(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、前記課題を解決し、用途に応じて、摺動性、生体適合性などの様々な機能性を付与できる加硫ゴム又は熱可塑性エラストマーの表面改質方法を提供することを目的とする。また、該表面改質方法により得られる改質された表面を少なくとも一部に有する注射器用ガスケット及びカテーテル、タイヤの溝表面を少なくとも一部に有するタイヤなどの表面改質弾性体を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、加硫ゴム又は熱可塑性エラストマーを改質対象物とする表面改質方法であって、前記改質対象物の表面に重合開始点を形成する工程1と、前記重合開始点を起点にして、モノマーをラジカル重合させ、前記改質対象物の表面にポリマー鎖を成長させる工程2と、前記ポリマー鎖を機能化処理する工程3とを含む表面改質方法に関する。
【0009】
前記工程1は、前記改質対象物の表面に300〜400nmのLED光を照射し、前記表面上の光増感剤から重合開始点を形成させるものであり、前記工程2は、前記重合開始点を起点にして、モノマーを300〜400nmのLED光を照射してラジカル重合させてポリマー鎖を成長させるものであることが好ましい。
【0010】
前記加硫ゴム又は熱可塑性エラストマーは、二重結合に隣接する炭素原子であるアリル位の炭素原子を有することが好ましい。
【0011】
前記光増感剤としては、下記式(1)で表されるベンゾフェノン系化合物を使用することが好ましい。
【化1】
(式(1)中、R
1〜R
5及びR
1′〜R
5′は、同一若しくは異なって、水素原子、アルキル基、ハロゲン、水酸基、1〜3級アミノ基、メルカプト基、又は酸素原子、窒素原子若しくは硫黄原子を含んでもよい炭化水素基を表し、隣り合う任意の2つが互いに連結し、それらが結合している炭素原子と共に環構造を形成してもよい。)
【0012】
前記工程2において、前記モノマーのラジカル重合時に、還元剤又は抗酸化物質が添加されることが好ましい。
前記還元剤又は抗酸化物質として、リボフラビン、アスコルビン酸、α−トコフェロール、β−カロテン及び尿酸からなる群より選択される少なくとも1種を使用することが好ましい。
【0013】
前記表面改質方法は、前記光照射時又は照射前に反応容器及び反応液に不活性ガスを導入し、不活性ガス雰囲気に置換して重合させることが好ましい。
【0014】
前記工程3は、前記ポリマー鎖の側鎖を塩転換することが好ましい。
例えば、前記ポリマー鎖の側鎖を、アルカリ金属塩又は抗菌性金属塩を用いて塩転換すること、前記ポリマー鎖の側鎖を、アンモニア水に接触させた後に塩転換すること、前記ポリマー鎖の側鎖を、アルカリ性塩を用いて塩転換すること、前記ポリマー鎖の側鎖を、硝酸塩、炭酸塩又はハロゲン化塩を用いて塩転換すること、前記ポリマー鎖の側鎖を、硝酸銀、炭酸銀又は塩化銀を用いて塩転換することで機能性基を導入することにより、前記工程3を実施できる。
【0015】
また、前記工程3は、例えば、前記ポリマー鎖の側鎖におけるカルボン酸基とアミン化合物とを反応させてアミド結合を形成すること、前記ポリマー鎖の側鎖におけるカルボン酸基と水酸基含有化合物とを反応させてエステル結合を形成することで機能性基を導入することにより、前記工程3を実施できる。
【0016】
ここで、前記機能性基として、フルオロアルキル基が好ましい。
また、前記アミン化合物として、下記式で示される化合物を使用することが好ましい。
CF
3(CF
2)
n−(CX
2)
p−NH
2−m((CF
2)
nCF
3)
m
(式中、Xは水素又はフッ素を表す。nは同一又は異なって1〜10の整数を表す。mは0〜2の整数を表す。pは0〜4の整数を表す。)
【0017】
前記ラジカル重合性モノマー(液体)又はその溶液が重合禁止剤を含むもので、該重合禁止剤の存在下で重合させることが好ましい。ここで、前記重合禁止剤として、4−メチルフェノールを使用することが好ましい。
前記ポリマー鎖の長さは、10〜50000nmであることが好ましい。
【0018】
本発明は、前記記載の表面改質方法により得られる表面改質弾性体に関する。
本発明は、前記記載の表面改質方法により得られる水存在下又は乾燥状態での摺動性、低摩擦又は水の低抵抗が要求される表面改質弾性体に関する。
本発明は、前記記載の表面改質方法により得られる抗菌性が要求される表面改質弾性体に関する。
【0019】
本発明は、前記記載の表面改質方法により三次元形状の固体表面の少なくとも一部が改質された表面改質弾性体に関する。
ここで、前記表面改質弾性体は、ポリマーブラシであることが好ましい。
【0020】
本発明は、前記記載の表面改質方法により改質された表面を少なくとも一部に有する注射器用ガスケットに関する。
本発明は、前記記載の表面改質方法により改質された表面を少なくとも一部に有するカテーテルに関する。
本発明はまた、前記記載の表面改質方法により改質されたタイヤの溝表面を少なくとも一部に有するタイヤに関する。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、加硫ゴム又は熱可塑性エラストマー(改質対象物)との表面に重合開始点を形成する工程1と、上記重合開始点を起点にして、モノマーをラジカル重合させ、上記改質対象物の表面にポリマー鎖を成長させる工程2と、上記ポリマー鎖を機能化処理する工程3とを含む表面改質方法であるので、ポリマー鎖に所望の機能を付与でき、摺動性、抗菌性など種々の機能を持つ表面改質弾性体を容易に提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明は、加硫ゴム又は熱可塑性エラストマーを改質対象物とする表面改質方法であって、上記改質対象物の表面に重合開始点を形成する工程1と、上記重合開始点を起点にして、モノマーをラジカル重合させ、上記改質対象物の表面にポリマー鎖を成長させる工程2と、上記ポリマー鎖を機能化処理する工程3とを含む。
【0024】
アクリル酸などのモノマーを改質対象物表面に重合してポリマー鎖を形成し、そのポリマー鎖により摺動性などの機能を付与できる。その一方で、形成されるポリアクリル酸のポリマー鎖は、側鎖のカルボキシル基によって表面が酸性を示す懸念があり、注射器のガスケットなどに適用する場合は薬液に、カテーテルに適用する場合はタンパク質などの体内環境に影響を与えるおそれがある。そのため、表面は、中性又はカチオン性、更には疎水性などの性質を持っていることが好ましい。加えて、カテーテルなどの体内に入れるものには抗菌性も要求され、表面に銀などを導入し、その機能を付与することも望ましい。
【0025】
本発明は、改質対象物の表面にポリマー鎖を形成した後、更にそのポリマー鎖に中性化、疎水化、カチオン化、抗菌化などの機能化処理を施す表面改質方法であるので、用途などに応じて所望の性能や機能を持つポリマーブラシを提供できる。そのため、摺動性や摺動の繰り返しに対する耐久性、シール性が得られるとともに、銀やフッ素化合物などの処理により抗菌性や疎水性も付与でき、また中性化やカチオン化などの他の機能についても、そのような機能を持つ化合物とポリマー鎖を反応させる方法などによって機能付与が可能である。従って、本発明によると、所望の機能を持つ注射器用ガスケット、カテーテル、タイヤなどの表面改質弾性体を容易に提供できる。
【0026】
工程1では、加硫成形後のゴム又は成形後の熱可塑性エラストマー(改質対象物)の表面に重合開始点を形成する。
上記加硫ゴム、上記熱可塑性エラストマーとしては、二重結合に隣接する炭素原子(アリル位の炭素原子)を有するものが好適に使用される。
【0027】
改質対象物としてのゴムとしては、スチレンブタジエンゴム、ブタジエンゴム、イソプレンゴム、天然ゴム、脱タンパク天然ゴムなどのジエン系ゴム、及びイソプレンユニットを不飽和度として数パーセント含むブチルゴム、ハロゲン化ブチルゴムなどが挙げられる。ブチルゴム、ハロゲン化ブチルゴムの場合、加硫ゴムからの抽出物が少なくなる点から、トリアジンによる架橋ゴムが好ましい。この場合、受酸剤を含んでもよく、好適な受酸剤としては、ハイドロタルサイト、炭酸マグネシウムが挙げられる。
【0028】
他のゴムの場合は、硫黄加硫が好ましい。その場合、硫黄加硫で一般に使用されている加硫促進剤、酸化亜鉛、フィラー、シランカップリンング剤などの配合剤を添加してもよい。フィラーとしては、カーボンブラック、シリカ、クレー、タルク、炭酸カルシウムなどを好適に使用できる。
【0029】
なお、ゴムの加硫条件は適宜設定すれば良く、ゴムの加硫温度は、好ましくは150℃以上、より好ましくは170℃以上、更に好ましくは175℃以上である。
【0030】
熱可塑性エラストマーとしては、例えば、可塑性成分(ハードセグメント)の集まりが架橋点の役割を果たすことにより常温でゴム弾性を有する高分子化合物(スチレン−ブタジエンスチレン共重合体などの熱可塑性エラストマー(TPE)など);熱可塑性成分及びゴム成分が混合され架橋剤によって動的架橋が行われたゴム弾性を有する高分子化合物(スチレン系ブロック共重合体又はオレフィン系樹脂と、架橋されたゴム成分とを含むポリマーアロイなどの熱可塑性エラストマー(TPV)など)が挙げられる。
【0031】
また、他の好適な熱可塑性エラストマーとして、ナイロン、ポリエステル、ウレタン、ポリプロピレン、及びそれらの動的架橋熱可塑性エラストマーが挙げられる。動的架橋熱可塑性エラストマーの場合、ハロゲン化ブチルゴムを熱可塑性エラストマー中で動的架橋したものが好ましい。この場合の熱可塑性エラストマーは、ナイロン、ウレタン、ポリプロピレン、SIBS(スチレン−イソブチレン−スチレンブロック共重合体)などが好ましい。
【0032】
重合開始点は、例えば、改質対象物の表面に光増感剤を吸着させることで形成される。光増感剤としては、例えば、カルボニル化合物、テトラエチルチウラムジスルフィドなどの有機硫黄化合物、過硫化物、レドックス系化合物、アゾ化合物、ジアゾ化合物、ハロゲン化合物、光還元性色素などが挙げられ、なかでも、カルボニル化合物が好ましい。
【0033】
光増感剤としてのカルボニル化合物としては、ベンゾフェノン及びその誘導体が好ましく、例えば、下記式(1)で表されるベンゾフェノン系化合物を好適に使用できる。
【化2】
【0034】
(式(1)において、R
1〜R
5及びR
1′〜R
5′は、同一若しくは異なって、水素原子、アルキル基、ハロゲン(フッ素、塩素、臭素、ヨウ素)、水酸基、1〜3級アミノ基、メルカプト基、又は酸素原子、窒素原子、硫黄原子を含んでもよい炭化水素基を表し、隣り合う任意の2つが互いに連結し、それらが結合している炭素原子と共に環構造を形成してもよい。)
【0035】
ベンゾフェノン系化合物の具体例としては、ベンゾフェノン、キサントン、9−フルオレノン、2,4−ジクロロベンゾフェノン、o−ベンゾイル安息香酸メチル、4,4′−ビス(ジメチルアミノ)ベンゾフェノン、4,4′−ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノンなどが挙げられる。なかでも、良好にポリマーブラシが得られるという点から、ベンゾフェノン、キサントン、9−フルオレノンが特に好ましい。
【0036】
ベンゾフェノン系化合物として、フルオロベンゾフェノン系化合物も好適に使用でき、例えば、下記式で示される2,3,4,5,6−ペンタフルオロベンゾフェノン、デカフルオロベンゾフェノンなどが挙げられる。
【化3】
【0037】
ベンゾフェノン系化合物などの光増感剤の改質対象物表面への吸着方法は、公知の方法を用いれば良い。例えば、ベンゾフェノン系化合物については、対象物の改質する表面部位を、ベンゾフェノン系化合物を有機溶媒に溶解させて得られた溶液で処理することで表面に吸着させ、必要に応じて有機溶媒を乾燥により蒸発させることにより、重合開始点が形成される。表面処理方法としては、該ベンゾフェノン系化合物溶液を改質対象物の表面に接触させることが可能であれば特に限定されず、例えば、該ベンゾフェノン系化合物溶液の塗布、吹き付け、該溶液中への浸漬などが好適である。更に、一部の表面にのみ表面改質が必要なときには、必要な一部の表面にのみ増感剤を吸着させればよく、この場合には、例えば、該溶液の塗布、該溶液の吹き付けなどが好適である。上記溶媒としては、メタノール、エタノール、アセトン、ベンゼン、トルエン、メチルエチルケトン、酢酸エチル、THFなどを使用できるが、改質対象物を膨潤させない点、乾燥・蒸発が早い点でアセトンが好ましい。
【0038】
また、改質対象部位にベンゾフェノン系化合物溶液による表面処理を施して光増感剤を吸着させた後、更に光を照射して改質対象物の表面に化学結合させることが好ましい。例えば、波長300〜450nm(好ましくは300〜400nm、より好ましくは350〜400nm)の紫外線を照射して、ベンゾフェノン系化合物を表面に固定化できる。前記工程1及び該固定化においては、ゴム表面の水素が引き抜かれ、ベンゾフェノンのC=Oの炭素とゴム表面の炭素に共有結合が形成されると同時に、引き抜かれた水素がC=Oの酸素に結合し、C−O−Hが形成される。また、この水素引き抜き反応は改質対象物のアリル位の水素で選択的に行われるため、ゴムはアリル水素を持つブタジエン、イソプレンユニットを含むものが好ましい。
【0040】
なかでも、改質対象物の表面を光増感剤で処理することで該光増感剤を表面に吸着させ、次いで、処理後の表面に300〜400nmのLED光を照射することにより、重合開始剤を形成することが好ましく、特に、改質対象物の表面にベンゾフェノン系化合物溶液による表面処理を施して光増感剤を吸着させた後、更に処理後の表面に300〜400nmのLED光を照射することで、吸着させた光増感剤を表面に化学結合させることが好ましい。ここで、LED光の波長は、355〜380nmが好適である。
【0041】
工程2では、前記重合開始点を起点にして、モノマーをラジカル重合させ、前記改質対象物の表面にポリマー鎖を成長させる。
モノマーは、工程2〜3で作製するポリマー鎖に付与する性能や機能に応じて、適宜選択すればよく、例えば、置換基や側鎖などにイオン性基を有するイオン性モノマーが挙げられる。この場合、工程2でイオン性モノマーに起因する摺動性などの機能を発揮するポリマー鎖が作製されるとともに、更に工程3で抗菌性、疎水性などの機能も容易に追加できる。
【0042】
イオン性モノマーとしては、例えば、アンモニウム、ホスホニウムなどの正の荷電を有するモノマー(カチオン性モノマー);スルホン酸基、カルボキシル基、リン酸基、ホスホン酸基などの負の荷電を有するか、又は負の荷電に解離しうる酸性基を有するモノマー(アニオン性モノマー)が挙げられる。
【0043】
イオン性モノマーの具体例としては、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、3−ビニルプロピオン酸、ビニルスルホン酸、2−スルホエチル(メタ)アクリレート、3−スルホプロピル(メタ)アクリレート、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、スチレンスルホン酸;アリルアミン、2−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート;3−トリメチルアンモニウムプロピル(メタ)アクリレート、3−トリメチルアンモニウムプロピル(メタ)アクリルアミドなどが挙げられる。なかでも、工程2〜3により種々の機能を付与できるという点から、アクリル酸、メタクリル酸が好ましい。これらは単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0044】
工程2のモノマーのラジカル重合の方法としては、ベンゾフェノン系化合物などが吸着又は共有結合した改質対象物の表面にモノマー(液体)若しくはそれらの溶液を塗工(噴霧)し、又は、該改質対象物をモノマー(液体)若しくはそれらの溶液に浸漬し、紫外線などの光を照射することでラジカル重合(光ラジカル重合)が進行し、該改質対象物表面にポリマー鎖が成長する。更に前記塗工後に、表面に透明なガラス・PET・ポリカーボネートなどで覆い、その上から紫外線などの光を照射することでラジカル重合(光ラジカル重合)を進行させ、改質対象物表面にポリマー鎖成長させることもできる。
【0045】
工程2は、還元剤又は抗酸化物質が添加されたモノマーを光照射することでラジカル重合(光ラジカル重合)を進行させることが好ましい。この場合、還元剤又は抗酸化物質が系内の酸素を補足するため、望ましい。還元剤又は抗酸化物質が添加されたモノマーは、それぞれの成分が混合しているものでも、分離しているものでもよい。また、工程1で得られた改質対象物にモノマーを接触させた後、そこに更に還元剤、抗酸化物質を添加しても、前記成分を先ず混合しその混合材料を該改質対象物に接触させてもよい。
【0046】
具体的には、工程1で得られた光増感剤による重合開始点が表面に形成された改質対象物と、モノマー(液体)若しくはその溶液に還元剤又は抗酸化物質の溶液が添加されたものとを接触させた後に(浸漬、塗布など)、又は、該改質対象物とモノマー(液体)若しくはその溶液とを接触させ、更にその上に還元剤又は抗酸化物質の溶液を載置した後に、光照射することによってラジカル重合を実施し、ポリマー鎖形成できる。
【0047】
還元剤、抗酸化物質としては特に限定されず、このような作用を有する化合物を適宜使用できる。例えば、レチノール、デヒドロレチノール、酢酸レチノール、パルミチン酸レチノール、レチナール、レチノイン酸、ビタミンA油などのビタミンA類、それらの誘導体及びそれらの塩;α−カロテン、β−カロテン、γ−カロテン、クリプトキサンチン、アスタキサンチン、フコキサンチンなどのカロテノイド類及びその誘導体;ピリドキシン、ピリドキサール、ピリドキサール−5−リン酸エステル、ピリドキサミンなどのビタミンB類、それらの誘導体及びそれらの塩;アスコルビン酸、アスコルビン酸ナトリウム、ステアリン酸アスコルビル、パルミチン酸アスコルビル、ジパルミチン酸アスコルビル、アスコルビン酸リン酸マグネシウムなどのビタミンC類、それらの誘導体及びそれらの塩;
エルゴカルシフェロール、コレカルシフェロール、1,2,5−ジヒドロキシ−コレカルシフェロールなどのビタミンD類、それらの誘導体及びそれらの塩;α−トコフェロール、β−トコフェロール、γ−トコフェロール、δ−トコフェロール、α−トコトリエノール、β−トコトリエノール、γ−トコトリエノール、δ−トコトリエノール、酢酸トコフェロール、ニコチン酸トコフェロールなどのビタミンE類、それらの誘導体及びそれらの塩;トロロックス、その誘導体及びそれらの塩;ジヒドロキシトルエン、ブチルヒドロキシトルエン、ブチルヒドロキシアニソール、ジブチルヒドロキシトルエン、α−リポ酸、デヒドロリポ酸、グルタチオン、その誘導体及びそれらの塩;尿酸、エリソルビン酸、エリソルビン酸ナトリウムなどのエリソルビン酸、その誘導体及びそれらの塩;没食子酸、没食子酸プロピルなどの没食子酸、その誘導体及びそれらの塩;ルチン、α−グリコシル−ルチンなどのルチン、その誘導体及びそれらの塩;トリプトファン、その誘導体及びそれらの塩;ヒスチジン、その誘導体及びそれらの塩;N−アセチルシステイン、N−アセチルホモシステイン、N−オクタノイルシステイン、N−アセチルシステインメチルエステルなどのシステイン誘導体及びそれらの塩;N,N’−ジアセチルシスチンジメチルエステル、N,N’−ジオクタノイルシスチンジメチルエステル、N,N’−ジオクタノイルホモシスチンジメチルエステルなどのシスチン誘導体及びそれらの塩;カルノシン、その誘導体及びそれらの塩;ホモカルノシン、その誘導体及びそれらの塩;アンセリン、その誘導体及びそれらの塩;カルシニン、その誘導体及びそれらの塩;ヒスチジン及び/又はトリプトファン及び/又はヒスタミンを含むジペプチド又はトリペプチド誘導体及びそれらの塩;フラバノン、フラボン、アントシアニン、アントシアニジン、フラボノール、クエルセチン、ケルシトリン、ミリセチン、フィセチン、ハマメリタンニン、カテキン、エピカテキン、ガロカテキン、エピガロカテキン、エピカテキンガレート、エピガロカテキンガレートなどのフラボノイド類;タンニン酸、コーヒー酸、フェルラ酸、プロトカテク酸、カルコン、オリザノール、カルノソール、セサモール、セサミン、セサモリン、ジンゲロン、クルクミン、テトラヒドロクルクミン、クロバミド、デオキシクロバミド、ショウガオール、カプサイシン、バニリルアミド、エラグ酸、ブロムフェノール、フラボグラシン、メラノイジン、リボフラビン、リボフラビン酪酸エステル、フラビンモノヌクレオチド、フラビンアデニンヌクレオチド、ユビキノン、ユビキノール、マンニトール、ビリルビン、コレステロール、エブセレン、セレノメチオニン、セルロプラスミン、トランスフェリン、ラクトフェリン、アルブミン、スーパーオキシドジスムターゼ、カタラーゼ、グルタチオンペルオキシダーゼ、メタロチオネイン、O−ホスホノ−ピリドキシリデンローダミンなどが挙げられる。これらは単独又は2種以上を併用して用いてもよい。
【0048】
なかでも、酸素の補足能が高いという理由から、リボフラビン、アスコルビン酸、α−トコフェロール、β−カロテン、尿酸が好ましく、リボフラビン、アスコルビン酸が特に好ましい。
【0049】
還元剤、抗酸化物質の溶液を用いる場合、該還元剤、抗酸化物質の濃度は、10
−4〜1質量%が好ましく、10
−3〜0.1質量%がより好ましい。
また、ラジカル重合性モノマーの使用量は、形成するポリマー鎖の長さ、その鎖により発揮される性能などにより、適宜設定すればよい。更に、還元剤、抗酸化物質の使用量も系内の酸素の補足などの点から、適宜設定すればよい。
【0050】
塗工(噴霧)溶媒、塗工(噴霧)方法、浸漬方法、照射条件などは、従来公知の材料及び方法を適用できる。なお、ラジカル重合性モノマーの溶液としては、水溶液又は使用する光増感剤(ベンゾフェノン系化合物など)を溶解しない有機溶媒に溶解させた溶液が使用される。また、ラジカル重合性モノマー(液体)、その溶液として、4−メチルフェノールなどの公知の重合禁止剤を含むものも使用できる。
【0051】
本発明では、モノマー(液体)若しくはその溶液の塗布後又はモノマー若しくはその溶液への浸漬後、光照射することでモノマーのラジカル重合が進行するが、主に紫外光に発光波長をもつ高圧水銀灯、メタルハライドランプ、LEDランプなどのUV照射光源を好適に利用できる。照射光量は、重合時間や反応の進行の均一性を考慮して適宜設定すればよい。また、反応容器内における酸素などの活性ガスによる重合阻害を防ぐために、光照射時又は光照射前において、反応容器内や反応液中の酸素を除くことが好ましい。そのため、反応容器内や反応液中に窒素ガスやアルゴンガスなどの不活性ガスを導入して酸素などの活性ガスを反応系外に排出し、反応系内を不活性ガス雰囲気に置換すること、などが適宜行われている。更に、酸素などの反応阻害を防ぐために、UV照射光源をガラスやプラスチックなどの反応容器と反応液や改質対象物の間に空気層(酸素含有量が15%以上)が入らない位置に設置する、などの工夫も適宜行われる。
【0052】
紫外線を照射する場合、その波長は、好ましくは300〜450nm、より好ましくは300〜400nmである。これにより、改質対象物の表面に良好にポリマー鎖を形成できる。光源としては高圧水銀ランプや、365nmの中心波長を持つLED、375nmの中心波長を持つLEDなどを使用することが出来る。なかでも、300〜400nmのLED光を照射することが好ましく、355〜380nmのLED光を照射することがより好ましい。特に、ベンゾフェノンの励起波長366nmに近い365nmの中心波長を持つLEDなどが効率の点から好ましい。
【0053】
工程2で形成されるポリマー鎖の長さは、好ましくは10〜50000nm、より好ましくは100〜50000nmである。10nm未満であると、良好な摺動性が得られない傾向がある。50000nmを超えると、摺動性の更なる向上が期待できず、高価なモノマーを使用するために原料コストが上昇する傾向があり、また、表面処理による表面模様が肉眼で見えるようになり、美観を損ねたり、シール性が低下する傾向がある。
【0054】
上記工程2では、重合開始点を起点にして2種以上のモノマーをラジカル重合させてもよく、また、改質対象物の表面に複数のポリマー鎖を成長させてもよい。本発明の表面改質方法は、ポリマー鎖間を架橋してもよい。この場合、ポリマー鎖間には、イオン架橋、酸素原子を有する親水性基による架橋、ヨウ素などのハロゲン基を有する化合物による架橋が形成されてもよい。
【0055】
工程3では、工程2で形成されたポリマー鎖に機能化処理が施される。該工程3は、形成されたポリマー鎖に更に機能を追加するもので、例えば、ポリマー鎖の側鎖の官能基を必要に応じてアンモニア水などに接触させた後に、塩転換すること、該官能基と他の官能基などの機能性基を持つ化合物とを反応させることなど、適宜選択した方法で所望の性能や機能を付加し、種々の機能を併せ持つ表面改質弾性体を作製できる。
【0056】
例えば、工程2でアクリル酸やメタクリル酸を重合してポリ(メタ)クリル酸のポリマー鎖を作製し、更に該ポリマー鎖に抗菌性を付与する場合には、工程3でポリ(メタ)クリル酸と抗菌性金属塩とを塩転換し、抗菌性金属をポリマー鎖に与えればよい。塩転換は、公知の方法を適用すればよく、例えば、ポリマー鎖と抗菌性金属塩の水溶液(銀塩の水溶液やアンモニア水溶液、金を王水に溶解させた溶液など)とを接触させる方法(浸漬、塗布など)などにより実施できる。
【0057】
抗菌性金属塩としては、金、銀、銅、白金、亜鉛、ニッケル、マンガン、コバルト、スズなどの抗菌性金属の硫酸塩、炭酸塩、酢酸塩、硝酸塩、ハロゲン化塩、水酸化物などの塩が挙げられる。なかでも、銀塩は、安価に入手しやすく、安全性も高い点で好適である。
【0058】
銀塩(銀化合物)の具体例としては、酢酸銀、炭酸銀、蟻酸銀、プロピオン酸銀、酪酸銀、クエン酸銀、乳酸銀などの有機酸銀;塩化銀、ヨウ化銀、臭化銀、フッ化銀などのハロゲン化銀;炭酸銀、硫酸銀、硝酸銀、亜硝酸銀、塩素酸銀、過塩素酸銀などの無機酸銀などが挙げられる。亜鉛塩(亜鉛化合物)の具体例としては、硫酸亜鉛、塩化亜鉛、酢酸亜鉛などが挙げられる。銅塩(銅化合物)の具体例としては、硫酸銅、塩化銅、水酸化銅、酢酸銅などが挙げられる。また、金、白金、ニッケル、マンガン、コバルト、スズなど、他の金属塩も公知のものを使用できる。これらは単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0059】
また、工程2でポリ(メタ)クリル酸のポリマー鎖を作製し、更に該ポリマー鎖にアルカリ性、中性又はカチオン性を付与する場合には、工程3でポリ(メタ)クリル酸とアルカリ性塩とを塩転換し、アルカリ性金属をポリマー鎖に与えればよい。塩転換は、公知の方法を適用して実施すればよく、例えば、ポリマー鎖とアルカリ性塩の水溶液とを接触させる方法などにより実施できる。
【0060】
アルカリ性塩としては、ナトリウム、カリウム、リチウム塩などのアルカリ金属塩;マグネシウム、カルシウム塩などのアルカリ土類金属塩などが挙げられる。具体的には、アルカリ金属塩は、アルカリ金属の無機酸塩、炭酸塩、リン酸塩などが挙げられ、例えば、塩化リチウム、硝酸リチウム、硫酸リチウム、炭酸リチウム、過塩素酸リチウム、塩化ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、硝酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、硫酸ナトリウム、硫酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、過塩素酸ナトリウム、硝酸カリウム、硫酸カリウム、炭酸カリウム、塩化カリウム、臭化カリウムなどが例示される。アルカリ土類金属塩は、アルカリ土類金属の無機酸塩、炭酸塩、リン酸塩などが挙げられ、例えば、硫酸カルシウム、硝酸カルシウム、塩化カルシウム、硫酸マグネシウムなどが例示される。これらは単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0061】
また、工程2でポリ(メタ)クリル酸のポリマー鎖を作製し、工程3でポリ(メタ)クリル酸とアミン化合物とをアミド化反応させることで、アミン化合物中の機能性基(種々の官能基など)を導入することもできる。例えば、工程2で作製されたポリマー鎖に疎水性を付与する場合には、工程3でポリ(メタ)クリル酸とフッ素系アミン化合物とをアミド化反応させ、フッ素系アミン化合物をポリマー鎖に与えればよい。アミド化は、公知の方法を適用すればよく、例えば、硫酸などの酸存在下で、ポリマー鎖のカルボキシル基と、フッ素系アミン化合物などのアミン化合物のアミノ基とを反応させることで、フルオロアルキル基などの機能性基(官能基)を導入する方法などにより実施できる。更に、ポリマー鎖のカルボキシル基とフッ素系アミン化合物などのアミン化合物のアミン基を縮合剤を用いて縮合させ、アミド化する方法や、ポリマー鎖のカルボキシル基を塩化チオニルを用いて、塩素化し、そこに該アミン化合物のアミン基を水酸化ナトリウムなどの塩基性条件下で縮合させてアミド化する方法などで実施することができる。
【0062】
また、工程2でポリ(メタ)クリル酸のポリマー鎖を作製し、工程3でポリ(メタ)クリル酸と水酸基含有化合物とをエステル化反応させることで、水酸基含有化合物中の機能性基(種々の官能基など)を導入することができる。例えば、ポリマー鎖のカルボキシル基とフッ素系水酸基含有化合物などの水酸基含有化合物の水酸基を酸の存在下で縮合させ、エステル化する方法などで実施することができる。
【0063】
フッ素系アミン化合物としては、フッ素化有機脂肪族アミンなどを使用でき、例えば、下記式で示される化合物などが挙げられる。
CF
3(CF
2)
n−(CX
2)
p−NH
2−m((CF
2)
nCF
3)
m
(式中、Xは水素又はフッ素を表す。nは同一又は異なって1〜10の整数を表す。mは0〜2の整数を表す。pは0〜4の整数を表す。)
【0064】
フッ素化脂肪族アミンの具体例としては、2,2,2−トリフルオロエチルアミン、2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロピルアミン、2,2,3,3,4,4,4−へプタフルオロブチルアミン、2,2,3,3,4,4,5,5,5−ノナフルオロペンチルアミン、2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,6−ウンデカフルオロヘキシルアミン、トリフルオロメチルアミン、パーフルオロエチルアミン、パーフルオロプロピルアミン、パーフルオロブチルアミン、パーフルオロペンチルアミン、パーフルオロヘキシルアミン、パーフルオロヘプチルアミン、パーフルオロオクチルアミン、パーフルオロデシルアミン、ジフルオロエタノールアミンなどが挙げられる。これらは単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0065】
フッ素系水酸基含有化合物としては、1H,1H−Heptafluorobutan−1−ol(CF
3CF
2CF
2CH
2OH)、1H,1H−Nonafluoropentan−1−ol(CF
3(CF
2)
3CH
2OH)、1H,1H−Perfluorononan−1−ol(CF
3(CF
2)
7CH
2OH)、1H,1H−2,5−Bis(trifluoromethyl)−3,6−dioxaper fluorononanol(CF
3CF
2CF
2OCF(CF
3)CF
2OCF(CF
3)CH
2OH)、3,3,3−Trifluoropropan−1−ol(CF
3CH
2CH
2OH)、3,3,4,4,4−Pentafluorobutan−1−ol(CF
3CF
2CH
2CH
2OH)、3,3,4,4−Tetrafluoro−3−(trifluoromethyl)butan−1−ol(CF
3CF(CF
3)CH
2CH
2OH)、1H,1H,2H,2H−Nonafluorohexan−1−ol(CF
3(CF
2)
3CH
2CH
2OH)、1H,1H,2H,3H,3H−Perfluorononane−1,2−diol(CF
3(CF
2)
5CH
2CH(OH)CH
2OH)、1H,1H,2H,3H,3H−Perfluoroundecane−1,2−diol(CF
3(CF
2)
7CH
2CH(OH)CH
2OH)などが挙げられる。これらは単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0066】
加硫ゴム又は熱可塑性エラストマーに前記表面改質方法を適用することで、表面改質弾性体が得られる。例えば、水存在下又は乾燥状態での摺動性に優れた表面改質弾性体が得られ、これは低摩擦で、水の抵抗が少ないという点にも優れている。更に、抗菌性金属塩、疎水性、中性、カチオン性など、所望の機能も付与できる。また、三次元形状の固体(弾性体など)の少なくとも一部に前記方法を適用することで、改質された表面改質弾性体が得られる。更に、該表面改質弾性体の好ましい例としては、ポリマーブラシ(高分子ブラシ)が挙げられる。ここで、ポリマーブラシとは、表面開始リビングラジカル重合によるgrafting fromのグラフトポリマーを意味する。また、グラフト鎖は、改質対象物の表面から略垂直方向に配向しているものがエントロピーが小さくなり、グラフト鎖の分子運動が低くなることにより、摺動性が得られて好ましい。更に、ブラシ密度として、0.01chains/nm
2以上である準濃度及び濃度ブラシが好ましい。
【0067】
また、加硫ゴム又は熱可塑性エラストマーに前記表面改質方法を適用することで、改質された表面を少なくとも一部に有する注射器用ガスケットを製造できる。改質は、少なくともガスケット表面の摺動部に施されていることが好ましく、表面全体に施されていてもよい。
【0068】
図1は、注射器用ガスケットの実施形態の側面図の一例である。
図1に示されているガスケット1は、注射器の注射筒内周面と接触する外周面に、連続して円周方向に突出した3つの環状突起部11a、11b、11cを有している。ガスケット1において、前記表面改質を適用する部位としては、(1)環状突起部11a、11b、11cなどのシリンジと接する突起部表面、(2)環状突起部11a、11b、11cを含む側面の表面全部、(3)該側面の表面全部と底面部の表面13、などが挙げられる。
【0069】
同様に、加硫ゴム又は熱可塑性エラストマーに前記表面改質方法を適用することで、改質された表面を少なくとも一部に有するカテーテルを製造できる。改質は、少なくともカテーテル表面など、体液に接触する部分に施されていることが好ましく、表面全体に施されていてもよい。
【0070】
更に、乗用車などの車両に使用されるタイヤのトレッドに形成された溝に前記表面改質方法を適用し、溝にポリマーブラシを生成させることにより、ウエットや雪上路面における溝表面の流体抵抗が下がったり、水との接触角が上がったりするので、水や雪の排除及びはけを向上させ、グリップ性を改善できる。
【0071】
図2は、空気入りタイヤ(全体不図示)のトレッド部2の展開図の一例、
図3は、
図2のA1−A1断面図の一例を示す。
図2〜3において、中央縦溝3a(溝深さD1)、ショルダー縦溝3b(溝深さD2)は、タイヤ周方向に直線状にのびるストレート溝で構成される。このようなストレート溝は、排水抵抗を小さくし、直進走行時に高い排水性能を発揮しうる。
【0072】
また、空気入りタイヤは、ショルダー縦溝3b側でタイヤ周方向にのびる細溝5(溝深さD3)、この細溝5から中央縦溝3aに向かって傾斜してのびる中間傾斜溝6(溝深さD4)、細溝5よりもタイヤ軸方向内側に位置しかつタイヤ周方向で隣り合う中間傾斜溝6、6間を接続する継ぎ溝7(溝深さD5)、ショルダー縦溝3bからタイヤ外間に向かうショルダー横溝8、8a、8b(溝深さD6)などが配され、このような溝でも排水性能が発揮しうる。そして、これらの溝に前記方法を適用することで、前述の効果が発揮される。
【実施例】
【0073】
以下、実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。
【0074】
(実施例1)
イソプレンユニットを含むクロロブチルゴム(不飽和度:1〜2%)をトリアジンで架橋した加硫ゴム(180℃で10分加硫)をベンゾフェノンの1wt%アセトン溶液に浸漬して、加硫ゴム表面にベンゾフェノンを吸着させた。その後、加硫ゴムを取り出し乾燥した。次いで、加硫ゴム表面に365nmの波長を持つLEDライトを10分照射し、ベンゾフェノンを化学結合させた後、未反応のベンゾフェノンを除くために表面をアセトンで洗浄した。
乾燥した加硫ゴムをアクリル酸水溶液(2.5M:18gのアクリル酸を100mLの水に溶解)の入ったガラス反応容器に浸漬し、その上にリボフラビン水溶液(濃度0.0093mmol/L)を入れた。水溶液はモノマー液と混ざらず、かつ水溶液はモノマー液のより比重が軽いことから上層に分離した状態になった。そして365nmの波長を持つLEDライトで、紫外線を1時間照射してラジカル重合を行ってゴム表面にポリマー鎖を成長させた。
得られたポリマー鎖が表面に形成された加硫ゴムを、硝酸銀水溶液(0.01M)に5時間浸漬した後、水で洗浄して、乾燥させ、表面改質弾性体(ポリマーブラシ)を作製した。
【0075】
(実施例2)
得られたポリマー鎖が表面に形成された加硫ゴムを、アンモニア水に2時間浸漬して、水洗したのち、硝酸銀水溶液に浸漬した以外は実施例1と同様にして表面改質弾性体(ポリマーブラシ)を作製した。
【0076】
(実施例3)
硝酸銀水溶液を、炭酸銀のアンモニア・希硝酸水溶液に変更した以外は実施例1と同様にして表面改質弾性体(ポリマーブラシ)を作製した。
【0077】
(実施例4)
硝酸銀水溶液を、塩化銀のアンモニア水溶液に変更した以外は実施例1と同様にして表面改質弾性体(ポリマーブラシ)を作製した。
【0078】
(実施例5)
イソプレンユニットを含むクロロブチルゴム(不飽和度:1〜2%)をトリアジンで架橋した加硫ゴム(180℃で10分加硫)をベンゾフェノンの1wt%アセトン溶液に浸漬して、加硫ゴム表面にベンゾフェノンを吸着させた。その後、加硫ゴムを取り出し乾燥した。次いで、加硫ゴム表面に365nmの波長を持つLEDライトを10分照射し、ベンゾフェノンを化学結合させた後、未反応のベンゾフェノンを除くために表面をアセトンで洗浄した。
乾燥した加硫ゴムをアクリル酸水溶液(2.5M:18gのアクリル酸を100mLの水に溶解)の入ったガラス反応容器に浸漬し、その上にリボフラビン水溶液(濃度0.0093mmol/L)を入れた。水溶液はモノマー液と混ざらず、かつ水溶液はモノマー液のより比重が軽いことから上層に分離した状態になった。そして365nmの波長を持つLEDライトで、紫外線を1時間照射してラジカル重合を行ってゴム表面にポリマー鎖を成長させた。
得られたポリマー鎖が表面に形成された加硫ゴムにおいて、重合表面のアクリル酸の側鎖のカルボキシル基(COOH基)に、1H,1H−パーフルオロヘプチルアミン(CF
3(CF
2)
5CH
2NH
2)を、硫酸の存在下でアミド化反応させ(6時間)、その後、洗浄して、表面改質弾性体(ポリマーブラシ)を作製した。
【0079】
(比較例1)
クロロブチルゴムをトリアジンで架橋した加硫ゴム(180℃で10分加硫)を使用した。
【0080】
実施例、比較例で作製した表面改質弾性体を以下の方法で評価した。
(ポリマー鎖の長さ)
加硫ゴム表面に形成されたポリマー鎖の長さは、ポリマー鎖が形成された改質ゴム断面を、SEMを使用し、加速電圧15kV、1000倍で測定した。撮影されたポリマー層の厚みをポリマー鎖の長さとした。
【0081】
(静摩擦係数及び動摩擦係数)
表面改質弾性体の表面の静摩擦係数、動摩擦係数、及びそれぞれに水を200μL滴下したサンプル表面の静摩擦係数、動摩擦係数を、ASTM D1894に規定された方法に準拠して測定した。また、サンプルは、ホウケイ酸ガラスと接触させて、ホウケイ酸ガラスとの間の摩擦力を測定した。なお、摩擦係数の測定のための荷重は200g、引張速度は600mm/min、ロード距離は10cmの条件で測定した。装置は、ヘイドンtype14(新東科学(株)製)を使用した。
【0082】
(銀の分析)
実施例で作製したポリマーブラシについて、銀が導入されていることをSEM−EDXによる元素分析で調べた。
【0083】
【表1】
【0084】
実施例の表面改質弾性体表面は、静摩擦係数、動摩擦係数が大きく下がり、良好な摺動性が得られることが明らかとなった。また、表面のみ改質したものであるため、シール性は、比較例1と同等であった。更に、実施例のものについて、銀が導入されていることを確認できた。
【0085】
従って、注射器のプランジャーのガスケットに適用した場合、十分なシール性とともにプランジャーのシリンジに対する摩擦力が軽減され、注射器による処置を容易にかつ正確に行うことができる。また、静摩擦係数と動摩擦係数との差が少ないため、プランジャーの押し始めとその後のプランジャー進入動作とを脈動させることなく円滑に行うことができる。更に、注射器のシリンジを熱可塑性エラストマーで作製し、その内表面にポリマー鎖を生成させたときも、上記と同様に注射器による処方を容易に行うことができる。
【0086】
また、カテーテルに適用した場合、摺動性だけでなく、銀による抗菌性も得られる。更に、塩転換されているので、薬液や体内中において悪影響を及ぼすことも少ない。
【0087】
また、乗用車などに使用されるタイヤのトレッドに形成された溝、サイドウォール、ダイヤフラム、スキーやスノーボード板の滑走面、水泳水着、道路標識、看板などの表面にポリマー鎖を形成することで、前述の効果も期待できる。