(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
本願明細書に組み込まれ、本願明細書の一部を構成する添付の図面が、上記の大まかな記載とともに、本発明の実施形態を図解し、以下の詳細な記載とともに、本発明の様々な態様を説明するために役立つ。
【0013】
本発明のある実施形態による例示的な歯列矯正器が、
図1に描かれる。歯列矯正器10が、セラミック射出成形(CIM)ブラケット本体12を含み、CIMブラケット本体12が、多結晶セラミック及びアルミナ(Al
2O
3),二酸化ケイ素(SiO
2),ジルコニア(ZrO
2)又は他の酸化物,窒化物若しくはホウ化物のような他のセラミックのコーティング14を備え、コーティング14が、CIMブラケット本体12の少なくとも一部を覆う。コーティング14が、予期されないほどCIMブラケット本体12のトルク強度を改善し、通常は他の製造方法を通して引き起こされるものではないセラミック射出成形プロセスと関連した特有の表面欠陥の影響を弱めることを本発明者は発見した。コーティング14が、以下にさらに詳細に記載される。
【0014】
また、歯列矯正器10が、CIMブラケット本体12と結合される可動閉鎖部材を含んでよい。可動閉鎖部材が、ライゲーティングスライド16又はCIMブラケット本体12と結合される他の機械的ラッチを含んでよい。ライゲーティングスライド16が、
図1に示されるような開放位置と閉鎖位置(図示しない)との間を移動するものであってよい。
図1にはセルフーライゲーティングブラケットが描かれているが、本発明の実施形態は、セルフーライゲーティングブラケットに制限されるものではなく、矯正治療の業界において周知のタイウイングータイプ(tiewing−type)の歯列矯正器(即ち、結紮糸を必要とするそれら)を含む様々な他のタイプの歯列矯正器にも同様に適用可能である。
【0015】
図1を参照すると、CIMブラケット本体12が患者の歯に固定された場合に、歯に矯正力を加えるように、CIMブラケット本体12が、その中に形成されかつ弧線20(極めて細い線で示された)を受け入れるように構成された弧線スロット18を含む。患者の上顎に保持された歯の唇側面に取り付けられた場合、CIMブラケット本体12が、舌側22、咬合側24、歯茎側26、近心側28、遠位側30、及び唇側32を有する。CIMブラケット本体12の舌側22が、いずれの従来の方法、例えば、隣接する歯(図示しない)の周囲のバンドによって又は適当な歯列矯正のセメント若しくは接着剤によって歯に固定されるように構成される。さらに、舌側22に、歯の表面に固定されるように構成された結合基部34を定義するパッド33が設けられてもよい。CIMブラケット本体12が、ベース表面36及びベース表面36から唇側に突き出す一組の対向するスロット表面38,40を含み、集合的に、近心側28から遠位側30への近心−遠位方向に伸びる弧線スロット18を定義する。
【0016】
従って、
図1を参照する本発明のある実施形態において、コーティング14が、少なくとも弧線スロット18の表面36,38及び40を覆う。しかしながら、コーティング14が、CIMブラケット本体12のいずれの1つ又はそれ以上の側面22,24,26,28,30及び32のような他の表面上に配置されてよい。例えば、コーティング14が、射出成形プロセスによって欠陥が生じることが周知であるCIMブラケット本体12の領域上、及び/又は使用又は取り付けの間に引張応力をうける表面上における弧線20と接触するそれらの表面上に配置されてよい。あるいは、コーティング14が、実質的にCIMブラケット本体12の全ての見えている表面をコーティングしてよい。当然のことながら、コーティング14の配置が、コーティング14を形成するために使用されるプロセスに依存しうる。
【0017】
上記のように、当技術分野で周知のように、CIMブラケット本体12が、セラミック射出成形プロセスによって形成され、日本の東京の東ソー及びカリフォルニアのコスタメサのCeradyne Inc.のようなセラミック射出成形機によって形成されてよい。例えば、ペースト又は濃厚スラリーを形成するように、CIMブラケット本体12が、アルミナ粉末のようなセラミック粉末と、1つ又はそれ以上のバインダーとを混合することによって形成されてよい。射出工程の間におけるペーストの流れと、その後の脱−バインダー又は予備焼結操作の間における燃焼又は除去との両方を促進するように、バインダー(例えば、熱可塑又は熱硬化ポリマー又はワックス)が、配合されてよい。ペーストが、射出工程の前に、100℃から200℃の間に加熱されてよい。程度の差はあるが、ペーストの粘土,粉末タイプ,及び他のプロセス因子に依存する圧力が使用されうるが、100MPa以下の圧力において成形用キャビティ内に加熱されたペーストを注入するように、高圧液圧プレスが、使用されてよい。成形用キャビティが、少なくとも部分的に、CIMブラケット本体12の形状と対応し、このCIMブラケット本体12の形状は、その後の焼結操作の間において収縮が生じるならば、収縮を考慮するように調整される。さらに、弧線スロット18が、成形用キャビティによって、全体的に形成される、部分的に形成される、又は形成されなくてもよい。
【0018】
射出成形段階の後で、バインダーを除去するために、成形CIMブラケット本体が、当技術分野において周知の温度まで熱処理される。例えば、アルミナに対し、バインダー除去が、200℃から700℃の間の温度において生じうる。バインダー除去の後で、成形CIMブラケット本体が、さらなる加熱段階によって予備焼結されうる。高純度アルミナ(約99.95wt.%のアルミナ)の予備焼結が、900℃から1200℃の間の温度において生じうる。予備焼結段階の後で、予備焼結CIMブラケット本体12が、焼結される。以下においてさらに詳細に記載するように、焼結温度が、1400℃から1800℃の間であってよく、例えば、出発粉末の粒度分布、他のプロセス因子、及び多結晶セラミックの粒径分布に依存する。他の実施形態において、当技術分野において周知のように、予備焼結射出成形CIM本体が、68MPaから207MPaの圧力であり、1300℃から1600℃の間の温度において、熱間等方圧プレス(HIPed:hot isostatically pressed)されてよい。当然のことながら、焼結操作に加えて、熱間等方圧プレス(HIPing)が、利用されてよい。焼結段階及び/又は熱間等方圧プレス段階の後で、CIMブラケット本体12が、粒子の分布を特徴とする多結晶セラミックを含む。ある実施形態において、多結晶セラミックが、3.4μmから約6μmの範囲の平均粒径を特徴とする粒径分布を有するアルミナを含む。以下に記載されるように、この範囲の平均粒径を有する多結晶セラミックが、予期されないほど高い破壊靱性を示す。
【0019】
ある実施形態において、焼結段階及び/又は熱間等方圧プレス段階の後で、CIMブラケット本体12が、アニールされ、即ち、粒径分布をさらに変更するために十分な温度に加熱され、十分な時間の間維持される。粒径分布の変更が、約1300℃又はそれ以上の温度において生じうる。しかしながら、CIMブラケット本体12が、アニール温度に維持される時間に依存して、1300℃よりも高い又は低い温度が、粒径分布を変更しうる。例として、CIMブラケット本体12が、約1時間の間、約1300℃に維持されてよい。さらに、ブラケット本体が、例えば、水素(H
2),窒素(N
2),酸素(O
2)及びアルゴン(Ar)を含む様々な雰囲気において加熱されてよい。
【0020】
上記において説明した操作の後で、射出成形プロセスによって、弧線スロット18が形成されない又は部分的にのみ形成される場合には、CIMブラケット本体12内に弧線スロット18を全体的に形成するために、研削操作が必要とされる。制限するものではない例として、弧線スロット18が、240/320メッシュダイヤモンド含有ホイールで研磨されてよい。
【0021】
セラミック射出成形が、歯列矯正器のような複雑な形状を形成するための経済的プロセスである一方、これが、セラミック粉末形成操作の間に特有の欠陥を引き起こす。この欠陥が、特に、不十分な混合、射出間における不十分な圧力若しくは温度制御、モールド設計、又はモールド内において操作上の摩耗から生じる欠陥の結果として生じうるものである。セラミック射出成形と関係がある表面の欠陥の例が、
図2A,2B,2C及び2Dに描かれている。制限するものではないが、この欠陥が、CIMブラケット本体内における局部的な粉末/バインダー密度変化を含み、この密度変化が、バインダーリッチ領域において、ブリスターのような表面欠陥を引き起こす。
図2Aに示されるように、バインダー燃焼操作の間に、ブリスターが、しばしば破裂し、表面に欠陥を残す。付加的な例として、
図2Bが、多数の欠陥を有する弧線スロットの表面の底縁を図解する。同様に、
図2Cが、弧線スロット内における他の欠陥を図解し、低倍率で撮られた
図2Dが、弧線スロットの表面内に欠陥が含有されていることを図解する。他の欠陥が、クラック、間隙、又はクラックと間隙の両方を含む。これらの欠陥が、工具摩耗、バインダーと成形表面との間の粘着、又はわずかに挙げられるブリスターの結果として生じうる。場合によっては、粉末/バインダー密度変化が、CIMブラケット本体12内において残留応力を形成する不均一な領域を生じ、この残留応力は、その後マイクロクラッキングによって緩和される。
【0022】
図2A−2Dに示されるような弧線スロット18内若しくはその周囲、又は高引張応力領域において、欠陥が生じた場合、欠陥が、特に問題となる。歯の不整合を矯正するために、弧線20が、CIMブラケット本体12に対してトルクを与え、その歯列矯正のための矯正位置に歯を強いることを当業者は理解するであろう。弧線20からのトルクが、歯列矯正器10内における引張応力を形成する。この引張応力が、上記の欠陥の存在によって増大する。いずれの単一の欠陥によって増大される場合、この引張応力が、セラミックブラケットの強度を超え、セラミックブラケットが破壊する。通常、セラミックブラケットが、セラミック材料の理論強度をベースにして予測されたそれよりも、はるかに低いレベルの応力において機能しなくなる。
【0023】
特にセラミック射出成形によって形成されたブラケット本体と関係する課題に対処することを目的として、弧線スロット18の表面36,38及び40を含むCIMブラケット本体12の一部上のコーティング14が、歯列矯正器10のトルク強度を予期されないほど改善することを本発明者は発見した。特に、本発明の歯列矯正器10が、コーティング14を備えない同じ設計のブラケット本体よりも、高いトルク強度を有することを特徴とする。例示のみを目的とするものであるが、成形されたままのブラケット本体と比較したトルク強度の改善が、少なくとも約5%であり、;さらなる例においては、トルク強度の改善が、少なくとも約20%であり、;さらなる例においては、少なくとも約60%でありうる。処理、取り付けの間、又はさらに重要なことには、臨床治療に使用する間において、有利に、歯列矯正器10が、機能しなくなる可能性が低い。従って、患者によるは破損したブラケットの摂取又は吸入のリスクが、減少し、;もしあるとした、患者がブラケットの交換を我慢することを減らし、;及び矯正治療がさらに迅速に進む。さらに、歯列矯正器10が、美的に満足のいくものとなり、患者が、治療の間において、人前を気にすることがなくなる。
【0024】
ある実施形態において、コーティング14が、非結晶質である(非結晶質材料が、原子構造内において長距離秩序を欠き、厳密に定義されたx−線回折ピークによって特徴付けられない)。他の実施形態において、非結晶質であるというよりはむしろ、コーティング14が、ナノ結晶を含み、このナノ粒子が、2つ又は3つの単位格子にわたる測定されるが、通常、いずれの一方向にわたっても100nm未満である。ある実施形態において、コーティング14が、結晶を含み、コーティング14の微細構造が、CIMブラケット本体12の微細構造よりも細かい。例として、コーティング14内の結晶の平均サイズが、CIMブラケット本体12の平均粒径よりも小さくてよい。ある実施形態において、コーティング14が、高純度アルミナ又は二酸化ケイ素を含む。ガラスマトリックスのような他の材料のマトリックスによって、アルミナ又は二酸化ケイ素の結晶又はナノ結晶が、一部分においてさえも含まれない。代わりに、ナノ結晶状又は非結晶質状のアルミナ又は二酸化ケイ素が、CIMブラケット本体12と連続的かつ直接的につながれる。さらに、他の実施形態において、アルミナのコーティング14が、少なくとも約87.5wt.%のアルミナである。さらなる例において、アルミナが、少なくとも約99wt.%のアルミナである。さらに他の例において、アルミナが、少なくとも約99.5wt.%のアルミナである。ある実施形態において、コーティング14が、基本的に、アルミナから構成される。本願明細書において使用される“基本的に構成される”とは、他の要素が、意図的に、コーティング14に加えられていないことを意味する。しかしながら、原材料又は製造プロセスから他の要素の不純物を含むことが予期されうる。
【0025】
ある実施形態において、コーティング14が、コーティング14を蒸着することによって形成されたアルミナ又は二酸化ケイ素の薄膜であってよい。蒸着コーティングが、物理的気相成長法(PVD)又は化学的気相成長法(CVD)のような当技術分野で周知の膜蒸着技術によって形成されてよいが、他の膜蒸着技術が、同様に適したものでありうる。
【0026】
コーティング14が、数オングストローム(例えば、アルミナ又は二酸化ケイ素の2又は3の基本単位格子の厚さ)から、約15μmの厚さを有し、又は、改善されたトルク強度を提供しつつ、CIMブラケット本体12の外観を損なわない他の厚さであってよい。例えば、コーティング14が、CIMブラケット本体12の表面粗度を考慮にいれた連続するコーティングを形成するための最小の厚さであってよい。具体的には、CIMブラケット本体12の表面粗度が、0.1μmRaである場合、コーティングの厚さが、平均約0.1μm又はそれよりもわずかに厚くてよく、CIMブラケット本体12の表面にわたって連続するコーティングを形成する。さらなる例において、コーティングの厚さが、約1μmから約2μmの間であってよく、他の例において、コーティング14が、約1.5μmの厚さである。
【0027】
図3を参照する他の実施形態において、付加的なコーティングが、コーティング14上に形成され、CIMブラケット本体12上に多層コーティング42を形成する。例えば、第二コーティング44が、上記のコーティング14を形成するために使用されたのと同様な方法によって、コーティング14の少なくとも一部上に形成されてよい。
図3に示されたある実施形態において、第二コーティング44が、コーティング14と連続的かつ直接的に結合される。第二コーティング44が、コーティング14と接着するアルミナ、他の透明な酸化物、窒化物、又はホウ化物のようなセラミックであってよい。あるいは、第二コーティング44が、本質的に透明又は半透明ではないが、第二コーティング44を含む多層コーティング42を容易に透明又は半透明にするのに十分に薄い厚さを有する材料であってよい。第二コーティング44が、数オングストロームの厚さから約15μmの厚さの間で変動してよい。さらなる例において、第二コーティング44が、約1μmから約2μmの間の厚さであってよく、さらに他の例において、約1.5μmの厚さである。
【0028】
図3に描かれているような他の実施形態において、第三コーティング46が、第二コーティング44の少なくとも一部上に形成されてよい。第三コーティング46が、第二コーティング44又はコーティング14と同じ材料であってよく、又は第三コーティング46が、第二コーティング44並びに第二コーティング44によって覆われないCIMブラケット本体12及びコーティング14のいずれの部分と接着する異なるセラミックであってよい。(
図3に示されるように)実質的に同じ厚さであるというよりはむしろ、各コーティング14,44,46が、異なる厚さであってよい。ブラケットの美的な特徴が、多層コーティング42によって損なわれないように、多層コーティング42が、全体として、透明又は半透明である。3つの層を含むものとして多層コーティング42が描かれているが、本願明細書に記載された原理に従って付加的な層が追加されうることを当業者は理解するだろう。
【0029】
図3に示されるように、多層コーティング42を形成する付加的な層が、例えば、いずれの予め付加されたコーティングを有するCIMブラケット本体12を、1つのコーティングプロセス及び1つ又はそれ以上の付加的なコーティングプロセスに循環させることによって得られうる。あるいは、多層コーティング42が、コーティングプロセスの電源をパルシング又はサイクリングさせることにより形成され、1つ又はそれ以上の別個の層が形成される。
【0030】
本発明の他の実施形態において、CIMブラケット本体12の表面の一部が、コーティングの前に除去される。例として、除去された表面の部分が、CIMブラケット本体12の見えている表面の全てを含んでよく、又は、弧線スロット内表面を含んでよい。CIMブラケット本体12をコーティングする前にCIMブラケット本体12から形成されたままの表面の欠陥を除去する段階が、そのトルク強度をさらに強化すると考えられる。成形されたままのブラケット本体と比較したトルク強度の改善が、少なくとも約5%であり、;さらなる例においては、トルク強度の改善が、少なくとも約20%であり、;さらなる例においては、少なくとも約60%でありうる。除去された深さは、射出成形及び上記のいずれのその後のプロセスと関係する欠陥を除去するために十分である。ある実施形態において、CIMブラケット本体12の表面の約15μm以下が、コーティング前に除去される。表面の一部を除去する段階が、研削、プラズマ源を用いた表面のエッチング、酸(例えば、リン酸、硫酸、又はセラミック材料をエッチングすることが可能な他の酸)を用いた表面のエッチング、表面のイオンミリング、若しくはレーザーを用いた表面の溶融、又はこれらの組み合わせを含んでよい。
【0031】
さらに他の実施形態において、CIMブラケット本体12の表面が、表面をイオン衝撃することによって処理されてよい。CIMブラケット本体12の表面の一部を除去した後に、又は成形されたままの表面をコーティングする前に、イオン衝撃させてよい。イオン衝撃が、CIMブラケット本体12の表面内にイオンを注入する金属イオン衝撃を含んでよく、又は、混合−金属イオン衝撃、及びその後の希ガスイオン衝撃を含んでよい。1つ又はそれ以上の前工程を経由して表面内にイオンを注入する段階が、CIMブラケット本体12の表面内における圧縮残留応力を与えると考えられる。トルク強度が、成形されたままのブラケット本体と比較して少なくとも約5%増加することが観察され、;さらなる例において、トルク強度の改善が、少なくとも約20%であり、;及び、さらなる例において、成形されたままのブラケット本体と比較して少なくとも約60%でありうる。理論に縛られることを意図するものではないが、
図1を参照すると、コーティング14が、弧線20と弧線スロット18との間の摩擦を低減し、弧線20が、弧線スロット18内のラインに沿って又はいずれの単一の位置においてCIMブラケット本体12内を研磨するまたは掘削することを防ぐため、アルミナ又は酸化ケイ素のコーティング14が、CIMブラケット本体12の平均トルク強度を予期されないほど改善すると本発明者は考えている。これが、CIMブラケット本体12内にマイクロクラックを引き起こす可能性を最小化する。さらに、引張荷重にさらされた場合において、CIMブラケット本体12の表面内における表面傷(例えば、
図2A−2Dに示されたもの)が開裂することを、コーティング14が防止しうる。また、コーティング14が、CIMブラケット本体12の表面内の圧縮応力を形成しうる。従って、CIMブラケット本体12の表面内において正味の引張応力を受ける前に、弧線20からのトルクによって生成された引張応力が、第一に、表面内に生じた圧縮応力を上回るものでなければならない。
【0032】
場合によっては、形成されるべきクラックが、CIMブラケット本体12内よりはむしろコーティング14の表面においてより形成されやすくなるように、応力が、コーティング14にそらされうる。これらがそれた場合に、コーティング14の表面において引き起こされるべきクラックが、コーティング14とCIMブラケット本体12との間の界面に移動すると考えられる。クラックがそらされることによって、クラックの長さが、必然的に増加するはずである。クラックの長さが増加することによって、CIMブラケット本体12内にクラックを伝播させるために必要な引張応力が増加し、結果として、トルク強度が改善される。
図3を参照すると、複数のコーティング層が使用される場合、各層の厚さによってだけでなく、図示されたような各層の間の界面に沿ってクラックが伝播するという傾向のために、クラック伝播経路48がさらに広がりうる。
【0033】
本発明のさらに完全な理解を容易にするために、以下の非−制限的な例が提供される。
【0034】
(実施例)
2つの異なるセルフ−ライゲーティングブラケット構造(それぞれ、モールドA及びモールドC)のサンプルブラケットを、日本の東京の東ソーから仕入れた。2つの異なる多結晶アルミナ組成物が、モールドA及びモールドCブラケットを成形するために使用された。東ソーから仕入れたアルミナ組成物の一方が、型番PXA−800−Aによって識別され(以下“#1アルミナ組成物”)、他方が、PXA−801−A(以下“#2アルミナ組成物”)によって識別された。この2つのアルミナ組成物間の周知の相違点は、セラミック射出成形プロセスの間に使用されるそのバインダー/粉末比である。#2アルミナ組成物が、#1アルミナ組成物よりも多くのバインダーを備えていた。ブラケットを形成するためのアルミナ組成物からそのアルミナ組成物(即ち、#1アルミナ組成物又は#2アルミナ組成物)を指定することに加え、ブラケットの微細構造の所望の平均粒径も、指定された。例示のみを目的としかつなんら制限しないものとして、東ソーから受け取ったCIMブラケット本体の外表面の微細構造が、
図4Aに示され、CIMブラケット本体の内部微細構造が、
図4Bに示される。受け取ったままのブラケットの一部が、以下に記載するようなさらなる表面処理にさらされ、その結果グループ化された。各ブラケットのトルク強度が、以下のように測定された。
【0035】
図5Aを参照すると、各サンプルブラケット50、もしあれば、表面処理後のものが、個々に、接着剤(例えば、Loctite(登録商標)480,P/N48040,Henkel Loctite Corporation,ロッキーヒル,コネティカット州)で、1/2インチのスチールボールベアリング52(取り付け前に、スチールボールの表面がエッチングされた)に取り付けられた。接着剤を完全に硬化させるために、ベアリング52とサンプルブラケット50のアセンブリに、促進剤(例えば、Loctite(登録商標)712)が噴霧された。ブラケットとともに使用するために、長方形の弧線54(例えば、0.018インチ/0.025インチのステンレス鋼弧線,Ormco Part No.254−1825、又は0.0215インチ/0.028インチのステンレス鋼弧線,Ormco Part No.254−1528)が、1−インチの長さに切断された。以下に示すような、異なる寸法の他の弧線も使用された。各ブラケットのセルフ−ライゲーティング機構が取り除かれた。適当なサイズの切断された弧線が、各サンプルブラケット50の弧線スロット内に挿入された。弧線と弧線スロットとの間のゆるい取り付けをきちんと回避するように、各弧線54が、弾性ポジショナ(Ormco Part No.801−0039)を使用する弾性0−リング、即ち、Ormco社から入手したMolded Power“O”(0.110インチ)(Ormco Part No.640−0074)でブラケットに結紮された。換言すると、弧線が、弧線スロット内において、ぴったり(snuggly)とシート化されて取り付けられるように選択された。
【0036】
図5A及び5Bを参照すると、Instron5542によるトルク強度測定のために、ボールベアリング52に取り付けられたサンプルブラケット50の結紮された弧線54が、トルクアーム56にはめ込まれた。
図5Aに示されているように、ブラケット50の歯肉側が、トルクアーム56と結合するために上向きの方法で面するように向けられた。
図5B及び5Cに示されているように、トルクアーム56が、ブラケット50の周囲の隙間(clearance)のための両垂直方向及び水平方向におけるノッチを有するフォーク型端部57を備えたスチールバーであり、それがサンプルブラケット50の各側面から突き出した弧線54をはめ込むことを可能にした。異なる弧線サイズに対応するために、それぞれ異なる水平方向ノッチサイズを有する数多くのトルクアームが使用された。フォーク型端部57における水平方向ノッチが、ある弧線サイズに対応する大きさとされた(例えば、0.019インチ/0.025インチ、0.021インチ/0.028インチ、又は0.021インチ/0.025インチの弧線)。しかしながら、他の寸法のトルクアームも同様であった。フォーク型端部57から荷重が加えられるトルクアーム軸62まで、各トルクアーム56が、約1.6インチ(4.06cm)の長さであった。この長さに加え、フォーク型端部57から垂直ノッチの各側面の部分が、0.150インチ幅であり、ブラケット50の周囲の隙間のための垂直ノッチが、0.200インチ幅であり、0.150インチ深さであった。
図5Cを参照すると、トルクアーム56が、Instron5542と共に働くアームポジショナ60の保持スロット内に保持された。
図5Dに示されるように、ボールベアリング52が、1/2インチ5Cコレット(図示しない)内に固定され、トルクアーム56及びアームポジショナ60を、Instron5542の圧縮ラム58によって加えられた荷重の方向と水平及び垂直に保持した。
図5Eを参照すると、アームポジショナ60が、圧縮ラム58の端部内に形成された凹部64内におけるトルクアーム軸62にそろえられた。Instron5542が、±100N静荷重を有し、Bluehill 2 software version 2.13で操作された。
【0037】
各サンプルのトルク強度が、20mm/分の速度で、サンプルブラケットが破壊するまで、圧縮ラム58とともにアームポジショナ(トルクアーム軸62において)/トルクアームを動かすことによって測定された。前記手順に従って、各グループに対する平均トルク強度が、破損時における各ブラケットの荷重から計算された。
【0039】
表1のサンプルブラケットが、全て、“モールドA”と表されたあるセルフ−ライゲーティングブラケット構造であった。全てのブラケットの弧線スロットの角の丸みが0.005インチであった。
【0040】
グループA,B及びCブラケットが、プレイン(plain)ベースの構造を有し、#1アルミナ組成物から形成された。グループA,B及びCのブラケットを形成するために使用されたモールドが、研磨されなかった。グループA,B及びCブラケットに結紮された弧線が、ステンレス鋼から形成され、0.021インチ/0.028インチの断面を有した。
【0041】
グループD,E及びFブラケットが、楕円(oval)ベース構造を有し、#2アルミナ組成物から形成された。グループD,E及びFブラケットの弧線スロットを形成するモールドの部分が、研磨された。グループEブラケットに使用された弧線が、ステンレス鋼から形成され、0.021インチ/0.028インチの断面を有した。グループD,F及びGブラケットに使用された弧線も、ステンレス鋼から形成されたが、0.019インチ/0.025インチであった。
【0042】
表1に示されるように、グループA及びDのブラケットが、成形されたままの条件で、すなわち、これらが、いずれのその後の表面機械加工、エッチング又はコーティングプロセスにさらされずに、試験された。
【0043】
グループBのサンプルブラケットが、過飽和テトラホウ酸ナトリウム溶液でエッチングされた。過飽和テトラホウ酸ナトリウム溶液でエッチングされたサンプルブラケットが、少なくとも30秒から数分間の間、溶液内に沈水された。次に、サンプルブラケットが、約850℃から約900℃の間の温度にまで、約15℃/分で加熱され、その温度範囲に、15から30分間保持された。
【0044】
グループC及びFのサンプルブラケットが、弧線スロットを含むブラケットの見えている表面上において、約1μmから約2μmの厚さを有するPVDラジオ周波数(RF)スパッタアルミナでコーティングされた。コーティングが非結晶質であるか又は結晶質であるかどうかについての、いくつかのコーティングのX−線回折解析の、結論が出なかった。X−線回折データによると、いくつかのコーティングが、非結晶質であるが、他の物は、いくらかの結晶化度を示し、これが、コーティングが、境界の結晶質でありうるか、非結晶質及び結晶質領域の両方を有しうることを示した。X−線回折ピークが、非結晶質材料のそれと同様に、比較的広く、コーティングが、極めて細かな結晶粒を含みうることを示したことが分かった。
【0045】
グループEのサンプルブラケットが、240/320グリットダイアモンドホイールで研磨され、上記の焼結及び射出成形プロセスと関係した欠陥を除去するために十分な深さまで、成形されたままのブラケット表面を除去した。
【0046】
グループGのサンプルブラケットが、PVD RFスパッタアルミナの3つの層でコーティングされ、それぞれが、ほぼ同じ厚さとされた(各々約1μmから約2μm)。
【0047】
表1のデータに示されているように、#1アルミナ組成物において、本発明のある実施形態によるアルミナコーティングサンプルブラケットのトルク強度が、約1.36Nの平均トルク強度を示し(グループC)、平均トルク強度の十分な改善、即ち、成形されたままのブラケット(グループA)に対する約1.27Nと比較して約7.1%増の改善、及び(グループB)のエッチングされたブラケットに対する約1.30Nと比較して約4.6%の改善を意味する。
【0048】
さらなる実施例では、#2アルミナ組成物において、本発明のある実施形態によるサンプルブラケット(グループF)が、約1.64Nの平均トルク強度を有し、約1.11Nの平均トルク強度を有するグループDの成形されたままのブラケット、及び約1.39Nの平均トルク強度を有するグループEのダイアモンド仕上げブラケットの両方と比べてトルク強度が改善していた。従って、本発明のある実施形態によるコーティングされたブラケット(グループF)が、成形されたままのブラケット(グループD)と比較して少なくとも約47.7%だけ、及びダイアモンド仕上げブラケット(グループE)と比較して少なくとも約18.0%だけ平均トルク強度が予期しないまで増加することを特徴としていた。
【0050】
ここで、表2を参照すると、また、異なるセルフ−ライゲーティングブラケット構造(モールドC)のトルク強度が測定された。全てのサンプルブラケットが、プレインベース構造であって、各ブラケットを形成するために使用されたモールドが、ブラケットを形成する前に研磨された。弧線スロットの角の丸みが、0.005インチの半径を有して成形されたものであった。
【0051】
グループH,I及びJのブラケットが、#1アルミナ組成物でセラミック射出成形された。グループH,I及びJのブラケットに対して使用された弧線が、0.021インチ/0.025インチの断面を各々有するステンレス鋼から形成された。
【0052】
グループK,L及びMのブラケットが、#2アルミナ組成物でセラミック射出成形された。グループK,L及びMのブラケットに対して使用された弧線も、ステンレス鋼から形成されたが、0.019インチ/0.025インチの断面を各々有するものであった。
【0053】
表2が、上記の表1とともに、成形されたままの条件で、過飽和ホウ酸ナトリウム溶液でエッチングされた後で、及びアルミナでコーティングされた後で測定されたサンプルの平均トルク強度データを提供する。
【0054】
#1アルミナ組成物から形成されたモールドCブラケット構造に対して、本発明のある実施形態によるアルミナコーティングを有するブラケット(グループI)と、成形されたままのブラケット(グループH)との間における平均トルク強度の改善が、少なくとも約31.4%である。さらに、アルミナコーティングブラケット(グループI)が、エッチングされたブラケット(グループJ)と比較して、少なくとも約39.4%のトルク強度の改善を示した。
【0055】
同様に、#2アルミナ組成物から形成されたブラケットに対して、本発明のある実施形態によるグループLのアルミナコーティングブラケットが、グループKの成形されたままのブラケットの平均トルク強度よりも少なくとも約59.7%大きな平均トルク強度を有する。グループLのアルミナコーティングブラケットの平均トルク強度が、グループMのエッチングされたブラケットよりも少なくとも約60.9%大きい。
【0056】
上記のように、成形されたままのブラケット、ダイアモンド仕上げブラケット、及びエッチングされたブラケットと比較した歯列矯正気10のトルク強度の改善が、予期されないものである。この予期しない改善は、コーティング/CIMブラケット本体界面においてクラックがそれ、結果としてクラック長さが増加することによるものであると考えられる。
図6Aは、ある実施形態の歯列矯正器10の破損表面を描いたものである。
図6Aに示された歯列矯正器10が、表2のグループI−モールドCブラケットのブラケットであった。
図6Aに示されているように、コーティング14内においてクラックが開始していることが、CIMブラケット本体12を通した破損面からオフセットした位置(
図6Aにおいて矢印66で示される)に表れているように見える。従って、クラックが、コーティング/CIMブラケット本体界面でそらされ、CIMブラケット本体12の中を進む前に、コーティング14とCIMブラケット本体12との間の界面における高応力領域に対する界面に沿って、クラックが伝播されたと考えられる。
図6Bが、ある実施形態の歯列矯正器10の他の破損表面を示す。
図6Bに示された歯列矯正器10が、表1のグループC−モールドAブラケットのブラケットであった。しかしながら、この場合、クラックが、さらに真っすぐに、平面的な方式で、コーティング14からその下部のCIMブラケット本体12に伝播したように見える。
【0057】
上記に示したように、本発明のある実施形態において、CIMブラケット本体12が、一部分において、3.4μmから約6μmの範囲の平均粒径によって記載された粒径分布を有する多結晶セラミックから形成される。この範囲の平均粒径を有する多結晶セラミックの実施形態が、参照によりその開示が全体的に本願明細書に組み込まれる、2008年10月17に出願された発明の名称が“Aesthetic Orthodontic Bracket and Method of Making Same”である特許文献1に記載されている。この範囲の平均粒径が、CIMブラケット本体12に予期しないほど高い破壊靭性を与えると考えられる。従って、上記のように、コーティング14を備えたこの範囲の平均粒径を有するCIMブラケット本体12を含む歯列矯正器10の実施形態が、予期しないほど高い破壊靭性及び予期しないほど高いトルク強度の両方を有しうる。
【0058】
破壊靭性に関し、多結晶セラミックが、例えば、少なくとも約3.85MPa・m
1/2の平均破壊靭性を示し、及びさらなる実施例では、約4μmから約4.3μmの間の平均粒径を有する多結晶セラミックが、約5.0MPa・m
1/2を超える平均破壊靭性を有する。換言すると、平均破壊靭性が、約3.4μmから約6μm以下の範囲、及びほとんどが約3.5μmから約5μmの範囲にピークを有すると考えられる。
【0059】
本願明細書に記載された平均粒径が、ラインインターセプト(line intercept)法による多結晶セラミックの研磨断面上の複数の粒長を測定することによって決定されてよい。特に、平均粒径が、式D=1.56(L)による粒長測定から計算されてよく、ここで、Dは、平均粒径であり、Lは、粒子の平均長である。平均粒径及び粒径分布が、Olympus America Inc., Center Valley,PAから入手可能な粒径モジュールを使用するanalySISソフトウェアのような商用の入手可能なソフトウェアを使用することにより決定されてもよい。
【0060】
多結晶セラミックの破壊靭性が、少なくとも2つの方法によって決定されてよい。一つの方法が、一表面上の制御された若しくは既知サイズのクラック又は欠陥(flaw)を含む多結晶セラミックのバーを破壊するように3点曲げ機構を使用する。3点曲げ機構において、材料のバーが、バーの長さに沿って2つの位置において一側面上に支持される。各位置が、一方のバーの端部の近くである。対向する支持体の間の距離が、支持スパンと呼ばれる。支持体と制御された欠陥の両方と反対の表面上のバーの中心に、荷重が加えられる。バーが破壊するまで、この荷重を次第に増加させる。この配置(即ち、一側面上の2つの支持体であり、荷重が、対向する側面上の支持体間に加えられる)が、制御されたサイズの欠陥を含むバーの表面内における引張応力を形成する。
【0061】
3点曲げ試験に対するサンプルが、通常、長方形バー形状である。例えば、破壊靭性試験に対する多結晶セラミックのサンプルが、約1.00±0.1mmの厚さ、約3.00±0.01mmの幅、及び約12.00±0.01mmの長さを有してよい。さらに、約0.050mmから約0.100mmの深さを有するノッチが、制御されたサイズの欠陥を形成するように、ダイアモンド研磨されたほぼバーの中点におけるバーの一表面内に切り込まれる。このバーが、例えば、約9mmでよい支持スパン上に配置される。バーが破壊するまで、ノッチと反対の表面上に、荷重が加えられる。破壊靭性が、数式1及び数式2による破壊時の荷重から計算されてよい。
【0063】
ここで、K
ICが、クラックに垂直な方向の引張応力下における材料の破壊靭性であり、Pが、破壊時における荷重であり、Sが、支持スパンであり、wがバー幅であり、tが、バー厚さである。
【0065】
ここで、aが、3つのクラック長さ測定の平均であり、a
1,a
2及びa
3が、既知サイズのクラックの深さである。
【0066】
他の方法によると、破壊靭性が、ビッカース硬さ側k亭から計算されることが可能である。この場合、破壊靭性が、数式3によって計算されてよい。
【0068】
ここで、K
Cが、破壊靭性であり、Pが、押し付け荷重であり、Eが、弾性率であり、HVが、測定されたビッカース硬さであり、及びcが、ビッカース硬さ圧子によって形成された平均クラック長さの1/2である。この方法を使用することによって、多結晶セラミックのバーを試験するというよりはむしろ、破壊靭性が、ブラケット本体上で測定されうる。
【0069】
ある実施形態では、上記の平均粒径に加え、多結晶セラミックが、大きな粒子と小さな粒子の両方の混合物である。例として、3.4μmから約6μmの範囲の平均粒径として記載された粒径分布を有する多結晶セラミックが、6μm以上のサイズの粒子と3.4μm以下のサイズの粒子をさらに含んでよい。
【0070】
さらに、ある実施形態の歯列矯正器10において、CIMブラケット本体12が、粒径分布が対数正規分布ではないことを特徴とする多結晶セラミックである。定義により、対数正規分布は、その対数が平均について正規分布したランダム変数によって特徴づけられる。例として、多結晶セラミックによる粒径分布が、マルチモーダル(multimodal)である。特に、粒径分布が、二峰性分布でありうる。
【0071】
ある実施形態において、粒径分布が、約1μmから約5μmの粒径の第1ピーク又はモード、及び約5μm以上の粒径の第2ピーク又はモードを有する二峰性分布である。例として、第2ピークが、約5.5μmと約7μmの間でありうる。しかしながら、当然のことながら、第2ピーク又は付加的なピークが、7μm以上の粒径において生じうる。また、当然のことながら、二峰性粒径分布が、2重の微細構造を表現しない。ある実施形態において、3.4μmから約6μmの範囲の平均粒径及び少なくとも二峰性粒径分布を有する多結晶セラミックに対する平均破壊靭性が、約4.0MPa・m
1/2以上である。
【0072】
さらに、約3μm以下の粒子と大きな粒子との間の特定の割合を有することを特徴とする粒径分布が、クラックの伝播に対する耐性をさらに高めうることを本発明者は確認した。例として、多結晶セラミックが、約3μm未満の大きさの粒子を総数の約50%以下だけ有する粒径分布を有しうる。さらなる例として、多結晶セラミックが、少なくとも10%の3μm未満の大きさの粒子数を有する粒径分布を有しうる。ある実施形態において、3μm未満の大きさの粒子の数が、例えば、粒子の総数の約10%から約50%の間である。さらに他の例において、多結晶セラミックが、約10μm未満の大きさの粒子を粒子の総数の約90%以下だけ有する粒径分布を有することを特徴としうる。さらなる例において、約10μm未満の大きさの粒子の総数が少なくとも70%である。従って、ある実施形態において、約10μm未満の粒子の総数が、粒子の約70%から約90%の間である。
【0073】
ある実施形態によると、体積分率に関して、多結晶セラミックが、10μm以上の大きさの粒子が全体積の50%以下を占めうる粒径分布を有することを特徴とする。例として、ある実施形態において、10μm以上の大きさの粒子が、少なくとも10%であり、さらなる例において、10μm以上の大きさの粒子が、全体積の約10%から50%以下でありうる。約10μm以上の粒子の体積分率が、特定の粒径範囲の粒子の体積を決定し、その体積にその粒径範囲の粒子の総数を掛け、次に、全ての粒子の全体積で割ることにより計算されることが可能である。理論に縛られることを意図するものではないが、上記のような粒径分布を有する多結晶セラミックが、この範囲外の平均粒径を有する多結晶セラミックと比較して、クラック伝播経路を長くすると考えられる。粒径分布が、伝播クラックの方向を変化させ、及び/又はクラック伝播のモードを変化させると考えられる。特に、粒子境界の存在が、クラックの伝播方向及び/又はクラックの伝播のモードに影響を及ぼしうる。方向の変化及び/又はモードの変化が、真っすぐな経路に沿ってクラックを伝播させるために必要なエネルギーよりも比較的多いエネルギーを消費しうる。多結晶セラミック内のクラック伝播のモードが、粒間若しくは粒内のいずれか、又はその両方である。粒間クラック伝播が、粒子境界(即ち、粒子間)をたどり、一方、粒内クラック伝播が、粒子を通り抜ける。従って、伝播クラックが、粒子境界又は粒子と直面した場合、クラックが、方向を変えるように強いられ、その伝播のモードが変えられ(即ち、粒内から粒間に又はその逆)、又は、伝播の方向とモードの両方が変えられうる。クラック伝播の方向及び/又はモードを変えさせることによって、クラック経路の長さが増加し、これが、さらにエネルギーを消費し、及び、従って、破壊靭性が、増加しうる。
【0074】
上記のクラック伝播のモードを変化させるに従って、ある実施形態において、多結晶セラミック内へのクラック伝播が、混合モードとなりうると本発明者は考えている。即ち、多結晶セラミック内にクラックが伝播する場合、それが多結晶セラミックを通して進むにつれて、多結晶セラミックが、クラックに、一度又は何度もその伝播のモードを変えるようにさせうる。10μm未満の大きさの粒子の存在が、粒間のクラック伝播を促進しうる。しかしながら、10μmの大きさ又はそれ以上の粒子に直面したクラックが、粒内の伝播のモードに変化させられうる。従って、クラック伝播の混合モードが、さらに、伝播経路を長くし、従って、多結晶セラミックの破壊靭性を増加させうる。
【0075】
本発明が、それに関しての1つ以上の実施形態の記載によって説明され、その実施形態が、十分に詳細に記載されたが、これらは、添付の特許請求の範囲の範囲を制限する又はそのような詳細な記載に決して限定することを意図するものではない。付加的な利点及び変更が、当業者には容易に理解されるだろう。従って、その広範な態様における本発明が、具体的な詳細な記載に、及び示され及び記載された説明のための例に制限されない。従って、異なる事項が、全体的な発明概念の範囲から逸脱することなく、このような詳細な記載から導かれうる。