【課題を解決するための手段】
【0009】
この目的は、請求項1の特徴を有する塩化水素またはその水溶液の製造方法
、および請求項
15の特徴を有する電気透析システムにより達成される。
【0010】
本発明に従い、未処理の塩水を使用することにより塩化水素またはその水溶液すなわち塩酸を製造するための方法が提供され、その方法は、
a)塩化物イオンを含む第1電解液を提供するステップと、
b)電気透析を実施するステップであって、
第1電解液がカソード還元に付され、その結果としてカソード液が生成し、
第1電解液の塩化物イオン濃度が低下し、
第1電解液の水酸化物イオン濃度が上昇し、かつ
塩化水素またはその水溶液の形態の生成物が生成する
ステップと、
c)カソード液の少なくとも一部を処理するステップであって、
その結果として第1電解液が生成し、
未処理の塩水が使用され、
カソード液の塩化物イオン濃度が上昇し、かつ
カソード液の水酸化物イオン濃度が低下する
ステップと、
d)ステップ(c)に従い処理されたカソード液の少なくとも一部をステップ(b)の第1電解液として再使用するステップと
を含む。
【0011】
本明細書においては、生成物が塩化水素またはその水溶液すなわち塩酸の形態で生成する電気透析方法の実施を初めて提案する。本明細書においては、電気透析において生成したカソード液の少なくとも一部は、未処理の塩水を用いて処理される。次いで、こうして処理されたカソード液の少なくとも一部がステップ(b)における第1電解液として再使用される。
【0012】
こうすることにより、電気透析において生成したカソード液の費用の嵩む廃棄が有利に回避される。
さらに、処理後のカソード液を再使用することにより、本発明の方法では、さらなる化学物質、特に、例えば濃塩酸等の濃酸の少なくとも一部を使用せずに済ませることが可能になる。
【0013】
このようにして、電気透析の出発物質にかかる費用が削減されるだけでなく、さらなる化学物質を使用せずに済ませることも可能である。すなわち、本発明により、至る所に存在する無害の天然の塩水から塩化水素または塩酸を消費地で直接製造することが可能になる。
【0014】
したがって、本発明による方法は、到達が困難な消費地または相当な運搬費用をかけないと化学物質を供給することができない消費地で塩化水素またはその水溶液を提供することを可能にする。
【0015】
本発明による電解液とは、イオン伝導性流体、特に、塩類を含む水溶液と理解される。カソード液とは、カソード還元による電気化学的作用を受けた後の電解液と理解されたい。アノード液とは、アノード酸化による電気化学的作用を受けた後の電解液と理解されたい。
【0016】
本発明による製造方法の有利な発展形態は、添付の請求項2〜4の主題である。
したがって、未処理の塩水は天然の塩水であっても合成の塩水であってもよいが、好ましくは、海水、汽水、地下水、湧水、天然または合成の塩水、またはその混合物もしくは濃縮物である。
【0017】
つまり、実質的に任意の天然または合成の塩水を、本発明による方法に用いるための未処理の原水として使用することが可能である。したがって、実質的に遍在する出発物質を使用することによって、本発明による方法が地理上の幅広い地域で用いられる。この種の塩水は実質的に至る所で低コストで入手できる。
【0018】
さらに、未処理の塩水の塩類濃度、特に、アルカリ金属塩化物の濃度は、飽和濃度まで、好ましくは0.4〜25重量%、より好ましくは2〜10重量%、特に2.8〜4.6重量%の範囲内とすることができる。
【0019】
これにより、本発明の方法の範囲内において、有利なことに、塩類濃度が高い水、例えば塩類濃度の高い工業廃水、濃縮海水、または例えば塩類濃度の高い自然の海水(例えば、死海の水等)を利用することが可能になる。他方、一般的な海水も本発明の方法の未処理の原水として容易に使用することができる。
【0020】
さらに、ステップ(a)において、第1電解液は、未処理の塩水から製造することができる。
ステップ(c)に従うカソード液および/または第1電解液の処理は、回分式または連続式で実施することができる。
【0021】
回分式で処理を行うと、第1電解液の処理される割合がより高くなり、したがってシステム効率をより高めることが可能になる。
他方、カソード液を連続式で処理する場合、有利なことに、この方法を実施するのに必要な槽がより小型になり、かつ/または必要な槽の数が減る。
【0022】
さらにこの電気透析は、3室、すなわちカソードを収容するカソード空間、中間室の形態で実装された生成物空間、およびアノードを収容するアノード空間を備える電気透析セル内で実施することができる。
【0023】
このように、塩化水素または塩酸を得るための電気透析を実施するために、特に本発明の方法を実施するために、3室型電気透析セルを使用することを初めて提案する。ただし、従来使用されている4室型電気透析セルとは異なり、生成した塩化物イオンおよび水酸化物イオンをさらなる膜によってそれ以上分離することは行われないという欠点が存在する。したがって、塩化物を含まないNaOHを得ることはできない。
【0024】
その一方で、3室型電気透析セルを使用すると、さらに追加の膜を使用せずに済むという利点がある。その結果として、電気透析セルの構成が構造面で簡素化され、より費用効率が高くなる。
【0025】
さらに、本発明による電気透析方法は、より低いセル電圧で実施することができ、それによって、有利なことに必要なエネルギーが少なくなる。
さらに、第1電解液および/またはカソード液は、少なくともステップ(b)の最中に、電気透析セルのカソード空間を通ってカソード液および/または第1電解液用の貯留槽を経由して循環させることができる。
【0026】
この第1電解液および/またはカソード液を循環させることにより、異なっていた濃度が等しくなるように均一化することができる。
さらに、循環を行うことによって、第1電解液および/またはカソード液の状態調整が簡素化される。ここで言う状態調整とは、所定のpH、所定の温度、および/または(例えば塩化物および/または水酸化物イオンを)所定の濃度に調整することと理解される。濃度の調整は、使用済みのカソード液を選択的に除去することと、新鮮な電解液または好ましくは処理された電解液を選択的に供給することによって行うことができる。
【0027】
さらに、第1電解液および/またはカソード液は、ステップ(a)〜(d)の1つを行う最中に温度調節、特に冷却することができる。
つまり、温度をより高温に調整することによって、電解液の導電率をより高くすることが可能である。しかしながら、電解液の温度を45℃以下に調整する、例えば電解液および/またはカソード液を冷却することにより、電気透析セル中に設けられた膜を熱による損傷から保護することができる。
【0028】
ステップ(a)〜(d)の少なくとも1つを行う最中に、第1電解液および/またはカソード液は、気体、特に水素ガスを発生する場合がある。
カソード液から水素ガス等の気体状反応生成物が放出されるため、カソード液の導電率がより高くなることによって電気透析反応が改善され、かつ/または生成物の濃度または分圧が低下することによって電気透析反応が促進される。
【0029】
さらに、ステップ(c)は、第1電解液および/またはカソード液の塩化物イオン濃度がステップ(a)における第1電解液の塩化物イオン濃度の30〜70%、好ましくは33〜50%、特に37〜43%の範囲の濃度になったら直ちに実施することができる。
【0030】
これにより、電気透析を実施している最中に、本発明の方法のステップ(c)によるカソード液の処理を既に開始しておくことができる。電気透析およびその結果として得られるカソード液の処理の少なくとも一部を並行運転することにより、全体の処理に必要な時間を短縮することができる。
【0031】
一方、本発明に従い、電気透析反応の開始時点において本発明の方法のステップ(c)による処理を既に開始しておくことさえできる。
塩化物イオン濃度の低下と一緒に電気透析反応の効率も低下するため、電気透析および処理の少なくとも一部を同時に実施することにより、塩化物イオン濃度が低い状態で電気透析セルを運転することが回避されるので有利である。
【0032】
ステップ(b)の最中のセル電圧は、4〜9、好ましくは5〜7ボルト(V)の範囲とすることができる。さらに、セル電流密度は、500〜3,000、好ましくは1,000〜2,000アンペア毎平方メートル(A/m
2)の範囲とすることができる。
【0033】
このようなセル電圧およびこのようなセル電流密度を用いることによって、本発明の方法の電気透析反応が最適な形で進行することが見出された。
さらに、この方法は、
(e)ステップ(b)の最中に、第2電解液および/またはアノード液をアノード側で使用するステップを含んでもよく、第2電解液および/またはアノード液は、非酸化性酸、好ましくは硫酸、硝酸、もしくはリン酸、および/またはそれらのアルカリ金属塩、好ましくは硫酸ナトリウム、硝酸ナトリウム、もしくはリン酸ナトリウム、またはこれらの混合物を含むことができる。
【0034】
このさらなる第2電解液および/またはアノード液は、有利なことに、導電率を高め、したがって電気透析反応を促進する役割を果たす。第2電解液および/またはアノード液に酸を使用した場合、これは低コストなプロトン供給源の役割を果たす。第2電解液および/またはアノード液として塩、例えば硫酸ナトリウムを使用した場合、この塩は電気透析を行うと対応する酸に短時間で変換される。
【0035】
さらに、この方法は、
f)ステップ(b)の最中またはその後に、生成物を塩酸水溶液の形態で、好ましくは電気透析セルの生成物空間から取り出すステップ
を含むことができる。
【0036】
さらに、この方法は、
g)この生成物を用いて、塩水、特に未処理の塩水を、淡水化プロセス用に状態調整するステップ
を含むことができる。
【0037】
この生成物を用いて、塩類を含む水を淡水化プロセス用に状態調整することにより、有利なことに、例えば海水淡水化工場において地下に固着する難溶性の硬い外皮の形成、いわゆる「スケーリング」が防止される。例えばこれらが塩水を加熱する器具の表面に堆積するのを回避することにより、壁面から液相への熱伝達が高く維持され、それによって工場全体の効率を高水準に維持することができる。
【0038】
製造技術面に関しては、この目的は、本発明による方法により製造される製造物、好ましくは塩化水素またはその水溶液により達成される。本発明の方法の利点が同様に当てはまる。
【0039】
本発明による生成
物を用いて、塩水、特に未処理の塩水を淡水化プロセス用に状態調整することができる。
【0040】
これにより、被脱塩水にさらなる安定剤を使用することを有利に回避することができ、それによって経済的支出だけでなく、例えば、海水淡水化工場の運転にかかる物流のための支出も削減される。
【0041】
使用面に関しては
、塩水、特に未処理の塩水を淡水化プロセス用に状態調整するために、この生成物、好ましくは塩化水素またはその水溶液、特に本発明の方法により製造されたものを使用することができる。
【0042】
この場合も本発明の方法の利点が同様に当てはまる。
装置の技術面に関しては、本発明の目的は、請求項
15に記載の電気透析システムにより達成される。
【0043】
したがって、好ましくは本発明による製造物を製造するために、好ましくは本発明の方法を実施するための電気透析システムであって、少なくとも、
・電気透析セルであって、
・陰イオン交換膜、
・陽イオン交換膜、
・カソード、および
・アノード
を備える電気透析セルと、
・カソード液および/または第1電解液用貯留槽と、
・反応槽であって、好ましくはステップ(c)を実施するための反応槽と
を備える、電気透析システムを初めて提案する。
【0044】
ここでも本発明の方法の利点が同様に当てはまる。
本発明による電気透析システムの有利な発展形態は、従属請求項
16〜
20の主題である。
【0045】
したがって、電気透析セルは、3室、すなわち、
・カソードを収容するカソード空間、
・中間室の形態で実装された生成物空間、および
・アノードを収容するアノード空間
を備えることができる。
【0046】
さらに、電気透析システムは、
・アノード液および/または第2電解液用貯留槽
を備えることができる。
【0047】
アノード液および/または第2電解液用貯留槽に関しては、カソード液および/または第1電解液用貯留槽に関する利点が同様に当てはまる。
電気透析システムは、
・生成物用貯留槽
をさらに備えることができる。
【0048】
生成物用の貯留槽を提供することにより、この生成物の製造および利用を別々の時間に行うことが可能になる。
最後に、カソード液および/もしくは第1電解液用貯留槽ならびに/またはアノード液および/もしくは第2電解液用貯留槽は、気体、特に水素および/または酸素ガスを排出するための少なくとも1つの手段を備えることができる。
【0049】
電気透析処理の抽出物または生成物から気体を抜き取ることにより、電解液の導電率を高め、かつ/または生成物の濃度または分圧を低下させることができる。こうすることにより、電気透析反応が促進され、その効率が高くなる。
【0050】
以下の実施例によって、図面の図を参照しながら、本発明をより詳細に説明する。