特許第5763521号(P5763521)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5763521
(24)【登録日】2015年6月19日
(45)【発行日】2015年8月12日
(54)【発明の名称】メチルトランスフェラーゼ酵素
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/09 20060101AFI20150723BHJP
   C12N 9/10 20060101ALI20150723BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20150723BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20150723BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20150723BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20150723BHJP
   A01H 5/00 20060101ALI20150723BHJP
   C12P 7/02 20060101ALI20150723BHJP
   C12P 1/00 20060101ALI20150723BHJP
【FI】
   C12N15/00 A
   C12N9/10ZNA
   C12N1/15
   C12N1/19
   C12N1/21
   C12N5/00 103
   A01H5/00 A
   C12P7/02
   C12P1/00 Z
【請求項の数】13
【全頁数】27
(21)【出願番号】特願2011-502612(P2011-502612)
(86)(22)【出願日】2010年2月9日
(86)【国際出願番号】JP2010000802
(87)【国際公開番号】WO2010100831
(87)【国際公開日】20100910
【審査請求日】2012年11月14日
(31)【優先権主張番号】特願2009-47953(P2009-47953)
(32)【優先日】2009年3月2日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000055
【氏名又は名称】アサヒグループホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100147267
【弁理士】
【氏名又は名称】大槻 真紀子
(72)【発明者】
【氏名】切田 雅信
(72)【発明者】
【氏名】田中 善久
【審査官】 森井 文緒
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−141242(JP,A)
【文献】 Database DDBJ/EMBL/GenBank [online], Accessin No. XM_001878803,<http://www.ncbi.nlm.nih.gov/sviewer/
【文献】 Database DDBJ/EMBL/GenBank [online], Accessin No. XP_001878838,< http://www.ncbi.nlm.nih.gov/sviewer
【文献】 Drug Metab. Dispos. (2000) vol.28, no.9, p.1024-1030
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00−15/90
C12N 9/10
PubMed
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
WPIDS/WPIX(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(a)のポリヌクレオチドからなることを特徴とする遺伝子。
(a)配列番号1で表される塩基配列からなるポリヌクレオチド。
【請求項2】
下記(a)又は(b)のいずれかから選択されるポリペプチドをコードすることを特徴とする遺伝子。
(a)配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド。
(b)配列番号2で表されるアミノ酸配列のうち、第70〜88番目、第139〜148番目、171〜175番目、及び第215〜223番目のアミノ酸残基以外の領域中の1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、メチルトランスフェラーゼ酵素活性を有するポリペプチド。
【請求項3】
下記(a)又は(b)のいずれかから選択されるポリペプチド。
(a)配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド。
(b)配列番号2で表されるアミノ酸配列のうち、第70〜88番目、第139〜148番目、171〜175番目、及び第215〜223番目のアミノ酸残基以外の領域中の1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、メチルトランスフェラーゼ酵素活性を有するポリペプチド。
【請求項4】
請求項1又は2記載の遺伝子を含有することを特徴とする組換え発現ベクター。
【請求項5】
請求項4記載の組換え発現ベクターを含むことを特徴とする形質転換体。
【請求項6】
微生物であることを特徴とする請求項5記載の形質転換体。
【請求項7】
植物細胞、植物組織、又は植物体であることを特徴とする請求項5記載の形質転換体。
【請求項8】
請求項5〜7のいずれか一項に記載の形質転換体を培養し、得られた培養物から、メチルトランスフェラーゼ酵素活性を有するポリペプチドを精製することを特徴とするメチルトランスフェラーゼ酵素の製造方法。
【請求項9】
メチルトランスフェラーゼ酵素を用いて、化合物中の水酸基をメチル化する方法であり、
前記メチルトランスフェラーゼ酵素が、請求項5〜7のいずれか一項に記載の形質転換体を培養し、得られた培養物から精製された、メチルトランスフェラーゼ酵素活性を有するポリペプチドであることを特徴とするメチル化体の製造方法。
【請求項10】
請求項4記載の組換え発現ベクターを含む形質転換植物から、メチル化体を精製することを特徴とするメチル化体の精製方法。
【請求項11】
請求項4記載の組換え発現ベクターを含む形質転換植物から、メチル化ポリフェノール含有組成物を精製することを特徴とするメチル化ポリフェノール含有組成物の製造方法。
【請求項12】
下記(a)又は(b)のいずれかから選択されるポリペプチドを、担子菌類から抽出し、精製することを特徴とする、メチルトランスフェラーゼ酵素の製造方法。
(a)配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド。
(b)配列番号2で表されるアミノ酸配列のうち、第70〜88番目、第139〜148番目、171〜175番目、及び第215〜223番目のアミノ酸残基以外の領域中の1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、メチルトランスフェラーゼ酵素活性を有するポリペプチド。
【請求項13】
配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドを、エノキタケ(Flammulina velutipes)から抽出し、精製することを特徴とする、メチルトランスフェラーゼ酵素の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規メチルトランスフェラーゼ酵素及びその製造方法に関するものである。さらには、当該酵素を用いて、化合物中の水酸基(ヒドロキシ基)をメチル化し、メチル化体を製造する方法に関するものである。
本願は、2009年3月2日に、日本に出願された特願2009−047953号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
近年、日本を含む先進国において、生活環境の変化や食生活の変化による様々な生活習慣病の患者が増加している。主要な生活習慣病として糖尿病、高血圧症、脂質異常症等が挙げられ、これらの疾患の発症者が増加している。また、重篤な症状に至らなくともその兆候を示す、いわゆる予備軍も増加の傾向を示している。その他、これらの生活習慣病以外にも、生活環境の変化によるアレルギー患者の増加、パソコン(パーソナルコンピュータ)等の普及による眼性疲労患者の増加も深刻な問題となっている。
【0003】
これらの症状を有する患者やその予備軍にとって、その改善を試みる手段の一つに、健康食品や特定保健用食品等の機能性食品の摂取が挙げられる。機能性食品中の有効成分には、様々な植物や微生物からの抽出物が用いられている。中でも、植物の果実や葉等から抽出されたポリフェノールを有効成分とするものが多く開発されている。
【0004】
ポリフェノールとしては、例えば、フラボン類、フラボノール類、フラバノン類、イソフラボン類、アントシアニン類、フラバノール類、エラジタンニン類、フェニルプロパノイド類、アントシアニジン類、プロアントシアニジン類、カルコン類、オーロン類、フェニルエタノイド類等が挙げられる。より具体的には、没食子酸、エラグ酸、ヒドロキシチロソール、エピガロカテキン3−O−ガレート(EGCG)、エピカテキン−3−O−ガレート(ECG)、カテキンガレート(CG)、ガロカテキン−3−O−ガレート(GCG)、エピカテキン(EC)、カテキン(C)、エピガロカテキン(EGC)、ガロカテキン(GC)、クロマニン、デルフィニジン、デルフィニジン3−O−グルコシド、プロシアニジンB2(PB2)、カフェ酸、クロロゲン酸、ロスマリン酸、カフェ酸フェネチルエステル、ストリクチニン、ケルセチン、イソクエルシトリン、ルチン、ミリセチン、ブテイン、スルフレチン、ルテオリン、エリオジクチオール等が挙げられる。これらのポリフェノールは、その構造に複数のフェノール性水酸基を持つことを特徴とし、抗酸化活性、血圧上昇抑制、血糖値上昇抑制、内脂肪蓄積抑制、動脈硬化抑制、抗炎症作用、抗がん性、アレルギー抑制、抗う蝕作用、消臭作用、抗菌活性等の様々な機能性が研究、報告されている。また、これらのポリフェノール以外にも、植物由来の成分に関して、様々な機能性が研究、報告されている。
【0005】
植物から抽出・精製された多種多様なポリフェノールが、食品用素材として用いられており、その効果が期待されている。しかしながら、必ずしもポリフェノール自体の生体内への吸収性は良好とは言えない。ヒトへのポリフェノール摂取後の吸収性を比較した結果でも、最高血中濃度で数μmol/lの濃度であることが報告されている(例えば、非特許文献1参照。)。
【0006】
植物中には、水酸基にメチル基が修飾されたメチル化ポリフェノールが含まれている。例えば、茶品種“青心大ぱん”、“べにほまれ”、“べにふじ”、“べにふうき”等には、エピガロカテキン−3−O−(3−O−メチル)ガレート(EGCG3”Me)やエピガロカテキン−3−O−(4−O−メチル)ガレート(EGCG4”Me)が含まれている。これらのメチル化カテキンをマウスへ経口投与した場合の、投与60分後の血中メチル化カテキン濃度は、エピガロカテキン−3−O−ガレート(EGCG)と比較して、遊離体で約9倍高い値を示した(例えば、非特許文献2参照。)。また、EGCG3”Meを含む“べにふうき”茶飲料を人に飲用させた後の血漿中EGCG濃度及びEGCG3”Me濃度を比較した結果、EGCG3”Meの方が良好な吸収性を示し、かつ血漿中からの代謝消失も穏やかであった(例えば、非特許文献3参照。)。
【0007】
メチル化ポリフェノールは、メチル基で修飾されていないポリフェノールに比べて、吸収性のみならず、機能性も優れているという報告が多くなされている。例えば、マウスマスト細胞を用いたヒスタミン遊離抑制試験に関しては、EGCG3”Me、エピガロカテキン−3−O−(3,5−O−ジメチル)ガレート、及びエピ(3−O−メチル)ガロカテキン−3−O−(3,5−O−ジメチル)ガレートは、EGCGと比較して高い抗アレルギー作用を示し、かつメチル基の増加に伴ってその作用は強まる傾向を示した(例えば、特許文献1参照。)。また、7−ヒドロキシフラボン、7,4’−ジヒドロキシフラボン、クリシン、アピゲニン、及びこれらのメチル化体のヒトCaco−2細胞への透過性を比較したところ、メチル化体の方が良好な透過性を示した(例えば、非特許文献4参照。)。同様に、ヒト肝臓細胞S9フラクションを用いた安定性試験においても、メチル化体の方が良好な結果を示した(例えば、非特許文献4参照。)。さらには、クリシン及びアピゲニンのメチル化体は、ヒトのSCCガン細胞の増殖抑制効果が、非メチル化体と比較して約10倍高い活性が得られた(例えば、非特許文献5参照。)。
【0008】
一方で、化合物の水酸基をメチル化する方法としては、化学合成・修飾法によるものがある。例えば、ポリフェノールの一種であるEGCGをメチル化する方法が、特許文献2又は3に開示されている。また、化学合成法以外の方法として、酵素法を用いたメチル化体の製造方法がある。例えばラット、豚や牛の肝臓から抽出したカテコール−O−メチルトランスフェラーゼが試薬品として市販されており、これらの酵素を用いてメチル化体を製造することができる。その他、植物体由来のメチルトランスフェラーゼを用いた酵素変換方法の報告もある(例えば、特許文献4参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2008−189628号公報
【特許文献2】特開昭61−145177号公報
【特許文献3】特開2002−255810号公報
【特許文献4】特開2006−141242号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】マナック(Manach)、外4名、ジ・アメリカン・ジャーナル・オブ・クリニカル・ニュートリション(The American journal of clinical nutrition)、2005年、第81巻、第230S〜242Sページ、レビュー。
【非特許文献2】佐野満昭、外3名、フレグランス・ジャーナル(FRAGRANCE JOURNAL)、2004年、第46〜52ページ。
【非特許文献3】山本(前田)万里、外2名、サイトテクノロジー(Cytotechnology)、2007年、第55巻、第135〜142ページ。
【非特許文献4】ウェン(Wen)、外1名、ドラッグ・メタボリズム・アンド・ディスポジション(Drug Metabolism and Disposition)、2006年、第34巻第10号、第1786〜1792ページ。
【非特許文献5】ウェイル(Walle)、外5名、バイオケミカル・ファーマコロジー(Biochemical pharmacology)、2007年、第73巻第9号、第1288〜1296ページ。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、化学合成で製造した化学物質を飲食品として用いることは、コストや安全性の点から現状では困難である。また、酵素を用いたメチル化体の製造方法においても、動物や植物から酵素を大量に抽出・精製することは困難である、という問題がある。さらに飲食品への展開を考えた場合、動物由来の酵素を用いることは、感染症等の問題が懸念され、好ましくない。一方で、植物体由来のメチルトランスフェラーゼは、植物細胞を培養し、培養物から酵素を抽出、精製して得ることもできるが、植物細胞を培養する場合、特別な培養施設が必要となり、更には非常に長時間の培養日数が必要となる。また、得られる酵素活性が低いことも多々有り、工業生産を考えた場合は、生産コストが非常に高価となってしまう。
【0012】
本発明は、上記課題を鑑みてなされたものであって、飲食品への使用が可能であり、消費者が受け入れやすく、かつ工業生産を考えた場合の大量製造可能なメチルトランスフェラーゼ酵素、及び当該酵素を用いたメチル化体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、食経験があり、大量製造が可能であり、かつ消費者にとって認知度のある担子菌類のエノキタケ(Flammulina velutipes)の培養菌糸体中に、各種ポリフェノール等の水酸基構造を有する各種化合物を基質とし、水酸基をメチル化する新規メチルトランスフェラーゼ酵素が存在していることを見出し、この新規酵素を単離・同定することにより、本発明を完成させた。
【0014】
すなわち、本発明は、(1) 下記(a)ポリヌクレオチドからなることを特徴とする遺伝子;(a)配列番号1で表される塩基配列からなるポリヌクレオチド(2) 下記(a)又は(b)のいずれかから選択されるポリペプチドをコードすることを特徴とする遺伝子;(a)配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド、(b)配列番号2で表されるアミノ酸配列のうち、第70〜88番目、第139〜148番目、171〜175番目、及び第215〜223番目のアミノ酸残基以外の領域中の1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、メチルトランスフェラーゼ酵素活性を有するポリペプチド、(3) 下記(a)又は(b)から選択されるポリペプチド;(a)配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド、(b)配列番号2で表されるアミノ酸配列のうち、第70〜88番目、第139〜148番目、171〜175番目、及び第215〜223番目のアミノ酸残基以外の領域中の1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、メチルトランスフェラーゼ酵素活性を有するポリペプチド、
【0015】
(4) 前記(1)又は(2)記載の遺伝子を含有することを特徴とする組換え発現ベクター、(5) 前記(4)記載の組換え発現ベクターを含むことを特徴とする形質転換体、(6) 微生物であることを特徴とする前記(5)記載の形質転換体、(7) 植物細胞、植物組織、又は植物体であることを特徴とする前記(5)記載の形質転換体、
【0016】
(8) 前記(5)〜(7)のいずれか記載の形質転換体を培養し、得られた培養物から、メチルトランスフェラーゼ酵素活性を有するポリペプチドを精製することを特徴とするメチルトランスフェラーゼ酵素の製造方法、(9) メチルトランスフェラーゼ酵素を用いて、化合物中の水酸基をメチル化する方法であり、前記メチルトランスフェラーゼ酵素が、前記(5)〜(7)のいずれか記載の形質転換体を培養し、得られた培養物から精製された、メチルトランスフェラーゼ酵素活性を有するポリペプチドであることを特徴とするメチル化体の製造方法、(10) 前記(4)記載の組換え発現ベクターを含む形質転換植物から、メチル化体を精製することを特徴とするメチル化体の精製方法、(11) 前記(4)記載の組換え発現ベクターを含む形質転換植物から、メチル化ポリフェノール含有組成物を精製することを特徴とするメチル化ポリフェノール含有組成物の製造方法、(12)下記(a)又は(b)のいずれかから選択されるポリペプチドを、担子菌類から抽出し、精製することを特徴とする、メチルトランスフェラーゼ酵素の製造方法;(a)配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド、(b)配列番号2で表されるアミノ酸配列のうち、第70〜88番目、第139〜148番目、171〜175番目、及び第215〜223番目のアミノ酸残基以外の領域中の1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、メチルトランスフェラーゼ酵素活性を有するポリペプチド、(13) 配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドを、エノキタケ(Flammulina velutipes)から抽出し、精製することを特徴とする、メチルトランスフェラーゼ酵素の製造方法、を提供するものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明の遺伝子がコードするポリペプチドは、飲食品に応用でき、かつ工業生産に有利な新規メチルトランスフェラーゼ酵素である。本発明の遺伝子及びポリペプチドを用いることにより、各種ポリフェノールを初めとする水酸基構造をもつ化合物のメチル化体を効率的に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】エノキタケ由来メチルトランスフェラーゼ遺伝子の塩基配列及び対応するアミノ酸配列を示した図である。
図2A】配列番号2で表されるアミノ酸配列と、上記2種類の担子菌の遺伝子と、相同性検索の結果相同性が高かった上位4遺伝子とのアミノ酸配列を比較した結果である。
図2B図2A中の1〜4に示す領域から、O−メチルトランスフェラーゼ酵素のコンセンサス配列であると推定された配列を表す図である。
図3】実施例1において、エノキタケ菌糸培養物から分画されたメチルトランスフェラーゼ酵素活性を有する活性画分の二次元電気泳動像である。
図4】実施例2において、IPTG処理前の大腸菌のライセート(レーン1)、IPTG処理後の大腸菌のライセート(レーン2)、IPTG処理後の大腸菌のライセートからヒスチジンタグを用いて得られた精製物(レーン3)のSDS−PAGE電気泳動像である。
図5A】実施例5において、各反応時間後に分取した天然型酵素反応液中のEGCGメチル化体濃度を示した図である。
図5B】実施例5において、各反応時間後に分取した組換え酵素反応液中のEGCGメチル化体濃度を示した図である。
図6】実施例6において、各pHの酵素反応液中のEGCGメチル化体濃度を示した図である。
図7】実施例7において、各温度の酵素反応液中のEGCGメチル化体濃度を示した図である。
図8】実施例8において、天然型酵素処理したものとブランクの、緑茶カテキン類の組成を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明において、メチルトランスフェラーゼ酵素活性とは、水酸基構造を有する化合物を基質とし、基質中の水酸基をメチル化する反応を触媒する酵素活性を意味する。メチル化される水酸基は、特に限定されるものではないが、フェノール性水酸基であることが好ましい。また、基質としては、水酸基構造を有する化合物であれば特に限定されるものではないが、フェノール性水酸基を有する化合物であることが好ましく、ポリフェノールであることがより好ましい。
【0020】
本発明の遺伝子は、メチルトランスフェラーゼ酵素活性を有するポリペプチド(以下、「本発明の酵素」ということがある。)をコードする担子菌類由来の遺伝子である。担子菌類は、植物よりも培養(栽培)が簡便であり、このため、植物や動物の組織から酵素を抽出・精製するよりも、担子菌類から酵素を抽出・精製することにより、大量の酵素を簡便かつ安定的に、低コストで得ることができる。すなわち、本発明の遺伝子がコードするメチルトランスフェラーゼ酵素は、工業生産に非常に有利である。
【0021】
本発明の遺伝子は、担子菌類由来の遺伝子であれば、特に限定されるものではなく、食用として市販されている担子菌類由来の遺伝子であってもよく、オオキツネタケ(Laccaria bicolor)やPhanerochaete chrysosporium(以下、モデルキノコ)、カイメンタケ、ヤケイロタケ、コレラタケ等の担子菌類由来の遺伝子であってもよい。本発明の遺伝子としては、食用に供される化合物のメチル化体の製造にも好適であることから、食用に適した担子菌類由来の遺伝子であることが好ましい。食用に適した担子菌類として、例えば、シイタケ、シメジ、マイタケ、エノキタケ、ブナシメジ、ヒラタケ、ナラタケ、タモギタケ、エリンギ、アワビタケ等が挙げられる。本発明の遺伝子としては、エノキタケ(Flammulina velutipes)由来の遺伝子であることが特に好ましい。
【0022】
本発明の遺伝子は、配列番号1で表される塩基配列からなるポリヌクレオチドからなる遺伝子(以下、「エノキタケ由来メチルトランスフェラーゼ遺伝子」ということがある。)であることが好ましい。エノキタケ由来メチルトランスフェラーゼ遺伝子は、後記実施例1の方法により、本発明者らによりエノキタケから単離・同定された新規遺伝子である。当該遺伝子は、配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド(以下、「エノキタケ由来メチルトランスフェラーゼ酵素」ということがある。)をコードする遺伝子であり、配列番号1で表される塩基配列の45位〜734位がコーディング領域である。図1に、エノキタケ由来メチルトランスフェラーゼ遺伝子の塩基配列及び対応するアミノ酸配列を示す。
【0023】
なお、配列番号1で表される塩基配列及び配列番号2で表されるアミノ酸配列に対して、公開されているNCBI(National Center for Biotechnology Information)のデータベースを用いてホモロジー検索を行った結果、最も相同性の高い遺伝子はオオキツネタケ由来遺伝子S238N−H82(アクセッション番号:XM_001878803)であり、塩基配列で63.6%、アミノ酸配列で61.6%程度の相同性であった。
【0024】
また、全ゲノム配列が判明している担子菌類であるモデルキノコのデータベース(http://genome.jgi−psf.org/Phchr1/Phchr1.home.html)を用いて、同様にホモロジー検索を行った結果、最も相同性の高い遺伝子はO-メチルトランスフェラーゼ遺伝子(Protein ID:127115)であり、塩基配列で63.9%、アミノ酸配列で56.8%程度の相同性であった。
【0025】
図2Aは、配列番号2で表されるアミノ酸配列と、上記2種類の担子菌の遺伝子と、相同性検索の結果相同性が高かった上位4遺伝子とのアミノ酸配列を比較した結果である。図2A中、「F.velutipes」は配列番号2で表されるアミノ酸配列を表す。また、「L.bicolor S238N−H82」はオオキツネタケ由来遺伝子S238N−H82、「P.chrysosporium」はモデルキノコ由来O−メチルトランスフェラーゼ遺伝子、「B.indeica subsp.」はBeijerinckia indica subsp.由来O−メチルトランスフェラーゼ ファミリータンパク質遺伝子(アクセッション番号:YP_001832797)、「B.ambifaria AMMD」はBurkholderia ambifaria AMMD由来O−メチルトランスフェラーゼ ファミリータンパク質遺伝子(アクセッション番号:YP_777310)、「B.thailandensis」はBurkholderia thailandensis MSMB43由来O−メチルトランスフェラーゼ ファミリータンパク質遺伝子(アクセッション番号:ZP_02466609)、及び「E.sakazakii」はEnterobacter sakazakii ATCC BAA−894由来遺伝子(アクセッション番号:YP_001437785)の推定アミノ酸配列をそれぞれ表す。
【0026】
本発明者らは、このアラインメントから、図2A中、1〜4に示す領域が、全7種類の遺伝子において保存性の高い領域であることを見出した。なお、配列番号2で表されるアミノ酸配列中、領域1は70〜88番目の領域であり、領域2は139〜148番目の領域であり、領域3は171〜175番目の領域であり、領域4は215〜223番目の領域である。さらに本発明者らは、これらの4領域のアミノ酸配列から、O−メチルトランスフェラーゼ酵素のコンセンサス配列を推定した。図2Bは、図2A中の1〜4に示す領域から、O−メチルトランスフェラーゼ酵素のコンセンサス配列であると推定された配列を表す。なお、図2B中、「x」はいずれのアミノ酸残基であってもよいことを意味し、「(/)」は、括弧内のいずれかのアミノ酸残基であることを意味する。
【0027】
さらに、配列番号2で表されるアミノ酸配列に対して、NCBIデータベースを用いて植物由来のメチルトランスフェラーゼ酵素とのホモロジー検索を行った結果、ダイズ(Zea mays)由来遺伝子(アクセッション番号:AY279004)と、塩基配列で53.9%、アミノ酸配列で30.4%の相同性であった。同様に、イネ(Olyza sativa)由来遺伝子(アクセッション番号:AY279004)と50.7%(塩基配列)及び30.0%(アミノ酸配列)、シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)由来遺伝子(アクセッション番号:MN_116065)52.3%(塩基配列)及び30.8%(アミノ酸配列)程度の相同性であった。さらに、特許文献4に記載の、茶から単離されたEGCGをメチル化可能なメチルトランスフェラーゼ酵素と比較した結果、塩基配列で53.9%、アミノ酸配列では30.4%程度の相同性であった。
【0028】
本発明の遺伝子を部分的に少数の塩基を改変した場合であっても、当該遺伝子が有するメチルトランスフェラーゼ酵素活性が維持されうることは周知の事実である。また、このような改変は、例えば部分特異的変異導入方法等の周知の技術を利用して行うことができる。したがって、本発明の遺伝子は、メチルトランスフェラーゼ酵素活性を有する遺伝子をコードする限り、配列番号1で表される塩基配列の1又は複数の塩基が、置換、欠失、付加された塩基配列からなるポリヌクレオチドからなってもよい。例えば、公知の遺伝子組換え技術を用いることにより、配列番号1で表される塩基配列に、1又は複数の塩基を人為的に挿入、欠失、置換を行う事により、メチルトランスフェラーゼ酵素活性が損なわれていない変異遺伝子、又は当該酵素活性が改善された変異遺伝子とすることが可能である。
【0029】
具体的には、本発明の遺伝子は、配列番号1で表される塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、メチルトランスフェラーゼ酵素活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドからなる遺伝子であってもよい。
【0030】
なお、本発明及び本願明細書において、「ストリンジェントな条件」とは、例えば、Molecular Cloning(Sambrookら、Cold Spring Harbor Laboratory Press)に記載の方法が挙げられる。例えば、2×SSC、10重量%硫酸デキストラン、及び50%ホルムアミドから成るハイブリダイゼーションバッファー中で、40〜65℃で数時間から一晩インキュベーションを行うことによりハイブリダイズさせる条件を挙げることができる。インキュベーション後の洗浄の際に用いる洗浄バッファーとしては、好ましくは0.1重量%SDS含有1×SSC溶液、より好ましくは0.1重量%SDS含有0.1×SSC溶液である。なお、20×SSC溶液は、3M 塩化ナトリウム及び0.3M クエン酸溶液(pH7.0)である。
【0031】
また、本発明の遺伝子は、配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードする遺伝子であってもよい。例えば、配列番号1で表される塩基配列のコーディング領域以外の領域の塩基が欠失・置換・付加等された遺伝子であってもよく、配列番号1で表される塩基配列のコーディング領域中の1若しくは数個の塩基が置換されている遺伝子(サイレント変異が生じている遺伝子)であってもよい。
【0032】
さらに、本発明の遺伝子としては、配列番号2で表されるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、メチルトランスフェラーゼ酵素活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子であってもよい。このような遺伝子であっても、エノキタケ由来メチルトランスフェラーゼ遺伝子と同様に機能するためである。
【0033】
本発明の遺伝子は、他の担子菌類におけるエノキタケ由来メチルトランスフェラーゼ遺伝子のホモログ遺伝子であってもよい。このようなホモログ遺伝子は、配列番号1で表される塩基配列や配列番号2で表されるアミノ酸配列等の情報を用いて、公知の遺伝子解析方法、例えばMolecular Cloning(Sambrookら、Cold Spring Harbor Laboratory Press)に記載されている方法を用いて行うことができる。具体的には、例えば、メチルトランスフェラーゼ酵素活性を有する担子菌類からtotal−RNAを抽出し、ディジェネレートプライマー等を用いたRT−PCR法により、目的のホモログ遺伝子又はその断片を取得する。得られた遺伝子断片を、pUC系ベクターやpGEM系ベクター等の塩基配列決定が可能なベクターにクローニングして塩基配列を決定し、決定された配列を基にRACE−PCR法等を行うことにより、ホモログ遺伝子の全長を取得することができる。このとき、例えば、図2Bに示すコンセンサス配列に対するディジェネレートプライマーを設計し、これを用いることにより、より効率よくホモログ遺伝子断片を取得することができる。なお、同様の手法により、担子菌類以外の生物、例えば、微生物や植物等からも、エノキタケ由来メチルトランスフェラーゼ遺伝子のホモログ遺伝子を取得することができる。
【0034】
このようなホモログ遺伝子としては、具体的には、配列番号2で表されるアミノ酸配列と40%以上、好ましくは50%以上、より好ましくは55%以上、さらに好ましくは62%以上の相同性を有し、かつ、メチルトランスフェラーゼ酵素活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子が挙げられる。
【0035】
このようなホモログ遺伝子としては、例えば、配列番号1で表される塩基配列と64%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上の相同性を有する塩基配列からなるポリヌクレオチドを有し、かつ、メチルトランスフェラーゼ酵素活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドからなる遺伝子であってもよい。
【0036】
塩基配列とアミノ酸配列の相同性検索をする場合には、一般的に、最初にGAPを考慮せずホモロジーの核となる部分を探し、そこからアライメント処理を行う方法(Homology Search)と、置き換えや欠損を考慮しながら、塩基(アミノ酸)配列間で一致する塩基(アミノ酸残基)対が最大になるように並べ替える方法(Maximum Matching)とがある。本発明及び本願明細書における「相同性」の値は、Maximum Matchingを用いて解析し、得られる値を示す。なお、Maximum Matchingによる相同性検索は、GENETYX Version6.1.0(GENETYX社製)等の汎用されている解析ソフトウェアを用いて行うことができる。
【0037】
本発明の酵素は、本発明の遺伝子を含む生物体から抽出し、精製することにより、得ることができる。生物体からの精製方法は、特に限定されるものではなく、一般的に行われる公知の精製方法の中から、適宜選択して行うことができる。また、メチルトランスフェラーゼ酵素活性が発揮される状態まで精製すればよく、精製度は特に限定されず、粗精製であってもよい。
【0038】
具体的には、本発明の遺伝子を含む担子菌類の子実体又は菌糸体を、適当な緩衝液中で超音波処理等により破砕した後、回収された上清を、本発明の酵素の粗酵素とすることができる。その他、担子菌類の子実体又は菌糸体を、適当な緩衝液中でホモジナイズした後、上清を回収してもよい。粗酵素を得るための緩衝液としては、例えば、pH6.5〜8.5のトリス緩衝液やリン酸緩衝液等を用いることができる。
【0039】
また、酵素を抽出する担子菌類は、採取直後のものであってもよく、市販等されているものであってもよく、培養物であってもよい。なお、担子菌類の菌糸体の培養は、常法により行うことができる。
【0040】
このようにして得られた粗酵素は、そのまま酵素反応に用いることができる。さらには、遠心分離、限外ろ過膜、塩析、各種クロマトグラフィーを組み合わせることにより、粗酵素から精製物を得ることもできる。
【0041】
精製された本発明の酵素を、水酸基をメチル化したい化合物を基質とし、当該化合物と接触させて反応させることによりメチル化体を製造することができる。基質としては、水酸基構造を有する化合物であれば特に限定されるものではないが、フェノール性水酸基を有する化合物であることが好ましい。フェノール性水酸基を有する化合物の中でも、本発明の酵素の基質としては、ポリフェノールであることが好ましい。基質となるポリフェノールとしては、例えば、フラボン類、フラボノール類、フラバノン類、イソフラボン類、アントシアニン類、フラバノール類、エラジタンニン類、フェニルプロパノイド類、アントシアニジン類、プロアントシアニジン類、カルコン類、オーロン類、フェニルエタノイド類等が挙げられる。より具体的には、没食子酸、エラグ酸、ヒドロキシチロソール、エピガロカテキン3−O−ガレート(EGCG)、エピカテキン−3−O−ガレート(ECG)、カテキンガレート(CG)、ガロカテキン−3−O−ガレート(GCG)、エピカテキン(EC)、カテキン(C)、エピガロカテキン(EGC)、ガロカテキン(GC)、クロマニン、デルフィニジン、デルフィニジン3−O−グルコシド、プロシアニジンB2(PB2)、カフェ酸、クロロゲン酸、ロスマリン酸、カフェ酸フェネチルエステル、ストリクチニン、ケルセチン、イソクエルシトリン、ルチン、ミリセチン、ブテイン、スルフレチン、ルテオリン、エリオジクチオール等が挙げられる。
【0042】
具体的には、精製された本発明の酵素を、pH5〜10、好ましくはpH6〜9、より好ましくはpH6.5〜8.5の緩衝液に懸濁し、さらに基質となる化合物とメチル基の供与体とを加えて、0〜60℃、好ましくは10〜50℃、より好ましくは30〜42℃で反応させることにより、酵素反応液中にメチル化体を得ることができる。なお、メチル基の供与体としては、S−adenosyl−L−methionine (SAM)等の、一般的に水酸基のメチル化の際に用いられる物質の中から、適宜選択して用いることができる。
【0043】
酵素反応により得られたメチル化体は、酵素反応液から、メチル化体化合物を抽出することが可能な溶媒等を用いることにより抽出することができる。なお、酵素反応液は、濃縮した後に抽出に用いてもよい。その他、酵素反応液を、合成吸着剤を充填したカラムに供して、メチル化体を当該合成吸着剤に吸着させ、さらに洗浄した後、適当な溶媒を用いて溶出させることによっても、メチル化体を得ることが可能である。得られたメチル化体は、さらにHPLC(High Performance Liquid Chromatography)を用いて精製することができる。
【0044】
特に、本発明の酵素が、エノキタケ等の食用担子菌類から回収されたメチルトランスフェラーゼ酵素である場合には、当該酵素は、安全性が高いため、食用に供される化合物のメチル化体の製造に非常に好適である。また、前述したように、担子菌類は、簡便に大量培養(栽培)することができるため、エノキタケ等の食用担子菌類から回収された本発明の酵素は、飲食品や医薬品、化粧品等の十分な安全性が要求される製品の工業生産に適している。
【0045】
本発明の酵素は、遺伝子組換え技術を用いて製造されたものであってもよい。具体的には、本発明の遺伝子を発現ベクターに組み込み、組換え発現ベクターを作製し、この組換え発現ベクターを、本発明の酵素を発現させる生物体(宿主)に導入し、当該組換え発現ベクターを含む形質転換体を製造する。
【0046】
組換え発現ベクターを導入する宿主としては、特に限定されるものではなく、微生物、植物細胞、植物組織、植物体、昆虫由来や哺乳類由来の培養細胞等のいずれであってもよい。微生物としては、大腸菌(Escherichia coli)、酵母(Saccharomyces serevisiae、Pichia pastoris)、枯草菌(Bacillus属)、乳酸菌(Streptococcus属、 Lactobacillius属)、又はカビ等が挙げられる。また、植物組織としては、植物体から採取された組織自体であってもよく、脱分化処理等を施して得られたカルスであってもよい。その他、培養細胞としては、哺乳類から確立された培養細胞株であってもよく、SF9細胞等の昆虫由来培養細胞であってもよい。
【0047】
本発明の遺伝子を組み込む発現ベクターは、本発明の遺伝子がコードする本発明の酵素を、当該ベクターが導入された宿主生物中で発現可能なように組み込むことができる発現ベクターであれば、特に限定されるものではなく、宿主の生物種に導入可能な公知の発現ベクターの中から、適宜選択して用いることができる。例えば、大腸菌等の微生物へ導入する発現ベクターとしては、pET系ベクターやpQE系ベクター等を用いることができる。酵母へ導入する発現ベクターとしては、pYE系ベクターやpYCP系ベクター等を用いることができる。乳酸菌へ導入するベクターとしては、その乳酸菌の宿主に応じた市販のベクター等を用いることができる。また、植物細胞や植物組織、植物体に導入する発現ベクターとしては、アグロバクテリウム法において汎用されているバイナリーベクターを用いてもよい。また、培養細胞へ導入する発現ベクターとしては、真核細胞発現用ベクターとして市販されている発現ベクターを用いることができる。なお、アデノウィルス発現系やレトロウィルス発現系、バキュロウィルス発現系等の発現系に用いられる市販されている発現ベクター等を用いてもよい。なお、これらの発現ベクターへ本発明の遺伝子を組み込んだ組換え発現ベクターは、常法により作製することができる。
【0048】
作製された組換え発現ベクターは、宿主の生物種に応じて、公知の種々の方法を用いて宿主へ導入することができる。例えば、大腸菌等の微生物が宿主の場合には、エレクトロポレーション法、ヒートショック法、リン酸カルシウム法等を用いて組換え発現ベクターを導入し、形質転換体を得ることができる。酵母が宿主の場合には、リチウム法やエレクトロポレーション法等を用いることができる。宿主が乳酸菌の場合には、エレクトロポレーション法や接合法等を用いることができる。植物細胞等の場合には、アグロバクテリウム法、パーティクルガン法、エレクトロポレーション法等を用いることができる。また、培養細胞の場合には、リポフェクション法等や、各種ウィルス感染を利用して形質転換体を得ることができる。
【0049】
このようにして得られた形質転換体をそれぞれの生物体の最適な条件で培養することにより、当該形質転換体内に本発明の酵素を生成することができる。本発明の酵素を製造するための生物体の培養方法としては、液体培養、固体培養又は育種であっても良く、その生物体に適した培養条件、培養方法であればよい。例えば、形質転換体に導入された発現ベクターがイソプロピル−β−チオガラクトピラノシド(IPTG)により誘導されるタイプのものであれば、培養時に培地中にIPTGを添加することにより、目的酵素タンパク質を生成させることができる。
【0050】
本発明の酵素は、形質転換体の培養物から抽出し、精製することにより、得ることができる。生物体からの精製方法は、特に限定されるものではなく、本発明の遺伝子を含む担子菌類の子実体又は菌糸体からと同様にして、抽出・精製することができる。
【0051】
例えば、形質転換体を作製するにあたり、宿主として、本発明の酵素を菌体外に放出するタイプの微生物を用いた場合には、得られた形質転換体を培養した後、培養液から菌体を遠心分離等により除去することにより目的の粗酵素を得ることができる。一方、宿主として、本発明の酵素を菌体内に産生するタイプの微生物を用いた場合には、菌体を超音波や溶菌酵素等で処理し菌体を破砕することにより目的粗酵素を得ることができる。得られた粗酵素はそのままでもメチル化反応に用いることができるが、分子量分画等必要に応じてさらに精製することも可能である。
【0052】
その他、本発明の酵素を、ヒスチジンタグや、Mycタグ等の、発現させたタンパク質の精製に一般的に用いられるタグを付けて宿主中で発現させた場合には、これらのタグを用いて、本発明の酵素を簡便に精製することができる。
【0053】
また、精製された酵素は、本発明の遺伝子を含む担子菌類の子実体又は菌糸体から精製された酵素と同様に、化合物のメチル化体の製造に用いることができる。
具体的には、宿主として大腸菌を用いて、ヒスチジンタグを付けて発現させた場合には、形質転換体の培養物からヒスチジンタグを用いて精製された本発明の酵素を、pH5〜12、好ましくはpH6〜9の緩衝液に懸濁し、さらに基質となる化合物と、SAM等のメチル基の供与体とを加えて、0〜80℃、好ましくは0〜60℃で反応させることにより、酵素反応液中にメチル化体を得ることができる。
【0054】
本発明の遺伝子を含有する組換え発現ベクターが導入される宿主として、本発明の酵素の基質である水酸基を有する化合物が比較的豊富に含まれている生物を用いた場合には、得られた形質転換体を培養後、当該形質転換体から直接、メチル化体を抽出し、精製することができる。例えば、宿主として、茶等のポリフェノール含有量の多い植物を用いた場合には、得られた形質転換植物からポリフェノールを抽出し、精製した場合には、得られたポリフェノール組成物には、非形質転換植物から回収されたポリフェノール組成物よりも、メチル化ポリフェノールが多く含まれている。
【0055】
なお、形質転換体からのメチル化体の抽出・精製方法は、一般的に、宿主となる生物種から非メチル化体を抽出・精製する場合に用いられる方法によっても行うことができる。例えば、茶に本発明の遺伝子を含有する組換え発現ベクターを導入して得られた形質転換植物から、一般的に茶からポリフェノールを抽出する方法を用いて、メチル化ポリフェノールが多く含まれているメチル化ポリフェノール含有組成物を製造することができる。
【0056】
本発明の酵素を用いて製造されたメチル化体は、様々な飲食品、医薬品、医薬用部外品及び化粧品に用いることができる。当該メチル化体が原料として添加される飲食品としては、清涼飲料、炭酸飲料、栄養飲料、果実飲料、乳酸飲料等飲料(これらの飲料の濃縮原液及び調整用粉末を含む);アイスクリーム、アイスシャーベット、かき氷等の冷菓;そば、うどん、はるさめ、ギョーザの皮、シュウマイの皮、中華麺、即席麺等の麺類;飴、キャンディー、ガム、チョコレート、錠果、スナック菓子、ビスケット、ゼリー、ジャム、クリーム、焼き菓子等の菓子類;かまぼこ、ちくわ、ハム、ソーセージ等の水酸・畜産加工食品;加工乳、発酵乳等の乳製品;マーガリン、マヨネーズ、ショートニング、ホイップクリーム、ドレッシング等の油脂加工食品;ソース、タレ等の調味料;スープ、シチュー、サラダ、惣菜、漬物;その他種々の形態の健康食品、栄養補助食品、特定保健用食品等を挙げることができる。
【0057】
当該メチル化体が原料として添加される医薬品及び医薬部外品の剤型としては、錠剤、液剤、カプセル剤、ドリンク剤、トローチ等が挙げられる。
また、化粧品としては、洗顔クリーム、化粧水、パック、美容液等の基礎化粧品類;ファンデーション、口紅、アイカラー等のメイクアップ化粧品類;ネイルエナメル、石鹸、入浴剤、サンスクリーン剤、デオドラントスプレー等のボディ化粧品類;シャンプー、リンス、ヘアートリートメント、ヘアームース等の頭髪用化粧品類;育毛剤、養毛剤、ヘアトニック等の頭髪用化粧品類;香水、オーデコロン等の芳香用化粧品類を挙げることが出来る。
【0058】
これらを製造するにあたり、当該メチル化体は、通常用いられている補助的な原料や添加物と共に添加することができる。このような原料及び添加物としては、例えば、ブドウ糖、果糖、ショ糖、マルトース、ソルビトール、ステビオサイド、ルブソサイド、コーンシロップ、乳糖、L−アスコルビン酸、dl−α−トコフェロール、エリソルビン酸ナトリウム、グリセリン、プロピレングリコール、グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、アラビアガム、カラギーナン、カゼイン、ゼラチン、ペクチン、寒天、ビタミンC、ビタミンB群、ビタミンE、ニコチン酸アミド、パントテン酸カルシウム、アミノ酸類、カルシウム塩類、界面活性剤、色素、香料、保存料等が挙げられる。
【実施例】
【0059】
次に実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0060】
[実施例1]
エノキタケ由来メチルトランスフェラーゼ遺伝子の単離・同定を行った。
<メチルトランスフェラーゼ酵素活性のスクリーニング>
食用として市販されている日本産のシイタケ、シメジ、マイタケ、エノキタケ、ブナシメジ、ヒラタケ、ナラタケ、タモギタケ、エリンギ、アワビタケをスクリーニングに用いた。
まず、これらの子実体の柄の部分をカットし、0.5%次亜塩素酸に浸した後、滅菌水で洗浄した。柄の内部から5mm程度を切り出し、Difco Potato Dextrose Ager培地上で、25℃にて培養し、菌糸体を単離した。得られた菌糸体を、菌糸体培養用液体培地(0.02% glucose、0.01% peptone、0.002% Yeast Extract、0.002% KHPO、0.001% MgSO・7HO)に接種し、28℃で旋回培養した。
得られた菌糸体培養液をろ過して菌糸体を回収し、粗酵素溶解液(20mM Tris−HCl(pH7.5)、1mM DTT、1mM EDTA、10% glycerol)を加えて超音波破砕した後、遠心分離して上清を回収した。この上清を粗酵素液として酵素活性測定に用いた。
酵素活性測定は、基質としてEGCGを用い、そのメチル化体の生成量を指標とした。酵素反応液の組成は、20mM Tris−HCl(pH7.5)、2.5mM MgCl、0.25mM EGCG、0.5mM SAM、及び50% 粗酵素液とし、全量3mlを37℃、16時間反応させた。
反応後、酵素反応液3mlに、1N HCl 70μl及び酢酸エチル5mlを加えて攪拌し、遠心分離して有機層を回収した。有機層を窒素で乾固した後、1%アスコルビン酸含有30%メタノール水溶液に溶解し、HPLCを用いて測定した。HPLC条件を以下に示す。
カラム:Wakopak Navi C18−5(4.6×150mm)及びC18−5(4.6×10mm)(和光純薬社製)
移動相A:蒸留水、アセトニトリル、リン酸を400:10:1(v/v)で混合した溶液
移動相B:移動相Aとメタノールを2:1(v/v)で混合した溶液
グラジエント条件:20%B液(2分間)→80%B液(25分間)→80%B液(10分間)、直線濃度勾配
流速:1ml/min
検出:UV280nm
【0061】
その結果、エノキタケ培養菌糸体から抽出した粗酵素を用いた場合に、エピガロカテキン−3−O−(3−O−メチル)ガレート、エピガロカテキン−3−O−(4−O−メチル)ガレート、エピガロカテキン−3−O−(3,4−O−ジメチル)ガレート、エピガロカテキン−3−O−(3,5−O−ジメチル)ガレート、エピ(4−O−メチル)ガロカテキン−3−O−(3,5−O−ジメチル)ガレートの生成が確認された。なお、エピガロカテキン−3−O−(3,4−O−ジメチル)ガレート、エピガロカテキン−3−O−(3,5−O−ジメチル)ガレート、エピ(4−O−メチル)ガロカテキン−3−O−(3,5−O−ジメチル)ガレートに関しては、それらのピークを分取し、TOF−MS、NMRを用いて構造を確認した。また、粗酵素液を煮沸した後に酵素反応液に添加した場合や、酵素反応液にEGCGやSAMを添加しなかった場合には、これらのメチル化体の生成は認められなかった。
以上の結果から、エノキタケ培養菌糸体から抽出した粗酵素がメチルトランスフェラーゼ酵素活性を有することが確認された。
【0062】
<各種エノキタケ酵素活性の確認>
エノキタケの採取地の違い等によるメチルトランスフェラーゼ酵素活性の有無を確認した。エノキタケの菌糸は、農業生物資源ジーンバンクより購入したものを使用し、Difco Potato Dextrose Ager培地上で25℃にて培養した。菌糸体の液体培養及び酵素活性測定は、上記<メチルトランスフェラーゼ酵素活性のスクリーニング>と同様にして行った。試験には、MAFF番号430204、430205、430206、430207、430209、435210、430212、430214、430224、435085、430211、430213、435121、440110、440111、及び440118を用いた。その結果、それぞれの菌糸によって酵素活性の強弱はあるものの、全ての菌糸において、メチルトランスフェラーゼ酵素活性を確認した。
【0063】
<エノキタケ由来メチルトランスフェラーゼの同定>
上記と同様にしてエノキタケ菌糸体を液体培養し、得られた菌糸体培養液をろ過して菌糸体を回収し、凍結乾燥した。凍結乾燥物約12gを乳鉢で破砕した後、粗酵素溶解液600mlに懸濁した。この懸濁物を超音波破砕した後、遠心分離(10,000rpm×10min、4℃)し、回収した上清を再度遠心分離(30,000rpm×30min、4℃)して上清を回収した。この上清に、60%飽和になるように硫酸アンモニウムを添加し、攪拌、遠心分離して上清を回収した。さらに、この回収した上清に、80%飽和になるように硫酸アンモニウムを添加し、攪拌、遠心分離して沈殿物を得た。得られた沈殿物を、粗酵素溶解液40mlに溶解した後、PD−10(GEヘルスケアバイオサイエンス社製)を用いて脱塩した。脱塩したサンプルは、トリス緩衝液(20mM Tris−HCl(pH7.5)、1mM DTT)で平衡化した陰イオン交換カラム(HiPrep 16/10 DEAE FF、GEヘルスケアバイオサイエンス社製)に吸着させ、上記トリス緩衝液で調整した0〜500mM NaCl溶液の直線濃度勾配を用いて溶出し、メチルトランスフェラーゼ酵素活性が確認されたフラクションを、活性画分として分取した。なお、メチルトランスフェラーゼ酵素活性の確認は、<メチルトランスフェラーゼ酵素活性のスクリーニング>と同様にして行った。
得られた活性画分を、限外ろ過カラムで脱塩、濃縮した後、上記トリス緩衝液で平衡化した陰イオン交換カラム(HiLoad 26/10 Q−sepharose HP、GEヘルスケアバイオサイエンス社製)に吸着させ、上記トリス緩衝液で調整した0〜500mM NaCl溶液の直線濃度勾配を用いて溶出し、活性画分を分取した。得られた活性画分を、限外ろ過カラムにて脱塩、濃縮し、再度同じ陰イオン交換カラムに吸着させ、分取画分を前条件より詳細にして活性画分を分取し、同様に限外ろ過カラムにて脱塩、濃縮を行った。
【0064】
得られた濃縮画分を、150mM NaClを含むトリス緩衝液(20mM Tris−HCl(pH7.5)、1mM DTT、150mM NaCl)で平衡化したゲルろ過カラム(HiLoad 16/60 Superdex 200 prep grade、GEヘルスケアバイオサイエンス社製)を用いて分画した。分取した各画分をSDS−PAGE電気泳動にかけ、得られたタンパク質染色像と、各画分のメチルトランスフェラーゼ酵素活性とを比較したところ、酵素活性と相関したバンドが、約24〜25kDaの位置に確認された。酵素活性が確認された画分を、さらに、上記トリス緩衝液で平衡化した陰イオン交換カラム(TSK−GEL BIOASSIST Q、東ソー社製)に吸着させ、上記トリス緩衝液で調整した0〜500mM NaCl溶液の直線濃度勾配を用いて溶出し、活性画分を分取した。活性画分を、再度SDS−PAGE電気泳動にかけた結果、約24〜25kDaの位置に再度特異的なバンドを確認した。この酵素タンパク質の内部配列を明らかにするために上記陰イオン交換カラム(HiLoad 26/10 Q−sepharose HP、GEヘルスケアバイオサイエンス社製)で精製したサンプルをSDS−PAGE電気泳動にかけ、バンドをゲルから回収した。
回収したバンドは、常法に従ってゲル内トリプシン消化処理を行い、LC/MS/MSを用いてタンパク質の内部配列を解析した。さらに、同じ活性画分を二次元電気泳動で電気泳動し(一次元目:pH3〜10の等電点分離、二次元目:4〜20%グラジエントのポリアクリルアミドゲル)、分子量約24〜25kDa、pH5付近のスポットをゲルから回収した。図3は、二次元電気泳動像である。図中、丸で囲んだスポットを、目的の酵素タンパク質として回収した。
この回収したスポットに対して常法に従ってゲル内トリプシン消化処理を行い、LC/MS/MSを用いて、スポットに存在しているタンパク質の内部配列の確認を行った。その結果、内部配列RVLEVGTLGGYSTTWLARA(配列番号3)及びTGGIIIVDNVVR(配列番号4)を得た。このアミノ酸配列をもとに、NCBIのデータベースによるホモロジー検索を行った結果、既知のO−メチルトランスフェラーゼの内部配列と高い相同性を有していた。
【0065】
<エノキタケ由来メチルトランスフェラーゼ遺伝子の単離・同定>
上記内部配列の配列情報に基づいてディジェネレートプライマーを設計し、エノキタケから回収したtotal−RNAから、エノキタケ由来メチルトランスフェラーゼ遺伝子を単離・同定した。
具体的には、まず、エノキタケ培養菌糸体約1gを、乳鉢を用いて液体窒素下で破砕したものから、TRI Reagent(シグマ社製)を用いてtotal−RNAを回収した。得られたtotal−RNA約4μgから、サーモスクリプトRT−PCRシステム(インビトロジェン社製)を用いて、55℃、50分間反応させることによりcDNAを合成した。このcDNAを鋳型とし、上記内部配列の配列情報に基づいて設計されたディジェネレートプライマー(FVOMT−F及びFVOMT−R)を用いてPCRを行い、エノキタケ由来メチルトランスフェラーゼ遺伝子の単離を行った。設計されたディジェネレートプライマーの塩基配列及びPCR条件を下記に記す。なお、塩基配列中、Sはグアニン又はシトシンを、Mはアデニン又はシトシンを、Yはチミン又はシトシンを、Dはアデニン、グアニン、又はチミンを、Kはグアニン又はチミンを、Vはアデニン、グアニン、又はシトシンを、Rはグアニン又はアデニンを、それぞれ示す。FVOMT−F:GAGGTSGGMACYYTDGGMGGSTAFVOMT−R:GCKSACVACRTTRTCMAC PCR条件:94℃,5min→(94℃,1min→55℃,1min→72℃,1min)×40cycles→72℃,7min
【0066】
PCR産物をアガロースゲル電気泳動にかけた結果、約400bpの増幅バンドが確認された。アガロースゲルから当該バンドを切り出し、QIAquick Gel Extraction Kit(キアゲン社製)を用いてPCR産物を回収し、pGEM−Tベクター(プロメガ社製)へクローニングした後、大腸菌JM−109株(タカラ社製)へ形質転換した。得られた形質転換体を、LB培地にて37℃で終夜振とう培養し、得られた培養物からQIAprep Spin Miniprep Kit(キアゲン社製)を用いてプラスミドを抽出した。抽出されたプラスミドのインサートの塩基配列を、Big Dye Terminator v3.1 Cycle Sequencing Kit(アプライドバイオシステムズ社製)及びABI PRISM 3100−AVANT Genetic Analyzer(アプライドバイオシステムズ社製)により確認した。
【0067】
確認された遺伝子の部分塩基配列をもとに、特異的プライマー(FVOMT−5’GSP1、FVOMT−5’GSP2、FVOMT−3’GSP1、FVOMT−3’GSP2)を設計し、5’側と3’側の全長を取得するためにRACE−PCR法を行った。設計した特異的プライマーの塩基配列を下記に示す。FVOMT−5’GSP1:AGCCTCTTAGCCTCAACAAAGTAFVOMT−5’GSP2:TCTTCGAGCTCGAAGGTGATFVOMT−3’GSP1:ATCACCTTCGAGCTCGAAGAFVOMT−3’GSP2:TACTTTGTTGAGGCTAAGAGGCT
【0068】
5’RACE−PCRは、まず、単離したtotal−RNA2.5μgから、FVOMT−5’GSP1プライマーを用い、サーモスクリプトRT−PCRシステム(インビトロジェン社製)を用いて、55℃、50分間反応させてcDNAを合成した。次いで、得られたcDNAから、5’RACE System for Rapid Amplification of cDNA Ends,Version 2.0(インビトロジェン社製)を用い、FVOMT−5’GSP1プライマー及びFVOMT−5’GSP2プライマーを用いて5’側の単離を行い、塩基配列を確認した。
同様に、3’RACE−PCRは、サーモスクリプトRT−PCRシステム(インビトロジェン社製)を用いてcDNAを合成し、3’RACE System for Rapid Amplification of cDNA Ends,Version 2.0(インビトロジェン社製)を用いて、得られたcDNAからFVOMT−3’GSP1プライマー及びFVOMT−3’GSP2プライマーを用いて3’側の単離を行い、塩基配列を確認した。
確認された5’末端及び3’末端の塩基配列に基づき、下記に示すFVOMT−5’NdeIプライマー及びFVOMT−3’BamHIプライマーを設計し、RT−PCRを行った。得られたPCR産物をアガロースゲル電気泳動し、増幅バンドを回収した。回収したPCR産物をpGEM−Tベクターへクローニングし、大腸菌JM109株へ形質転換後、インサートの塩基配列を確認した。その結果、エノキタケ由来メチルトランスフェラーゼ酵素の全遺伝子を単離するにいたった。同定されたエノキタケ由来メチルトランスフェラーゼ遺伝子の塩基配列は、配列番号1で表される塩基配列であり、配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードしている。FVOMT−5’NdeI:TACATATGTCCAACCCGACAAGCATACTFVOMT−3’BamHI:TAGGATCCAAGTTTGATAGCGTACAAGAATCC
【0069】
[実施例2]<組換えエノキタケ由来メチルトランスフェラーゼ酵素の製造>
実施例1で単離されたエノキタケ由来メチルトランスフェラーゼ遺伝子を組み込んだ組換え発現ベクターを作製し、この組換え発現ベクターを大腸菌に導入して、大腸菌内で発現させたエノキタケ由来メチルトランスフェラーゼ酵素を回収した。
具体的には、まず、実施例1で作製したエノキタケ由来メチルトランスフェラーゼ遺伝子含有pGEM−Tベクターから、制限酵素NdeIとBamHIで切断し、アガロース電気泳動により、インサートを回収した。このインサートを、pET28a(+)ベクター(ノバジェン社製)のNdeI、BamHIサイトへクローニングすることにより、組換え発現ベクターを作製した。この組換え発現ベクターを大腸菌BL21(DE3)株(ストラタジーン社製)へ導入することにより、当該組換え発現ベクターを含む形質転換体を得た。
得られた形質転換体をLB培地にて37℃で終夜振とう培養した後、その一部を再度新しいLB培地へ添加して培養した。O.D.600=0.6付近となるように培養した後、IPTGを最終濃度1mMになるように添加し、さらに28℃で振とう培養して、ヒスチジンタグ付酵素タンパク質の発現誘導を行った。発現誘導した大腸菌を遠心分離し、沈殿物を上記トリス緩衝液に懸濁した。この大腸菌懸濁液を超音波破砕し、再度遠心分離した。得られた上清(ライセート)を、12%SDS−PAGEにて電気泳動した結果、IPTG誘導前の大腸菌を同様に処理して電気泳動した場合と比較して、約29kDa付近に、IPTG処理により発現が誘導されたタンパク質のバンドを確認した。
図4は、IPTG処理前の大腸菌のライセート(レーン1)、IPTG処理後の大腸菌のライセート(レーン2)、IPTG処理後の大腸菌のライセートからヒスチジンタグを用いて得られた精製物(レーン3)のSDS−PAGE電気泳動像である。図中、「M」は分子量マーカーを流したレーンである。図中の矢印の位置のバンド(約29kDa)を画像解析し、タンパク質量を数値化して比較した。画像解析には、Photoshop(アドビシステムズ社製)及びScion Image(Scion Corporation社製)ソフトウェアを使用した。その結果、この約29kDaのタンパク質量は、IPTG処理前を0%とした場合、IPTG処理後で8.4%、処理後の精製物で25.1%であり、当該タンパク質が、IPTG処理により発現が誘導されたヒスチジンタグを有するタンパク質であることが確認された。
pET28a(+)ベクターのNdeI、BamHIサイトへクローニングした場合、約5kDaのベクター由来発現タンパク質(ヒスチジンタグを含む)が付加される。また、配列番号2のアミノ酸配列から算出された本酵素タンパク質の理論分子量は、24.7kDaである。つまり、図4の矢印で示した約29kDaのタンパク質は、組換え発現ベクターにより導入したアミノ酸配列から得られる推定分子量と一致し、ヒスチジンタグ付きエノキタケ由来メチルトランスフェラーゼ酵素であることが分かった。
【0070】
[実施例3]<組換えエノキタケ由来メチルトランスフェラーゼ酵素の酵素活性>
実施例2で得られたIPTG処理後の大腸菌のライセートを、エノキタケ由来メチルトランスフェラーゼ酵素の組換え酵素の粗酵素液とし、この粗酵素液のメチルトランスフェラーゼ酵素活性を調べた。
具体的には、20mM Tris−HCl(pH7.5)、2.5mM MgCl、0.25mM EGCG、0.5mM SAM、及び50% 粗酵素液となるように、酵素反応液3mlを調製し、この酵素反応液を37℃、16時間インキュベートし、反応させた。反応後の酵素反応液を、実施例1の<メチルトランスフェラーゼ酵素活性のスクリーニング>と同様に処理して分析した結果、エピガロカテキン−3−O−(3−O−メチル)ガレート、エピガロカテキン−3−O−(4−O−メチル)ガレート、エピガロカテキン−3−O−(3,4−O−ジメチル)ガレート、エピガロカテキン−3−O−(3,5−O−ジメチル)ガレート、エピ(4−O−メチル)ガロカテキン−3−O−(3,5−O−ジメチル)ガレートの生成が確認できた。
これらの結果から、実施例2において大腸菌内で発現させた組換え酵素が、メチルトランスフェラーゼ酵素活性を有していることが確認された。
【0071】
[実施例4]<菌糸体抽出粗酵素液を用いたメチル化体の製造>
実施例1と同様にして、エノキタケ菌糸体培養液の菌糸体から抽出し、得られた抽出物の60%〜80%硫酸アンモニウム画分を脱塩処理したものを、エノキタケ由来メチルトランスフェラーゼ酵素の天然型酵素の粗酵素液とした。
具体的には、まず、エノキタケ菌糸体培養液をろ過して菌糸体を回収し、凍結乾燥した。得られた凍結乾燥物を乳鉢にて破砕した後、上記粗酵素溶解液に懸濁して、超音波破砕し、遠心分離して上清を回収した。この上清に、60%飽和になるように硫酸アンモニウムを添加し、攪拌、遠心分離して上清を回収した。さらに、この回収した上清に、80%飽和になるように硫酸アンモニウムを添加し、攪拌、遠心分離して沈殿物を得た。得られた沈殿物を、粗酵素溶解液に溶解した後、PD−10(GEヘルスケアバイオサイエンス社製)を用いて脱塩した。この脱塩サンプルを、エノキタケ由来メチルトランスフェラーゼ酵素の天然型酵素の粗酵素液とした。
得られた粗酵素液の各種基質に対するメチルトランスフェラーゼ活性を確認した。酵素反応液の組成は、20mM Tris−HCl(pH7.5)、2.5mM MgCl、0.05mM 基質、0.5mM SAM、0.04% アスコルビン酸、及び粗酵素液(全量3mlに対して0.25ml)とし、全量3mlを37℃、6時間反応させた。基質には、エピカテキン−3−O−ガレート(ECG)、カテキンガレート(CG)、ガロカテキン−3−O−ガレート(GCG)、カフェ酸、クロロゲン酸、エラグ酸、ブテイン、スルフレチン、ルテオリン、ミリセチン、又はロスマリン酸を、それぞれ用いた。
反応後の酵素反応液を、実施例1<メチルトランスフェラーゼ酵素活性のスクリーニング>と同様に処理して、当該酵素反応液中のメチル化体を、下記の条件でLC−MSを用いて分析した。標品と比較分析が可能なものについては同定も行った。HPLC条件及びMS条件を以下に示す。
・HPLC条件
カラム:Inertsil ODS−3、2.1×150mm(GLサイエンス社製)
移動相A:0.1(v/v)%ギ酸水溶液
移動相B:0.1(v/v)%ギ酸を含むアセトニトリル
グラジエント条件(i):8%B液(20分間)→25%B液(88分間)
グラジエント条件(ii):8%B液(10分間)→50%B液(31分間)
流速:0.2ml/min
検出:UV280nm
・MS条件
検出器:API3000(アプライドバイオシステムズ社製)
イオン源:ESI(ネガティブ)
カーテンガス:10
ネブライザーガス:14
ターボガス:6l/min
イオンスプレー電圧:−4000V
イオンスプレー温度:500度
コーン電圧:−41V
【0072】
LC−MS分析の結果を表1に示す。この結果、用いた全ての基質に対して、メチル化体の生成が確認された。これらの結果から、本発明の酵素は、水酸基を有する各種化合物を基質とし、メチル基を修飾することが可能であることが明らかとなった。
また、ECGのように、化合物中に複数の水酸基を有する化合物の中には、複数種類のメチル化体の生成が確認され、かつ、ジメチル化体も確認された。この結果から、本発明の酵素は、基質の化合物中の複数の水酸基のそれぞれを独立にメチル化可能であることも確認された。
【0073】
【表1】
【0074】
[実施例5]<反応時間の検討>
実施例4で用いたエノキタケ由来メチルトランスフェラーゼ酵素の天然型酵素の粗酵素液(以下、天然型酵素)と、実施例2で用いたエノキタケ由来メチルトランスフェラーゼ酵素のヒスチジンタグ精製した組換え酵素液(以下、組換え酵素)とを用いて、酵素反応の反応時間を検討した。
酵素反応液の組成は、20mM リン酸緩衝液(pH7.0)、2.5mM MgCl、0.05mM EGCG、0.5mM SAM、0.04% アスコルビン酸、及び各粗酵素液(全量30mlに対して2.5ml)とし、全量30mlを37℃で反応させた。反応開始から5分、10分、15分、20分、25分、30分、35分、40分、45分、50分、55分、60分、2時間、 4時間、6時間、8時間、24時間後に、酵素反応液を1mlずつ分取した。これらの酵素反応液を、実施例1<メチルトランスフェラーゼ酵素活性のスクリーニング>と同様に処理して、当該酵素反応液中のメチル化体を、下記のHPLC条件で分析した。
カラム:Inertsil ODS−3、2.1×150mm(GLサイエンス社製)
移動相A:0.1(v/v)%ギ酸水溶液
移動相B:0.1(v/v)%ギ酸を含むアセトニトリル
グラジエント条件:10%B液(10分間)→16%B液(50分間)
流速:0.2ml/min
検出:UV280nm
各反応時間後に分取した酵素反応液中のEGCGメチル化体濃度を図5A及び図5Bに示す。図5Aが天然型酵素の結果であり、図5Bが組換え酵素の結果である。この結果、天然型酵素では反応開始8時間後で、組換え酵素では20分後で、EGCGメチル化体の生成が最も高い値を示した。
【0075】
[実施例6]<最適pHの検討>
実施例5において用いた天然型酵素及び組換え酵素の酵素反応における最適pHを調べた。
酵素反応液の組成は、20mMの各種緩衝液に、2.5mM MgCl、0.05mM EGCG、0.5mM SAM、0.04% アスコルビン酸、及び各粗酵素液(全量3mlに対して0.25ml)となるように添加して調製した。用いた緩衝液は、酢酸緩衝液(pH3.0〜5.5)、リン酸緩衝液(pH6.0〜7.0)、及びTris−HCl(pH7.5〜10)である。調製した酵素反応溶液の全量3mlを、37℃で反応させた。反応時間は、天然型酵素で6時間、組換え酵素で10分間とした。これらの酵素反応液を、実施例1<メチルトランスフェラーゼ酵素活性のスクリーニング>と同様に処理して、当該酵素反応液中のメチル化体を分析した。
各pHの酵素反応液中のEGCGメチル化体濃度を図6に示す。この結果、天然型酵素ではpH6.5〜8.5で、組換え酵素ではpH6以上で、EGCGメチル化体の生成が確認された。
【0076】
[実施例7]<最適温度の検討>
実施例5で用いた天然型酵素及び組換え酵素の酵素反応における最適温度を調べた。
酵素反応液の組成は、20mM リン酸緩衝液(pH7.0)、2.5mM MgCl、0.05mM EGCG、0.5mM SAM、0.04% アスコルビン酸、及び各粗酵素液(全量3mlに対して0.25ml)とし、全量3mlを、4、10、20、30、37、42、50、又は60℃で、それぞれ反応させた。反応時間は、天然型酵素で6時間、組換え酵素で10分間とした。これらの酵素反応液を、実施例1<メチルトランスフェラーゼ酵素活性のスクリーニング>と同様に処理して、当該酵素反応液中のメチル化体を分析した。
各温度における酵素反応液中のEGCGメチル化体濃度を図7に示す。この結果、天然型酵素では10〜50℃において、組換え酵素では行った全ての温度において、EGCGメチル化体の合成が確認された。中でも、30〜42℃で、両酵素のいずれにおいても良好な酵素活性が確認された。
【0077】
[実施例8]<天然型酵素(菌糸体抽出粗酵素液)を用いたメチル化体含有緑茶の製造>
実施例5で用いた天然型酵素を用いて、緑茶抽出物に対するメチルトランスフェラーゼ活性を確認した。
酵素反応液の組成は、20mM Tris−HCl(pH7.5)、2.5mM MgCl、0.01% 緑茶抽出物、0.5mM SAM、0.04% アスコルビン酸、及び各粗酵素液(全量3mlに対して0.25ml)とし、全量3mlを、37℃で6時間反応させた。なお、緑茶抽出物は、緑茶エキス粉末(上海宇維生物科技発展有限公司)を50%ジメチルスルホキシド水溶液に溶解したものを用いた。これらの酵素反応液を、実施例1<メチルトランスフェラーゼ酵素活性のスクリーニング>と同様に処理して、当該酵素反応液から抽出された酢酸エチル抽出物に含まれる緑茶カテキン類の組成を分析した。ブランクとして、粗酵素液に代えて水を添加した反応液を同様に処理し、緑茶カテキン類の組成を分析した。
図8は、天然型酵素処理したものとブランクの、緑茶カテキン類の組成を示した図である。なお、EGCはエピガロカテキンの略である。この結果、ブランクにはほとんど含まれていないEGCG3”Me及びECG3”Meの組成比が増大しており、本発明の酵素により、緑茶抽出物中のメチル化カテキン含量を増やすことが可能であることが明らかとなった。
[実施例9]
<組換えエノキタケ由来メチルトランスフェラーゼ酵素を用いたメチル化体の製造>
実施例2において製造した組換え酵素を用いて、各種基質に対するメチルトランスフェラーゼ活性を確認した。
酵素反応液の組成は、20mM リン酸緩衝液(pH6.5)、2.5mM MgCl、0.05mM 基質、0.5mM SAM、0.04% アスコルビン酸、及び酵素液(全量3mlに対して0.1ml)とし、全量3mlを37℃で、30分間反応させた。基質には、エピカテキン−3−O−ガレート(ECG)、カテキンガレート(CG)、ガロカテキン−3−O−ガレート(GCG)、エピカテキン(EC)、カテキン(C)、エピガロカテキン(EGC)、ガロカテキン(GC)、クロマニン、デルフィニジン、デルフィニジン3−O−グルコシド、プロシアニジンB2(PB2)、カフェ酸、クロロゲン酸、ロスマリン酸、カフェ酸フェネチルエステル、没食子酸、エラグ酸、ストリクチニン、ケルセチン、イソクエルシトリン、ルチン、ミリセチン、ブテイン、スルフレチン、ルテオリン、エリオジクチオールを用いた。
反応後、酵素反応液3mlに、1N HCl 70μl及び酢酸エチル5mlを加えて攪拌し、遠心分離して酵素を含む中間層を除き、有機層、又は水層を回収した。有機層は窒素で乾固した後、1%アスコルビン酸含有50%DMSO水溶液に、水層は凍結乾燥した後、1%アスコルビン酸水溶液に溶解し、下記の条件でLC−MSを用いて分析した。HPLC条件及びMS条件を以下に示す。
・HPLC条件
カラム:Inertsil ODS−3、2.1×150mm(GLサイエンス社製)
移動相A:0.1(v/v)%ギ酸水溶液
移動相B:0.1(v/v)%ギ酸を含むアセトニトリル
グラジエント条件(i):
8%B液(10分間)→50%B液(21分間)→50%B液(30分間)
流速:0.2ml/min
検出:UV280nm
・MS条件
検出器:QSTAR ELITE(アプライドバイオシステムズ社製)
イオン源:ESI ネガティブ(※アントシアニンのみポジティブで測定)
カーテンガス:30
イオンソースガス1:50
イオンソースガス2:50
イオンスプレー電圧:−4500V(+5500V)
イオンスプレー温度:450℃
デクラスタリングポテンシャル:−30V(+30V)
フォーカスポテンシャル:−250(250V)
デクラスタリングポテンシャル:−15V(+15V)
【0078】
LC−MS分析の結果を表2に示す。用いた全ての基質に対して、メチル化体の生成が確認された。これらの結果から、本発明の組換え酵素は水酸基を有する各種化合物を基質とし、メチル基を修飾することが可能であることが明らかとなった。
また、ECGのように複数の水酸基を有する化合物では、トリメチル化体を含む複数種類のメチル化体の生成が確認された。これらの結果から、本発明の酵素は、化合物中の複数の水酸基をそれぞれ独立にメチル化可能であることも確認された。
【0079】
【表2】
【0080】
実施例1〜9において使用した試薬の購入先は、以下の通りである。
Difco Potato Dextrose Ager:日本ベクトン・ディッキンソン
peptone: 日本ベクトン・ディッキンソン
Yeast Extract:日本ベクトン・ディッキンソン
EGCG:テアビゴ、DSMニュートリションジャパン
【0081】
LC/MS/MS:サーモフィッシャーサイエンティフィック
【0082】
エピカテキン−3−O−ガレート(ECG):フナコシ
カテキンガレート(CG):フナコシ
ガロカテキン−3−O−ガレート(GCG):フナコシ
カフェ酸:シグマ
クロロゲン酸:フナコシ
エラグ酸:フナコシ
ブテイン:フナコシ
スルフレチン:フナコシ
ルテオリン:フナコシ
ミリセチン:フナコシ
ロスマリン酸:フナコシ
【0083】
エピカテキン(EC):フナコシ
カテキン(C):フナコシ
エピガロカテキン(EGC) :フナコシ
ガロカテキン(GC) :フナコシ
クロマニン:フナコシ
デルフィニジン:フナコシ
デルフィニジン3−O−グルコシド:フナコシ
プロシアニジンB2(PB2):フナコシ
カフェ酸フェネチルエステル:フナコシ
没食子酸:フナコシ
ストリクチニン:フナコシ
ケルセチン:フナコシ
イソクエルシトリン:フナコシ
ルチン:フナコシ
エリオジクチオール:フナコシ
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明の遺伝子がコードするポリペプチドは、各種ポリフェノールを初めとする水酸基構造を有する化合物を基質とし、飲食品に応用でき、かつ工業生産に有利な新規メチルトランスフェラーゼ酵素である。メチル化された各種化合物、特にメチル化ポリフェノールは、その非メチル化体と比較して生体内への良好な吸収性、安定性を発揮することができ、かつ、非メチル化体が持つ様々な機能性を格段に向上させることができる。このため、本発明の遺伝子がコードするポリペプチドは、飲食品、医薬品、医薬部外品、化粧品等の様々な商品の製造分野において利用が可能である。
図1
図2A
図2B
図5A
図5B
図6
図7
図8
図3
図4