(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の椅子用カバーは、既存の椅子に、滑り止め機能や着脱容易な機能を付加したり、防寒又は保温機能を付加したものであった。すなわち、基本的には、既存の椅子の形状や機能を生かしつつ、付属的に他の機能を付加するものに過ぎず、いずれも既存の椅子の形状を超えて、椅子の機能やデザインに大きな変更をもたらすものではなかった。
【0007】
そのため、例えば、既存の椅子の機能やデザインに満足できない場合や、飽きてしまったような場合、椅子用カバーの変更によってはデザインや機能の大きな変更は期待できなかった。一方で、椅子用カバーについては、上述した特許文献以外でも従来、数多く提案されており、カバーによって既存の椅子の機能やデザインの変更を望む潜在的な需要は高い。
【0008】
本発明は、以上のような従来技術の課題を解決するために提案されたものであり、その目的は、既存の椅子に被せるだけで椅子の形状に大きな変化をもたらし、椅子の機能性とデザイン性を高めることのできる椅子用カバーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、請求項1の発明は、椅子の背凭れ
部分に対し、上部より被せて装着される袋状の背カバーを
備えた椅子用カバーであって、
前記背カバー
の内部に、変形自在かつ変
形後の形状を維持する
、板状、織物状または網目状をなす形状維持部材を設け
、前記背カバーは、
前記背凭れ部分の高さ
を越えるカバー拡張部分を有し、該カバー拡張部分は、前記椅子の背凭れ形状を自在に変形させかつ変形後の形状を維持するように構成されることを特徴とする。
【0010】
以上の態様では、椅子の背凭れ部分を覆う背カバーが、背凭れ部分の高さより高く構成されるため、既存の椅子の背凭れが低く形成されるような場合であっても、背凭れの高い椅子に変更することが可能となる。また、背カバーに、変形自在で変更後の形状を維持する形状維持部材を設けたため、背カバーの高さが、被せる椅子の背凭れの高さを超える部分において、背凭れ部分の形状を、自在に変形し、維持させることができる。
また、形状維持部材を、板状、織物状または網目状の部材により構成することが可能であり、椅子カバーを取り付ける椅子の形状、材質や、椅子カバーのデザインや使用者の嗜好に応じて、種々の部材により構成することが可能である。
【0011】
このような本発明によれば、既存の椅子に被せるだけで、既存の椅子の交換を要せずに、それまであった椅子の機能とデザインに大きな変化をもたらす斬新な椅子用カバーを提供することができる。
【0012】
請求項2の発明は、請求項1の発明において、前記形状維持部材は、前記背カバーの縦方向に複数配されることを特徴とする。
請求項3の発明は、請求項1又は2に記載の発明において、前記形状維持部材は、前記背カバーの横方向に複数配されることを特徴とする。
【0013】
以上の態様では、形状維持部材が背カバーの縦又は横方向に複数設けられているため、背カバーの高さが椅子の背凭れの高さを超える場合でも、背凭れ部分の形状は、背凭れの立ち上がり方向に維持することができる。また、複数の形状維持部材のそれぞれにおいて、任意の形状に自在に変形させることができるので、背カバーの形状を、各形状維持部材により変化に富んだ形状の表現が可能となる。
【0014】
請求項4の発明は、請求項1〜3のいずれか1項に記載の発明において、前記形状維持部材は、斜め方向に配されることを特徴とする。
以上の態様では、背カバーの上端側方を、内側に折り曲げて使う場合に、背カバー内部に斜めに配置した形状維持部材を折り曲げることで、背カバーの上端側部の内側への綺麗な折り曲げを実現することができる。
【0015】
請求項5の発明は、請求項1〜3のいずれか1項に記載の発明において、前記形状維持部材は、格子状に配されることを特徴とする。
以上の態様では、背カバー内部に形状維持部材が格子上に配置されることで、背カバーを縦横に対していろいろな形状変化が可能になり、容易かつバリエーション豊富な形状変化を実現することができる。
【0016】
請求項6の発明は、請求項1〜5のいずれか1項に記載の発明において、前記形状維持部材は、金属または樹脂、あるいは繊維状の部材であることを特徴とする。
【0017】
以上のような態様では、形状維持部材として、アルミ板や銅板などの金属系部材はもちろんのこと、例えば、炭素と水素からなるポリオレフィンを主原料とし、一軸方向に分子配列制御された部材から構成することで、針金のように自在に形状を変更可能で、かつ、変形後も形状を保持することができる。このような形状維持部材によれば、背カバーを、高さ方向の適当な位置において、高さ方向と直角な方向を折り目として折り曲げることが可能である。この場合、背凭れ部分を座面側に折り返せば、折り返した背カバーが、クッションの役割を果たすこととなる。一方で、背凭れ部分を座面側と反対の側に折り返せば、折り返した背カバーは、椅子に座る際には使用しないようになり、通常の椅子の背凭れの高さを実現することができる。
【0018】
また、形状維持部材を、繊維状の部材により形成することで、例えば、繊維状の形状維持部材を経糸と緯糸とからなる織物状で配することにより、形状維持部材同士の隙間を非常に狭く構成することができ、背カバーのより細かい形状変化が可能となる。
【0021】
請求項
7の発明は、請求項1〜
6のいずれか1項に記載の発明において、前記背カバーは、前記椅子の背凭れの幅より横方向に突出する幅広部分を有することを特徴とする。
【0022】
以上の態様では、背カバーが、椅子の背凭れの幅より横方向に突出する幅広部分を有することで、背カバーの上部左右端部を内側に折り曲げて使用する場合に、横方向からの目隠し効果を得ることができる。
【0023】
請求項
8の発明は、請求項1〜
7のいずれか1項に記載の発明において、前記背カバーの下方より延出する前記椅子の座面をカバーする座カバーを有することを特徴とする。
【0024】
以上の態様では、背カバーととともに、椅子の座面を覆う座カバーを設けることで、椅子カバーによる椅子全体のカバーが可能となり、椅子全体としての形状変化やデザイン変更を実現することが可能となる。
【0025】
請求項
9の発明は、請求項
8に記載の発明において、前記座カバーは、前記椅子の座面裏側に回って当該座面裏側を包み込む左右固定部と、座面前側方向に突出して設けられ当該座面の前部を包み込む前固定部とからなり、前記左右固定部の左右端部には、左右固定部を相互に固定する固定部材を備え、前記左右固定部と前記前固定部とは、前記椅子の座面裏側において、当該座面を包み込んだ状態において固定されるものであることを特徴とする。
【0026】
以上の態様では、本体部と左右固定部及び前固定部とにより、椅子用カバーの座面を覆うことで、椅子用カバーを椅子に対して確実に固定することができる。
【0027】
請求項
10の発明は、請求項
8又は
9に記載の発明において、前記背カバーおよび座カバーの内部にクッション材を設けたことを特徴とする。
【0028】
以上の態様では、椅子用カバーの内部に、例えばカバーを二重構造とするなど、クッション材を設けることで、これらを重ね合わせることで、椅子にクッション性を付加することができるとともに、外カバー部分の素材等については、例えば、皮革素材、スエード素材や布地等、機能性よりもデザインを重視して選択することができるなど、椅子用カバー全体のデザインの自由度が高まる。
【発明の効果】
【0029】
以上のような本発明によれば、既存の椅子に被せるだけで椅子の形状に大きな変化をもたらし、椅子の機能性とデザイン性を高めることのできる椅子用カバーを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の実施の形態(以下、本実施形態という。)について、図面を参照しながら説明する。なお、従来と同様の構成については、適宜説明を省略する場合がある。
【0032】
[1.本実施形態]
[1−1.構成]
本実施形態の椅子用カバー1は、
図1に示すように、椅子の背凭れ部分を覆う背カバー2と、椅子の座面を覆う座カバー3とが、一体に構成される。以下、背カバー2と座カバー3とを分けて説明する。なお、
図1では、椅子を想像線(2点鎖線)で示すことで、本実施形態の椅子用カバー1を椅子に被せた状態を表している。
【0033】
(1)背カバーの構成
背カバー2は、袋状に形成され、椅子Cの背凭れに対して、上部よりすっぽりと被せるように構成される。背カバー2の全体形状は、座面側から上部側に向かって、幅の広がった逆台形状である。なお、ここでいう幅の広がりは、本実施形態で示すように徐々に滑らかに広がる逆台形状の態様のみならず、逆凸状に広がるなどある箇所で急激に広がる態様や段階的に広がっていく態様も含む。また、この幅の広がりは最良の形態を表すものであり、本発明の椅子カバーはいうまでもなく幅の広がりがなく方形上に形成される態様も包含する。
【0034】
ここで、説明の便宜上、
図1に一点鎖線でその領域を示すように、背カバー2の中央に位置する長方形領域を背カバー本体部21と呼び、背カバー本体部21の左右に略三角形状で設けられた領域を背カバー翼部22と呼ぶ。
【0035】
背カバー2の大きさは、椅子用カバー1を用いる椅子の背凭れの大きさに依拠して設定される。背カバー2における背カバー本体部21の横幅は、概ね椅子の背凭れ部分に相当するサイズで形成される。例えば、背カバー2と座カバー3との境界付近の幅が、400〜450mm程度であるとすると、背カバー2の背カバー本体部21の幅は、当該境界付近の幅と同様400〜450mm程度で形成することが考えられる。また、背カバー翼部22の上端部の幅は、本体部21から左右各100mm程度延伸し、背カバー2の上端部全体として600〜700mm程度に広げて構成することが考えられる。なお、この数字は、あくまでも最適な実施形態の想定を容易にするために目安として提示するものである。
【0036】
背カバー2の縦方向の長さは椅子の背凭れの1.5倍から2倍程度高く構成される。この背カバー2の縦の長さについては、座高値の平均を算出の基準とすると良い。すなわち、日本人の高校3年生の男子の座高平均が92cm程度、同女子が85cm程度であることから、これを基準にして座カバー3との接続部分からの縦方向の長さを85cm〜95cm程度とすると良い。
【0037】
図1(a)と
図2の分解図に示すように、背カバー2は、その縦方向に、自在に屈曲変形可能で変更後の形状を維持する形状維持部材4を複数(ここでは、7本)内蔵して備える。また、この形状維持部材4は、背カバー2の上部において、背カバー2の横方向に1本設けられている。以下、縦方向に複数本設けられた形状維持部材4を縦形状維持部材4aとし、横方向に設けられた形状維持部材4を上部形状維持部材4bとする。
【0038】
この形状維持部材4は、板状で自在に屈曲変形可能にして変更後の形状を維持する性状を有する。形状維持部材4の材料の例として、積水成型工業株式会社社製の「フォルテ」(商標)という製品名のプラスチック形状保持部材を用いるのが最適である。
【0039】
ここで、形状維持部材4を構成するプラスチック形状保持部材は、炭素と水素からなるポリオレフィンを主原料とし、一軸方向に分子配列制御されたテープ状の製品である。したがって、このプラスチック形状保持部材は、針金のように自在に形状を変更可能で、かつ、変形後も形状を保持する機能を有する。また、ポリオレフィレン系原料からなり金属を一切使わないため、安全性が高く、焼却処分が可能なためにリサイクルや廃棄が容易であるなど、環境に優しい部材である。
【0040】
より具体的に説明すると、一般的なプラスチック等の塑性部材では形状保持が難しく元の状態に戻るところ、本実施形態のプラスチック形状保持部材では、曲げ戻りの角度が0°〜3°と、曲げ戻りが非常に少ない。また、針金やアルミなどの粘質金属に似た特性を有する延伸テープであるため、これらの金属に代替可能である一方で、分子配列が一軸方向である。したがって、金属疲労や錆もなく繰り返し折り曲げても破断せず、折り曲げ力の低下もないから金属の短所も補うことができる。さらに、比重が1以下と金属製品に比較して非常に計量である。
【0041】
ただし、本発明において、形状維持部材として金属系部材を用いることは除外されるものではなく、アルミ板や銅板などの金属系部材を用いることも、もちろん可能である。
【0042】
縦形状維持部材4aは、背カバー2の上部から、椅子Cの背凭れ部分の高さ全域に渡るまで延伸して設けている。これは、椅子Cの背凭れ部分にも、形状維持部材4を延伸させることで、椅子Cの背凭れ部分より上部に配される形状維持部材4の強度を高めるとともに、背カバー2全体の形状維持にも貢献するものである。
【0043】
(2)座カバーの構成
座カバー3は、
図1(a)に示すように、椅子の座面上に当接する部分であって背カバー2と連続して設けられた座面本体部31と、
図1(b)に示すように、この座面本体部の左右に設けられ座面裏側に回って座面を包み込む左右固定部32a,32bと、座面前方に突出して設けられ座面の前部を包み込む前固定部33と、座面後方から座面を包み込む後固定部34とを備える。すなわち、座カバー3は、座面本体部31で椅子の座面表側を覆いつつ、他の4つの固定部により、四方から座面の裏側を覆うように構成される。また、座面を固定する左右、前後4つの固定部32a,32b,33及び34には、それぞれ面ファスナー等の固定部材Fが設けられており、この固定部材Fにより、椅子の座面裏側において座面を包み込んだ状態で相互に固定するように構成される。
【0044】
(3)椅子用カバーの展開構成
背カバー2と、座カバー3とからなる本実施形態の椅子用カバー1は、これを展開すると、
図2,
図3に示す、下地部分となる肉厚の不織布(ここでは、フェルト生地又はウレタンフォームを用いる)により構成される内カバー11と、
図4,
図5に示す、この内カバー11を覆う外カバー12とから構成される。
【0045】
内カバーは、
図2(a)〜(d)に示すように、a〜dの4つのピースから構成されている。ピースaは、椅子の表側に当接する部分であり、ピースbは、椅子の裏側を構成する部分である。ピースaとピースbとは、同図に破線で示す部分で縫製や接着により結合され、背凭れ部分の袋状を形成する。また、ピースaとピースbとの間には、破線に沿って形状維持部材4を挿入する。一方、ピースcとピースdとは、ピースaの座面に当接する部分である裏面に、図に破線で示す部分において縫製等して結合される。ピースa〜dを結合した様子を
図3の斜視図に示す。
【0046】
一方、
図4に示すように、外カバー12は、一般的にソファや椅子などの家具に用いられるデザイン性や座り心地を考慮した生地から選択的に用いる。例えば、スエードなどの天然又は人工皮革や、綿、レーヨン、ポリエステル、ナイロン等が考えられる。外カバー12は、
図4(a)〜(e)に示すように、e〜iの全5ピースから構成される。
【0047】
図4(a)に示すように、ピースeは、ピースa同様、椅子の表側に当接する部分であり、同図(b)に示すように、ピースfは、ピースbと同様、椅子の裏側を構成する部分である。ピースeの座カバー3側の先端の固定部材Fが2つ設けられた部分は、上述した前固定部33を構成する部分である。同図(c)に示すように、ピースgは、ピースfの下方部分に取り付けられるとともに、椅子の座面裏側にまわって、上述の後固定部34を構成する部分である。
【0048】
同図(d)及び(e)に示すように、ピースhとピースiとは、ピースcとdと同様、ピースeの座面に当接する部分の裏面に、図に破線で示す部分において縫製等により結合される。ピースhとピースiとは、先端に面ファスナー等からなる固定部材Fを備えており、上述した左右固定部32a,32bを構成する部分である。ピースe〜iを結合した様子を
図5の斜視図に示す。
【0049】
以上説明した内カバー11(
図3参照)に対して、外カバー12(
図5参照)を被せることにより、本実施形態の椅子用カバー1が構成される。内カバー11は、外カバー12の内側にすっぽり収まるように固定される。なお、内カバー11及び外カバー12の各ピースは、縫製や貼り合わせ、圧着等の公知の手法により相互に固定される。
【0050】
[1−2.作用効果]
以上の構成からなる本実施形態の椅子用カバー1の作用について説明する。
(1)椅子への取り付け方法
本実施形態において用いる椅子Cは、例えば、脚部が角型の鋼管で形成され、座面及び背凭れがブナ成形合板で形成される。また、座面高さは床から420mm、座面幅は420mm、座面奥行きは580mm、背凭れ上端部高さは床から785mmであるとする(
図1参照)。このような椅子Cの形状に合わせて、椅子用カバー1を用意する。
【0051】
このような椅子Cに対して、まず、椅子用カバー1の背カバー2を、椅子の背凭れ部分を包み込むように被せる。このとき、背カバー2は、袋状に形成されているので、椅子Cの背凭れ部分を、すっぽりと覆うこととなる(
図1(a)参照)。
【0052】
背カバー2を、椅子Cの背凭れ部分に装着した後、椅子Cの背凭れと座面との接続部分のカーブに合わせ、椅子用カバー1の形状維持部材40を屈曲させる。これにより、椅子用カバー1の背カバー2の下端部が位置決めされ、背カバー2の背凭れに対する被せ具合が調整される。
【0053】
次に、座カバー3を、椅子Cの座面に対して固定する。まず、座カバー3の本体部31を、椅子Cの座面に当接させる(
図1(a)参照)。この状態では、座カバー3の左右固定部32a,32b、前固定部33及び後固定部34が、未だ固定されず、座面前後及び左右方向に垂れ下がった状態となる(
図5の状態)。なお、このとき、椅子用カバー1は、
図3に示す内カバー11に、
図5に示す外カバー12がすっぽり被った状態となっており、内カバー11のピースc及びピースdが、左右固定部32a,32bの内側において垂れ下がった状態となっている。
【0054】
これを前提に、以下、固定部の折り畳み手順について説明すると、まず、内カバー11のcとdを、固定部材Fに合わせて固定する(
図2、
図3参照)。これにより、内カバー11の椅子Cに対して固定される。
【0055】
次に、外カバー12において、左右固定部32a,32bを、固定部材Fで合わせて固定する。続いて、前固定部33と後固定部34の先端に設けられた固定部材F(例えば、雄側の面ファスナー)を、左右固定部32aの外側に設けられた固定部材Fに合わせて固定する(ここまで、
図5参照)。これにより、
図1(b)に示すように、座カバー3が、座面を表裏から包み込むようにして固定される。
【0056】
(2)使用パターン
以上のようにして既存の椅子Cに対して装着される本実施形態の椅子用カバー1については、以下のような使用パターンが考えられる。
【0057】
(2−1)使用パターン1(背凭れ延伸)
使用パターン1は、
図6(a)に示すように、背カバー2を、立てた状態で使用する場合である。
【0058】
このパターンでは、椅子Cにおいては、使用者の背中の半分程度の高さしかなかった背凭れを、使用者の頭部を覆う位置にまで伸ばすことが可能となる。そして、このとき、背カバー2には、縦方向に複数本(ここでは、7本)の縦形状維持部材4aが挿入されている。そのため、椅子用カバー1においては延伸された背凭れが直立状態に保たれる。
【0059】
そして、複数本の縦形状維持部材4aにより、椅子Cの背凭れの横方向への湾曲形状に合わせて、なだらかな湾曲形状を再現しつつ、形状維持部材4による背凭れ部分の形状を保持することが可能となっている。さらに、背カバー2の上端部には、上部形状維持部材4bが設けられているため、背凭れ部分の湾曲形状を確実に維持することができ、また、背カバー2の上端部の形状をより滑らかに形成することができる。
【0060】
また、椅子用カバー1の内カバーには、ある程度の硬度のあるフェルト素材等の不織布が使用されている。そのため、形状維持部材4の応力と相俟って、使用者が椅子の背凭れに頭部を預けた場合であっても、背カバー2が、頭部をしっかり受け止め、使用者の頭部を後方へ逸らすことがない。
【0061】
なお、一見すると、内カバー11の強度と形状維持部材4の強度程度では、使用者の重量を保持するに不十分であると考えられる。しかし、椅子の背凭れに対して使用者の重量が最も掛かる部分は、使用者の肩甲骨下部当たりであり、この部分は、椅子Cの元々の構成要素である背凭れの上端部にて保持される。そして、使用者が背凭れに大きく寄りかかったとしても、この使用者の肩甲骨より上部の肩、首や頭部が、この肩甲骨部分より大きく後ろに反れることはない(
図7のイメージ図参照)。したがって、椅子用カバー1の背凭れに掛かる重量は、使用者の頭部の重み程度であり、この程度の重量であれば、内カバー11の強度と形状維持部材4の強度によって十分に支持することが可能である。
【0062】
(2−2)使用パターン2(目隠し作用)
使用パターン2は、
図6(b)に示すように、使用パターン1に改良を加えた態様であり、ユーザの集中力に配慮した使用パターンである。
【0063】
すなわち、背カバー2の背カバー本体部21から左右方向に突出した背カバー翼部22部分を内側に折り曲げて使用する。このとき、背カバー2には、縦方向に、複数の形状維持部材4が設けられているため、これらを中央に位置する形状維持部材4から側方に位置する形状維持部材4に向けて、段階的にカーブを強くする。これにより、背カバー2の左右端に形成された背カバー翼部22を椅子Cの内側に向かせることができ、ユーザの目隠し状態を維持することが可能となる。
【0064】
また、縦方向に設けられた縦形状維持部材4aだけでなく、背カバー2の上部に設けられた上部形状維持部材4bを用い、この上部形状維持部材4bを湾曲させることによっても、背カバー翼部22の内側への折り曲げ状態を維持することが可能となる。
【0065】
以上のように、縦方向に設けられた複数の形状維持部材4について、その湾曲の角度を徐々に変化させるか、又は上部形状維持部材4bを内側に向けて湾曲させる、又は、いずれの形状維持部材も作用させることにより、背カバー翼部22を内側へ折り曲げた状態を実現することができるようになる。
【0066】
これにより、
図7に示すように、背カバー2により、使用者の頭部の左右方向を覆うことができる。したがって、背カバー2により、ユーザの視界を横方向から目隠しすることができ、前方に対するユーザの集中力を高めることができる。
【0067】
(2−3)使用パターン3(背凭れクッション効果)
使用パターン3は、
図6(c)に示すように、背カバー2を、前方である座面側に倒して使用するパターンである。
【0068】
背カバー2には、縦形状維持部材4aが複数挿入されているため、背カバー2は、高さ方向の適当な位置において、横方向を折り目として折り曲げることが可能である。この場合、背カバー2を椅子Cの座面側に折り返せば、折り返した背カバー2は、形状維持部材4による適度な伸縮性により、クッション効果を奏する。
【0069】
以上のような使用パターン3では、従前の合板と鋼管からなる通常の椅子Cに対して、本実施形態の椅子用カバー1を用いることで、椅子の形状を変化させクッション性を高めるという機能的な変化をもたらすのみならず、ソファのような重厚感あるデザインを再現することもでき、デザイン性も極めて高い。
【0070】
(2−4)使用パターン4(通常の椅子としての使用)
使用パターン4は、
図6(d)に示すように、背カバー2を、後方である座面側と反対の方向に倒して使用するパターンである。
【0071】
背カバー2を座面側と反対の側に折り返せば、折り返した背カバー2は、椅子Cに座る際には使用しない状態となり、通常の椅子Cの背凭れの高さを実現することができる。この状態では、背カバー2の内部に複数本設けられた形状維持部材4が、背カバー2の折返し状態を維持することで、その全体形状を保持することが可能となっている。
【0072】
以上のような使用パターン4では、従前の合板と鋼管からなる通常の椅子Cに対して、本実施形態の椅子用カバー1を用いることで、椅子の形状を変化させて機能的な変化をもたらすのみならず、折り返された背カバー2により、背凭れに重厚感を与えることができる。このように、椅子用カバー1を被せるだけという簡易な手法により椅子Cのデザイン性や形態の大きな変更を可能とする。
【0073】
(3)効果
以上のような本実施形態の椅子用カバー1によれば、既存の椅子に被せるだけで、椅子の交換を要せずに、それまであった椅子の機能とデザインに大きな変化をもたらす斬新な椅子用カバーを提供することができる。
【0074】
すなわち、椅子の背凭れ部分を覆う背カバー2が、背凭れ部分の高さより高く構成されるため、既存の椅子の背凭れが低く形成されるような場合であっても、背凭れの高い椅子に変更することが可能となる。特に、背カバー2を、椅子Cの背凭れに対して2倍程度の高さで構成することで、使用者の背中部分から頭部までしっかりと覆うことができる。また、背カバー2が椅子Cの背凭れに対して2倍程度に設定されることで、背カバー2を折り畳んで用いる際に((2−3)使用パターン3(背凭れクッション効果)参照)、背のクッションが背凭れ部分をすべて覆うことができ見栄えがよい。
【0075】
このとき、背カバー2には、形状維持部材4が設けられているため、背カバー2の高さが椅子の背凭れの高さを超える場合でも、背凭れ部分の形状は、背凭れの立ち上がり方向に維持される。特に、本実施形態では、この形状維持部材4が、縦方向に複数本設けられているので、この複数本の縦形状維持部材4aによる形状維持性能は高い。
【0076】
また、形状維持部材4は、炭素と水素からなるポリオレフィンを主原料とし、一軸方向に分子配列制御されたテープ状の製品からなる。したがって、この形状維持部材4は、針金のように自在に形状を変更可能で、かつ、変形後も形状を保持する機能を有する。また、ポリオレフィレン系原料からなり金属を一切使わないため、安全性が高く、焼却処分が可能なためにリサイクルや廃棄が容易であるなど、環境に優しい。
【0077】
このような形状維持部材4によれば、背カバー2を、高さ方向の適当な位置において、高さ方向と直角な方向を折り目として折り曲げることが可能である。この場合、背凭れ部分を座面側に折り返せば、折り返した背カバー2が、クッションの役割を果たすこととなる。一方で、背凭れ部分を座面側と反対の側に折り返せば、折り返した背カバー2は、椅子Cに座る際には使用しないようになり、通常の椅子Cの背凭れの高さを実現することができる。
【0078】
また、本体部と左右固定部と前部とにより、椅子用カバー1の座面を覆うことで、椅子用カバー1を椅子Cに対して、確実に固定することができる。
【0079】
背カバー2には、縦方向に、縦形状維持部材4aが複数設けられている。これにより、複数の縦形状維持部材4aについて、中央に位置するものから側方に位置するものに向けて、段階的にカーブを強くすることで、背カバー2の左右端に形成された背カバー翼部22を椅子Cの内側に向かせることができ、ユーザの目隠し状態を維持することが可能となる。
【0080】
また、縦方向に設けられた縦形状維持部材4aだけでなく、背カバー2の上端縁部に設けられた上部形状維持部材4bを用い、この上部形状維持部材4bを湾曲させることによっても、背カバー翼部22の内側への折り曲げ状態を維持することが可能となる。
【0081】
このように、縦方向に設けられた複数の縦形状維持部材4aについて、その湾曲の角度を徐々に変化させるか、上部形状維持部材4bを内側に向けて湾曲させる、又は、いずれの形状維持部材も作用させることにより、背カバー翼部22を内側へ折り曲げた状態を実現することができるようになる。
【0082】
以上のような本実施形態の椅子用カバーによれば、ユーザの頭部の左右方向を覆うことでユーザの視界を横方向から目隠しすることができ、前方に対するユーザの集中力を高めることができる。
【0083】
また、背カバー2を、上部に向かって広く形成することで、上述した背カバー2の上部左右側部を内側に折り曲げて使用する場合に、横方向からの目隠し効果がより高くなる。
【0084】
椅子用カバー1を肉厚の不織布、例えばフェルトやウレタンフォームにより、ある程度硬質又はクッション性を有する下地部分と、それを覆う表地部分とに分けて構成し、これを一体に設けた。これにより、表地部分の素材等については、例えば、皮革素材、スエード素材や布地など、機能性よりもデザインを重視して選択することができるので、椅子用カバー1全体のデザインの自由度が高まる。
【0085】
[3.他の実施形態]
本発明は上記実施形態において示した態様に限定されるものではなく、例えば、以下のような実施形態も包含するものである。
【0086】
(全体構成上の他の実施形態)
本実施形態では、椅子用カバー1を構成する要素として、背カバー2と座カバー3との双方を備える態様を説明したが、本発明の椅子用カバーとしては、背カバー2のみで成立し、座カバー3は必須の構成ではない。
【0087】
(形状維持部材の配置構成に関する他の実施形態)
上記実施形態では、縦形状維持部材4aと上部形状維持部材4bとを分割して設けた。これは最適な構成を示すものであり、他の態様として縦形状維持部材4aと上部形状維持部材4bとを分割して設けずに、
図8(a)に示すように、一本のコの字状に形成された形状維持部材5として構成することも可能である。このように、縦形状維持部材4aの両側端に設けた2つと上部形状維持部材とを一体で形成することで、背カバー2の上端左右における強度や形状維持具合を高く保つことができるとともに、椅子用カバー1全体の組み立てが容易になる。
【0088】
また、
図8(b)に示すように、縦形状維持部材4aと上部形状維持部材4bだけでなく、例えば、横方向に形状維持部材をさらに複数本配し、他の縦方向に配された複数の縦形状維持部材と、縦横方向に接続して格子状に形成した形状維持部材6として構成することも可能である。
【0089】
本実施形態において用いるプラスチック形状保持部材では、格子状の形状維持部材4において、縦横を構成する各部材を一体的に成形して構成することが可能である。このとき、各形状維持部材4の幅を、
図1であらわす実施態様よりも細く形成するように調整すると良い。このような他の態様により、背カバー2の形状変化を容易かつバリエーション豊富に行うことができるようになる。
【0090】
さらに、
図8(c)に示すように、縦形状維持部材4aに加えて、長方形状の背カバー2に対して、斜め方向(ここでは、背カバー2の対角方向)に配して形状維持部材7として構成することも可能である。このように形状維持部材7を背カバー2に対して斜め方向に配置することで、特に、
図6(b)又は
図7に示したような、背カバー2の背カバー翼部22を内側に折り曲げて使うような態様の場合に、対角に配置した形状維持部材7を折り曲げることで、背カバー翼部22の内側への綺麗な折り曲げを実現することができる。
【0091】
なお、上記実施形態において、上部形状維持部材4bは、必須の構成要素ではなく、上部形状維持部材4bを設けず、形状維持部材4を縦方向のみによって構成することも可能であり、また反対に横方向のみに形状維持部材を複数本配置する構成も当然に包含するものである。これらの構成によっても、本発明の作用効果は奏し得る。ただし、強度や形状の細やかな変化を創出させることを考慮すると、上述のように複数本の部材により形成するのが好ましい。
【0092】
(その他の形状維持部材に係る実施形態)
(1)繊維状の形状維持部材の例
本発明における形状維持部材としては、さらに以下に示すような他の態様も包含する。
【0093】
例えば、形状維持部材を、繊維状塑性部材40により構成することも可能である。
図9に示すように、この繊維状塑性部材40においては、経糸40aと緯糸40bとを縦横に折り合わせてなる織物状又は網目状を成し、これを、背カバー2の内部全域に亘って配することで実現可能である。なお、
図9では、図面表現上、繊維状塑性部材40の一部(4隅部分)のみを表しているが、実際には、一点鎖線で囲った部分全域に渡って設けられている。また、図の表現上、実際の縮尺とは異なり、大きく表しているが、実際には経糸40aに直径1mm程度の糸状体を、緯糸40bに直径0.5mm程度の糸状体を用いるのが最良の形態である。
【0094】
ここで、この繊維状塑性部材40により織物状又は網目状を成すに当たってその織り方は、図に示す平織りに限らず、綾織り、朱子織りの一般的な織り方をはじめとして、いかなる手法による織り方によっても実現可能である。
【0095】
以上の態様では、背カバー内側の全体にわたって設けた形状維持部材を、繊維状塑性部材40により構成し、かつ、この繊維状塑性部材40を経糸40aと緯糸40bからなる繊維状に構成したことで、形状維持部材が背カバーの全域にわたって満遍なく配されるので、背カバーの椅子の背凭れを超えた部分では、背カバーを自由自在に形状変化させることが容易となる。特に繊維状の形状維持部材では、形状維持部材同士の隙間を非常に狭く構成することができるので、背カバーのより細かい形状変化が可能となる。
【0101】
(その他の構成に関する他の実施形態)
図11(a)に示すように、背カバー2と座カバー3との間、背凭れと座面との境界部分に、締結及び弛緩が可能な帯状体Bを設けることも可能である。これにより、背凭れと座面との境界部分において、帯状体Bを位置合わせし、この部分を帯状体Bによって締め付け固定することで、帯状体Bが位置決めの基準となって、背カバー2下端部位置の決定が容易になり、背カバー2の被せ具合の調整が容易になる。
【0102】
また、椅子の座面と背凭れの境界部分の幅に対して、背カバー2の幅が過大な場合でも、この帯状体Bにより当該境界部分に対して背カバー2を締め付けることができるので、サイズ調整が可能となる。さらに、帯状体Bを、椅子用カバーの全体の配色や装飾に対して、例えば、色相やトーンの異なる色彩を用いることで、椅子用カバーを被せた椅子のデザインのアクセントとすることが可能である。なお、帯状体Bとしては、上述の背カバーと座カバー3との境界部分を締め付けることのできるものであれば、いずれのものを用いることもできる。例えば、帯状体Bを、ゴムバンドによって構成することも可能であるし、締まり具合の調整ができるベルトや帯紐によって構成することも可能である。
【0103】
なお、この背カバー2の被せ具合を調整する位置決めは、形状維持部材4又は上述の帯状体Bによる、椅子の背凭れと座面の境界部分における場合だけでなく、背凭れの上端部において行うことも考えられる。すなわち、
図11に想像線で示すように、背カバー2を椅子の背凭れに被せた場合に背凭れの上端部が到達する位置を、予め椅子の背凭れの高さに応じて想定し、背カバー2の内カバー11において、当該想定位置を横方向に縫い合わせた縫製部Sを設ける。または、背カバー2の袋状を成す部分の上端部をこの縫製部Sを設けた位置としておくことで、背カバー2が椅子の背凭れに対してその位置より深く被らないようにすることができる。
【0104】
また、
図6(c)で示した使用パターン3や、
図6(d)で示した使用パターン4における他の実施形態として、
図11(b)及び(c)に示すように、背カバー2の上端部にフックHを一つ設け、他方、背カバー2の下端部の表裏にリングRを設けることで椅子カバーを構成することも可能である。この場合、使用パターン3や使用パターン4の場合に、このフックHとリングRとを嵌め合わせることで、背カバー2の表側又は裏側に対する折り曲げ状態を維持することができ、全体としてすっきりとした印象を与えることが可能となる。なお、ここでいうフックHとリングRとは固定手段としての一例であり、背カバー2を表裏に折り曲げた場合に、それぞれに対してその端部で固定できる機能を有するものであれば、例えば面ファスナーや雌雄のボタンなど、公知の種々の部材を用いることが可能である。