(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5763190
(24)【登録日】2015年6月19日
(45)【発行日】2015年8月12日
(54)【発明の名称】低摩擦面を提供するための方法
(51)【国際特許分類】
C10M 177/00 20060101AFI20150723BHJP
C10M 101/02 20060101ALI20150723BHJP
C10M 107/02 20060101ALI20150723BHJP
C10M 105/32 20060101ALI20150723BHJP
C10M 107/34 20060101ALI20150723BHJP
C10M 125/22 20060101ALI20150723BHJP
C10N 10/12 20060101ALN20150723BHJP
C10N 10/16 20060101ALN20150723BHJP
C10N 70/00 20060101ALN20150723BHJP
【FI】
C10M177/00
C10M101/02
C10M107/02
C10M105/32
C10M107/34
C10M125/22
C10N10:12
C10N10:16
C10N70:00
【請求項の数】13
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2013-519623(P2013-519623)
(86)(22)【出願日】2010年7月16日
(65)【公表番号】特表2013-531118(P2013-531118A)
(43)【公表日】2013年8月1日
(86)【国際出願番号】SE2010050850
(87)【国際公開番号】WO2012008890
(87)【国際公開日】20120119
【審査請求日】2013年4月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】510132299
【氏名又は名称】アプライド・ナノ・サーフィスズ・スウェーデン・アクチボラグ
(74)【代理人】
【識別番号】100140109
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 新次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100075270
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 泰
(74)【代理人】
【識別番号】100096013
【弁理士】
【氏名又は名称】富田 博行
(74)【代理人】
【識別番号】100092967
【弁理士】
【氏名又は名称】星野 修
(74)【代理人】
【識別番号】100147511
【弁理士】
【氏名又は名称】北来 亘
(72)【発明者】
【氏名】ツムド,ボリス
【審査官】
▲吉▼澤 英一
(56)【参考文献】
【文献】
特開2004−076914(JP,A)
【文献】
特開2009−079138(JP,A)
【文献】
特開2007−099947(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M 177/00
C10M 101/02
C10M 105/32
C10M 107/02
C10M 107/34
C10M 125/22
C10N 10/12
C10N 10/16
C10N 70/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トライボロジー特性の強化された面を製造する方法において、
機械要素を提供する工程(210)と、
工具を前記機械要素の表面に当てて機械的に擦りつける工程(212)と、
処理液を前記機械要素と前記工具の間の接触区域へ提供する工程(214)と、を備え、
前記処理液は、トライボケミカル反応のための第1元素を含む第1の活性成分であって、液体物質中に提供されている第1の活性成分を備え、
前記第1元素はカルコゲン元素であり、
前記処理液が、更に、前記トライボケミカル反応のための第2元素を含む第2の活性成分であって、前記液体物質中に溶解されて提供されている第2の活性成分を備え、
前記第2元素はWとMoのうちの少なくとも一方として選択され、
前記機械的に擦りつける工程は、前記機械要素の極限強度の1%から100%の間の接触圧力で遂行され、
前記機械的に擦りつける工程が、それにより、前記機械要素の前記表面のバニシ仕上げと、前記第1元素と前記第2元素とバニシ仕上げで生成される前記機械要素由来の擦り削られた材料との間のトライボケミカル反応と、前記機械要素の擦りつけ面への前記第1元素と前記第2元素と前記機械要素由来の前記材料とを備えるトライボ膜の堆積と、を一体に引き起こす、製造方法。
【請求項2】
トライボロジー特性の強化された面を製造する方法において、
機械要素を提供する工程(210)と、
工具を前記機械要素の表面に当てて機械的に擦りつける工程(212)と、
処理液を前記機械要素と前記工具の間の接触区域へ提供する工程(214)と、を備え、
前記処理液は、トライボケミカル反応のための第1元素と当該トライボケミカル反応のための前記第2元素とを含む活性成分であって、液体物質中に提供されている活性成分を備え、
前記第1元素はカルコゲン元素であり、
前記第2元素はWとMoのうちの少なくとも一方として選択され、
前記機械的に擦りつける工程は、前記機械要素の極限強度の1%から100%の間の接触圧力で遂行され、
前記機械的に擦りつける工程が、それにより、前記機械要素の前記表面のバニシ仕上げと、前記第1元素と前記第2元素とバニシ仕上げで生成される前記機械要素由来の擦り削られた材料との間のトライボケミカル反応と、前記機械要素の擦りつけ面への前記第1元素と前記第2元素と前記機械要素由来の前記材料とを備えるトライボ膜の堆積と、を一体に引き起こす、製造方法。
【請求項3】
前記第2元素がWであることを特徴とする、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記第2元素がMoであることを特徴とする、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項5】
前記第1元素がSであることを特徴とする、請求項1から請求項4の何れかに記載の製造方法。
【請求項6】
前記第1の活性成分は、
元素硫黄、及び、
活性硫黄、から選択されていることを特徴とする、請求項5に記載の製造方法。
【請求項7】
前記接触圧力が前記機械要素の前記極限強度の10%を超えていることを特徴とする、請求項1から請求項6の何れかに記載の製造方法。
【請求項8】
前記工具が前記第2の活性成分を備えていることを特徴とする、請求項1から請求項7の何れかに記載の製造方法。
【請求項9】
前記処理液が、更に、1つ又はそれ以上の実行性(runnability)作用剤を備えていることを特徴とする、請求項1から請求項8の何れかに記載の製造方法。
【請求項10】
前記液体物質が、鉱油、ポリアルファオレフィン、エステル、ポリエチレングリコール、及びイオン液体の群からの溶媒を備えていることを特徴とする、請求項1から請求項9の何れかに記載の製造方法。
【請求項11】
前記機械的に擦りつける工程が、50MPaを超える接触圧力で遂行されることを特徴とする、請求項1から請求項10の何れかに記載の製造方法。
【請求項12】
前記機械的に擦りつける工程が、100MPaを超える接触圧力で遂行されることを特徴とする、請求項1から請求項10の何れかに記載の製造方法。
【請求項13】
前記機械的に擦りつける工程が、200Mpaを超える接触圧力で遂行されることを特徴とする、請求項1から請求項10の何れかに記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概括的には低摩擦面の提供に、また厳密にはトライボケミカルに基づいて堆積させる低摩擦面の提供に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関の様な設備機器や各種の機械及び機構では、面同士の間の摩擦はエネルギー損失の最大原因の1つである。摩擦は、前記設備の耐用寿命を制限する摩耗の原因ともなる。従って、多くの用途では、概して、低摩擦性であって他の面との接触で被る摩耗ができる限り少ない面を提供することが求められている。最も伝統的なやり方は、潤滑剤を使用することによって摩擦を低減することである。潤滑剤は、面同士を離し、面各々を剪断され易い状態に保ち、相対運動を実現するのに必要な力を軽減する。油の様な液体潤滑剤は、今なお最も多く使用されている種類の潤滑剤である。
【0003】
一部の特定の固体膜潤滑剤は、その実用性がかなり以前から知られている。以下に、ほんの数例を提示する。米国特許第1,654,509号は、軸受けのための耐摩耗コーティングを作るべく黒鉛を金属結合剤へ埋め込んで使用することを記載している。公開されている特許出願GB776502A号は、リン原子、硫黄原子、セレン原子、又はハロゲン原子を含有する蒸発反応性物質で処理することによって形成される保護膜を記載している。これらの保護膜は、有効な潤滑にとって好都合な少なくとも2つの機能を果たすものであり、即ち、(i)それらは固体潤滑剤の耐荷重膜を提供し、且つ(ii)金属の触媒活性を阻害することによって炭化と消失を最小限に抑える。GB782263号は、幾らかの割合の鉄系金属を、アルカリ金属シアン化物、アルカリ金属シアン酸塩、及び活性硫黄を含有する溶融塩浴中に、500℃より上の温度まで加熱することによって硫化させれば、摩耗及び焼付きに対する耐性が改善されることを示している。公開されている国際特許出願WO03091479A号は、ピストンリングとピストンの、適切な添加物を含有する油中加熱による薬品処理を記載している。米国特許第5,363,821号は、黒鉛、MoS
2、BNの固体潤滑剤を、高分子担体/結合剤の中へ組み入れて使用し、それをシリンダ内径壁に噴霧塗工し次いで熱的に固定させることによって耐摩擦コーティングを作ることを記載している。
【0004】
低摩擦コーティングの作製のためのもう1つの方法が、公開されている日本特許出願第2004−76914号に開示されている。摺動部材が摺動面に対して動き、モリブデンと硫黄を含有する潤滑油が摺動面へ供給される。粉末鋼がポリアミドイミド樹脂へ添加され、ポリアミドイミド樹脂を前記潤滑油の存在下に当該面へ押圧することによって、モリブデンと硫黄を強制的に鉄表面上で反応させると、その結果、樹脂の基質中に二硫化モリブデンが保持される。樹脂は、それにより、作り出された二硫化モリブデンの結合剤の役目を果たす。
【0005】
PVD、CVD、及び/又はプラズマスパッタリングによって作製される低摩擦膜を記載している一群の先行技術による技法にも触れておく。而して、公開されている米国特許出願第2005/0214540は、ピストンのためのPVD/CVDコーティングを記載し、米国特許第4,629,547号は、プラズマスパッタリングによって得られる低摩擦ホウ素含有膜を記載している。
【0006】
殆どの固体潤滑剤系にとって共通するのは、潤滑剤が、純粋な潤滑物質としてか又は運搬物質中に含まれる潤滑剤としてかの何れかとして面上へ堆積させられていることである。堆積に次いで、異なった種類の後処理、典型的には熱的処理又は機械的処理が施されることもある。潤滑剤は、こうして、潤滑対象の面の一番上に層として提供されることになる。隣り合う面に対し低摩擦が示されるようにしながら、なお同時に面への十分な接着を得るのは難しい。
【0007】
摩擦の低減化ではトライボ膜(tribofilm)が有利であることはトライボロジーの分野では広く知られている。公開されている国際特許出願WO2009/071674号では、固体潤滑剤のトライボケミカル堆積が有利に使用されており、当該出願は、典型的にはMo又はWを備える工具を硫黄の存在下に覆われる側の面に当てて機械的に擦りつけることによってトライボケミカル堆積膜がどの様に作製されるかを開示している。その様なトライボケミカル堆積膜は、平滑性、摩耗耐性、及び低摩擦性に関し、非常に魅力的な特性を呈している。1つの重要な気付きは、トライボケミカルプロセスが、基板材料にも関与し、基板材料と固体潤滑剤の間に徐々に変態を引き起こしてゆくことである。WS
2及びMoS
2のトライボ膜は、潤滑剤膜強度を高めることができ、結果として、摩耗耐性が高まる。更に、面の完全性が改善され、慣らし運転中及びそれ以後の疲労摩耗が低減される。膜は、低境界摩擦性も有している。トライボ膜も、低境界摩擦性を有している。
【0008】
WO2009/071674に提示されている方法に係る軽微な欠点は、典型的にはMo及び/又はWを備える合金で作られている工具表面が、プロセス中に消耗し、期間を置いて取り換えられなくてはならないことである。また、固体金属と活性硫黄の間の比較的緩慢な不均質反応によってトライボ膜堆積速度が制限されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許第1,654,509号
【特許文献2】特許出願GB776502A号
【特許文献3】特許出願GB782263号
【特許文献4】国際特許出願WO03091479A号
【特許文献5】米国特許第5,363,821号
【特許文献6】日本特許出願第2004−76914号
【特許文献7】米国特許出願第2005/0214540
【特許文献8】米国特許第4,629,547号
【特許文献9】国際特許出願WO2009/071674号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、トライボケミカルに基づいて堆積させる固体潤滑剤コーティングを作製するための作製効率のより高い方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的は、付随の特許請求の範囲の独立請求項に従って実現されている。好適な実施形態が従属請求項に提示されている。大まかに言えば、トライボコンディショニング法は、機械要素を提供する工程を備えている。工具が、機械要素の表面に当てて機械的に擦りつけられる。処理液が機械要素と工具の間の接触区域へ提供される。処理液は、耐熱性金属元素である第1元素と、カルコゲン元素である第2元素と、を備えている。第1元素と第2元素は、液体物質中に提供されている。機械的に擦りつける工程は、機械要素の極限強度の1%から100%の間の接触圧力で遂行される。機械的に擦りつける工程は、それにより、機械要素の表面のバニシ仕上げと機械要素の表面へのトライボ膜の堆積を一体に引き起こす。トライボ膜は、第1元素と第2元素を備える。
【0012】
本発明に係る1つの利点は、固体潤滑剤のトライボ膜を、先行技術による方法よりも工具摩耗を低く抑えながらなお且つ処理パラメータに対する制御性を高めて、製造することができることである。他の利点は、以下の詳細な説明と関連付けて論じられている。
【0013】
本発明は、その更なる目的及び利点と共に、次に続く記述を添付図面と併せて参照することによって深く理解されることであろう。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図2】コーティング時間と工具と被加工物の間の接触圧力との関係の一例を示す図表である。
【
図3】本発明による方法の或る実施形態の諸工程の流れ図である。
【
図4】本発明により作製された個体潤滑剤トライボ膜の摩擦に対する効果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本開示全体を通し、異なった図中の等価の特徴又は直接対応する特徴は、同じ符号を付して表示されるものとする。
【0016】
背景技術に指し示されている様に、固体潤滑剤のトライボ膜は、主に、許容接触圧力及び耐摩耗特性並びに形態学に関し、並はずれた特性を呈する。トライボ膜の構造の重要性を理解するために、トライボ膜の特性の簡単な紹介を従って最初にしておく。
【0017】
非トライボケミカル法に従って固体潤滑剤を面上へ堆積させた場合、最終製品は
図1Aに模式的に示されている製品の様に見えることであろう。或る特定の粗さ4の表面3を有する基板2が固体潤滑剤1の層6によって覆われている。堆積が固体潤滑剤1だけで作られていた場合、又は何らかの追加的な元素が熱的処理又は機械的処理の様な堆積後プロセス中に除去されていた場合、層6全体は典型的には固体潤滑剤1から成る。基板2の相と固体潤滑剤1の相の間には、程度の差こそあれ尖った界面5が存在する。覆われた面の摩耗特性及び圧力特性は、大体において、この界面5の特性に依存することになる。剥離を回避するためには、界面5に亘る結着は強くなくてはならない。同時に、固体潤滑剤1そのものは、典型的に、剪断され易くなくてはならない。固体潤滑剤1の層6の表面7は、使用される堆積法に依存することになる。とはいえ、表面7の粗さ9は、基板2の表面3の粗さ4より大きいのが典型である。より平滑な表面が要求されるのであれば、ラップ仕上げや磨き仕上げの様な後処理が必要であるかもしれない。
【0018】
図1Bは、担体基質材料9中に埋め込まれた固体潤滑剤1の領域を有する層6を基板表面の上へ堆積させた状況を示している。その様な事例では、基板2への強力結着を与えるために、担体基質材料9を適合させることができる。しかしながら、層表面7で利用できる固体潤滑剤の全体量はより低く、その結果、摩擦特性は恐らく
図1Aほどには優れていない。
【0019】
図1Cは、トライボ膜10の堆積を示している。以下に更に詳細に論じられている好ましい条件下でのトライボケミカル堆積中、トライボ膜10の堆積は、ここでは点線で指し示されている元の表面3のバニシ仕上げと組み合わされることになる。バニシ仕上げは、工具と被加工物の間の機械的接触を通して行われ、それにより、隆起が均されるか又は磨き落とされる。同時に、その様な擦り削られた材料は、トライボケミカル堆積膜の形成を意図する物質と接触し、当該物質と反応することになる。それにより、トライボケミカル堆積膜、即ちトライボ膜は、覆われる側の表面と擦り削られた材料と処理液の物質の間の、そして恐らくはそこへ反応を可能にする局所熱と圧力を提供する作業用工具も加わっての、化学反応によって形成される。これらの物質全てが一体で、固体潤滑剤1のトライボ膜10を形成する。しかしながら、トライボ膜10は、均質膜となることはない。トライボ膜10は、代わりに、純粋な基板物質からほぼ純粋な固体潤滑剤物質まで変化のある組成を有することになる。固体潤滑剤物質の厚さと分布も同様に表面に亘って横方向に、例えば元の表面トポロジーに応じて、様々に異なることであろう。
【0020】
本開示では、トライボ膜は、トライボケミカル反応を経て擦りつけ面に新たな化合物の形成をもたらす特別な添加物の存在下での2面間の摩擦接触式摺動又は圧延中に生成される保護層として定義されている。こうして形成されるトライボ膜は、直接の金属対金属接触及びそれに伴う冷間圧接現象を防止する。本発明に従って作製されるトライボ膜は、固体潤滑剤のトライボケミカルに基づいて作製された化合物の、覆われる側の表面への直接結着を呈する。
【0021】
この直接結着は、優れた引っ掻き耐性、衝撃耐性、及び熱耐性を提供する。例えば日本特許出願第2004−76914とは対照的に、本発明では、作製プロセスには粉末金属は何も使用されず、固体潤滑剤を表面に保持するために有機結合剤は何も必要ない。
【0022】
本発明の基本的な考えの1つは、トライボケミカル反応のための活性物質全てを含有する処理液を提供するということである。これまでのトライボケミカル堆積は、一方の成分を作業用工具に含ませ他方の成分を処理液に含ませて遂行されてきた。しかしながら、作業用工具は、それによりだんだんと摩耗し、そのせいで工具/被加工物の接触部の幾何学が制御不能な変化を来すため、作業工具を定期的に新品と又は再調整したものと交換することを余儀なくされた。金属タングステンを備える作業用工具を用いた一連の試験では、硫黄の他に可溶性タングステン化合物を備える処理液が運転中に提供された。作業用工具の摩耗は、硫黄のみを備える処理液を使用するプロセスに比べ低減されることが見出された。従って、固体潤滑剤中に組み入れられていたタングステンの少なくとも一部を直接処理液から調達するという結論を得ることになった。処理液中にタングステン化合物が余分に含まれていることで、工具の摩耗を大幅に低減させることができよう。従って、タングステンと硫黄の両方を備える処理液を使用することが、好適な解であると考えられる。
【0023】
この帰結として、処理液中のタングステンの量が許容され得る膜作製速度/処理時間を確保するのに十分に大きいことを前提に、タングステンを一切含有しない不活性な作業工具を用いてトライボケミカル堆積を実行することも可能である。
【0024】
もう1つの非常に重要なパラメータは圧力である。真のトライボ膜を実現するためには、覆われる側の表面の加工作業に、有意なバニシ仕上げ成分も関与させなくてはならない。バニシ仕上げは、被加工物材料の降伏応力を超える局所化された隆起−隆起接触圧力を要する。バニシ仕上げは、表面の平滑性を改善するためのみならず、化学的結着が可能になるように反応物質に対し新鮮な金属面を露わにするためにも不可欠である。覆われる側の表面のバニシ仕上げと固体潤滑剤のトライボ生成及び堆積とが組み合わされることで、真のトライボ膜がもたらされることになる。その様なトライボ膜を実現するために必要な圧力は、覆われる側の表面の機械的特性に依存することが見出された。トライボ膜を作製するには、典型的に、覆われる要素の極限強度の少なくとも1%に相当する接触圧力が必要である。当然ながら、接触圧力は、極限強度の100%を超えてしまえば覆われる側の要素が損傷を受けることになるので、100%を超えることがあってはならない。覆われる側の要素が延性金属で作られている場合、降伏応力も重要なパラメータである。降伏応力は、典型的には、極限強度よりも少し低いだけであり、接触圧力はひいては降伏応力の100%を超えてはならない。極限強度と降伏応力の両方を有する材料については、これらの値は共に、殆どの場合、同程度である。
【0025】
覆われる側の要素が典型的な鋳鉄で作られている場合、接触圧力は而して少なくとも50−100MPaとなろう。覆われる側の要素が典型的な高速度鋼で作られている場合、接触圧力は代わりに少なくとも100−200MPaとなろう。これらの数値は、典型的な例として供されているだけであり、適切な接触圧力は個々の要素それぞれについて別々に求められなくてはならない。
【0026】
発見されたもう1つの特性は、トライボ膜の堆積の速さは接触圧力に大きく依存するということであった。一般的な傾向として、接触圧力がより高ければ、堆積速度はより高くなる。覆われる側の要素の極限強度の5%の接触圧力では、堆積速度は有意に上昇し、覆われる側の要素の極限強度の10%の接触圧力では、堆積速度はなお一層増加する。これは、トライボ反応が起こる荷重負担面の表面積の拡大によって説明がつく。以上に論じられている様に、灰色鋳鉄の様な延性材料については、降伏応力を極限強度の代わりに使用することができ、それでも大凡同じ挙動概要が与えられる。
【0027】
図2は、特定の被加工物/工具の組合せについて実行性(runnability)ウインドー105であるABCDを求める場合に根拠とする基本的な考慮事項を示している。接触圧力があまりに低く、典型的には被加工物材料の降伏応力の1%より下である場合(又は非延性材料の極限強度に比してあまりに低い場合)、トライボ膜形成速度はあまりに低くなり、プロセスの効率は満足のいかないものとなる。これにより左側の実行性境界線ADが画定される。他方、接触圧力があまりに高く、被加工物材料の降伏応力に近い場合、被加工物損傷のリスクは急激に高まる。これにより右側の実行性境界線BCが画定される。更に、処理時間があまりに短い場合、十分な反応産物を生成すること及び適度な表面バニシ仕上げを実現するのは不可能である。これにより下側の実行性境界線DCが画定される。最後に、処理時間があまりに長い場合、適切なプロセス産出量を実現するのは不可能であり全体の効率は下降することになる。覆われる側が典型的な要素である場合、極限強度を超えない限りにおいて、好適な接触圧力は10MPa超、より好適には50MPa超、なお一層好適には100MPa超、そして最も好適には200Mpa超である。比較として、例えば慣らし運転又はホーニング仕上げのために使用される接触圧力は、典型的には、1乃至10MPaの範囲にある。
【0028】
ここに開示されているプロセスは、コーティングと慣らし運転の両方の要素を含んでいるため、当該プロセスを代わりに「トライボコンディショニング」と呼称することにする。
【0029】
図3は、本発明によるトライボコンディショニング法の或る実施形態の工程の流れ図を示している。トライボコンディショニング法は、工程200で開始される。覆われる側の機械要素が、工程210で提供される。工程212で、工具が機械要素の表面に当てて十分に高い圧力で機械的に擦りつけられる。機械的に擦りつける工程は、機械要素の極限強度の1%から100%の間の接触圧力で遂行される。処理液が、工程214で、機械要素と工具の間の接触区域へ提供される。処理液は、耐熱性金属元素である第1元素と、カルコゲン元素である第2元素と、を備えている。第1元素と第2元素は、液体物質中に提供されている。活性元素は、液体物質中に共通の活性成分で提供されていてもよいし別々の活性成分で提供されていてもよい。機械的に擦りつける工程は、それにより、機械要素の表面のバニシ仕上げとトライボ膜の堆積を一体に引き起こす。その様に作製されたトライボ膜は、第1元素と第2元素を機械要素の表面上に備えている。プロセスは工程299で終了する。
【0030】
先行技術で最も多く使用されている固定潤滑剤の2つがWS
2とMoS
2である。二硫化タングステン(分子量248g/モル、密度7.5g/cm
3、分解温度1250℃)は、
W+2S→WS
2
による、硫黄化合物とタングステン源との反応によって作製される。
【0031】
同様に、二硫化モリブデン(分子量160g/モル、密度5.0g/cm
3、溶融点2375℃、昇華点450℃)は、
Mo+2S→MoS
2
による、硫黄化合物とモリブデン源との反応によって作製される。
【0032】
前記二硫化物は、限定するわけではないが、チオカルバメート、チオホスフェート、チオキサンテート、及び類似の化学物質を含む、特定の硫黄含有金属錯体のトライボ転化によっても作製することができる。
【0033】
これら2つの広く知られている固体潤滑剤とは別に、他にも有望なものがあり、異なった処理流体組成を用いた数多くの試験が遂行されている。
【0034】
基板の硫黄含有処理液との反応性に応じて、WS
2やMoS
2以外の金属硫化物の特定の量がトライボ堆積プロセスによって作製されることであろう。こうして、膜の実際の組成は、基板の型と処理液の組成とによって決まることになる。鋼については、トライボ膜は、大部分が硫化タングステン又は硫化モリブデンそれぞれと硫化鉄とから成るものと確信する。一定の条件下では、タングステン青銅の様な混合酸化物も形成され得る。また一方で、経験則として、トライボ膜は十分に定義された化学量論的な式を何も持たないことに留意されたい。
【0035】
固体潤滑剤の金属成分は、概して、耐熱金属が選択されるのが好適である。以上に指し示されている様に、最も特出した候補はMoとWである。これらの耐熱金属は、処理液中に溶解させた金属化合物として提供されており、作業用工具中の金属又は金属化合物として提供されることも見込まれる。処理液中に溶解させた金属化合物は、塩又は有機錯体であるのが好ましい。これらの目的に使用できるタングステン化合物の非排他的な例には、
・タングスタート単体、
・チオタングスタート、
・タングステンジチオカルバメート、
・タングステンジチオホスフェート、
・タングステンカルボキシレート及びタングステンジチオカルボキシレート、
・タングステンザンテート及びタングステンチオザンテート、配位子としてカルボニル、シクロペンタジエニル、及び硫黄を含有する多核タングステン錯体、
・配位子としてピリジン、ビピリジン、ニトリル、及びホスフィンを有するタングステンの錯体を含有するハロゲン、
・脂肪酸グリセリド、脂肪酸アミド、及び脂肪酸アミンを有するタングステン酸(tunstic acid)の付加体、がある。
【0036】
これらの目的に使用できるモリブデン化合物の非排他的な例には、
・モリブデート単体、
・チオモリブデート、
・モリブデンジチオカルバメート、
・モリブデンジチオホスフェート、
・モリブデンカルボキシレート及びモリブデンジチオカルボキシレート、
・モリブデンザンテート及びモリブデンチオザンテート、
・配位子としてカルボニル、シクロペンタジエニル、及び硫黄を含有する多核モリブデン錯体、
・ピリジン、ビピリジン、ニトリル、及びホスフィンを有するモリブデンの錯体を含有するハロゲン、
・脂肪酸グリセリド、脂肪酸アミド、及び脂肪酸アミンを有するモリブデン酸の付加体、がある。
【0037】
固体潤滑剤の非金属成分もまた、様々なやり方で選択することができる。固体潤滑剤中に包含するための候補は、カルコゲン全般の中に見つけることができ、中でも、硫黄は現時点では選抜の主流であると確信する。硫黄は、処理液中に溶解させた元素硫黄又は硫黄誘導体の形態で、トライボケミカル反応に参加することができる。最も有用な硫黄誘導体は、活性硫黄としばしば呼称されているものであって、例えば有機二硫化物及び有機多硫化物の属を備えている。その様な活性硫黄の非排他的な例には、ジベンシルジスルフィド(dibensyldisulfide)、硫化イソブテン、硫化脂肪酸、及びジアルキルポリスルフィド、がある。代わりに、硫黄は、チオカルバメート、チオホスフェート、又はチオザンテートの様な耐熱金属化合物と一体に、トライボケミカル反応に参加することもでき、その場合には二次的な硫黄源は何も必要ない。
【0038】
処理液中に使用される溶媒も、有望なものが様々揃っている。適した候補は、鉱油、ポリアルファオレフィン、エステル、ポリエチレングリコール、及びイオン液体の様な、低揮発性高引火点溶媒である。処理液中に使用される溶媒は、概して、最終製品の一部となることを意図していない。
【0039】
1つの実施形態では、処理液は、それにより、少なくとも3つの成分、即ち、典型的に溶媒の役目を果たす液体物質と、第1の活性成分と、第2の活性成分と、を備えている。第1の活性成分は、耐熱金属元素である第1元素を備えている。第2の活性成分は、カルコゲン元素である第2元素を備えている。第1の活性成分と第2の活性成分は、液体物質中に提供されている。
【0040】
別の実施形態では、処理液は、それにより、少なくとも2つの成分、即ち、典型的に溶媒の役目を果たす液体物質と、活性成分と、を備えている。活性成分は、耐熱金属元素である第1元素とカルコゲン元素である第2元素の両方を備えている。活性成分は、液体物質中に提供されている。
【0041】
既に言及されている様に、作業用工具は、実際に、トライボ膜用の如何なる成分も備えている必要はない。その様な受動工具の主たる機能は、処理液の存在下に被加工物表面にトライボ反応を誘発することである。受動工具は、正常摩耗を別として、消耗されない。受動工具の例には、高速度鋼(HSS)、タングステンカーバイド(WC)、窒化ホウ素(BN)、ダイヤモンド様炭素(DLC)で被覆された工具、各種セラミックス及び金属セラミックス、など、がある。
【0042】
別の実施形態では、工具は、第1の活性成分を備えている。その様な能動工具は、二重の機能を有している。それは、最終的にトライボ膜を形成する1つの反応成分の少なくとも一部を提供している。それは、更に、被加工物表面と処理液の間のトライボ反応を誘発する機能を有している。能動工具は、それにより、所望のトライボ反応を誘発する機能とトライボ膜生成にとって必要な反応物質をそれらへ送り込む機能を一体化している。本発明で使用される能動工具の例には、タングステン又はモリブデンを含有する金属工具又は焼結金属工具がある。
【0043】
能動工具と受動工具はどちらも、反応物質を実際のトライボ反応が起こる摩擦接触部へ輸送するためのチャネルのシステムを組み入れていてもよい。処理液の少なくとも一部は、それにより、工具自体を通過して供給されることになる。
【0044】
トライボ膜の堆積を開始させるとき、工具と被加工物表面の間には典型的に極めて高い摩擦が存在する。工具が閊えて、被加工物表面へ引っ掻きや擦りむけ又は他の損傷が引き起こされるリスクが存在する。この問題に対処するために、本発明の1つの実施形態では、処理液は更に1つ又はそれ以上の実行性作用剤を溶解させて備えている。これらの実行性作用剤としては、典型的には、極圧添加剤、耐摩耗添加剤又は摩擦調整剤、抗酸化剤、腐食阻害剤、及び消泡剤があろう。主たる機能がトライボコーティングを生成することであるとされる耐熱金属及びカルコゲン成分とは違って、実行性作用剤の主たる機能は、特定の基板/工具の組合せについてプロセスが円滑に運ぶことを、
・処理液を酸化させないように安定化させる、
・表面の清浄を維持する、
・被加工物及び工具の腐食を防止する、
・泡沫形成を規制する、ことによって保証することである。
【0045】
その様な実行性作用剤の非排他的な例には、亜鉛ジアルキルジチオホスフェート(ZnDDP)、トリクレシルホスフェート(TCP)、リン酸エステル、ホウ酸エステル、イオン化植物油、脂肪酸アミド、及び脂肪酸エステル、がある。
【0046】
本発明を更に説明するために、2つの実施例を以下に提示する。
【0047】
実施例1
金属タングステンを備える工具を使用し、自動車の内燃機関用のカムシャフトの表面へ二硫化タングステンのトライボコーティングを作製した。考察対象のカムシャフトは、HV硬度470のチルド鋳鉄製であった。工具とカムシャフトの間の接触圧力は、100乃至200MPaの範囲とした。処理液は、100℃で動粘度2cStの炭化水素溶媒中に溶解させたタングステン3重量%及び活性硫黄1重量%を含有していた。カムシャフトのトライボコンディショニングは、100rpmで10分間実行された。被覆されたカムシャフトのトライボロジー特性を、元のカムシャフトのトライボロジー特性と比較した。実験の条件は次の通り、即ち、それぞれのコーティングについて10の測定結果を採取することとし、1回の摩耗試験によって3通りの異なった回転速度(0.1m/sから0.7m/sまでの変動速度に対応)について摩擦係数の3つの反復測定結果を出した。摩擦プローブとして、軸受鋼によるローラーを使用した。ローラー半径は5.5mmで、シャフトノード半径は18mmであった。それぞれの摩擦試験は、潤滑剤としてCastrol SLX 5W−30エンジンオイルを使用して荷重5Nで10分間実施した。摩耗試験は、同じ荷重で1時間実施した。摩耗きずを、光学顕微鏡を使って解析した。
【0048】
表1を参照されたいが、これらの実験は、被覆されたカムシャフトのトライボロジー性能の改善を実証しており、つまり摩擦係数は20乃至60%小さくなっている。同時に、摩耗は4乃至10倍小さくなっている。被覆されたカムシャフトは対応する条件下の未処理のカムシャフトに比較して著しく低い摩擦係数を呈していることが表から容易に理解できる。(摩擦係数は速さに依存する特性であることに留意されたし。)
【0050】
実施例2
金属タングステンを備える工具を使用し、自動車の内燃機関用のシリンダーライナーの表面へ二硫化タングステンのトライボコーティングを作製した。考察対象のライナーは、HV硬度450の灰色鋳鉄製であった。工具とライナーの間の接触圧力は、50乃至100MPaの範囲とした。処理液は、100℃で動粘度2cStの炭化水素溶媒中に溶解させたタングステン3重量%及び活性硫黄1重量%を含有していた。
【0051】
被覆されたライナーのトライボロジー特性を元のライナーのトライボロジー特性と比較した。実験の条件は次の通り、即ち、往復摩擦リグを使用し、シリンダーライナー部分とピストンリングの間の摩擦を測定した。加振周波数は5Hz、垂直応力は3MPa、ストローク長さは5mmで、潤滑剤としてCastrol SLX 5W−30エンジンオイルを使用した。
【0052】
図4を参照されたいが、これらの実験は、被覆されたライナーでは摩擦が著しく小さくなっていることを実証している。被覆後101のライナー表面と原物100のライナー表面の双方について、摩擦係数は、慣らし運転の進行手順に対応して時間に伴って減少した。また一方で、トライボコンディショニングを施したライナー表面は、常に、低い摩擦係数を呈した。また、トライボコンディショニングを施したライナー表面の摩擦係数は、元のライナー表面よりも著しく低いレベルで横ばいになっており、このことは、機械的接触が長期に及んだ後も、固体潤滑剤のコーティングが存続することを示唆している。
【0053】
本発明は、而して、金属面のトライボロジー特性を改善するための方法を開示している。鋳鉄、肌焼鋼、浸炭窒化鋼、高速度鋼、など、の様な鉄系の材料及び合金で作られている金属部品の摩擦及び摩耗の低減が、これらの部品に、固体潤滑剤物質を形成するための成分を含有する処理液の存在下に工具を被加工物に当てて擦りつけることによるトライボコンディショニングを施すことによって実現されることに特に重要性が置かれている。本方法は、内燃機関のバルブトレイン構成要素、シリンダーライナー、シャフト、ギヤ、ハブ、軸受け、滑斜面レール、及び過酷なトリボロジー応力に曝される他の機械的な構成要素の様な、部品の処理に十分に適している。ここに開示されている方法は、表面のバニシ仕上げと、化学的性質が下層の材料とは異なっていて上述の化学成分の元素を特徴とする薄い低摩擦性トライボ膜の堆積と、を一体化している。本発明では、バニシ仕上げは、通常のやり方、即ち工具と被加工物の間の機械的接触を通し、それにより表面の隆起が均されるか又は磨き落とされるというやり方で行われており、同時に起こる膜堆積は、被加工物表面でのトライボケミカル反応を通して行われている。トライボケミカル反応は、工具と被加工物表面の間の接触帯域の温度と圧力の組合せによって起こされる。
【0054】
以上に記載の実施形態は、本発明の僅かばかりの説明に役立つ実例であると理解されたい。当業者には、それら実施形態に対し、本発明の範囲を逸脱することなく様々な修正、組合せ、変更がなされ得ることが理解されるであろう。具体的には、異なった実施形態の異なった部分の解は、技術的に実施可能な場合には他の構成に組み合わされることもあり得る。また一方で、本発明の範囲は、付随の特許請求の範囲によって定義される。
〔態様1〕
トライボロジー特性の強化された面を製造する方法において、
機械要素を提供する工程(210)と、
工具を前記機械要素の表面に当てて機械的に擦りつける工程(212)と、
処理液を前記機械要素と前記工具の間の接触区域へ提供する工程(214)と、を備え、
前記処理液は、液体物質中に提供されている第1元素を備え、
前記第1元素はカルコゲン元素であり、
前記機械的に擦りつける工程は、前記機械要素の極限強度の1%から100%の間の接触圧力で遂行される、製造方法において、
前記処理液が、更に、前記液体物質中に提供されている第2元素を備え、
前記第2元素は耐熱金属元素であり、
前記機械的に擦りつける工程が、それにより、前記機械要素の前記表面のバニシ仕上げと、前記機械要素の前記表面への前記第1元素と前記第2元素と前記機械要素由来の材料とを備えるトライボ膜の堆積と、を一体に引き起こすこと、を特徴とする製造方法。
〔態様2〕
前記液体物質が、前記第1元素を備える第1の活性成分と、前記第2元素を備える第2の活性成分と、を備えていることを特徴とする、態様1に記載の製造方法。
〔態様3〕
前記液体物質が、前記第1元素と前記第2元素とを備える活性成分を備えていることを特徴とする、態様1に記載の製造方法。
〔態様4〕
前記第2元素がWとMoのうちの少なくとも一方として選択されていることを特徴とする、態様1から態様3の何れかに記載の製造方法。
〔態様5〕
前記第2元素がWであることを特徴とする、態様4に記載の製造方法。
〔態様6〕
前記第2元素がMoであることを特徴とする、態様4に記載の製造方法。
〔態様7〕
前記第1元素がSであることを特徴とする、態様1から態様6の何れかに記載の製造方法。
〔態様8〕
前記第1の活性成分は、
元素硫黄、及び、
活性硫黄、から選択されていることを特徴とする、態様7に記載の製造方法。
〔態様9〕
前記接触圧力が前記機械要素の前記極限強度の10%を超えていることを特徴とする、態様1から態様8の何れかに記載の製造方法。
〔態様10〕
前記工具が前記第2の活性成分を備えていることを特徴とする、態様1から態様9の何れかに記載の製造方法。
〔態様11〕
前記処理液が、更に、1つ又はそれ以上の実行性(runnability)作用剤を備えていることを特徴とする、態様1から態様10の何れかに記載の製造方法。
〔態様12〕
前記液体物質が、鉱油、ポリアルファオレフィン、エステル、ポリエチレングリコール、及びイオン液体の群からの溶媒を備えていることを特徴とする、態様1から態様11の何れかに記載の製造方法。
〔態様13〕
前記機械的に擦りつける工程が、50MPaを超える接触圧力、好適には100MPaを超える接触圧力、そして最も好適には200Mpaを超える接触圧力で遂行されることを特徴とする、態様1から態様12の何れかに記載の製造方法。
【符号の説明】
【0055】
1 固体潤滑剤
2 基板
3 元の表面
4 基板の表面の粗さ
5 界面
6 固体潤滑剤の層
7 固体潤滑剤の層の表面
9 固体潤滑剤層の表面の粗さ、単体基質材料
10 トライボ膜