特許第5763388号(P5763388)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5763388
(24)【登録日】2015年6月19日
(45)【発行日】2015年8月12日
(54)【発明の名称】空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
   B60C 5/14 20060101AFI20150723BHJP
【FI】
   B60C5/14 Z
   B60C5/14 A
【請求項の数】10
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2011-81838(P2011-81838)
(22)【出願日】2011年4月1日
(65)【公開番号】特開2012-214167(P2012-214167A)
(43)【公開日】2012年11月8日
【審査請求日】2014年2月19日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】特許業務法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】土田 剛史
【審査官】 水野 治彦
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−051320(JP,A)
【文献】 特開2008−024215(JP,A)
【文献】 特開2005−343379(JP,A)
【文献】 特開2003−165303(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 5/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対のビード部の間に装架されたカーカスプライのタイヤ内側にインナーライナーを備えた空気入りタイヤであって、
前記インナーライナーは、タイヤ内側に配置される第1層と前記カーカスプライに隣接して配置される第2層を含む複数層のポリマー積層体で形成され、
前記第1層は、ポリマー成分としてスチレン−イソブチレン−スチレントリブロック共重合体の99.5〜60質量%と、主鎖にスチレン由来の単位と無水マレイン酸由来単位を有するスチレン−無水マレイン酸共重合体の0.5〜40質量%を含む均一組成のエラストマー組成物で構成され、厚さが0.05mm〜0.6mmであり、
前記第2層は、スチレン−イソプレン−スチレントリブロック共重合体およびスチレン−イソブチレンジブロック共重合体の少なくともいずれかを含むエラストマー組成物で構成され、厚さが0.01mm〜0.3mmであり、
前記インナーライナーはクラウン中央位置Pcにおける厚さGcよりもショルダー位置Peの厚さGeが厚いことを特徴とする空気入りタイヤ。
【請求項2】
タイヤ子午断面において、前記カーカスプライとインナーライナーの境界線に対してトレッド部の接地端Teからタイヤ内径方向に法線Lを引き前記境界線との交点をショルダー位置Peとし、前記カーカスプライとインナーライナーの境界線とタイヤ中心線CLとの交点をクラウン中心位置Pcとし、さらに前記ショルダー位置Peからクラウン中心位置Pcまでのインナーライナーの輪郭線に沿った距離をショルダー距離Wcとしたとき、前記インナーライナーの肉厚部は、前記ショルダー位置Peからクラウン中心位置Pc側に、前記ショルダー距離Wcの少なくとも10%の幅を有する領域に形成されている請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】
インナーライナーの肉厚部は、前記ショルダー位置Peからクラウン中心位置Pc側に、前記ショルダー幅Wcの50%以下の幅を有する領域に形成されている請求項1または2に記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】
前記インナーライナーの前記ショルダー位置Peからタイヤ最大幅位置Psまでのインナーライナーの輪郭線に沿った距離をサイド距離Wsとしたとき、前記インナーライナーの肉厚部は、前記ショルダー位置Peから前記最大幅位置Ps側に、前記サイド距離Wsの少なくとも20%の幅を有する領域に形成されている請求項1〜3のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【請求項5】
前記インナーライナーの肉厚部は、前記ショルダー位置Peから前記最大幅位置Ps側に、前記最大幅距離Wsの100%以下の幅を有する領域に形成されている請求項1〜3のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【請求項6】
前記インナーライナーは、クラウン中央位置Pcにおける厚さGcに対し、ショルダー位置Peの厚さGeは160%〜520%である請求項1〜5のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【請求項7】
スチレン/無水マレイン酸の共重合組成比は、モル比で50/50〜90/10の範囲であり、重量平均分子量が4,000〜20,000の範囲であり、無水マレイン酸の酸価が50〜600である請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【請求項8】
前記スチレン−イソブチレン−スチレントリブロック共重合体はスチレン成分含有量が10〜30質量%であり、重量平均分子量が50,000〜400,000である請求項1〜7のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【請求項9】
前記スチレン−イソプレン−スチレントリブロック共重合体は、スチレン成分含有量が10〜30質量%であり、重量平均分子量が100,000〜290,000である請求項1〜8のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【請求項10】
前記スチレン−イソブチレンジブロック共重合体は直鎖状であり、スチレン成分含有量が10〜35質量%であり、重量平均分子量が40,000〜120,000である請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はタイヤ内面に異なった厚さを有するインナーライナーを備えた空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
インナーライナーはタイヤの内側に配置され、空気入りタイヤ内部から外部への空気の漏れを低減してタイヤ内圧を一定に維持する機能を有する。このような機能を有する材料として、従来からブチル系ゴムなどの空気透過性の低いゴム組成物が使用されている。一方、タイヤの軽量化を図るために前記ゴム組成物にかえて熱可塑性樹脂を含む材料からなるフィルムが使用される場合がある。
【0003】
ここでインナーライナーは、タイヤ使用時にショルダー部近傍に大きなせん断歪が作用する。熱可塑性樹脂を含む材料をインナーライナーとして使用した場合、このせん断歪みによって、インナーライナーとカーカスプライの接着界面で剥離が発生しやすくなり、タイヤの空気漏れが発生するという問題があった。
【0004】
一方、空気入りタイヤは低燃費化の要請があり、タイヤを軽量化して転がり抵抗を軽減することが試みられている。そのためインナーライナーに熱可塑性エラストマーを用いる技術も提案されているが、ブチル系ゴムのインナーライナーよりも厚さを薄くすると耐空気透過性と軽量化の両立が困難である。また厚さを薄くすることでインナーライナーの強度は低下し、加硫工程時のブラダーの熱と圧力でインナーライナーが破壊または変形する問題があった。
【0005】
特許文献1には、インナーライナー層とゴム層の接着性を改善するための積層体が開示されている。これはインナーライナー層の両側に接着層を設けることで、インナーライナー層の重ね合わせ部において接着層同士が接触するようになり、加熱によって強固に接着されるので、空気圧保持性を向上させている。しかしこのインナーライナー層の重ね合わせのための接着層は、加硫工程においてブラダーと加熱状態で接触することになり、ブラダーに粘着するという問題がある。
【0006】
特許文献2は、耐空気透過性の良好なナイロン樹脂とブチルゴムを動的架橋により混合物で厚み100μmのインナーライナー層を作製している。しかしナイロン樹脂は室温では硬くタイヤ用インナーライナーとしては不向きである。また、この動的架橋による混合物だけではゴム層との加硫接着はしないため、インナーライナー層とは別に加硫用接着層を必要とするため、インナーライナー部材としては構造が複雑で工程が多くなり、生産性の観点から不利である。
【0007】
特許文献3は、空気遮断性の良好なエチレン−ビニルアルコール共重合体中に無水マレイン酸変性水素添加スチレン−エチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体を分散させ、柔軟なガスバリア層を作製している。また、熱可塑性ポリウレタン層では挟み込みサンドイッチ構造、さらにタイヤゴムと接着する面にゴム糊(ブチルゴム/天然ゴムの70/30をトルエンに溶解させる)を塗布させてインナーライナー層を作製している。
【0008】
しかし、柔軟樹脂分散の変性エチレン−ビニルアルコール共重合体は接着力が低く、熱可塑性ポリウレタン層と剥離するおそれがある。また柔軟樹脂分散の変性エチレン−ビニルアルコール共重合体は柔軟樹脂が分散されているが、マトリックスの変性エチレン−ビニルアルコール共重合体は屈曲疲労性に乏しくタイヤ走行中に破壊してしまう。さらにタイヤゴムと接着する面にゴム糊を塗布しているが、通常のインナーライナー工程とは別の工程が必要となり生産性が劣ることになる。
【0009】
特許文献4は、ショルダー部における厚さをタイヤクラウン部における厚さよりも大きく設計することにより低温耐久性の向上を実現している。しかしながら厚さ寸法を大きくすることは重量増加となり低燃費および製造コストの観点から好ましくない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平9−19987号公報
【特許文献2】特許第2999188号
【特許文献3】特開2008−24219号公報
【特許文献4】特開2005−343379号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明はインナーライナーを備えた空気入りタイヤにおいて、タイヤの軽量化を図ることで転がり抵抗を低減するとともに低温耐久性を改善することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、一対のビード部の間に装架されたカーカスプライのタイヤ内側にインナーライナーを備えた空気入りタイヤであって、前記インナーライナーは、タイヤ内側に配置される第1層と前記カーカスプライに隣接して配置される第2層を含む複数層の積層体で形成され、前記第1層は、ポリマー成分としてスチレン−イソブチレン−スチレントリブロック共重合体の99.5〜60質量%と、スチレン−無水マレイン酸共重合体の0.5〜40質量%を含むエラストマー組成物で構成され、厚さが0.05mm〜0.6mmであり、前記第2層は、スチレン−イソプレン−スチレントリブロック共重合体およびスチレン−イソブチレンジブロック共重合体の少なくともいずれかを含むエラストマー組成物で構成され、厚さが0.01mm〜0.3mmであり、前記インナーライナーはクラウン中央位置Pcにおける厚さGcよりもショルダー位置Peの厚さGeが厚いことを特徴とする空気入りタイヤに関する。
【0013】
また、本発明の空気入りタイヤは、タイヤ子午断面において、前記カーカスプライとインナーライナーの境界線に対してトレッド部の接地端Teからタイヤ内径方向に法線Lを引き前記境界線との交点をショルダー位置Peとし、前記カーカスプライとインナーライナーの境界線とタイヤ中心線CLとの交点をクラウン中心位置Pcとし、さらに前記ショルダー位置Peからクラウン中心位置Pcまでのインナーライナーの輪郭線に沿った距離をショルダー距離Wcとしたとき、前記インナーライナーの肉厚部は、前記ショルダー位置Peからクラウン中心位置Pc側に、前記ショルダー距離Wcの少なくとも10%の幅を有する領域に形成されていることが好ましい。
【0014】
本発明において、前記インナーライナーの肉厚部は、前記ショルダー位置Peからクラウン中心位置Pc側に、前記ショルダー幅Wcの50%以下の幅を有する領域に形成されていることが好ましい。
【0015】
さらに、前記インナーライナーの前記ショルダー位置Peからタイヤ最大幅位置Psまでのインナーライナーの輪郭線に沿った距離をサイド距離Wsとしたとき、前記インナーライナーの肉厚部は、前記ショルダー位置Peから前記最大幅位置Ps側に、前記サイド距離Wsの少なくとも20%の幅を有する領域に形成されていることが好ましい。本発明において、前記インナーライナーの肉厚部は、前記ショルダー位置Peから前記最大幅位置Ps側に、前記最大幅距離Wsの100%以下の幅を有する領域に形成されていることが好ましい。また前記インナーライナーは、クラウン中央位置Pcにおける厚さGcに対し、ショルダー位置Peの厚さGeは160%〜520%であることが好ましい。
【0016】
また、本発明の空気入りタイヤにおいて、前記スチレン/無水マレイン酸の共重合組成比はモル比で50/50〜90/10の範囲であり、重量平均分子量が4,000〜20,000の範囲であり、無水マレイン酸の酸価が50〜600であることが好ましい。
【0017】
さらに本発明の空気入りタイヤにおいて、前記スチレン−イソブチレン−スチレントリブロック共重合体はスチレン成分含有量が10〜30質量%であり、重量平均分子量が50,000〜400,000であることが好ましい。また前記スチレン−イソプレン−スチレントリブロック共重合体は、スチレン成分含有量が10〜30質量%であり、重量平均分子量が100,000〜290,000であることが好ましい。さらに前記スチレン−イソブチレンジブロック共重合体は直鎖状であり、スチレン成分含有量が10〜35質量%であり、重量平均分子量が40,000〜120,000であることが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明のタイヤはインナーライナーに特定の熱可塑性エラストマー組成物を用いるとともに、タイヤショルダー部におけるインナーライナーの厚さを他の部分よりも厚くしたため耐空気透過性を維持しながら、隣接するカーカスプライとの接着性を高めることができる。さらに低温耐久性に優れ軽量化に伴う転がり抵抗の軽減を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の空気入りタイヤの右半分の概略断面図である。
図2図1のトレッド部の拡大概略断面図である。
図3】本発明の空気入りタイヤのインナーライナーの概略断面図である。
図4】本発明の空気入りタイヤのインナーライナーの概略断面図である。
図5】本発明の空気入りタイヤのインナーライナーの概略断面図である。
図6】本発明の空気入りタイヤのインナーライナーの概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の空気入りタイヤの実施形態を図に基づき説明する。図1は、空気入りタイヤの右半分の概略断面図であり、図2は、そのトレッド部の拡大概略断面図である。図において空気入りタイヤ1は、トレッド部2と、該トレッド部両端からトロイド形状を形成するようにサイドウォール部3とビード部4とを有している。さらに、ビード部4にはビードコア5が埋設される。また、一方のビード部4から他方のビード部に亘って設けられ、両端をビードコア5のまわりに折り返して係止されるカーカスプライ6と、該カーカスプライ6のクラウン部外側には、少なくとも2枚のプライよりなるベルト層7とが配置されている。
【0021】
前記ベルト層7は、通常、スチールコードまたはアラミド繊維等のコードよりなるプラ
イの2枚をタイヤ周方向に対して、コードがタイヤ周方向に通常5〜30°の角度になるようにプライ間で相互に交差するように配置される。なおベルト層の両端外側には、トッピングゴム層を設け、ベルト層両端の剥離を軽減することができる。またカーカスプライはポリエステル、ナイロン、アラミド等の有機繊維コードまたはスチールなどの金属コードがタイヤ周方向にほぼ90°に配列されており、カーカスプライとその折り返し部に囲まれる領域には、ビードコア5の上端からサイドウォール方向に延びるビードエーペックス8が配置される。また前記カーカスプライ6のタイヤ半径方向内側には一方のビード部4から他方のビード部4に亘るインナーライナー9が配置されている。
【0022】
ここで本発明においてインナーライナー9に関する位置、距離および幅を次のように定義する。
【0023】
<ショルダー位置Pe>
タイヤ子午断面において、前記カーカスプライとインナーライナーの境界線に対してトレッド部の接地端Teからタイヤ内径方向に法線Lを引き前記境界線との交点をショルダー位置Peと定義する。ここでトレッド部の接地端Teは、トレッド部の外側輪郭線を延長した線と、ショルダー部の外側輪郭線を延長した交点として定義される。
【0024】
<クラウン中心位置Pc>
カーカスプライとインナーライナーの境界線とタイヤ中心線CLとの交点をクラウン中心位置Pcとする。
【0025】
<最大幅位置Ps>
タイヤに規定内圧を充填し標準リムを装着したときの外側輪郭線の最大幅位置Leをとおるタイヤ回転軸に平行な線とカーカスプライとインナーライナーの境界線との交点を最大幅位置Psとする。
【0026】
<ショルダー距離Wc>
前記ショルダー位置Peからクラウン中心位置Pcまでのインナーライナーの輪郭線に沿った距離をショルダー距離Wcとする。
【0027】
<サイド距離Ws>
前記ショルダー位置Peからタイヤ最大幅位置Psまでのインナーライナーの輪郭線に沿った距離をサイド距離Wsとする。
【0028】
<インナーライナー厚さ>
インナーライナーのクラウン中心位置Pcの厚さをGc、ショルダー位置Peにおける厚さをGe、最大幅位置Psにおける厚さをGsとする。
【0029】
前記インナーライナーの肉厚部は、前記ショルダー位置Peからクラウン中心位置Pc側に、前記ショルダー距離Wcの少なくとも10%の幅を有する領域に形成されていることが望ましい。一方、肉厚部は前記ショルダー距離Wcの100%以下の幅を有する領域に形成される。特に、肉厚部はショルダー距離Wcの10%〜50%の範囲がより好ましい。
【0030】
前記インナーライナーの肉厚部は、前記ショルダー位置Peから前記最大幅位置Ps側に、前記サイド距離Wsの少なくとも20%の幅を有し、100%以下の幅の領域に形成されていることが好ましい。肉厚部がショルダー位置Peからサイド距離Wsの20%〜100%の範囲に設定することで、タイヤ走行時に屈曲変形の激しいショルダー部の変形を抑制するとともに、この領域の応力緩和を効果的に達成することができる。さらに、前
記肉厚部はショルダー位置Peからサイド距離Wsの20%〜80%の範囲がより好ましい。
【0031】
本発明において前記インナーライナーは、クラウン中央位置Pcにおける厚さGcに対し、ショルダー位置Peの厚さGeは160%〜520%が望ましく、最大幅位置Psの厚さGsに対し、ショルダー位置Peの厚さGeは160%〜520%であることが望ましい。ショルダー位置Peの厚さGeが160%未満の場合は、ショルダー部の屈曲変形およびせん断変形の抑制の効果が小さく、また520%を超えるとインナーライナーの軽量化の効果は小さい。クラウン中央位置Pcにおける厚さGcに対し、ショルダー位置Peの厚さGeは、より好ましくは200%〜520%である。
【0032】
なお、肉厚部は、ショルダー位置Peを中心に、クラウン中央位置Pc方向と、最大幅位置Ps方向に厚さを漸減する構成とすることが好ましい。インナーライナーの肉厚部を上述のように形成することで、タイヤ走行時における、この領域での繰り返し変形に伴う屈曲変形およびせん断変形が生じても、その応力を緩和することができ、インナーライナーのクラックの発生を防止することができる。
【0033】
<インナーライナー>
本発明の空気入りタイヤは、一対のビード部の間に装架されたカーカスプライのタイヤ内側にインナーライナーを備え、該インナーライナーは、タイヤ内側に配置される第1層と、前記カーカスプライに隣接して配置される第2層を含む複数層のポリマー積層体で形成される。
【0034】
ここで前記第1層は、スチレン−イソブチレン−スチレントリブロック共重合体(SIBS)とスチレン−無水マレイン酸共重合体を含み、厚さが0.05mm〜0.6mmの範囲である。前記第2層は、スチレン−イソプレン−スチレントリブロック共重合体(SIS)およびスチレン−イソブチレンジブロック共重合体(SIB)の少なくともいずれかを含み、厚さが0.01mm〜0.3mmの範囲である。
【0035】
<第1層>
本発明のインナーライナーの前記第1層は、ポリマー成分としてスチレン−イソブチレン−スチレントリブロック共重合体の99.5〜60質量%と、スチレン−無水マレイン酸共重合体の0.5〜40質量%を含むエラストマー組成物で構成され、厚さが0.05mm〜0.6mmである。以下、第1層を、「SIBS層」ともいう。
【0036】
前記SIBSのイソブチレンブロック由来により、SIBSからなるポリマーフィルムは優れた耐空気透過性を有する。したがって、SIBSからなるポリマーフィルムをインナーライナーに用いた場合、耐空気透過性に優れた空気入りタイヤを得ることができる。
【0037】
さらに、SIBSは芳香族以外の分子構造が完全飽和であることにより、劣化硬化が抑制され、優れた耐久性を有する。したがって、SIBSからなるポリマーフィルムをインナーライナーに用いた場合、耐久性に優れた空気入りタイヤを得ることができる。
【0038】
SIBSからなるポリマーフィルムをインナーライナーに適用して空気入りタイヤを製造した場合には、耐空気透過性を確保できる。したがってハロゲン化ブチルゴム等の、従来耐空気透過性を付与するために使用されてきた高比重のハロゲン化ゴムを使用する必要がなく、使用する場合にも使用量の低減が可能である。これによってタイヤの軽量化が可能であり、燃費の向上効果が得られる。
【0039】
SIBSの分子量は特に制限はないが、流動性、成形化工程、ゴム弾性などの観点から、GPC測定による重量平均分子量が50,000〜400,000であることが好ましい。重量平均分子量が50,000未満であると引張強度、引張伸びが低下するおそれがあり、400,000を超えると押出加工性が悪くなるおそれがあるため好ましくない。SIBSは耐空気透過性と耐久性をより良好にする観点から、SIBS中のスチレン成分の含有量は10〜30質量%、好ましくは14〜23質量%であることが好ましい。
【0040】
該SIBSは、その共重合体において、各ブロックの重合度は、ゴム弾性と取り扱い(重合度が10,000未満では液状になる)の点からイソブチレンでは10,000〜1
50,000程度、またスチレンでは5,000〜30,000程度であることが好ましい。
【0041】
SIBSは、一般的なビニル系化合物のリビングカチオン重合法により得ることができ。例えば、特開昭62−48704号公報および特開昭64−62308号公報には、イソブチレンと他のビニル化合物とのリビングカチオン重合が可能であり、ビニル化合物にイソブチレンと他の化合物を用いることでポリイソブチレン系のブロック共重合体を製造できることが開示されている。
【0042】
SIBSは分子内に芳香族以外の二重結合を有していないために、分子内に二重結合を有している重合体、例えばポリブタジエンに比べて紫外線に対する安定性が高く、従って耐候性が良好である。さらに分子内に二重結合を有しておらず、飽和系のゴム状ポリマーであるにも関わらず、波長589nmの光の20℃での屈折率(nD)は、ポリマーハンドブック(1989年:ワイリー(Polymer Handbook, Willy,1989))によると、1.506である。これは他の飽和系のゴム状ポリマー、例えば、エチレン−ブテン共重合体に比べて有意に高い。
【0043】
SIBSからなる第1層の厚さは、0.05〜0.6mmである。第1層の厚さが0.05mm未満であると、ポリマー積層体をインナーライナーに適用した生タイヤの加硫時に、第1層がプレス圧力で破れてしまい、得られたタイヤにおいてエアーリーク現象が生じる恐れがある。一方、第1層の厚さが0.6mmを超えるとタイヤ重量が増加し、低燃費性能が低下する。第1層の厚さは、さらに0.05〜0.4mmであることが好ましい。第1層は、SIBSを押出成形、カレンダー成形といった熱可塑性樹脂、熱可塑性エラストマーをフィルム化する通常の方法によってフィルム化して得ることができる。
【0044】
<SMAとの混合>
前記第1層に用いられる、スチレン−無水マレイン酸共重合体は、スチレン−無水マレイン酸共重合体ベースレジン(以下、SMAベースレジンともいう)、スチレン−無水マレイン酸共重合体ベースレジンがエステル化されて得られた、モノエステル基およびモノカルボン酸基を有するスチレン−無水マレイン酸共重合体のエステルレジン(以下、SMAエステルレジンともいう)およびスチレン−無水マレイン酸共重合体ベースレジンがアンモニウム塩に溶解した、スチレン−無水マレイン酸共重合体アンモニウム塩水溶液(以下、SMAレジンアンモニウム塩水溶液ともいう)を含む概念として記載する。
【0045】
スチレン−無水マレイン酸共重合体は、分散、乳化における高分子界面活性剤、高機能性架橋剤として使用されており、ゴムとの加硫接着性が非常に優れている。また、ゴムにぬれ性を与えるため、粘着効果も優れている。
【0046】
本発明の一実施の形態において、インナーライナー用ポリマー組成物は、SIBSにSMAを配合することで、空気遮断性を保持しつつ、ゴムとの加硫接着性を向上させることができる。
【0047】
インナーライナー用ポリマー組成物のポリマー成分において、SMAの含有量は0.5〜40質量%である。SMAの含有量が0.5質量%以上であることにより、隣接ゴムとの接着性が優れたインナーライナーを得ることができる。またSMAの含有量が40質量%以下であることにより、優れた耐空気透過性と耐久性を有するインナーライナーを得ることができる。ポリマー成分中のSMAの含有量は、2〜30質量%がさらに好ましい。
【0048】
(スチレン−無水マレイン酸共重合体ベースレジン)
本発明の一実施の形態において、SMAはスチレン−無水マレイン酸共重合体ベースレジンを含むことが、加硫前の粘着性および加硫後接着性の観点から好ましい。SMAベースレジンは、スチレン成分/無水マレイン酸成分のモル比が50/50〜90/10であることが、高軟化点および高い熱安定性の観点から好ましい。
【0049】
SMAベースレジンは、重量平均分子量が4,000〜20,000であることが、加硫後接着性および流動性の観点から好ましい。さらに重量平均分子量は、5,000〜15,000であることがより好ましい。SMAベースレジンは、スチレン−無水マレイン酸共重合体中の無水マレイン酸成分の酸価が50〜600であることが、未加硫粘着性の観点から好ましい。さらに無水マレイン酸成分の酸価は、95〜500であることがより好ましい。
【0050】
(スチレン−無水マレイン酸共重合体のエステルレジン)
本発明の一実施の形態において、前記スチレン−無水マレイン酸共重合体は、SMAベースレジンがエステル化されて得られた、モノエステル基およびモノカルボン酸基を有するスチレン−無水マレイン酸共重合体のエステルレジン(以下、SMAエステルレジンともいう)を含むことが好ましい。
【0051】
SMAエステルレジンは、加硫接着性に優れているという特性を有する。したがって、
SIBSにSMAエステルレジンを配合することで、ゴム層との加硫接着性に優れたインナーライナー用ポリマー組成物を得ることができる。SMAエステルレジンは、スチレン成分/無水マレイン酸成分のモル比が50/50〜90/10であることが、加硫接着性の観点から好ましい。
【0052】
SMAエステルレジンは、重量平均分子量が5,000〜12,000であることが、加硫後接着性および流動性の観点から好ましい。さらに重量平均分子量は、6,000〜11,000であることがより好ましい。
【0053】
SMAエステルレジンは、無水マレイン酸成分の酸価が50〜400であることが、未加硫ゴムへの粘着性の観点から好ましい。さらに無水マレイン酸成分の酸価は、95〜290であることがより好ましい。SMAエステルレジンは例えば反応容器にベースレジンとアルコールを導入し、不活性ガス雰囲気下で加熱攪拌することによって製造することができる。
【0054】
(スチレン−無水マレイン酸共重合体アンモニウム塩水溶液)
本発明の一実施の形態において、前記スチレン−無水マレイン酸共重合体は、SMAベースレジンがアンモニウム塩に溶解した、スチレン−無水マレイン酸共重合体アンモニウム塩水溶液(以下、SMAアンモニウム塩水溶液ともいう)を含むことが好ましい。
【0055】
SMAアンモニウム塩水溶液は、ぬれ性に優れているという特性を有する。したがって、SIBSにSMAアンモニウム塩水溶液を配合することで、粘着性に優れたインナーライナー用ポリマー組成物を得ることができる。SMAアンモニウム塩水溶液は、固形分濃度が10.0〜45.0%であることが、未加硫ゴムへの粘着性と成形加工性の観点から好ましい。SMAアンモニウム塩水溶液は、pHが8.0〜9.5であることが粘着性の観点から好ましい。
【0056】
SMAアンモニウム塩水溶液は例えば反応容器に水を入れ、激しく攪拌しながらベースレジンを加え、徐々に水酸化アンモニウムを加えると発熱反応が起こる。その後、所定の温度まで加熱し、溶解が完了するまで攪拌を続けることによって製造することができる。
【0057】
<その他の配合剤>
前記インナーライナー用ポリマー組成物には、その他の補強剤、加硫剤、加硫促進剤、各種オイル、老化防止剤、軟化剤、可塑剤、カップリング剤などのタイヤ用または一般のポリマー組成物に配合される各種配合剤および添加剤を配合することができる。また、これらの配合剤、添加剤の含有量も一般的な量とすることができる。
【0058】
<第2層>
本発明において、第2層はスチレン−イソプレン−スチレントリブロック共重合体(以下、「SIS」ともいう。)を含むSIS層およびスチレン−イソブチレンジブロック共重合体(以下、「SIB」ともいう。)を含むSIB層の少なくともいずれかを含む。スチレン−イソプレン−スチレントリブロック共重合体(SIS)のイソプレンブロックはソフトセグメントであるため、SISからなるポリマーフィルムはゴム成分と加硫接着しやすい。したがって、SISからなるポリマーフィルムをインナーライナーに用いた場合、該インナーライナーは、たとえばカーカスプライのゴム層との接着性に優れているため、耐久性に優れた空気入りタイヤを得ることができる。
【0059】
前記SISの分子量は特に制限はないが、ゴム弾性および成形性の観点から、GPC測定による重量平均分子量が100,000〜290,000であることが好ましい。重量平均分子量が100,000未満であると引張強度が低下するおそれがあり、290,000を超えると押出加工性が悪くなるため好ましくない。SIS中のスチレン成分の含有量は、粘着性、接着性およびゴム弾性の観点から10〜30質量%であることが好ましい。
【0060】
本発明において、SISにおける、各ブロックの重合度は、ゴム弾性と取り扱いの観点からイソプレンでは500〜5,000程度、またスチレンでは50〜1,500程度であることが好ましい。
【0061】
前記SISは、一般的なビニル系化合物の重合法により得ることができ、例えば、リビングカチオン重合法により得ることができる。SIS層は、SISを押出成形、カレンダ
ー成形といった熱可塑性樹脂、熱可塑性エラストマーをフィルム化する通常の方法によってフィルム化して得ることができる。
【0062】
スチレン−イソブチレンジブロック共重合体(SIB)のイソブチレンブロックはソフトセグメントであるため、SIBからなるポリマーフィルムはゴム成分と加硫接着しやすい。したがって、SIBからなるポリマーフィルムをインナーライナーに用いた場合、該インナーライナーは、たとえばカーカスやインスレーションを形成する隣接ゴムとの接着性に優れているため、耐久性に優れた空気入りタイヤを得ることができる。
【0063】
SIBとしては、直鎖状のものを用いることがゴム弾性および接着性の観点から好ましい。SIBの分子量は特に制限はないが、ゴム弾性および成形性の観点から、GPC測定による重量平均分子量が40,000〜120,000であることが好ましい。重量平均分子量が40,000未満であると引張強度が低下するおそれがあり、120,000を超えると押出加工性が悪くなるおそれがあるため好ましくない。
【0064】
SIB中のスチレン成分の含有量は、粘着性、接着性およびゴム弾性の観点から10〜35質量%であることが好ましい。本発明において、SIBにおける、各ブロックの重合度は、ゴム弾性と取り扱いの観点からイソブチレンでは300〜3,000程度、またスチレンでは10〜1,500程度であることが好ましい。
【0065】
前記SIBは、一般的なビニル系化合物の重合法により得ることができ、例えば、リビングカチオン重合法により得ることができる。たとえば、国際公開第2005/033035号には、攪拌機にメチルシクロヘキサン、n−ブチルクロライド、クミルクロライドを加え、−70℃に冷却した後、2時間反応させ、その後に大量のメタノールを添加して反応を停止させ、60℃で真空乾燥してSIBを得るという製造方法が開示されている。
【0066】
SIB層は、SIBを押出成形、カレンダー成形といった熱可塑性樹脂、熱可塑性エラストマーをフィルム化する通常の方法によってフィルム化して得ることができる。第2層の厚さは、0.01mm〜0.3mmである。ここで第2層の厚さとは、第2層がSIS層のみからなる場合は該SIS層の厚さを、第2層がSIB層のみからなる場合は該SIB層の厚さを、第2層がSIS層およびSIB層の2層からなる場合は、該SIS層および該SIB層の合計の厚さを意味する。第2層の厚さが0.01mm未満であると、ポリマー積層体をインナーライナーに適用した生タイヤの加硫時に、第2層がプレス圧力で破れてしまい、加硫接着力が低下する恐れがある。一方、第2層の厚さが0.3mmを超えるとタイヤ重量が増加し低燃費性能が低下する。第2層の厚さは、さらに0.05〜0.2mmであることが好ましい。
【0067】
<ポリマー積層体の形態>
本発明においてインナーライナーに用いられるポリマー積層体の構造は各種の形態を採用できる。これらの形態をインナーライナーの模式的断面図で示す、図3図6に基づき説明する。
【0068】
形態1
ポリマー積層体PLは、図3に示すように、第1層としてのSIBS層PL1および第2層としてのSIS層PL2から構成される。該ポリマー積層体PLを空気入りタイヤのインナーライナーに適用する場合、SIS層PL2がカーカスプライ61に接するようにタイヤ半径方向外側に向けて設置すると、タイヤの加硫工程において、SIS層PL2と
カーカス61との接着強度を高めることができる。したがって得られた空気入りタイヤは、インナーライナーとカーカスプライ61のゴム層とが良好に接着しているため、優れた耐空気透過性および耐久性を有することができる。
【0069】
形態2
ポリマー積層体PLは、図4に示すように、第1層としてのSIBS層PL1および第2層としてのSIB層PL3から構成される。該ポリマー積層体PLを空気入りタイヤのインナーライナーに適用する場合、SIB層PL3の面を、カーカスプライ61に接するようにタイヤ半径方向外側に向けて設置すると、タイヤの加硫工程において、SIB層PL3とカーカス61との接着強度を高めることができる。したがって得られた空気入りタイヤは、インナーライナーとカーカスプライ61のゴム層とが良好に接着しているため、優れた耐空気透過性および耐久性を有することができる。
【0070】
形態3
ポリマー積層体PLは、図5に示すように、第1層としてのSIBS層PL1、第2層としてのSIS層PL2およびSIB層PL3が前記の順に積層されて構成される。該ポリマー積層体PLを空気入りタイヤのインナーライナーに適用する場合、SIB層PL3の面を、カーカスプライ61に接するようにタイヤ半径方向外側に向けて設置すると、タイヤの加硫工程において、SIB層PL3とカーカスプライ61との接着強度を高めることができる。したがって得られた空気入りタイヤは、インナーライナーとカーカスプライ61のゴム層とが良好に接着しているため、優れた耐空気透過性および耐久性を有することができる。
【0071】
形態4
ポリマー積層体PLは、図6に示すように、第1層としてのSIBS層PL1、第2層としてのSIB層PL3およびSIS層PL2が前記の順に積層されて構成される。該ポリマー積層体PLを空気入りタイヤのインナーライナーに適用する場合、SIS層PL2の面を、カーカスプライ61に接するようにタイヤ半径方向外側に向けて設置すると、タイヤの加硫工程において、SIS層PL2とカーカスプライ61との接着強度を高めることができる。したがってインナーライナーとカーカスプライ61のゴム層とが良好に接着しているため、優れた耐空気透過性および耐久性を有することができる。
【0072】
<ポリマー積層体の製造方法>
ポリマー積層体PLは、SIBS層と、SIS層およびSIB層の少なくともいずれかを、たとえば形態1〜4のいずれかに記載された順序でラミネート押出や共押出などの積層押出をして得ることができる。
【0073】
<空気入りタイヤの製造方法>
本発明の空気入りタイヤは、一般的な製造方法を用いることができる。前記ポリマー積層体PLを空気入りタイヤ1の生タイヤのインナーライナーに適用して他の部材とともに加硫成形することによって製造することができる。ポリマー積層体PLを生タイヤに配置する際は、ポリマー積層体PLの第2層であるSIS層PL2またはSIB層PL3が、カーカスプライ61に接するようにタイヤ半径方向外側に向けて配置する。このように配置すると、タイヤ加硫工程において、SIS層PL2またはSIB層PL3とカーカスプライ61との接着強度を高めることができる。得られた空気入りタイヤは、インナーライナーとカーカスプライ61のゴム層とが良好に接着しているため、優れた耐空気透過性および耐久性を有することができる。
【0074】
なお、インナーライナーの厚さをショルダー位置Peの厚さGeとクラウン中心位置Pcの厚さGc、最大幅位置Psの厚さGsで調整するには、例えば、ポリマーシートの押
し出し口にプロファイルをつけて、ショルダー位置近傍の厚さGeを所定の厚さにした一体物のシートを作成して、これをインナーライナーとしてタイヤ内面に配置する。
【0075】
本発明の空気入りタイヤに用いられるカーカスプライのゴム層の配合は、一般に用いられるゴム成分、例えば、天然ゴム、ポリイソプレン、スチレンーブタジエンゴム、ポリブタジエンゴムなどに、カーボンブラック、シリカなどの充填剤を配合したものを用いることができる。
【実施例】
【0076】
表1および表2に示す仕様で、実施例および比較例の空気入りタイヤを製造して、性能を評価した。第1層、第2層に用いるSIB、SIBS、SISおよびSMAは以下のとおり調製した。
【0077】
<SIB>
攪拌機付き2L反応容器に、メチルシクロヘキサン(モレキュラーシーブスで乾燥したもの)589mL、n−ブチルクロライド(モレキュラーシーブスで乾燥したもの)613ml、クミルクロライド0.550gを加えた。反応容器を−70℃に冷却した後、α−ピコリン(2−メチルピリジン)0.35mL、イソブチレン179mLを添加した。さらに四塩化チタン9.4mLを加えて重合を開始し、−70℃で溶液を攪拌しながら2.0時間反応させた。次に反応容器にスチレン59mLを添加し、さらに60分間反応を続けた後、大量のメタノールを添加して反応を停止させた。反応溶液から溶剤などを除去した後に、重合体をトルエンに溶解して2回水洗した。このトルエン溶液をメタノール混合物に加えて重合体を沈殿させ、得られた重合体を60℃で24時間乾燥することによりスチレン−イソブチレンジブロック共重合体を得た。
【0078】
スチレン成分含有量:15質量%
重量平均分子量 :70,000
<SIBS>
カネカ(株)社製の「シブスターSIBSTAR 102(ショアA硬度25、スチレン成分含有量25質量%、重量平均分子量:100,000)」を用いた。
【0079】
<SIS>
クレイトンポリマー社製のD1161JP(スチレン成分含有量15質量%、重量平均分子量:150,000)を用いた。
【0080】
<SMA>
SMA(1):スチレン−無水マレイン酸共重合体、サートマー社製SMA1000(酸価490)。
【0081】
SMA(2):スチレン−無水マレイン酸共重合体のエステル化、サートマー社製SMA1440(酸価200)。
SMA(3):スチレン−無水マレイン酸共重合体のアンモニウム塩水溶液、サートマー社製SMA1000H(pH9.0)。
【0082】
<空気入りタイヤの製造>
上記SIBSとSMA(1)〜SMA(3)の混合物、SISおよびSIBを、2軸押出機(スクリュ径:φ50mm、L/D:30、シリンダ温度:220℃)にてペレット化した。その後、Tダイ押出機(スクリュ径:φ80mm、L/D:50、ダイリップ幅:500mm、シリンダ温度:220℃、フィルムゲージ:0.3mm)にてインナーライナーを作製した。
【0083】
空気入りタイヤは、図1に示す基本構造を有する195/65R15サイズのものに、上記ポリマー積層体をインナーライナーに用いて生タイヤを製造し、次に加硫工程において、170℃で20分間プレス成型して製造した。
【0084】
ここでインナーライナーのクラウン中心領域、タイヤ最大幅領域およびショルダー部領域の厚さを調整するために、ポリマーシートの押し出し口にプロファイルをつけて、ショルダー部領域の厚さGeを薄くした一体物のシートを作成して、これをインナーライナーとしてタイヤ内面に配置した。
【0085】
【表1】
【0086】
【表2】
【0087】
【表3】
【0088】
(注1)表1〜3において「領域(wc/ws)(%)」は、ショルダー位置Peを中心にクラウン中心位置Pc方向に延びる距離wcの距離Wcに対する割合wc(%)と、ショルダー位置Peを中心にさ最大幅位置Ps方向に延びる距離wsの距離Wsに対する割合ws(%)を示す。
(注2)表1〜3において、Gc1、Gs1は、第1層のPc、Psにおける厚さを意味し、Gc2、Gs2は、第2層のPc、Psにおける厚さを意味する。GcはGc1とGc2の合計として、Gsは、Gs1とGs2の合計として求められる。
【0089】
<性能試験>
前述の如く製造された空気入りタイヤに関し、以下の性能評価をおこなった。なお低温耐久性及び転がり抵抗性は、タイヤサイズが195/65R15の空気入りタイヤを用いて試験した。
【0090】
<剥離試験>
JIS−K−6256「加硫ゴム及び熱可塑性ゴムの接着性の求め方」に準じて剥離試験を行った。はじめに、厚さ0.3mmの前記ポリマーシートおよび厚さ2mmのゴムシート(配合:NR/BR/SBR=40/30/30)および補強キャンバス生地を、前記の順番で重ねて170℃の条件下で12分間加圧加熱することによって剥離用試験片を作製した。得られた試験片を用いて剥離試験を行い、インナーライナー用ポリマーシートとゴムシートの接着力を測定した。試験片の大きさは25mm幅で、23℃の室温条件下で行った。比較例1を基準値100として、得られた数値を以下の計算式により剥離力指数を算出した。数値が大きいほど接着性に優れている。
【0091】
(剥離力指数)=(各配合の接着力)/(比較例1の接着力)×100
結果を表1に示す。
【0092】
<低温耐久性>
低温耐久性試験は、雰囲気温度−20℃のもと、タイヤ空気圧を120kPa、荷重負荷率を60%、速度80Km/hとして測定を行った。図中に示す低温耐久性は、インナーライナーにクラックが発生したときの走行距離を測定し、比較例1を基準に指数で表している。数値が高いほど低温耐久性に優れている。
【0093】
<転がり抵抗性>
転がり抵抗性は、粘弾性スペクトロメーターVES((株)岩本製作所製)を用いて、温度70℃、初期歪10%、動歪2%の条件下で各配合のtanδを測定し、比較例1のtanδを100として、下記計算式により指数表示した。指数が大きいほど転がり抵抗性が優れている。
【0094】
転がり抵抗指数=(比較例1のtanδ)/(各配合のtanδ×100)
<比較例1〜2、実施例1〜3>
比較例1、2のインナーライナーの第1層はSIBSが100%含まれる組成物で構成されている。そして比較例2はショルダー部に肉厚部が形成されている。実施例1〜3は第1層にSMA(1)が2〜30質量%混合されている組成物で構成されている。第2層は、いずれもSIS層である。実施例1〜3は、剥離力、転がり抵抗および低温耐久性が総合的に優れている。
【0095】
<比較例3〜4、実施例4〜6>
比較例3〜4のインナーライナーの第1層はSIBSが100%含まれる組成物で構成されている。そして比較例4はショルダー部に肉厚部が形成されている。実施例4〜6は第1層にSMA(1)が2〜30質量%混合されている組成物で構成されている。第2層は、いずれもSIB層である。実施例4〜6は、剥離力、転がり抵抗および低温耐久性が総合的に優れている。
【0096】
<比較例5〜6、実施例7〜12>
比較例5及び実施例7〜9はインナーライナーのショルダー部に肉厚部を形成し、その肉厚を変化させた例である。ここで第1層に関し、比較例5はSIBSが100%で、実施例7〜9は、SIBSの80%とSMA(1)の20%の混合物である。第2層には、いずれもSISを用いている。実施例7〜9は、剥離力、転がり抵抗および低温耐久性が総合的に優れている。
【0097】
比較例6及び実施例10〜12はインナーライナーのショルダー部に肉厚部を形成し、その肉厚を変化させた例である。ここで第1層に関し、比較例6はSIBSが100%で、実施例10〜12は、SIBSの80%とSMA(1)の20%の混合物である。第2層には、いずれもSIBを用いている。実施例7〜9は、剥離力、転がり抵抗および低温耐久性が総合的に優れている。
【0098】
<実施例13〜24>
実施例13〜18は、第1層にSMA(1)、SMA(2)およびSMA(3)を1種類または2種類以上を混合して、合計20重量%混合した組成物の例である。第2層には、いずれもSISを用いている。実施例13〜18は、剥離力、転がり抵抗および低温耐久性が総合的に優れている。
【0099】
実施例19〜24は、第1層にSMA(1)、SMA(2)およびSMA(3)の1種類と2種類以上で合計20重量%混合した組成物の例である。第2層には、いずれもSIBを用いている。実施例18〜22は、剥離力、転がり抵抗および低温耐久性が総合的に優れている。
【産業上の利用可能性】
【0100】
本発明の空気入りタイヤは、乗用車用空気入りタイヤのほか、トラック・バス用、重機用等の空気入りタイヤとして用いることができる。
【符号の説明】
【0101】
1 空気入りタイヤ、2 トレッド部、3 サイドウォール部、4 ビード部、5 ビードコア、6 カーカスプライ、7 ベルト層、8 ビードエーペックス、9 インナーライナー、PL ポリマー積層体、PL1 SIBS層、PL2 SIS層、PL3 SIB層、Pe ショルダー位置、Pc クラウン中央位置、Ps タイヤ最大幅位置、
Te トレッド端。
図1
図2
図3
図4
図5
図6