特許第5763203号(P5763203)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5763203トウモロコシ降圧活性ペプチドを調製するための工業的方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5763203
(24)【登録日】2015年6月19日
(45)【発行日】2015年8月12日
(54)【発明の名称】トウモロコシ降圧活性ペプチドを調製するための工業的方法
(51)【国際特許分類】
   C12P 21/06 20060101AFI20150723BHJP
   C07K 4/10 20060101ALI20150723BHJP
   C07K 1/14 20060101ALI20150723BHJP
   A23L 1/305 20060101ALI20150723BHJP
   A61K 38/00 20060101ALI20150723BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20150723BHJP
【FI】
   C12P21/06
   C07K4/10
   C07K1/14
   A23L1/305
   A61K37/02
   A61P43/00 111
【請求項の数】12
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-536982(P2013-536982)
(86)(22)【出願日】2011年5月17日
(65)【公表番号】特表2014-500005(P2014-500005A)
(43)【公表日】2014年1月9日
(86)【国際出願番号】CN2011000862
(87)【国際公開番号】WO2012155295
(87)【国際公開日】20121122
【審査請求日】2013年5月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】313005248
【氏名又は名称】チャイナ ナショナル リサーチ インスティテュート オブ フード アンド ファーメンテーション インダストリーズ
(74)【代理人】
【識別番号】100106297
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 克博
(74)【代理人】
【識別番号】100129610
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 暁子
(72)【発明者】
【氏名】ツァイ、 ムウ−イー
(72)【発明者】
【氏名】グウ、 ルイ−ズオン
(72)【発明者】
【氏名】イー、 ウェイ−シュエ
(72)【発明者】
【氏名】ルウ、 ジュイン
(72)【発明者】
【氏名】マー、 ヨン
(72)【発明者】
【氏名】ドーン、 ジョー
(72)【発明者】
【氏名】シュイ、 ヤー−グアン
(72)【発明者】
【氏名】パン、 シン−チャン
(72)【発明者】
【氏名】マー、 ヨン−チン
(72)【発明者】
【氏名】リン、 フオン
(72)【発明者】
【氏名】ジン、 ジェン−タオ
(72)【発明者】
【氏名】チェン、 リアン
(72)【発明者】
【氏名】ルウ、 ルウ
(72)【発明者】
【氏名】リウ、 ウェン−イン
【審査官】 坂崎 恵美子
(56)【参考文献】
【文献】 特表平07−502416(JP,A)
【文献】 特開2000−290292(JP,A)
【文献】 特開平06−087886(JP,A)
【文献】 特開2001−233789(JP,A)
【文献】 特表2011−522210(JP,A)
【文献】 特開2005−097269(JP,A)
【文献】 特表2006−512371(JP,A)
【文献】 Journal of Agricultural and Food Chemistry,2008年,Vol.56,p.2620-2623
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12P 21/06
C07K 1/14
C07K 4/10
CAplus/MEDLINE/WPIDS/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トウモロコシ胚芽タンパク質から活性ペプチドを調製するための方法であって、
1)反応槽にトウモロコシ胚芽タンパク質粉末を加え、水とトウモロコシ胚芽タンパク質粉末を、水とトウモロコシ胚芽タンパク質粉末の比率100:6〜12(L:kg)で混合し、pH9〜11に調整し、50〜80℃まで加熱し、この温度で20〜60分間撹拌するステップと、
2)反応槽内の供給液を遠心分離し、スラグを回収後、スラグを水で希釈し、50〜80℃まで加熱し、撹拌し、分離し、精製スラグを収集するステップと、
3)水−スラグの比率100:40〜50で精製スラグを水と混合し、撹拌し、pH7〜9に調整し、40〜60℃まで加熱し;タンパク質1グラム当たり2000〜5000ユニットの酵素量で、アルカラーゼ2.4Lを加え、反応を3〜5時間持続させ;次いで、タンパク質1グラム当たり1000〜2000ユニットの酵素量で、パパインおよびディスパーゼII(1:1)を45〜55℃の温度で加え、酵素による加水分解を1〜2時間持続させ最後に、酵素による加水分解物を加熱し、酵素を失活に供するステップと
を含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
トウモロコシ降圧活性ペプチド粉末が、酵素加水分解供給液から、分離、濃縮、脱色および乾燥を経て調製され、具体的なステップが、
)得られた酵素による加水分解物を、回転速度12000〜16000r/分で遠心分離し;透明な遠心分離液を保持し、この液を圧力0.2〜0.4MPaおよび温度30〜80℃の条件下で、孔径0.05〜0.1μmの膜濾過装置を通して濾過して、活性ペプチドの透明な濾液を得るステップと、
2)活性ペプチドの透明な濾液を、蒸気圧0.1±0.02MPa、および温度40〜80℃の条件下で濃縮溶液の固体含有量が20〜50%になるまで蒸発させ濃縮し;脱色のために、濃縮溶液の全固体含有量の5%の割合で活性炭素粉末を加え、濾過するステップと、
)脱色後の濃縮溶液を、遠心噴霧乾燥機により、入口温度160〜180℃および出口温度80〜90℃の条件下で乾燥させて、トウモロコシ降圧活性ペプチド粉末を得るステップと
であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
スラグを水で希釈し、50〜80℃まで加熱し、撹拌し、分離するプロセスを3回繰り返して精製スラグを収集することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
酵素による加水分解物を加熱して酵素を失活させる加熱条件は120℃であり、酵素を10分間失活させることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
反応槽内の供給液を遠心分離するために、ディスク型遠心分離機を使用することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
酵素による加水分解物を遠心分離するために、円筒型遠心分離機を使用することを特徴とする、請求項2に記載の方法。
【請求項7】
膜濾過装置が、精密濾過装置または限外濾過装置から選択されることを特徴とする、請求項2に記載の方法。
【請求項8】
二重効用流下膜式蒸発器を用いて、濾液を蒸発させ濃縮することを特徴とする、請求項2に記載の方法。
【請求項9】
脱色のために、80℃の加熱条件で活性炭素粉末を加え、この温度で20〜40分撹拌することを特徴とする、請求項2に記載の方法。
【請求項10】
分子量が1000Da未満の構成成分が92%超を占め、遊離アミノ酸の含有量が5%未満であることを特徴とする、請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法に従って調製される活性ペプチド。
【請求項11】
少なくとも0.6%のアラニン−チロシン配列のペプチド断片を含有することを特徴とする、請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法に従って調製される活性ペプチド。
【請求項12】
請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法に従って調製される活性ペプチドの、健康機能性食品または医薬品における製品または原材料としての使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トウモロコシ胚芽タンパク質を原料として用いる降圧活性ペプチドを調製するための工業的方法に関し、生成物は、機能性食品、栄養および保健製品に適用することができる。したがって、本発明は、生物学的技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
タンパク質は、ヒトの体に必要な主要な栄養分である。従来のタンパク質代謝モデルでは、食物栄養として摂取されたタンパク質およびポリペプチドは、ヒトの体が吸収し利用することができるように、まず、胃および小腸において多数のプロテアーゼによって遊離アミノ酸に加水分解されなければならないとみなされている。現代の研究により、ヒトの体に取り込まれたタンパク質は、主にポリペプチドの形態で腸管内に直接吸収されることが示されている。アミノ酸とペプチドとでは、吸収および輸送の機構は異なり、ペプチドの吸収効率はより高く、飽和させることが難しく、例えば、ジペプチドおよびトリペプチドの吸収率は、同じ組成を有するアミノ酸の吸収率よりも高い。天然タンパク質が酵素加水分解された後に、タンパク質酵素巨大分子が小分子ペプチド断片に切断され、これにより、消化および吸収が促進されるだけでなく、種々の生物活性ペプチドを得ることができる。
【0003】
生物学的に活性なペプチド(生物活性ペプチド)とは、生物体の生命活動に有益である、または生理作用を有するペプチド化合物を指す。タンパク質と比較して、活性ペプチドは小さいが高い生物活性を有し、また、少量のペプチドが非常に重要な生理的役割を果たし得る。1975年にHughesらにより、モルヒネと同様の活性を有する低分子ペプチドが動物組織から見いだされたことが最初に報告されてから、種々の生物活性ペプチドが動物、植物および微生物から単離されている。天然タンパク質の酵素加水分解後に得られる生物活性ペプチド生成物は、高吸収、抗酸化、抗疲労、脂質低下、血圧低下、免疫系の強化などを含めた種々の生理機能を有するが、原材料供給源が広範であること、毒性および副作用がないこと、規模生産が可能であること、低価格であることなどの利点も有する。したがって、近年、生物活性ペプチドの研究開発は、世界的な食物および栄養に関連する研究分野における主要な開発方針になっている。現在、適切な酵素加水分解分離プロセス条件下で、タンパク質含有量が高く比較的包括的な組成の天然食物資源を供給源として使用することにより、米国、ヨーロッパおよび日本で、いくつかの生物活性ペプチドの工業生産が実現され、何十億ドルもの年間生産高を有する新興の健康および食品加工産業が形成されている。
【0004】
高血圧症は、ヒトの健康を著しく脅かす疾患であり、2007年に発行された世界的な高血圧症の影響の報告(hypertension impact report)では、高血圧症の罹患者数が世界中で増加傾向にあり、現在10億人にのぼり、有効な措置を取らなければ、そのような疾患の罹患者は2025年までに世界で15.6億人になるであろうという警告がなされた。高血圧患者の数は、中国を含めた一部の国では80%増加する可能性がある。アンジオテンシンI変換酵素(ACE)は多機能性ジペプチドカルボキシペプチダーゼの一種であり、生理活性のないアンジオテンシンIを、血圧上昇作用を有するアンジオテンシンIIに変換することができ、またブラジキニンを不活性な断片に分解することもでき、それにより血管収縮を導き、血圧を上昇させる。ACE阻害剤によりACE活性を阻害し、アンジオテンシンIのアンジオテンシンIIへの変換を妨げることが高血圧症予防の主要な手段になっている。
【0005】
1960年代に、Ferreiraにより、ブラジルのハララカ(Bothrops Jararaca)の毒液のエタノール抽出物から、ブラジキニンの生理作用を増強し得るポリペプチドが最初に見いだされ、そのポリペプチドはブラジキニン増強因子(bradykinin potentiating factor)(BPF)と称された。その後、BakhleおよびOndettiらの研究により、BPFがACE阻害活性を有するポリペプチドであることが確認された。BPFの分子構造解析に基づいて、CheungおよびCushmanにより、初の人工の降圧性テプロチド(SQ20881)が合成された。このようなノニル−ペプチド(nonyl−peptide)は、in vivoにおいて強力なACE阻害活性および降圧作用を有するが、静脈注射によってのみ投与され、経口摂取することができず、従って適用が限られている。カプトプリルの出現以来、新しい種類のACE阻害剤が絶えず現れている。これまで、30種類を超える合成ACE阻害剤が臨床研究または臨床応用に入っている。これらの合成阻害剤は有意な血圧低下作用を有するが、多くの副作用、例えば、咳、アレルギー、皮疹、浮腫、心不整脈および腎障害などを引き起こす可能性がある。、したがって、より安全かつ有効なACE阻害剤の研究開発がますます急務となっている。
【0006】
「自然回帰」の哲学および生物学的に活性なペプチドの研究の高まりとともに、天然の動植物資源から安全、有効かつ副作用のないACE阻害性ペプチドを抽出することが、高血圧症の予防および治療に対する研究におけるホットスポットになっている。Oshimaらにより食物タンパク質源由来のACE阻害性ペプチドが最初に得られ、強力な活性を有する6つの配列が、細菌性のコラゲナーゼを用いたゼラチン分解から得られ、Sephdex G−25により、ACE活性の阻害の大部分が主に低分子量部分にあることが確認された。食物タンパク質のin vitroプロテアーゼ分解によって生成された活性ペプチドが得られたのはこれが初めてであり、これにより、その後の食物タンパク質からのACE阻害性ペプチドの生成の基盤が築かれた。その後、他の新しいACE阻害性ペプチドが、イチジク、マグロ、日本酒、納豆、カゼイン、ニンニク、ダイズおよび他の天然源から単離された。Tang Jianらの研究により、ダイズペプチドが、SHR(自然発症高血圧症(spontaneous hypertension))ラットの血圧の調節にとって重要であることが示された。この薬剤を3日間服用した後に有意な降圧効果がある。Byunらにより、魚類の皮膚コラーゲン加水分解物の相対的な分子質量分布が0.9kDaから1.9kDaの範囲にある場合、その加水分解物はアンジオテンシン変換酵素(ACE)の活性の阻害において役割を果たすことが見いだされた。しかし、これらの研究の大部分は、実験室規模の予備実験であり、工業生産での応用の例は依然としてまれである。これまでに、国内外で、工業生産されている食用の食物由来のペプチドの大部分は、初期に研究されたダイズペプチド、乳ペプチド、海洋性ペプチドなどである。
【0007】
三大食用作物のうちの1つとして、トウモロコシは、世界中の食物構造において重要な役割を果たしている。現在のところ、中国におけるトウモロコシの年間生産量は約11,000万トンであり、世界生産の20%を占めており、約400万トンはデンプン、デンプン糖およびアルコールなどを生産するために使用されている。トウモロコシ胚芽タンパク質粉末は、湿潤加工処理により生成されるトウモロコシデンプンの主要な副生成物であり、タンパク質に富み、無機塩および種々のビタミンならびに他の成分も含有している。中国では、トウモロコシ胚芽タンパク質粉末は、主に飼料産業に使用されるか自然へ排出される。年間の自然への排出量はトウモロコシタンパク質の10万トンにのぼり、これは貴重な食物資源の浪費となるだけでなく、深刻な環境汚染を引き起こす恐れもある。したがって、トウモロコシの利用率を改善すること、およびトウモロコシ胚芽タンパク質を最大限に回収することは、重要な社会的および経済的な意義を有する。現在、トウモロコシ胚芽タンパク質粉末から生物活性ペプチドを得ることについては依然として研究が不足している。本発明によると、タンパク質分解の技術を用いて、トウモロコシ胚芽タンパク質粉末からトウモロコシ降圧活性ペプチドを得るための工業化された方法が確立され、その生成物は、明確な特徴的な構成成分および生物活性を有し、本発明は、中国におけるトウモロコシの豊富な資源を完全に使用するため、ならびに機能性食品および栄養保健製品を開発するための大きな実用価値および経済的利点を有する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、トウモロコシ胚芽タンパク質を加工処理し利用する方法を拡大すること、およびトウモロコシ胚芽タンパク質からトウモロコシ降圧活性ペプチドを得るための工業的方法を確立することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を実現するために、本発明では、アルカリ加熱処理と連続的な酵素による加水分解とを組み合わせる方法が使用され、その方法では、トウモロコシ胚芽タンパク質粉末と水を、水とトウモロコシ胚芽タンパク質粉末の比率100:6〜12(L:kg)で混合し、pH9〜11に調整し、50〜80℃まで加熱し、この温度で20〜60分撹拌して、アルカリ性供給液を得る。次いで、反応槽内のアルカリ性供給液をディスク型遠心分離機内にポンプで送り込んで、アルカリ性供給液を透明な液体とスラグに分離する。スラグを回収した後、スラグを水で希釈し、50〜80℃まで加熱し、撹拌し、分離する。同じ加工処理を3回繰り返して精製スラグを得る。精製スラグを、水−スラグの比率100:40〜50で水と混合し、撹拌し、pH7〜9に調整し、40〜60℃まで加熱する。タンパク質1グラム当たり2000〜5000ユニットの酵素量で、アルカラーゼ2.4Lを加え、反応を3〜5時間持続させる。次いで、タンパク質1グラム当たり1000〜2000ユニットの酵素量で、パパインおよびディスパーゼ(Dispase)II(1:1)を45〜55℃の温度で加え、酵素による加水分解を1〜2時間持続させる。最後に、酵素の溶液を120℃まで加熱し、10分間の酵素失活処理を行う。
【0010】
トウモロコシ胚芽タンパク質の酵素による加水分解物を、円筒型遠心分離機により、回転速度12000〜16000r/分で遠心分離する。透明な遠心分離液(centrifugal liquid)を保持し、圧力0.2〜0.4MPa、および温度30〜80℃の条件下で、孔径0.05〜0.1μmの精密濾過および限外濾過装置を通して濾過し、トウモロコシ降圧活性ペプチドの透明な濾液を得る。トウモロコシ降圧活性ペプチドの濾液を、二重効用流下膜式蒸発器(double−effect falling film evaporator)を用い、蒸気圧0.1±0.02MPa、および温度40〜80℃の条件で、濃縮溶液の固体含有量が20〜50%になるまで蒸発させる。脱色のために、濃縮溶液含有量の5%の割合で活性炭素粉末を加え、濃縮溶液を80℃まで加熱し、この温度で20〜40分撹拌し、次いで、ロールナノ濾過膜(roll nanofirtration membrane)を用いて濾過する。トウモロコシ降圧活性ペプチドの濃縮溶液を、遠心噴霧乾燥機により、入口温度160〜180℃、および出口温度80〜90℃の条件下で乾燥し、トウモロコシ降圧活性ペプチド粉末を調製する。
【発明の効果】
【0011】
化学成分分析を使用して、調製したトウモロコシ降圧活性ペプチドの基本的な物理的組成および化学的組成を決定し、トウモロコシ降圧活性ペプチドの成分の分子量分布を高速液体クロマトグラフィー分析によって測定する。分子量が1000Da未満の構成成分が全体で92%超を占め、遊離アミノ酸の含有量は5%未満であることが分かる。In vitroにおける安定性試験により、温度範囲30〜100℃、pH変動範囲3〜11、ならびに、ペプシン消化、トリプシン消化、およびペプシン消化に続くトリプシン消化に対して、トウモロコシ降圧活性ペプチドが良好な安定性を有することが示されている。In vitro試験により、トウモロコシ降圧活性ペプチドが、in vitroで良好なACE阻害活性を有することが示されている。液体クロマトグラフィーによる分離および質量分析を用いて、トウモロコシ降圧活性ペプチドのペプチド断片の分離および構造的同定を行い、特徴的な降圧性ペプチド断片であるアラニン−チロシン(Ala−Tyr、AY)が0.6%超を占める、生理活性を有するペプチド断片7種が同定されている。
【0012】
トウモロコシ降圧活性ペプチドのin vivoにおける血圧低下作用を、自然発症高血圧ラット(spontaneous hypertensive rat)(SHR)をモデルとして用いて検証し、トウモロコシ降圧活性ペプチドがin vivoにおいて良好な降圧作用を有し、保健健康食品および医薬の分野に適用することができることが確認されている。
【0013】
以下は図面の簡単な説明である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】異なる条件下でのトウモロコシ降圧活性ペプチドの逆相クロマトグラフィーである。Aは、異なる温度条件下での逆相クロマトグラフィーである(上から下に、それぞれ、20℃、40℃、60℃、80℃、および100℃に対応する);Bは、異なるpH条件下での逆相クロマトグラフィーである(上から下に、それぞれ、pH3、5、7、9、および11に対応する);Cは、in vitroにおける異なる消化条件下での逆相クロマトグラフィーである(上から下に、それぞれ、ブランク対照、ペプシン消化、トリプシン消化、およびペプシン消化に続くトリプシン消化に対応する)。
図2】トウモロコシ降圧活性ペプチドのアイコニックな成分AYの液体クロマトグラフィーおよび質量分析である。
図3】トウモロコシ降圧活性ペプチドの、自然発症高血圧ラットの血清のアルドステロン濃度に対する作用を示し、n=8であり、**はブランク対照群と比較した有意差を示し、P<0.01である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明を、図および具体的な実施形態を参照してさらに説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。
【0016】
具体的なプロセス経路は、以下のステップからなる:
1.トウモロコシ降圧活性ペプチドの調製
トウモロコシ胚芽タンパク質粉末600kgを反応槽Iに加え、水と、水とトウモロコシ胚芽タンパク質粉末の比率100:9(L:kg)で混合し、pH9〜11に調整し、65℃まで加熱し、この温度で40分間撹拌する。反応槽内のアルカリ性供給液をディスク型遠心分離機内にポンプで送り込んで、透明な液体とスラグに分離する。回収したスラグを反応槽IIに加え、透明な液体を廃棄する。スラグを水で希釈し、65℃まで加熱し、撹拌し、分離する。油、デンプン、繊維および他の非タンパク質物質を除去するために、同じ加工処理を3回繰り返す。精製スラグを、水と、水−スラグの比率100:45で混合し、撹拌する。トウモロコシ胚芽タンパク質溶液をpH8に調整し、50℃まで加熱する。タンパク質1グラム当たり3500ユニットの酵素量で、アルカラーゼ2.4Lを加え、反応を4時間持続させる。次いで、タンパク質1グラム当たり1500ユニットの酵素量で、パパインおよびディスパーゼII(1:1)を50℃の温度で加え、酵素による加水分解を1.5時間持続させる。次いで、酵素の溶液を120℃まで加熱し、10分間の酵素失活処理を行う。
【0017】
加水分解溶液を、円筒型遠心分離機により、回転速度14000r/分で遠心分離する。透明な液体とスラグを分離する。透明な遠心分離液を保持し、圧力0.3MPa、および温度55℃の条件下で孔径0.06μmの精密濾過および限外濾過装置を通して濾過して、トウモロコシ降圧活性ペプチドの透明な濾液を調製する。トウモロコシ降圧活性ペプチドの濾液を、二重効用流下膜式蒸発器を用い、蒸気圧0.1MPa、および温度60℃の条件で、濃縮溶液の固体含有量が40%になるまで蒸発させる。濃縮溶液含有量の5%の割合で活性炭素粉末を濃縮溶液に加え、濃縮溶液を80℃まで加熱し、この温度で30分間撹拌し、次いで、濾過する。トウモロコシ降圧活性ペプチドの濃縮溶液を、遠心噴霧乾燥機により、入口温度170℃、および出口温度85℃の条件下で乾燥させて、トウモロコシ降圧活性ペプチド116.25kgを調製する。
【0018】
2.トウモロコシ降圧活性ペプチドの物理的および化学的組成の分析ならびに分子量分布(MWD)
トウモロコシ降圧活性ペプチドの物理的および化学的組成の分析結果:総タンパク質の含有量は89.28%であり、脂肪の含有量は0.05%であり、灰分の含有量は5.06%であり、水分の含有量は5.21%である。以上から分かるように、本発明で調製されるトウモロコシ降圧活性ペプチドの総タンパク質含有量は85%超であり、生成物の品質は高い。トウモロコシ降圧活性ペプチド試料をGEL−HPLCに注入した後、試料ペプチドの相対的な分子質量およびその分子量分布範囲を、液体クロマトグラフィーデータ処理ソフトウェアを用いてトウモロコシ降圧活性ペプチドのゲルクロマトグラフィーのデータを較正曲線方程式に代入することによって算出する。分子量が1000Da以下のジペプチドおよびトリペプチドはヒトの体内における吸収率および利用率が非常に高く、したがって、遊離アミノ酸よりも栄養価および生理機能が高い。本発明によると、最小のジペプチド(Gly−Gly)の分子量132Daおよび最大のトリペプチド(Trp−Trp−Trp)の分子量576Daを分子量範囲の境界値として使用し、また、ピーク面積比較法(peak area normalization method)を採用して、表1に示されているようにトウモロコシ降圧活性ペプチドの相対的な分子量分布範囲を算出する。分子量分布の結果から、分子量が1000Da未満の構成成分が全体で93.05%を占める。アミノ酸の平均分子量137Daに従って算出すると、分子量が1000Da以下の構成成分は、いくらかの遊離アミノ酸を含む、主に、オクタペプチドよりも低次のオリゴペプチドである。分子量が132Da〜576Daの構成成分が78.17%を占め、それが、分子量が1000Da未満である構成成分の大半を形成し、主にジペプチド、トリペプチドおよびテトラペプチドである。
【0019】
【表1】
【0020】
3.トウモロコシ降圧活性ペプチドのin vitroにおける安定性
20℃、40℃、60℃、80℃、および100℃のウォーターバスに2時間入れた後のトウモロコシ降圧活性ペプチド試料の分子量分布を表2に示す。異なる温度のウォーターバスに2時間入れた後、トウモロコシ降圧活性ペプチドにおける分子量が1000Da未満の構成成分の総含有量には実質的な変化はなく、約93%を占めている。各分子量範囲の比率の変化は2%以下である。異なる温度におけるトウモロコシ降圧活性ペプチドの逆相クロマトグラフィーを図1Aに示す。異なる温度でウォーターバスに2時間入れた後に、トウモロコシ降圧活性ペプチドの逆相クロマトグラフィーはほとんど変化せず、ピークの数とピーク時間はよく一致していることがわかる。同時に、類似性算出ソフトウェアにより算出された類似性は約0.99である。
【0021】
【表2】
【0022】
37℃で、それぞれpH3、5、7、9、および11のウォーターバスに2時間入れた後のトウモロコシ血圧降下活性ペプチド試料の分子量分布を表3に示す。異なるpH条件下で、37℃のウォーターバスに2時間入れた後、トウモロコシ降圧活性ペプチドにおける分子量が1000Da未満の構成成分の総含有量には実質的な変化はなく、約93%を占めている。各分子量範囲の比率の変化は、1%以下である。異なるpHの下でのトウモロコシ降圧活性ペプチドの逆相クロマトグラフィーを図1Bに示す。異なるpH条件下で37℃のウォーターバスに2時間入れた後に、トウモロコシ降圧活性ペプチドの逆相クロマトグラフィーはほとんど変化せず、ピークの数とピーク時間はよく一致していることがわかる。同時に、類似性算出ソフトウェアにより算出された類似性は0.99超であった。すなわち、分子極性の観点からすると、トウモロコシ血圧降下活性ペプチドの組成にはほとんど変化がない。
【0023】
【表3】
【0024】
ペプシン消化、トリプシン消化、および、ペプシン消化に続くトリプシン消化をそれぞれ行った後のトウモロコシ降圧活性ペプチドの分子量分布を表4に示す(C:ブランク対照;P:ペプシン消化;T:トリプシン消化;P+T:ペプシン消化に続くトリプシン消化)。異なる消化様式では、トウモロコシ降圧活性ペプチドにおける分子量が1000Da未満の構成成分の総含有量はわずかに増加するが、2%未満の増加である。分子量範囲が1000〜576Daである構成成分の割合はわずかに低下するが、1%未満の低下であり、これにより、酵素分解により消化されるペプチド断片は非常に少量であることが示されている。これに対応して、より分子量の小さい構成成分がわずかに増加し、この増加は主に132Da未満の範囲に集中しており、消化されたごく一部の構成成分は、主に低分子アミノ酸に分解されたことが示されている。
【0025】
【表4】
【0026】
ペプシン消化、トリプシン消化、およびペプシン消化に続くトリプシン消化によってそれぞれ消化された組成物の逆相クロマトグラフィーを図1Cに示す;異なる消化様式の後、トウモロコシ降圧活性ペプチドの逆相クロマトグラフィーではわずかな変化があるが、主要なピークの数とピーク時間はよく一致していることがわかる。対照群と比較して、類似性算出ソフトウェアにより算出された各クロマトグラフィーの類似性は0.93超である。すなわち、分子極性の観点からすると、トウモロコシ降圧活性ペプチドの組成はわずかに変化する、すなわち、変化は小さい。
【0027】
4.トウモロコシ降圧活性ペプチドのin vitroにおけるACE阻害活性および象徴的なペプチド断片の分析
N−Hippuryl−His−Leu(HHL)法を用いて、in vitroにおけるACE阻害活性をHPLCにより検出する。降圧活性ペプチドを加える前と加えた後の馬尿酸生成物のクロマトグラフィーのピーク面積の差を測定する。この差は、降圧活性ペプチドの降圧活性の変化を反映する。ACE阻害率を以下の通り算出する:ACE阻害率(%)=(M−N)*100/N、Mはブランク対照群における馬尿酸のピーク面積(mAU・s)であり、Nは阻害剤を加えた群における馬尿酸のピーク面積である(mAU・s)。異なる濃度におけるトウモロコシ降圧活性ペプチド溶液のACE阻害率を表5に示す。測定、算出したトウモロコシ降圧活性ペプチドのIC50は1.02mg/mLであり、このトウモロコシ降圧活性ペプチドがin vitroにおける良好なACE阻害活性を有することが示されている。
【0028】
【表5】
【0029】
液体クロマトグラフィーによる分離および質量分析を用いることにより、トウモロコシ降圧活性ペプチドのペプチド断片の単離および構造同定を行う。現在のところ、53種のペプチド断片の構造が同定されている。トウモロコシプロテオミクスの配列データベースとの対照によると、32種のペプチド断片のアミノ酸配列が、トウモロコシプロテオミクスにおける既存の断片の配列と一致し、これにより、これらのペプチドが、トウモロコシタンパク質の加水分解によって生じることが示されている。生物活性ペプチドデータベースと比較することにより、降圧活性を有するアラニン−チロシン(Ala−Tyr、AY)が含まれていることが分かる。Yanjun Yangら(J.Agric.Food Chem.、2007年、55巻(19号))により、AYが降圧性ペプチド断片であり、そのin vitroにおける降圧活性IC50が14.2μMであることが見いだされた。SHRに用量50mg/kgで経口挿管した2時間後の血圧の降下は9.5mmHgである。
【0030】
本発明者らは、AYの高速液体クロマトグラフィー分析による定量法を考案した。前処理した後、トウモロコシ降圧活性ペプチド試料を、逆相C18充填剤を固定相として使用して試料構成成分の分子極性の差異によって分離し、UV吸収波長220nmにおいて検出する。クロマトグラムおよびそのデータ(図2)を、外部標準法を用いて処理して数値化する。算出されたAY含有量は1.13%である。トウモロコシ降圧活性ペプチド試料の異なるバッチが全て0.6%超のAYを含有することを考慮して、AYをトウモロコシ降圧活性ペプチドの特徴的な構成成分として使用する。
【0031】
5.トウモロコシ降圧活性ペプチドの、自然発症高血圧症ラットに対する降圧効果
自然発症高血圧症ラットをモデル動物として用いて、トウモロコシ降圧活性ペプチドを異なる用量(体重1kg当たり0.45g、1.35g、および4.05g)で胃管投与(gavage)する。ブランク対照群には、適切な用量の蒸留水を胃管投与する。陽性対照群には、体重1kg当たり10mgのカプトプリルを胃管投与する。8週間の連続的な胃管投与後、各群のラットの体重、心臓/体重比、心拍数に有意な変化はない(P>0.05)。
【0032】
試験の間、対照群のラットの血圧はおよそ200mmHgであり、胃管投与期間にわたってわずかに上昇したが、差は有意ではない(P>0.05)。低用量群のラットの血圧は胃管投与期間にわたって徐々に低下した。第6週における血圧はブランク対照群と比較して有意に異なり(P<0.05)、そのような有意差は第7週および第8週において維持され(P<0.05)、血圧は15.6%低下した。中用量群のラットの血圧は胃管投与期間にわたって低下したが、わずかに緩やかであった;第8週まで、血圧はブランク対照群と比較して有意に異なり(P<0.05)、血圧は10.3%低下した。高用量群のラットの血圧は8週間においてわずかに低下したが、ブランク対照群と比較して差は有意ではない(P>0.05)(表6)。
【0033】
高用量群およびカプトプリル群の血清アルドステロン濃度は、対照群よりも有意に低い(P<0.01、図4)。試験結果より、本発明のトウモロコシ降圧活性ペプチドが有意な降圧作用を有し、降圧薬および機能性食品の原料を開発するために使用することができ、開発に大きな見込みがあることが示されている。
【0034】
【表6】
図1A
図1B
図1C
図2
図3