【実施例】
【0035】
以下に、本発明によるシリコン系積層型薄膜太陽電池として実施例1〜9を、
図2を参照しつつ、比較例1〜10と比較しながら説明する。
【0036】
(実施例1)
図2は、実施例1で作製した集積型シリコンハイブリッド太陽電池を模式的に示す断面図である。
【0037】
まず、透光性基板1として1200mm×998mm×5mm厚の白板ガラスを用いた。透光性基板1の一主面上に、酸化錫からなる表面に微細な凹凸構造を有する透明導電膜2を熱CVD法により形成した。透明導電膜2の厚さは750nm、透明導電膜2側よりC光源で測定したヘイズ率は15%、シート抵抗は13Ω/□であった。また、一辺が5μmの正方形領域を各辺256分割して観察したAFM像から得られたSdrは48%であった。なお、図示していないが、透光性基板1の他主面上にはシリカ微粒子から成る反射防止膜が形成されている。次に、透明導電膜2を複数の帯状パタ−ンへと分割するためにYAG基本波パルスレーザーを透光性基板1に照射することにより、幅20μmの透明電極層分離溝2aを形成し、超音波洗浄および乾燥を行った。
【0038】
さらに、非晶質シリコン系光電変換ユニット3を形成するために、透明導電膜2が形成された透光性基板1を高周波プラズマCVD装置内に導入し、厚さ10nmの非晶質p型シリコンカーバイド(p型a−SiC)層3pを形成した。引き続いて厚さ10nmの非晶質i型シリコンバッファ層3b、厚さ100nmの非晶質i型シリコン系光電変換層3i、厚さ10nmの結晶化前i型シリコン層3bi、厚さ170nmのn型シリコンオキサイド層3nを順次積層した。p型a−SiC層3pの形成においては、SiH
4、水素、水素希釈されたB
2H
6、CH
4を反応ガスとして用いた。n型シリコンオキサイド層3nの形成においては、SiH
4、水素、水素希釈されたPH
3、CO
2を反応ガスとして用い、具体的には、基板温度170〜200℃、基板製膜面と放電電極間の距離7〜15mm、圧力350〜1500Pa、高周波パワー密度0.1〜0.3W/cm
2とした。また、これと同一CVD条件でガラス上に100nm形成した単膜の屈折率は、波長600nmにおいて1.95〜1.85、導電率は1×10
−8〜3×10
−5S/cm、XPSで測定した膜中酸素量は51〜54原子%であった。ラマン散乱スペクトルの測定を行ったところ、結晶シリコンに起因するピークが観測された。次に、結晶質シリコン系光電変換ユニット4を形成するために、引き続きプラズマCVD装置を用いて厚さ15nmのp型結晶質シリコン層4p、厚さ1000nmの結晶質i型シリコン系光電変換層4i、厚さ30nmのn型シリコンオキサイド層4n、厚さ7nmのn型結晶質シリコン層(図示せず)を順次積層した。
【0039】
その後、非晶質シリコン系光電変換ユニット3及び結晶質シリコン系光電変換ユニット4を複数の帯状パターンへと分割するために、大気中に基板を取り出し、YAG第2高調波パルスレーザーを透光性基板1に照射することにより幅40μmの接続溝4aを形成した。次に、厚さ80nmのZnOから成る透明反射層(図示せず)と厚さ200nmのAgから成る裏面電極層5をDCスパッタ法によって形成した。最後に、非晶質シリコン系光電変換ユニット3、結晶質シリコン系光電変換ユニット4、及び裏面電極層5を複数の帯状パターンへと分割するために、YAG第2高調波パルスレーザーを透光性基板1に照射することにより、幅40μmの裏面電極層分離溝5aを形成し、
図2に示すような左右に隣接する短冊状ハイブリッド太陽電池が電気的に直列接続された集積型シリコンハイブリッド太陽電池を作製した。この集積型シリコンハイブリッド太陽電池は、幅9.1mm×長さ1170mmのハイブリッド太陽電池が53段直列、2並列接続されて構成されている。
【0040】
実施例1で作製した集積型シリコンハイブリッド太陽電池上に、さらに小さな集積型の太陽電池領域を形成するために、透明導電膜2、非晶質シリコン系光電変換ユニット3、結晶質シリコン系光電変換ユニット4、及び裏面電極層5の全てを
図3に示すように矩形状に除去する太陽電池分離溝6aをYAG基本波パルスレーザーとYAG第2高調波パルスレーザーを透光性基板1に続けて照射することにより形成した。これにより、1200mm×998mmの透光性基板1上に、幅9.1mm×長さ100mmのハイブリッド太陽電池が11段直列接続された集積型シリコンハイブリッド太陽電池ミニモジュール(以下単にミニモジュールと称す)を複数個形成した。
【0041】
これらのミニモジュール群を、透光性基板1を
図3の分割線7aに沿って切断することにより125mm×125mmの大きさに分割した後、裏面電極層5の上に封止樹脂層を介して有機保護層(共に図示せず)を載せて封止した。こうして得られた封止ミニモジュール群のうち2個につき、エアマス1.5に近似されたスペクトルでエネルギー密度100mW/cm
2の擬似太陽光を、測定雰囲気及び太陽電池の温度25±1℃の条件下で照射し、ミニモジュールの電流−電圧特性を測定した。得られた開放電圧を11で割って1段当りに換算した開放電圧Voc、短絡電流をユニットセルの面積である9.1cm
2で割って得られた短絡電流密度Jsc、曲線因子FF、変換効率Effの測定結果(2個の平均値)を表1に示す。
【0042】
次に、先のミニモジュール群に、照射エネルギー密度500mW/cm
2の擬似太陽光をミニモジュールの裏面電極の表面温度50±2℃の条件で20時間照射し、更に100mW/cm
2の擬似太陽光をミニモジュールの裏面電極の表面温度50±2℃の条件で550時間照射した。光照射後のミニモジュール群のEffの平均値を併せて表1に示す。
【0043】
【表1】
【0044】
表1は、実施例および比較例で示したシリコンハイブリッド太陽電池の光照射前後の太陽電池特性を示した表である。
【0045】
(実施例2)
実施例2においては、実施例1と比較して透明導電膜2のヘイズ率が23%、シート抵抗が10Ω/□、Sdrが31%に変更され、他は実施例1と全く同様にして太陽電池の作製を行った。実施例2で作製したミニモジュールの光照射前後の出力測定結果を表1に示す。
【0046】
(比較例1)
比較例1においては、実施例1と比較してn型シリコンオキサイド層3nの厚さが20nmに変更され、他は実施例1と全く同様にして太陽電池の作製を行った。比較例1で作製したミニモジュールの光照射前後の出力測定結果を表1に示す。
【0047】
(比較例2)
比較例2においては、実施例2と比較してn型シリコンオキサイド層3nの厚さが20nmに変更され、他は実施例2と全く同様にして太陽電池の作製を行った。比較例2で作製したミニモジュールの光照射前後の出力測定結果を表1に示す。
【0048】
(実施例3、4、5)
実施例3、4、5においては、実施例1と比較してn型シリコンオキサイド層3nの厚さが150、200、220nmに変更され、他は実施例1と全く同様にして太陽電池の作製を行った。実施例3、4、5で作製したミニモジュールの光照射後のEffを表1に示す。
【0049】
(比較例3、4、5、6)
比較例3、4、5、6においては、実施例1と比較してn型シリコンオキサイド層3nの厚さが60、100、130、250nmに変更され、他は実施例1と全く同様にして太陽電池の作製を行った。比較例1で作製したミニモジュールの光照射後のEffを表1に示す。
【0050】
(実施例6、7)
実施例6、7においては、実施例1と比較して非晶質i型シリコン系光電変換層3iの厚さが120nmに変更され、更にn型シリコンオキサイド層3nの厚さが160、200nmに変更され、他は実施例1と全く同様にして太陽電池の作製を行った。実施例6、7で作製したミニモジュールの光照射後のEffを表1に示す。
【0051】
(比較例7、8、9)
比較例7、8、9においては、実施例6と比較してn型シリコンオキサイド層3nの厚さが100、130、250nmに変更され、他は実施例6と全く同様にして太陽電池の作製を行った。比較例7、8、9で作製したミニモジュールの光照射後のEffを表1に示す。
【0052】
(実施例8、9)
実施例8、9においては、実施例1と比較して非晶質i型シリコン系光電変換層3iの厚さが150nmに変更され、更にn型シリコンオキサイド層3nの厚さが160、200nmに変更され、他は実施例1と全く同様にして太陽電池の作製を行った。実施例8、9で作製したミニモジュールの光照射後のEffを表1に示す。
【0053】
(比較例10)
比較例10においては、実施例8と比較してn型シリコンオキサイド層3nの厚さが100nmに変更され、他は実施例8と全く同様にして太陽電池の作製を行った。比較例10で作製したミニモジュールの光照射後Effを表1に示す。
【0054】
実施例1と2との比較から、本発明においては、非晶質i型シリコン系光電変換層3iの厚さが100nmと非常に薄いにもかかわらず、低コストで供給可能なSdrの大きい透明導電膜を使用しても極めて高いVocが得られ、光照射後EffもSdrの小さいものと大差なく、10%を大きく超えるものが得られることがわかる。これは従来技術では成し得なかったことである。
【0055】
次に、
図4の実施例1、3、4、5と比較例1、3、4、5、6の比較から、n型シリコンオキサイド層3nの厚さには適切な範囲が存在し、従来技術の範囲である130nm以下では一旦Effが飽和傾向にあるが、更に厚さを増加させていくと再びEffが増加を示し、140〜240nmの範囲で従来技術よりも高いEffが得られ、200nm付近で最大値を取ることがわかる。この理由は必ずしも明確ではないが、以下のように考えられる。n型シリコンオキサイド層3nの厚さを変えていくと、
図5のように100nm程度まではトップセルの電流が伸びていくが、その後一旦低下傾向を示す。しかしながら更に厚さを厚くしていくと、再度トップセルの電流が伸び、200nm程度でピーク値を示す。簡易な光学計算ではこのような挙動は示さず、100nm付近でピーク値を示した後、一旦20nmの場合と同等の電流値となり、再度上昇するような振動波形となるので、厚くすると何らかの光閉じ込め効果が発現するものと考えられる。一方で、トップセルとボトムセルの分光感度積分電流の和は、
図6に示すように、n型シリコンオキサイド層3nの厚さが20nmのときをピークとして、その厚さ方向に電流の和が振動するような傾向を示す。このことから、トップセル電流と、トップセルとボトムセルの電流の和が同時に最大値を示す200nm付近の厚さで出力電流が最大となり、光照射後の効率も最大になるものと考えられる。なお、
図5、
図6においては、n型シリコンオキサイド層3nの厚さが20nmのときの電流値を1として規格化している。
【0056】
従来は、導電型層を兼ねるシリコンオキサイド層の厚さを必要以上に厚くすることは、その層内での光吸収損失があることに加えて、トップセル側への光の反射効果も減少するという実験および光学計算の結果から、130nmを超えるものについては検討がなされていなかった。この常識を打ち破り非常に厚い導電型層を用いることで、本発明に示す高い変換効率が達成できたと考えられる。