(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記特許文献1においては、ダイカストスリーブに冷却媒体通路を形成して冷却を促進する構成が記載されている。また、前記特許文献2においては、外側スリーブの剛性を高くすることで熱膨張によるダイカストスリーブの変形を抑制する構成が記載されている。前記特許文献3においては、スリーブを二重構造にすることで内側スリーブから外側スリーブへの熱伝導を低減し、スリーブが上側に曲がる熱変形を抑制する構成が記載されている。
【0005】
前記ダイカストスリーブにおいては、注湯した際に溶湯に触れるダイカストスリーブの下部の温度が高温となり、熱による膨張が発生する。従来技術に係るダイカストスリーブによれば、ダイカストスリーブの上部と下部との間で熱膨張差が発生することによってダイカストスリーブが上側に曲がる(下側に膨らむ)熱変形を十分に防止することはできなかった。
【0006】
一方、セラミック製の熱膨張率が低い材料をダイカストスリーブに適用することで、ダイカストスリーブの熱変形を抑制する技術も知られている。
しかし、セラミック製の材料は高価である上に、使用中に急にクラックが入って破壊する場合もあり、寿命予測が困難であった。
【0007】
そこで本発明は、上記現状に鑑み、スリーブが上側に曲がる熱変形の発生を安価な構成で防止することができる、ダイカストスリーブを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0009】
即ち、請求項1においては、内側スリーブと外側スリーブとの二重構造で構成され、軸心方向が略水平方向となるように配設されるダイカストスリーブであって、
前記内側スリーブを上方に押圧する押圧機構により、前記内側スリーブが前記外側スリーブの内部で上側に偏心するように押圧されて、前記内側スリーブの上側外周面が前記外側スリーブの上側内周面に当接されるとともに、前記内側スリーブの下側外周面と前記外側スリーブの下側内周面との間に間隙が形成されることにより、前記内側スリーブの上部と前記外側スリーブの上部との間の熱伝導
率が、前記内側スリーブの下部と前記外側スリーブの下部との間の熱伝導
率よりも高くなるように構成されるものである。
【0010】
請求項2においては、前記内側スリーブの下側外周面と前記外側スリーブの下側内周面との間に断熱処理が施されるものである。
【0011】
請求項3においては、前記内側スリーブは、前記外側スリーブよりも熱伝導
率の高い素材で形成されるものである。
【0012】
請求項4においては、前記内側スリーブは前記外側スリーブに対
して軸心方向の変形
が許容されるものである。
【0013】
請求項5においては、前記外側スリーブは前記内側スリーブよりも断面2次モーメントの大きい部材で形成されるものである。
【0014】
請求項6においては、前記内側スリーブは、合金層の内周面及び外周面がカーボン層で被覆されて形成されるものである。
【0015】
請求項7においては、内側スリーブと外側スリーブとの二重構造で構成されるダイカストスリーブであって、前記外側スリーブは前記内側スリーブよりも断面2次モーメントの大きい部材で形成され、前記内側スリーブは、前記外側スリーブよりも熱伝導
率の高い素材で形成されるとともに、前記外側スリーブに対
して軸心方向の変形
が許容されるものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明の効果として、以下に示すような効果を奏する。
【0017】
本発明により、ダイカストスリーブが上側に曲がる熱変形の発生を安価な構成で防止することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
次に、発明の実施の形態を説明する。
なお、本発明の技術的範囲は以下の実施例に限定されるものではなく、本明細書及び図面に記載した事項から明らかになる本発明が真に意図する技術的思想の範囲全体に、広く及ぶものである。
【0020】
[ダイカストスリーブ10]
まず始めに、本発明の第一実施形態に係るダイカストマシン等における射出スリーブであるダイカストスリーブ10の構成について、
図1及び
図2を用いて説明する。なお、本明細書においては説明の便宜上、
図1における上側及び下側を、それぞれダイカストスリーブ10の上方及び下方とし、同じく右側及び左側を、それぞれダイカストスリーブ10の前方及び後方とし、同じく紙面手前側及び紙面奥行側を、それぞれダイカストスリーブ10の右側方及び左側方として説明する。また、
図1から
図6には各方向を示す矢印を示している。
【0021】
本実施形態に係るダイカストスリーブ10は軸心方向が略水平方向である前後方向となるように配設され、注湯ラドル61から給湯口11を介してアルミニウム等の溶湯Mが注湯されるものである。具体的には
図1に示す如く、給湯機によって駆動される注湯ラドル61によって溶湯Mが汲み上げられ、上側に開口された給湯口11から溶湯Mがダイカストスリーブ10に注湯されるのである。
【0022】
本実施形態に係るダイカストスリーブ10は
図1及び
図2に示す如く、それぞれ円筒形状の内側スリーブ20と、内側スリーブ20の外周側に配設される外側スリーブ30との二重構造で構成されている。換言すれば、内側スリーブ20は外側スリーブ30の内周部に挿入されている。
【0023】
内側スリーブ20はその軸心側から順に、内周側カーボン層22a、合金層21、及び、外周側カーボン層22bの三層構造で構成される。換言すれば、内側スリーブ20は合金層21の内周面及び外周面がそれぞれ内周側カーボン層22a及び外周側カーボン層22bで被覆されて形成されているのである。なお、内側スリーブ20を三層構造とせずに、合金層21のみで構成することも可能である。
【0024】
合金層21の素材には銅合金などの高熱伝導材が用いられる。この場合、高熱伝導材とは熱伝導率が45(W/m・k)以上の材料を指すものとする。
内周側カーボン層22a及び外周側カーボン層22bは析出型のカーボンナノファイバーの表面にフラーレンが塗布されて形成されている。
【0025】
外側スリーブ30の素材にはSKD61などの工具鋼が用いられる。SKD61は熱伝導率が約30(W/m・k)であり、合金層21に用いる高熱伝導材と比較すると熱伝導率が低い。即ち、内側スリーブ20の合金層21は、外側スリーブ30よりも熱伝導性の高い素材で形成されている。
【0026】
また、外側スリーブ30の素材であるSKD61は引張強度が約1000MPa、弾性率が約190GPaであるのに対し、合金層21の素材である銅合金は引張強度が約400MPa、弾性率が約130GPaである。つまり、外側スリーブ30は内側スリーブ20よりも強度の高い素材で形成されているため、外側スリーブ30は内側スリーブ20よりも断面2次モーメントが大きくなるように構成されているのである。
【0027】
さらに、内側スリーブ20と外側スリーブ30とは、それぞれが別々に支持されており、互いの軸心方向の位置を変更可能に構成されている。換言すれば、内側スリーブ20は外側スリーブ30に対する軸心方向の変形を拘束されずに配設されているのである。
【0028】
そして、本実施形態に係るダイカストスリーブ10においては、内側スリーブ20の上部と外側スリーブ30の上部との間の熱伝導性は、内側スリーブ20の下部と外側スリーブ30の下部との間の熱伝導性よりも高くなるように構成されている。
【0029】
具体的には
図1及び
図2に示す如く、内側スリーブ20を上方に押圧する押圧機構41・41・・・により、内側スリーブ20が外側スリーブ30の内部で上側に偏心するように、内側スリーブ20の軸心方向の変形が拘束されない程度に押圧されている。
【0030】
本実施形態において、押圧機構41は外側スリーブ30と同じ素材で形成されており、外側スリーブ30の下側からねじ部材が挿入されて固定されている。なお、押圧機構は本実施形態の構成に限定されるものではなく、内側スリーブ20を上側に押圧することができれば他の構成でも差し支えない。
【0031】
そして、内側スリーブ20の上側外周面が外側スリーブ30の上側内周面に当接されるとともに、内側スリーブ20の下側外周面と外側スリーブ30の下側内周面との間に間隙Dが形成されている。これにより、内側スリーブ20の上部と外側スリーブ30の上部との間においては、互いに密接することにより
図2中の矢印α2に示す如く熱が伝導しやすくなる。これに対し、内側スリーブ20の下部と外側スリーブ30の下部との間においては、互いの間に空気層からなる間隙Dが存在するために
図2中の矢印βに示く如く熱が伝導し難くなるのである。
【0032】
本実施形態に係るダイカストスリーブ10においては上記の如く構成することにより、高温の溶湯Mをダイカストスリーブ10に注湯した際に、ダイカストスリーブ10が上側に曲がる(下側に膨らむ)熱変形の発生を防止することが可能となる。
【0033】
具体的には
図2に示す如く、溶湯Mをダイカストスリーブ10に注湯すると、内側スリーブ20の下部と外側スリーブ30の下部との間では前記の如く熱が伝導し難く構成されているため、溶湯Mの熱は熱伝導性の高い内側スリーブ20を通じて、
図2中の矢印α1に示す如く内側スリーブ20の下部から上部へと移動する。そして、内側スリーブ20の上部へと伝えられた熱は
図2中の矢印α2に示す如く内側スリーブ20の上部から外側スリーブ30の上部へと移動するのである。
【0034】
上記の如く、本実施形態に係るダイカストスリーブ10においては、内側スリーブ20の上部と外側スリーブ30の上部との間の熱伝導性を、内側スリーブ20の下部と外側スリーブ30の下部との間の熱伝導性よりも高くして、内側スリーブ20において下部から上部に熱を伝導しやすく構成している。これにより、内側スリーブ20の上部と下部との間における熱膨張差の発生を抑止することができるため、ダイカストスリーブ10が上側に曲がる(下側に膨らむ)熱変形の発生を防止することが可能となるのである。
また、本実施形態に係るダイカストスリーブ10においてはセラミック等の高価な材料を使用しないため、安価な構成とすることができる。
【0035】
また、本実施形態に係るダイカストスリーブ10においては、内側スリーブ20を外側スリーブ30よりも熱伝導性の高い素材で形成している。これにより、溶湯Mの熱を内側スリーブ20の下部から上部へと速やかに移動させることができるため、内側スリーブ20の上部と下部との間における熱膨張差の発生をより抑止することができる。この場合、内側スリーブ20における溶湯Mの熱は下部から上部へと伝えられるため、内側スリーブ20は上部と下部とが均一に熱膨張することになる。
【0036】
また、本実施形態に係るダイカストスリーブ10において、内側スリーブ20は外側スリーブ30に対する軸心方向の変形が拘束されずに配設されている。これにより、上記の如く内側スリーブ20において溶湯Mの熱が下部から上部へと伝えられて上下均一に熱膨張した際に、
図3中の矢印Sに示す如く内側スリーブ20のみが軸心方向に伸張することとなる。つまり、内側スリーブ20は外側スリーブ30に対して軸心方向の変形が拘束されていないため、熱膨張による歪を軸心方向に逃がすことが可能となる。このため、ダイカストスリーブ10における曲げの発生をより抑止できるのである。
【0037】
また、本実施形態に係るダイカストスリーブ10においては、外側スリーブ30を内側スリーブ20よりも強度の高い素材で形成し、外側スリーブ30が内側スリーブ20よりも断面2次モーメントが大きくなるように構成している。これにより、内側スリーブ20において上側に曲がる(下側に膨らむ)側に熱応力が発生した場合でも、外側スリーブ30により内側スリーブ20の熱変形を抑止することができる。換言すれば、外側スリーブ30が内側スリーブ20を変形させようとする応力に追従して変形しないため、ダイカストスリーブ10における曲げ変形をより防止できるのである。
【0038】
また、本実施形態に係るダイカストスリーブ10においては、内側スリーブ20は、合金層21の内周面を、溶湯Mであるアルミニウムと親和性の低い内周側カーボン層22aで被覆して形成している。これにより、内側スリーブ20の内周面において溶湯Mによる溶損を防止することができる。
【0039】
また、内周側カーボン層22aは溶湯Mに対して断熱効果があるため、ダイカストスリーブ10の内部における溶湯Mの温度低下を軽減させることができる。このため、注湯後のダイカストスリーブ10の内部で溶湯Mが急激に冷却されることがなくなり、不良の原因である破断チルの発生を抑止できるのである。
【0040】
また、本実施形態に係るダイカストスリーブ10においては、内側スリーブ20は、合金層21の外周面を、摩擦特性の低い外周側カーボン層22bで被覆して形成している。これにより、内側スリーブ20が
図3中の矢印Sに示す如く軸心方向に伸張する際に、外側スリーブ30等からの摩擦抵抗を受けにくくなる。つまり、内側スリーブ20の熱膨張による歪を軸心方向に滑らかに逃がすことがより可能となるのである。
【0041】
また、本実施形態に係るダイカストスリーブ10においては、内側スリーブ20を外側スリーブ30から着脱可能に構成している。これにより、内周側カーボン層22a又は外周側カーボン層22bが摩耗した場合などの交換作業を容易とし、作業性を向上させると同時に材料費などによるコスト増を抑制する構成としている。
【0042】
[第二実施形態]
次に、第二実施形態に係るダイカストスリーブ110の構成について、
図4及び
図5を用いて説明する。なお、本実施形態以降において説明するダイカストスリーブにおいて、既述の実施形態と共通する部分については、同符号を付してその説明を省略する。
【0043】
本実施形態に係るダイカストスリーブ110においては、内側スリーブ20の上部と外側スリーブ30の上部との間の熱伝導性は、内側スリーブ20の下部と外側スリーブ30の下部との間の熱伝導性よりも高くなるように構成されている。
具体的には
図4及び
図5に示す如く、内側スリーブ20の下側外周面と外側スリーブ30の下側内周面との間に断熱部材51が介挿されることにより、断熱処理が施されているのである。断熱部材51にはセラミック等の断熱素材が用いられる。
【0044】
本実施形態においては上記の如く構成することにより、内側スリーブ20の上部と外側スリーブ30の上部との間においては、互いに直接的に密接することにより
図5中の矢印α2に示す如く熱が伝導しやすくなる。これに対し、内側スリーブ20の下部と外側スリーブ30の下部との間においては断熱部材51が存在するために
図5中の矢印βに示す如く熱が伝導し難くなるのである。
【0045】
このように、溶湯Mをダイカストスリーブ110に注湯すると、内側スリーブ20の下部と外側スリーブ30の下部との間では前記の如く熱が伝導し難く構成されているため、溶湯Mの熱は熱伝導性の高い内側スリーブ20を通じて、
図5中の矢印α1に示す如く内側スリーブ20の下部から上部へと移動する。そして、内側スリーブ20の上部へと伝えられた熱は
図5中の矢印α2に示す如く内側スリーブ20の上部から外側スリーブ30の上部へと移動するのである。
【0046】
上記の如く、本実施形態に係るダイカストスリーブ110においては、前記第一実施形態と同様に、内側スリーブ20の上部と外側スリーブ30の上部との間の熱伝導性を、内側スリーブ20の下部と外側スリーブ30の下部との間の熱伝導性よりも高くして、内側スリーブ20において下部から上部に熱を伝導しやすく構成している。これにより、内側スリーブ20の上部と下部との間における熱膨張差の発生を抑止することができるため、ダイカストスリーブ110が上側に曲がる(下側に膨らむ)熱変形の発生を防止することが可能となるのである。
【0047】
[第三実施形態]
次に、第三実施形態に係るダイカストスリーブ210の構成について、
図6を用いて説明する。
本実施形態に係るダイカストスリーブ210は前記第一実施形態と同様に、内側スリーブ20と外側スリーブ30との二重構造で構成される。そして、外側スリーブ30は内側スリーブ20よりも強度の高い素材で形成される。また、内側スリーブ20は外側スリーブ30よりも熱伝導性の高い素材で形成される。さらに、内側スリーブ20は外側スリーブ30に対する軸心方向の変形を拘束されずに配設されている。
【0048】
本実施形態においては上記の如く構成することにより、溶湯Mの熱を内側スリーブ20の下部から上部へと速やかに移動させることができるため、内側スリーブ20の上部と下部との間における熱膨張差の発生をより抑止することができる。
また、内側スリーブ20において溶湯Mの熱が下部から上部へと伝えられ、上下均一に熱膨張した場合に、
図3中の矢印Sに示す如く内側スリーブ20のみが軸心方向に伸張することとなる。つまり、内側スリーブ20は外側スリーブ30に対して軸心方向の変形が拘束されていないため、熱膨張による歪を軸心方向に逃がすことが可能となる。
さらに、内側スリーブ20において上側に曲がる(下側に膨らむ)側に応力が発生した場合でも、外側スリーブ30により内側スリーブ20の変形を抑止することができ、ダイカストスリーブ210における上側に曲がる熱変形をより防止できるのである。