(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5763661
(24)【登録日】2015年6月19日
(45)【発行日】2015年8月12日
(54)【発明の名称】水硬性結合剤用急結剤、及び、水硬性結合剤の急速硬化方法
(51)【国際特許分類】
C04B 22/14 20060101AFI20150723BHJP
C04B 22/06 20060101ALI20150723BHJP
C04B 24/04 20060101ALI20150723BHJP
C04B 28/02 20060101ALI20150723BHJP
【FI】
C04B22/14 A
C04B22/06 Z
C04B24/04
C04B28/02
【請求項の数】16
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2012-536482(P2012-536482)
(86)(22)【出願日】2011年9月27日
(86)【国際出願番号】JP2011072088
(87)【国際公開番号】WO2012043568
(87)【国際公開日】20120405
【審査請求日】2013年10月4日
(31)【優先権主張番号】特願2010-215266(P2010-215266)
(32)【優先日】2010年9月27日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504274505
【氏名又は名称】シーカ・テクノロジー・アーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100089037
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(72)【発明者】
【氏名】ベネディクト・リンドラー
(72)【発明者】
【氏名】ウルス・メーダー
(72)【発明者】
【氏名】後藤 勝彦
(72)【発明者】
【氏名】石田 良平
(72)【発明者】
【氏名】御領園 悠司
【審査官】
永田 史泰
(56)【参考文献】
【文献】
特開2008−30999(JP,A)
【文献】
特開2006−225172(JP,A)
【文献】
特開2007−55831(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B7/00−32/02
C04B40/00−40/06
C04B103/00−111/94
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
硫酸アルミニウム又はその水和物、アルミニウムの酸化物又は水酸化物、少なくとも1種の有機酸、少なくとも1種のアルカリ土類金属の酸化物又は水酸化物、及び、水を含み、ハロゲン化物イオン含有量が0.1質量%未満である水硬性結合剤用液体急結剤。
【請求項2】
前記有機酸がモノカルボン酸である、請求項1記載の水硬性結合剤用急結剤。
【請求項3】
前記モノカルボン酸が蟻酸又は酢酸である、請求項2記載の水硬性結合剤用急結剤。
【請求項4】
pHが7未満である、請求項1乃至3のいずれかに記載の水硬性結合剤用急結剤。
【請求項5】
前記アルカリ土類金属がマグネシウムである、請求項1乃至4のいずれかに記載の水硬性結合剤用急結剤。
【請求項6】
30〜50質量%の硫酸アルミニウム又はその水和物、5〜15質量%のアルミニウムの酸化物又は水酸化物、5〜15質量%の有機酸、及び、1〜10質量%のアルカリ土類金属の酸化物又は水酸化物を含む、請求項1記載の水硬性結合剤用急結剤。
【請求項7】
(A)硫酸アルミニウム又はその水和物、アルミニウムの酸化物又は水酸化物、少なくとも1種の有機酸、少なくとも1種のアルカリ土類金属の酸化物又は水酸化物、及び、水を含み、ハロゲン化物イオン含有量が0.1質量%未満である液体急結剤;並びに
(B)粉末状の硫酸アルミニウム又はその水和物を含む非スラリー状急結補助剤
の組み合わせからなる水硬性結合剤用急結剤。
【請求項8】
前記(A)液体急結剤が、30〜50質量%の硫酸アルミニウム又はその水和物、5〜15質量%のアルミニウムの酸化物又は水酸化物、5〜15質量%の有機酸、及び、1〜10質量%のアルカリ土類金属の酸化物又は水酸化物を含む、請求項7記載の水硬性結合剤用急結剤。
【請求項9】
前記(B)非スラリー状急結補助剤が粉末状である、請求項7又は8記載の水硬性結合剤用急結剤。
【請求項10】
前記(B)非スラリー状急結補助剤が粉末状の硫酸アルミニウム又はその水和物のみからなる、請求項7乃至9のいずれかに記載の水硬性結合剤用急結剤。
【請求項11】
アルカリ金属イオン含有量が1質量%未満である、請求項1乃至10のいずれかに記載の水硬性結合剤用急結剤。
【請求項12】
(A)硫酸アルミニウム又はその水和物、アルミニウムの酸化物又は水酸化物、少なくとも1種の有機酸、少なくとも1種のアルカリ土類金属の酸化物又は水酸化物、及び、水を含み、ハロゲン化物イオン含有量が0.1質量%未満である水硬性結合剤用液体急結剤用の、
(B)粉末状の硫酸アルミニウム又はその水和物を含む非スラリー状急結補助剤。
【請求項13】
(A)硫酸アルミニウム又はその水和物、アルミニウムの酸化物又は水酸化物、少なくとも1種の有機酸、少なくとも1種のアルカリ土類金属の酸化物又は水酸化物、及び、水を含み、ハロゲン化物イオン含有量が0.1質量%未満である液体急結剤;並びに
(B)粉末状の硫酸アルミニウム又はその水和物を含む非スラリー状急結補助剤
を混合して水硬性結合剤に添加する、水硬性結合剤の急速硬化方法。
【請求項14】
(A)硫酸アルミニウム又はその水和物、アルミニウムの酸化物又は水酸化物、少なくとも1種の有機酸、少なくとも1種のアルカリ土類金属の酸化物又は水酸化物、及び、水を含み、ハロゲン化物イオン含有量が0.1質量%未満である液体急結剤;並びに
(B)粉末状の硫酸アルミニウム又はその水和物を含む非スラリー状急結補助剤
を別個に水硬性結合剤に添加する、水硬性結合剤の急速硬化方法。
【請求項15】
請求項13又は14記載の方法で硬化された水硬性結合剤。
【請求項16】
請求項15記載の硬化された水硬性結合剤を含む土木建造物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、2010年9月27日に、日本に出願された特願2010−215266に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【0002】
本発明は、セメント、コンクリート、モルタル及びこれらの混合物等の水硬性結合剤を迅速に硬化させるために使用される急結剤、及び、水硬性結合剤の急速硬化方法に関する。
【背景技術】
【0003】
トンネル等の掘削作業において岩盤の崩落を防止し、又は、道路周辺の斜面の崩壊を防止するために、特開平9−19910号公報に記載されるように、急結剤をコンクリート等に配合した急結性コンクリート等を岩盤又は斜面に吹付けることが行われている。
【0004】
この吹付工法では、通常、コンクリート製造装置においてセメント、骨材、水等を混合して吹付コンクリートを調製し、ミキサー車等で吹付現場まで吹付コンクリートを運搬し、吹付機に吹付コンクリートを空気搬送する間に粉末状の急結剤を混合して、急結性吹付コンクリートを吹付機で所定箇所に吹付ける。急結性吹付コンクリートは硬化時間が短いので、作業時間を短縮可能である。
【0005】
しかし、粉末状の急結剤を使用する場合は、大がかりな設備が必要であり、また、空気搬送中に漏洩したり、コンクリート中に十分混合されることなく空気中に飛散したりして粉塵化して作業環境が悪化する。
【0006】
また、従来の急結剤はアルミン酸化合物を主成分としており、強アルカリ性である。したがって、吹付け作業時に作業者の皮膚、呼吸器、目等に悪影響を及ぼす恐れがある。また、急結性コンクリートの硬化後にアルカリ成分が溶出して周囲環境を汚染する恐れもある。
【0007】
しかも、コンクリート温度が低い場合や湧水が存在する場合は、急結性コンクリートを吹付けても硬化時間が比較的長くなり、必要な強度を短時間で得られない場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平9−19910号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、このような従来技術の問題点に鑑みてなされたものであり、施工が容易であり、低い発塵性、及び、非アルカリ性を備えており、並びに、従来の急結性コンクリートでは施工が困難な条件下でも良好な硬化性を発揮することのできる急結剤系を提供することをその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の目的は、
(1)硫酸アルミニウム又はその水和物、アルミニウムの酸化物又は水酸化物、少なくとも1種の有機酸、少なくとも1種のアルカリ土類金属の酸化物又は水酸化物、及び、水を含む水硬性結合剤用液体急結剤、或いは、
(2)(A)硫酸アルミニウム又はその水和物、アルミニウムの酸化物又は水酸化物、少なくとも1種の有機酸、少なくとも1種のアルカリ土類金属の酸化物又は水酸化物、及び、水を含む液体急結剤;並びに
(B)粉末状の硫酸アルミニウム又はその水和物を含む非スラリー状急結補助剤
の組み合わせからなる水硬性結合剤用急結剤
によって達成される。
【0011】
前記(2)水硬性結合剤用急結剤における「急結剤」とは、(A)液体急結剤、及び、(B)急結補助剤を含む単一の組成物だけではなく、(A)液体急結剤、及び、(B)急結補助剤の混合前の組み合わせからなる「キット」又は「システム」をも意味する。
【0012】
前記有機酸はモノカルボン酸であることが好ましい。
【0013】
前記モノカルボン酸は蟻酸又は酢酸であることが好ましい。
【0014】
前記(A)液体急結剤のpHは7未満であることが好ましい。
【0015】
前記アルカリ土類金属はマグネシウムであることが好ましい。
【0016】
本発明の急結剤に含まれるアルカリ金属イオン含有量は1質量(重量)%未満であることが好ましい。
【0017】
本発明の急結剤に含まれるハロゲン化物イオン含有量は0.1質量(重量)%未満であることが好ましい。
【0018】
前記(1)水硬性結合剤用液体急結剤又は前記(A)液体急結剤は、30〜50質量(重量)%の硫酸アルミニウム又はその水和物、5〜15質量(重量)%のアルミニウムの酸化物又は水酸化物、5〜15質量(重量)%の有機酸、及び、1〜10質量(重量)%のアルカリ土類金属の酸化物又は水酸化物を含むことが好ましい。
【0019】
前記(B)非スラリー状急結補助剤は粉末状であることが好ましい。
【0020】
前記(B)非スラリー状急結補助剤は粉末状の硫酸アルミニウム又はその水和物のみからなることが好ましい。
【0021】
本発明は、
(A)硫酸アルミニウム又はその水和物、アルミニウムの酸化物又は水酸化物、少なくとも1種の有機酸、少なくとも1種のアルカリ土類金属の酸化物又は水酸化物、及び、水を含む、水硬性結合剤用液体急結剤用の、
(B)粉末状の硫酸アルミニウム又はその水和物を含む非スラリー状急結補助剤にも関する。
【0022】
本発明は、(A)硫酸アルミニウム又はその水和物、アルミニウムの酸化物又は水酸化物、少なくとも1種の有機酸、少なくとも1種のアルカリ土類金属の酸化物又は水酸化物、及び、水を含む液体急結剤;並びに
(B)粉末状の硫酸アルミニウム又はその水和物を含む非スラリー状急結補助剤
を混合して水硬性結合剤に添加する、水硬性結合剤の急速硬化方法にも関する。
【0023】
また、本発明は、(A)硫酸アルミニウム又はその水和物、アルミニウムの酸化物又は水酸化物、少なくとも1種の有機酸、少なくとも1種のアルカリ土類金属の酸化物又は水酸化物、及び、水を含む液体急結剤;並びに
(B)粉末状の硫酸アルミニウム又はその水和物を含む非スラリー状急結補助剤
を別個に水硬性結合剤に添加する、水硬性結合剤の急速硬化方法にも関する。
【0024】
なお、本発明は、上記の急速硬化方法で硬化された水硬性結合剤、更には、当該硬化された水硬性結合剤を含む土木建造物にも関する。
【発明の効果】
【0025】
本発明の前記(1)水硬性結合剤用液体急結剤は液体であり、また、前記(2)水硬性結合剤用急結剤は(A)液体急結剤を使用するので、粉末状の急結剤のみを使用する場合に比べて使用性に優れており、施工が容易である。また、前記(2)水硬性結合剤用急結剤については、(A)液体急結剤、及び、(B)急結補助剤の混合物は全体として液状であるために発塵性も低い。しかも、本発明の急結剤を配合した水硬性結合剤は付着性に優れているために跳ね返りが少なく、リバウンド量(水硬性結合剤のうち標的に付着せず落下する割合)を低減することができる。
【0026】
また、本発明の急結剤は、アルカリ性でないために、人体への悪影響が少なく、作業環境を改善することができる。また、周囲環境にアルカリ成分が漏洩する恐れもない。
【0027】
しかも、本発明の急結剤がアルカリ金属イオンを殆ど含まない場合は、水硬性結合剤中のアルカリ骨材反応を抑制することが可能である。また、本発明の急結剤がハロゲン化物イオンを殆ど含まない場合は水硬性結合剤中の鉄筋や鋼材の腐食を抑制することができる。
【0028】
本発明の急結剤は従来の急結剤では困難な条件下でも良好な硬化性を水硬性結合剤に付与することができ、優れた強度の硬化物を得ることができる。例えば、水硬性結合剤の温度が低い場合や湧水が存在する場合でも、水硬性結合剤を短時間で硬化させて、必要な強度を得ることができる。
【0029】
本発明において、(B)急結補助剤は(A)液体急結剤の性能を増大することができる。
【0030】
本発明の急速硬化方法は(A)液体急結剤を使用するので、粉末状の急結剤のみを使用する場合に比べて使用性に優れており、施工が容易である。また、(A)液体急結剤、及び、(B)急結補助剤の混合物は全体として液状であるために発塵性も低い。しかも、(A)液体急結剤、及び、(B)急結補助剤を配合した水硬性結合剤は付着性に優れているために跳ね返りが少なく、リバウンド量を低減することができる。
【0031】
また、本発明の急速硬化方法は、非アルカリ性の、(A)液体急結剤、及び、(B)急結補助剤を使用するので、人体への悪影響が少なく、作業環境を改善することができる。また、硬化後の水硬性結合剤から周囲環境にアルカリ成分が漏洩する恐れもない。
【0032】
本発明の急速硬化方法は、従来では施工が困難な条件下でも、水硬性結合剤を良好に硬化させることができる。例えば、水硬性結合剤の温度が低い場合や湧水が存在する場合でも、水硬性結合剤を短時間で硬化させて、必要な強度を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【
図1】参考例1及び参考例2の吹付コンクリートの圧縮強度の経時変化を示すグラフ
【
図2】実施例1、実施例2及び参考例3の吹付コンクリートの圧縮強度の経時変化を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0034】
本発明者らは、鋭意検討の結果、
(1)硫酸アルミニウム又はその水和物、アルミニウムの酸化物又は水酸化物、少なくとも1種の有機酸、少なくとも1種のアルカリ土類金属の酸化物又は水酸化物、及び、水を含む水硬性結合剤用液体急結剤、或いは、
(2)(A)硫酸アルミニウム又はその水和物、アルミニウムの酸化物又は水酸化物、少なくとも1種の有機酸、少なくとも1種のアルカリ土類金属の酸化物又は水酸化物、及び、水を含む液体急結剤;並びに
(B)粉末状の硫酸アルミニウム又はその水和物を含む非スラリー状急結補助剤
の組み合わせからなる水硬性結合剤用急結剤を用いて水硬性結合剤を硬化させることによって、水硬性結合剤を短時間に硬化可能であり、且つ、十分な強度を提供可能であることを見出した。この組み合わせはアルカリフリーであり、従来のアルカリ性急結剤に見られる不都合を有さない。また、前記(2)水硬性結合剤用急結剤において、(A)成分と(B)成分の組み合わせは液状であり、従来の粉体状急結剤に見られる不都合がない。
【0035】
(水硬性結合剤)
本発明における水硬性結合剤は水の作用によって硬化可能なバインダーを意味しており、例えば、セメント、石膏等の他に、モルタル、コンクリート等が挙げられる。セメントとしては、普通、早強、超早強、中庸熱、低熱等の各種ポルトランドセメント、並びに、ポルトランドセメントに高炉スラグ微粉末を混合した高炉セメント、ポルトランドセメントにフライアッシュを混合したフライアッシュセメント等を使用することができる。通常、モルタルはセメントに水と砂等の細骨材を混合して得られ、また、コンクリートはセメントに水、細骨材及び砂利等の粗骨材を混合して得られる。水硬性結合剤は1種類であっても、2種類以上を併用してもよい。
【0036】
細骨材としては、天然砂、珪砂、石灰砂等を使用することができる。細骨材は2.5mm以下の最大粒径を有するものが好ましい。2.5mmを超えると吹付時の跳ね返りが多くなる恐れがある。粗骨材としては、川砂利、山砂利、石灰砂利等を使用することができる。粗骨材は15mm以下の最大粒径を有するものが好ましい。15mmを超えると吹付時の跳ね返りが多くなる恐れがある。したがって、粗骨材の最大粒径は8〜15mmが好ましい。
【0037】
水硬性結合剤としてコンクリートを使用する場合は、水の配合量は、例えば、セメント100質量(重量)部に対して60質量(重量)部以下が好ましく、50質量(重量)部以下が好ましく、45質量(重量)部以下がより好ましく、42質量(重量)部以下が更により好ましく、40質量(重量)部以下が特に好ましい。
【0038】
水硬性結合剤としてコンクリートを使用する場合は、コンクリートの温度は15℃以上が好ましく、20℃以上がより好ましく、25℃以上が更により好ましい。但し、後述する(B)急結補助剤を使用することにより、比較的低温のコンクリートであっても、良好に硬化させることができる。
【0039】
本発明では、水硬性結合剤の流動性を改善するために、減水剤を水硬性結合剤に配合してもよい。減水剤は液体又は粉体のいずれでもよいが、作業性の点では、液体のものが好ましい。減水剤としては、リグニンスルホン酸又はその誘導体、並びに、高性能減水剤等が挙げられる。減水剤は1種類であっても、2種類以上を併用してもよい。流動性付与の点では高性能減水剤が好ましい。
【0040】
高性能減水剤としては、例えば、ポリエチレングリコール等のポリオール誘導体、ナフタレンスルホン酸等の芳香族スルホン酸及び/又は芳香族スルホン酸ホルマリン縮合物等の芳香族スルホン酸系高性能減水剤、ポリカルボン酸系高性能減水剤、メラミン系高性能減水剤、及び、これらの混合物が挙げられる。これらの中では、ポリカルボン酸系高性能減水剤が好ましい。
【0041】
減水剤の使用量は特に限定されるものではないが、例えば、水硬性結合剤としてコンクリートを使用する場合は、セメント100質量(重量)部に対して0.01〜5質量(重量)部が好ましく、0.1〜3質量(重量)部がより好ましい。0.01質量(重量)部未満では流動性改善効果が小さくなる恐れがあり、5質量(重量)部を超えると水硬性結合剤が分離する恐れがある。
【0042】
水硬性結合剤としてコンクリートを使用する場合は、コンクリートのスランプ値は20±5cmが好ましく、20±3cmがより好ましい。
【0043】
(急結剤)
本発明の急結剤は、
(1)硫酸アルミニウム又はその水和物、アルミニウムの酸化物又は水酸化物、少なくとも1種の有機酸、少なくとも1種のアルカリ土類金属の酸化物又は水酸化物、及び、水を含む水硬性結合剤用液体急結剤であるか、或いは、
(2)硫酸アルミニウム又はその水和物、アルミニウムの酸化物又は水酸化物、少なくとも1種の有機酸、少なくとも1種のアルカリ土類金属の酸化物又は水酸化物、及び、水を含む(A)液体急結剤を主成分として含む水硬性結合剤用急結剤である。
【0044】
硫酸アルミニウム又はその水和物は無水硫酸アルミニウムAl
2(SO
4)
3又は硫酸アルミニウム水和物Al
2(SO
4)
3・nH
2Oで表され、nは0〜20のものを好適に使用可能であるが、n=5〜20のものが好ましく、n=14〜18のものがより好ましい。Al
2O
3に換算して17質量(重量)%以上のアルミニウムを含むものが特に好ましい。
【0045】
アルミニウムの酸化物又は水酸化物は、特に限定されるものではないが、例えば、酸化アルミニウム(Al
2O
3)、水酸化アルミニウム(Al(OH)
3)等を挙げることができる。水酸化アルミニウムが好ましい。アモルファス水酸化アルミニウムを水酸化アルミニウムとして有利に使用することができる。水酸化アルミニウムは、ヒドロキシ炭酸アルミニウム、ヒドロキシ硫酸アルミニウム等の形態で用いることもできる。
【0046】
有機酸も特に限定されるものではないが、カルボン酸が好ましい。カルボン酸としては、蟻酸、酢酸、プロピオン酸等のモノカルボン酸;シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、マレイン酸、フマル酸、フタル酸等のジカルボン酸;トリメリト酸等のトリカルボン酸等が挙げられるが、モノカルボン酸がより好ましい。モノカルボン酸としては、蟻酸又は酢酸が好ましい。有機酸は塩の形態でもよい。有機酸は1種類であっても、2種類以上を併用してもよい。
【0047】
本発明の急結剤のpHは7未満であることが好ましく、6以下がより好ましく、5以下が更により好ましく、4以下が更により好ましく、3以下が特に好ましい。このように酸性の急結剤を使用することにより、従来のアルカリ性急結剤に由来する人体への悪影響を回避することができる。
【0048】
アルカリ土類金属の酸化物又は水酸化物におけるアルカリ土類金属は限定されるものではないがマグネシウムであることが好ましい。マグネシウムの酸化物は特に限定されるものではないが、酸化マグネシウム(MgO)を挙げることができる。マグネシウムの水酸化物も特に限定されるものではないが、水酸化マグネシウム(Mg(OH)
2)を挙げることができる。アルカリ土類金属の酸化物又は水酸化物は1種類であっても、2種類以上を併用してもよい。
【0049】
アルカリ土類金属の水酸化物又は水酸化物の存在自体によって、水硬性結合剤の硬化特性を改善することができる。すなわち、アルカリ土類金属の酸化物又は水酸化物は有機酸と反応することによって、急結剤の温度を上昇させ、ひいては、水硬性結合剤の温度を上昇させることができる。これにより、水硬性結合剤の硬化をより促進することができる。更に、アルカリ土類金属の酸化物又は水酸化物によって、急結剤の貯蔵安定性を改善することができる。
【0050】
本発明の急結剤は、アルカリ金属イオン含有量が1質量(重量)%未満であることが好ましい。これは、急結剤中にアルカリ金属の供給源が殆ど存在しないことを意味する。アルカリ金属の供給源としては、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、及び、セシウムの酸化物、過酸化物、水酸化物、硝酸塩、リン酸塩、硫酸塩、炭酸塩、シュウ酸塩、ケイ酸塩等が挙げられる。ナトリウムイオン及びカリウムイオンの含有量がそれぞれ1質量(重量)%未満であることが好ましい。これにより、本発明の急結剤は、望ましくないアルカリ骨材反応を回避することができる。
【0051】
また、本発明の急結剤は、ハロゲン化物イオン含有量が0.1質量(重量)%未満であることが好ましい。これは、急結剤中にハロゲン化物イオンの供給源が殆ど存在しないことを意味する。ハロゲン化物イオンの供給源としては、例えば、金属のフッ化物、塩化物、臭化物及びヨウ化物、並びに、金属のフッ化塩、塩酸塩、臭素酸塩、ヨウ素酸塩等が挙げられる。塩化物イオンの含有量が0.1質量(重量)%未満であることが好ましい。これにより、本発明の急結剤は、望ましくない鉄筋、鋼材等の腐食を回避することができる。
【0052】
前記(1)水硬性結合剤用液体急結剤又は前記(A)液体急結剤は、30〜50質量(重量)%の硫酸アルミニウム又はその水和物、5〜15質量(重量)%のアルミニウムの酸化物又は水酸化物、5〜15質量(重量)%の有機酸、及び、1〜10質量(重量)%のアルカリ土類金属の酸化物又は水酸化物を含むことが好ましい。30〜45質量(重量)%の硫酸アルミニウム又はその水和物、5〜12質量(重量)%のアルミニウムの酸化物又は水酸化物、5〜12質量(重量)%の有機酸、及び、1〜4質量(重量)%のアルカリ土類金属の酸化物又は水酸化物を含むことが更に好ましい。但し、本発明の急結剤は、上記成分の他に水を含む。水の配合量は、急結剤の10〜27質量(重量)%が好ましい。
【0053】
なお、急結剤中の有機酸に対するアルミニウム元素のモル比は0.65未満であることが好ましく、0.38〜0.65未満がより好ましく、0.38〜0.60が更により好ましく、0.50〜0.60が特に好ましい。また、急結剤中のアルミニウム元素含有量はAl
2O
3に換算して14質量(重量)%未満が好ましく、13質量(重量)%未満がより好ましく、12質量(重量)%未満が更により好ましい。
【0054】
本発明の急結剤は、その他の成分を任意に含むことができる。任意成分としては、例えば、乳酸、ヒドロキシ酪酸、サリチル酸、グルコン酸等のヒドロキシモノカルボン酸又はその塩;アスパラギン酸、グルタミン酸等のアミノ酸又はその塩;モノエタノールアミン、ジエタノールアミン等のアルカノールアミン又はその塩;エチレンジアミン四酢酸塩等のキレート剤;が挙げられる。任意成分の量は限定されるものではないが、急結剤の0.01〜5質量(重量)%であってよく、0.1〜1質量(重量)%が好ましい。
【0055】
本発明の急結剤は、水硬性結合剤100質量(重量)部に対して0.001〜10質量(重量)部の範囲で使用することができ、0.01〜5質量(重量)部が好ましく、0.01〜1質量(重量)部がより好ましい。また、水硬性結合剤がコンクリートの場合は、水硬性結合剤に含まれるセメント100質量(重量)部に対して3〜10質量(重量)部が好ましく、5〜9質量(重量)部がより好ましく、7〜8質量(重量)部が更により好ましい。
【0056】
一般に、急結剤が水硬性結合剤に混合されて吹付けられた直後から4時間程度までの水硬性結合剤の強度増進は主にエトリンガイト生成による急結作用によるものである。その後、水硬性結合剤、特にセメントの水和作用により急激に強度が増大する。したがって、急結剤の性能は、この2種類の強度発現の合計で表される。本発明で使用される急結剤は水和反応の開始時間を短縮することができるので、吹付後約3時間から水硬性結合剤の水和反応を開始して、初期強度を比較的短時間に向上させることができる。したがって、本発明の急結剤は、使用開始後3〜24時間、特に、4〜6時間の水硬性結合剤の強度発現に優れる。
【0057】
(急結補助剤)
本発明の前記(2)水硬性結合剤用急結剤は、(B)粉末状の硫酸アルミニウム又はその水和物を含む非スラリー状急結補助剤を副成分として使用する。(B)急結補助剤は(A)液体急結剤の急結作用を増大する。したがって、(A)液体急結剤に(B)急結補助剤を組み合わせて使用することにより、水硬性結合剤を短時間で硬化させることができる。特に、(B)急結補助剤は、使用開始後約1時間程度までの初期強度向上に大きく寄与することができる。したがって、例えば、水硬性結合剤の温度が低い場合や湧水が存在する場合でも、水硬性結合剤を短時間で硬化させて、必要な強度を得ることができる。
【0058】
したがって、本発明のある態様は、(A)硫酸アルミニウム又はその水和物、アルミニウムの酸化物又は水酸化物、少なくとも1種の有機酸、少なくとも1種のアルカリ土類金属の酸化物又は水酸化物、及び、水を含む、水硬性結合剤用液体急結剤用の、(B)粉末状の硫酸アルミニウム又はその水和物を含む非スラリー状急結補助剤である。
【0059】
(B)急結補助剤は非スラリー状であり、粉末状であることが好ましい。特に、(B)急結補助剤は粉末状の硫酸アルミニウム又はその水和物のみからなることが好ましい。硫酸アルミニウム又はその水和物は無水硫酸アルミニウムAl
2(SO
4)
3又は硫酸アルミニウム水和物Al
2(SO
4)
3・nH
2Oで表され、nは0〜20のものを好適に使用可能であるが、n=5〜20のものが好ましく、n=14〜18のものがより好ましい。Al
2O
3に換算して17質量(重量)%以上のアルミニウムを含むものが特に好ましい。なお、硫酸アルミニウム又はその水和物は(A)液体急結剤にも含まれているが、(A)液体急結剤に含まれている硫酸アルミニウム又はその水和物は溶解又は分散した形態である一方、(B)急結補助剤における硫酸アルミニウム又はその水和物は非溶解形態又は非スラリー状であり、好ましくは粉末状である点で異なる。
【0060】
(B)急結補助剤は、水硬性結合剤100質量(重量)部に対して0.0001〜5質量(重量)部の範囲で使用することができ、0.001〜3質量(重量)部が好ましく、0.01〜1質量(重量)部がより好ましい。また、水硬性結合剤がコンクリートの場合は、水硬性結合剤に含まれるセメント100質量(重量)部に対して0.5〜5.0質量(重量)部が好ましく、1.0〜4.0質量(重量)部がより好ましく、1.5〜3.0質量(重量)部が更により好ましい。
【0061】
(急速硬化方法)
本発明のある態様では、(A)硫酸アルミニウム又はその水和物、アルミニウムの酸化物又は水酸化物、少なくとも1種の有機酸、少なくとも1種のアルカリ土類金属の酸化物又は水酸化物、及び、水を含む液体急結剤;並びに、(B)粉末状の硫酸アルミニウム又はその水和物を含む非スラリー状急結補助剤を混合して水硬性結合剤に添加することによって水硬性結合剤を急速硬化させる。(A)液体急結剤、及び、(B)急結補助剤の混合物は、全体として液状であり、好ましくは、(A)液体急結剤中に(B)急結補助剤が溶解又は分散した溶液又は分散液である。
【0062】
本発明の他の態様では、(A)硫酸アルミニウム又はその水和物、アルミニウムの酸化物又は水酸化物、少なくとも1種の有機酸、少なくとも1種のアルカリ土類金属の酸化物又は水酸化物、及び、水を含む液体急結剤;並びに、(B)粉末状の硫酸アルミニウム又はその水和物を含む非スラリー状急結補助剤を別個に水硬性結合剤に添加することによって水硬性結合剤を急速硬化させる。
【0063】
これらの方法により、水硬性結合剤の温度が低い場合や湧水が存在する場合のように、従来では施工が困難な条件下でも、水硬性結合剤を短時間で硬化させて、必要な強度を得ることができる。前記(A)液体急結剤、及び、(B)急結補助剤としては、それぞれ、既述したものを使用することができる。
【0064】
また、本発明は、これらの方法で硬化された水硬性結合剤、並びに、当該硬化された水硬性結合剤を含む土木建造物にも関する。土木建築物は特に限定されるものではないが、例えば、家屋、ビルディング、道路、トンネル、橋梁、防波堤、堤防等が挙げられる。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明の水硬性結合剤用(液体)急結剤、急結補助剤、及び、急速硬化方法はトンネル及び地下構造物における吹付コンクリート、トンネルにおけるライニングとしての吹付コンクリート、並びに、斜面保護及び深礎での吹付モルタル又は吹付コンクリートに使用することができる。
【実施例】
【0066】
以下に実施例および比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に制限されるものではない。
【0067】
[吹付コンクリート1の製造]
ポルトランドセメント100質量(重量)部に対して、水46質量(重量)部、細骨材226質量(重量)部、粗骨材155質量(重量)部、フライアッシュ14質量(重量)部、及び、高性能減水剤(日本シーカ(株)製)1.3質量(重量)部を混合・混練し、吹付コンクリートを調製した。なお、コンクリート温度は26.5℃に調整した。
【0068】
[吹付コンクリート2の製造]
ポルトランドセメント100質量(重量)部に対して、水44質量(重量)部、細骨材221質量(重量)部、粗骨材165質量(重量)部、フライアッシュ14質量(重量)部及び、高性能減水剤(日本シーカ(株)製)0.7質量(重量)部を混合・混練し、吹付コンクリートを調製した。なお、コンクリート温度は21.5℃に調整した。
【0069】
[液体急結剤の製造]
水26.60質量(重量)%、水酸化マグネシウム3.70質量(重量)%、蟻酸(85%)12.50質量(重量)%、水酸化アルミニウム(17%Al
2O
3)12.00質量(重量)%、硫酸アルミニウム45.00質量(重量)%、グルコン酸ナトリウム0.20質量(重量)%を混合し、液体急結剤を調製した。
【0070】
[参考例1]
吹付コンクリート1に、当該コンクリート中のポルトランドセメント分量100質量(重量)部に対して6質量(重量)部の前記液体急結剤を配合して混練した。
【0071】
[参考例2]
吹付コンクリート1に、当該コンクリート中のポルトランドセメント分量100質量(重量)部に対して8質量(重量)部の前記液体急結剤を配合して混練した。
【0072】
[評価1]
参考例1及び参考例2の吹付コンクリートの圧縮強度変化を経時的に測定した。具体的には、前記液体急結剤の混練完了後の吹付コンクリート1についてAFG1000に基づき超初期強度試験を吹付後5分、10分、20分、30分、40分、60分について実施し、圧縮強度(N/mm
2)を測定した。結果を表1及び
図1に示す。
【0073】
【表1】
【0074】
前記液体急結剤を含む参考例1及び2は、優れた早期強度発現性能を有する。特に、表1の結果から明らかなように、硬化開始1時間以内の強度発現に関しては、前記液体急結剤を参考例1より多く含む参考例2の方が参考例1よりも30%程度大きな強度を示した。
【0075】
[実施例1]
吹付コンクリート2に、当該コンクリート中のポルトランドセメント分量100質量(重量)部に対して6質量(重量)部の前記液体急結剤、及び、1.5質量(重量)部の硫酸アルミニウム粉末を配合して混練した。
【0076】
[実施例2]
吹付コンクリート2に、当該コンクリート中のポルトランドセメント分量100質量(重量)部に対して6質量(重量)部の前記液体急結剤、及び、3.0質量(重量)部の硫酸アルミニウム粉末を配合して混練した。
【0077】
[参考例3]
吹付コンクリート2に、当該コンクリート中のポルトランドセメント分量100質量(重量)部に対して6質量(重量)部の前記液体急結剤を配合して混練した。
【0078】
[評価2]
実施例1、実施例2及び参考例3の吹付コンクリートの圧縮強度変化を経時的に測定した。具体的には、実施例1及び実施例2については前記液体急結剤及び硫酸アルミニウム粉末、並びに、参考例3については前記液体急結剤の混練完了後の吹付コンクリート2についてAFG1000に基づき超初期強度試験を吹付後10分、20分、30分、40分、60分について実施し、圧縮強度(N/mm
2)を測定した。結果を表2及び
図2に示す。
【0079】
【表2】
【0080】
表2から明らかなように、硫酸アルミニウム粉末を配合する実施例1及び実施例2は、硫酸アルミニウム粉末を使用しない参考例3に対して、特に優れた早期強度発現性能を有する。具体的には、硬化開始1時間以内の吹付コンクリートの強度に関しては、実施例1及び実施例2は、参考例3に対して30〜80%の増大を示す。
【0081】
更に、硬化開始40分以内の吹付コンクリートの強度に関しては、硫酸アルミニウム粉末を実施例1よりも2倍多く使用する実施例2の方が実施例1よりも大きな強度を示した。
【0082】
[評価3]
下記の組成を有する急結剤を調製した。表3中の数値は質量(重量)%を表す。具体的には、非加熱状態の水を用意し、これに、水酸化マグネシウムを含む例では水酸化マグネシウムを添加してスラリー化し、ギ酸又は硫酸を添加した。これにより、混合物の温度は大きく上昇した。次に、水酸化アルミニウム及び硫酸アルミニウムを添加した。そして、反応が終了して混合物の温度が約40℃に低下するまで混合物を約1時間撹拌した。このようにして、分散微粒子を含む各実施例及び比較例の組成物を得た。実施例4、比較例2及び比較例4は、実施例3、比較例1及び比較例3に較べて、それぞれ、硫酸アルミニウムの量が3質量(重量)%多い。
【0083】
【表3】
【0084】
実施例3及び4、並びに、比較例1〜3を用いて、モルタルテストを実施した。なお、比較例4は調製中に固化したのでモルタルテストを実施することはできなかった。
【0085】
モルタルテストでは、同一組成の汎用のモルタルに実施例3及び4、並びに、比較例1〜3の急結剤をそれぞれ6質量(重量)部(モルタル中のセメント100質量(重量)部に対して)配合した。具体的には、まず、500gのセメント(Wildegg社(スイス)製CEM I 42.5)、500gの粉砕石灰石(粒径:0.1〜1.8mm)、500gのケイ砂(粒径:0.7〜1.2mm)、500gのケイ砂(粒径:1.5〜2.2mm)を乾燥状態で予備混合した。次に、1.2質量(重量)%の可塑剤(0.1%の消泡剤(Pronal 7535)を含むSika Switzerland社(スイス)製Viscocrete SC-303)を含む水240gを乾燥状態の予備混合物に添加(w/c=0.48)し、2分混合して、モルタルスラリーを得た。その後、30秒間混合を停止し、上記急結剤(6質量(重量)部)をモルタルスラリーに添加した。
【0086】
次に、上記モルタルスラリーを用いて4×4×16cmの三角柱を調製した。前記三角柱の圧縮強度をEN196−1に従って4、6及び24時間後に測定した。結果を表4に示す。初期段階、すなわち4時間後及び6時間後の圧縮強度が特に重要である。24時間後の値は参考である。
【0087】
【表4】
【0088】
表4から明らかなように、水酸化マグネシウムとの組み合わせにおいて、硫酸アルミニウムの量が多い実施例4は6時間後の圧縮強度が顕著に増加している。実施例4(水酸化マグネシウムを含む+硫酸アルミニウムの量が3質量(重量)%多い)と比較例2(水酸化マグネシウムを含まない+硫酸アルミニウムの量が3質量(重量)%多い)とでは、6時間後の圧縮強度が、前者が後者の約1.2倍である。
【0089】
また、ギ酸の代わりに硫酸を使用する場合は、実施例3と比較例3の対比から明らかなように、初期段階(4時間後及び6時間後)で圧縮強度の顕著な低下がみられた。なお、24時間後の圧縮強度の増大は硫酸の添加による硫酸塩の増加によるものであり、驚くべきものではない。