【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、上記の目的を達成すべく、次のような銅合金製の転造加工用素材及び転造加工品を提案する。
【0012】
すなわち、本発明は、被転造加工部分が、Cu:73.5〜79.5mass%と、Si:2.5〜3.7mass%と、Zn:残部及び不可避不純物とからなり且つ条件(1)を満足する合金組成をなし、α相マトリックスに少なくともκ相を含み且つ条件(2)を満足する金属組織をなすと共に、条件(3)を満足する硬度を有するCu−Zn−Si合金であることを特徴とする銅合金製の転造加工用素材(以下「第1発明素材」という)を提案する。
【0013】
また、本発明は、被転造加工部分が、Cu:73.5〜79.5mass%と、Si:2.5〜3.7mass%と、P:0.015〜0.2mass%、Sb:0.015〜0.2mass%、As:0.015〜0.15mass%、Sn:0.03〜1.0mass%及びAl:0.03〜1.5mass%から選択された1種以上の元素と、Zn:残部及び不可避不純物とからなり且つ条件(1)を満足する合金組成をなし、α相マトリックスに少なくともκ相を含み且つ条件(2)を満足する金属組織をなすと共に、条件(3)を満足する硬度を有するCu−Zn−Si合金であることを特徴とする銅合金製の転造加工用素材(以下「第2発明素材」という)を提案する。
【0014】
また、本発明は、被転造加工部分が、Cu:73.5〜79.5mass%と、Si:2.5〜3.7mass%と、Pb:0.003〜0.25mass%及び/又はBi:0.003〜0.30mass%と、Zn:残部及び不可避不純物とからなり且つ条件(1)を満足する合金組成をなし、α相マトリックスに少なくともκ相を含み且つ条件(2)を満足する金属組織をなすと共に、条件(3)を満足する硬度を有するCu−Zn−Si合金であることを特徴とする銅合金製の転造加工用素材(以下「第3発明素材」という)を提案する。
【0015】
また、本発明は、被転造加工部分が、Cu:73.5〜79.5mass%と、Si:2.5〜3.7mass%と、P:0.015〜0.2mass%、Sb:0.015〜0.2mass%、As:0.015〜0.15mass%、Sn:0.03〜1.0mass%及びAl:0.03〜1.5mass%から選択された1種以上の元素と、Pb:0.003〜0.25mass%及び/又はBi:0.003〜0.30mass%と、Zn:残部及び不可避不純物とからなり且つ条件(1)を満足する合金組成をなし、α相マトリックスに少なくともκ相を含み且つ条件(2)を満足する金属組織をなすと共に、条件(3)を満足する硬度を有するCu−Zn−Si合金であることを特徴とする銅合金製の転造加工用素材(以下「第4発明素材」という)を提案する。
【0016】
また、本発明は、被転造加工部分が、Cu:73.5〜79.5mass%と、Si:2.5〜3.7mass%と、Mn:0.05〜2.0mass%、Ni:0.05〜2.0mass%、Ti:0.003〜0.3mass%、B:0.001〜0.1mass%及びZr:0.0005〜0.03
mass%から選択された1種以上の元素と、Zn:残部及び不可避不純物とからなり且つ条件(1)を満足する合金組成をなし、α相マトリックスに少なくともκ相を含み且つ条件(2)を満足する金属組織をなすと共に、条件(3)を満足する硬度を有するCu−Zn−Si合金であることを特徴とする銅合金製の転造加工用素材(以下「第5発明素材」という)を提案する。
【0017】
また、本発明は、被転造加工部分が、Cu:73.5〜79.5mass%と、Si:2.5〜3.7mass%と、P:0.015〜0.2mass%、Sb:0.015〜0.2mass%、As:0.015〜0.15mass%、Sn:0.03〜1.0mass%及びAl:0.03〜1.5mass%から選択された1種以上の元素と、Mn:0.05〜2.0mass%、Ni:0.05〜2.0mass%、Ti:0.003〜0.3mass%、B:0.001〜0.1mass%及びZr:0.0005〜0.03
mass%から選択された1種以上の元素と、Zn:残部及び不可避不純物とからなり且つ条件(1)を満足する合金組成をなし、α相マトリックスに少なくともκ相を含み且つ条件(2)を満足する金属組織をなすと共に、条件(3)を満足する硬度を有するCu−Zn−Si合金であることを特徴とする銅合金製の転造加工用素材(以下「第6発明素材」という)を提案する。
【0018】
また、本発明は、被転造加工部分が、Cu:73.5〜79.5mass%と、Si:2.5〜3.7mass%と、Pb:0.003〜0.25mass%及び/又はBi:0.003〜0.30mass%と、Mn:0.05〜2.0mass%、Ni:0.05〜2.0mass%、Ti:0.003〜0.3mass%、B:0.001〜0.1mass%及びZr:0.0005〜0.03
mass%から選択された1種以上の元素と、Zn:残部及び不可避不純物とからなり且つ条件(1)を満足する合金組成をなし、α相マトリックスに少なくともκ相を含み且つ条件(2)を満足する金属組織をなすと共に、条件(3)を満足する硬度を有するCu−Zn−Si合金であることを特徴とする銅合金製の転造加工用素材(以下「第7発明素材」という)を提案する。
【0019】
また、本発明は、被転造加工部分が、Cu:73.5〜79.5mass%と、Si:2.5〜3.7mass%と、P:0.015〜0.2mass%、Sb:0.015〜0.2mass%、As:0.015〜0.15mass%、Sn:0.03〜1.0mass%及びAl:0.03〜1.5mass%から選択された1種以上の元素と、Pb:0.003〜0.25mass%及び/又はBi:0.003〜0.30mass%と、Mn:0.05〜2.0mass%、Ni:0.05〜2.0mass%、Ti:0.003〜0.3mass%、B:0.001〜0.1mass%及びZr:0.0005〜0.03
mass%から選択された1種以上の元素と、Zn:残部及び不可避不純物とからなり且つ条件(1)を満足する合金組成をなし、α相マトリックスに少なくともκ相を含み且つ条件(2)を満足する金属組織をなすと共に、条件(3)を満足する硬度を有するCu−Zn−Si合金であることを特徴とする銅合金製の転造加工用素材(以下「第8発明素材」という)を提案する。
【0020】
条件(1):構成元素の含有量間に63.0≦[Cu]−3.6×[Si]−3×[P]−0.3×[Sb]+0.5×[As]−1×[Sn]−1.9×[Al]+0.5×[Pb]+0.5×[Bi]+2×[Mn]+1.7×[Ni]+1×[Ti]+2×[B]+2×[Zr]≦67.5の関係を有する合金組成をなすこと。
【0021】
なお、条件(1)においては、構成元素xの含有量を[x]mass%とする(以下の説明においても同じ)。例えば、Cuの含有量は[Cu]mass%である。また、含有されていない元素xについては[x]=0とする。例えば、第1発明素材においては、[P]=[Sb]=[As]=[Sn]=[Al]=[Pb]=[Bi]=[Mn]=[Ni]=[Ti]=[B]=[Zr]=0であるから、条件(1)は63.0≦[Cu]−3.6×[Si]≦67.5となる。
【0022】
条件(2):含有相の面積率間に60≦[α]≦84、15≦[κ]≦40、[α]+[κ]≧96、0.2≦[κ]/[α]≦0.65、[β]≦2、[μ]≦2、[β]+[μ]≦2、[γ]≦2、[β]+[μ]+[γ]≦4の関係を有する金属組織をなすこと。
【0023】
なお、条件(2)においては、含有相yの面積率を[y]%とする(以下の説明においても同じ)。例えば、α相の面積率は[α]%である。また、含有しない相yについては[y]=0とする。例えば、β相を含有しない場合、[β]=0であるから、[β]+[μ]+[γ]≦4は[μ]+[γ]≦4となる。但し、当該式はβ相、μ相及びγ相のうち少なくとも2相が含有される場合に適用されるものであって、β相、μ相又はγ相の1相が含有される場合には、[β]≦2、[μ]≦2、又は[γ]≦2が適用される。
【0024】
また、各相の面積率(%)は画像解析により測定されるものであり、具体的には、200倍又は500倍の光学顕微鏡組織を画像処理ソフト「WinROOF」(株式会社テックジャム製)で2値化することにより求められるものであり、3視野で測定された平均値である。
【0025】
条件(3):被転造加工部分の硬度(ビッカース硬度)がHV1:125〜165であること。
【0026】
第1〜第8発明素材にあって、被転造加工部分の金属組織にγ相(及びκ相)が含有される場合においては、当該金属組織が条件(2)に加えて条件(4)も満足するものであることが好ましい。
【0027】
条件(4):被転造加工部分の金属組織が、23≦[γ]+[κ]≦33の関係を有するものであること。
【0028】
また、第1〜第8発明素材は、一般に、鋳造材、押出材、抽伸材又は鍛造材として提供されるが、被転造加工部分の金属組織及び/又は硬度が上記した条件を満足しない場合には、かかる条件を満足させるために焼鈍等の熱処理が施される。熱処理は、500〜600℃で0.5〜8.0時間保持し且つ400℃以下での冷却速度を0.3℃/min.以上とする条件で行われることが好ましい。第1〜第8発明素材が鋳造材、押出材、抽伸材及び鍛造材の何れかである場合、少なくとも抽伸材については当該熱処理を施しておくことが好ましい。
【0029】
さらに、本発明は、第1〜第8発明素材の被転造加工部分を転造加工してなる転造加工品であって、転造加工部分の硬度(ビッカース硬度)がHV1:220〜270である銅合金製の転造加工品(以下「本発明加工品」という)を提案する。転造加工部分の断面硬さがHV1:220未満では実用的な転造加工品としての強度が十分でなく、優れた耐摩耗性を確保することができない。逆に、HV1:270を超える場合には、銅合金材料(Cu−Zn−Si合金)の加工限度を超えてしまい、転造加工時に転造加工部分の破砕が生じたり、転造加工製品の使用中に転造加工加工部分が破損する虞れがある。これらの点から、本発明加工品の転造加工部分における硬度はHV1:220〜270であることが必要であり、HV1:230〜260であることが好ましい。
【0030】
なお、第1〜第8発明素材及びその被転造加工部分を転造した本発明加工品にあって、被転造加工部分以外の部分又は転造加工部分以外の部分が上記した合金組成、金属組織又は硬度を有することを妨げるものでないことは云うまでもない。また、第1〜第8発明素材及び本発明加工品には、その一部分を被転造加工部分又は転造加工部分とする場合の他、全体を被転造加工部分又は転造加工部分とする場合が含まれる。
【0031】
而して、第1〜第8発明素材及びこれを転造加工した本発明加工品にあって、Cuは当該素材を構成する主要元素であり、Siの含有量との関係もあるが、転造加工部分の耐食性に悪影響を与えるβ相を出現させないためには、或いはβ相の出現を最小限に抑制するためには一定量以上の含有量が必要である。また、一定量以上のCuを含有させることにより、転造加工部分の応力腐食割れ感受性を低くし、転造加工部分の高強度、耐摩耗性、延性及び衝撃特性を確保することができる。これらの点から、Cuの含有量は73.5mass%以上であることが必要であり、74.0mass%以上であることが好ましい。
【0032】
一方、Cuを79.5mass%を超えて含有させても、Si含有量との関係もあるが、転造加工部分の耐食性が飽和する上、かえって転造加工用素材の製造段階での鋳造性や鍛造性に問題が生じ、また十分な被削性を確保できず当該素材の製造段階や転造加工品の製造段階で切削加工を良好に行い得ない。これらの点から、Cuの含有量は79.5mass%以下としておくことが必要であり、79.0mass%以下としておくことが好ましい。
【0033】
第1〜第8発明素材及びこれらを転造加工した本発明加工品にあって、SiはCu及びZnと共に当該素材を構成する主要元素であるが、Si含有量が2.5mass%未満であると、Siによる固溶硬化が生じたり或いはκ相の形成が不十分となって、転造加工部分の強度が不足する虞れがある。また、十分な被削性を確保することができず、当該素材の製造段階や転造加工品の製造段階での切削加工が行われる場合にあって、当該切削加工を良好に行い得ない。これらの点からSi含有量は2.5mass%以上としておく必要があり、2.7mass%以上としておくことが好ましい。
【0034】
一方、Si含有量が3.7mass%を超えると、転造加工部分の強度が飽和する上、α相の占める割合が小さくなるために、転造加工が困難となり、転造加工部分の延性、耐食性、衝撃特性に問題が生じる。また、κ相及び/又はγ相の占める割合が高くなってα相の占める割合が少なくなるために、十分な被削性を確保できず、当該素材の製造段階や転造加工品の製造段階における切削加工を良好に行い得ない。また、耐食性等に有害なβ相が形成され易くなり、μ相及び/又はγ相の占める割合が多くなり、転造加工部分の耐食性、延性、衝撃特性が低下する虞れある。これらの点から、Si含有量は3.7mass%以下としておく必要があり、3.5mass%以下としておくことが好ましい。
【0035】
Znは、Cu、Siと共に第1〜第8発明素材及びこれを転造加工した本発明加工品の合金組成を構成する主要元素であり、被削性向上・耐食性向上・機械的性質向上の効果がある。よって、各構成元素の残部と規定する。
【0036】
第2、第4、第6及び第8発明素材及びこれらを転造加工した本発明加工品にあって、P、Sb、As、Sn及びAlは転造加工部分の耐食性を向上させるために1種以上が含有される。
【0037】
すなわち、P、Sb及びAsは、何れも、α相の耐食性を向上させるものであり、特に、As及び/又はPの含有による耐食性の向上効果は大きい。一方、Sbはκ相の耐食性を向上させ、μ、γ及びβ相の耐食性も改善する。P及びAsもκ相の耐食性を改善させるが、その効果はSbよりも低く、μ、γ及びβ相の耐食性の改善効果はSbよりも少ない。一般に、転造加工のように銅合金材料に大きな塑性変形が加えられた場合、その変形部分(転造加工部分)における耐食性は低下するが、これらの元素を含有させておくことにより十分な耐食性を確保することができる。また、Pは熱間鍛造材の結晶粒を微細化し、Zrとの共添加で鋳物の結晶粒を微細化するが、結晶粒の成長を抑制する点においてはP又はAsとSbとを共添させることが好ましい。このような耐食性や強度の向上効果は、P、Sb及びAsの何れについても、含有量が0.015mass%未満ではさほど期待できない。しかし、As含有量が0.15mass%を超え、またSb含有量又はP含有量が0.2mass%を超えても、当該効果は飽和する。これらの点から、P含有量を0.015〜0.2mass%、Sb含有量を0.015〜0.2mass%及びAs含有量を0.015〜0.15mass%とした。
【0038】
また、Sn及びAlは、P、Sb及びAsと同様に耐食性を向上させる元素であり、特に高速の流水のもと、特に物理的作用が特に生じる流水条件下での耐食性つまりエロージョンコロージョン性及びキャビテーション性を向上させ、更には水質の悪い環境下での耐食性を向上させる効果を発揮する。さらに、Sn及びAlは、α相及びκ相を硬化させて強度及び耐摩耗性を向上させる効果を発揮する。Snについては、上記効果が十分に発揮されるためには、その含有量を0.03mass%以上としておくことが必要であり、0.2mass%以上であることが好ましく、0.3mass%以上であることがより好ましい。しかし、Sn含有量が1.0mass%を超えても当該効果は飽和し、γ相の量が多くなって、かえって伸びが損なわれることから、Sn含有量は1.0mass%以下とする必要があり、0.8mass%以下としておくことが好ましい。また、Alについては、上記効果が十分に発揮されるためには、その含有量を0.03mass%以上としておくことが必要であり、0.25mass%以上であることが好ましく、0.45mass%以上であることがより好ましい。しかし、Al含有量が1.5mass%を超えても当該効果は飽和し、かえって鋳造性や延性が損なわれることから、Al含有量は1.5mass%以下としておくことが必要であり、1.2mass%以下としておくことが好ましく、0.9mass%以下としておくことがより好ましい。
【0039】
第3、第4、第7及び第8発明素材及びこれらを転造加工した本発明加工品にあって、Pb及び/又はBiは、当該素材又は当該部材の製造段階で切削加工が必要となる場合(例えば、鋳塊ないし鋳造材を切削して当該素材を製造する場合や当該部材における転造加工部分以外の部分を切削して最終的な転造加工品を製造する場合)において優れた被削性を発揮させるために含有される。Cu、Si及びZnを上記した範囲で含有するCu−Zn−Si合金にあって、Pb及びBiは、各々の含有量を0.003mass%以上とすることによって被削性向上効果を発揮する。しかし、Pbは人体に有害であり、その含有量が規制される傾向にあること、更にはPbを必要以上に含有させると延性や衝撃特性を損なうことから、Pbの含有量は0.25mass%以下としておく必要があり、0.15mass%以下としておくことが好ましく、0.08mass%以下としておくことがより好ましい。また、Biはレアメタルであることから、更にはPbと同様に必要以上の含有は延性や衝撃特性を損なうことがあることから、Bi含有量は0.30mass%以下としておく必要があり、0.2mass%以下としておくことが好ましく、0.1mass%以下としておくことがより好ましい。なお、Pb及びBiを共添させる場合にあっては、その合計含有量は0.25mass%以下に抑えることが好ましく、0.15mass%以下としておくことがより好ましい。また、Pb及びBiはマトリックスに固溶せず、粒状で存在することになるが、Pb及びBiを共添させると、これらは共存して、その共存物粒子の融点が低下し、切削加工中に割れを生じる虞れがあることから、各々0.02mass%以上のPb及びBiが共添される場合には、それらの含有量比[Bi]/[Pb]が7以上となる([Bi]/[Pb]≧7)ようにしておくことが好ましく、[Bi]/[Pb]≧0.35となるようにしておくことがより好ましい。この場合においても、上記の如く、Pb及びBiの合計含有量を0.25mass%以下(より好ましくは0.15mass%」以下)に抑えておくことが好ましいことは言うまでもない。
【0040】
第5〜第8発明素材及びこれらを転造加工した本発明加工品にあって、Mn、Ni、Ti、B及びZrは主として転造加工部分の強度を向上させるために1種以上が含有される。
【0041】
すなわち、Mn及びNiは、主としてSiと金属間化合物を形成することにより、強度と耐摩耗性を向上させる効果があるが、かかる効果が発揮されるためにはMn及びNiの含有量は夫々0.05mass%以上としておくことが必要である。しかし、Mn及びNiを夫々2.0mass%を超えて添加しても、その効果は概ね飽和し、かえって転造加工性が悪くなり、また被削性が低下すると共に延性及び衝撃特性も低下することになる。したがって、Mn及びNiの含有量は、夫々、0.05〜2.0mass%とする。
【0042】
また、Ti及びBは、微量の添加で強度を向上させるために含有される。かかる強度の向上は、主として鍛造ないし鋳物の段階で結晶粒を微細化させて結晶粒成長を抑制することによるものであるが、その効果はTi含有量が0.003mass%以上である場合、又はB含有量が0.001mass%以上である場合に発揮される。しかし、Ti含有量が0.3mass%を超え、或いはB含有量が0.1mass%を超えても、当該効果は飽和し、むしろ、活性な金属であるTi又はBの含有量が多いと、大気中での溶解時に酸化物の巻き込みが生じるといった弊害がある。したがって、Ti含有量は0.003〜0.3mass%とし、B含有量は0.001〜0.1mass%とする。
【0043】
また、Zrは、微量の添加で強度を向上させる効果を発揮する。かかる効果は、主として鋳物の段階で結晶粒が著しく微細化することによるものであり、結晶粒の微細化により強度が向上する。このような結晶粒の微細化による強度の向上効果は、Zr含有量が0.0005mass%以上で発揮される。しかし、Zrを0.03mass%を超えて添加しても、当該効果は飽和することになり、寧ろ結晶粒の微細化を阻害する虞れが生じる。したがって、Zr含有量は0.0005〜0.03mass%とする。なお、Zrによる結晶粒微細化の効果はPと共添されることにより更に発揮されることになる。かかる効果は、特にZrとPとの共添割合[P]/[Zr]が1≦[P]/[Zr]≦80である場合においてより顕著に発揮されることになる。
【0044】
ところで、Cu−Zn−Si合金等の銅合金はリサイクル性に優れ、高いリサイクル率で回収されリサイクルされる。一方、リサイクルの際に他の銅合金の混入や、例えば切削加工時に、工具の摩耗によりFe等が不可避的に混入することがある。したがって、第1〜第8発明素材においても、JIS等の各種規格で不可避不純物として規格化されているものについては、その含有を許容している。例えば、JIS H3250の銅及び銅合金棒で記載されている快削性銅合金棒C3601においては0.3mass%以下のFeが不純物として規定されているが、かかるFeは第1〜第8発明素材においても不可避不純物として扱うものとする。
【0045】
また、転造加工部分が高い強度を有し且つ優れた衝撃特性や延性に有するためには、そして、これらの特性に大きく影響する良好な金属組織を得るためには、第1〜第8発明素材の合金組成を構成する元素の含有量は、上記した範囲において個々に決定するのみでは不十分であり、第1発明素材にあってはCu及びSiの含有量相互の関係を考慮して決定することが必要であり、また第2〜第8発明素材にあっては、Cu及びSiの含有量と選択的に含有される元素(P、Sb、As、Sn、Al、Pb、Bi、Mn、Ni、Ti、B及びZrから選択される1種以上の元素)の含有量との相互関係を考慮して決定することが必要であり、第1〜第8発明素材の合金組成が条件(1)を満足するものであることが必要である。
【0046】
すなわち、条件(1)の含有量式f(=[Cu]−3.6×[Si]−3×[P]−0.3×[Sb]+0.5×[As]−1×[Sn]−1.9×[Al]+0.5×[Pb]+0.5×[Bi]+2×[Mn]+1.7×[Ni]+1×[Ti]+2×[B]+2×[Zr])は、多くの実験、試行錯誤を積み重ねることにより案出されたものであり、f<63.0であると、高温加熱時にマクロ結晶粒が粗大化して、特に衝撃特性及び延性が低下し、耐食性及び引張強さも低下する。また、f>67.5であると、α相の占める割合が大きくなりすぎ、高温加熱時にα相結晶粒が成長し、引張強さ及び耐力が低下する。これらの点から、第1〜第8発明素材の合金組成を、その構成元素の含有量が前記した範囲内において63≦f≦67.5となるようにする必要があり、fの下限値は63.5であることが好ましく、64.0であることがより好ましい。また、fの上限値は67.0であることが好ましく、66.5であることがより好ましい。なお、第3、第4、第7及び第8発明素材並びにこれらを転造加工してなる本発明加工品にあって、Pb及びBiを共添する場合、その合計含有量が0.003mass%を超えると、衝撃特性、延性、及び引張強さが低下し始めることから、63.0+2([Pb]+[Bi]−0.003)≦f≦67.5−2([Pb]+[Bi]−0.003)であることが好ましく(63.5+2([Pb]+[Bi]−0.003)≦f≦67.0−2([Pb]+[Bi]−0.003)であることがより好ましい)、転造加工用素材及び/又は転造加工品の製造段階で切削加工が行われる場合においては、f<63.0+2([Pb]+[Bi]−0.003)又はf>67.5−2([Pb]+[Bi]−0.003)であると、優れた被削性が得られず、良好な切削加工を行い難い。また、第1〜第8発明素材及びこれらを転造加工してなる本発明加工品にあって、Fe等の不可避的不純物の合計含有量が0.7mass%以下であれば当該不純物による悪影響はないと考えられるが、当該不純物による影響を考慮するならば条件(1)を63.7≦f≦66.8としておくことが好ましい。また、不可避不純物の合計含有量が0.7mass%を超える場合には、その合計含有量を[X]mass%とすると、条件(1)を63.0+([X]−0.7)≦f≦67.5−([X]−0.7)つまり62.3+[X]≦f≦68.2−[X]としておくことが好ましく、63.0+[X]≦f≦67.5−[X]としておくことがより好ましい。
【0047】
また、転造加工用素材にあっては、一般に、これが種々の加熱工程(例えば、熱間押出や焼鈍等)を経て製造されるものであるから、マトリックスのα相に加え、β相、κ相、γ相、μ相、場合にはよってはδ相、ζ相、χ相等、種々の相が出現する可能性があり、押出条件や焼鈍条件等によって出現する相の種類やこれらの相の占める割合が大きく変動することになるが、第1〜第8発明素材及びこれらを転造加工してなる本発明加工品にあっては、上記した合金組成をなすことに加えて、α相マトリックスに少なくともκ相を含み且つ条件(2)を満足する金属組織となすことが必要である(γ相を含む場合には、更に条件(4)を満足する金属組織となすことが好ましい)。
【0048】
すなわち、金属組織中におけるα相及びκ相の占める合計面積率が96%未満であると、良好な転造加工を行い難く、また高い強度、延性及び衝撃特性を確保することができず、耐食性も不十分なものとなる。基本的にはα相はマトリックスであり、延性や耐食性に富む。そして、転造加工後の金属組織においてα相の周りをκ相が取り巻く、或いはα相とκ相とが均一に混合し合うことにより、α相及びκ相の結晶粒成長が抑制され、高い強度が得られると同時に、優れた転造加工性を確保し、高い延性、衝撃特性及び優れた耐食性が得られる。したがって、これらの特性をより優れたものにするためには、[α]+[κ]≧96であることが必要であり、[α]+[κ]≧97であることが好ましく、[α]+[κ]≧98であることがより好ましい。
【0049】
また、高い強度、高い延性、衝撃特性及び優れた耐食性を得るためには、α相の周りをκ相が取り巻いた金属組織となるか、或いはα相とκ相とが均一に混合し合う金属組織となることが好ましいが、このような金属組織を形成するためにα相及びκ相は必要であり、両相の面積率関係が極めて重要である。すなわち、[κ]/[α]<0.2であると、α相が過多となり、延性、耐食性及び衝撃性に優れるものの、強度及び耐摩耗性は低下することになるから、[κ]/[α]≧0.2であることが必要であり、[κ]/[α]≧0.3であることが好ましく、[κ]/[α]≧0.4であることがより好ましい。一方、[κ]/[α]>0.65であると、逆にκ相が過多となり、特に延性に問題が生じ、また転造困難及び衝撃特性も悪くなり、強度の向上も飽和する。したがって、[κ]/[α]≦0.65であることが必要であり、[κ]/[α]≦0.6であることが好ましく、[κ]/[α]≦0.5であることがより好ましい。
【0050】
また、転造加工部分が高い強度、延性、衝撃特性及び耐食性を有するためには、上記したα相及びκ相の面積率関係に加えて、α相及びκ相の個々の面積率が一定範囲となることが必要である。すなわち、60≦[α]≦84及び15≦[κ]≦40であることが必要であり、63≦[α]≦81及び20≦[κ]≦35であることが好ましく、66≦[α]≦78及び25≦[κ]≦30であることがより好ましい。
【0051】
また、β相及びμ相は、何れも、転造加工性を悪くし、転造加工品の銅合金の強度、延性、耐食性及び衝撃特性を阻害するものである。単独では、β相は2%を超えると耐食性に悪影響を与え、延性及び衝撃特性にも悪い影響を与える。したがって、[β]≦2であることが必要であり、[β]≦1.5%であることが好ましく、[β]≦0.5%であることが好ましい。一方、μ相は2%を超えると、耐食性、延性、強度及び衝撃特性に悪い影響を与えることから、[μ]≦2であることが必要であり、[μ]≦1.5であることが好ましく、[μ]≦0.5であることがより好ましい。さらに、金属組織中にβ相及びμ相が含まれる場合にあっては、それらの耐食性及び延性等への影響を考慮して、[β]+[μ]≦2としておく必要があり、[β]+[μ]≦1としておくことが好ましく、[β]+[μ]≦0.5としておくことがより好ましい。
【0052】
また、γ相は、被削性を向上させる相であるが、転造加工性を悪くし、金属組織中にγ相の占める面積率が2%を超えると、転造品の延性、耐食性、衝撃特性に悪影響を与える。好ましくは、1.5%以下であり、最適には1.0%以下である。ただし、強度は、少量のγ相が分散して存在すると向上する。その効果はγ相が0.05%を超え効果を発揮し、少量で分散してγ相が分布しておれば延性や耐食性に悪影響を与えない。したがって、0≦[γ]≦2であり、好ましくは0≦[γ]≦1.5、最適には0.05≦[γ]≦1.0である。ただし、冷間加工した素材を転造加工する場合は、γ相量はより限定され、0≦[γ]≦1.5、23≦[κ]+[γ]≦33、好ましくは、0≦γ≦0.5、最適は0≦γ≦0.2とする。更に、β、μ、γ相の占める割合をその合計量でもって評価しなければならない。すなわち、β、μ、γ相の占める割合の合計量が4%を超えると、転造後の延性、耐食性、衝撃特性、強度が悪くなる。好ましくは、3%以下であり、最適には2%以下である。すなわち数式で表すと、0≦[β]+[μ]+[γ]≦4であり、好ましくは0≦[β]+[μ]+[γ]≦3であり、最適には0.05≦[β]+[μ]+[γ]≦2である。
【0053】
なお、α、κ、γ、β、μの各相は、X線マイクロアナライザーを用いた定量分析結果から、本発明の基本であるCu−Zn−Si合金において次のように定義できる。
マトリックスのα相は、Cu:73〜80mass%、Si:1.7mass%〜3.1mass%で、残部がZn及びその他添加元素である。典型的な組成は、76Cu−2.4Si−残Znである。
必須の相であるκ相は、Cu:73〜79mass%、Si:3.2mass%〜4.7mass%で、残部がZn及びその他添加元素である。典型的な組成は、76Cu−3.9Si−残Znである。
γ相は、Cu:66〜75mass%、Si:4.8mass%〜7.2mass%で、残部がZn及びその他添加元素である。典型的な組成は、72Cu−6.0Si−残Znである。
β相は、Cu:63〜72mass%、Si:1.8mass%〜4.0mass%で、残部がZn及びその他添加元素である。典型的な組成は、69Cu−2.4Si−残Znである。
μ相は、Cu:76〜89mass%、Si:7.3mass%〜11mass%で、残部がZn及びその他添加元素である。典型的な組成は、83Cu−9.0Si−残Znである。
このように、μ相は、α、κ、γ、β相とSi濃度で区別がつき、γ相は、α、κ、β、μ相とSi濃度で区別がつく。μ相とγ相は、Si含有量は近接しているが、Cu濃度において76%を境にして区別される。β相は、γ相とSi濃度で区別がつき、α、κ、μ相とは、Cu濃度で区別がつく。α相とκ相は近接しているが、Si濃度3.15mass%又は3.1〜3.2mass%を境にして区別される。また、EBSD(electron backscatter diffraction)で結晶構造を調べたところ、α相は、fccであり、β相は、bccであり、γ相はbccであり、κ相はhcpであり、それぞれを区別することができる。なお、β相は、CuZn型すなわちW型のbcc構造をとり、γ相は、Cu
5Zn
8型のbcc構造をとり、両者は区別がつく。本来なら、κ相の結晶構造:hcpは、延性に乏しいが、α相の存在のもと0.2≦[κ]/[α]≦0.65を満足すれば、良好な、転造加工性、延性を有する。尚、金属組織中の相の割合を示すものであり、非金属介在物、Pb粒子、Bi粒子、NiとSi、MnとSiとの化合物は含まれない。
【0054】
ところで、転造加工用素材にあっては、その製造工程に押出工程が含まれる場合、押出温度の影響により主要構成相(α相、κ相、γ相)以外にも複数種の相が出現する可能性があるため、転造加工を可能にし、且つ各種特性が最適になるように押出温度を最適化する必要がある。最適押出温度は、650〜750℃である。この範囲よりも低温で押出すると、γ相が多く析出し、転造加工性が低下するとともに、焼鈍後もγ相が残留してしまう。また、変形抵抗が高くなり、細径での押出ができない。この範囲よりも高温で押出すると、κ相,β相が多くなり、焼鈍してもβ相,κ相が残留し、耐食性などを低下させることになる。
【0055】
また、転造加工用素材にあっては、その製造工程に抽伸工程ないし伸線工程が含まれる場合、かかる冷間加工により加工硬化して転造加工性が低下する。したがって、良質な転造加工品を得るためには、焼鈍により材料を軟らかい状態にする必要がある。良好な転造加工性を確保するためには、上述した如く、α相マトリックスに少なくともκ相を含み且つ条件(2)を満足する金属組織をなすことが必要であり、転造加工性の更なる向上を図るためには、熱処理(焼鈍)後の金属組織において[γ]≦1.5であることが好ましく、[γ]≦0.5であることがより好ましく、[γ]≦0.2であることが最適である。しかし、加熱により金属組織を構成する相の種類、相の占める割合が変化することになるが、500℃未満の低温で熱処理した場合、焼鈍前における金属組織の影響が残り、特に高温で生成するβ相の消滅させること及びγ相を所定の量にまで減らすことが困難となり、また硬さをHV1:165以下にまで減少させることが困難な場合がある。一方、熱処理温度が600℃を超えると、多くの場合、硬さがHV1:165以下となるが、γ相やκ相の占める割合が増え、転造加工性が低下する。したがって、熱処理時間(焼鈍時間)はバッチ式や連続焼鈍などの処理炉の種類にも左右されるので、物温が500〜600℃に達してから、0.5〜8時間保持することが望ましい。また、熱処理後の冷却速度は、400℃以下の温度領域では炉冷に相当する0.1℃/minの冷却速度ではμ相が析出し、転造加工性及び耐食性を低下させることになるため、400℃以下において0.3℃/min以上の冷却速度で冷却する必要がある。
【0056】
また、転造加工品に要求される重要な特性として耐摩耗性があるが、これは硬さに依存し、硬さを一定範囲に制御することにより、延性や衝撃特性を損なうことなく、強度及び耐摩耗性に優れた転造加工品を得ることが可能となる。したがって、転造用加工素材の硬さは、条件(3)のようにHV1:125〜165であることが必要である。すなわち、HV1:165(引張強さで620N/mm
2に相当)は転造加工を可能にするための上限の硬さであり、HV1:125(引張強さで550N/mm
2に相当)は転造加工後の材料強度を目標となる強度水準にするための下限の硬さである。
【0057】
また、転造加工品の硬さ(転造加工部分の断面硬さ)がHV1:220未満であると、転造加工品の強度が不十分であり、耐摩耗性が低下する虞れがある。逆に、転造加工品の硬さがHV1:270を超える場合には、材料の加工限界を超えて転造加工時に転造加工部分が破砕される虞れがあり、更には当該転造加工品の使用中に転造加工部分が破損する虞れがある。したがって、転造加工品の硬さはHV1:220〜270であることが必要であり、230〜260であることが好ましい。