【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来、継手ピッチ19が一定寸法以上異なる鋼矢板15を圧入・引抜する場合には、継手ピッチ19の寸法に応じたそれぞれ専用の鋼矢板圧入引抜機を使用することが基本となっている。即ち、一定寸法範囲を超えた多様な継手ピッチの鋼矢板15、特には継手ピッチ19が400mmと600mmのように200mm程度以上の寸法差を有する鋼矢板15の双方を施工可能な鋼矢板圧入引抜機は提供されていない。
【0008】
その理由の第1は、作業する鋼矢板15をチャックして圧入するためのチャック装置を、最大寸法の継手ピッチ19を有する鋼矢板15をチャックして旋回できるように構成する必要があるため、一定寸法範囲を超えた最小寸法の継手ピッチを有する鋼矢板15を同一のチャック装置を使用してチャックすると、具体的には
図11に示す鋼矢板15において、継手ピッチ19が600mmの鋼矢板15をチャック可能なチャック装置で、継手ピッチ19が400mmの鋼矢板15をチャックして圧入・引抜作業を行おうとすると、チャック装置が鋼矢板圧入引抜機の他の部材と干渉して、既設の鋼矢板の内、クランプ装置でクランプした先頭の鋼矢板の開放された継手に噛合させる位置に設置することができないためである。
【0009】
その理由の第2は、鋼矢板圧入引抜機を既設の鋼矢板に自立させるとともに、既設の鋼矢板から反力を得るために既設の鋼矢板をクランプするクランプ装置が一定寸法範囲を超えた継手ピッチの寸法差を有する鋼矢板に対応してクランプできないためである。
【0010】
そこで、先ず、これらの理由の第1及び第2の詳細を明らかとする。
図19は継手ピッチ19aが600mmの鋼矢板15aを圧入している従来の鋼矢板圧入引抜機の側面図である。図において、40は従来の鋼矢板圧入引抜機であって、下方にクランプ装置3を配設して、継手ピッチ19aが600mmの既設の鋼矢板20a上に定置される台座2と、該台座2上にスライド自在に配備されたスライドベース4の上方にあって縦軸を中心として回動自在に立設されたガイドフレーム7と、該ガイドフレーム7に昇降自在に装着されて鋼矢板圧入引抜シリンダ9が取り付けられた昇降体41と、昇降体41の下方に形成されたチャックフレーム42と、チャックフレーム42内に旋回自在に装備されるとともに鋼矢板15aを挿通してチャック可能なチャック装置43とを具備してなる。
【0011】
図19において、クランプ装置3は3本のクランプ部材3a,3b,3cを進行方向Fに対して順に配置しており、相互に継手を噛合させて圧入された既設の鋼矢板20aの上端部に跨ってクランプするとともに、先頭のクランプ部材3aが先頭の鋼矢板20a1をクランプしている。これにより鋼矢板圧入引抜機40を既設の鋼矢板20a上に定置するとともに圧入時の反力を既設の鋼矢板20aから得るようにしている。クランプ部材3a,3b,3cはそれぞれ形状及びオフセット量を異にする公知の構成である。そして、圧入する鋼矢板15aをチャック装置43に挿通してチャックするとともに、既設の先頭の鋼矢板20a1の開放された継手に、圧入する鋼矢板15aの継手を噛合させた状態で、鋼矢板圧入引抜シリンダ9を作動させて圧入作業を行う。
【0012】
チャック装置43は600mmの継手ピッチ19aの鋼矢板15aを挿通してチャックするとともに、
図12に示す中立軸L2に対して左右交互に圧入するため、圧入作業の進行方向Fに対して、鋼矢板15aを1枚圧入する毎に左右交互に向きを変えて次の鋼矢板15aをチャックできるように、チャックフレーム42内において旋回する必要がある。そのため、肉厚部分を含めると外形部分の最大寸法48は直径900mm程度となる。また、チャック装置43のチャックフレーム42内に位置する部分には、旋回のためのチャックリングギア44が装備されており、昇降体41に装備されたチャック旋回モータ45の駆動軸に連結したピニオンギア46が、このチャックリングギア44と噛合することによってチャック装置43を旋回させるようにしている。そのため、チャックリングギア44を装備するチャックフレーム42の外形から、ピニオンギア46及びピニオンギア46を収納したピニオンギアボックス47が突出することとなり、この突出部分を合わせたチャックフレーム42と同一平面における外形部分の最大寸法49は直径1080mm程度となる。
【0013】
図19に示すように、600mmの継手ピッチ19aの鋼矢板15aを圧入する場合は、継手ピッチ19aに余裕があるため、チャックフレーム42やチャック装置43が鋼矢板圧入引抜機40の他の部材に干渉することがなく、クランプ装置3で既設の鋼矢板20aをクランプし、かつ、先頭のクランプ部材3aが既設の先頭の鋼矢板20a1をクランプしている状態で、作業する鋼矢板15aの継手18を既設の先頭の鋼矢板20a1の開放された継手18に噛合させて圧入・引抜作業することができる。
【0014】
次に、同一の鋼矢板圧入引抜機40を使用して継手ピッチ19bが500mmの鋼矢板15bを圧入する作業を説明する。
図20は継手ピッチ19bが500mmの鋼矢板15bを圧入している従来の鋼矢板圧入引抜機40の側面図である。図において、
図19と同一の構成については同一の符号を付してその説明を省略する。
【0015】
チャック装置43は継手ピッチ19aが600mmの鋼矢板15aを挿通してチャックできる構成であり、継手ピッチ19bの寸法が500mmと鋼矢板15aより小さい鋼矢板15bを挿通してチャックすることもできる。また、クランプ装置3もクランプ部材3a,3c,3dを設置順序を調節することによって、継手ピッチ19bが500mmの既設の鋼矢板20bを掴んで鋼矢板圧入引抜機40を定置するとともに圧入時の反力を既設の鋼矢板20bから得ることができる。
【0016】
この場合においても、
図20に示すように、継手ピッチ19bが500mmの鋼矢板15bを圧入する場合は、継手ピッチ19bにまだ余裕があるため、チャックフレーム42やチャック装置43が鋼矢板圧入引抜機40の他の部材に干渉することがなく、クランプ装置3で既設の鋼矢板20bをクランプし、かつ、先頭のクランプ部材3aが既設の先頭の鋼矢板20b1をクランプしている状態で、作業する鋼矢板15bの継手18を既設の先頭の鋼矢板20b1の開放された継手18に噛合させて圧入・引抜作業することができる。
【0017】
次に、同一の鋼矢板圧入引抜機40を使用して継手ピッチ19cが400mmの鋼矢板15cを圧入する作業を説明する。
図21は継手ピッチ19cが400mmの鋼矢板15cを圧入している従来の鋼矢板圧入引抜機40の側面図である。図において、
図19と同一の構成については同一の符号を付してその説明を省略する。
【0018】
クランプ装置3は、4本のクランプ部材3a,3e,3a,3cを使用して、その設置順序を調節することによって、継手ピッチ19cが400mmの既設の鋼矢板20cをクランプして鋼矢板圧入引抜機40を定置するとともに圧入時の反力を既設の鋼矢板20cから得ることは可能である。また、チャック装置43も継手ピッチ19aが600mmの鋼矢板15aを挿通してチャックできる構成であり、継手ピッチ19cの寸法が400mmと鋼矢板15aより小さい鋼矢板15cを挿通してチャックすることは可能である。
【0019】
しかしながら、
図21に示すように、継手ピッチ19cが400mmの鋼矢板15cを圧入する場合は、継手ピッチ19cの寸法が、鋼矢板15aの600mmよりも200mmも小さいため、継手ピッチ19cに余裕がない。そのため、クランプ装置3で既設の鋼矢板20cをクランプし、かつ、先頭のクランプ部材3aが既設の先頭の鋼矢板20c1をクランプしている状態で、作業する鋼矢板15cの継手18を既設の先頭の鋼矢板20c1の開放された継手18に噛合させて圧入・引抜作業することができない。即ち、前記した状態を実現しようとすると、
図21において干渉部分Kとして示すようにチャック装置43が台座2や先頭のクランプ部材3aに干渉し、又干渉部分Sとして示すようにチャックフレーム42のピニオンギア46及びピニオンギアボックス47の位置する突出部が台座2に干渉することとなる。そのため、継手ピッチ19aが600mmの鋼矢板15aを圧入するための鋼矢板圧入引抜機40を使用して継手ピッチ19cが400mmの鋼矢板15cを圧入・引抜することはできない。
【0020】
継手ピッチ19cが400mmの鋼矢板を圧入するためには400mm用に外形寸法を小さくした専用のチャック装置及び該チャック装置を装備するチャックフレームを有する専用の鋼矢板圧入引抜機を使用する必要がある。即ち、継手ピッチ19cが400mmの鋼矢板15cを挿通してチャックするチャック装置及び該チャック装置を旋回可能に装備するチャックフレームの外形寸法を小さくしないと、
図21に干渉部分Kや干渉部分Sとして示すようなチャック装置43及びチャックフレーム42とクランプ装置3や台座2との干渉を生じるためである。一方、継手ピッチ19cが400mm用のチャック装置には継手ピッチ19aが600mmの鋼矢板15aを挿通することが物理的に不可能であってチャックすることができない。そのため、継手ピッチ19cが400mm用の鋼矢板圧入引抜機を使用して継手ピッチ19aが600mmの鋼矢板15aを圧入することもできない。
【0021】
よって、一定寸法範囲を超えた多様な継手ピッチの鋼矢板15、特には継手ピッチ19aが600mmの鋼矢板15aと、継手ピッチ19cが400mmの鋼矢板15cのように200mm程度以上の寸法差を有する鋼矢板15a,15cの双方を、クランプ装置3で既設の先頭の鋼矢板20a,20cをクランプし、かつ、先頭のクランプ部材3aが既設の先頭の鋼矢板20a1,20c1をクランプしている状態で、作業する鋼矢板15a,15cの継手18を既設の先頭の鋼矢板20a1,20c1の開放された継手18に噛合させて圧入作業する鋼矢板圧入引抜機は提供されていない。そのため従来は、それぞれ継手ピッチ19の寸法に応じた専用の鋼矢板圧入引抜機を準備する必要があり、汎用性に欠け、作業性が悪いばかりでなく、各現場に応じた迅速な対応・作業ができず経済性にも欠けていた。
【0022】
そこで従来、最大寸法の継手ピッチ19を有する鋼矢板15をチャック可能なチャック装置43を使用して、一定寸法範囲を超えた最小寸法の継手ピッチ19を有する鋼矢板15をチャックして圧入するための便宜的手段として、例えば、
図19に示す継手ピッチ19aが600mm用の鋼矢板圧入引抜機40を使用して、
図21に示す継手ピッチ19cが400mmの鋼矢板15cを圧入するための便法が行われている。これは、
図22に示すように、スライドベース4を進行方向Fに向けて伸長させることにより、既設の鋼矢板20cの内、先頭の鋼矢板20c1を鋼矢板圧入引抜機40のクランプ装置3でクランプすることなく、2番目以降の鋼矢板20c2以降をクランプした状態で(即ち、既設の先頭の鋼矢板20c1が無負荷の状態で)、鋼矢板圧入引抜機40を既設の鋼矢板20cに定置し、チャック装置43でチャックした作業する鋼矢板15cの継手18を既設の先頭の鋼矢板20c1の開放された継手18に噛合させて圧入・引抜作業を行うものである。かかる施工方法によれば、チャック装置43やチャックフレーム42が台座2やクランプ装置3と干渉することなく、1台の鋼矢板圧入引抜機40を使用して、継手ピッチ19aが600mmの鋼矢板15aと、継手ピッチ19cが400mmの鋼矢板15cを施工することが可能とはなる。
【0023】
しかしながら、かかる既設の鋼矢板20cの先頭の鋼矢板20c1をクランプすることなく圧入作業を行う便法は、以下に説明する大きな問題点を有しており、その解決が望まれている。
図23は前記した便法による作業状態を示す側面説明図である。図に示すように、先頭の鋼矢板20c1の開放された継手18に噛合させて、圧入作業する鋼矢板15cを圧入力Pで圧入施工すると噛合させた継手18部分に継手抵抗Rが働く。継手抵抗Rは鋼矢板20c1と鋼矢板15cの継手18に砂噛み等の欠陥がある場合や、既設の鋼矢板20cのねじれやゆがみ等によっても発生する。このとき、先頭の鋼矢板20c1をクランプ部材により固定できていないため、その上端が下がる場合がある。この現象を共下がりという。また、引抜作業をするときは圧入時と反対の方向の継手抵抗が発生するため、先頭の鋼矢板20c1の上端が上がる場合がある。この現象を共上がりという。即ち、既設の先頭の鋼矢板20c1をクランプすることができないため、該先頭の鋼矢板20c1の開放された継手18に作業する鋼矢板15cの継手18を噛合させて圧入・引抜を行うと、作業する鋼矢板15cと先頭の鋼矢板20c1の継手抵抗により、先頭の鋼矢板20c1が共下がり又は共上がりを起こすことがある。
【0024】
上記構成の鋼矢板圧入引抜機40を使用して鋼矢板15a,15b,15cの圧入・引抜作業を行う場合は、既設の鋼矢板20a,20b,20cの内、先頭の鋼矢板20a1,20b1,20c1をクランプ装置3でクランプした状態で、作業する鋼矢板15a,15b,15cの継手18を先頭の鋼矢板20a1,20b1,20c1の開放された継手18に噛合させた状態(以下、この状態を正規状態という)で作業することが重要である。
【0025】
この正規状態の作業姿勢であると、鋼矢板圧入引抜機40で圧入力として定格荷重をかけたときに、反力と圧入位置の距離が近いため、発生するモーメントが小さく、鋼矢板圧入引抜機40にかかる応力が小さくなる。従って、よりコンパクトな機械で圧入可能となる。また、何より先頭の鋼矢板20a1,20b1,20c1をクランプ装置3でクランプしているため、先頭の鋼矢板20a1,20b1,20c1の継手と噛合して作業する鋼矢板15a,15b,15cとの間で継手抵抗が発生して、この継手抵抗によって先頭の鋼矢板20a1,20b1,20c1が上下に動かされることはなく、共下がり又は共上がりすることがない。よって、施工基準に従って鋼矢板15の上端部を揃えて圧入した既設の鋼矢板の施工精度を保つことができる。
【0026】
これに対して、
図22,
図23に示すような正規状態ではない作業姿勢であると、正規状態の作業姿勢に比して、作業する鋼矢板15a,15b,15cを掴むチャック装置43の位置と、既設の鋼矢板20a,20b,20cをクランプするクランプ装置3の反力位置の距離が先頭の鋼矢板20a1,20b1,20c1の継手ピッチ19a,19b,19c分だけ遠く離れるため、同一の圧入力・引抜力をかけたときに反力側に発生するモーメントが大きいので機械にかかる応力が大きくなる。従って、正規状態での作業と同じ圧入力・引抜力をかけて施工することができないため、定格荷重が小さくなる。
【0027】
また、何より、既設の先頭の鋼矢板20a1,20b1,20c1をクランプ装置3でクランプしていないため、前記した継手抵抗によって先頭の鋼矢板20a1,20b1,20c1が共下がりや共上がりを起こして、先頭の鋼矢板20a1,20b1,20c1が上下に動かされ施工精度の低下や打ち直し等の手間が生じる。即ち、施工基準に従って上端部を規定高さに揃えて圧入した既設の鋼矢板20a1,20b1,20c1が、共下がりや共上がりによって上下方向に位置が変化すると、再度規定寸法に打設し直す必要がある。共下がりや共上がりの防止策として圧入後の鋼矢板20a,20b,20cと先頭の鋼矢板20a1,20b1,20c1とを溶接して固定する必要があり、余分な手間や材料費が発生することとなる。また、仮設の場合は引抜作業時に溶接部をガスで切断する手間がかかるとともに鋼矢板の損傷により損料も発生する。更に、共上がりした鋼矢板が鋼矢板圧入引抜機40の下面に当たり、機械を損傷させる不具合が発生することもある。
【0028】
そこで本発明はこのような従来の鋼矢板圧入引抜機が有している課題を解決し、多様な継手ピッチの鋼矢板に対応可能な汎用性を有する鋼矢板圧入引抜機及び鋼矢板圧入引抜工法を提供することを目的とする。