特許第5763045号(P5763045)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許5763045-ポリエーテルケトンケトン不織布マット 図000003
  • 特許5763045-ポリエーテルケトンケトン不織布マット 図000004
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5763045
(24)【登録日】2015年6月19日
(45)【発行日】2015年8月12日
(54)【発明の名称】ポリエーテルケトンケトン不織布マット
(51)【国際特許分類】
   D04H 3/009 20120101AFI20150723BHJP
   D04H 3/16 20060101ALI20150723BHJP
   D01F 6/76 20060101ALI20150723BHJP
【FI】
   D04H3/009
   D04H3/16
   D01F6/76 Z
【請求項の数】10
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-500952(P2012-500952)
(86)(22)【出願日】2010年3月18日
(65)【公表番号】特表2012-520950(P2012-520950A)
(43)【公表日】2012年9月10日
(86)【国際出願番号】US2010027764
(87)【国際公開番号】WO2010107976
(87)【国際公開日】20100923
【審査請求日】2013年3月11日
(31)【優先権主張番号】61/161,979
(32)【優先日】2009年3月20日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】61/174,666
(32)【優先日】2009年5月1日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】500307340
【氏名又は名称】アーケマ・インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】ギルバート・ダブリュ・ルドマン
(72)【発明者】
【氏名】グレゴリー・エス・オブライエン
(72)【発明者】
【氏名】クリストファー・エイ・バーテロ
【審査官】 中村 勇介
(56)【参考文献】
【文献】 特開平06−073684(JP,A)
【文献】 特表2008−518772(JP,A)
【文献】 特表平05−506058(JP,A)
【文献】 特開2007−182661(JP,A)
【文献】 特開平01−280018(JP,A)
【文献】 特開平03−261531(JP,A)
【文献】 特開2008−266841(JP,A)
【文献】 特開2008−291393(JP,A)
【文献】 特許第2841867(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D04H 1/00−18/04
D01F 1/00− 6/96
D01F 9/00− 9/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1種以上のポリエーテルケトンケトン維を含んでなる少なくとも2つの構成部分を含んでなる不織布マットであって、前記ポリエーテルケトンケトンが、式I(異性体T)および式II(異性体I):
−A−C(=O)−B−C(=O)− I
−A−C(=O)−D−C(=O)− II
(式中、Aは、−Ph−O−Ph−基であり、Phは、フェニレン遊離基であり、Bは、P−フェニレンであり、Dは、m−フェニレンである)
によって表される繰り返し単位を有し、かつ少なくとも1つの構成部分が、別の構成部分のポリエーテルケトンケトンに比べると低いT:I異性体比率を有するポリエーテルケトンケトンを含んでなる不織布マット。
【請求項2】
少なくとも1つの構成部分が、少なくとも約60:40のT:I異性体比率を有するポリエーテルケトンケトン維を含んでなり、少なくとも1つの構成部分が、約60:40より小さいT:I異性体比率を有するポリエーテルケトンケトン維を含んでなる請求項に記載の不織布マット。
【請求項3】
1種以上のポリエーテルケトンケトン維を含んでなる第一層と、1種以上のポリエーテルケトンケトン維を含んでなる第二層とを含んでなる請求項1に記載の不織布マットであって、前記ポリエーテルケトンケトンが、式I(異性体T)および式II(異性体I):
−A−C(=O)−B−C(=O)− I
−A−C(=O)−D−C(=O)− II
(式中、Aは、−Ph−O−Ph−基であり、Phは、フェニレン遊離基であり、Bは、P−フェニレンであり、Dは、m−フェニレンである)
によって表される繰り返し単位を有し、前記第二層のポリエーテルケトンケトンが、前記第一層のポリエーテルケトンケトンに比べると低いT:I異性体比率を有する不織布マット。
【請求項4】
前記第一層のポリエーテルケトンケトンが、少なくとも約60:40のT:I異性体比率を有する請求項に記載の不織布マット。
【請求項5】
前記第一層のポリエーテルケトンケトンが、約80:20のT:I異性体比率を有する請求項に記載の不織布マット。
【請求項6】
前記第二層のポリエーテルケトンケトンが、約60:40より小さいT:I異性体比率を有する請求項に記載の不織布マット。
【請求項7】
1種以上のポリエーテルケトンケトン維を含んでなる少なくとも1つのコア層と、1種以上のポリエーテルケトンケトン維を含んでなる少なくとも1つのシェル層とを含んでなる請求項1に記載の不織布マットであって、前記ポリエーテルケトンケトンが、式I(異性体T)および式II(異性体I):
−A−C(=O)−B−C(=O)− I
−A−C(=O)−D−C(=O)− II
(式中、Aは、−Ph−O−Ph−基であり、Phは、フェニレン遊離基であり、Bは、P−フェニレンであり、Dは、m−フェニレンである)
によって表される繰り返し単位を有し、かつ前記シェル層のポリエーテルケトンケトンが、前記コア層のポリエーテルケトンケトンよりも低いT:I異性体比率を有する不織布マット。
【請求項8】
前記コア層のポリエーテルケトンケトンが、少なくとも約60:40のT:I異性体比率を有する請求項に記載の不織布マット。
【請求項9】
前記コア層のポリエーテルケトンケトンが、約80:20のT:I異性体比率を有する請求項に記載の不織布マット。
【請求項10】
前記シェル層のポリエーテルケトンケトンが、約60:40より小さいT:I異性体比率を有する請求項に記載の不織布マット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して高分子化学に関する。さらに具体的には、本発明は、耐溶剤、耐熱、および耐炎に有用な熱可塑性繊維の不織布マットに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献、公開された出願、技術論文および学術論文をはじめとする様々な出版物が、本明細書を通して引用されている。これらの引用の各々が、その完全な形で本明細書に参照され組み込まれている。
【0003】
不織布材料は、布帛、織物、吸収パッド、バッグ等をはじめとする様々な用途で使用される。不織布は、天然繊維または合成繊維(例、熱可塑性ポリマー)から調製されることができる。
【0004】
他の汎用プラスチック(例、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタラートおよびナイロン−6)も不織布を作るのに使用されるが、耐久性がありかつ使い捨ての不織布の殆どは、ポリプロピレンから作られる。しかし、これらの従来のポリマーは、高温および浸食性環境下ではうまく機能しない。化学プロセスや汚染制御のためのフィルターのような最終用途の多くにおいて、不織布材料は、相対的に過酷な環境条件(高温、有機溶剤、腐食性または反応性化学物資、および/または酸または塩基性物質)に長時間にわたって暴露されることもある。従って、それらの性能またはそれらの構造的完全性(structural integrity)が著しく低下することなく、このような条件に耐えることができる、高性能の不織布を開発することが望まれている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、ポリエーテルケトンケトン繊維またはそれらの混合物を含んでなる不織布マットを特徴とする。ポリエーテルケトンケトン繊維は、モノフィラメントでもマルチフィラメントでもよい。
【0006】
ポリエーテルケトンケトンまたはそれらの混合物は、式Iおよび式II:
−A−C(=O)−B−C(=O)− I
−A−C(=O)−D−C(=O)− II
(式中、Aは、−Ph−O−Ph−基であり、Phは、フェニレン遊離基であり、Bは、P−フェニレンであり、Dは、m−フェニレンである)
により表される繰り返し単位を有するのが好ましい。
【0007】
マットに使用されるポリエーテルケトンケトンまたはそれらの混合物は、約50:50〜約90:10の式I:式II比率を有するのが好ましい。ある態様において、上記比率は、80:20である。マットに使用されるポリエーテルケトンケトンまたはそれらの混合物は、約10%〜約40%の結晶化度(DSCにより測定)を有することができる。ある態様において、ポリエーテルケトンケトンまたはそれらの混合物は、半結晶性である。
【0008】
ポリエーテルケトンケトンは、様々な用途に使用されることができる。従って、本発明は、さらに、本明細書に記載および例示したようなポリエーテルケトンケトン繊維またはそれらの混合物を含んでなる少なくとも1つの不織布マットを含んでなるフィルター、衣服/織物、ブランケット、および絶縁体も特徴とする。
【0009】
本発明は、さらに、ポリエーテルケトンケトン繊維またはそれらの混合物を含んでなる少なくとも1つのコア層と、ポリエーテルケトンケトン繊維またはそれらの混合物を含んでなる少なくとも1つのシェル層とを含んでなる不織布マットも特徴とする。シェル層のポリエーテルケトンケトン繊維またはそれらの混合物は、コア層のポリエーテルケトンケトン繊維またはそれらの混合物に比べると低いT:I比率を有するのが好ましい。ある好適な実施形態において、コア層のポリエーテルケトンケトン繊維またはそれらの混合物は、少なくとも約60:40のT:I比率を有する。ある好適な実施形態において、コア層のポリエーテルケトンケトン繊維またはそれらの混合物は、約80:20のT:I比率を有する。ある好適な実施形態において、シェル層のポリエーテルケトンケトン繊維またはそれらの混合物は、約60:40より小さいT:I比率を有する。
【0010】
本発明は、さらに、少なくとも2つの構成部分を含んでなる不織布マットも特徴とする。ある態様において、少なくとも1つの構成部分は、別の構成部分に含んでなるポリエーテルケトンケトン繊維またはそれらの混合物のT:I比率に比べると低いT:I比率を有するポリエーテルケトンケトン繊維またはそれらの混合物を含んでなる。ある好適な実施形態において、少なくとも1つの構成部分は、少なくとも約60:40のT:I比率を有するポリエーテルケトンケトン繊維またはそれらの混合物を含んでなり、少なくとも1つの構成部分は、約60:40より小さいT:I比率を有するポリエーテルケトンケトン繊維またはそれらの混合物を含んでなる。
【0011】
本発明は、さらに、ポリエーテルケトンケトン繊維またはそれらの混合物を含んでなる第一層と、ポリエーテルケトンケトン繊維またはそれらの混合物を含んでなる第二層とを含んでなる不織布マットも特徴とする。第二層のポリエーテルケトンケトン繊維またはそれらの混合物は、第一層のポリエーテルケトンケトン繊維またはそれらの混合物と比べると低いT:I比率を有するのが好ましい。ある好適な実施形態において、第一層のポリエーテルケトンケトン繊維またはそれらの混合物は、少なくとも約60:40のT:I比率を有する。ある好適な実施形態において、第一層のポリエーテルケトンケトン繊維またはそれらの混合物は、約80:20のT:I比率を有する。ある好適な実施形態において、第二層のポリエーテルケトンケトン繊維またはそれらの混合物は、約60:40より小さいT:I比率を有する。
【0012】
さらなる特徴は、ポリエーテルケトンケトン繊維またはそれらの混合物を含んでなる少なくとも1つの不織布マットを含んでなるフィルター、衣服/織物、ブランケット、および絶縁体を製造する方法である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】不織布マットを生産するのに使用する典型的な繊維紡糸装置を表す。
図2】不織布マット中の繊維の配向を表す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、本発明の実施形態として考察される特定の方法、試薬、化合物、または組成物に限定されないことを、理解するべきである。本明細書で使用される用語法は、特定の態様のみを記載する目的のためであり、限定する意図はないことを理解するべきである。
【0015】
本発明の方法および他の態様に関する様々な用語は、本明細書および特許請求の範囲を通して使用される。このような用語は、特に明記しない限り、当技術分野におけるそれらの通常の意味を表す。他の具体的に定義した用語は、本明細書に提供された定義に相反しない方法で解釈されるべきである。
【0016】
ポリエーテルケトンケトン繊維が、異なる繰り返し単位の異性体の比率を選択することにより結晶化度を調節するそれらの能力の点から、他の熱可塑性ポリマーよりも特に利点を有し、その利点が、ポリエーテルケトンケトン繊維の冷却速度、軟化点、結晶化速度、および結晶化度の程度を調節するのにさらなる利点を提供することが、本発明に基づいて明らかにされている。さらに、ポリエーテルケトンケトン繊維は、高温で非常に良好な寸法安定性および低クリープを呈し、一般的な有機溶剤に非常に強く、水を吸収し難い。これらの利点は、ポリエーテルケトンケトン繊維にその能力を提供して不織布マットに組み立てられ、そのマットは、熱および/または1種以上の溶剤からの保護が望まれる様々な用途で使用されることができる。従って、本発明は、ポリエーテルケトンケトン繊維またはそれらの混合物を含んでなる不織布マットを特徴とする。
【0017】
ポリエーテルケトンケトン(PEKK)は、当技術分野において一般的に知られており、以下の特許文献(米国特許第3,065,205号明細書、米国特許第3,441,538号明細書、米国特許第3,442,857号明細書、米国特許第3,516,966号明細書、米国特許第4,704,448号明細書、米国特許第4,816,556号明細書、および米国特許第6,177,518号明細書)に記載される方法を含む任意の適切な重合法を用いて調製されることができる。ポリエーテルケトンケトンの混合物を使用してもよい。
【0018】
本発明に使用するのに適切なポリエーテルケトンケトンは、以下の式Iおよび式II:
−A−C(=O)−B−C(=O)− I
−A−C(=O)−D−C(=O)− II
(式中、Aは、−Ph−O−Ph−基であり、Phは、フェニレン遊離基であり、Bは、P−フェニレンであり、Dは、m−フェニレンである)
により表される繰り返し単位を含んでなることができる。ポリエーテルケトンケトン中の式I:式II(T:I)の異性体の比率は、約100:0〜約0:100に及ぶことができる。
【0019】
ある態様において、異なる式I:式II比率のポリエーテルケトンケトンを含有するポリエーテルケトンケトンの混合物が使用される。例えば、80:20のT:I比率を有するポリエーテルケトンケトンは、60:40のT:I比率を有するポリエーテルケトンケトンと、これらの繊維から調製されるマットに所望される特性のバランスを有するポリエーテルケトンケトン混合物を提供するように選択される相対的割合で、ブレンドしてもよい。
【0020】
従って、様々なT:I比率を有するポリエーテルケトンケトンが、使用されることができる。これらのT:I比率の任意の適切なブレンドも使用できる。適切なT:I比率の例として、約90:10、約85:15、約80:20、約75:25、約70:30、約65:35、約60:40、約55:45、約50:50、約45:55、約40:60、約35:65、約30:70、約25:75、約20:80、約15:85、および約10:90、またはそれらのブレンドが挙げられるが、それらに限定されない。
【0021】
無定形(非結晶性)ポリエーテルケトンケトンを提供するように、T:I比率を調節することができる。結晶化度がほとんどないかもしくは0であるポリエーテルケトンケトンから作られる繊維は、高結晶性のポリエーテルケトンケトンから作られる繊維よりも、概して低剛性でかつ低脆性である。しかしながら、ポリエーテルケトンケトンの結晶化度が増大するに従って、繊維強度も通例増大する。特に、部分的に結晶性のポリエーテルケトンケトンを含有する繊維は、繊維をさらに強力にするために、繊維押出後の延伸中に配向されることができる。
【0022】
無定形含有量が高いほど(ブレンドまたは重合によって達成可能)概してより高い延性をもたらし、結晶性含有量が高いほど高温での強度が大きくなる。異なる化学組成を有するポリマーを組み合わせるよりむしろ、異なる結晶性のポリエーテルケトンケトンのブレンドを用いる方が、異なるポリマーを化合した際にしばしば起こりうる不適合性や性能損失の問題点が見られない、結合性(integrity)がより高い繊維をもたらす。
【0023】
一般的に、比較的高い式I:式II比率を有するポリエーテルケトンケトンは、式I:式II比率がそれよりも低いポリエーテルケトンケトンよりも結晶性が高い。本発明の繊維およびマットの、強度、剛性/柔軟性および他の機械特性、熱特性、熱機械特性並びに他の特性は、ポリエーテルケトンケトンもしくはポリエーテルケトンケトン混合物の結晶化度を制御し、それにより相分離の問題をもたらしうる他のポリマーまたは可塑剤にブレンドする必要性を回避することにより、所望通りに変更されることができる。
【0024】
ある態様において、ポリエーテルケトンケトンまたはポリエーテルケトンケトンの混合物の結晶化度は、示差走査熱量測定(DSC)により測定される通り、100%結晶性のポリエーテルケトンケトンの理論的エンタルピーが130J/gであると仮定すれば、約0〜約50%である。ある好適な態様において、ポリエーテルケトンケトンの結晶化度は、DSCにより測定される通り、約10〜約40%である。ある態様において、結晶化度は、約30〜約35%である。
【0025】
表1は、T:I比率を変えた2種の代表的なポリエーテルケトンケトンの様々な特性の結果を表す。
【0026】
【表1】
【0027】
表1からわかるように、さらに延性の大きい繊維を所望するならば(その結果、それから調製される繊維および不織布マットの能力が向上して、クラッキングを起こすことなく屈曲するもしくは曲がる)、或いは耐熱性の小さいマットを所望するならば、ポリエーテルケトンケトンにおける式I:式IIの繰り返し単位の比率を小さくするのが望ましい。それに反して、繊維およびこのような繊維から調製される不織布マットの耐熱変形性および/または曲げ強さを増大させることを所望するならば、式I:式II比率は、比較的に高い値になるように選択されるのが望ましい。例えば、表1に示すように、式I:式II比率が、60:40から80:20まで増大する場合、曲げ強さが20kpsiから28kpsiまで増大し、熱変形温度(HDT)が華氏286度から華氏347度まで上昇する。従って、耐熱性を向上させるためには、式I:式II比率が大きい方が好ましい。
【0028】
適切なポリエーテルケトンケトンは、市販されている(例えば、OXPEKK(登録商標)−CおよびOXPEKK(登録商標)−SPポリエーテルケトンケトンを含む、OXFORD Performance Materials,Enfield,Connecticutにより商標名OXPEKK(登録商標)で販売されているポリエーテルケトンケトン)。
【0029】
PEKKに加えて、繊維は、熱可塑性繊維の技術分野において公知の様々な他の適切な添加剤および構成成分(例、充填剤、顔料、加工助剤、安定剤等)を含んでなることができる。
【0030】
ある態様において、PEKK繊維は、様々な長さおよび/または直径でも可能であり、均一の長さおよび/または直径でも可能である。PEKK繊維は、任意のサイズの繊維を使用することができるが、少なくとも約0.1mmの長さが可能である。長さがより長いPEKK繊維は、不織布マットを調製するのに特に好ましい。
【0031】
PEKK繊維の直径は、限定されず、特定の最終用途に適合させるように必要に応じて調節しても変えてもよい。例えば、繊維は、約50ミクロン〜約2mmの直径を有してもよい(直径がそれより大きいもしくはそれより小さい繊維、およびこの範囲内の任意の直径の繊維を使用することができる)。微小繊維(即ち、非常に小さいデニールの厚みを有する繊維)も本発明に基づく不織布マットに使用できる。
【0032】
PEKK繊維の横断面の形状は、変更でき、例えば、円形、楕円形、正方形、長方形、星形、三葉形、または三角形、或いは任意の他の形状が可能である。繊維は、中実でも中空でも可能である。繊維は、連続フィラメント(例、モノフィラメント)の形態でも不連続、細長い片の形態でも可能であり、また2種類以上の繊維は、マルチフィラメント(例、糸、ひもまたはロープ)に紡糸されることもできる。
【0033】
好適な態様において、PEKK繊維は、不織布マットに組み立てられる。PEKK繊維を用いる顕著な1つの利点は、PEKKが、他の熱可塑性ポリマーに比べると遅い速度で結晶化することである。従って、PEKKが遅い速度で結晶化することにより、繊維が結晶化する前に、不織布マットと融着するのに十分な時間が確保できる。不織布マットは、当技術分野で公知の任意の適切な方法に従って、調製されることができる。例えば、マットは、スパンボンド技術(その方法論は当業者には公知であると思われる)により調製されることができる。
【0034】
スパンボンド技術を用いて、例えば、押出されたPEKK繊維は、紡糸され冷却されることができる。繊維は、紡糸口金から押出されたPEKKから成形された後、空気冷却されることができる。紡糸された繊維は、その後、例えば、ベルトまたはスクリーン上に堆積され、接合される。繊維は、ベルト上で任意に配向されてもよいし、所望の配向に配列されてもよい。接合は、例えば、ローラーまたはニードルを使用して加熱してPEKK繊維を部分的に溶解することにより、進行されることができ、PEKK繊維は、冷却される際に融着する。ある態様において、紡糸された繊維は、鋳型またはモールドに堆積し、接合されて、事前に形状したマットを成形することができる。
【0035】
マットは、メルトブローン技術(その方法論は当業者には公知であると思われる)により調製されることができる。要するに、溶解したPEKK繊維は、任意の所望の直径および/または形状のダイを介して押出された後、非常に速い高速熱気流が、ベルト、スクリーン、鋳型、またはモールド上にダイ先端から溶解した繊維を吹付ける。部分的に溶解した繊維は、繊維がベース上で冷却される際に、マットに自己接合する。より高濃度の式IIの異性体を有するPEKK繊維は、ベルト、スクリーン、鋳型、またはモールド上でマットに繊維の良好な融着を促進しかつ確保するので、マットのメルトブローン調製には有利である。
【0036】
マットは、また電界紡糸技術により調製されることができる。電界紡糸において、PEKK繊維は、高電圧で生産され、高電圧により、溶解したPEKKの荷電流体が生じ、それが、その後、ベルト、スクリーン、鋳型、またはモールド上に堆積して、繊維が冷却される際に、マットに自己接合する。
【0037】
PEKKマットは、任意の適切なT:I比率(本明細書に記載された比率を含む)を有する繊維を用いて調製されることができる。さらに、PEKKマットは、マットが使用されうる用途に適切な任意の濃度の繊維で調製されることができる。ある態様において、繊維は、マットが使用される用途に応じて、約0.001g/cm3〜約5g/cm3の濃度で接合されるが、それより高いかまたは低い繊維濃度を有するマット、或いはこの範囲内の任意の濃度を有するマットを用いることができる。
【0038】
マットは、異なる特性を有するPEKK繊維から構成される2つ以上の層および/または2つ以上の構成部分を含んでなることができる。例えば、ある態様において、マットは、第一層と第二層とを含む少なくとも2つのPEKK層を含んでなることができる。ある態様において、マットは、コア−シェル構造を有することができ、例えば、コア層が、コア層の各側のシェル層によって封入されるか、或いは、コア層が、コア層の各側のシェル層間に位置する。ある態様において、マットは、複数の構成部分もしくは構成成分構造を有することができる。各層または各構成部分もしくは構成成分は、別の層、構成部分、または構成成分に比べると異なるT:I比率を有するPEKK繊維を含んでなってもよい。
【0039】
第一層および第二層の構造において、第一層は、第二層に比べると高濃度の式I(高いT:I比率)を有するPEKK繊維を含んでなることができる。第二層は、第一層に比べると高濃度の式II(低いT:I比率)を有することができる。より高濃度の式Iは、第一層の強度および硬さを向上させ、第二層のより高濃度の式IIは、他のマット、布帛、材料、構造体等へのマットの熱接合を促進させることができる。
【0040】
コア−シェル構造において、1つ以上の層が、コアの強度を増大させるために、シェル層に比べると高濃度の式I(高いT:I比率)を有するPEKK繊維を含んでなることができる。シェル層は、他のマット、布帛、材料、構造体等へのマットの熱接合を促進させるために、コア層に比べると高濃度の式II(低いT:I比率)を有するPEKK繊維を含んでなることができる。コアおよび/またはシェル層は、各々2つ以上のPEKK繊維を含んでなることができる。
【0041】
複数の構成部分または構成成分構造において、それらの不織布マットまたは層は、別の構成部分または構成成分に比べると異なるT:I比率を有する各構成部分または構成成分を伴う、少なくとも2つの構成部分または構成成分を含んでなることができる。非限定の一例において、複数の構成部分構造が、マットの内側の構成部分に比べると高濃度の式I(または式II)を有するマットの周囲の構成部分を含んでもよい。別の非限定の例において、マットは、別の構成部分に比べると高濃度の式IまたはIIを有する各構成部分を伴う、交互の構成部分(alternating sections)またはパッチ様構成部分(patch−like sections)を含んでなることができる。従って、不織布マットの1つ以上の構成部分または構成成分は、より高濃度の式IIを有するPEKK繊維で調製されて、マットのこのような構成部分または構成成分の柔軟性を向上させることができ、或いは、他のマット、布帛、材料、もしくは構造体へのマットの熱接合を促進させることができる。さらに、不織布マットの1つ以上の構成部分または構成成分は、より高濃度の式Iを有するPEKK繊維で調製されて、マットのこのような構成部分または構成成分に強度および硬さを付与することができる。マットは、構成部分または構成成分の任意の数および/または幾何学的または空間配向を含んでなることができる。マットは、高温および/または溶剤および/または化学物質(酸、塩基、反応性化合物)に対する耐性が望まれる任意の用途に使用されることができる。好適な一態様において、マットは、液体、好ましくは加熱した液体または溶剤の濾過用または分離用のフィルターに組み立てられる。このようなフィルターは、ホットガスの処理にも有用である。フィルターは、少なくとも1つのPEKK不織布マットを含んでなることができる。ある態様において、フィルターは、少なくとも2つ、少なくとも3つ、少なくとも4つ、少なくとも5つ、或いはそれより多くのPEKK不織布マットを含んでなることができる。このようなフィルターにおいて、マットは、互いの上部に取り外し可能に層状に重ねられることができ、または1つ以上の或いは全ての層が、接合されることができる。
【0042】
多層フィルターにおいて、各層は、異なる厚みおよび/または濃度(本明細書に記載および例示された厚みおよび/または濃度を含む)のPEKK繊維を有するPEKKマットから構成されることができる。このようなフィルターは、液体またはガスがフィルターを介して通過する速度を制御するために使用されることができおよび/または液体またはガス中に存在する異なるサイズの粒子を分離またはトラップするために使用されることができる。フィルターは、フィルターが意図される使用に適切な任意の形状またはサイズに調製されることができる。フィルターは、不織布のPEKK繊維から構成される少なくとも1つのマットに加えて、異なる材料(例、ガラス繊維、金属繊維または炭素繊維)から構成される1つ以上の追加の層を含んでもよい。
【0043】
本発明に基づくポリエーテルケトンケトン繊維から構成される不織布マットを含有するフィルターは、望むならば、やはりPEKKから構成される、フレーム、支持体またはフィルターの他の構成成分を用いて、組み立てられてもよい。例えば、不織布マットは、成形されたPEKKフレーム内に固定されてもよく、フレームは、組み立てられたフィルターを容易に取り扱うことを可能にする(例、器具内の所望の位置に配置した後に取り除く、置き換える、もしくは清浄する)。
【0044】
別の好適な一態様において、PEKKマットは、保護織物/衣服または保護ブランケットに組み立てられる。PEKKマットは、保護衣服またはブランケットの内部層または外部層として使用されることができ、或いは衣服またはブランケットの物品を含んでなることができる。PEKKマット含有の衣服またはブランケットは、例えば、所有物、人または動物を炎または化学物質の流出から保護するために使用されることができる。衣服として、シャツ、ジャケット、パンツ、ソックス、手袋、マスク、帽子、靴、ブーツ、エプロン等(これらに限定されない)が挙げられる。
【0045】
別の好適な態様において、PEKKマットは、保護絶縁体に組み立てられるか、または保護絶縁体として使用される。従って、このようなマットは、建設、工業、および製造材料として有用である。絶縁体は、少なくとも1つのPEKK不織布マットを含んでなることができる。ある態様において、絶縁体は、少なくとも2つ、少なくとも3つ、少なくとも4つ、少なくとも5つ、或いはそれより多くのPEKK不織布マットを含んでなることができる。絶縁体は、任意の、適切なサイズ、厚みおよび/または濃度のPEKK不織布マットを含んでなることができる。
【0046】
PEKKマット絶縁体は、例えば、建物の壁、天井、および/または床に使用されることができ、ならびに自動車、列車の車両、船舶、航空機等を含む乗り物に使用されることができる。乗り物において、絶縁体マットは、壁、天井、床、ドア、隔壁、シート等に使用されることができうる。PEKKマット絶縁体は、例えば、電化製品、窯炉、実験室用器具、医療器具、工業用器具にも使用されることができる。
【0047】
不織布PEKK繊維のマットは、複合材料の製造に使用されてもよく、その製造において、マットは、熱硬化性または熱可塑性マトリックス内に埋め込まれるか、或いはラミネート内の1つ以上の層として使用される。
【0048】
本発明は、上記に記載および例示した実施形態に限定されないが、添付の特許請求の範囲の範囲内で、変形および修正が可能である。
【実施例】
【0049】
実施例1
航空機の使用に適切なタイプの軽量多層絶縁ブランケットを以下の通りに作製してよい。OXPEKK−SPから構成されるフェルトをメルトブローンにより不織布ブランケットに成形することにより、前記ブランケット用の絶縁用挿入物(insulating insert)を調製する。CO2注入および膨張のようなプロセス(米国ワシントン州のMicroGreenにより実施)を用いる良好な制御で、フェルトマットを発砲状に膨張させるが依然不織布フェルトマットであることを維持し、重量を増加させることなくデッドスペースを用いて、嵩および絶縁能力を増大させる。このフェルト挿入物をトリムして、フェルト絶縁体を含有するようにヒートシールされている薄膜シェル(OXPEKK−Cのが好ましい)の内側に取り付ける。任意に外側シェルにアルミめっきを施して、或いは、放射熱を排除するように処理して、効力を増して耐炎性を向上させてもよい。そのように作製されたブランケットは、重量が非常に重んじられる航空機の用途において、ガラス繊維ウールを使用する既存のブランケットに取って代わることが可能である。
【0050】
実施例2
PEKK不織布繊維の製造
T:I比率の低い、無定形等級の、ポリエーテルケトンケトン、PEKK(例、Oxford Performance materialsからのOXPEKK SP)を120℃で一晩乾燥させた後、押出して、図1に示すような標準の繊維紡糸装置を用いて、繊維に成形した。
【0051】
20〜60RPMで押出機を稼働し、フィードゾーンでは315℃まで、中間ゾーンでは320℃まで、最終ゾーン、ギアポンプおよび紡糸口金では330℃まで加熱する。1つまたは好ましくは複数の繊維を成形するように紡糸口金を設計できる。繊細化ゾーン(attenuation zone)の有無にかかわらず、空気流を用いて繊維を成形ワイヤーへ導く。高結晶性繊維(例、PEEKおよびPEKK)では、不織布材料を生産するのに標準的に使われるポリマーに比べると、結晶化速度が非常に速い。従って、冷気もしくは微温風で繊維を冷却するよりもむしろ、ポリアリレート繊維を成形する際に、熱空気または窒素流を使用して、冷却速度を実際に遅らせる。ポリマーが成形ワイヤー上に配列するまでポリマーを柔らかい状態に維持するように、流の温度を調節する。繊細化ゾーン(米国特許第5470639号明細書および米国特許第5997989号明細書に記載の通り)で熱空気を用いて、ポリマーを配向させて伸ばすこともできる。図2に示す通り、ランダム繊維のマットを生産するために、成形ワイヤー上に繊維をレイダウンする。熱空気を用いて、繊維の外面を再び柔らかくして、繊維が接触する場所で繊維を接合できる。
【0052】
T:I比率を変えることにより、繊維の柔軟性、靭性、結晶化度および最終使用温度を調節できる。より高いT:I比率を有するPEKKを用いる場合、様々な加熱ゾーンで温度を30〜50℃上げることが必要だろうが、それ以外の点では条件およびプロセスはよく似ている。
【0053】
実施例3
図1に示した装置と同様な繊維紡糸装置を用いるが、2台の押出機と、紡糸口金に供給する2台のギアポンプとを装備し、2層の繊維を共押出システムで生産する。温度と条件は、上記と同様である。押出機のサイズとスクリューの速度によって、異なるポリマーの流速を調節して、所望の厚さの層を成形する。通常、T:I比率がより高いポリマーは、より堅くなるだろうが、繊維の中心に位置する。そして、T:I比率がより低いポリマーは、低温において柔らかくなるだろうが、繊維の周囲に位置する。この場合、第一押出機は、繊維の中心のためのT:I比率が高い材料を処理しているが、T:I比率が低い材料を処理している第二押出機よりも僅かに高い温度(30〜50℃)で第一押出機を稼働する。
【0054】
繊維がランダムなパターンで成形ワイヤー上に積層する際に、やはり熱空気を用いて、繊維を柔らかい状態に維持し、成形ワイヤー上で繊維をマットに接合する間に、追加の熱空気を用いて、2層の繊維の外層を柔らかくすることができる。
図1
図2