(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
従来より、異種の材料を接着して積層物とすることによって両方の材料の長所を付与したり、或いは同一の材料で異種の材料を挟んで積層物にすることで一方の材料の欠点を補うような積層物を製造する試みがある。特に最近では、プラスチックの有する安物感、感触の悪さ等を改良するため、これにエラストマーを積層する試みがなされている。
このエラストマーを積層したものは手触りがソフトで感触が良く、高級感があること、及び防音性、防振性に優れていること等により、自動車の内装品や家電部品・玩具に好適なものといえる。このような積層物の基材となる熱可塑性樹脂として、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−ビニルアルコール共重合体、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ナイロン、ポリカーボネート、ポリスチレン、耐衝撃性ポリスチレン、ポリアセタール、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、PMMA樹脂、AS樹脂、ABS樹脂等、若しくはこれら2種以上の混合物等が用いられている。これらの積層物は、その形態として、シート、フィルム、又は複雑な形状の成形品として用いられている。
【0003】
これらの積層物は、同種又は異種の材料を接着剤で接着する方法、接着剤を使用せずに複層成形法で積層物にする方法等が一般に行われている。ここで述べる複層成形法としては、例えば、複数の押出機にて熱可塑性樹脂層及び熱可塑性エラストマー層を同時に押出して、溶融状態で両層を熱融着し成形する多層押出成形法、多層ブロー成形法等、更には一方を構成する層(例えば熱可塑性樹脂層)を予め成形しておき、その上にもう一方を構成する層(例えば熱可塑性エラストマー層)の溶融物を供給して熱融着させ、積層物を得る複層射出成形法等の成形法が挙げられる。
しかしながら、積層する材料の種類又はその組み合わせによっては十分な接着効果が得られない場合があり、特に接着剤を使用しない多層押出法或いは複層射出成形法で積層物を得る場合には、相互に熱融着性のない材料を用いることはできない。そのため、多層押出法で相互に熱融着性のない材料の積層物を得る場合には、両方の材料に熱融着性を有する材料を接着層として用いる方法が行われており、例えば、エチレン−酢酸ビニル共重合体、アイオノマー樹脂、スチレン−ブタジエンブロック共重合体等が熱融着性材料として使用されている。
【0004】
しかしながら、これらの樹脂も多層押出する材料の種類によっては必ずしも十分な接着効果が得られない場合や、接着強度の持続性、耐水性等が劣る等の問題点があった。更に、複雑な形状の射出成形品の場合には接着層の使用は困難であり、接着性を有する限られた組み合わせの場合でのみしか複層成形法が適用できないのが現状である。
【0005】
これらの問題点を解決するために、さらに進んだ技術として、特許文献1には、酸変性した水添ブロック共重合体に極性基を有する熱可塑性重合体を添加したものを使用する技術が開示されている。
また、特許文献2には、酸変性した水添ブロック共重合体に熱可塑性ポリウレタンを配合した組成物が開示されている。
さらに、特許文献3には、特定の粘度を有する熱可塑性ポリウレタンと非水添ブロック共重合体又は水添ブロック共重合体からなる組成物が開示されている。
またさらに、特許文献4には、水添ブロック共重合体と酸変性した水添ブロック共重合体と熱可塑性ポリウレタンエラストマーとの組成物が開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載された積層物は、極性を有する樹脂、ガラス、金属等に優れた接着性を示し、有効な方法であるが、組成物の組み合わせによっては流動性に劣る場合があり、複雑な形状の成形品が得られにくいという問題を有する。
特許文献2に記載された組成物は、機械的強度、他樹脂との接着性等に優れた特性を示すため有用な組成物であると言えるが、成形加工性に劣るため更なる改良が望まれている。
特許文献3に記載された組成物は、熱可塑性ポリウレタンと非水添又は水添ブロック共重合体との親和性に劣るため、機械的強度が低く、また成形品に剥離が生じるという問題があり、さらなる改良が望まれている。
特許文献4に記載された組成物は、水添ブロック共重合体と熱可塑性ポリウレタンエラストマーの親和性を高め、機械的強度は大幅に改良されている。しかし、これらは適当な熱安定剤を選択しないと成形加工時の熱安定性に劣り、異種材料との接着強度が得られる成形温度と熱可塑性ポリウレタンエラストマーが熱分解を開始する温度の幅が大変狭く、成形加工しにくいという問題がある。
さらに、ポリウレタン系材料には、根本的に光劣化や加水分解等の経時劣化が起こることに加え、コストが高いというデメリットがあり、ポリウレタン系材料を配合せずとも極性樹脂と強固に接着するエラストマー組成物が望まれている。
上記事情に鑑み、本発明は、射出成形、押出成形等の成形加工性に優れ、かつ、ポリウレタンやポリウレタンエラストマーを配合することなく、極性樹脂との接着性が高く、またゴム的特性(柔らかい)にも優れた熱可塑性エラストマーを得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、酸変性水添ブロック共重合体を、特定の樹脂及び添加剤と、特定の割合で組み合わせることで、射出成形、押出成形等の成形加工性に優れ、かつ、ポリウレタンやポリウレタンエラストマーを配合することなく、極性樹脂との接着性が高く、またゴム的特性にも優れた熱可塑性エラストマーが得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
[1]
下記(A)〜(D)成分を含む熱可塑性エラストマー組成物であって、
前記(A)成分100質量部に対して、前記(B)成分を10〜90質量部、前記(C)成分を0.1〜20質量部、前記(D)成分を20〜200質量部を含み、230℃、2.16kg荷重で測定したMFRが30g/10分以上である、熱可塑性エラストマー組成物。
(A)酸変性水添ブロック共重合体
(B)オレフィン系樹脂
(C)元素周期表第2族の金属酸化物
(D)軟化剤
[2]
前記(B)成分を20〜50質量部、前記(D)成分を70〜160質量部を含む、上記[1]に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
[3]
前記(C)成分が酸化マグネシウム又は酸化カルシウムである、上記[1]又は[2]に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
[4]
上記[1]〜[3]のいずれかに記載の熱可塑性エラストマー組成物を含む成形体。
[5]
上記[4]に記載の成形体と、ポリアミド系樹脂を含む成形体を積層してなる、複合成形体。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、射出成形、押出成形等の成形加工性に優れ、かつ、ポリウレタンやポリウレタンエラストマーを配合することなく、極性樹脂との接着性が高く、またゴム的特性にも優れた熱可塑性エラストマー組成物が得られる。本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、特に複層成形用途に好適である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」と言う。)について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に制限されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0012】
本実施形態の熱可塑性エラストマー組成物(以下、単に「エラストマー組成物」とも言う。)は、
下記(A)〜(D)成分を含む熱可塑性エラストマー組成物であって、
前記(A)成分100質量部に対して、前記(B)成分を10〜90質量部、前記(C)成分を0.1〜20質量部、前記(D)成分を20〜200質量部を含み、230℃、2.16kg荷重で測定したMFRが30g/10分以上である。
(A)酸変性水添ブロック共重合体
(B)オレフィン系樹脂
(C)元素周期表第2族の金属酸化物
(D)軟化剤
【0013】
(A)酸変性水添ブロック共重合体
本実施形態の(A)成分として使用する酸変性水添ブロック共重合体の酸変性前の水添ブロック共重合体は、少なくとも1個、好ましくは2個以上のビニル芳香族化合物を主体とする重合体ブロックAと、少なくとも1個の共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロックBと、からなるブロック共重合体を水素添加してなるブロック共重合体であり、例えば、A−B−A、B−A−B−A、A−B−A−B−A、B−A−B−A−B、(A−B)
4−Si、(B−A−B)
4−Si、(A−B)
4−Sn、(B−A−B)
4−Sn等の構造を有するものである。ここで、Siは四塩化ケイ素、Snは四塩化スズ等のカップリング剤の残基を示す。
【0014】
カップリング剤としては特に限定はなく、公知のものを用いることができる。2官能性のカップリング剤の例としては、ジメチルジクロロシラン、ジメチルジブロモシラン等のジハロゲン化合物;安息香酸メチル、安息香酸エチル、安息香酸フェニル、フタル酸エステル類等の酸エステル類が挙げられる。3官能以上の多官能カップリング剤の例としては、3価以上のポリアルコール類;エポキシ化大豆油、ジグリシジルビスフェノールA等の多価エポキシ化合物;式R4−nSiXn(ただし、各Rはそれぞれ独立して炭素数1から20の炭化水素基を示し、各Xはそれぞれ独立してハロゲン原子を示し、nは3又は4を示す。)で表されるハロゲン化珪素化合物、例えば、メチルシリルトリクロリド、t−ブチルシリルトリクロリド、四塩化珪素、及びこれらの臭素化物;式R4−nSnXn(ただし、各Rはそれぞれ独立して炭素数1から20の炭化水素基を示し、各Xはそれぞれ独立してハロゲン原子を示し、nは3又は4を示す。)で表されるハロゲン化錫化合物、例えば、メチル錫トリクロリド、t−ブチル錫トリクロリド、四塩化錫等の多価ハロゲン化合物が挙げられる。また、炭酸ジメチルや炭酸ジエチル等も多官能カップリング剤として使用できる。
【0015】
本実施形態において「主体とする」とは、該当成分が他の成分と比較して最も多く含まれていることを言い、全体に対して、好ましくは50質量%以上、より好ましくは80質量%以上であり、100質量%であってもよい。
【0016】
ビニル芳香族化合物を主体とする重合体ブロックA、共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロックBは、それぞれの重合体ブロックにおけるビニル芳香族化合物又は共役ジエン化合物の分布がランダム、テーパード、一部ブロック状、又はこれらの任意の組み合わせであってもよい。また、重合体ブロックA及びBがそれぞれ2個以上ある場合は、各重合体ブロックはそれぞれが同一構造であってもよく、異なる構造であってもよい。
【0017】
本実施形態のブロック共重合体を構成するビニル芳香族化合物としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、p−ビニルトルエン、p−t−ブチルスチレン等からなる群から選択される1種又は2種以上が挙げられ、中でも、反応性が良好で、高強度となる傾向にあるため、スチレンが好ましい。
【0018】
本実施形態のブロック共重合体を構成する共役ジエン化合物としては、例えば、ブタジエン、イソプレン、1,3−ペンタジエン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン等からなる群から選択される1種又は2種以上が挙げられ、中でも、反応性や柔軟性の観点から、ブタジエン、イソプレン又はこれらの組み合わせが好ましい。
【0019】
水素添加される前の共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロックBは、そのブロックにおけるミクロ構造を任意に選ぶことができ、例えば、ポリブタジエンブロックの場合においては、1,2−ビニル結合構造が20〜50質量%、好ましくは25〜45質量%であり、ポリイソプレンブロックにおいては1,4−ビニル結合構造が80質量%以上、好ましくは90質量%以上である。
【0020】
水素添加前のブロック共重合体は、従来公知の方法により合成できる。
例えば、特公昭36−19286号公報、特公昭43−17979号公報、特公昭48−2423号公報、特公昭49−36957号公報、特公昭57−49567号公報、特公昭58−11446号公報等に開示されているように、炭化水素溶剤中で有機リチウム化合物等のアニオン開始剤を用いて、共役ジエン化合物とビニル芳香族化合物をブロック共重合する方法により合成することができる。
【0021】
水添ブロック共重合体は、上記で得られたブロック共重合体に対して水素添加が行われることにより得られる。
水素添加において用いる水添触媒としては、特に限定されるものではなく、従来公知の触媒、例えば、(1)Ni、Pt、Pd、Ru等の金属をカーボン、シリカ、アルミナ、ケイソウ土等に担持させた担持型不均一系水添触媒、(2)Ni、Co、Fe、Cr等の有機酸塩又はアセチルアセトン塩等の遷移金属塩と有機アルミニウム等の還元剤とを用いる、いわゆるチーグラー型水添触媒、(3)Ti、Ru、Rh、Zr等の有機金属化合物等の、いわゆる有機金属錯体等の均一系水添触媒等を適用できる。
具体的には、特公昭42−8704号公報、特公昭43−6636号公報、特公昭63−4841号公報、特公平1−37970号公報、特公平1−53851号公報、特公平2−9041号公報に開示されている水添触媒を適用できる。
【0022】
水添触媒の好ましい例としては、チタノセン化合物と還元性有機金属化合物との混合物が挙げられる。
チタノセン化合物としては、例えば、特開平8−109219号公報に記載された化合物が使用でき、具体例としては、ビスシクロペンタジエニルチタンジクロライド、モノペンタメチルシクロペンタジエニルチタントリクロライド等の(置換)シクロペンタジエニル骨格、インデニル骨格若しくはフルオレニル骨格を有する配位子を少なくとも1つ以上もつ化合物が挙げられる。
また、還元性有機金属化合物としては、例えば、有機リチウム等の有機アルカリ金属化合物、有機マグネシウム化合物、有機アルミニウム化合物、有機ホウ素化合物、有機亜鉛化合物等が挙げられる。
【0023】
ブロック共重合体に対して水添反応を実施する際の温度条件は、0〜200℃の範囲とすることが好ましく、30〜150℃の範囲とすることがより好ましい。
水添反応に使用される水素の圧力は、0.1〜15MPaが好ましく、0.2〜10MPaがより好ましく、0.3〜5MPaが更に好ましい。
また、水添反応時間は、3分〜10時間が好ましく、10分〜5時間がより好ましい。
水添反応は、バッチプロセス、連続プロセスによって行うことができ、これらを単独で行ってもよく、組み合わせてもよい。
【0024】
本実施形態の(A)成分として使用する酸変性水添ブロック共重合体は、水添ブロック共重合体にカルボン酸基又はその誘導体基を含有する分子単位が結合したものであり、水添ブロック共重合体にカルボン酸基又はその誘導体基を含有する化合物を付加させることにより得ることができる。カルボン酸基又はその誘導体基を含有する化合物としては、例えば、マレイン酸、ハロゲン化マレイン酸、イタコン酸、シス−4−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸、エンド−シス−ビシクロ(2,2,1)−5−ヘプテン−2,3−ジカルボン酸等やこれらジカルボン酸の無水物、エステル、アミド、イミド等、及びアクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸等やこれらモノカルボン酸のエステル、例えば、メタクリル酸メチル、メタクリル酸グリシジルや、アミド等の誘導体が挙げられる。これらの中でも、反応性や接着性の観点から、無水マレイン酸が特に好ましい。
【0025】
カルボン酸基又はその誘導体基を含有する化合物の付加量としては、水添ブロック共重合体100質量部に対して、好ましくは0.1〜20質量部であり、より好ましくは0.1〜10質量部、更に好ましくは0.1〜5質量部である。エラストマー組成物の流動性、成形加工性向上の観点より0.1質量部以上であることが好ましい。一方、接着性を十分なものとする観点から20質量部以下であることが好ましい。
【0026】
(A)酸変性水添ブロック共重合体の製造は、ラジカル開始剤と水添ブロック共重合体、及びカルボン酸基又はその誘導体基を含有する化合物をドライブレンドした後、押出機で溶融混練することで得られる。
【0027】
本実施形態の(A)酸変性水添ブロック共重合体は、非変性水添ブロック共重合体、その他の変性水添ブロック共重合体との混合物として用いてもよい。その場合、酸変性水添ブロック共重合体は、混合物中に少なくとも50質量%含有していることが好ましい。
ここで、その他の変性水添ブロック共重合体としては、例えば、有機リチウム化合物を重合触媒として得た水添ブロック共重合体のリビング末端に、官能基含有化合物を反応させた変性水添ブロック共重合体が挙げられる。官能基含有化合物の官能基としては、水酸基、カルボニル基、チオカルボニル基、酸ハロゲン化物基、酸無水物基、カルボキシル基、チオカルボキシル酸基、アルデヒド基、チオアルデヒド基、カルボン酸エステル基、アミド基、スルホン酸基、スルホン酸エステル基、リン酸基、リン酸エステル基、アミノ基、イミノ基、シアノ基、ピリジル基、キノリン基、エポキシ基、チオエポキシ基、スルフィド基、イソシアネート基、イソチオシアネート基、ハロゲン化ケイ素基、シラノール基、アルコキシシラン基、ハロゲン化スズ基、アルコキシスズ基、フェニルスズ基等が挙げられる。
【0028】
本実施形態の(A)成分として使用する酸変性水添ブロック共重合体の数平均分子量は好ましくは3万〜10万であり、より好ましくは3.5万〜7万である。数平均分子量が3万〜10万の範囲の酸変性水添ブロック共重合体を用いることにより、成形加工性と機械的強度等の物性のバランスに優れたエラストマー組成物が得られる傾向にある。
ここで、酸変性水添ブロック共重合体の数平均分子量は、下記の条件で、実施例に示したゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)の測定条件に従って測定することができる。
測定装置:GPC:HLC−8220(TOSOH社製、商品名)
カラム:TSKgelGMHXL SuperH5000:1本、SuperH4000:2本(TOSOH社製、商品名)
溶媒:テトラヒドロフラン
温度:40℃
検量線用サンプル:市販(TOSOH社製)の標準ポリスチレン、10点測定
なお、重合体の結晶化度が高い等で溶解しない場合には、溶媒の変更や温度上昇して測定を行う。
【0029】
(B)オレフィン系樹脂
本実施形態における(B)オレフィン系樹脂としては、例えば、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂が挙げられる。中でも、耐熱性、成形性に優れるエラストマー組成物を得る観点から、オレフィン系樹脂としてはポリプロピレン樹脂を用いることが好ましい。
【0030】
ポリエチレン樹脂としては、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、エチレンと炭素数3〜8のα−オレフィンとの共重合体等が挙げられる。エチレンと炭素数3〜8のα−オレフィンとの共重合体の場合、α−オレフィンとしては、プロピレン、ブテン−1、イソブテン、ペンテン−1、ヘキセン−1、4−メチルペンテン−1、オクテン−1等が挙げられる。この場合、共重合体中のα−オレフィンの割合は30質量%以下であることが好ましい。
【0031】
ポリプロピレン樹脂としては、プロピレン単独重合体又はプロピレンと炭素数2〜8のα−オレフィンとの共重合体が挙げられる。プロピレンと炭素数2〜8のα−オレフィンとの共重合体の場合、共重合体中のα−オレフィンとしては、エチレン、ブテン−1、イソブテン、ペンテン−1、ヘキセン−1、4−メチルペンテン−1、オクテン−1等が挙げられる。この場合、共重合体中のα−オレフィンの割合は30質量%以下であることが好ましい。ポリプロピレン樹脂は、従来公知の方法で合成することができ、例えば、チーグラー・ナッタ型触媒を用いて、プロピレン単独重合体、ランダム若しくはブロックのプロピレンとα−オレフィンとの共重合体を合成することができる。
【0032】
オレフィン系樹脂のMFR(メルトフローレート)は、好ましくは5〜100g/10分、より好ましくは10〜60g/10分である。MFRが5g/10分未満の場合、エラストマー組成物の溶融粘度が高く、エラストマー組成物の成形加工性(流動性)が低下し、また、フローマーク等が発生して成形品の外観が悪化する傾向にある。また、MFRが100g/10分を超える場合、エラストマー組成物の強度、耐熱性が低下する傾向にある。
ここで、オレフィン系樹脂のMFRは、JIS K7210に従って、230℃、2.16kg荷重にて測定することができる。
【0033】
本実施形態におけるオレフィン系樹脂は、熱可塑性エラストマー組成物の硬さの調整、及び加工性を改良する効果を有しており、その配合量は、酸変性水添ブロック共重合体100質量部に対して、10〜90質量部、好ましくは20〜50質量部である。オレフィン系樹脂の配合量が10質量部未満の場合、エラストマー組成物の耐熱性、成形加工性(流動性)が低下し、また、フローマーク等が発生して成形品の外観が悪化する。オレフィン系樹脂の配合量が90質量部を超える場合、エラストマー組成物の接着性と柔軟性が低下する。
【0034】
(C)元素周期表第2族の金属酸化物
本実施形態における(C)元素周期表第2族の金属酸化物としては、例えば、酸化マグネシウム、酸化カルシウム等が挙げられる。これらは単独で又は組合せて使用される。金属酸化物の配合量としては、酸変性水添ブロック共重合体100質量部に対して、0.1〜20質量部であり、好ましくは3〜15質量部である。金属酸化物の配合量が0.1質量部未満の場合、ポリアミド樹脂等の極性樹脂との接着性が発現せず、20質量部を超える場合、柔軟性や成形加工性が低下する。
【0035】
(D)軟化剤
本実施形態における(D)軟化剤としては、例えば、非芳香族系の鉱物油、又は液状若しくは低分子量の合成軟化剤が挙げられる。これらは、エラストマー組成物の柔軟性と流動性を改良する効果を有しており、加えて、エラストマー組成物の流動性を向上することにより、被接着体であるポリアミド系樹脂等の極性樹脂表面への濡れ性を向上し接着性を強固にすることができる。非芳香族系の鉱物油としては、一般に知られているパラフィン系オイル及びナフテン系オイルを使用することができるが、中でも、得られるエラストマー組成物の物性を損なわないという観点から、芳香族環成分が10質量%以下のパラフィン系オイルが好ましい。
【0036】
軟化剤の配合量は、酸変性水添ブロック共重合体100質量部に対して、20〜200質量部、好ましくは40〜160質量部、更に好ましくは70〜160質量部である。軟化剤の配合量が200質量部を超える場合、エラストマー組成物の耐スクラッチ性、耐熱性が低下する。一方、軟化剤の配合量が20質量部未満の場合、得られるエラストマー組成物が硬くなり、ゴム的性質が損なわれる。
【0037】
本実施形態の熱可塑性エラストマー組成物の優れた接着性は、その高い流動性により発現される。特に射出成形法による接着工法では、熱可塑性エラストマー組成物が被着体であるポリアミド系樹脂等の極性樹脂の表面に濡れることが重要な因子となる。上記観点から、熱可塑性エラストマー組成物の、JIS K7210に従って、230℃、2.16kgで測定したMFRは、30g/10分以上であり、好ましくは50g/10分以上、より好ましくは70g/10分以上である。熱可塑性エラストマー組成物のMFRが30g/10分未満の場合には、極性樹脂との接着性が不十分となる。
MFRは、オレフィン系樹脂と軟化剤との量比により、上記特定の範囲に調整することができる。
【0038】
また、本実施形態の熱可塑性エラストマー組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、無機フィラー、可塑剤、有機・無機顔料、熱安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、難燃剤、シリコンオイル、アンチブロッキング剤、発泡剤、帯電防止剤、抗菌剤等のその他の公知の添加剤を含有することが可能である。
【0039】
本実施形態の熱可塑性エラストマー組成物の製造には、通常の樹脂組成物、ゴム組成物の製造に用いられるバンバリーミキサー、ニーダー、単軸押出機、2軸押出機等の一般的な装置を採用することが可能である。とりわけ(A)〜(D)成分が効率的に混合し、エラストマー組成物として好適な接着性能や外観を得る観点からは、2軸押出機が好ましく用いられる。
【0040】
本実施形態における熱可塑性エラストマー組成物を含む成形体と、極性樹脂を含む成形体とを接着して積層させることにより、両者の複合成形体を得ることができる。極性樹脂としては、ポリアミド系樹脂、ABS系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂等が挙げられ、中でも、ポリアミド系樹脂が好ましい。
【0041】
ポリアミド系樹脂としては、ポリアミド66及びポリアミド46、ポリアミド6、ポリアミド610、ポリアミド612、ポリアミド11、ポリアミド12等の脂肪族ポリアミドや、MXD6ナイロン及びMXD6ナイロンと他のポリアミドとの共重合ポリアミド及び/又は混合ポリアミドや、ヘキサメチレンテレフタルアミド、テトラメチレンイソフタルアミド、ヘキサメチレンイソフタルアミド等、テレフタル酸、イソフタル酸等の芳香族成分を含む芳香族ポリアミドとポリアミド66とを共重合成分とする共重合ポリアミド又は混合ポリアミド等が挙げられる。これらポリアミド系樹脂の分子量は、成形可能な範囲であれば特に制限されない。
【0042】
本実施形態における熱可塑性エラストマー組成物を含む成形体と極性樹脂を含む成形体とが積層した複合成形体は、上記熱可塑性エラストマー組成物と極性樹脂を用い、一般的な複合成形法、例えば、2色射出成形、インサート射出成形、共押出成形等の公知の成形方法で成形を行うことによって得ることができる。
【実施例】
【0043】
以下に実施例を示して、本実施形態をより詳細に説明するが、本実施形態は以下に記載の実施例によって限定されるものではない。
【0044】
[評価方法]
各物性の評価は以下のとおりに行った。
[硬度]
熱可塑性エラストマー組成物の硬度は、JIS K6253に従って、デュロメータタイプAで瞬間値の値を測定した。
【0045】
[MFR]
熱可塑性エラストマー組成物のMFR(メルトフローレイト)は、JIS K7210に従って、230℃、2.16kg荷重にて測定した。
【0046】
[接着剥離強度]
複合成形体を10mm幅の短冊状に切削し、200mm/分の速度で180度の引張り試験を行い、剥離強度を算出した。
【0047】
[熱可塑性エラストマー組成物の製造]
表1に記載の実施例1〜5、比較例1〜3及び参考例1〜2の配合量(単位は「質量部」)に基づき、以下の材料を用いて、熱可塑性エラストマー組成物を製造した。
(A)無水マレイン酸変性SEBS:タフテックM1913(旭化成ケミカルズ(株)製)、クレイトンFG1901(クレイトンポリマージャパン(株)製)
(B)ポリプロピレン樹脂:PM801A(サンアロマー(株)製)
(C)金属酸化物:酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化アルミニウム(和光純薬工業(株)製)
(D)軟化剤:ダイアナプロセスオイルPW90(出光興産(株)製)
(E)非変性のSEBS:タフテックH1272(油展品/旭化成ケミカルズ(株)製)、タフテックH1041(旭化成ケミカルズ(株)製)
【0048】
上記(A)〜(C)及び(E)成分に、酸化防止剤としてIRGANOX1076(BASFジャパン(株)製)をドライブレンドした後、二軸押出機TEX30((株)日本製鋼所製)で、シリンダー設定温度200℃、スクリュー回転数300回転、吐出量5kg/時間で溶融混練した。その際、軟化剤として上記(D)成分を液添加し、表1に示された配合比率の熱可塑性エラストマー組成物を得た。熱可塑性エラストマー組成物の硬度及びMFRを測定し、結果を表1に示した。
【0049】
[複合成形体の製造]
次にポリアミド系樹脂としてアミランCM1017(東レ(株)製)(PA6)をシリンダー設定温度220℃、金型温度60℃にて射出成形し、プレート状(100mm×50mm、肉厚2mm)の成形品を作成した。次に、前記ポリアミド系樹脂のプレート状成形品を金型内に配置し、実施例1〜5、比較例1〜3及び参考例1〜2の熱可塑性エラストマー組成物をシリンダー設定温度220℃にて射出成形し、ポリアミド系樹脂成形品と熱可塑性エラストマー組成物成形品とが積層した複合成形体を得た。
更に、参考として、ポリアミド系樹脂をポリカーボネート(CHIMEI(株)製 PC−122)(PC)に変え、前記と同様な手順で複合成形体を作成した。
複合成形体の接着剥離強度を測定し、結果を表1に示した。
【0050】
【表1】
【0051】
表1より明らかなように、本実施形態の熱可塑性エラストマー組成物(実施例1〜5)は、ポリアミド系樹脂との強固な接着性、十分なゴム的性質を示し、多層押出、複層射出成形等の分野に極めて有効に利用することが可能である。このため、自動車内装品、家電部品、スポーツ用品、工業用品等の用途に広く利用することができ、その工業的意義は極めて大きい。