特許第5763591号(P5763591)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5763591
(24)【登録日】2015年6月19日
(45)【発行日】2015年8月12日
(54)【発明の名称】FSK復調器
(51)【国際特許分類】
   H04L 27/14 20060101AFI20150723BHJP
【FI】
   H04L27/14 J
【請求項の数】6
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2012-138718(P2012-138718)
(22)【出願日】2012年6月20日
(65)【公開番号】特開2014-3529(P2014-3529A)
(43)【公開日】2014年1月9日
【審査請求日】2014年11月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003551
【氏名又は名称】株式会社東海理化電機製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(72)【発明者】
【氏名】古賀 健一
【審査官】 岡 裕之
(56)【参考文献】
【文献】 特開平9−116579(JP,A)
【文献】 特開平9−130435(JP,A)
【文献】 特開平8−274824(JP,A)
【文献】 特開平10−294675(JP,A)
【文献】 特開平7−321868(JP,A)
【文献】 特開平4−70149(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04L 27/14
IEEE Xplore
CiNii
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
FSK変調された変調波の同相成分及び直交成分が入力されるとともに、これら両成分に基づき検波信号を生成する論理回路と、前記検波信号と信号レベルの判定閾値との比較を通じて前記変調波に含まれるデータを復調する判定回路と、を備えるFSK復調器において、
前記論理回路は、第1の時刻における変調波と前記第1の時刻と異なる第2の時刻における変調波との位相差に対して前記検波信号が固有の値となるように、前記位相差に基づき前記検波信号を生成するための算出式を変更するFSK復調器。
【請求項2】
請求項1に記載のFSK復調器において、
前記算出式は、前記位相差が0°以上90°以下である場合、及び−90°以上0°未満である場合には、前記第1の時刻における変調波に対し所定量の位相回転させたものと前記第2の時刻における変調波との内積を、前記第1の時刻における変調波の大きさの二乗、又は、前記第2の時刻における変調波の大きさの二乗、又は、前記第1の時刻及び前記第2の時刻における変調波の大きさの積である除算値で除するものであり、
前記位相差が90°より大きく180°以下である場合には、前記第1の時刻における変調波に対し所定量の位相回転させたものと前記第2の時刻における変調波との内積を、前記除算値で除し、その除した結果を2から引いたものであり、
前記位相差が−180°より大きく−90°未満である場合には、前記第1の時刻における変調波に対し所定量の位相回転させたものと前記第2の時刻における変調波との内積を、前記除算値で除し、その除した結果をマイナス2から引いたものであるFSK復調器。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のFSK復調器において、
前記論理回路は、前記第1の時刻の変調波と前記第2の時刻の変調波との内積の正負、及び前記第1の時刻における変調波を90°位相回転させたものと前記第2の時刻の変調波との内積の正負に基づき、前記第1の時刻の変調波と前記第2の時刻の変調波との位相差を判定するFSK復調器。
【請求項4】
請求項1〜3のうちいずれか一項に記載のFSK復調器において、
前記論理回路は、前記第1の時刻の変調波と、前記第2の時刻の変調波との位相差が90°となるように、前記第1及び第2の時刻の変調波を取得するFSK復調器。
【請求項5】
請求項1〜4のうちいずれか一項に記載のFSK復調器において、
前記論理回路は、前記第2の時刻の変調波の一つ前に取得した変調波を前記第1の時刻の変調波として前記検波信号を求めるFSK復調器。
【請求項6】
請求項1〜5のうちいずれか一項に記載のFSK復調器において、
前記論理回路は、デジタル信号を処理するデジタル回路であって、
アナログ信号である変調波の同相成分及び直交成分をデジタル信号に変換するアナログデジタルコンバータを備え、
前記アナログデジタルコンバータは、デジタル信号に変換した変調波の同相成分及び直交成分を前記論理回路に入力するFSK復調器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、FSK(Frequency Shift Keying)変調された変調波(変調信号)を復調するFSK復調器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、特許文献1に示されるFSK復調器が周知である。このFSK復調器では、端子においてFSK変調信号された変調波(s(t))を受信する。受信した変調波は2組のミキサ及びローパスフィルタ(LPF)を通じて変調波から同相成分(I(t))及び直交成分(Q(t))を取り出す。同相成分(I(t))及び直交成分(Q(t))は次の(式1)及び(式2)で表される。
【0003】
【数1】
これら同相成分(I(t))及び直交成分(Q(t))は、エッヂ検出を行う位相差検出/周波数検出器を経て判定回路に送られる。判定回路は、位相差検出及び周波数検出の結果に基づき検波信号の閾値判定を行う。しかしながら、この復調器では、エッヂの出現頻度によって復調特性が規定される。そこで、上述の位相差検出/周波数検出器に代えて同相成分(I(t))と直交成分(Q(t))とを足し合わせて検波信号を出力する論理回路を採用するFSK復調器が知られている。判定回路は、検波信号の信号レベルが閾値を超えていればHi、超えていなければLoと判定する。信号レベルには、予め例えばHiに1、Loに0を割り当てることが決められている。当該判定を通じて、判定回路は、変調波に含まれるデータを取り出す。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8−204764号公報(第4図)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
端子において受信される変調波は、例えば建物等によって反射することによりノイズを含むことがある。変調波にノイズが含まれると、同相成分及び直交成分の振幅が変化する。従って、これらを足し合わせて得られる検波信号にもノイズが含まれる。検波信号に含まれるノイズの大きさによっては、例えば図4中の○で示すように、判定回路は判定誤りを起こすことがある。すなわち、本来LoレベルであるにもかかわらずHiレベルと判定されるおそれがある。
【0006】
一方、位相の変化は周波数に等しいことが一般に知られている。すなわち、位相を微分することにより周波数を得ることができる。そこで、同相成分(I(t))と直交成分(Q(t))とを単純に足し合わせて得られる検波信号を出力する論理回路に代えて、次の(式3)に示す検波信号を出力する論理回路を採用したFSK復調器が知られている。
【0007】
【数2】
現在時刻をk、過去の時刻をk−pとすると、同相成分I(t)の微分値(式中では、I(t)の上に・(ドット)を付す)、及び直交成分Q(t)の微分値(式中では、Q(t)の上に・(ドット)を付す)は、現在時刻の検波信号と過去の時刻の検波信号との差分値、すなわち、次の(式4)及び(式5)で近似できることが知られている。
【0008】
【数3】
(式4)及び(式5)の関係から、上述の(式3)に示す検波信号の分子項は次に示す(式6−2)、分母項は次に示す(式7)となる。
【0009】
【数4】
(式6−2)及び(式7)の関係から、検波信号は、次の(式8)で表される。
【0010】
【数5】
(式8)から位相差θと検波信号v(t)との関係は図5のグラフで表される。図5に示すように、位相差θが±90°の場合は、検波信号の値から位相差が一の値に定まる。このため、検波信号v(t)にノイズが含まれていても、判定回路は、正負判定を誤りにくい。一方で、位相差θが±90°以外の場合は、検波信号v(t)の値から位相差θを一の値に定めることができない。例えば、位相差θが30°及び150°のときは、ともにsinθ=0.5となり、検波信号v(t)の値が同じになる。位相差θが定まらない場合、検波信号v(t)にノイズが含まれると、判定回路は、正負判定を誤り易い。
【0011】
本発明は、こうした実状に鑑みてなされたものであり、その目的は、ノイズの影響をうけにくい検波信号を出力するFSK復調器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、FSK変調された変調波の同相成分及び直交成分が入力されるとともに、これら両成分に基づき検波信号を生成する論理回路と、前記検波信号と信号レベルの判定閾値との比較を通じて前記変調波に含まれるデータを復調する判定回路と、を備えるFSK復調器において、前記論理回路は、第1の時刻における変調波と前記第1の時刻と異なる第2の時刻における変調波との位相差に対して前記検波信号が固有の値となるように、前記位相差に基づき前記検波信号を生成するための算出式を変更することを要旨とする。
【0013】
従来のFSK復調器では、第1の時刻における変調波と第2の時刻における変調波との位相差に関わらず、検波信号を生成するための算出式は同じであった。そして、算出式には、位相差のsin成分をとる項が含まれていた。すなわち、位相差が異なる値であっても、検波信号が同じ値となっていた。このため、検波信号の値から位相差が定まらないので、ノイズ等の影響が大きい場合、判定回路は信号レベルの判定を誤りやすい。通常、信号レベルによってデータが割り当てられていることから、判定回路は、信号レベルの判定を誤ると、誤ったデータを取り出すことになる。
【0014】
この点、同構成によれば、位相差に対して検波信号が固有の値となる。すなわち、検波信号の値から位相差が定まる。これにより、判定回路は、信号レベルの判定を正確に行うことができる。ひいては、変調波に含まれるデータを正確に取り出すことができる。また、送信機、受信機のクロックにずれが生じた場合、受信信号の周波数にもずれが生じてしまう。そのような場合でも、正しく検波できるため、信号のレベルの判定が誤りにくくなる。
【0015】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のFSK復調器において、前記算出式は、前記位相差が0°以上90°以下である場合、及び−90°以上0°未満である場合には、前記第1の時刻における変調波に対し所定量の位相回転させたものと前記第2の時刻における変調波との内積を、前記第1の時刻における変調波の大きさの二乗、又は、前記第2の時刻における変調波の大きさの二乗、又は、前記第1の時刻及び前記第2の時刻における変調波の大きさの積である除算値で除するものであり、前記位相差が90°より大きく180°以下である場合には、前記第1の時刻における変調波に対し所定量の位相回転させたものと前記第2の時刻における変調波との内積を、前記除算値で除し、その除した結果を2から引いたものであり、前記位相差が−180°より大きく−90°未満である場合には、前記第1の時刻における変調波に対し所定量の位相回転させたものと前記第2の時刻における変調波との内積を、前記除算値で除し、その除した結果をマイナス2から引いたものであることを要旨とする。
【0016】
同構成によれば、位相差に対して検波信号が固有の値となるとともに、位相差の変化に対して検波信号は連続値となる。このため、ノイズ等の影響があっても、判定回路は、検波信号の信号レベルの判定を行いやすい。
【0017】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載のFSK復調器において、前記論理回路は、前記第1の時刻の変調波と前記第2の時刻の変調波との内積の正負、及び前記第1の時刻における変調波を90°位相回転させたものと前記第2の時刻の変調波との内積の正負に基づき、前記第1の時刻の変調波と前記第2の時刻の変調波との位相差を判定することを要旨とする。
【0018】
同構成によれば、内積の演算回路という簡易な回路構成により、第1の時刻の変調波と第2の時刻の変調波との位相差を求めることができる。
請求項4に記載の発明は、請求項1〜3のうちいずれか一項に記載のFSK復調器において、前記論理回路は、前記第1の時刻の変調波と、前記第2の時刻の変調波との位相差が90°となるように、前記第1及び第2の時刻の変調波を取得することを要旨とする。
【0019】
同構成によれば、第1の時刻における変調波に対し所定量の位相回転させたものと第1の時刻と異なる第2の時刻における変調波との内積が最大値又は最小値となる。従って、検波信号の値も最大値又は最小値となる。このため、判定回路は、より正確な正負判定を行うことができる。
【0020】
請求項5に記載の発明は、請求項1〜4のうちいずれか一項に記載のFSK復調器において、前記論理回路は、前記第2の時刻の変調波の一つ前に取得した変調波を前記第1の時刻の変調波として前記検波信号を求めることを要旨とする。
【0021】
同構成によれば、検波信号を求める際に、論理回路において処理する変調波(データ)が少ないので、論理回路にかかる負荷を抑制することができる。
請求項6に記載の発明は、請求項1〜5のうちいずれか一項に記載のFSK復調器において、前記論理回路は、デジタル信号を処理するデジタル回路であって、アナログ信号である変調波の同相成分及び直交成分をデジタル信号に変換するアナログデジタルコンバータを備え、前記アナログデジタルコンバータは、デジタル信号に変換した変調波の同相成分及び直交成分を前記論理回路に入力することを要旨とする。
【0022】
アナログ信号を処理する論理回路は、部品のばらつきによって出力が異なる。そのため、出力される検波信号の精度が低い。一方、デジタル信号を処理する論理回路であれば、処理するデータのビット数を増やすことにより、出力する検波信号の精度を高めることができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明では、ノイズの影響をうけにくい検波信号を出力するFSK復調器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本実施形態におけるFSK復調器の概略構成を示すブロック図。
図2】(a)は過去の時刻における変調波を90°位相回転させたものと現在の時刻における変調波との位相差と、これらの内積の正負との関係を示すグラフ、(b)は過去の時刻における変調波と現在の時刻における変調波との位相差と、これらの内積の正負との関係を示すグラフ。
図3】位相差と本例の検波信号との関係を示すグラフ。
図4】従来のFSK復調器における判定誤りを示す図。
図5】位相差と従来の検波信号との関係を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明のFSK復調器を具体化した一実施形態を図1〜3に従って説明する。
<FSK復調器の構成>
図1に示すように、FSK復調器1は、アンテナ10と、局部発振器20と、位相器30と、第1及び第2の混合器(ミキサ)41,42と、第1及び第2のローパスフィルタ(LPF)51,52と、第1及び第2のアナログデジタルコンバータ(A/Dコンバータ)61,62と、論理回路70と、判定回路80とを備えている。
【0026】
アンテナ10は、FSK変調された変調波(アナログ信号)を受信する。この変調波は、予め決められた異なる2種類の周波数を有する信号である。アンテナ10は、第1及び第2の混合器41,42にそれぞれ接続されており、受信した変調波を、第1及び第2の混合器41,42に送る。
【0027】
第1及び第2の混合器41,42は、異なる2つの周波数の信号を混合させて入力された信号とは異なる周波数の信号を出力する。第1の混合器41は、局部発振器20と直接接続されている。第2の混合器42は、位相器30を介して局部発振器20と接続されている。局部発振器20は、変調波に含まれる異なる2種類の周波数を足し合わせて2で割った周波数で発振する。局部発振器20により生成された発振信号は、第1の混合器41、及び位相器30に送られる。位相器30は、局部発振器20から送られてくる発振信号の位相を90°だけずらし、この位相をシフトした発振信号を第2の混合器42に送る。第1及び第2の混合器41,42は、それぞれ第1及び第2のLPF51,52と接続されている。第1の混合器41は、局部発振器20から直接入力される発振信号と変調波とを混合し、当該混合した信号を第1のLPF51に送る。第2の混合器42は、位相器30によって位相が90°だけずらされた発振信号と変調波とを混合し、当該混合した信号を第2のLPF52に送る。
【0028】
第1及び第2のLPF51,52は、入力された信号の高域の周波数成分を除去する。第1及び第2のLPF51,52は、第1及び第2のA/Dコンバータ61,62に接続されている。第1及び第2のLPF51,52は、高域の周波数成分を除去した信号をこれら第1及び第2のA/Dコンバータ61,62に送る。なお、第1のLPF51を通過した信号を変調波s(t)の同相成分(I(t))、第2のLPF52を通過した信号を変調波s(t)の直交成分(Q(t))という。同相成分(I(t))及び直交成分(Q(t))は上述の(式1)及び(式2)で表される。
【0029】
第1のA/Dコンバータ61は、入力された変調波s(t)の同相成分I(t)をデジタル信号に変換する。第2のA/Dコンバータ62は、入力された変調波s(t)の直交成分Q(t)をデジタル信号に変換する。第1及び第2のA/Dコンバータ61,62は、論理回路70と接続されている。第1及び第2のA/Dコンバータ61,62は、デジタル信号に変換した変調波s(t)の同相成分I(t)及び直交成分Q(t)を論理回路70に送る。
【0030】
論理回路70は、同相成分I(t)及び直交成分Q(t)に基づき論理演算を行うことにより、検波信号v(t)を生成する電子回路である。論理回路70は、過去の時刻における変調波と現在時刻における変調波との内積(条件式A)の正負、及び過去の時刻における変調波の位相を90°回転させたものと現在時刻における変調波との内積(条件式B)の正負に基づき、後述する検波信号を出力するように、回路が組まれている。
【0031】
なお、ここでは、論理回路70が変調波(正確には、変調波の同相成分及び直交成分)を取得する時間間隔(サンプリング周期)を時間pとする。従って、現在の時刻をkとすれば、その1つ前に取得した過去の時刻はk−pとなる。これより、現在の時刻、及び過去の時刻における変調波s(t)は、次の(式9)及び(式10)で表される。
【0032】
【数6】
従って、過去の時刻における変調波s(k−p)と現在の時刻における変調波s(k)との内積、すなわち、条件式Aは、次の(式11)で表される。
【0033】
【数7】
また、過去の時刻における変調波s(k−p)を90°位相回転させたrot(90°)s(k−p)は、次の(式12)で表される。
【0034】
【数8】
従って、過去の時刻における変調波s(k−p)を90°位相回転させたrot(90°)s(k−p)と現在の時刻における変調波s(k)との内積、すなわち、条件式Bは、次の(式13)で表される。
【0035】
【数9】
また、条件式A,Bの正負に基づいて変化する検波信号v(t)の算出式は、次の(式14)〜(式16)で示される。
【0036】
【数10】
なお、論理回路70には、判定回路80が接続されている。判定回路80は、論理回路70から出力される検波信号と、信号レベル判定閾値との比較を通じて変調波に含まれるデータを示すデータ信号を生成する。
【0037】
<論理回路の作用>
次に、論理回路70の作用について説明する。2つのベクトルの内積が正となるとき両ベクトルのなす角は、90°以内であり、2つのベクトルの内積が負となるとき両ベクトルのなす角は、90°より大きくなることが周知である。すなわち、図2(b)に示すように、過去の時刻における変調波s(k−p)と現在の時刻における変調波s(k)との内積(条件式A)の正負と、図2(a)に示すように過去の時刻における変調波s(k−p)を90°位相回転させたものと現在の時刻における変調波s(k)との内積(条件式B)の正負とから、過去の時刻における変調波s(k−p)と現在の時刻における変調波s(k)との位相差θがどの範囲にあるかを容易に求めることができる。位相差θの判定結果は、次のようになる。
【0038】
(条件W)条件式A≧0且つ条件式B≧0のとき、0°≦位相差θ≦90°。
(条件X)条件式A<0且つ条件式B≧0のとき、90°<位相差θ≦180°。
(条件Y)条件式A<0且つ条件式B<0のとき、−180°<位相差θ<−90°。
【0039】
(条件Z)条件式A≧0且つ条件式B<0のとき、−90°≦位相差θ<0°。
以上から、位相差θと検波信号v(t)との関係は図3のグラフで表される。図3に示すように、位相差θに対して検波信号v(t)が固有の値となる。このため、例えば、検波信号v(t)がノイズの影響を受けても、判定回路80は、検波信号v(t)の信号レベルの判定を正確に行うことができる。また、図3に示すように、位相差θの変化に対して検波信号v(t)は連続値となる。このため、仮にノイズの影響があっても、判定回路80は、検波信号v(t)の信号レベルの判定を行いやすい。
【0040】
なお、上述の(式13)は、上述の(式6−1)と等しい。すなわち、上述の(式14)〜(式16)の分子項は、過去の時刻における変調波s(t−p)を90°位相回転させたrot(90°)s(t−p)と現在の時刻における変調波s(t)との内積である・・・(A)。
【0041】
また、現在の時刻における変調波s(t)の大きさは、次の(式17)で表される。
【0042】
【数11】
当該(式17)の右辺を二乗すれば、上述の(式9)の分母項と等しい。すなわち、(式14)〜(式16)の分母項は、現在の時刻における変調波s(t)の大きさの二乗に等しい・・・(B)。
【0043】
以上、(A)及び(B)の記載から、次のことがわかる。すなわち、本例の論理回路70は、条件W、及び条件Zの場合には、過去の時刻における変調波s(t−p)を90°位相回転させたrot(90°)s(t−p)と現在の時刻における変調波s(t)との内積を、現在の時刻における変調波s(t)の大きさの二乗で除して求められるものを検波信号v(t)として出力するように組まれている。条件Xの場合には、過去の時刻における変調波s(t−p)を90°位相回転させたrot(90°)s(t−p)と現在の時刻における変調波s(t)との内積を、現在の時刻における変調波s(t)の大きさの二乗で除し、その全体を2から引くことにより求められるものを検波信号v(t)として出力するように組まれている。条件Yの場合には、過去の時刻における変調波s(t−p)を90°位相回転させたrot(90°)s(t−p)と現在の時刻における変調波s(t)との内積を、現在の時刻における変調波s(t)の大きさの二乗で除し、その全体をマイナス2から引くことにより求められるものを検波信号v(t)として出力する。
【0044】
以上詳述したように、本実施形態によれば、以下に示す効果が得られる。
(1)過去の時刻における変調波s(t−p)と現在の時刻における変調波s(t)との位相差θに基づき、検波信号v(t)の算出式が変化するように論理回路70を組んだ。詳述すると、条件W、すなわち、0°≦位相差θ≦90°のとき、及び条件Z、すなわち、−90°≦位相差θ<0°のとき、論理回路70は、過去の時刻における変調波s(t−p)を90°位相回転させたrot(90°)s(t−p)と現在の時刻における変調波s(t)との内積を、現在の時刻における変調波s(t)の大きさの二乗で除して求められるものを検波信号v(t)として出力する。条件X、すなわち、90°<位相差θ≦180°のとき、論理回路70は、過去の時刻における変調波s(t−p)を90°位相回転させたrot(90°)s(t−p)と現在の時刻における変調波s(t)との内積を、現在の時刻における変調波s(t)の大きさの二乗で除し、その全体を2から引くことにより求められるものを検波信号v(t)として出力する。条件Y、すなわち、−180°<位相差θ<−90°のとき、論理回路70は、過去の時刻における変調波s(t−p)を90°位相回転させたrot(90°)s(t−p)と現在の時刻における変調波s(t)との内積を、現在の時刻における変調波s(t)の大きさの二乗で除し、その全体をマイナス2から引くことにより求められるものを検波信号v(t)として出力する。このように、位相差θに応じて出力する検波信号v(t)の算出式を変更することより、位相差θに対して検波信号v(t)が固有の値となる。このため、検波信号v(t)がノイズの影響を受けても、判定回路80は、検波信号v(t)の信号レベルの判定を正確に行うことができる。また、位相差θの変化に対して検波信号v(t)は連続値となる。このため、仮にノイズの影響があっても、判定回路80は、検波信号v(t)の信号レベルの判定を行いやすい。
【0045】
(2)過去の時刻における変調波s(k−p)と現在の時刻における変調波s(k)との内積の正負、及び過去の時刻における変調波s(k−p)を90°位相回転させたものと現在の時刻における変調波s(k)との内積の正負から、過去の時刻における変調波s(k−p)と現在の時刻における変調波s(k)との位相差θを求め、当該位相差θに基づき検波信号v(t)の算出式が変化するように論理回路70を組んだ。すなわち、内積の演算回路という簡易な回路構成で位相差を求めることができる。
【0046】
(3)論理回路70は、時間p毎に変調波を取得する。すなわち、論理回路70が過去の時刻k−pにおいて取得された変調波は、現在の時刻kにおいて取得された変調波の1つ前に取得されたものである。論理回路70は、現在の時刻kにおいて取得された変調波の1つ前に取得された変調波を用いて処理を行う。このため、検波信号v(t)を求める際に、論理回路70において処理する変調波(データ)が他の場合と比べて少ない。例えば、論理回路70が、現在の時刻kにおいて取得された変調波の2つ前に取得された変調波を用いて処理するとき、当該論理回路70には、現在の時刻kにおいて取得された変調波の1つ前の変調波が入力されているので、この変調波の処理を一時的に停止する回路を論理回路70に組む必要ある。このことから、論理回路70は、現在の時刻kにおいて取得された変調波の1つ前に取得された変調波を用いて処理を行うので、当該論理回路70にかかる負荷を抑制することができる。
【0047】
(4)論理回路70は、デジタル信号を処理するデジタル回路とした。このため、論理回路70は、処理するデータのビット数を容易に増やすことができ、ひいては、出力する検波信号の精度を高めることができる。
【0048】
なお、上記実施形態は以下のように変更してもよい。
・上記実施形態において、論理回路70は、条件W〜条件Zのいずれの場合においても、検波信号v(t)の分母、すなわち除算値は、現在の時刻における変調波s(t)の大きさの二乗としたが、過去の時刻における変調波s(t−p)の大きさの二乗であってもよい。このように構成した場合であれ、上記実施形態と同様の効果を得ることができる。また、現在の時刻における変調波s(t)の大きさと過去の時刻における変調波s(t−p)の大きさとの積であってもよい。この場合、例えば、条件W及び条件Zにおける検波信号v(t)の分母項は、次の(式18)で表される。
【0049】
【数12】
(式6−2)及び(式18)の関係から、例えば、条件W、及び条件Zの検波信号v(t)は、次の(式19)で表される。
【0050】
【数13】
(式19)に示すように、検波信号v(t)は、周波数成分のみで表される。言い換えれば、当該(式19)には、ノイズの影響を受けて変化する振幅を示す項が排除されている。従って、判定回路80は、ノイズの影響を受けづらい検波信号v(t)の信号レベルの判定を行うことができる。このため、判定回路80は、信号レベルの判定を誤りにくい。なお、条件W、及び条件Zの検波信号v(t)のみ示したが、条件X、及び条件Yの検波信号v(t)にも適用することができる。
【0051】
・上記実施形態において、論理回路70は、時間p毎に変調波を取得したが、例えば時間pとは異なる時間n毎に変調波を取得してもよい。このように構成した場合であっても、上記実施形態の効果(1)と同様の効果を得ることができる。この場合であれ、論理回路70が変調波を取得する時間間隔(サンプリング周期)を、1つ前の取得する変調波との位相差が90°となるようにすれば、当該論理回路70が出力する検波信号の値が最大値又は最小値となる。従って、判定回路80は、より正確な信号レベルの判定を行うことができる。
【0052】
・上記実施形態において、第1及び第2のA/Dコンバータ61,62を省略してもよい。この場合、論理回路70は、アナログ信号を処理する論理回路とする。このように構成した場合であっても、上記実施形態の効果(1)と同様の効果を得ることができる。
【0053】
・上記実施形態では、第1の時刻を過去の時刻(k−p)、第2の時刻を現在の時刻kとした関係で説明したが、この関係は逆であってもよい。この場合、現在の時刻kにおける変調波s(k)を−90°位相回転させると、上記実施形態の効果と同様の効果を得ることができる。
【0054】
・上記実施形態で示した式は、解を等価的に求めるものであれば異なる形式に変更してもよい。
・上記実施形態では、過去の時刻における変調波を90°位相回転させたが、必ずしも90°の位相回転に限るものではない。
【0055】
・上記実施形態では、4種類の条件に応じて、検波信号v(t)を変更したが、これに限らず条件の種類は適切に増減させてもよい。また、条件の判定式や検波信号v(t)の算出式を適切に変更してもよい。
【符号の説明】
【0056】
1…FSK復調器、10…アンテナ、20…局部発振器、30…位相器、41…第1の混合器、42…第2の混合器、51…第1のローパスフィルタ(LPF)、52…第2のローパスフィルタ(LPF)、61…第1のアナログデジタルコンバータ(A/Dコンバータ)、62…第2のアナログデジタルコンバータ(A/Dコンバータ)、70…論理回路、80…判定回路。
図1
図2
図3
図4
図5