【実施例】
【0035】
以下、実施例に基いて本発明をさらに説明する。なお、本発明における種々の物性値および特性は、以下のようにして測定されたものであり、かつ定義される。
【0036】
(1)ヤング率
フイルムを試料幅10mm、長さ15cmに切り、チャック間100mmにして引張速度10mm/min、チャート速度500mm/minでインストロンタイプの万能引張試験装置にて引張り、得られる荷重−伸び曲線の立上り部の接線よりヤング率を計算する。ヤング率は10回測定し、その平均値を用いた。
【0037】
(2)温度膨張係数(αt)
得られたフィルムから幅4mmのサンプルを切り出し、チャック間長さ20mmとなるように、セイコーインスツル製TMA/SS6000にセットし、窒素雰囲気下(0%RH)、80℃で30分前処理し、その後室温まで降温させた。その後30℃から80℃まで2℃/minで昇温して、各温度でのサンプル長を測定し、次式より温度膨張係数(αt)を算出した。なお、5回測定し、その平均値を用いた。
αt={(L
60−L
40)/(L
40×△T)}+0.5×10
−6
ここで、上記式中のL
40は40℃のときのサンプル長(mm)、L
60は60℃のときのサンプル長(mm)、△Tは20(=60−40)℃、0.5×10
−6/℃は石英ガラスの温度膨張係数(αt)である。
【0038】
(3)湿度膨張係数(αh)
得られたフィルムから幅5mmのサンプルを切り出し、チャック間長さ15mmとなるように、ブルカーAXS製TMA4000SAにセットし、30℃の窒素雰囲気下で、湿度20%RHと湿度80%RHにおけるそれぞれのサンプルの長さを測定し、次式にて湿度膨張係数(αh)を算出した。なお、5回測定し、その平均値をαhとした。
αh=(L
80−L
20)/(L
20×△H)
ここで、上記式中のL
20は20%RHのときのサンプル長(mm)、L
80は80%RHのときのサンプル長(mm)、△H:60(=80−20)%RHである。
【0039】
(4)ガラス転移点および融点
芳香族ポリエステルまたはポリオレフィン10mgを、測定用のアルミニウム製パンに封入し、DSC(TAインスツルメンツ社製、Q100)を用いて25℃から300℃まで20℃/minの昇温速度で測定し、それぞれの融点およびそれぞれのガラス転移点を求めた。
【0040】
(5)トラックずれ
下記に示す組成物をボールミルに入れ、16時間混練、分散した後、イソシアネート化合物(バイエル社製のデスモジュールL)5重量部を加え、1時間高速剪断分散して磁性塗料とした。
磁性塗料の組成:
針状Fe粒子 100重量部
塩化ビニル― 酢酸ビニル共重合体 15重量部
(積水化学製エスレック7A)
熱可塑性ポリウレタン樹脂 5重量部
酸化クロム 5重量部
カーボンブラック 5重量部
レシチン 2重量部
脂肪酸エステル 1重量部
トルエン 50重量部
メチルエチルケトン 50重量部
シクロヘキサノン 50重量部
この磁性塗料を、得られた二軸配向積層フィルムの一方の表面に乾燥後の塗布厚さ0.5μmとなるように塗布し、次いで2,500ガウスの直流磁場中で配向処理を行い、100℃で加熱乾燥後、スーパーカレンダー処理(線圧2,000N/cm、温度80℃)を行い、巻き取った。この巻き取ったロールを55℃のオーブン中に3日間放置した。
さらに下記組成のバックコート層塗料を、二軸配向積層フィルムの他方の表面に、乾燥後の厚さが1μmとなるように塗布し、乾燥させ、さらに12.65mm(=1/2インチ)に裁断し、磁気テープを得た。
バックコート層塗料の組成:
カーボンブラック 100重量部
熱可塑性ポリウレタン樹脂 60重量部
イソシアネート化合物 18重量部
( 日本ポリウレタン工業社製コロネートL)
シリコーンオイル 0.5重量部
メチルエチルケトン 250重量部
トルエン 50重量部
このようにして得られた磁気テープを、恒温恒湿槽内へ入れ、長手方向に1Nの張力を掛けた状態で各環境(環境A:10℃10%RH、環境B:29℃80%RH)にて5時間静置した後、それぞれレーザー寸法測定機によって幅を測定した。そして、下記式によりトラックずれ率を算出した。
トラックずれ率(ppm)=((LB−LA)/LA)*10
6−7×(29−10)
上記式中のLBは環境Bで測定した幅、LAは環境Aで測定した幅、7は磁気ヘッドの温度膨張係数(ppm)、(29−10)(℃)は温度の変化量である。ちなみに、磁気ヘッドの湿度膨張係数は0ppm/%RHとした。
そして、トラックずれ率は絶対値が少ないほど、トラックズレが良好であり、以下の基準により評価した。
◎ : ずれ幅250ppm未満(トラックずれ極めて良好)
○ : ずれ幅250ppm以上、360ppm未満(トラックずれ良好)
× : ずれ幅360ppm以上(トラックずれ不良)
【0041】
(6)各層の厚み
積層フィルムを3角形に切り出し、包埋カプセルに固定後、エポキシ樹脂にて包埋する。ミクロトーム(ULTRACUT−S)で、製膜方向と厚み方向とに平行な方向にカットして、厚み50nm薄膜切片にする。そして、透過型電子顕微鏡を用い、加速電圧1000kvにて観察し、倍率1万倍〜10万倍で撮影し、写真より各層の厚みを測定した。
【0042】
[
参考例1]
融点(Tm)269℃のポリエチレン−2,6−ナフタレート(PEN)を160℃で5時間乾燥後、無水マレイン酸が23モル%共重合された無水マレイン酸共重合ポリスチレン(Polyscope社製、Xiran−SZ23001)と重量比で95:5となるようにブレンドして、フィルム層(I)に用いる芳香族ポリエステル組成物(B)として調整した。そして、フィルム層(I)のポリマーを押し出し機に供給して溶融し、フィードブロック装置を使用して積層し、ダイへと導き、キャスティングドラム上にキャストして未延伸シートを作成した。なお、ダイから押し出された積層未延伸シートは、表面仕上げ0.3S、表面温度60℃に保持したキャスティングドラム上で急冷固化せしめて、未延伸フィルムとされた。
この未延伸フィルムを90℃にて予熱し、さらに低速、高速のロール間で14mm上方より830℃の表面温度の赤外線ヒーターにて加熱してフィルムの製膜方向に4.7倍に延伸し、急冷し、続いてステンターに供給し、125℃にて横方向に6.5倍延伸した。
さらに引き続いて210℃で10秒間熱固定した後、120℃にて横方向に1.0%弛緩処理をし、厚み5.0μmの二軸配向フィルムを得た。得られた二軸配向フィルムの特性を表1に示す。
【0043】
[
参考例2および3]
PENと無水マレイン酸共重合ポリスチレンとの重量比を、表1に示すとおり、
参考例2は98:2、
参考例3は90:10に変更したほかは、
参考例1と同様な操作を繰り返した。得られた二軸配向フィルムの特性を表1に示す。
【0044】
[実施例4および5]
PENと無水マレイン酸共重合ポリスチレンのほかに、無水マレイン酸の共重合されていないシンジオタクチックポリスチレン(出光興産株式会社製、XAREC90ZC)も加え、PENと無水マレイン酸共重合ポリスチレンと無水マレイン酸の共重合されていないシンジオタクチックポリスチレンとの重量比を、表1に示すとおり、実施例4は85:5:10、実施例5は92:5:3に変更したほかは、
参考例1と同様な操作を繰り返した。得られた二軸配向フィルムの特性を表1に示す。
【0045】
[
参考例6および7]
Polyscope社製、Xiran−SZ23001の代わりに、表1に示すとおり、
参考例6は無水マレイン酸が18モル%共重合された無水マレイン酸共重合ポリスチレンを、
参考例7は無水マレイン酸が30モル%共重合された無水マレイン酸共重合ポリスチレンを用いたほかは、
参考例1と同様な操作を繰り返した。得られた二軸配向フィルムの特性を表1に示す。
【0046】
[
参考例8]
融点(Tm)258℃のポリエチレンテレフタレート(PET)を160℃で3時間乾燥後、無水マレイン酸が23モル%共重合された無水マレイン酸共重合ポリスチレン(Polyscope社製、Xiran−SZ23001)と重量比で95:5となるようにブレンドして、フィルム層(I)に用いる芳香族ポリエステル組成物(B)として調整した。そして、フィルム層(I)のポリマーを押し出し機に供給して溶融し、フィードブロック装置を使用して積層し、ダイへと導き、キャスティングドラム上にキャストして未延伸シートを作成した。なお、ダイから押し出された積層未延伸シートは、表面仕上げ0.3S、表面温度60℃に保持したキャスティングドラム上で急冷固化せしめて、未延伸フィルムとされた。
この未延伸フィルムを75℃にて予熱し、さらに低速、高速のロール間で14mm上方より800℃の表面温度の赤外線ヒーターにて加熱してフィルムの製膜方向に4.3倍に延伸し、急冷し、続いてステンターに供給し、110℃にて横方向に6.0倍延伸した。さらに引き続いて210℃で10秒間熱固定した後、120℃にて横方向に1.0%弛緩処理をし、厚み5.0μmの二軸配向フィルムを得た。得られた二軸配向フィルムの特性を表1に示す。
【0047】
[
参考例9]
参考例1で作成したフィルム層(I)に用いる芳香族ポリエステル組成物(B)と、PENを、160℃で5時間乾燥させ、フィルム層(II)に用いる芳香族ポリエステル組成物(D)とを調整した。これらのフィルム層(I)および(II)のポリマーを押し出し機に供給して溶融し、フィードブロック装置を使用して積層し、ダイへと導き、キャスティングドラム上にキャストして層(I)と層(II)が積層された未延伸シートを作成した。このとき、層(I)と層(II)のポリマーの押し出し量比が7:3になるように調整したほかは、
参考例1と同様な操作を繰り返して、厚み5.0μmの二軸配向積層フィルムを得た。得られた二軸配向積層フィルムの特性を表1に示す。
【0048】
[
参考例10]
参考例8で作成したフィルム層(I)に用いる芳香族ポリエステル組成物(B)と、PETを、160℃で5時間乾燥させ、フィルム層(II)に用いる芳香族ポリエステル組成物(D)とを調整した。これらのフィルム層(I)および(II)のポリマーを押し出し機に供給して溶融し、フィードブロック装置を使用して積層し、ダイへと導き、キャスティングドラム上にキャストして層(I)と層(II)が積層された未延伸シートを作成した。このとき、層(I)と層(II)のポリマーの押し出し量比が9:1になるように調整したほかは、
参考例8と同様な操作を繰り返して、厚み5.0μmの二軸配向積層フィルムを得た。得られた二軸配向積層フィルムの特性を表1に示す。
【0049】
[
参考例11]
参考例10において、フィルム層(I)に用いる芳香族ポリエステル組成物(B)を、ポリエチレンテレフタレート(PET)と無水マレイン酸共重合ポリスチレンとの重量比95:5の組成物から、表1に示すとおり、ポリエチレンテレフタレート(PET)と無水マレイン酸共重合ポリスチレンとポリエーテルイミド(GE社製、ウルテム1010)の重量比90:5:5の組成物に変更したほかは、
参考例10と同様な操作を繰り返して、厚み5.0μmの二軸配向積層フィルムを得た。得られた二軸配向積層フィルムの特性を表1に示す。
【0050】
[比較例1]
無水マレイン酸共重合ポリスチレンを、Polyscope社製、Xiran−SZ23001から、無水マレイン酸を10モル%共重合したNova Chemicals社製、商品名:DYLARK232に変更したほかは、
参考例1と同様にして二軸配向フィルムを得た。得られた二軸配向フィルムの特性を表1に示した。
【0051】
[比較例2]
無水マレイン酸共重合ポリスチレンとPENの割合を表1に示したとおり変更したほかは、比較例1と同様にして二軸配向フィルムを得た。得られた二軸配向フィルムの特性を表1に示した。
【0052】
[比較例3]
比較例1において、PENと無水マレイン酸共重合ポリスチレンのほかに、無水マレイン酸の共重合されていないシンジオタクチックポリスチレン(出光興産株式会社製、XAREC90ZC)も加え、PENと無水マレイン酸共重合ポリスチレンと無水マレイン酸の共重合されていないシンジオタクチックポリスチレンとの重量比を、表1に示すとおり、90:5:5に変更したほかは、同様な操作を繰り返した。得られた二軸配向フィルムの特性を表1に示す。
【0053】
[比較例4]
無水マレイン酸共重合ポリスチレンを含有させなかったほかは、
参考例1と同様にして二軸配向フィルムを得た。得られた二軸配向フィルムの特性を表1に示した。
【0054】
[比較例5]
PENと無水マレイン酸共重合ポリスチレンとの割合を表1に示したとおり、85:15に変更したほかは、
参考例1と同様にして二軸配向フィルムを得た。得られた二軸配向フィルムの特性を表1に示した。
【0055】
[比較例6]
無水マレイン酸共重合ポリスチレンを、Polyscope社製、Xiran−SZ23001から、無水マレイン酸を35モル%共重合した無水マレイン酸共重合ポリスチレンに変更したほかは、
参考例1と同様な操作を繰り返した。ただ、二軸配向フィルムを製膜しようとしたところ、ゲル化による影響か、未延伸フィルムの厚み斑がひどく、延伸以降の操作は取りやめた。結果を表1に示す。
【0056】
【表1】
【0057】
ここで、表1中の、MPstは無水マレイン酸共重合ポリスチレン、PENはポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレート、PETはポリエチレンテレフタレート、SPSはシンジオタクチックポリスチレン、PEIはポリエーテルイミド、MDは製膜方向、TDは幅方向を意味する。