【実施例】
【0033】
手術中の組織および内臓の手による触診は、臨床医に、診断および手術の計画に有用な情報を提供する。今日のロボット支援型低侵襲手術システムにおいては、認知可能な触覚フィードバックの欠如が臓器内の腫瘍あるいは心臓組織の石灰化した動脈の検出を挑戦的なものにしている。この例は、自動化された組織特性の推定方法および手術医が硬い組織と柔らかい組織を区別することを許容する実時間のグラフ的重畳を提供する。我々は、最初に、経験的に人工的な組織の特性を評価し、7つの可能な数学的組織モデルと比較する。自己検証および相互検証は、Hunt-Crossleyモデルが、経験的に観察された人工組織の特性を最も良く表し、我々の目的に適していることを確かなものとしている。次に、我々は、人工組織が遠隔操作される手術ロボットを使用して触診され、Hunt-Crossleyモデルの硬さが回帰的最小自乗法によって実時間で推定されるシステムの開発を行う。実時間で重畳表示する組織の硬さは、色相−彩度−輝度表示を使用して、組織表面の半透明の円板上に生成される。色相は触診された位置の硬さを表示し、彩度はその点からの距離に基づいて算出される。単純な内挿法が、連続的な硬さのカラーマップを生成する。実験においては、グラフ的な重畳は、人工組織に隠蔽された人工的な石灰化した動脈の位置を成功裡に表示する。
【0034】
本作業において、我々は柔らかい材料中に隠蔽された硬い対象物、すなわち、心臓組織中の石灰化した動脈の位置を表示するために、実時間グラフ重畳技術を提案している。我々のアプローチは、回帰的最小自乗法(RSL)を使用して組織の機械的特性を推定し、同時に手術医の表示装置上にカラーの硬さマップを重畳することである。グラフ的な重畳は、
図3に示すように、人工の石灰化した動脈の位置を明確に表示する。他の応用例は、腫瘍の実時間検出である。
触診のために特に設計された単純な力検出器は力検出用の複雑な操作器とりも開発が容易であるので、我々の提案した技術は、従来の力フィードバックに対する代案と同じく実際的であろう。
【0035】
組織モデル
人間の生物学的組織は、非線形な特性を示し、不均一な構造を含むことが知られている。しかしながら、計算効率のために、多くの研究者は単純な線形組織モデルを仮定している。ばねモデルまたはKelvin-Voigtモデルのような古典的な線形組織モデルは一般的に使用されている(R. Corteso, J. Parkおよび O. Khatib著"Real-time adaptive control for haptic telemanipulation with kalman active observers," IEEE Transactions on Robotics, vol. 22, no. 5, pp. 987-999, 2006、R. Corteso, W. Zarrad, P. Poignet, O. CompanyおよびE.Dombre著"Haptic control design for robotic-assisted minimally invasive surgery," in IEEE International Conference on Intelligent Robots and Systems, pp. 454-459, 2006、G. De Gersem, H. V. BrusselおよびJ. V. Sloten著"Enhanced haptic sensitivity for soft tissues using teleoperation with shaped impedance reflection," in World Haptics Conference (WHC) CD-ROM Proceedings, 2005、S. MisraおよびA. M. Okamura著"Environment parameter estimation during bilateral telemanipulation," in 14
th Symposium on Haptic Interfaces for Virtual Environments and Teleoperator Systems, pp. 301-307, 2006、ならびにX. Wang, P. X. Liu, D. Wang, B. ChebbiおよびM. Meng著"Design of bilateral teleoperators for soft environments with adaptive environmental impedance estimation," in IEEE International Conference on Robotics and Automation, pp. 1127-1132, 2005)。Diolaiti等 (N. Diolaiti, C. MelchiorriおよびS. Stramigioli著 "Contact impedance estimation for robotic systems," IEEE Transactions on Robotics, vol. 21, no. 5, pp. 925-935, 2005) は、Hunt-Crossleyモデル (K. Hunt and F. Crossley, "Coefficient of restitution interpreted as damping in vibroimpact," ASME Journal of Applied Mechanics, vol. 42, no. 2, pp. 440-445, 1975)を使用していた。非線形Hunt-Crossleyモデルは、Kelvin-Voigtモデルにおいて観察される衝突の間のエネルギ損失を考慮している。有限要素モデルは優れた組織モデルを提供することができるけれども、計算的な複雑さは実時間応用を制限してきた。Misra等(S. Misra, K. T. RameshおよびA. M. Okamura著 "Modeling of tool-tissue interactions for computer-based surgical simulation: A literature review,"Presence: Teleoperators and Virtual Environments, vol. 17, no. 5, pp. 463-491, 2008)は、器具-環境干渉方法に関する文献を参照していた。
【0036】
推定法
オンライン環境パラメータ推定方法には、RLS(X. Wang, P. X. Liu, D. Wang, B. ChebbiおよびM. Meng著"Design of bilateral teleoperators for soft environments with adaptive environmental impedance estimation," in IEEE International Conference on Robotics and Automation, pp. 1127-1132, 2005、N. Diolaiti, C. MelchiorriおよびS. Stramigioli著"Contact impedance estimation for robotic systems," IEEE Transactions on Robotics, vol. 21, no. 5, pp.925-935, 2005、M. B. ColtonおよびJ. M. Hollerbach著"Identification of nonlinear passive devices for haptic simulations," in WHC '05: Proceedings of the First Joint Eurohaptics Conference and Symposium on Haptic Interfaces for Virtual Environment and Teleoperator Systems, (Washington, DC, USA), pp. 363-368, IEEE Computer Society, 2005、 J. LoveおよびW. J. Book著"Environment estimation for enhanced impedance control," in IEEE International Conference on Robotics and Automation, pp. 1854-1858, 1995)、適応同定法(S. MisraおよびA. M. Okamura著"Environment parameter estimation during bilateral telemanipulation," in 14th Symposium on Haptic Interfaces for Virtual Environments and Teleoperator Systems, pp. 301-307, 2006、K. Hashtrudi-ZaadおよびS. E. Salcudean著"Adaptive transparent impedance reflecting teleoperation," in IEEE International Conferenceon Robotics and Automation, pp. 1369-1374, 1996、H. SerajiおよびR. Colbaugh著"Force tracking in impedance control," IEEE Transactions on Robotics, vol. 16, no. 1, pp. 97-117, 1997、ならびにS. K. SinghおよびD. O. Popa著"An analysis of some fundamental problems in adaptive control of force and impedance behavior: Theory and experiments," IEEE Transactions on Robotics and Automation, vol. 11, no. 6, pp.912-921, 1995)、カルマンフィルタ法(R. Corteso, J. ParkおよびO. Khatib著 "Realtime adaptive control for haptic telemanipulation with kalman active observers," IEEE Transactions on Robotics, vol. 22, no. 5, pp. 987-999, 2006、R. Corteso, W. Zarrad, P. Poignet, O. CompanyおよびE. Dombre著"Haptic control design for robotic-assisted minimally invasive surgery," in IEEE International Conference on Intelligent Robots and Systems, pp. 454-459, 2006、ならびにG. De Gersem, H. V. BrusselおよびJ. V. Sloten著"Enhanced haptic sensitivity for soft tissues using teleoperation with shaped impedance reflection," in World Haptics Conference (WHC) CD-ROM Proceedings, 2005)、
および多重推定法(T. Yamamoto, M. Bernhardt, A. Peer, M. BussおよびA. M. Okamura著 "Multi-estimator technique for environment parameter estimation during telemanipulation," in IEEE International Conference on Biomedical Robotics and Biomechatronics, pp. 217-223, 2008)を含むいくつかの方法が存在する。Erickson等(D. Erickson, M. WeberおよびI. Sharf著"Contact stiffness and damping estimation for robotic systems," The InternationalJournal of Robotics Research, vol. 22, no. 1, pp. 41-57, 2003)は、4つの方法、RLS、間接法型適応制御、モデル規範適応制御および信号処理法をレビューし、比較している。彼らは、ロボットのような組立体操作に応用するために力追従性およびインピーダンス制御の安定性を改善するために剛性およびダンピングを推定した。彼らは、永続的励起を有する間接法型適応制御が4つの方法の中で最も良い性能であることを示した。Yamamoto等(T. Yamamoto, M. Bernhardt, A. Peer, M. BussおよびA. M. Okamura著"Multi-estimator technique for environment parameter estimation during telemanipulation," in IEEE International Conference on Biomedical Robotics and Biomechatronics, pp. 217-223, 2008)は、手術への応用のためにKelvin- Voigtモデルの未知のパラメータを推定する目的で、RLS、適応同定法および多重推定法を比較した。彼らは、オンラインでの組織パラメータ推定のために、RLSまたは多重推定法を推奨した。
【0037】
組織特性推定
ある硬い異物は超音波を使用して見出され得るし、従来の業績はダ・ヴィンチ手術システムを使用した腹腔鏡超音波データの直感的視覚化を試験してきた(Leven, D. Burschka, R. Kumar, G. Zhang, S. Blumenkranz, X. Dai, M. Awad, G. D. Hager, M. Marohn, M. Choti, C. HasserおよびR. H. Taylor著 "Davinci canvas: A telerobotic surgical system with integrated, robot-assisted, laparoscopic ultrasound capability," in Medical Image Computing and Computer- Assisted Intervention (MICCAI), pp. 811-818, 2005)。典型的には超音波を使用し、柔らかい組織中の張力分布を表示する弾性率計測法(Elastography)は、腫瘍を検出するための効果的な方法である。弾性率計測法の主たる欠点は、計算機的に高価であることである(J. Ophir, S. Alam, B. Garra, F. Kallel, E. Konofagou, T. Krouskop, C. Merritt, R. Righetti, R. Souchon, S. SrinivasanおよびT. Varghese著 "Elastography: Imaging the elastic properties of soft tissues with ultrasound," in Journal of Medical Ultrasonics, vol. 29, pp. 155-171, 2002)。腫瘍の位置決めのために特化された、いくつかの新規な装置、すなわち、触覚画像(Tactile Imaging)(P. S. Wellman, E. P. Dalton, D. Krag, K. A. KernおよびR. D. Howe著"Tactile imaging of breast masses first clinical report," Archives of Surgery, vol. 136, pp. 204-208, 2001)、触覚画像装置(A. P. Miller, W. J. Peine, J. S. SonおよびZ. T. Hammoud著"Tactile imaging system for localizing lung nodules during video assisted thoracoscopic surgery," in IEEE International Conference on Robotics and Automation, pp. 2996-3001, 2007)、PVDF-sensing grippers (J. Dargahi, S. NajarianおよびR. Ramezanifard著"Graphical display of tactile sensing data with application in minimally invasive surgery,"Canadian Journal of Electrical and Computer Engineering, vol. 32, no. 3, pp. 151 - 155, 2007)、触覚検出計測(A. L. Trejos, J. Jayender, M. T. Perri, M. D. Naish, R. V. PatelおよびR. A. Malthaner著"Experimental evaluation of robot- assisted tactile sensing for minimally invasive surgery," in IEEE International Conference on Biomedical Robotics and Biomechatronics, pp. 971-976, 2008)、およびエアクッション力検出プローブ(K. Althoefer, D. Zbyszewski, H. Liu, P. Puangmali, L. Seneviratne, B. Challacombe, P. DasguptaおよびD. Murphy著"Air-cushion force sensitive probe for soft tissue investigation during minimally invasive surgery," in IEEE Conference on Sensors, pp. 827-830, 2008)が開発されてきたが、いずれも未だRMISシステムで試験されていない。
【0038】
本例は、(1)数学的人工組織モデルの妥当性、および(2)組織の硬さを表すために実時間グラフ重畳を生成し、使用者が柔らかい物質の中の眼に見えない硬い異物を識別することを可能とするモデルおよび遠隔操作ロボットについて説明する。
【0039】
人工組織の正確な数学的モデルを選択するために、我々は実験的な器具-環境干渉データを解析し、7つの候補モデルを比較した。最小自乗法を使用する後処理によって、我々は、自己評価および相互評価における力推定誤差に基づいてモデルの正確さを評価した。正確さおよび柔らかい物質から硬い対象物を識別する硬さ項のために、Hunt-Crossleyモデルが選択された。長い間我々は不均一で複雑な実際の組織をモデル化することを目指していたので、両方の評価は数学的に近似した組織の動的挙動に対して有用である。
【0040】
我々は、また、推定された組織の特性に基づく硬さ分布を表示するオンライングラフ重畳技術を開発してきた。色相−彩度−輝度(HSL)表現は、環境画像上に半透明のカラー硬さマップを重畳するために使用される。色相は硬さ値に対応し、彩度は荷重ガウス関数によって算出される。触診された点からの距離に基づいて、我々は、周辺領域の信頼度レベルを定義し、それが彩度値に変換される。複数の信頼度レベルが同一点に重畳されたときは、連続的なカラーマップを生成するために色相が混合される。また、信頼度レベルは触診された点における確実性を増すために加算される。この手法は、新たなデータが追加されるたびに、実時間で繰り返される。結果的に、我々は、組織に対する手術医の視界を妨げること、あるいは手術的な計器を使用することなく、硬い異物の位置を表示する半透明カラー硬さマップを達成した。
【0041】
組織モデルの選択
実際の、または、人工の組織の完全な数学モデルを見出すことはほとんど不可能であるが、組織の動的挙動を近似可能なものは存在するであろう。7つの可能なモデルが考慮されるが、他のモデルも使用可能である。器具-環境干渉データに基づいて、我々はすべてのモデルを比較し、力推定誤差に基づいて精度を評価する。
【0042】
A.人工組織
人工組織心臓モデルはEcoflex 0030(AおよびB部)、シリコンシィナ、およびシリコン顔料(Smooth-on Inc., Easton, PA, USA)を24:24:12:1の割合で混合して製作される。石灰化した動脈を模擬するために、コーヒー攪拌ストロ(coffee stir straw)が人工組織中に埋め込まれる。我々の手術協力者が人工組織サンプルの現実的な選択をするために可能性のあるモデルを試験した。人工組織心臓モデルの直径および厚さはそれぞれ約60ミリメートルおよび18.5ミリメートルである。4ミリメートル径のコーヒー攪拌ストロが表面から5ミリメートルの深さに埋め込まれた。
【0043】
B.モデル候補
我々は表1の7つのモデルを比較した。
【表1】
【0044】
C.器具-環境干渉データ
我々は、まず、器具-環境干渉データを取得するために予備的な触診実験をおこなった。
図2のプラスチック円板を有する測定延長具が測定器の先端に取り付けられる。人工の石灰化した動脈の直径は4ミリメートルであり、円板は直径10ミリメートルである。大きさと円板の平面度のために、力が加えられたときは、器具は動脈を滑り過ぎることはない。この器具は、後述するように、我々のダ・ヴィンチ手術システムの患者側操作器に取り付けられている。
図2Bに示すように、人工心臓組織はNano17トランスジューサ(ATI Industrial Automation, Apex, NC, USA)上に設置されたプラスチックの基板上に置かれた。
【0045】
柔らかい組織および石灰化した動脈のそれぞれに5回の試行が行われた。試行の間、器具は上下動だけに制限され、システムはこの準備的な実験では1自由度を有していた。検証された位置は、広範囲のデータを獲得するために、試行ごとに相違していた。患者側操作器は主操作器により遠隔操作され、使用者は位置−位置制御装置(position-position controller)(M. Mahvash および A. M. Okamura著 "Enhancing transparency of a position-exchange teleoperator," in Second Joint Eurohaptics Conference and Symposium on Haptic Interfaces for Virtual Environment and Teleoperator Systems (World Haptics) , pp. 47CM75, 2007)に基づいて触覚フィードバックを受信した。器具の位置、速度および加速度ならびに人工組織に印加された力は記録された。
【0046】
D.モデルの検証
我々は各試行のデータを後処理して、未知のパラメータおよび干渉力を各モデルに対して推定した。モデルの精度を検証するために、バッチ後処理が採用された。モデル1、2および4〜7は未知のパラメータについて線形であり、線形最小自乗法が使用された。
【数1】
【0047】
(1)式においてρは既知パラメータを含む回帰ベクトル、θは未知パラメータベクトルであり、(2)式において添え字k(1≦k≦n)はサンプリング時間Tであるときのt=kTを表わす。
【数2】
【0048】
我々は、ガウス−ニュートン法による非線形最小自乗法を使用した。
ここで、以下の式を定義する。
【数3】
【0049】
k番目の繰り返しにおいて、推定されたパラメータは次式で表わされる。
【数4】
【0050】
非線形最小自乗法は閉形式解を持たず、未知のパラメータに対する初期値が必要である。我々は、θ
0が零ベクトルである場合にしばしば見られる極小値を回避するために、試行錯誤の結果θ
0を次の値とした。
【数5】
力および位置の単位は、本明細書においては、それぞれ、ニュートン、センチメートルである。繰り返し回数kは零から始まり、増分パラメータベクトルのノルムΔθが0,001未満となるまで増加する。
【0051】
1)自己評価:力推定値誤差は次式で定義される。
【数6】
【0052】
各モデルの力推定値誤差の平均および標準偏差は表1に取り纏められている。柔らかい組織および石灰化した動脈に対して5組の触診データが存在するので、平均および標準偏差は平均化された。モデルの力推定値誤差の平均および標準偏差が小さくなるほど、モデルは正確となる。したがって、モデル3、5、6および7は柔らかい組織および石灰化した動脈の双方の動特性を良く特性化するように思えるが、モデル1、2および4はそうではない。
図4は器具と環境との干渉データの例示である。
【0053】
図4Aおよび4Bは、力推定値を算出するときに質量−ダンパ−ばねモデルを使用した場合の、柔らかい組織(A)および石灰化した動脈(B)の力と時間の関係(上段)および力と変位の関係(下段)である。
【0054】
2)相互評価:自己評価の結果、我々は、各モデルに対して、1回の試行から1組の推定パラメータを獲得した。相互評価においては、これらのパラメータは、他の試行における力推定値の算出に使用された。たとえば、試行1の推定パラメータベクトルは、試行1〜5における力の算出に使用された。これは、各試行に対して実行された。したがって、各モデルに対して5
2=25の力推定値誤差が算出された。表1において、各モデルに対する力推定値誤差の平均および標準偏差は加算された。
図5は、モデル1および3に対する石灰化された動脈の試行データの1つの基づく、力の測定値と推定値の比較を示す。
【0055】
図5Aおよび5Bは、石灰化された動脈の1つの力と時間の関係(5A)および力と変位の関係(5B)である。
【0056】
3)両評価の解析:自己評価においては、多項式関数モデルの次数が高くなるほど、モデルの誤差は小さくなる。モデル1、2および6は他よりも劣っている。モデル6は、自己評価は良好であるが、相互評価は良好ではない。両方の評価試験の結果、モデル3および7の双方が石灰化された動脈を有する人工組織心臓モデルに対して適切である。しかしながら、我々の目的に対しては、モデル3がより良い選択である。柔らかい周囲の材料から硬い異物を区別するために、我々は物理的に有意な相違を識別したいと考えている。表2は、モデル3および7の推定されたパラメータの要約である。
【数7】
そこで、我々は、モデル3、すなわち、Hunt-Crossleyモデルを選択する。
【0057】
【表2】
【0058】
システム設計
A.遠隔操作システム
図6は、右側に主操作器および3次元表示装置が、左側に患者側操作器およびステレオカメラが示された特注のダ・ヴィンチ手術システムの概略図である。
【0059】
図6に示す我々の特注のダ・ヴィンチ手術システムは、3要素主操作器、3次元表示装置および患者側操作器を含んでいる。ハードウエアはIntuitive Surgical, Inc.(会社名)によって提供され、双方向遠隔操作を達成するための特注の制御システムがJohns Hopkins大学(大学名)によって開発された。遠隔操作システムおよび制御構造の詳細は、M. Mahvash,、J. Gwilliam、 R. Agarwal、 B. Vagvolgyi、 L.-M. Su、 D. D. Yuhおよび A. M. Okamura著
"Force-feedback surgical teleoperator: Controller design and palpation experiments," in 16th Symposium on Haptic Interfaces for Virtual Environments and Teleoperator Systems, pp. 465-471, 2008に記載されている。実験中使用者は位置−位置制御器に基づいて力フィードバックを受信するが、推定のために我々が必要なすべては器具−環境干渉データである。
【0060】
B.推定技術および初期段階
我々は、実時間での未知のパラメータの推定に対してRLSを適用した。RLSの高速パラメータ収束性および正確さに起因して、未知のパラメータの収束のためには1回だけの触診で十分である(T. Yamamoto、 M. Bernhardt、 A. Peer、 M. Bussおよび A. M. Okamura著 "Multi-estimator technique for environment parameter estimation during telemanipulation," in IEEE International Conference on Biomedical Robotics and Biomechatronics, pp. 217-223, 2008)。Hunt- Crossleyは非線形であるので、2つの線形推定器が使用可能となるように、未知のパラメータは分離される(N. Diolaiti、 C. Melchiorriおよび S. Stramigioli著 "Contact impedance estimation for robotic systems," IEEE Transactions on Robotics, vol. 21, no. 5, pp. 925-935, 2005)。
【数8】
両方の推定器はフィードバックを介して結合される。
【数9】
各時間ステップにおいて、パラメータは次式により更新される。
【数10】
【0061】
我々の初期推定値はモデル評価の場合と同じく、次式で与えられる。
【数11】
初期収束マトリックスP
0は、100が乗算された恒等マトリックスである。
我々はモデルが正確であることを確認したので、忘却因子は必要ではない。したがって、β=1とした。各位置における触診のための推定の開始および終了のために、我々は触診器具と人工組織の間の接触を検知するために力閾値を設定した。力センサからのノイズレベルを考慮して、垂直軸に沿った前回および今回の力の積が0.002N
2より大きければ、器具は環境と接触しているものと考えられる。接触が検出されたとき、推定が自動的に開始され、硬さが次節に説明するようにモニタに重畳される。視覚的重畳上での器具の振動効果を除去するために、触診点の位置は接初期状態に固定される。器具が組織から離れたときに、これは開放される。RLSのパラメータは、開放のたびにすべて初期化される。
【0062】
C:ステレオカメラシステム
ステレオカメラと患者側操作器の間の座標軸は、特注の較正装置を使用してAX=XB較正法によって較正される。この較正結果はデカルト操作器器具チップ座標軸とデカルトカメラフレーム(カメラフレームは、2つのカメラの中間に中心を有する)の間の変換フレームである。他の較正段階において、我々は、プラットフォームによって定義される剛体とステレオビデオに基づいて再構成される3次元曇り点の間の位置合わせ機構を利用して、カメラフレームと重畳(環境)プラットフォームフレームとの間の変換を較正した。
【0063】
実験中、重畳画像を正確に配置するために、我々は最初に器具チップ位置をロボット座標軸からカメラ座標軸に変換し、次にカメラ座標軸からプラットフォーム座標軸に変換した。プラットフォーム構成はX−Z平面に平行であるので、我々は、変換された器具チップ位置を組織表面上に容易に投影し得た。
【0064】
D:視覚的重畳法
HSL表示を使用したカラーマップは、触診点の硬さを表示するために、ステレオカメラ画像上に重畳される。データは実時間で解析されるので、人工組織が触診されている間は、推定された硬さおよび触診位置のデータは、同時に表示コンピュータに転送され、30ヘルツの率で半透明カラー画像重畳によって表示される。50%の透明率で、カメラ画像は重畳画像の背後に鮮明に見ることができた。したがって、カラー硬さマップは器具の使用者の視界または人工組織の表面の特徴を覆い隠すことはない。
【0065】
色相は硬さに対応し、色の範囲は緑色から黄色を通過して赤色までである。
【数12】
彩度はガウス関数に基づいて算出される。ガウス分布の荷重確率分布関数を使用することにより、我々は次式により信頼度レベルを定義した。
【数13】
【0066】
図7Aおよび7Bは、重畳する確率密度関数を加算したときの信頼度レベルのグラフ(7A)、および、信頼度レベルを表わす硬さおよび彩度の変化を示す色相(7B)である。
図7Aに示すように2以上の確立密度関数が重畳したときは、単純な荷重内挿法が使用される。
合計が1より大であるならば、それは1とする。色彩の重畳を示すために、すべての画素に対して明度は0.5である。
図7Bは、我々が我々のシステムで使用したHSL棒グラフを示している。
【0067】
試験結果
図8A−8Dは、画像中に示された下にある環境の硬さマップが展開されたときの、合成画像の図である。
図8は、試行中に撮影された4枚の図を示す。
器具と人工組織の間の接触が検出されるとすぐに、半透明のカラー円板が手術医の操作卓のステレオモニタ上に表示される。1つの位置の触診は約0.5秒で十分である。
図8Aは、最初の触診の結果を示す。
図8Bにおいて、ランダムな触診に起因していくつかの円板が存在する。現在の触診領域が、以前に触診された他の領域に近いときは、内挿法が色彩を混合し、信頼度レベルを加算するために使用される。中間結果の1つを
図8Cに示す。この点において、垂直に中心に向かう赤色領域を見ることができる。人工組織の全表面が触診されたときに、赤色領域は、
図8Dに示すように、非常に明確になる。人工的に石灰化された動脈の直径の2倍以上である上を覆う円の大きさに起因して、人工的の石灰化された動脈の実際の幅は4ミリメートルであるが、赤色領域の幅は約8ミリメートルである。しかし、たとえば、いったん概略の位置が識別されれば、上を覆う円の大きさあるいはガウスの標準偏差は人工的に石灰化された動脈の大きさおよび位置をより正確に検出するために小さくし得る。
【0068】
この例は、組織の特性のオンライン推定のための遠隔操作される手術ロボットの使用、および手術医の表示装置上に重畳されるカラー硬さマップを使用した柔らかい材料の中に隠されている硬い異物の識別を示している。人工組織に対する7つの可能性のある数学モデルのなかで、自己評価および相互評価の双方で最も少ない力推定誤差を有し、人工組織と人工的な石灰化動脈との間で顕著な相違を示すHunt- Crossleyモデルを選択した。回帰的最小自乗法がHunt- Crossleyモデルの未知パラメータを推定するために使用された。推定された硬さは、表示コンピュータに伝送され、色相−彩度−明度マップを使用したグラフ的な覆いを生成するために、表示コンピュータに伝送される。色相のグラフ的な覆いは、硬さによって決定される。彩度に対しては、触診点からの距離に基づく荷重ガウス関数によって信頼度レベルが定義される。連続的なカラーマップを生成するために、単純な内挿法が使用される。人工組織の表面の探索により、我々は人工的石灰化動脈の位置を示すカラーマップを収集することに成功した。
【0069】
我々は、力センサを既存の力推定法(P. Hacksel およびS. Salcudean著 "Estimation of environment forces and rigid-body velocities using observers," in IEEE International Conference on Robotics and Automation, pp. 931-936, 1994)に置き換えることが可能であり、我々の方法は、市販のロボットにいかなる機器をも追加することなく適用され得る。また、特殊な力検出触診器具も使用され得る。様々な手術的な計測は、画像中の計測のセグメント化および組織特性値の半透明表示上への配置によって改良され得るものである。診療応用への道筋としては、硬さマップは、コンピュータ表示または事前画像、ないしはその双方を使用して、いかなる組織表面の等高線から求めることもできる。このようなシステムは生物学的な組織で試験されるべきである。
最後に、収集された組織の特性は、自動化された診断および手術計画に使用され得るものであり、現実的な患者−特定手術シミュレータの製造のために抽出され得るものであり、さらに、双方向遠隔操作の透明性を改善するために使用され得る。
【0070】
本発明は、例示のために図示された本発明の実施例によって制限されるものではなく、請求項によって定義される。当業者は、ここで議論された例に対する様々な変更および代案が本発明の一般的概念を逸脱することなく可能であることを認識するであろう。