(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
第1の方向に回転可能な第1のロータと、前記第1のロータに近接配置され前記第1の方向とは反対側の第2の方向に回転可能な第2のロータと、前記第1のロータと前記第2のロータとを収容する第1の室と、前記第1の室を形成する第1のケーシングと、前記第1のケーシングの一端部に取り付けられた第1の隔壁と、前記第1のケーシングの他端部に取り付けられた第2の隔壁とを有するポンプ部と、
前記第1のロータを回転させる駆動機構と、前記駆動機構を収容する第2の室と、前記第2の室を前記第1の隔壁とで区画する第2のケーシングと、前記第1の隔壁に形成され前記第1の室と前記第2の室とを連通させる第1の脱気通路とを有する駆動部と、
前記第1のロータと前記第2のロータとを同期回転させるギヤ機構と、前記ギヤ機構を収容し前記ギヤ機構を潤滑する潤滑油を貯留可能な第3の室と、前記第3の室を前記第2の隔壁とで区画する第3のケーシングとを有する回転伝達部と、
前記第1の隔壁と前記第1のケーシングと前記第2の隔壁と前記第2のケーシングを介して形成され前記第1の隔壁と前記第1のケーシングと前記第2の隔壁を貫通する主通路部と、前記第3のケーシングの内部に形成され重力方向に平行な第1の軸方向を有し前記第3の室に臨む第1の流路と前記第1の軸方向と交差する第2の軸方向を有し前記第1の流路と前記主通路部との間を連絡する第2の流路とを有する連絡通路部とを有し、前記第3の室を前記第2の室又は前記第1の室へ連通させる第2の脱気通路と、
一端部が前記第2の流路に嵌合され、他端部が前記第1の流路の一部を遮蔽する筒体の規制部材であって、前記他端部を前記第3の室から前記第2の室又は前記第1の室への前記潤滑油の流出を阻止する規制部とする規制部材と
を具備する真空ポンプ。
【背景技術】
【0002】
メカニカルブースタポンプは、ケーシング内に配置された二つのマユ型ロータを互いに反対方向に同期回転させることで吸気口から排気口へ気体を移送する、容積移送型の真空ポンプである。メカニカルブースタポンプは、両ロータ間および各ロータとケーシングとの間での接触がないため、機械的損失が非常に少なく、例えば油回転真空ポンプのような摩擦仕事の大きい真空ポンプに比べて、駆動に要するエネルギーを少なくできるという利点を有する。
【0003】
メカニカルブースタポンプは、両ロータを収容するポンプ室内において潤滑油を必要としないため油による真空の汚染が少ない。一方、ポンプの運転上、両ロータの回転位相や各ロータの軸の中心を常に正確に維持する必要があるため、各ロータを同期回転させるためのギヤ、各ロータの回転軸を支持するベアリングなどに対して潤滑が必要となる。このため、上記ギヤを収容するギヤ室に潤滑油を溜めておき、運転時に各部の潤滑を行うようにしている(例えば下記特許文献1参照)。
【0004】
また、メカニカルブースタポンプにおいては、ポンプ室に隣接して、上記ギヤを収容するギヤ室と、一方のロータを回転させる駆動軸を収容する駆動室とが配置される。ポンプ室内のシール性を高めるため、ギヤ室および駆動室はポンプ室とそれぞれ連通しており、これによりポンプの作動中、各室内の圧力は均一化される。
【0005】
例えば下記特許文献2には、一対のロータを収容するポンプ室と、各ロータを同期回転させる歯車を収容する第1潤滑室と、ロータ軸を回転自在に支持する第2潤滑室とを備えた回転型真空ポンプの潤滑室排気装置が記載されている。この真空ポンプは、第1潤滑室と第2潤滑室との間に設けられた脱気用の第1通路と、第2潤滑室とポンプ室との間に設けられた脱気用の第2通路とを有する。これにより第1潤滑室内の油が直接ポンプ室へ流出しないようにして、ポンプ室の油による汚染を防止するようにしている。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の一実施形態に係る真空ポンプは、ポンプ部と、駆動部と、回転伝達部と、規制部材とを具備する。
上記ポンプ部は、第1の方向に回転可能な第1のロータと、上記第1のロータに近接配置され上記第1の方向とは反対側の第2の方向に回転可能な第2のロータと、上記第1のロータと上記第2のロータとを収容する第1の室とを有する。
上記駆動部は、上記第1のロータを回転させる駆動機構と、上記駆動機構を収容する第2の室と、上記第1の室と上記第2の室とを連通させる第1の脱気通路とを有する。
上記回転伝達部は、上記第1のロータと上記第2のロータとを同期回転させるギヤ機構と、上記ギヤ機構を収容し上記ギヤ機構を潤滑する潤滑油を貯留可能な第3の室と、上記第3の室を上記第2の室又は上記第1の室へ連通させる第2の脱気通路とを有する。
上記規制部材は、上記第2の脱気通路に設けられ、上記第3の室から上記第2の室への上記潤滑油の流れを規制する規制部を有する。
【0012】
上記真空ポンプにおいて、第1のロータは、駆動機構により駆動力を受けて第1の方向に回転する。第1のロータの回転がギヤ機構を介して第2のロータに伝達されることで、第2のロータは第2の方向に回転する。これにより第1の室は排気され、駆動機構を収容する第2の室およびギヤ機構を収容する第3の室もまた、第1の脱気通路および第2の脱気通路を介してそれぞれ排気される。
【0013】
上記真空ポンプにおいては、第2の脱気通路に、第3の室から第2の室への潤滑油の流れを規制する規制部を有する規制部材を備える。このため、第3の室内の潤滑油の量の減少を抑制し、ギヤ機構の安定した潤滑を確保することが可能となる。
【0014】
上記回転伝達部は、上記第3の室を区画するケーシングをさらに有してもよい。この場合、上記第2の脱気通路は、上記ケーシングの内部に形成された通路部を含み、上記規制部材は、上記規制部で上記通路部の流路の一部を遮蔽するように上記ケーシングに取り付けられる。
これにより、第2の脱気通路に侵入した潤滑油が第3の室へ戻されるため、第3の室内の潤滑油の量を安定に維持することができる。
【0015】
上記通路部は、第1の流路と、第2の流路とを有してもよい。上記第1の流路は、重力方向に平行な軸方向を有し、上記第3の室に臨む。上記第2の流路は、上記第1の軸方向と交差する第2の軸方向を有する。この場合、上記規制部材は、上記第2の流路に装着された筒体で形成され、当該筒体は、上記規制部として上記第1の流路内に位置する第1の端部を有する。
これにより、第2の流路へ潤滑油を入りにくくなるため、第2の室側への潤滑油の流出が効果的に阻害される。また、規制部に衝突した潤滑油を重力作用によって効率よく第3の室へ戻すことができる。
【0016】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。
【0017】
図1は、本発明の一実施形態に係る真空ポンプを示す概略断面図である。
図2は、ポンプ部の内部構成を示す断面図である。各図においてX軸方向およびY軸方向は相互に直交する水平方向をそれぞれ示しており、Z軸方向はこれらに直交する鉛直方向(重力方向)を示している。
【0018】
本実施形態の真空ポンプ1は、単段のメカニカルブースタポンプで構成されている。真空ポンプ1は、ポンプ部2と、駆動部3と、回転伝達部4とを有する。
【0019】
ポンプ部2は、ポンプ室23を形成する第1のケーシング20を有する。第1のケーシング20は、図示しない真空チャンバに連絡する吸気口201と、後段のポンプ装置(例えばロータリポンプ)に連絡する排気口202とを有する。吸気口201および排気口202はそれぞれポンプ室23と連通している。ポンプ室23は、第1のケーシング20と、第1のケーシング20の両側に気密に取り付けられた隔壁24,25とによって画定される。
【0020】
ポンプ部2は、一対のロータ21,22を有する。ロータ21,22は、Y軸方向に平行に延びる回転軸210,220をそれぞれ有する。ロータ21,22はマユ(繭)型の断面を有し、
図2に示すように相互に近接配置されてポンプ室23に収容されている。これらロータ21,22の間、ロータ21,22と第1のケーシング20との間、およびロータ21,22と隔壁24,25との間には、それぞれ僅かな隙間(例えば0.02〜0.04mm程度)が保たれている。
【0021】
回転軸210,220は隔壁24,25をそれぞれ貫通しており、回転軸210,220の一方の端部は、駆動部3内のモータ室33に位置している。そして、回転軸210,220の他方の端部は、回転伝達部4内のギヤ室43に位置している。
【0022】
駆動部3は、隔壁24に気密に取り付けられた第2のケーシング30を有し、モータ室33は第2のケーシング30の内部に形成される。隔壁24のモータ室33側には回転軸210,220を回転自在に支持するベアリング31および軸シール32がそれぞれ設置されている。
【0023】
モータ室33は、第1の脱気通路P1を介してポンプ室23と連通している。これによりモータ室33は、第1の脱気通路P1を介して脱気可能とされ、真空ポンプ1の作動時、ポンプ室23の圧力と均一化される。本実施形態において第1の脱気通路P1は、隔壁24をY軸方向に貫通する通路で形成されている。
【0024】
駆動部3は、ロータ21の回転軸210を回転させるモータ35を有する。モータ35は、第2のケーシング30に固定されているとともに、マグネットカップリング機構50を介して回転軸210と連結される駆動軸350を有する。マグネットカップリング機構50は、回転軸210の周囲に固定された環状の内周側磁石51と、駆動軸350の周囲に固定された環状の外周側磁石52とを有し、これら磁石51,52の間の磁気結合によって、回転軸210と駆動軸350とを相互に連結する。
【0025】
内周側磁石51は、回転軸210の先端に固定された支持部材53の外周部に配置され、外周側磁石52は、駆動軸350に固定された支持部材54の内周部に配置されている。内周側磁石51と外周側磁石52は、仕切り部材55を介して相互に対向している。仕切り部材55の周縁部は、第2のケーシング30の内周面に形成された環状凸部30aに気密に固定されている。内周側磁石51が配置されるモータ室33と、外周側磁石52が配置される大気室34とが、仕切り部材55によって隔離される。
【0026】
回転伝達部4は、隔壁25に気密に取り付けられた第3のケーシング40を有し、ギヤ室43は第3のケーシング40の内部に形成される。隔壁25のギヤ室43側には回転軸210,220を回転自在に支持するベアリング45および軸シール46がそれぞれ設置されている。
【0027】
第3のケーシング40は、ロータ21,22を相互に逆方向へ同期回転させるギヤ機構を収容するギヤ室43を形成する。上記ギヤ機構は、回転軸210の端部に固定された同期ギヤ41と、回転軸220の端部に固定された同期ギヤ42とを有する。これにより、モータ35の駆動により一方の回転軸210がその軸まわりに回転すると、同期ギヤ41,42を介して他方の回転軸220に回転力が伝達される。このとき回転軸220は、回転軸210とは逆の方向に回転される。
【0028】
ギヤ室43には、ギヤ機構を潤滑するための潤滑油Gが貯留される。同期ギヤ41,42の先端には、潤滑油Gをかき上げるプレート47が固定されており、同期ギヤ41,42とともに回転することで潤滑油Gを同期ギヤ41,42、ベアリング45等へ供給する。これによりロータ21,22をその相対位置を維持しつつ適正に回転させることができる。第3のケーシング40には、ギヤ室43における潤滑油Gの貯留量を確認するための窓44が設けられている。そしてギヤ室43には、同期ギヤ41,42の回転による潤滑油Gの飛散を抑えるために、シールド48が設けられている。シールド48は、同期ギヤ41,42の上部を覆うように隔壁25に取り付けられた略平板形状を有する。
【0029】
ギヤ室43は、第2の脱気通路P2を介してモータ室33と連通している。これによりギヤ室43は、第2の脱気通路P2を介して脱気可能とされ、真空ポンプ1の作動時、モータ室33およびポンプ室23の圧力と均一化される。
【0030】
本実施形態において第2の脱気通路P2は、第3のケーシング40、隔壁25、第1のケーシング20および隔壁24を介してギヤ室43をモータ室33へ連通させる。第2の脱気通路P2は主として、第1のケーシング20、隔壁24,25をY軸方向に貫通する主通路部P21と、第3のケーシング40に形成された連絡通路部P22とにより形成される。なお第2のケーシング30にも同様な連絡通路部を形成することで、主通路部P21とモータ室33とを相互に接続してもよい。
【0031】
図3は、連絡通路部P22の詳細を示す要部の拡大図である。連絡通路部P22は、第1の流路P221と、第2の流路P222とを有する。第1の流路P221は、Z軸方向に軸方向を有し、その一端部がギヤ室43に臨んでいる。第2の流路P222は、Y軸方向に軸方向を有し、第1の流路P221と主通路部P21との間を連絡する。
【0032】
本実施形態の真空ポンプ1は、規制部材60を有する。本実施形態において規制部材60は、円筒形状を有しており、その一端部は第2の流路P222に嵌合し、他端部は、第1の流路P221の一部を遮蔽するように第1の流路P221内に位置している。この規制部材60の他端部は、ギヤ室43からモータ室33への潤滑油Gの流れを規制する規制部61として機能する。
【0033】
規制部材60の材質は特に限定されず、樹脂材料でもよいし、金属材料でもよい。本実施形態では、ステンレス鋼やアルミニウム合金等で規制部材60が形成される。
【0034】
次に、以上のように構成される真空ポンプ1の動作について説明する。
【0035】
図1を参照して、モータ35の作動により、マグネットカップリング機構50を介して駆動軸350と共に回転軸210が回転することで、ポンプ室23内においてロータ21が回転する。また回転軸210の回転力は、回転伝達部4においてロータ22の回転軸220に伝達され、これによりロータ22は、ロータ21と同期して、ロータ21とは逆方向に回転する。これらロータ21,22の回転により、ポンプ部2は、吸気口201より吸入されたガスを排気口202へ向けて排出する所定のポンプ作用を行う。
【0036】
モータ室33およびギヤ室43は、ポンプ室23の圧力の低下に伴って、第1および第2の脱気通路P1,P2を介して減圧される。これによりポンプ室23と、ポンプ室23に隣接するモータ室33およびギヤ室43との間の差圧が小さくなるため、ポンプ室23のリークによるポンプ性能の低下が防止される。
【0037】
ロータ21,22の回転時、同期ギヤ41,42は、ギヤ室43内に貯留された潤滑油Gによって潤滑される。上述のようにギヤ室43は、ポンプ室23と共に排気される。このとき潤滑油Gも脱気され、その脱ガスが第2の脱気通路P2を介してモータ室33側へ排気される。このとき潤滑油Gは、脱気により激しく泡立ち、さらにプレート47の回転による撹拌作用も伴って、潤滑油の飛沫がギヤ室43の内部で飛散する。シールド48は、潤滑油Gの飛散を抑制するが、例えばポンプ起動時のように潤滑油の泡立ちが激しい場合は、シールド48を通り超えて脱気通路P2へ至ることがある。ギヤ室43に飛散した潤滑油が脱気通路P2へ到達すると、ギヤ室43の残留ガスとともにモータ室33側へ流出する。この状態を放置すると、潤滑油Gの貯流量が減少し、同期ギヤ41,42やベアリング45の潤滑作用が安定に維持できないおそれが生じる。
【0038】
そこで本実施形態では、脱気通路P2に規制部材60が設けられている。規制部材60の規制部61は、
図3に示すように第1の流路P221の一部を遮蔽するように第2の流路P222に取り付けられている。これにより、第1の流路P221に侵入した潤滑油Gの飛沫を規制部61で受け、第2の流路P222への潤滑油Gの侵入を規制する。これにより、ギヤ室43からモータ室33への潤滑油Gの流出を阻止し、同期ギヤ41,42やベアリング45等の安定した潤滑作用を確保することが可能となる。
【0039】
また規制部材60は筒体で構成されているため、規制部材60の内部を介してギヤ室43内の残留ガスを効率よく第2の流路P222へ導くことができる。
【0040】
さらに本実施形態によれば、脱気通路P2の連絡通路部P22が第1の流路P221と第2の流路P222とで構成されているため、規制部61で受け止めた潤滑油Gを重力作用によって効率よくギヤ室43へ戻すことができる。これにより、連絡通路部P22内の潤滑油Gの停滞を防止することができる。
【0041】
第2の流路P222から第1の流路P221へ突出する規制部61の突出量は特に限定されず、ギヤ室43の容積、脱気通路P2の断面積、潤滑油Gの貯留量等に応じて適宜設定することができる。
【0042】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、本発明の技術的思想に基づいて種々の変更が可能である。
【0043】
例えば以上の実施形態では、連絡通路部P22の第2の流路P222を第1の流路P221に対して直交する方向に形成したが、これに限られず、第2の流路P222は、第1の流路P221から主通路部P21に向かって上向き傾斜で形成されていてもよい。
【0044】
また以上の実施形態では規制部61が筒体の端部で形成されたが、これに限られず、平面的な板部であってもよい。また、当該板部に脱気用の孔が単数または複数形成された形態であってもよい。この場合、当該板部は、第1の流路の全域に配置されてもよい。
【0045】
さらに以上の実施形態では、第1の脱気通路P1を隔壁24に形成したが、当該脱気通路P1は、ポンプ室23とモータ室33とを連絡する別途の配管部材で構成されてもよい。また、第1の脱気通路P1は、モータ室33をポンプ室23に直接連通させる場合に限られず、ポンプ室23の吸気側あるいは排気側に連通させてもよい。
【0046】
第2の脱気通路P2も同様に、ギヤ室43とモータ室33とを連絡する別途の配管部材で構成されてもよい。さらに、第2の脱気通路P2は、モータ室33を経由することなくギヤ室43を直接ポンプ室23へ連通させるように構成されてもよい。規制部材60の設置により、ポンプ室23への潤滑油の侵入を抑制し、ポンプ室23をクリーンな状態に維持することができる。
【0047】
さらに以上の実施形態では、単段式のメカニカルブースタポンプに本発明を適用した例を説明したが、これに限られず、例えば多段型のルーツポンプ等の他の真空ポンプにも本発明は適用可能である。