特許第5762741号(P5762741)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5762741吸収によるコークス炉ガスからの芳香族炭化水素の除去方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5762741
(24)【登録日】2015年6月19日
(45)【発行日】2015年8月12日
(54)【発明の名称】吸収によるコークス炉ガスからの芳香族炭化水素の除去方法
(51)【国際特許分類】
   C10K 1/16 20060101AFI20150723BHJP
【FI】
   C10K1/16
【請求項の数】6
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2010-513757(P2010-513757)
(86)(22)【出願日】2008年6月27日
(65)【公表番号】特表2010-531903(P2010-531903A)
(43)【公表日】2010年9月30日
(86)【国際出願番号】EP2008005253
(87)【国際公開番号】WO2009003644
(87)【国際公開日】20090108
【審査請求日】2011年6月24日
【審判番号】不服2014-6583(P2014-6583/J1)
【審判請求日】2014年4月9日
(31)【優先権主張番号】102007030367.1
(32)【優先日】2007年6月29日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】597014730
【氏名又は名称】ティッセンクルップ・ウーデ・ゲゼルシャフト・ミト・ベシュレンクテル・ハフツング
(74)【代理人】
【識別番号】100069556
【弁理士】
【氏名又は名称】江崎 光史
(74)【代理人】
【識別番号】100111486
【弁理士】
【氏名又は名称】鍛冶澤 實
(74)【代理人】
【識別番号】100139527
【弁理士】
【氏名又は名称】上西 克礼
(74)【代理人】
【識別番号】100164781
【弁理士】
【氏名又は名称】虎山 一郎
(72)【発明者】
【氏名】ティーレルト・ホルガー
(72)【発明者】
【氏名】ヴォツニュ・ギュンター
(72)【発明者】
【氏名】リヒター・ディートマー
【合議体】
【審判長】 豊永 茂弘
【審判官】 日比野 隆治
【審判官】 山田 靖
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−194410(JP,A)
【文献】 特開昭51−63384(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10K1/00-3/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コークス炉ガスから芳香族炭化水素を除去するにあたり、
コークス炉ガスをガス洗浄装置中で洗浄液と接触させ、そして、吸収によりコークス炉ガスから芳香族炭化水素を分離し、
その後、芳香族炭化水素が富化した洗浄液を加熱し、水蒸気によるストリッピングにより芳香族炭化水素を洗浄液から留去し、
冷却の後、洗浄液をガス洗浄装置に再度供給する方法であって、
洗浄液としてバイオディーゼルを使用し、
バイオディーゼルが、ナタネ油メチルエステル(RME)から成ることを特徴とする前記方法。
【請求項2】
バイオディーゼルを洗浄装置の頂部から加え、コークス炉ガスに対して向流でガス洗浄装置を貫流させ、芳香族炭化水素が富化したバイオディーゼルを、ガス洗浄装置の下部領域において抜き取ることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
バイオディーゼルを、10℃〜50℃の温度でガス洗浄装置に加えることを特徴とする請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
バイオディーゼルを、20℃〜40℃の温度でガス洗浄装置に供給することを特徴とする請求項に記載の方法。
【請求項5】
吸収された芳香族炭化水素の留去のために、バイオディーゼルを100℃〜250℃の温度に加熱することを特徴とする請求項1〜のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
吸収された芳香族炭化水素の留去のために、150℃よりも高い温度を有する過熱された水蒸気によりバイオディーゼルをストリッピングすることを特徴とする請求項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コークス炉ガスからの芳香族炭化水素の除去方法に関する。コークス炉ガスはガス洗浄装置中で洗浄液と接触させ、吸収により芳香族炭化水素がコークス炉ガスから分離される。芳香族炭化水素が富化した洗浄液は、その後、加熱され、そして、水蒸気によるストリッピングにより洗浄液から芳香族炭化水素が留去される。冷却の後、洗浄液はガス洗浄装置に再度供給される。
【背景技術】
【0002】
石炭のコークス化において、芳香族炭化水素は、発生したコークス炉ガスの構成分として放出される。芳香族炭化水素をさらなる用途へ供給できるようにし、周辺環境へ拡散させないために、これらは、大概は、タールとアンモニアが分離された後に、コークス炉ガスの処理の際にコークス炉ガスから洗浄分離される。実施に際して、洗浄液としては、石炭の処理において発生するタール油留分をベースとした洗浄オイルが使用される。この方法の工程は、主に含まれる芳香族炭化水素であるベンゼン、トルエン、キシレンに由来して一般的にBTX−洗浄又はベンゼン洗浄とも呼ばれる。前記の芳香族炭化水素は、共に、粗ベンゼンとも呼ばれ、ここで粗ベンゼンの割合は、コークス化工程に使用される石炭及び工程のやり方に依存して、典型的には、ノーマル立法メートル(Nm)あたり20〜40gである。粗ベンゼンは、典型的には、55〜75%のベンゼン、13〜19%のトルエン及び5〜10%のキシレンを含む。さらに、コークス炉ガスは、洗浄オイルから吸収され得る多環の芳香族炭化水素、特にナフタレンも含む。さらに、コークス炉ガスは、不純物、特にHS、HCN、NH並びに有機硫黄化合物を含有する。コークス炉ガスの典型的な組成は例えば次を含む:
54〜62体積% H
23〜28体積% CH
6.2〜8体積% CO
S 約7g/Nm3
HCN 約1.5g/Nm3
NH 7g/Nm3
ORG 約0.5g/Nm3
BTX 〜40g/Nm3
ナフタリン 〜2g/Nm3
【0003】
BTX−洗浄の方法は、その基本的な特徴が数十年来変わらず使用され、例えば、それは、例えばO.Grosskinskyの専門書”Handbuch des Kokereiwesens”、2巻、1958年版、137ページ以下に示されている。BTX−洗浄は一つ又は二つ以上の連続して配置された洗浄装置中で行われ、ここで、洗浄オイルによる芳香族炭化水素の吸収のために、コークス炉ガスと洗浄液としての洗浄オイル間で密接な接触が保障されなければならない。密接な接触は、一方では洗浄オイルの微噴霧化により達成することができ、他方では、薄い油膜により達成することができる。一方の散液装置と、他方の棚(Horden)、充填物及び他の内装具とのコンビネーションが特に有利であり、ここで、散液装置からの油滴はできる限り広い表面積を有する油膜上に広げられる。ベンゼン、トルエン及びキシレンの可溶性は、特に、様々な組成の蒸気圧に依存し、そのために、洗浄オイルは、比較的低い温度、好ましくはおよそ室温で洗浄装置に供給される。他方、洗浄オイルは、良好に噴霧でき、大きな表面積を形成することができるように、十分な流動性と低い粘性を示す必要がある。洗浄装置の底面に集まる芳香族炭化水素が富化した洗浄オイルは抜き取られ、ここで、その後、粗ベンゼンは、高められた温度下に水蒸気によるストリッピングによって洗浄オイルから留去される。そして、洗浄オイルは、冷却の後、洗浄装置に再び供給される。コークス炉ガスの可能な限り大量の処理量で大幅な粗ベンゼンの洗浄分離を達成するために、洗浄オイルは過剰に洗浄装置に供給される。現代のコークス炉において生ずるコークス炉ガスの量では、BTX−洗浄の実施を可能にするためには多量の洗浄オイルが必要となる。
【0004】
洗浄液としては、試験的に、化石ディーゼルオイルも、また、使用されている。ただし、この際、水蒸気によるストリッピングにおいてその際発生する温度の下で、洗浄オイル中にゴム状のコンシステンシーを有する粘着性の残留物が発生、沈殿することが確認されている。この残留物は共重合反応の結果生ずるが、その際、コークス炉ガスに含有される不純物、特にHCN及びHSが錯化剤として関与する。粘着性でゴム状の沈殿物の分離のためには、洗浄液循環中にデカンターを設ける必要がある。洗浄液として化石ディーゼルオイルを使用する場合、さらに、洗浄液の比較的多量の部分流を循環から抜き出し、新しい洗浄液と交換する必要がある。デカンターから抜き出した残留物、循環から抜き出した化石ディーゼルオイルは廃棄処理しなければならない。前記処理は、煩雑であり、工程の費用を高くする。この錯体反応は温度に依存する。蒸気ストリッピングによる洗浄剤の再生を経済的に行うことを可能とするために必要な120℃より高い高温においては、プロセスをもはや操業できなくなる程に粘着性の残留物の発生量が多くなる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】O.Grosskinsky、”Handbuch des Kokereiwesens”、2巻、1958年版、137ページ
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このような背景を前に、本発明は、BTX−洗浄の枠内におけるコークス炉ガスからの芳香族炭化水素の吸収を改善するという課題に基づく。特に、使用する洗浄液は、簡便に取り扱うことができ、かつ高温下での水蒸気によるストリッピングによって問題なく再生できるべきである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
冒頭に記載の特徴を有する方法から出発して、上記の課題は、洗浄剤としてバイオディーゼルを使用することによって本発明により解決される。本発明の範囲において、「バイオディーゼル」という用語は、化石ディーゼルオイルと反対に、化石原油からではなく、植物油から得られる有機燃料を指す。
【発明の効果】
【0008】
バイオディーゼルの主成分は、脂肪酸メチルエステル(FAME)である。バイオディーゼルは植物油のエステル交換により得られ、安価に大量に手に入れることができる。化石油及び化石燃料と比較すると、バイオディーゼルは硫黄を殆ど含有せず、また、さらなる有害物質も僅かしか含まない点で際立っている。驚くべきことに、バイオディーゼルは、芳香族炭化水素の吸収の後、高温、特に150℃を超える温度において、過熱された水蒸気によるストリッピングによって問題なく再生でき、そして化石ディーゼルオイルを使用した場合とは異なり、粘着性のあるゴム状の物質の沈殿物を生じないことが確認された。さらに、バイオディーゼルはその大部分が生分解可能であり、向上したCO収支も有する。バイオディーゼルは、環境に対するそれのより小さいリスクの故に、問題なく輸送及び貯蔵することができ、この際、既知のコールタールの洗浄オイルと比較して、BTX−洗浄のための洗浄液としてのバイオディーゼルの交換の際の廃棄処理のコストも減少する。
【発明を実施するための形態】
【0009】
バイオディーゼルの組成並びに化学的特性及び物理的特性は、例えば、規格DIN EN14214(2003年11月)及びASTM D 6751−07Aに記載されている。前記の規格は、燃料としてのバイオディーゼルの使用に関する。このような背景において、芳香族炭化水素の吸収のための洗浄液としての使用のためには、規格化されたタイプのバイオディーゼルの他に、上記の規格から或る程度外れた種のバイオディーゼルも使用することができる。
【0010】
バイオディーゼルは、特にBTX洗浄の実施のために求められる低い温度において、ベンゼン、トルエン及びキシレンに関する非常に良好な吸収挙動に優れる。コークス炉ガスをガス洗浄装置中でバイオディーゼルと接触させ、その際、コークス炉ガスからの芳香族炭化水素はバイオディーゼル中に吸収される。バイオディーゼルは合目的的には洗浄装置の上側に加えられ、コークス炉ガスに対して向流で洗浄装置を貫流させる。芳香族炭化水素が富化したバイオディーゼルは、洗浄装置の下部領域において抜き取られる。本発明の範囲において、バイオディーゼルは、通常10℃〜50℃、好ましくは20℃〜40℃、特に好ましくは約30℃の温度で、洗浄装置に加えられる。洗浄液による粗ベンゼンの洗浄分離は、気相及び液相へのBTX成分の物質量の分布、それ故それらの吸収が平衡状態から与えられる物理的なプロセスである。その相平衡関係については、簡略的に次式が当てはまる。
【数1】
【0011】
ここで、y及びxは、気相又は液相における観察する成分iのモル分率を示し、pはシステムの圧力を示す。蒸気圧pLV0iは、観察する成分iの物質の性質であり、温度に依存する。理想挙動とのずれを表現できるようにするために、気相においては、通常ごく僅かだけ1から外れるフガシティー係数
を使用し、そして、液相においては活量係数γを使用する。活量係数γは、異なる分子の相互の挙動を標準的に示し、それゆえ、また液体中の組成物及び温度の関数である量である。最大限の効果的な吸収を保証するためには、γの値は1近辺か、1より小さいことが望ましい。なぜならば、これは、理想挙動と比較して吸収能の増加に相当するからである。驚くべきことに、洗浄液としてのバイオディーゼルでは、特に約30℃の低い温度において従来のタール油ベースの洗浄オイルよりも低い活量係数、それゆえ、明らかに改善された吸収能が観察された。それゆえ、タール油留分をベースとした化石洗浄オイルを使用した従来のBTX−洗浄と比較して、洗浄液循環において供給するべき洗浄液量を減少させ、ランニングコストを減少することができる。さらに、また、より高い吸収能により粗ベンゼンをコークス炉ガスからより高い割合で洗浄分離することもできる。
【0012】
相平衡に加えて、洗浄液を使用するコークス炉ガスからの芳香族炭化水素の吸収にとって決定的に重要なのは、洗浄液の密度、比熱容量及び粘度である。ここで、バイオディーゼルは、既知の化石洗浄オイルと比較してより高い熱容量を有する。洗浄装置における洗浄液の加熱により吸収能の減少が生じることから、バイオディーゼルに利点がある。通常、バイオディーゼルの密度は、洗浄オイルの密度よりも小さい一方で、粘度については概ね両者で一致する。
【0013】
再生にあたり、芳香族炭化水素が富化したバイオディーゼルは、100℃〜250℃の温度に熱せられる。前記の温度範囲は、ベンゼン、トルエン及びキシレン類の沸点よりも高く、そのため、これらが洗浄液から放出される。水蒸気による粗ベンゼンの留去が特に効果的であることが証明された。前記の温度範囲においては、顕著なバイオディーゼルの蒸発も、分解も観察されない。バイオディーゼルの熱分解及び沸騰は、正確な組成に依存するが、300℃を超える温度において初めて生ずる。
【0014】
吸収された芳香族炭化水素の留去のためには、バイオディーゼルを、150℃よりも高い温度を有する過熱された水蒸気によりストリッピングすることが好ましい。ストリッピング温度は約180℃又はそれ以上であることが特に好ましい。また、驚くべきことに、高いストリッピング温度においても、コークス炉ガス中に含有される不純物の共作用下での重合反応に起因し得る、物質の沈殿が観察されないであろう。実験において、バイオディーゼルは200℃の温度に熱せられ、そして、コークス炉ガスに含有される組成に相当する粗ベンゼンBTX、すなわち、ベンゼン、トルエン及びキシレンで、並びに化石ディーゼルオイル中において共重合反応による沈殿物の形成を促すHSで富化された。化石ディーゼルオイルとの比較実験においては球状の粒子が形成され、それが容器の底に沈殿したのに対して、バイオディールを使用した場合、沈殿物は全く観察されなかった。
【0015】
バイオディーゼルは植物油から得られる。典型的な原料は、土地々の状況に応じて、例えば、ナタネ油、ヤシ油、ひまわり油、及び大豆油などであり、これらから対応するメチルエステルが形成される。本発明の範囲において、ナタネ油メチルエステル(RME)が格別に適している。これは、温暖な気候において大量生産が可能であり、商業的に入手可能である。
【実施例】
【0016】
本発明は、以下に例示的な実施例に基づき説明される。バイオディーゼルと従来の洗浄オイルをBTX−洗浄における洗浄液として比較するために、コールタールとナタネ油メチルエステル(RME)の特性を比較した。表1は、各々30℃におけるBTX組成についての活量係数γに加えて、洗浄オイル及びRMEの熱容量cをJ/gK(グラムケルビン当たりのジュール)及び密度をkg/l(リッター当たりのキログラム)で示す。
【0017】
【表1】
【0018】
ベンゼン、トルエン及びキシレンについては、RMEにおいて洗浄オイルよりもより低い活量係数、それゆえ、30℃においてより良好な吸収能が観察される。温度が高くなるにつれ、活量係数の値は1に近似し、この際、RMEは従来の洗浄オイルよりも常に良好な吸収能を示す。さらに、より有利なことに、RMEは、コールタール洗浄オイルよりもより高い熱容量及びより低い密度を有する。新鮮なRMEが洗浄オイルよりもより低い粘度を有する一方で、粘度の値は、洗浄液を循環して使用し、及び加熱によって溶解した芳香族炭化水素を繰り返し留去するうちに互いに近づいてくる。また、ナタネ油メチルエステルは十分な耐温度性も有する。BTX洗浄のための循環においては、熱い水蒸気によって芳香族化合物を留去する時に最高温度に達する。235℃の温度の蒸気の供給の際に、バイオディーゼルの分解が生じることはない。さらに、蒸発による損失も、洗浄オイルと比較して、無視できるほど僅かである。RMEを長く使用し続けると、ただバイオディーゼルの色が多少薄くなることが観察されるが、これは、僅かな割合の低沸点成分の消失に起因し得るものである。綿状沈殿(Ausflockung)や汚物の堆積(Verschlammen)は観察されず、従って、コークス炉ガスからの芳香族炭化水素の吸収のための長期間使用に、バイオディーゼルは適している。