【発明が解決しようとする課題】
【0008】
PETなどの熱可塑性材料の射出成型では、PETは通常、すぐに射出できる顆粒、すなわち
溶融混合された顆粒の形態(この形態で市販)で使用される。これらの顆粒は通常、一方ではPET樹脂からなり、他方では、特に離型タイプの射出および核形成に必要な添加剤からなる。PETの
溶融混合(プラスチック材料および添加剤を溶融させる混合方法)では、PETを溶融状態に遷移させる。そのため、0.02%未満の残留水分量を得て、溶融状態でのポリマーの加水分解を防止するには、完全な乾燥が必要である。この加水分解は、製品の機械的な特性にとって有害な、分子質量を低減させることを意味する。したがって通常、PETの
溶融混合前に、160℃で6時間の乾燥サイクルが必要とされる。これが、PET樹脂がPA樹脂より経済的であるにもかかわらず、PET
溶融混合物のコストがPA
溶融混合物に対してより高い理由である。
【0009】
この分野では、PETと、核形成剤(たとえば、安息香酸)と、高い分子量を有するポリカプロラクトンおよび不飽和のエポキシド化トリグリセリドと、その存在が暗に
溶融混合動作を指すガラス繊維などの充填剤とを含む成型組成物について記載している特許文献1が知られている。特許文献1は成分の混合が押出機上で実行されると教示し、これが
溶融混合の実際の定義であるため、この文献は明示的(explicit)でもある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前述の欠点のすべてまたはいくつかを克服するため、ここで本出願人は、PET
溶融混合物を使用しないで行うことを可能にする熱可塑性ポリマー組成物を射出成型する方法を開発した。この方法は、変圧器によって通常使用されるタイプの乾燥器で乾燥された簡単な非
溶融混合PET樹脂、ならびにポリブチレンテレフタレート(PBT)中に分散されることが有利な色素および少なくとも1つの核形成剤(ならびに任意選択で、射出の成功に必要な添加剤、すなわち離型、結晶化、熱安定化、有機および無機の充填剤)を含むマスターバッチを開始製品として実施する。そのような開始材料を用いて、本出願人は、PET物品の射出成型を可能にする方法を開発した。
【0011】
より具体的には、本発明は、熱可塑性ポリマー材料からなる射出成型物品であって、
− ポリエチレン−テレフタレート(PET)マトリクスと、
− 少なくとも1つの色素および少なくとも1つの核形成剤であり、前記PETマトリクス中に分散される色素および添加剤と
を含み、
前記熱可塑性ポリマー材料は、前記物品の総重量に対して5重量%以下の無機充填剤を含み、
前記物品は、0.2mmから10mmの間で変わる一定でない厚さを有し、少なくとも2つの隣接する領域は、少なくとも10%の厚さの差を有することを特徴とする射出成型物品に関する。
【0012】
本発明では、少なくとも2つの隣接する領域が少なくとも10%の厚さの差を有する物品とは、
図4および5に示すもののような物品を意味する。
【0013】
本発明によるポリマーは、ポリマー材料中の核形成剤(ポリマーの結晶化を促進する)の存在のため、部分的に結晶化される。
【0014】
核形成剤の例として、具体的には、タルクおよびシリカなどの無機核形成剤、高分子量カルボン酸などの有機核形成剤、または安息香酸ナトリウムなどのアルカリ金属塩を挙げることが可能である。イオノマー樹脂も挙げられる。本発明では、安息香酸ナトリウムが使用されることが好ましい。
【0015】
本発明では、無機充填剤とはミネラル源の任意の不活性物質を意味し、熱可塑性材料に添加され、その機械的、電気的、または熱的特性を実質的に改質することができ、または表面の外観を改善することができる。
【0016】
ポリマーを補強するために従来使用されており、本発明では物品の総重量に対して5重量%に制限される無機充填剤の中では通常、珪灰石およびガラス、ならびに炭素繊維、タルク、ビード(固体または中空)、粘土、およびCaCO
3などの高拡散量の無機充填剤の
溶融混合物が区別される。
【0017】
本発明による熱可塑性材料のPETマトリクスは、ポリエチレンテレフタレート(PET)に加えて、PETマトリクス内での添加剤および色素の分散を促進するために、第2の熱可塑性樹脂を含むことが有利である。
【0018】
この第2の樹脂は、ポリエステル樹脂であることが有利である。しかし、ポリカーボネートまたはポリアミド樹脂を使用することも可能である。
【0019】
ポリエステル樹脂は、PETに類似の化学構造がPET中で融和性があるため、ポリブチレンテレフタレート(PBT)であることが特に有利である。さらに、PBTの比較的高い融点(約220℃)は、マトリクスの全体的な融点(約250℃)に影響を与えない。
【0020】
本発明では、融点、または初期状態でガラス転移温度が130℃を上回ることが好ましいという条件で、ポリエステル樹脂以外の熱可塑性樹脂(具体的には、ポリカーボネートおよびポリアミド樹脂)、ならびにPETおよびPBT以外のポリエステル樹脂を使用することができる。実際には、この部分は、制御温度が140℃である型の中で凝固する。この部分がこの温度で完全に硬化しない場合、取り出すのがますます困難になる。たとえば、分散剤としてポリエチレンを使用すると、ある部分がこの温度で十分なほど硬化しないために型に付着し、または取り出し中に変形し、離型上の問題を招く。
【0021】
PBTが分散剤として使用されるとき、材料の総重量の1から10重量%を占めることが有利である。実際には、本発明者は、そのような量のPBTが、マトリクス内での添加剤および/または色素の分散をさらに改善できることに注目した。PBTの含有量が10%を上回ると、添加剤および色素と
溶融混合されたPBTはPETより高価になるため、経済的に不利であり、一方、PBTが1%を下回ると、PBTの量は、何らかの効果を有するには不十分である。
【0022】
本発明による前記熱可塑性材料は、核形成剤に加えて、射出成型のための他の添加剤を含むことが有利である。
【0023】
本発明によって使用できる添加剤(核形成剤以外)として、具体的には、熱安定剤、離型剤、潤滑剤、および無機または有機充填剤を挙げることができる。
【0024】
熱安定剤の例として、具体的には、ヒンダードフェノール系の1次酸化防止剤、および2次芳香族アミン類、2次酸化防止剤(チオエーテル類、チオエステル類、ならびに亜リン酸塩類)を挙げることができる。
【0025】
離型剤の例として、具体的には、シリコーン類、特にシリコーン油を挙げることができる。
【0026】
潤滑剤の例として、具体的には、ステアリン酸カルシウムなどのステアリン酸塩、またはパラフィン、ポリエチレン(改質または未改質)、エステル、およびモンタン酸の蝋を挙げることができる。
【0027】
充填剤の例として、具体的には、PTFE、PPS、もしくはPA粉末などの有機充填剤、またはタルク、炭酸カルシウム、珪灰石、硫酸バリウム、カオリン、黒鉛、雲母、シリカ、およびケイ酸塩などの無機充填剤を挙げることができる。
【0028】
本発明によって熱可塑性材料中で使用できる無機または有機色素(可溶性または不溶性)として、具体的には、二酸化チタン、金属イオンの酸化物、水酸化物、および硫化物、アゾ基を有する分子、フタロシアニンおよびアントラキノン系、ならびにカーボンブラックを挙げることができる。
【0029】
本発明による物品は、台所用品、たとえばスパチュラもしくは蓋つまみ、または保存容器(たとえば、チーズ用の大皿容器)の一部分であることが好ましい。
【0030】
最後に、本発明は、射出成型機内で成型することによって物品を作製する方法であって、
a)ポリエチレンテレフタレートを含む熱可塑性ポリマー組成物をホッパ内へ導入し、少なくとも1つの色素のマスターバッチをタンク内へ導入するステップと、
b)熱可塑性ポリマー組成物およびマスターバッチを、前記ホッパおよび前記タンクと連通する射出シリンダ内へ、投与装置を介して同時に射出するステップと、
c)熱可塑性ポリマー組成物およびマスターバッチに可塑性を与えて、射出シリンダ内に均質な溶融プラスチック材料を形成するステップと、
d)溶融プラスチック材料を型へ移すステップと、
e)型を加圧して、成型された物品を形成するステップと、
f)制御された温度で型を固定させ、成型された物品を硬化して取り出すステップと
を含み、
ホッパ内へ最初に導入される熱可塑性ポリマー組成物は、5%以下のフィラー(filer)を含み、残留水の割合が前記組成物の総重量に対して0.02%以下である非
溶融混合樹脂の形態にあり、
マスターバッチはまた、少なくとも1つの核形成剤を含有することを特徴とする方法に関する。
【0031】
本発明では、マスターバッチとは、着色すべきプラスチック材料と融和性のある高分子物質中の添加剤および色素の高濃度の分散を意味し、添加剤および色素の量は通常、マスターバッチの70重量%を超過しない。核形成剤は、上記で定義したとおりであり、安息香酸ナトリウムが使用されることが好ましい。
【0032】
本発明の方法の有利な実施形態によれば、マスターバッチはまた、マスターバッチの添加剤および色素を分散させる熱可塑性樹脂を含む。この熱可塑性樹脂は、上記で定義したとおりである。
【0033】
この熱可塑性樹脂は、PBTであることが好ましく、物品の総重量の5重量%を占めることが有利である。
【0034】
本発明の方法のマスターバッチ内で使用できる添加剤および色素は、上記で定義したとおりである。
【0035】
本発明の他の利点および特殊な特徴は、非限定的な例として添付の図を参照して提供される以下の説明で明らかになるであろう。