(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5762649
(24)【登録日】2015年6月19日
(45)【発行日】2015年8月12日
(54)【発明の名称】成形品の離型支援装置
(51)【国際特許分類】
B29C 33/44 20060101AFI20150723BHJP
B29C 45/40 20060101ALI20150723BHJP
【FI】
B29C33/44
B29C45/40
【請求項の数】4
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2014-555013(P2014-555013)
(86)(22)【出願日】2014年6月16日
(86)【国際出願番号】JP2014065862
【審査請求日】2015年1月6日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】514028651
【氏名又は名称】ケンモールドサービス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092668
【弁理士】
【氏名又は名称】川浪 薫
(72)【発明者】
【氏名】斎藤 輝彦
【審査官】
伊藤 寿美
(56)【参考文献】
【文献】
実開平3−047110(JP,U)
【文献】
特開昭58−084740(JP,A)
【文献】
特開2002−137266(JP,A)
【文献】
特開平06−126749(JP,A)
【文献】
特開平01−228808(JP,A)
【文献】
特開2001−079898(JP,A)
【文献】
特開2003−39508(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2006/0045933(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 33/00−33/76,
45/40−45/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
傾斜スライド機構を備えた金型における成形品の離型装置において、
上辺に直角をなす水平部を形成し、上端部付近における一部が垂直状の垂直部位を形成したシャフトであって、該垂直部位の成形品側が成形品の下方に形成される垂下部および突起部の形状に対応する形状となるように加工され、該垂直部位は水平貫通孔を備え、該垂直部位の下方側が外向き傾斜状に加工され傾斜スライド部位となるように形成された傾斜シャフトと、
前記傾斜シャフトの垂直部位と全体が並行をなし該傾斜シャフトとほぼ同じ長さに形成されたシャフトであって、傾斜シャフトの垂直部位に形成された水平貫通孔に挿通され自由移動可能であるように水平方向に向けて固着されたピン部材を備えた垂直シャフトと、からなり、
前記傾斜シャフトと垂直シャフトは同時に昇降運動し、傾斜シャフトの上昇運動の際の垂直シャフト側への接近移動に伴って、前記水平貫通孔を貫通したピン部材先端が該貫通孔から突き出し、ピン部材先端部が押え付け対象に接触して当該対象が動かないように押え付け、円滑な離型を支援するように構成されたことを特徴とする成形品の離型支援装置。
【請求項2】
前記垂直シャフトに固着されたピン部材並びに該ピン部材を作動させるための機構が、ピン部材先端部が接触する前記突起部の数に応じて対応する数だけ設けられ、かつ同時に作動する、ことを特徴とする請求項1に記載の成形品の離型支援装置。
【請求項3】
前記成形品の下方に形成される突起部におけるピン部材先端部が接触する部位の位置および配置数が、当該突起部の形態に応じて決定される、ことを特徴とする請求項1又は2のいずれかに記載の成形品の離型支援装置。
【請求項4】
前記傾斜シャフト、垂直シャフトおよびピン部材が金属製である、ことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の成形品の離型支援装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種プラスチック素材を原材料として、製造される成形品の離型を円滑にする成形品の離型支援装置に関する。各種プラスチックによる成形品の製造過程において、成型品の離型工程を円滑かつ確実に行う技術を開示するものであり、殊に立体的ないし複雑な形状または構造である各種プラスチック製品類を形成する際に、これらプラスチック成形品に対する射出成形時のサイクルタイムを可能な限り短縮しながら所望の成形品を製造するための改良技術が求められている。
【0002】
このような複雑な形状ないし構造を有する各種成形品を製造するために必須となる金型装置も必然的に複雑な形状にならざるを得ない。そのため、複数部品の組み合わせとして形成されるものも増大している。複雑な形態や込み入った構造の成形品を成形するには、対応する構造のキャビティを備えた金型を用意し、キャビティ内への確実な溶融樹脂注入後、固化過程に適する時間経過後の適切なタイミングに適切な離型処理が必要である。
【背景技術】
【0003】
各種事務用機器・装置類、自動車その他運輸機関等において使用される各種装置ないし部品類、家電製品、その他諸々の産業用機器・装置類等において軽量化ならびに経済性等を考慮した素材が求められている。金属以外の好適な素材として機械的強度、耐熱性、耐摩耗性等の物理的特性が大幅に改善された高機能性樹脂であるエンジニアリングプラスチックが広い分野に普及している。このような高機能性樹脂類は、軽量である上、成形や着色が容易であり、さらに耐熱性、耐摩耗性、機械的強度のような諸々の物理特性の改善策も盛んに進められている。その結果、安定した特性が得られるものも多いため用途も益々拡大し、広範な分野において広く活用されている。
【0004】
樹脂成形品の使用目的ないし用途は様々で、家電製品その他日用品、事務用品、各種産業用機械および装置類、自動車、鉄道、航空機等をはじめとする多くの運輸・輸送機関、等々極めて広範な分野に及んでいる。これら多くの用途にあってはそれぞれの分野において求められる特性が異なり、例えば耐候性、耐熱性、耐摩耗性、耐溶剤性、耐UV特性のような多くの基本的な物性ないし特性が求められることが多い。かかる要請に応じて、多くの改良技術が進められ、高機能性樹脂、いわゆるエンジニアリングプラスチックが出現し、それ以降の目覚ましい開発の成果として多くの分野において他素材との置換、さらには多くの組み合わせ等による技術の進歩に伴い、その用途は益々拡大している。
【0005】
プラスチックを原材料とする各種部品や装置類の構成要素などで、殊に複雑な立体構造の物体にあっては、型に合わせた一体的成形処理の際に溶融樹脂がキャビティ末端まで過不足なく流動し、確実な充填が行われなければならない。しかしながら、過度に複雑な形状ないし構造の成形品を、可能な限り短縮されたサイクルタイムで成形処理を行うには困難となる可能性がある。その結果、工数削減の要請に沿えないものも多く存在する。例えば、簡単な部品でありながら、部分的な曲折部を有するもの、曲折部や開口部が不可欠の部材、1部材でありながら部分的に込み入った凹凸や分岐が存在し、かつアンダーカット部が生じるため離型が困難であるような成形品を対象とする場合、小形のパーツであっても、単一工程による成形処理には困難が伴うことも多い。
【0006】
さらに複雑な構造であればあるほど離型工程にも困難が伴うことになる。また電気的連結部材としての多数極コネクタの構成部材のように、多数のコネクタピンを含む雌型ピン受容部を備えた接続構造も必要となる。そのため、雌形コネクタの製造にあたっては、対応する極数分のコネクタピン受けを形成しなければならない。かかる要請を受けて総面積の大きい開口部を有するコネクタボディを成形するような場合、それぞれに適する込み入った個々の工程が必要となる。
【0007】
このような用途では、所要数の電極収納孔を備えた成形品の形成が不可欠となるが、極端に多数の極数を要する場合、困難が伴う。そのため、従来から型抜きが可能なパーツないし単位ごとに複数工程に分けて成形し、その後、それぞれのパーツ類を単位毎に組合せて接着、溶着、ねじ止めないし接続補助金具等の適宜手段を援用し、さらに金属その他補強素材の併用等々の適宜手段により所要形態の組立体として構成するような対策もとられていた。しかしながら、かかる複数の部材・パーツ等を、時には人手によって組み合わせ作業を行うには製造工程が煩雑となる上、小型化並びに簡潔な構成による製作が困難であることが多い。
【0008】
特許文献1は、樹脂成型品製造に使用される金型のキャビティ2及びこのキャビティに対して相対移動可能なコア3と、このコアの背部に設けられていて該コアに対して相対移動可能なイジェクタプレート4と、樹脂成形品のアンダーカット部を形成するために一端側に設けられた傾斜コア部21に接続され、かつ上記コア3に挿通された傾斜ピン22を有し、この傾斜ピン22の他端側をイジェクタプレート4に対して自在に滑動するスライドユニット23を備えた傾斜スライド6と、を併有する樹脂成型用金型装置を開示している。特に、前記傾斜スライド6は、上記キャビティ2とコア3との離型時に前記イジェクタプレート4がコア3側に前進する距離と比較して、前記傾斜コア部21がコア3から突き出る量が小さくなるように前記傾斜ピン22を案内する突出量規制手段を備えている。
【0009】
特許文献1に開示された傾斜スライド機構では、離型工程においてアンダーカット部の折れ曲がり、破損等の発生を完全には防止できず、また成形品自体の不良個所の発生を防止することができない。このように、特許文献1は傾斜スライド機構を備えた金型を開示しているが、できるだけ簡潔な構成で上述したような目的を達成しようとする本質的要請に十分に応えることはできない。
【0010】
【特許文献1】特開平10−264217
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の課題は、各種プラスチック素材を原材料として、製造される成形品を円滑に離型できる成形品の離型支援装置を提供することである。プラスチック系成形材料として広く認識されているエンジニアリングプラスチック、すなわち高機能性樹脂類を原材料として、例えば電気電子機器等において広く使用される各種製品を製造する場合、特に複雑な装置類であっても、離型を円滑にして可能な限り少ない工程により製作可能な技術の開発が課題となっている。
【0012】
殊に、複雑な成形品を製造する場合、部品類の集約や配置等を十分に考慮しなければならない。プラスチック製の各種成形品を必要とする場合、金型製造から成形工程までの一連の工程が円滑に進行するよう配慮することが望まれる。仮に、成形過程の最終段階である離型工程が円滑に行われないことになると効率のよい成形は困難となる。さらに、離型作業において障害となるアンダーカット部等の発生が不可避である場合にあっては作業効率が極端に低下することになる。
【課題を解決するための手段】
【0013】
請求項1に記載の発明は、傾斜スライド機構を備えた金型における成形品の離型装置において、上辺に直角をなす水平部14を形成し、上端部付近における一部が垂直状の垂直部位11を形成
したシャフトであって、
該垂直部位の成形品側が成形品MPの下方に形成される垂下部HPおよび突起部PPの形状に対応する形状となるように加工され、該垂直部位は水平貫通孔13を備え、該垂直部位の下方側が外向き傾斜状に加工され傾斜スライド部位12となるように形成された傾斜シャフト10と、前記傾斜シャフトの垂直部位11と全体が並行をなし該傾斜シャフトとほぼ同じ長さに形成されたシャフトであって、傾斜シャフトの垂直部位11に形成された水平貫通孔13に挿通され自由移動可能であるように水平方向に向けて固着されたピン部材21を備えた垂直シャフト20と、からなり、前記傾斜シャフト10と垂直シャフト20は同時に昇降運動し、傾斜シャフトの上昇運動の際の垂直シャフト側への接近移動に伴って、前記水平貫通孔13を貫通したピン部材先端が該貫通孔から突き出し、ピン部材先端部が押え付け対象30に接触して当該対象が動かないように押え付け、円滑な離型を支援するように構成された成形品の離型支援装置であることを特徴とする。
【0014】
本発明においては傾斜シャフトの垂直部位11の成形品側が成形品MPの下方に形成される垂下部HPおよび突起部PPの形状に対応する形状となるように加工されており、請求項2に記載の発明は、
請求項1に記載の成形品の離型支援装置において、垂直シャフトに固着されたピン部材21並びに該ピン部材を作動させるための機構が、ピン部材先端部が接触する突起部PPの数に応じて対応する数だけ設けられ、かつ同時に作動することを特徴とする。
【0015】
請求項3に記載の発明は、
請求項1又は2のいずれかに記載の成形品の離型支援装置において、突起部PPにおけるピン部材先端部が接触する部位CPの位置および配置数が、突起部の形態に応じて決定されることを特徴とする。突起部の形態とは、突起部の形状や長さ、厚さ、幅のサイズなどをいう。
請求項4に記載の発明は、
請求項1〜3のいずれかに記載の成形品の離型支援装置における傾斜シャフト10、垂直シャフト20およびピン部材21が金属製であることを特徴とする。なお、傾斜シャフト、垂直シャフトおよびピン部材は硬質の金属製であるのが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る成形品の離型支援装置は、水平部、水平貫通孔を有する垂直部位を形成し、該垂直部位の下方側が傾斜スライド部位となるように形成された傾斜シャフトと、垂直部位と全体が並行をなし、該傾斜シャフトと略同じ長さに形成されたシャフトであって水平貫通孔に挿通され自由移動可能なピン部材を固着した垂直シャフトとを備えた構造であるので、簡潔な構成による製作が可能であり、また外部の制御手段を使用することなしに傾斜シャフト、垂直シャフト及びピン部材による作動によって円滑な離型を補助、支援することができる。
【0017】
上記のような簡潔な構造において、傾斜シャフトと垂直シャフトは同時に昇降運動し、傾斜シャフトは上昇運動と共に垂直シャフト側へ接近移動する。この移動に伴って、ピン部材先端が貫通孔から突き出して、ピン部材先端部が押え付け対象30に接触して当該対象が動かないように押え付けるように構成されている。そのため、成形品の下方にアンダーカット部等が形成される成形体の離型工程において発生しがちな、変形、ひび割れ、曲折、破損などの発生を確実に防止することができ、離型を円滑に実施することが可能となる。
【0018】
また、本発明に係る成形品の離型支援装置は、傾斜スライドの垂直部位が成形品の下方に形成される垂下部および突起部の形状に対応する形状となるように加工され、垂直シャフトに固着されたピン部材並びに該ピン部材を作動させるための機構が、ピン部材先端部が接触する前記突起部PPの数に応じて、対応する数だけ設けられ、かつ同時に作動するように構成される。また本発明においては突起部PPにおけるピン部材先端部が接触する部位CPの位置および配置数が、突起部の形状や長さ、厚さ、幅のサイズなどの形態に応じて決定されるので、電気電子機器等に広く使用される複雑な形状の各種成形品に適用でき幅広い製品への対応が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明に係る成形品の離型支援装置の主要部の構成例並びに離型の際の装置の動作・機能を説明するための図であり、(A)は離型開始時の作動状態、(B)はシャフト上昇途中の作動状態、(C)はシャフトの最大上昇時の作動状態、を示す図である。
【
図2】本発明に係る成形品の離型支援装置を、下方に垂下部及び突起部を形成した成形品に適用した構成例並びに離型の際の装置の動作・機能を説明するための図であり、(A)は離型開始時の作動状態、(B)はシャフト上昇途中の作動状態、(C)はシャフトの最大上昇時の作動状態、を示す図である。
【
図3】本発明に係る成形品の離型支援装置を、下方に2個の突起部を形成した成形品に適用した構成例を示す図である。
【
図4】本発明に係る成形品の離型支援装置の垂下部及び突起部の構成例並びにピン部材先端部が接触する部位の配置例、配置数の例を示す図である。
【符号の説明】
【0020】
10 傾斜シャフト
11 垂直部位
12 傾斜スライド部位
13 水平貫通孔
14 水平部
20 垂直シャフト
21、21a、21b ピン部材
30 押え付け対象
MP 成形品
HP 垂下部
PP 突起部
CP、CP1、CP2 ピン部材先端部の接触部位
U 上昇方向
H 水平移動方向
【0021】
以下、本発明に係る成形品の離型支援装置(以下、単に「離型支援装置」ともいう)の主要部を示す添付図を参照して、本発明に係る離型支援装置の構成例並びに離型の際の装置の動作及び機能について説明する。離型支援装置は、成形対象が複雑な形状、例えばアンダーカット部を有する成形品のような成形品の成形にあたって、成形後に成形品に支障を与えることなしに離型処理を確実かつ迅速に(円滑に)実施可能な離型支援装置であり、成形工程完了後に金型からの離型を開始するに際し、成形品に対して変形や部分的な凹部発生などの原因となるような過度のストレスを与えることなく円滑な離型を支援するための離型支援装置である。
【0022】
図1は、離型支援装置の基本構成例並びに離型の際の装置の動作及び機能を説明するための図であり、(A)は離型開始時の作動状態を、(B)はシャフト上昇途中の作動状態を、(C)はシャフトの最大上昇時の作動状態をそれぞれ示している。なお、図において鎖線で示した部分は内部に隠れている部分を表している。また、「上方」、「下方」、「右側」、「左側」、「上面」、「下面」等の表現は図面に図示された状態における方向に基づいて表現したものである。
【0023】
離型支援装置は、傾斜スライド機構を備えた金型における成形品の離型装置であって、
図1に示すように基本的に水平貫通孔13を備えた傾斜シャフト10並びにピン部材21を固着した垂直シャフト20により構成される簡潔な構造である。
【0024】
傾斜シャフト10は、上辺に直角をなす水平部14を形成し、上端部付近における一部が垂直状の垂直部位11を形成している。垂直部位には水平方向に水平貫通孔13が開口されており、垂直部位の下方側は左外側方向に向け傾斜状になるように曲げ加工された傾斜スライド部位12となっている。曲げ角度は厳密に規定されたものではない。水平部14の上面は上方に位置するキャビティ部分と当接する。垂直部位11の左側は成形品下方に形成される垂下部HPおよび突起部PPの面に当接し、垂直部位11の右側は垂直シャフト20と並行をなしている。
【0025】
垂直シャフト20は、垂直方向全体が傾斜シャフトの垂直部位11と並行をなしており、傾斜シャフトと略同じ長さに形成されている。傾斜シャフトは上端付近の内部にピン部材21を固着している。ピン部材21は、右側端部が傾斜シャフトに固着され、押え付け対象30と接触する左側部分は、抵抗なく水平方向に自由移動可能であるように、傾斜シャフトの垂直部位11に形成された水平貫通孔13に挿通されている。ピン部材の固着手段はネジ込みや溶接等の慣用の手段を採用することができる。また、傾斜スライドの垂直部位11は、本発明の適用対象とする成形品MPの下方に形成される垂下部HPおよび突起部PPの形状に応じて対応する形状と同一となるように加工されている。傾斜シャフト、垂直シャフトおよびピン部材は金属製であることが好ましく、硬質の金属製であることがさらに好ましい。
【0026】
なお、傾斜シャフト及び垂直シャフトの下方側から貫通可能にそれぞれを受容する案内孔を有する昇降案内部が金型内に固着して配設されており、昇降案内部の案内に従って傾斜シャフトの垂直シャフト側への水平移動、並びに傾斜シャフト及び垂直シャフトの同時昇降運動は確実に実行される。
【0027】
次に、
図1、
図2を参照して本発明に係る離型支援装置の動作及び機能について説明する。
図2は、離型支援装置を、下方に垂下部及び突起部を形成した成形品に適用した構成例並びに成形品を離型する際の装置の動作・機能を説明するための図であり、(A)は離型開始時の作動状態、(B)はシャフト上昇途中の作動状態、(C)はシャフトの最大上昇時の作動状態をそれぞれ示している。
【0028】
傾斜シャフト10と垂直シャフト20とは同期状態で同時に昇降運動する。傾斜シャフトは、傾斜スライド機構の機能を有して傾斜スライド運動を実行するもので、離型工程が進行すると、U方向へ上昇すると共にH方向に水平移動して垂直シャフト側へ接近する。垂直シャフトは、傾斜シャフトと同時に昇降運動のみを行い、垂下部HP及び突起部PPとの間隔は離型開始から不変であって離型工程が進行してシャフトが上昇しても水平方向の移動運動は行わない。ピン部材先端部は、離型開始時は水平貫通孔13に貫通した状態で押え付け対象30に接触しており、離型処理が進行しシャフトが最大上昇した時においても離れることなく押え付け対象30に接触している。
【0029】
離型支援装置は以下のように動作し機能を発揮する。
図2(A)に示すように、離型開始時にはピン部材の先端方向部分は、水平貫通孔13に貫通した状態で突起部PPの先端部に接触しており、傾斜シャフトと垂直シャフトとの間隔は最大となっている。その後、
図2(B)に示すように離型工程の進行に連れて、両シャフトはU方向に上昇運動し、上昇運動に伴い傾斜シャフトは垂直シャフト側への接近移動運動も併せて行う。これらの運動によって、傾斜シャフトの垂直部位11はH方向に水平移動して垂下部HP及び突起部PPから離れ、ピン部材先端部は貫通孔から突き出て突起部PPの先端に接触している。
【0030】
両シャフトが最大まで上昇した状態においては、
図2(C)に示すように傾斜シャフトの垂直部位11は垂下部HP及び突起部PPから離れる。ピン部材先端部は貫通孔から最大に突き出た状態で突起部PPに引き続き接触して押え付け対象が動かないように押さえ付けている。その後、ピン部材先端部が押え付け対象を押さえ付けながら成形品が上方に突き上げられて離型工程が完了する。このような動作及び機能によって、離型支援装置は離型処理が円滑に実施されるように補助、支援することになる。
【0031】
ピン部材先端部の突起部先端への接触とは、ピン部材側から押圧力を与えるものではなく、単に触れる程度であって、押え付け対象が動かないように押さえ付けている状態である。なお、成形品下方に形成される突起部をさらに確実に離型させるために、本発明においては、離型時の両シャフトが最大上昇した時点において、垂直シャフトを押え付け対象30から離れる方向に水平移動するように構成することもできる。
【0032】
次に、
図3を参照して本発明に係る離型支援装置が適用対象とする成形品の押え付け対象について説明する。
図3は、下方に2個の突起部を形成した成形品に対して離型支援装置を適用した構成例を示す図である。図中、斜線で表した部分は下方に垂下部及び突起部(アンダーカット部)を形成する成形品を示している。ピン部材の動作及び機能については前述したのでここでは省略する。
【0033】
図3に示すように、成形品MPの下方には2個の突起部PP1、PP2が形成されており、それぞれの突起部先端に2個のピン部材21a、21bの各先端部がそれぞれ接触している。両ピン部材を作動させるための機構が同時に作動するように構成されている。前述したように、成形品が上方に突き上げられて離型が実施されるまで、両ピン部材先端部はそれぞれの突起部PP1、PP2に接触して押え付け対象が動かないように押さえ付けている。下方に2個の突起部を形成した成形品の離型処理であっても、離型支援装置は当該離型処理が円滑に実施されるように補助、支援することになる。
【0034】
なお、本発明に適用される成形品として、
図3では下方に2個(
図2では1個)の突起部(アンダーカット部)を形成する成形品を示しているが、本発明に適用される成形品は、これらに限定されるものではなく、形成される突起部の数は3個以上の複数であってもよく、また複雑な形状の例えば多数極コネクタ等であってもよい。この場合、突起部の数に対応した数のピン部材及び当該ピンを同時に作動させるための機構を設けて作動させることにより目的を達成することができる。なお、多数極コネクタ等のように突起部が多数形成された成形品の場合は、すべての突起部に対応する数でなく、離型処理にあたって押え付け対象の折れ、破損を阻止できる範囲で適宜数のピン部材及び当該ピン作動機構を設けることもできる。
【0035】
次に、ピン部材が接触して押え付ける部位について
図4を参照して説明する。
図4は、本発明に係る離型支援装置の垂下部及び突起部の構成例並びにピン部材先端部が接触する部位の配置例、配置数の例を示している。図では、垂下部HPと突起部PPが全体としてL字状をなし、垂下部が縦長で、突起部断面が直線状であって横方向に幅広の形態となっている。
【0036】
ピン部材先端部が接触して押え付ける部位は、基本的には成形品の下方に形成される形態のうち離型の際に抜け難く、折れ易い部分により決定されるが、ピン部材先端部の接触部位は突起部の形状、長さ、厚さ、幅の広狭等によって任意に決定されるものであり、ピン部材先端部が接触する部位CPの位置および配置数を、突起部の形態に応じて決定することができる。
【0037】
図4に示すように、断面が直線状であって横方向に幅広の形態の突起部PPにおいては、ピン部材先端部の接触部位(ピン部材の押え付け部位)が、突起部の先端面に等間隔で2箇所、CP1、CP2配置されている。ここでは、突起部の形態を断面が直線状としているが、断面が角状又は湾曲状などである場合は、ピン部材先端部の接触部位を当該突起部の頂点付近に配置することができ、また横幅の広狭によっては接触部位を3個以上とすることができる。
【0038】
このような離型支援動作を実行するタイミングは、原材料である使用プラスチックの種類並びに使用副資材の影響、成形体の構造、周囲温度等々の諸条件を考慮して過不足のない適正処理時間を考慮して決定すべきである。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明によれば成形品の円滑な離型を実行できるので成形品を成形製造する業界に貢献できることはいうまでもなく、また樹脂成形品は、家電製品その他日用品、事務用品、各種産業用機械および装置類、自動車、鉄道、航空機等の運輸・輸送機関等々広範な分野において使用されており、本発明はこのような分野における成形品の製造に利用されるものであり電気電子機器や機械器具製造等の広い産業分野への貢献が期待される。
【0040】
さらに本発明は、樹脂成形品の用途が樹脂自体の改良や成形技術の発展に伴って益々拡大している現状を踏まえ、機能および特性の優れた樹脂成形品の成形時における問題点を改善して、多くの産業分野におけるエンジニアリングプラスチックの有効活用を可能にすることができる。
【要約】
傾斜スライド機構を備えた金型における成形品の離型装置において、上辺に水平部を形成し、上端部付近が垂直状の垂直部位を形成し、垂直部位に水平貫通孔を有し、垂直部位の下方側が傾斜スライド部位となるように形成された傾斜シャフト10と、垂直部位と全体が並行をなし傾斜シャフトとほぼ同じ長さに形成され、垂直部位に形成された水平貫通孔に挿通され自由移動可能であるように固着されたピン部材21を備えた垂直シャフト20とからなり、傾斜シャフト10と垂直シャフト20は同時に昇降運動し、傾斜シャフト10の上昇運動の際の垂直シャフト20側への接近移動に伴って、水平貫通孔を貫通したピン部材21の先端が該貫通孔から突き出し、ピン部材21の先端部が押え付け対象に接触して当該対象が動かないように押え付け、円滑な離型を支援するように構成される。