特許第5762754号(P5762754)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許5762754-車両用圧縮空気供給装置 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5762754
(24)【登録日】2015年6月19日
(45)【発行日】2015年8月12日
(54)【発明の名称】車両用圧縮空気供給装置
(51)【国際特許分類】
   B60T 17/00 20060101AFI20150723BHJP
   B01D 53/26 20060101ALI20150723BHJP
【FI】
   B60T17/00 B
   B01D53/26 100
【請求項の数】3
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2011-681(P2011-681)
(22)【出願日】2011年1月5日
(65)【公開番号】特開2012-140107(P2012-140107A)
(43)【公開日】2012年7月26日
【審査請求日】2013年10月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】510063502
【氏名又は名称】ナブテスコオートモーティブ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001081
【氏名又は名称】特許業務法人クシブチ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】長谷部 裕樹
(72)【発明者】
【氏名】湊 一郎
【審査官】 莊司 英史
(56)【参考文献】
【文献】 実公平04−004933(JP,Y2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60T 17/00
B01D 53/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載される空気圧縮機と、この空気圧縮機から吐出される圧縮空気に含まれる水分等の異物を除去するエアードライヤーとを備え、このエアードライヤーを通過した圧縮空気を車両の負荷に供給する車両用圧縮空気供給装置において、
前記エアードライヤーの乾燥剤を所定のタイミングで再生する再生手段と、前記車両の車速を検出する車速検出手段と、検出した車速が所定の基準速度よりも遅い場合に、前記所定のタイミングに関わらず、前記乾燥剤の再生を禁止する再生禁止手段とを備え、
前記乾燥剤の下流に設けられる湿度センサーを備え、この湿度センサーにより検知された湿度レベルが、予め設定された閾値以上の湿度レベルを示す場合、前記乾燥剤の再生が禁止されていても、当該乾燥剤の再生を強制的に実行することを特徴とする車両用圧縮空気供給装置。
【請求項2】
車両に搭載される空気圧縮機と、この空気圧縮機から吐出される圧縮空気に含まれる水分等の異物を除去するエアードライヤーとを備え、このエアードライヤーを通過した圧縮空気を車両の負荷に供給する車両用圧縮空気供給装置において、
前記エアードライヤーの乾燥剤を所定のタイミングで再生する再生手段と、前記車両の車速を検出する車速検出手段と、検出した車速が所定の基準速度よりも遅い場合に、前記所定のタイミングに関わらず、前記乾燥剤の再生を禁止する再生禁止手段とを備え、
前記乾燥剤の下流に設けられる湿度センサーを備え、この湿度センサーにより検知された湿度レベルが、予め設定された閾値以上の湿度レベルを示す場合、前記乾燥剤の再生禁止が解除されるまで、当該乾燥剤の再生を待機することを特徴とする車両用圧縮空気供給装置。
【請求項3】
前記再生手段は、前記エアードライヤーに設けられる排気バルブと、この排気バルブに、制御ラインを介して、制御用の空気圧を与える再生電磁弁と、この再生電磁弁を前記所定のタイミングで開弁することで前記排気バルブに前記空気圧を与えて当該排気バルブを開放し、前記エアードライヤーにおける乾燥剤の再生制御を行う再生制御手段とを備えることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の車両用圧縮空気供給装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に装備されたエアブレーキ装置やエアサスペンション装置等に圧縮空気を供給する車両用圧縮空気供給装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、トラックやバス等の大型車両では、圧縮空気を作動流体として使用するエアー式のブレーキ装置やサスペンション装置が採用され、これら各装置に圧縮空気を供給する車両用圧縮空気供給装置が搭載されている。この車両用圧縮空気供給装置は、圧縮空気を吐出する空気圧縮機と、この空気圧縮機が吐出した圧縮空気から水分等の異物を除去するエアードライヤーと、このエアードライヤーを通過した圧縮空気を貯えるエアータンクとを備え、このエアータンク内の圧縮空気を必要に応じて、ブレーキ装置やサスペンション装置に供給している。
この種の車両用圧縮空気供給装置では、空気圧縮機とエアータンクとの間のアンロード配管にプレッシャガバナを備えたものが知られており、このプレッシャガバナは、エアータンク内の空気圧が所定の範囲となるように空気圧縮機の運転をロードまたはアンロードに切り替えるとともに、空気圧縮機のアンロード中に、エアードライヤーの排気バルブを開弁して当該エアードライヤー内の乾燥剤の再生を行うようになっている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−213764号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、エアードライヤーは、空気圧縮機から吐出された圧縮空気中の水分や油分を内部に捕捉し、乾燥剤の再生をする場合には、排気バルブを開弁することにより、排気バルブを通じて圧縮空気とともに油を含んだドレン水が排出される。
しかし、従来の構成では、乾燥剤の再生動作は、空気圧縮機がアンロード中、すなわち、エアータンク内の空気圧が上限の規定値に達した場合に、プレッシャガバナから排気バルブを開弁する空気圧信号が出力されることで実行されていた。このため、例えば、食品工場や精密部品工場のように、衛生管理上ドレン水の排出を好まない場所であっても、条件が整えば再生動作が実行されていたため、このようなドレン水の排出を好まない場所での乾燥剤の再生を控えることが望まれていた。
そこで、本発明は、乾燥剤の再生動作のタイミングを簡単に制御できる車両用圧縮空気供給装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するため、本発明は、車両に搭載される空気圧縮機と、この空気圧縮機から吐出される圧縮空気に含まれる水分等の異物を除去するエアードライヤーとを備え、このエアードライヤーを通過した圧縮空気を車両の負荷に供給する車両用圧縮空気供給装置において、前記エアードライヤーの乾燥剤を所定のタイミングで再生する再生手段と、前記車両の車速を検出する車速検出手段と、検出した車速が所定の基準速度よりも遅い場合に、前記所定のタイミングに関わらず、前記乾燥剤の再生を禁止する再生禁止手段とを備え、前記乾燥剤の下流に設けられる湿度センサーを備え、この湿度センサーにより検知された湿度レベルが、予め設定された閾値以上の湿度レベルを示す場合、前記乾燥剤の再生禁止が解除されるまで、当該乾燥剤の再生を待機することを特徴とする。
また、本発明は、車両に搭載される空気圧縮機と、この空気圧縮機から吐出される圧縮空気に含まれる水分等の異物を除去するエアードライヤーとを備え、このエアードライヤーを通過した圧縮空気を車両の負荷に供給する車両用圧縮空気供給装置において、
前記エアードライヤーの乾燥剤を所定のタイミングで再生する再生手段と、前記車両の車速を検出する車速検出手段と、検出した車速が所定の基準速度よりも遅い場合に、前記所定のタイミングに関わらず、前記乾燥剤の再生を禁止する再生禁止手段とを備え、
前記乾燥剤の下流に設けられる湿度センサーを備え、この湿度センサーにより検知された湿度レベルが、予め設定された閾値以上の湿度レベルを示す場合、前記乾燥剤の再生禁止が解除されるまで、当該乾燥剤の再生を待機することを特徴とする。
【0006】
この構成において、前記再生手段は、前記エアードライヤーに設けられる排気バルブと、この排気バルブに、制御ラインを介して、制御用の空気圧を与える再生電磁弁と、この再生電磁弁を前記所定のタイミングで開弁することで前記排気バルブに前記空気圧を与えて当該排気バルブを開放し、前記エアードライヤーにおける乾燥剤の再生制御を行う再生制御手段とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、検出した車速が所定の基準速度よりも遅い場合に、所定のタイミングに関わらず、乾燥剤の再生を禁止する再生禁止手段を備えるため、乾燥剤の再生動作のタイミングを車速に基づいて簡単に制御することができ、例えば、工場敷地内のように、走行速度が制限されるとともにドレン水の排出を好まない場所での再生動作を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本実施の形態に係る圧縮空気供給システムの構成を示す図である。
図2】再生禁止の動作手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
図1は、本発明を適用した実施の形態に係る圧縮空気供給システム1の構成を示す図である。
図1に示す圧縮空気供給システム1(車両用圧縮空気供給装置)は、例えば、トラックやバス等の大型車両に搭載されるエアー式ブレーキ装置等に駆動用の圧縮空気を供給する装置であり、コンプレッサー4(空気圧縮機)と、コンプレッサー4を制御するECU(再生制御手段)2と、コンプレッサー4から吐出された圧縮空気の水分を除去して、上記車両の負荷(例えばブレーキ装置)に乾燥した圧縮空気を供給するエアードライヤーモジュール10とを備えて構成される。
ECU2は、CAN(Controller Area Network)3を通じて、圧縮空気供給システム1を搭載する車両のエンジン5や車速検出器(車速検出手段)6等の各装置と通信可能に接続されており、このCAN3を通じて、当該車両の情報を取得して各装置の動作を制御する。具体的には、ECU2は、車両の車速に関する情報、車両の走行距離に関する情報等の車両の走行状況に関する情報及び後述するエアードライヤー32の動作状況に関する情報が入力され、これら入力される情報に基づいて、車両のエンジンを制御するとともに、コンプレッサー4及びエアードライヤーモジュール10の動作を制御する。なお、符号7は、寒冷期などにエアードライヤーモジュール10内で水分が凍結しないように温めるヒーターである。
【0010】
エアードライヤーモジュール10は、負荷51が接続される出力ポート21、負荷52が接続される出力ポート22、負荷53が接続される出力ポート23、負荷54が接続される出力ポート24、及び、負荷55が接続される出力ポート25を備えている。
負荷51〜53は、上記したブレーキ装置を構成するものであり、本実施形態では、負荷51は前輪の主ブレーキ(サービスブレーキ)、負荷52は後輪の主ブレーキ(サービスブレーキ)、負荷53はパーキングブレーキである。また、負荷54,55は、ホーンやクラッチ駆動機構等の圧縮空気で駆動されるアクセサリー類である。
また、負荷51〜55は、圧縮空気が流れる圧縮空気回路(サービスブレーキ回路、パーキングブレーキ回路)51a〜55aを備え、これら圧縮空気回路51a〜55aにはそれぞれエアータンク51b〜55bが接続されている。
【0011】
エアードライヤーモジュール10は、ECU2の制御によって開閉される圧力制御電磁弁101、再生電磁弁102と、エアードライヤーモジュール10の各部における空気圧を検出して、検出値をECU2に出力する圧力センサー121,122,123と、エアードライヤーモジュール10内のエアードライヤー32よりも下流側で圧縮空気の相対湿度を検出して、検出値をECU2に出力する湿度センサー124とを備える。この湿度センサー124の検出値には温度情報が含まれる。ECU2は、圧力センサー121〜123の検出値に基づいて、圧力制御電磁弁101及び再生電磁弁102を開閉させるとともに、湿度センサー124の検出値に基づいて、再生電磁弁102を開閉させる。
【0012】
コンプレッサー4は、図示しない補機ベルトを介してエンジン5に連結され、エンジン5の駆動力によって空気を圧縮する。コンプレッサー4には、制御ライン26を介して、上記した圧力制御電磁弁101が接続される。この圧力制御電磁弁101は、例えば、圧力センサー123の検出値が所定の圧力範囲となるように、コンプレッサー4が空気を圧縮するロード状態と、圧縮を行わないアンロード状態とに切り替えるものであり、圧力センサー123の検出値に応じて開閉することによりコンプレッサー4の動作が制御される。
【0013】
コンプレッサー4の吐出管(吐出ライン)11はエアードライヤーモジュール10の流入管31に接続され、流入管31にはエアードライヤー32が接続されている。エアードライヤー32は、ケース内に乾燥剤を収容しており、この乾燥剤によってコンプレッサー4から吐出された圧縮空気に含まれる水分等の異物を除去する。
コンプレッサー4とエアードライヤー32との間には、流入管31から分岐した分岐管31Aが接続され、この分岐管31Aには、排気バルブ33と排気口34とが直列に接続されている。この排気バルブ33が開くとエアードライヤー32の本体内の圧縮空気が排気口34から直接外部へ排出される。排気バルブ33は空気圧で制御され、その制御ライン39には上記した再生電磁弁102が接続されている。この再生電磁弁102は、エアードライヤー32の乾燥剤の再生動作を制御するための電磁弁であり、ECU2の制御により開閉され、開弁状態においてエアードライヤー32下流側の空気圧を排気バルブ33に与える。この排気バルブ33は通常時は閉鎖され、再生電磁弁102から空気圧が加わった場合のみ開弁して、圧縮空気を排気口34から放出する。
【0014】
ここで、エアードライヤーモジュール10内の空気圧が十分に高い状態で、排気バルブ33が開弁すると、エアードライヤー32よりも下流側(例えば、供給路35やエアータンク55a内)に貯留された圧縮空気がエアードライヤー32のケース内を逆流して排気口34から放出される。このときケースを通る空気は急速な減圧によってスーパードライとなり、ケース内の乾燥剤から水分を奪うので、乾燥剤が再生される。再生後の乾燥剤は、水分を吸着する吸着能が回復しており、圧縮空気の水分を除去可能となっている。この再生動作は、ECU2によって再生電磁弁102を開弁させることで、予め設定された時間毎、或いは、エアードライヤーモジュール10内の空気圧等が予め設定された条件を満たした場合等の所定の再生タイミング(所定のタイミング)で実行される。本実施形態では、ECU2と再生電磁弁102と排気バルブ33とが再生手段として機能する。
【0015】
また、コンプレッサー4とエアードライヤー32との間には、流入管31から分岐した別の分岐管31Bが接続され、この分岐管31Bは空圧供給バルブ36を介して、供給ポート28に接続されている。この空圧供給バルブ36は手動で開閉操作する操作スイッチ36Aを備え、この操作スイッチ36Aを押すと、空圧供給バルブ36が開弁して圧縮空気を供給ポート28から放出する。この供給ポート28には、例えば、自動車のタイヤのバルブ(空気供給口)に接続可能に構成されており、操作スイッチ36Aを操作することにより、タイヤに空気を補給することができる。また、エアードライヤー32の下流側で、供給路35から分岐した分岐管35Aには、安全弁37が設けられている。この安全弁37は、供給路35内やエアータンク51b〜55b内の空気圧力が異常上昇した際に開放されて圧力を外部に逃がすための弁である。
【0016】
エアードライヤー32より下流の供給路35には分岐室38が接続され、この分岐室38には、3つの供給路40、41、42が接続されている。供給路40には減圧弁43が設けられ、この減圧弁43の下流で供給路40が2つの供給路40A,40Bに分岐され、各供給路40A,40Bは、それぞれサービスブレーキ用圧力保護弁44,45を介して、各出力ポート21,22に接続されている。また、分岐室38に接続される別の供給路41には、減圧弁46と圧力保護弁47とが設けられ、この圧力保護弁47の下流で2つの供給路41A,41Bに分岐され、各供給路41A,41Bは、それぞれパーキングブレーキ用圧力保護弁48、アクセサリー用圧力保護弁49を介して、各出力ポート23,24に接続されている。更に、分岐室38に接続される別の供給路42は出力ポート25に接続されている。
サービスブレーキ用圧力保護弁44,45は、絞り及びチェック弁と並列に配置されている。これらサービスブレーキ用圧力保護弁44,45、パーキングブレーキ用圧力保護弁48、及び、アクセサリー用圧力保護弁49は、それぞれ対応する出力ポート21〜24に接続された負荷51〜54において、圧縮空気が流れる圧縮空気回路51a〜54aが失陥、すなわち当該回路での空気圧力が所定の閉弁圧力値を下回った際に閉鎖する。また、サービスブレーキ用圧力保護弁44,45、パーキングブレーキ用圧力保護弁48、及び、アクセサリー用圧力保護弁49は、各圧力保護弁が設けられた供給路内の空気圧力が所定の開弁圧力値を上回った際に開放されるように構成されている。
【0017】
また、分岐室38に接続される供給路42と、パーキングブレーキ用圧力保護弁48の下流側の供給路41Aとの間には、これら各供給路42,41Aを連通するブリードバック通路60が設けられている。このブリードバック通路60は、供給路42(すなわち分岐室38)から出力ポート23への空気の流れを阻止する逆止弁61を備えている。この逆止弁61は、供給路41A内の空気圧力が供給路42内の空気圧力よりも低下した際に開放され、供給路41A内(例えば、パーキングブレーキ用のエアータンク53b)の圧力を逃がすように機能する。
【0018】
圧力センサー123は供給路35の空気圧を検出し、圧力センサー121は一方のサービスブレーキ用圧力保護弁44の下流側、すなわち出力ポート21の空気圧を検出し、圧力センサー122は他方のサービスブレーキ用圧力保護弁45の下流側である出力ポート22の空気圧を検出する。これらの検出値は各圧力センサー121〜123からECU2へ随時出力される。また、湿度センサー124は、供給路35の相対湿度を検出し、この検出値がECU2へ随時出力される。
【0019】
負荷53に相当する上記車両のパーキングブレーキ装置は、空気圧により制動力が解除されて走行可能となる。具体的には、上記パーキングブレーキは駐車時にスプリングの力でブレーキシューを拡げて制動力を発揮し、解除時にはエアードライヤーモジュール10から供給される空気圧によりスプリングの力に抗してブレーキシューを閉じる構成となっている。
このため、パーキングブレーキ装置は、エアータンク53b内に圧縮空気が十分に満たされている場合には、この空気圧力によってパーキングブレーキを解除することができる。一方、パーキングブレーキに対応する圧縮空気回路53aが失陥した場合には、パーキングブレーキ用圧力保護弁48が閉弁されることにより、圧縮空気回路53aへの圧縮空気の供給が断たれるため、パーキングブレーキは解除不能となる。
【0020】
ここで、パーキングブレーキ装置は、安全面から主ブレーキ装置が使用可能時に解除できることが前提であり、主ブレーキ装置に対応するエアータンク51b,52bの空気圧が十分でない場合はパーキングブレーキを解除しない方が好ましい。
このため、初期状態(例えば、新車時、車検時等でエアータンク51b,52b内の圧力が十分でない場合)には、エアータンク51b,52b内の空気圧が十分となるまで、パーキングブレーキに対応する圧縮空気回路53aに圧縮空気の供給を遮断する必要がある。本構成では、分岐室38に接続される供給路41に圧力保護弁47を設け、この圧力保護弁47の開弁圧力設定値を、上記したサービスブレーキ用圧力保護弁45,46の開弁圧力設定値よりも高く設定しておくことにより、主ブレーキ装置のエアータンク51b,52b内の空気圧が十分となる前に、パーキングブレーキ装置のエアータンク53bに圧縮空気が供給されることを防止できる。
更に、本構成では、ブリードバック通路60を設けることにより、主ブレーキ装置に対応する圧縮空気回路51a,52aが失陥した際に、パーキングブレーキを解除不能としている。具体的には、圧縮空気回路51a,52aが失陥した場合、供給路42内の空気圧が低下するため、ブリードバック通路60の逆止弁61が開放されて、エアータンク53b内の空気がブリードバック通路60を通じて放出される。更に、エアータンク53b内の空気圧の低下に伴い、パーキングブレーキ用圧力保護弁48が閉弁される。これにより、圧縮空気回路53aへの圧縮空気の供給が断たれ、パーキングブレーキは解除不能となる。
また、圧力保護弁47は、上記したサービスブレーキ用圧力保護弁44,45、パーキングブレーキ用圧力保護弁48、及び、アクセサリー用圧力保護弁49と同一構造に構成されている。これにより、各圧力保護弁を共通化することができるため、部品の共通化を図ることができるとともに、従来の制御弁のように、サービスブレーキ回路の検出圧力によって制御されるソレノイドバルブや、このソレノイドバルブから指令圧を出力するラインが不要となり、装置構成の簡素化を実現することができる。
【0021】
ところで、上述のように、ECU2は、所定の再生タイミングで再生電磁弁102を開弁させることにより、この再生電磁弁102を通じて排気バルブ33に制御用の空気圧を与え、この排気バルブ33を開弁することでエアードライヤー32の乾燥剤の再生を行っている。ここで、乾燥剤を再生する際に、排気バルブ33を通じて油分を含んだドレン水が排出されるため、例えば、食品工場や精密部品工場の敷地内のように、衛生管理上ドレン水の排出を好まない場所では、乾燥剤の再生を控えることが望ましい。
工場敷地内では、通常、車両の走行速度が低速に制限される。このため、本実施形態では、ECU2は、車速検出器6で検出された車速情報をCAN3を通じて取得し、この車速情報を所定の基準速度(例えば20km/h)と比較し、この基準速度よりも遅い状態が所定時間継続した場合には、ECU2は、車両が工場敷地内を走行、もしくは、工場敷地内で停止していると推定し、この状態が継続している間の再生動作を禁止する。本実施形態では、ECU2が再生禁止制御手段として機能する。また、基準速度及び所定時間は、不図示の不揮発性記憶手段(例えば、EEPROM)に記憶されており、車種等に応じて書き換えが可能に構成されている。
一方、再生を長時間にわたり禁止すると、エアードライヤー32の乾燥剤の吸着能が次第に低下するため、供給路35及びエアータンク51b〜55b内の圧縮空気の相対湿度が上昇し、エアードライヤー32よりも下流の機器に悪影響(例えば、腐食促進やドレン凍結による作動不能等)を生じることになる。このため、ECU2は、再生動作を禁止している状態であっても、湿度センサー124の検出値が、供給路35もしくはエアータンク51b〜55b内で結露が生じうる基準値を超えた場合には、再生電磁弁102を開弁して乾燥剤の再生動作を強制的に実行する。この場合、ECU2は強制再生手段として機能する。
【0022】
また、工場敷地の外を走行中であっても、例えば、道路の渋滞等により、車速が基準速度よりも遅い状態が所定時間継続することが想定される。この場合に、車速が基準速度よりも遅いことをもって一様に乾燥剤の再生を禁止すると、乾燥剤の吸着能が低下することとなる。このため、本実施形態では、ECU2には、運転手が手動で操作できるスイッチ8が接続されており、このスイッチ8がオン状態であり、かつ、車速が基準速度よりも遅い状態が所定時間継続した場合に、ECU2が乾燥剤の再生を禁止する構成としても良い。このスイッチ8は、運転席の近くに設けられ、道路状況に応じて操作することにより、適切な再生動作を行うことができる。
また、上記したスイッチ8の他にも自車両の位置情報と車速情報とから再生を禁止するか否かを決定することもできる。例えば、CAN3に接続されたナビゲーション装置(不図示)の地図情報に予め工場敷地等の再生禁止区域を設定しておき、当該ナビゲーション装置のGPS(Global Positioning System)等により取得された自車両位置が上記した再生禁止区域内にあり、かつ、車速が基準速度よりも遅い状態が所定時間継続した場合に、ECU2が乾燥剤の再生を禁止する構成としても良い。この場合、再生禁止区域は、地図情報上に当該区域の境界を示す複数の座標を指定し、これら各座標で囲まれた区域として設定される。なお、GPS等により取得される自車両の位置情報の精度が向上すれば、この自車両の位置情報単独で再生禁止区域内外を判断し、乾燥剤の再生を制限することも可能である。
【0023】
次に、図2を参照して、ECU2による乾燥剤の再生処理について説明する。
まず、ECU2は、コンプレッサー4がアンロード状態であるか否かを判別する(ステップS1)。コンプレッサー4がロード状態に乾燥剤の再生を行うと、圧縮空気量が不足する恐れがあるためである。この判別において、コンプレッサー4がアンロード状態でなければ(ステップS1;No)、処理を終了し、アンロード状態であれば(ステップS1;Yes)、ECU2は、予め設定された再生タイミングが到来したか否かを判定する(ステップS2)。
この判別において、現在、再生タイミングではない場合(ステップS2;No)には、処理を終了し、再生タイミングである場合(ステップS2;Yes)には、ECU2は、車速検出器6の検出した車速が所定の基準速度(例えば20km/h)よりも遅いか否かを判別する(ステップS3)。この判別において、チャタリングを防止するために、ECU2は、車速が基準速度よりも遅い状態が所定時間継続した場合に、基準速度よりも遅いと判別するのが望ましい。また、車速が基準速度よりも早い状態が所定時間継続した場合に、基準速度よりも早いと判別するのが望ましい。
【0024】
そして、この判別において、車速が基準速度よりも早い場合(ステップS3;No)には、処理を終了し、車速が基準速度よりも遅い場合(ステップS3;Yes)には、ECU2は、スイッチ8がオンであるか否かを判別する(ステップS4)。このスイッチ8は、車速に基づいて再生処理を禁止するか否かを選択するスイッチであり、例えば、単に道路が渋滞しているために車速が遅い場合には、これに伴い再生処理が禁止されずに通常の再生処理が実行される。
この判別において、スイッチ8がオンでなければ(ステップS4;No)、ECU2は、再生タイミングに従って通常の乾燥剤の再生処理を行う(ステップS5)。これによれば、走行状態を加味した再生処理の制御が実行できる。
また、スイッチ8がオンであれば(ステップS4;Yes)、ECU2は、再生タイミングに関わらず、乾燥剤の再生処理を禁止する(ステップS6)。この構成によれば、乾燥剤の再生動作のタイミングを車速に基づいて簡単に制御することができ、例えば、工場敷地内のように、走行速度が制限されるとともにドレン水の排出を好まない場所での再生動作を抑制することができる。
【0025】
続いて、ECU2は、湿度センサー124の検出した湿度レベルが予め設定された閾値レベル以上か否かを判別する(ステップS7)。ここで、閾値レベルは、このまま運転を継続すると供給路35もしくはエアータンク51b〜55b内で結露が生じる可能性が高く、高湿度異常となる湿度レベルに基づいて予め設定される。
【0026】
圧縮空気の湿度レベルが所定の閾値レベルに満たないと判別された場合(ステップS7;No)、処理を終了し、圧縮空気の湿度レベル以上であると判別した場合(ステップS7;Yes)には、ECU2は、再生電磁弁102に開弁信号を出力することで排気バルブ33を開放し、乾燥剤の再生処理を強制的に実行(ステップS8)し、処理を終了する。これによれば、供給路35もしくはエアータンク51b〜55b内の高湿度の圧縮空気が排出されるとともに、再生された乾燥剤を通じて水分が除去された圧縮空気が供給路35に流入することにより、エアードライヤー32の下流にある各機器を正常に作動させることができる。
【0027】
以上、説明したように、本実施形態によれば、車両に搭載されるコンプレッサー4と、このコンプレッサー4から吐出される圧縮空気に含まれる水分等の異物を除去するエアードライヤー32とを備え、このエアードライヤー32を通過した圧縮空気を車両のブレーキ装置に供給する圧縮空気供給システム1において、エアードライヤー32の乾燥剤を所定のタイミングで再生する再生手段と、車両の車速を検出する車速検出器6とを備え、検出した車速が所定の基準速度よりも遅い場合に、所定のタイミングに関わらず、ECU2は、乾燥剤の再生を禁止するため、乾燥剤の再生動作のタイミングを車速に基づいて簡単に制御することができ、例えば、工場敷地内のように、走行速度が制限されるとともにドレン水の排出を好まない場所での再生動作を抑制することができる。
【0028】
また、再生手段は、エアードライヤー32に設けられる排気バルブ33と、この排気バルブ33に、制御ライン26を介して、制御用の空気圧を与える再生電磁弁102とを備え、ECU2が再生電磁弁102を所定のタイミングで開弁することで排気バルブ33に空気圧を与えて当該排気バルブ33を開放し、エアードライヤー32における乾燥剤の再生制御を行うため、従来のように、プレッシャガバナからの空気圧信号を受けて再生を行うものと比較して、乾燥剤を再生するか否かの制御を容易に行うことができ、乾燥剤の再生動作のタイミングを簡単に制御することができる。
【0029】
また、本実施形態によれば、乾燥剤の下流に設けられる湿度センサー124を備え、この湿度センサー124により検知された湿度レベルが、予め設定された閾値以上の湿度レベルを示す場合、乾燥剤の再生が禁止されていても、ECU2が当該乾燥剤の再生を強制的に実行するため、供給路35もしくはエアータンク51b〜55b内の高湿度の圧縮空気が排出されるとともに、再生された乾燥剤を通じて水分が除去された圧縮空気が供給路35に流入することにより、湿度レベルが、予め設定された閾値以上となる状態を解消し、エアードライヤー32の下流にある各機器を正常に作動させることができる。
【0030】
上述した実施の形態は、本発明を適用した一態様を示すものであって、本発明は上記実施の形態に限定されない。例えば、本実施形態では、湿度レベルが、予め設定された閾値以上の湿度レベルを示す場合、乾燥剤の再生が禁止されていても、ECU2が当該乾燥剤の再生を強制的に実行する構成としたが、これに限るものではなく、ECU2は、当該乾燥剤の再生が禁止されている場合には、この禁止が解除(車速が基準値以上となる、スイッチ8がオンされる、もしくは、自車両の位置情報が再生禁止区域の外に出る)されるまで、再生動作を待機し、当該禁止が解除された際に再生タイミングに関わらず強制的に再生を行う構成としても良い。この構成では、工場敷地内等の再生禁止区域での再生動作が抑制されるため、工場敷地内でのドレン水の排出を防止できるとともに、禁止が解除された場合には再生タイミングに関わらず強制的に再生するため、供給路35及びエアータンク51b〜55b内の圧縮空気の相対湿度が上昇した状態が長時間継続することが回避され、エアードライヤー32よりも下流の機器への悪影響を低減することができる。
また、本発明の車両用圧縮空気供給装置の適用対象となる車両についても特に限定は無く、大型車両、小型車両、特殊車両、牽引車両、二輪車あるいは三輪車のいずれであってもよく、その規模及び形態は任意である。
【符号の説明】
【0031】
1 圧縮空気供給システム(車両用圧縮空気供給装置)
2 ECU(再生制御手段、再生禁止手段、強制再生手段)
4 コンプレッサー(空気圧縮機)
5 エンジン
6 車速検出器(車速検出手段)
8 スイッチ
10 エアードライヤーモジュール
26 制御ライン
32 エアードライヤー
33 排気バルブ
101 圧力制御電磁弁
102 再生電磁弁
121〜123 圧力センサー
124 湿度センサー
図1
図2