeを添加してもその添加効果が飽和して、それ以上の顕著な改善効果が得られない。従って、Beを添加する場合の添加量は、0.0001〜0.0050%とするのが好ましい。
【0036】
上記各元素の他は、Al及び不可避的不純物である。ここで言う不可避的不純物とは上記のMg、Cu、Zn、Cr、Fe、Si、Ti、V、Zr、B、Beを除く元素であり、例えばMn、Ga等が挙げられる。これらの不可避的不純物は、各々が0.03%以下で、かつ、合計が0.15%以下であれば、本発明に係るアルミニウム合金板としてその特性を損なうことはない。
【0037】
3.Ti−V−B−Zr系介在物の存在密度
本発明においては、5μmを超える最長径を有するTi−V−B−Zr系介在物の存在密度を0個/6000mmとし、3〜5μmの最長径を有するTi−V−B−Zr系介在物の存在密度を1個/6000mm以下とする。ここで、本発明で規定するTi−V−B−Zr系介在物とは、電子線マイクロアナライザ(EPMA)のWDS分析によりTi、V、B、Zrを含有することが確認できる介在物をいう。また、本発明において最長径とは、電子線マイクロアナライザ(EPMA)のWDS分析により得られるTi−V−B−Zr系介在物の平面画像において、まず、輪郭線上における一点と輪郭線上の他の点との距離の最大値を計測し、次に、この最大値を輪郭線上における全ての点について計測し、最後に、これら全最大値のうちから選択される最も大きなものをいう。
【0038】
アルミニウム合金板中において、5μmを超える最長径を有するTi−V−B−Zr系介在物の存在密度を0個/6000mmとし、3〜5μmの最長径を有するTi−V−B−Zr系介在物の存在密度を1個/6000mm以下とすることにより、研削加工やめっき前処理時に基板表面に大きな窪みや研削傷の発生が少なくなり、平滑なめっき表面を得ることができる。Ti−V−B−Zr系介在物が基板表面に存在すると、研削加工時にこの介在物を起点に広範囲に研削傷が発生するため、この介在物の分散状態は目視で確認することができる。アルミニウム合金板中に存在するTi−V−B−Zr系介在物の最長径が5μmを超える場合は、この介在物に起因する基板表面での大きな窪みや研削傷が発生し、めっき表面の平滑性が低下する。一方、アルミニウム合金板中に存在するTi−V−B−Zr系介在物の最長径が3〜5μmの場合は、この介在物に起因する窪みや研削傷の大きさがめっきピットの発生に多少の影響を及ぼす。しかしながら、このような3〜5μmの最長径を有するTi−V−B−Zr系介在物の存在密度が、6000mm当たり1個以下であれば、ピットの発生に対する影響は無視することができる。なお、アルミニウム合金板中に存在するTi−V−B−Zr系介在物の最長径が3μm未満の場合には、この介在物により発生する窪みや研削傷の大きさは問題視されない。ここで、3〜5μmの最長径を有するTi−V−B−Zr系介在物の存在密度を1個/6000mm以下とするが、好ましくは0個/6000mmである。
【0039】
4.磁気ディスク基板用アルミニウム合金板の製造方法
次に、本発明に係る磁気ディスク基板用アルミニウム合金板の製造方法について詳細に説明する。前記ステップ1において本発明の合金組成範囲に調整されたアルミニウム合金溶湯を、鋳造されるまでに冷えて固まらないように保持炉で加熱・保持する。その後、半連続鋳造(DC鋳造)法などの常法に従って鋳造し(ステップ2)、得られた鋳塊に均質化処理(ステップ3)、熱間圧延(ステップ4)、冷間圧延(ステップ5)を施しアルミニウム合金板を製造する。いずれの工程もTi−V−B−Zr系介在物の分布状態に影響を与えるが、本発明者らは特にステップ1の保持炉での加熱温度と保持時間及び鋳造開始時の溶湯温度に注目した。
【0040】
4−1.保持炉での溶湯の加熱温度:700〜850℃
保持炉での溶湯の加熱温度を700〜850℃とすることでTi−V−B−Zr系介在物の一部が溶湯中に溶解するため、介在物を低減することが出来る。保持炉での溶湯の加熱温度が700℃未満の場合には、3μm以上の最長径を有するTi−V−B−Zr系介在物が保持中に多く生成し、このような700℃未満の温度で長時間保持を行ってもこの介在物を十分に除去することが出来ず、アルミニウム合金溶湯中に残存する。その結果、この介在物起因によって基板表面に大きな窪み及び研削傷が発生し、めっき表面の平滑性が低下する。一方、保持炉での溶湯の加熱温度が850℃を超える場合には、電力消費等が増加するのでコスト増加を招く。従って、保持炉での溶湯の加熱温度は700〜850℃とする。好ましい保持炉での溶湯の加熱温度は、750〜850℃である。
【0041】
4−2.保持炉での溶湯の保持時間:30分以上
保持炉での溶湯の保持時間を30分以上とすることで、溶湯中に溶解しきれなかった3μm以上の最長径を有するTi−V−B−Zr系介在物を沈殿させて除去することが出来る。なお、保持炉での溶湯の保持時間とは、溶解炉で調整されたアルミニウム合金溶湯が保持炉に全て転湯され、炉内で脱ガス処理等の処理が行われた後に保持されている時間のことを言う。保持炉での溶湯の保持時間が30分未満では上記介在物の沈殿が不十分であり、アルミニウム合金溶湯中に残存する。その結果、この介在物起因によって基板表面に大きな窪み及び研削傷が発生し、めっき表面の平滑性が低下する。従って、保持炉での溶湯の保持時間は30分以上とする。好ましい保持炉での溶湯の保持時間は60分以上である。なお、保持炉での溶湯の保持時間は長いほど良いが経済的な観点から600分以下が好ましい。
【0042】
4−3.インライン処理
保持炉で溶湯を保持した後、鋳造を行う前に脱ガス処理及び濾過処理を常法に従いインラインで行うことが好ましい。インライン脱ガス処理装置としては、SNIFやALPURなどの商標で市販されているものを使用すれば良い。これらの装置は、アルゴンガスやアルゴンと塩素の混合ガスを溶湯に吹き込みながら、羽根付き回転体を高速で回転させてガスを微細な気泡として溶湯中に供給する。これにより、脱水素ガス及び介在物の除去がインラインで短時間に行える。インライン濾過処理としては、セラミックチューブフィルターやセラミックフォームフィルター、アルミナボールフィルター等が用いられ、ケーク濾過機構や濾材濾過機構により介在物を除去する。
【0043】
4−4.鋳造開始時の溶湯温度:700〜850℃
保持炉で溶湯を保持した後、インラインでの脱ガス処理及び濾過処理を行うと溶湯温度が低下することがある。そのため、鋳造開始時の溶湯温度も保持炉での溶湯の加熱温度と同じく700〜850℃とする。鋳造開始時の溶湯温度が700℃未満の場合には、3μm以上の最長径を有するTi−V−B−Zr系介在物が鋳造開始前において多く生成する。その結果、この介在物起因によって基板表面に大きな窪み及び研削傷が発生し、めっき表面の平滑性が低下する。一方、鋳造開始時の溶湯温度を850℃を超えるように保つには電力消費等が増加するので、コスト増加を招く。従って、鋳造開始時の溶湯温度は700〜850℃とする。好ましい鋳造開始時の溶湯温度は、700〜800℃である。
【0044】
保持炉で溶湯の保持を行った後は鋳造を行い、その後、必要に応じて均質化処理を行う。均質化処理を実施する場合には、例えば500〜570℃で1〜10時間の条件で行うことが好ましい。次に熱間圧延するに当たっては、特にその条件は限定されるものではないが、例えば、熱間圧延開始温度を400〜500℃とし、熱間圧延終了温度を260〜380℃とする。
【0045】
熱間圧延終了後は、冷間圧延によって所要の製品板厚に仕上げる。冷間圧延の条件は特に限定されるものではなく、必要な製品板強度や板厚に応じて定めれば良く、例えば圧延率を20〜80%とする。
【0046】
冷間圧延の前又は冷間圧延の途中において、冷間圧延加工性を確保するために焼鈍処理を施してもよい。焼鈍処理を実施する場合には、バッチ式の加熱ならば、250〜430℃で0.1〜10時間の条件で行うことが好ましく、連続式の加熱ならば、400〜500℃で0〜60秒間保持の条件で行うことが好ましい。
【0047】
以上のようにして製造したアルミニウム合金板を、用途に応じて加工する。アルミニウム合金板を磁気ディスク用として加工するには、このアルミニウム合金板を円環状に打ち抜き(ステップ6)、大気中にて250〜430℃で30分以上の加圧焼鈍(ステップ7)を行い、平坦化したディスクブランクを切削加工、研削加工、脱脂、エッチング(ステップ8)して、ジンケート処理(ステップ9)、めっき処理(ステップ10)、スパッタリングによる磁性体の付着(ステップ11)を行い磁気ディスクとする。
【実施例】
【0048】
以下に、本発明を磁気ディスク基板に使用した実施例により詳細に説明する。まず、図1の各ステップについて説明する。
【0049】
(1)ステップ1:表1に示す成分組成のアルミニウム合金溶湯を溶製した。そして、この溶湯を表2に示す条件で保持炉において保持した。
(2)ステップ2:アルミニウム合金溶湯をDC鋳造法により厚さ500mmの鋳塊とし、両面15mmの面削を行った。
(3)ステップ3:表1の合金No.6以外は、510℃で6時間の均質化処理を施した。
(4)ステップ4:圧延開始温度460℃、圧延終了温度340℃で熱間圧延を行ない、板厚3.0mmの熱間圧延板とした。
(5)ステップ5:実施例No.7の合金以外の熱間圧延板は中間焼鈍を行なわずに冷間圧延(圧延率66.7%)により最終板厚の1.0mmまで圧延し、アルミニウム合金板とした。
実施例No.7では、まず第1の冷間圧延(圧延率33.3%)を施した後、バッチ式焼鈍炉を用いて、300℃で2時間の条件で中間焼鈍を行なった。次いで、第2の冷間圧延(圧延率50.0%)により最終板厚の1.0mmまで圧延し、アルミニウム合金板とした。
(6)ステップ6:前記アルミニウム合金板から外径96mm、内径24mmの円環状に打抜き、ディスクブランクを作製した。
(7)ステップ7:ディスクブランクを340℃で4時間加圧焼鈍を施した。
(8)ステップ8:端面加工を行い外径95mm、内径25mmとし、グラインディング加工(表面10μm研削)を行った。その後、AD−68F(上村工業製)により60℃で5分の脱脂を行った後、AD−107F(上村工業製)により65℃で1分のエッチングを行い、更に30%HNO水溶液(室温)で20秒間デスマットした。
(9)ステップ9:表面を調整したディスクブランク表面に、AD−301F−3X(上村工業製)を用いてダブルジンケート処理を施した。
(10)ステップ10:ジンケート処理した表面に無電解Ni−Pめっき処理液(ニムデンHDX(上村工業製))を用いてNi−Pを17μm厚さに無電解めっきした後、羽布により仕上げ研磨(研磨量4μm))を行った。
【0050】
【表1】
【0051】
【表2】
【0052】
前記研削加工(ステップ8)後、及び前記めっき処理(ステップ10)後のアルミニウム合金板について以下の評価を行った。
【0053】
〔Ti−V−B−Zr系介在物の存在密度〕
3〜5μmの最長径を有するTi−V−B−Zr系介在物と、5μmを超える最長径を有するTi−V−B−Zr系介在物の存在密度(個/6000mm)は、研削加工後のアルミニウム合金板表面を目視で検査し、EPMAの観察像とWDS分析(波長分散型X線分析)により3〜5μmの最長径を有するTi−V−B−Zr系介在物、ならびに、5μmを超える最長径を有するTi−V−B−Zr系介在物を同定しつつ、各々の6597mm当たりの個数を数えて存在密度(個/6000mm)に換算して求めた。Ti−V−B−Zr系介在物が基板表面に存在すると研削加工時にこの介在物を起点に広範囲に研削傷が発生するため、介在物の分散状態は目視で確認することができる。上記存在密度を、表3に示す。
【0054】
【表3】
【0055】
〔めっき表面の平滑性〕
Ni−Pめっき処理後のアルミニウム合金板の表面をOSA(Optical Surface Analyzer)等の機器を用いて観察し、6597mm当たりに存在する最長径1μm以上の大きさのピットの個数を計測し、単位面積当たりの個数(個数密度:個/6000mm)を求めた。評価の基準は、ピットが0個/6000mmの場合を優良(◎印)とし、1個/6000mmの場合を良好(○印)、2個/6000mm以上の場合を不良(×印)とした。評価結果を表3に示す。
【0056】
表3に示すように、実施例1〜7では、3〜5μmの最長径を有するTi−V−B−Zr系介在物、ならびに、5μmを超える最長径を有するTi−V−B−Zr系介在物の存在密度が請求項1を満たしており、めっき表面の平滑性が優良又は良好な磁気ディスク基板用アルミニウム合金板が得られた。
【0057】
これに対して比較例8〜23では何れも、本発明の規定外の構成要素を含んでいたため、めっき表面の平滑性が不良であった。
【0058】
即ち、比較例8では、Mg含有量が多過ぎたために粗大なAl−Mg系金属間化合物が多く生成され、この金属間化合物がめっき前処理で脱落してアルミニウム合金板表面に大きな窪みが発生した。その結果、めっき表面にピットが多数発生し、めっき表面の平滑性が不良となった。
【0059】
比較例9では、Cu含有量が多過ぎたために粗大なAl−Cu−Mg−Zn系金属間化合物が多く生成され、この金属間化合物がめっき前処理で脱落してアルミニウム合金板表面に大きな窪みが発生した。その結果、めっき表面にピットが多数発生し、めっき表面の平滑性が不良となった。
【0060】
比較例10では、Zn含有量が多過ぎたために粗大なAl−Cu−Mg−Zn系金属間化合物が多く生成され、この金属間化合物がめっき前処理で脱落してアルミニウム合金板表面に大きな窪みが発生した。その結果、めっき表面にピットが多数発生し、めっき表面の平滑性が不良となった。
【0061】
比較例11では、Cr含有量が多過ぎたために粗大なAl−Cr系金属間化合物が多く生成し、この金属間化合物がめっき前処理で脱落してアルミニウム合金板表面に大きな窪みが発生した。その結果、めっき表面にピットが多数発生し、めっき表面の平滑性が不良となった。
【0062】
比較例12では、Fe含有量が多過ぎたために粗大なAl−Fe系金属間化合物が多く生成し、この金属間化合物がめっき前処理で脱落してアルミニウム合金板表面に大きな窪みが発生した。その結果、めっき表面にピットが多数発生し、めっき表面の平滑性が不良となった。
【0063】
比較例13では、Si含有量が多過ぎたために粗大なMg−Si系金属間化合物が多く生成し、この金属間化合物がめっき前処理で脱落してアルミニウム合金板表面に大きな窪みが発生した。その結果、めっき表面にピットが多数発生し、めっき表面の平滑性が不良となった。
【0064】
比較例14では、(Ti+V+Zr)の含有量が多過ぎたために粗大なTi−V−B−Zr系介在物が多く生成し、研削加工やめっき前処理時にアルミニウム合金板表面に大きな窪みや研削傷が多数発生した。その結果、めっき表面にピットが多数発生し、めっき表面の平滑性が不良となった。
【0065】
比較例15では、B含有量が多過ぎたために粗大なTi−V−B−Zr系介在物が多く生成し、研削加工やめっき前処理時にアルミニウム合金板表面に大きな窪みや研削傷が多数発生した。その結果、めっき表面にピットが多数発生し、めっき表面の平滑性が不良となった。
【0066】
比較例16では、Mg含有量が少な過ぎたためにジンケート皮膜が不均一となった。その結果、めっき表面にピットが多数発生し、めっき表面の平滑性が不良となった。
【0067】
比較例17では、Cu含有量が少な過ぎたためにジンケート皮膜が不均一となった。その結果、めっき表面にピットが多数発生し、めっき表面の平滑性が不良となった。
【0068】
比較例18では、Zn含有量が少な過ぎたためにジンケート皮膜が不均一となった。その結果、めっき表面にピットが多数発生し、めっき表面の平滑性が不良となった。
【0069】
比較例19では、Cr含有量が少な過ぎたためにアルミニウム合金板の結晶粒が粗大化し、めっきの密着性が低下した。その結果、めっき表面にピットが多数発生し、めっき表面の平滑性が不良となった。
【0070】
比較例20、21では、保持炉での溶湯の加熱温度及び鋳造開始時の溶湯温度が低過ぎたために粗大なTi−V−B−Zr系介在物が多く生成し、研削加工やめっき前処理時にアルミニウム合金板表面に大きな窪みや研削傷が多数発生した。その結果、めっき表面にピットが多数発生し、めっき表面の平滑性が不良となった。
【0071】
比較例22、23では、保持炉での溶湯の保持時間が短過ぎたために粗大なTi−V−B−Zr系介在物が多く残存し、研削加工やめっき前処理時にアルミニウム合金板表面に大きな窪みや研削傷が多数発生した。その結果、めっき表面にピットが多数発生し、めっき表面の平滑性が不良となった。
【産業上の利用可能性】
【0072】
上述のように、本発明に係る磁気ディスク基板用アルミニウム合金板は研削加工やめっき前処理等の処理を行うにあたり、3μm以上の最長径を有するTi−V−B−Zr系介在物の個数が制御されているために、窪みや研削傷の発生を抑制する効果を有し、優れためっき表面平滑性を得ることが出来る。また、高純度地金を使用することなく優れためっき表面の平滑性が得られるため、高容量化及び高密度化が可能な磁気ディスク基板用アルミニウム合金板を低コストで提供することができるという優れた効果も有する。更に、このようなアルミニウム合金板を用いることにより、大容量及び高密度の磁気ディスクが得られる。
【要約】
【課題】研削面が平滑な磁気ディスク基板用アルミニウム合金板及び当該アルミニウム合金板を低コストで製造可能な製造方法、ならびに、磁気ディスクを提供する。
【解決手段】Mg:3.0〜8.0mass%(以下、%)、Cu:0.005〜0.150%、Zn:0.05〜0.60%、Cr:0.010〜0.300%、Fe:0.001〜0.030%、Si:0.001〜0.030%、更に(Ti+V+Zr):0.0010〜0.0100%、B:0.0001〜0.0010%を含有し、残部Al及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金からなり、5μmを超える最長径を有するTi−V−B−Zr系介在物の存在密度が0個/6000mmであり、3〜5μmの最長径を有するTi−V−B−Zr系介在物の存在密度が1個/6000mm以下である磁気ディスク基板用アルミニウム合金板及びその製造方法、ならびに、磁気ディスクの製造方法。
【選択図】図1
図1