(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
  金属酸化物及び担体を含む触媒を収容した反応器に、炭素数4以上のモノオレフィンを含む炭化水素と、酸素とを供給して共役ジオレフィンを含む反応生成ガスを生成させる工程と、前記反応生成ガスを急冷塔に送入し、急冷剤によって洗浄する工程と、を含み、前記急冷剤として有機アミン水溶液を用いる、共役ジオレフィンの製造方法。
  前記急冷塔の抜出液が4−メチル−4−フォルミル−1−シクロヘキセン、メタクロレイン、メタクリル酸、安息香酸、酢酸、アクリル酸及びこれらの有機アミン塩からなる群より選択された少なくとも1種を含有する、請求項1又は2に記載の共役ジオレフィンの製造方法。
  前記急冷塔が上下複数の区画を有し、前記複数の区画中の最下区画における急冷剤として芳香族系有機溶剤を用い、前記最下区画より上の区画における急冷剤として有機アミン水溶液を用いる、請求項1〜3のいずれか1項に記載の共役ジオレフィンの製造方法。
  前記有機アミンがモノエタノールアミン、ジエタノールアミン及びトリエタノールアミンからなる群より選択される少なくとも1種を含有する、請求項1〜4のいずれか1項に記載の共役ジオレフィンの製造方法。
  前記芳香族系有機溶剤がo−キシレン、m−キシレン、p−キシレン及び混合キシレンからなる群より選択された少なくとも1種を含有する請求項2に記載の共役ジオレフィンの製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0014】
  以下、本発明を実施するための形態(以下、本実施形態)について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
 
【0015】
  [1]共役ジオレフィンの製造方法
  本実施形態の共役ジオレフィンの製造方法は、
  金属酸化物及び担体を含む触媒を収容した反応器に、炭素数4以上のモノオレフィンを含む炭化水素と、酸素と(当該炭化水素と酸素とを含む原料ガスを「原料混合ガス」とも記す。)を供給して共役ジオレフィンを含む反応生成ガスを生成させる工程と、
  前記反応生成ガスを急冷塔に送入し、急冷剤によって洗浄する工程と、を含み、
  前記急冷剤として有機アミン水溶液を用いる、共役ジオレフィンの製造方法である。
 
【0016】
  本実施形態の製造方法においては、炭素数4以上のモノオレフィンを含む炭化水素の接触酸化脱水素反応により、共役ジオレフィンを製造する。目的化合物である共役ジオレフィンとしては、1,3−ブタジエン、イソプレン等が挙げられ、好ましくは、1,3−ブタジエンである。
 
【0017】
  (1)炭化水素原料
  炭化水素原料は、炭素数4以上のモノオレフィンを含む。モノオレフィンは、炭素―炭素二重結合を一つのみ有するもので、通常は官能基を有しない有機化合物であって、直鎖及び/又は分岐鎖の炭化水素である。モノオレフィンにおける炭素数の上限は厳密ではないが、反応性の観点で6以下が好ましい。炭素数4以上のモノオレフィンの例としては、n−ブテン(1−ブテン、2−ブテン)、イソブテン、1−ペンテン、2−ペンテン、イソペンテン(2−メチル−1−ブテン、3−メチル−1−ブテン)、1−ヘキセン、2−ヘキセン、2,3−ジメチルブテンが挙げられる。1種のモノオレフィンを原料としてもよいし、2以上のモノオレフィンを原料としてもよい。常温(5〜35℃)で液状のモノオレフィンは、スチームや伝熱コイルなどの加熱部を有するガス化装置を用いてガス化した後、反応に供することが好ましい。
 
【0018】
  炭化水素原料は必ずしも高純度である必要はなく、任意の混合物や工業グレードを使用することができる。例えば、ナフサ熱分解で副生するC4留分からブタジエンを抽出した残留成分(BBS)や更にイソブテンを分離した残留成分(BBSS)、重油留分の流動接触分解(FCC)で副生するC4留分や更にイソブテンを分離した残留成分、n−ブタンの脱水素反応又は酸化脱水素反応により得られるC4成分、エチレンを二量化して得られるn−ブテン、エチレン又はエタノ−ルの接触転化反応により得られるC4成分や更にイソブテンを分離した残留成分を使用することができる。イソブテンは、水和反応でt−ブチルアルコール(TBA)、アルコールと反応させてメチル−tert−ブチルエーテル(MTBE)やエチル−tert−ブチルエーテル(ETBE)、n−ブテンへの骨格異性化、選択的吸着、二量化などによって分離することができる。エチレンは、ナフサ熱分解、エタン熱分解、エタノールの脱水反応によって得られるものを使用することができ、エタノールとして工業用エタノール、バイオマスエタノールを使用することができる。バイオマスエタノールとは植物資源から得られるエタノールであり、具体的にはサトウキビやトウモロコシ等の発酵により得られるエタノールや廃材、間伐材、稲わら、農作物等の木質資源から得られるエタノールが挙げられる。
 
【0019】
  原料中のモノオレフィン濃度は、共役ジオレフィンの生産性の観点で、例えば、少なくともモノオレフィンと空気とを含む原料混合ガス100体積%に対して2体積%以上が好ましく、触媒への負荷を抑える観点で30体積%以下が好ましい。より好ましくは、3〜25体積%である。原料中のモノオレフィン濃度が高いと反応生成物の蓄積やコークの析出が増し、触媒の劣化による触媒寿命が短くなる傾向にある。
 
【0020】
  原料混合ガスはパラフィン、水、スチーム、水素、窒素、二酸化炭素、一酸化炭素等を含んでいてもよい。パラフィンの例として、メタン、エタン、プロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナンを挙げることができる。また、反応生成物から目的生成物であるブタジエンを分離した後、未反応ブテンの少なくとも一部を、流動層反応器にリサイクルすることもできる。
 
【0021】
  (2)反応器
  炭素数4以上のモノオレフィンを含む炭化水素の接触酸化脱水素反応による共役ジオレフィンの製造には、流動層反応器、固定層反応器、移動床反応器を採用することができるが、好ましい反応器は流動層反応器である。
 
【0022】
  流動層反応器は、反応器とその中に設けられるガス分散器、流動状態を良好に維持するための内挿物及びサイクロンとをその主要構成要素として有し、予め反応器内に収容した触媒を気流によって流動させつつ、原料であるガスと接触させる構造である。流動床ハンドブック(株式会社培風館刊、1999年)等に記載の流動層反応器であれば使用可能であるが、特に気泡流動層方式の反応器が適している。発生する反応熱の除熱は反応器に内挿した冷却管を用いて行うことができる。
 
【0023】
  (3)反応条件
  炭素数4以上のモノオレフィンを含む炭化水素と酸素とが反応に供される。酸素源としては通常、空気を用いるが、酸素を空気と混合するなどして酸素濃度を高めたガス、又は空気とヘリウム、窒素などの不活性ガスを混合するなどして酸素濃度を低めたガスを用いることもできる。酸素に対するモノオレフィンのモル比は、モノオレフィン/酸素で0.4〜2.5とするのが好ましく、より好ましくは0.6〜2.1である。酸素に対するモノオレフィンのモル比が2.5以下であると、生成した共役ジオレフィンの分解反応が抑制できる傾向にあり、0.4以上であると、モノオレフィンの反応性が向上する傾向にある。
 
【0024】
  炭素数4以上のモノオレフィンを含む炭化水素と酸素との反応器への導入方法は限定されない。触媒を充填した反応器へ、炭素数4以上のモノオレフィンを含む炭化水素を含むガスと、空気又は酸素濃度を高めたガスとを予め混合して導入してもよいし、それぞれ独立して導入してもよい。また、反応に供するガスが上記の比率となるような導入方法が好ましい。さらに、反応に供するガスは反応器に導入した後に所定の反応温度に昇温することもできるが、連続して効率的に反応させるために、通常は予熱して反応器に導入する。
 
【0025】
  反応温度は300〜420℃とするのが好ましい。反応温度を300℃以上にすることでモノオレフィンの転化が起こり易く、420℃以下にすることで生成した共役ジオレフィンの燃焼分解を低く維持できる傾向にある。より好ましい反応温度は300〜400℃、特に好ましくは310〜390℃である。共役ジオレフィンの製造反応は発熱反応であるので、通常、好適な反応温度となるように除熱を行う。冷却管による反応熱の除熱や加熱装置による給熱によって、上記の範囲に反応温度を調節することができる。
 
【0026】
  反応圧力は微減圧〜0.8MPaで行うことができる。原料混合ガスと触媒との接触時間は0.5〜20(sec・g/cc)、好ましくは1〜10(sec・g/cc)である。接触時間は、次式で定義される。
【数1】
(式中、Wは触媒充填量(g)、Fは原料混合ガス流量(NL/hr、NTP換算値(0℃、1atmに換算した値))、Tは反応温度(℃)、Pは反応圧力(MPaG)を表す。)
 
【0027】
  触媒と原料混合ガスとが反応器内で接触することにより、モノオレフィンに対応する共役ジオレフィンが生成する。生成物の収率及び/又は選択率は、原料、触媒、反応温度等に依存するので、これらの条件は、収率及び/又は選択率が望ましい値になるように適宜設定すればよい。例えばモノオレフィンがn−ブテンの場合、主生成物はブタジエンであり、モノオレフィンがイソペンテンの場合、主生成物はイソプレンである。イソブテンが共役ジオレフィン製造用の触媒に接触すると、例えば、イソブテンからはメタクロレインやメタクリル酸、メタクロレインとブタジエンの付加物である4−メチル−4−フォルミル−1−シクロヘキセンが生成する。炭化水素原料としてBBSからイソブテンを分離したBBSSを用いる場合、分離工程を経ても通常、イソブテンは数重量%残存するため、4−メチル−4−フォルミル−1−シクロヘキセンとメタクロレインはBBSSを炭化水素原料に用いた場合にも生成する。尚、4−メチル−4−フォルミル−1−シクロヘキセンはブタジエンとメタクロレインの付加反応によって生成するため、4−メチル−4−フォルミル−1−シクロヘキセンの生成は、ブタジエンの回収率低下を意味する。
 
【0028】
  (4)急冷工程
  本実施形態の共役ジオレフィンの製造方法は、前記反応生成ガスを急冷塔に送入し、急冷剤によって洗浄する工程(以下「急冷工程」とも記す。)を含む。
 
【0029】
  急冷工程において、前記急冷剤として有機アミン水溶液を用い、芳香族系有機溶剤をさらに併用することが好ましい。前記急冷剤として有機アミン水溶液と共に芳香族系有機溶剤を併用すると、より高純度の共役ジオレフィンを得ることができる。
 
【0030】
  急冷工程において、例えば、反応生成ガスは急冷塔に塔底から送入され、急冷塔内を上昇する。急冷塔内には例えば、有機アミン水溶液及び芳香族系有機溶剤(以下「芳香族溶剤」とも記す。)が噴霧されているので、反応生成ガスは有機アミン水溶液及び芳香族溶剤に接触して洗浄され、塔頂から流出する。この洗浄によって、例えば、反応生成ガス中の有機酸、アルデヒド類、高沸点化合物といった反応副生成物は、有機アミン水溶液及び芳香族溶剤による溶解に加え、有機アミンとの反応によって除去される。例えば反応副生成物の内、酢酸、メタクリル酸、マレイン酸、クロトンアルデヒド、メチルビニルケトンなどの低沸点の有機酸・アルデヒド・ケトン類は主に有機アミン水溶液への溶解及び反応によって、安息香酸などの高沸点化合物は主に芳香族溶剤への溶解によって、反応生成ガスから除去される。
 
【0031】
  接触酸化脱水素反応による共役ジオレフィンの製造では、オレフィンからジオレフィンを生成する主反応に加え、例えば、酸化反応であるが故に、有機酸・アルデヒド・ケトンといった含酸素化合物などを生成する副反応、生成したジオレフィンや副反応生成物が反応原料となる二次反応が進行する。特にBBSSを原料に用いる場合、炭素数4のn−ブテンのみを原料とする場合以上に、主反応、副反応及び二次反応が複雑に進行する。これはBBSSが主として炭素数3から5の炭化水素の混合物であるために、反応原料となり得る炭化水素が多く存在し、含酸素化合物などの副反応生成物、目的物のブタジエンと副反応生成物間の二次反応生成物など、炭素数4のn−ブテンのみを用いた場合に比べ、極めて多種多様な反応副生物が生成することに起因する。一般に数種類の炭化水素が関わる接触酸化脱水素反応は、副反応によって高沸点化合物を生成し易く、反応副生物の水溶性は低くなる傾向にある。
 
【0032】
  BBSS等のイソブテンが完全に除去されていない炭化水素原料を共役ジオレフィンの原料とする場合に生成する成分として、4−メチル−4−フォルミル−1−シクロヘキセン、メタクロレイン、メタクリル酸などがあるが、これらの内、4−メチル−4−フォルミル−1−シクロヘキセンとメタクロレインはナフサ熱分解法のように、有機アミン水溶液以外の急冷剤(例えば苛性ソーダ水溶液)を使用して反応生成ガスを急冷する場合、充分に分離されないまま、製品ブタジエンに不純物として混入する。4−メチル−4−フォルミル−1−シクロヘキセンとメタクロレインとの混入は、これらの反応副生物と、ブタジエン及び従来使われている精製溶剤との親和性に起因すると本発明者らは考えた。さらに、本発明者らは、4−メチル−4−フォルミル−1−シクロヘキセン及びメタクロレインが、ブタジエンの重合阻害剤として作用することを見出したため、ブタジエンの精製に当たっては、特にこれらの反応副生物との親和性に着目して精製溶剤を選択すべきと考えた。このような課題に対し、BBSS等のイソブテンが完全に除去されていない炭化水素原料を共役ジオレフィンの原料とする場合に、有機アミン水溶液を反応生成ガスの急冷剤とすると、4−メチル−4−フォルミル−1−シクロヘキセン及び/又はメタクロレインを除去する効果が高いことを見出した。
 
【0033】
  一方、安息香酸、フタル酸、フェノール、ベンゾフェノン、9−フルオレノンなどは、BBSSのような混合物でなく、n−ブテンのようなモノオレフィンを単体で炭化水素原料とした場合であっても生成する高沸点の反応副生物である。ブタジエンの精製実験を繰り返す中で、これらの反応副生物が検出されるのが、急冷塔による急冷工程より後ろの工程の配管設備に付着した微小の固形粒子の中であることから、本発明者らは、これらの反応副生物に昇華性という共通の物性があることを見出した。そして、これらの反応副生物を除去するためには、有機アミン水溶液による急冷に加え、溶解除去という観点から、より副生物との相溶性に優れた急冷剤を選択すべきであると考えた。即ち、n−ブテンやBBSSなど、n−ブテンを含む炭化水素原料を原料として共役ジオレフィンの製造をする場合に、反応生成ガスの急冷剤として有機アミン水溶液に加えて芳香族系有機溶剤を使用することで、安息香酸、フタル酸、フェノール、ベンゾフェノン、9−フルオレノンなどの昇華性を有する高沸点の反応副生物を除去する効果が得られることを見出した。副生物の種類や量は、原料の他、触媒や温度、圧力等の反応条件によっても変動するし、最適な急冷剤は副生物の組成によって違う。したがって、除去すべき成分との相溶性という観点で急冷剤を選択するという知見は、共役ジオレフィンの製造を工業的に実施する上で極めて有用である。
 
【0034】
  本実施形態の共役ジオレフィンの製造方法において、前記急冷塔の抜出液が4−メチル−4−フォルミル−1−シクロヘキセン、メタクロレイン、メタクリル酸、安息香酸、酢酸、アクリル酸及びこれらの有機アミン塩からなる群より選択された少なくとも1種を含有することが好ましい。急冷塔の抜出液がこのような化合物を含有していると、得られる共役ジオレフィンは、より高純度となる。なお、本実施形態において、急冷塔の抜出液は、塔底から抜出される液(塔底液)だけでなく、急冷塔の内部が複数区画化されている場合は、各区画から抜出される液も含まれる。
 
【0035】
  急冷塔は、反応生成ガスに急冷剤を効率よく接触させる観点で、内部に二つ以上の区画を有する多段急冷塔が好ましく、三段以上の区画を有するものがより好ましい。急冷塔内では、各区画において抜出した急冷剤を抜出位置より上部に循環液として噴霧し、反応生成ガスの冷却と反応副生物の除去とを行った後、各区画の抜出液となる。一方、急冷塔塔頂から流出する共役ジオレフィン(例えば、ブタジエン)を含む反応生成ガスは次の工程へ送られる。抜出した急冷剤のうち有機アミン水溶液は、冷却した後に急冷塔に戻して再度噴霧することが好ましい。抜出した急冷剤のうち芳香族溶剤は、芳香族の反応副生物の沸点や溶解度、昇華性に応じて、液温を室温〜70℃に調整することが好ましく、有機アミン水溶液同様、急冷塔に戻して再噴霧することが好ましい。また、後述の精製工程におけるイナートガスの脱気操作の負荷軽減を図るため、急冷塔の出口ガス温度は適切な温度に制御するのが好ましい。この制御のために急冷剤のうち有機アミン水溶液を再噴霧する前に適切な温度に冷却し、急冷塔の上段に供給するのが有効である。この時、有機アミン水溶液の温度は80℃以下に、好ましくは0〜70℃の範囲に制御し、急冷塔の出口ガス温度は70℃以下に、好ましくは5〜60℃の範囲に制御する。急冷塔は、例えば、第一の急冷塔が有機アミン水溶液による反応生成ガスの洗浄、第二の急冷塔が芳香族溶剤による反応生成ガスの洗浄、のように独立して設けることもできる。各急冷塔は内部に二つ以上の区画を有する多段急冷塔であってもよい。
 
【0036】
  急冷剤の供給量は、急冷剤の種類や温度、除去すべき副生物の種類や量、急冷塔のサイズや段数等に応じて適宜設定すればよい。抜出した急冷剤を再利用する態様においては、再利用される急冷剤が必要量に対して不足する分だけ新しい急冷剤を追加することによって、必要な供給量にすればよい。
 
【0037】
  多段急冷塔で各段に異なる急冷剤を使用する場合、急冷剤の組み合わせによっては、抜出液が水相と油相との混合物となるので、抜出液を再度急冷塔に供給するのに先立って、抜出液をデカンタで油水分離するのが好ましい。例えば、急冷剤として有機アミン水溶液と芳香族系有機溶剤とを併用する場合、抜出液をデカンタに供給し、油水分離してから有機アミン水溶液、芳香族系有機溶剤をそれぞれの段に再噴霧するのは好ましい態様である。
 
【0038】
  急冷剤の噴霧には、スプレーノズルを用いることができ、急冷剤と反応生成ガスとの接触及び反応生成ガスの送入量を考慮し、噴霧量、スプレーノズル数及び配置を適宜決定すればよい。急冷塔内の各区画には空塔、トレイ、充填物を設けることも好ましい実施態様の一つである。急冷塔に供給される洗浄前の有機アミン水溶液は、常温で、循環時のpHが7〜14、好ましくは8〜10に制御されるのが好ましい。有機アミン水溶液は、所定濃度に予め調整したものを急冷塔に供給しても、有機アミンと水とを急冷塔へ供給する前に混合して供給してもよい。急冷塔内の循環及び反応生成ガスの洗浄に用いる急冷剤としては、有機アミン水溶液及び芳香族溶剤に加え、水を、急冷塔の各区画独立に用いてもよい。急冷塔の区画液として排出された反応副生成物を含む廃有機アミン水溶液及び廃芳香族溶剤は、焼却処理することができる。廃有機アミン水溶液は、焼却炉の耐火レンガを侵食するアルカリ金属を含まないため、耐火レンガを損傷する恐れがないことに加え、アミンの無触媒脱硝作用、いわゆるデノックス作用により、燃焼排ガス中のNOx排出量の低減という効果を奏し、廃液処理が極めて容易であるという利点も有する。廃芳香族溶剤は燃料として、好適に利用することができる。
 
【0039】
  有機アミンの例として、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、イソプロピルアミン、ブチルアミン、sec−ブチルアミン、tert−ブチルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、トリメチルアミン、N,N−ジメチルエタノールアミン、N,N−ジエチルエタノールアミン、N,N−ジブチルエタノールアミンアミン、N−メチルエタノールアミン、N−メチルジエタノールアミン、N−エチルエタノールアミン、N−エチルジエタノールアミン、N−n−ブチルエタノールアミン、N−n−ブチルジエタノールアミン、N−tert−ブチルエタノールアミン、N−tert−ブチルジエタノールアミンなどのアミンが挙げられる。好ましい有機アミンはモノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミンであり、特に好ましい有機アミンはモノエタノールアミンである。二酸化炭素の吸収剤としても用いられるモノエタノールアミンは、反応生成ガスに含まれる二酸化炭素の除去という観点でも好ましい有機アミンである。これらのアミンは分子内にアミノ基と水酸基とを有する二官能性化合物であるため、反応副生成物として含まれる有機酸にはアミンとして作用して酸塩基反応し、アルデヒドにはアルカリ触媒として作用してアルドール縮合を引き起こす、又はアルコールとして作用してアセタール化反応することで、苛性ソーダ水溶液などのアルカリ水溶液による単純な中和反応に比べ、極めて効果的に反応副生成物が除かれると推定される。
 
【0040】
  有機アミン水溶液を急冷剤とする場合、有機アミン水溶液における有機アミン濃度は、4−メチル−4−フォルミル−1−シクロヘキセン、メタクロレイン、メタクリル酸、安息香酸、酢酸、アクリル酸などの除去効率の観点で10重量%以上が好ましい。該有機アミン濃度の好ましい上限値は、技術的には設定されないが、経済的には80重量%以下が好ましい。
 
【0041】
  共役ジオレフィンを樹脂等の原料とする場合に、4−メチル−4−フォルミル−1−シクロヘキセン及び/又はメタクロレインが含まれていると、重合速度の低下、重合度の低下、分子量分布の拡大の原因となり易い。そのため、4−メチル−4−フォルミル−1−シクロヘキセン及びメタクロレインの濃度を、急冷塔における洗浄効果の指標とするのが好ましい。これらの生成量は、炭化水素原料中のモノオレフィン濃度及び組成、反応条件によって変動し、更には急冷塔運転条件によって、これらの有機アミン水溶液への溶解量も変動するため、急冷塔の各区画抜出液中の4−メチル−4−フォルミル−1−シクロヘキセンとメタクロレインとの濃度を規定することは難しい。しかし、本発明者らの検討によれば、各区画から抜き出した有機アミン水溶液における4−メチル−4−フォルミル−1−シクロヘキセン濃度とメタクロレイン濃度との合計が500重量ppm以上であれば、反応生成ガス中からこれらが充分に除去されたと判断してよい。この指標は、各区画抜出液の4−メチル−4−フォルミル−1−シクロヘキセンとメタクロレインとの濃度と、得られたジオレフィンの重合物の分析から、経験的に導かれた。
 
【0042】
  芳香族溶剤の例として、o−キシレン、m−キシレン、p−キシレン、混合キシレン、トルエン、エチルベンゼン、ジエチルベンゼン、1,2,3,4,5,6,7,8−デカヒドロナフタリン、クメン、分岐及び直鎖型アルキルベンゼン、プソイドクメンなどが挙げられる。好ましい芳香族溶剤はo−キシレン、m−キシレン、p−キシレン及び混合キシレンであり、特に好ましい芳香族溶剤はo−キシレン、m−キシレンである。これらの芳香族溶剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上併用してもよい。有機酸である安息香酸は水溶性が低いためか、反応生成ガスに同伴して急冷塔から流出し易く、有機アミン水溶液を使って急冷しても、後工程の配管設備内に付着し易い成分の一つであるが、芳香族溶剤の洗浄を組み合わせることで、検出されなくなることを本発明者らは実験的に確認している。この理由として、芳香族溶剤と同じ芳香族化合物である安息香酸は、芳香環同士の強いπ−π電子相互作用によって、芳香族溶剤と高い相溶性を有することで、反応生成ガス中から効果的に溶解除去されたことが考えられる。フタル酸、フェノール、ベンゾフェノン、9−フルオレノンなどの芳香族化合物も芳香族溶剤による洗浄を行うことで、反応生成ガス中から除かれるため、安息香酸同様の除去機構が考えられる。
 
【0043】
  安息香酸、フタル酸、フェノール、ベンゾフェノン、9−フルオレノンなどの芳香族の反応副生物の生成量が炭化水素原料中のモノオレフィン濃度及び組成、反応条件によって変動すること、更には急冷塔運転条件によって、これらの芳香族溶剤への溶解量も変動するため、急冷塔の各区画抜出液中の安息香酸、フタル酸、フェノール、ベンゾフェノン、9−フルオレノンなどの濃度を規定することは難しい。しかしながら、本発明者らの検討によれば、急冷塔から流出する芳香族の反応副生物の主成分である安息香酸の、各区画から抜き出した芳香族溶剤中濃度が500重量ppm以上であれば、反応生成ガス中から安息香酸、フタル酸、フェノール、ベンゾフェノン、9−フルオレノンなどの芳香族の反応副生物は充分に除去されたと判断してよい。
 
【0044】
  一般に、急冷塔は反応器と圧力調整なしで繋がっており、反応器の圧力とほぼ等しくなる。従って、反応器の圧力を適正化するため、急冷塔の圧力は0.01〜0.4MPaGが好ましく、より好ましくは0.02〜0.3MPaG、更に好ましくは0.03〜0.2MPaGである。
 
【0045】
  本実施形態の共役ジオレフィンの製造方法は、前記急冷塔が上下複数の区画を有することが好ましい。以下、急冷塔が上下複数の区画を有する場合について、図を参照しながら具体的に説明する。
 
【0046】
  図1は、本実施形態の共役ジオレフィンの製造方法に使用される急冷塔2の一例を示す。この急冷塔2は2区画を有する例であり、中段にチムニー21が嵌められてその上下にそれぞれ区画が形成されている。チムニー21の上には充填床22設けられている。チムニー21の下に設置された噴霧装置23Bと、充填床22の上に設置された噴霧装置23Aとから、それぞれ有機アミン水溶液が急冷剤として噴霧される。
 
【0047】
  チムニー21は中央部で開口している。該開口部には上に突出した堰が設けられている。
図1に示すとおり、噴霧された急冷剤は、チムニー21上に一体となって設置されたトレイに溜まり(以下、急冷塔中に溜まった急冷剤については図示を省略する)、循環路へ流出する。また、噴霧された急冷剤は、塔底にも溜まり、循環路へ流出する。それぞれ流出した急冷剤はポンプ24A、24Bを介して噴霧装置23A、23Bに供給され、循環利用される。充填床22には充填物が収容されている。当該充填床22において、急冷剤とガスとの通過を阻害しながら、両者を効率的に接触させる。充填物の種類は特に限定されず、ラシヒリング、カスケードリング、ポールリング等、公知の充填物を利用できる。充填の仕方も特に限定されず、規則的でもよいし不規則的でもよい。
 
【0048】
  反応器から流出した反応生成ガスは、急冷塔2に塔底部から導入され、急冷剤と接触しながら塔内を上昇する。そして、
図1に示すとおり、一部のガスがチムニー21の隙間を抜け、充填床22を通過して塔頂から流出する(以下、急冷塔中のガスの流れについては図示を省略する)。
 
【0049】
  図2に示す急冷塔2は、急冷剤の循環路にデカンタが設けられ、2種類の急冷剤を使用している以外、
図1に示す例と同じであるので、相違点のみ以下に説明する。噴霧装置23Aからは有機アミン水溶液が噴霧され、噴霧装置23Bからは芳香族溶剤が噴霧される。チムニー21上に一体となって設置されたトレイ及び塔底に溜まった急冷剤は、循環路を通ってそれぞれデカンタ25A、25Bに流入する。
図2に示す急冷塔2では2種類の急冷剤が使用されている。循環路に流入する急冷剤は水相と油相とを含有する。デカンタ25A、25Bで急冷剤の水相と油相とを分離する。噴霧装置23Aには水相の有機アミン水溶液、噴霧装置23Bには油相の芳香族溶剤がそれぞれ供給されるようにデカンタ出口が設定されている。
 
【0050】
  図3に示す急冷塔2は、チムニー及び充填床が2つずつ設けられ、各充填床22A、22Bの上に噴霧装置23A、23Bが設けられ、チムニー21Bの下に噴霧装置23Cが設けられた3区画を有する急冷塔である以外、
図1に示す例と同じである。各噴霧装置から供給された有機アミン水溶液は、塔内でガスと接触した後、チムニー21A上に一体となって設置されたトレイ、21B上に一体となって設置されたトレイ及び塔底で回収され、循環路を経てそれぞれ噴霧装置23A、23B、23Cに戻される。
 
【0051】
  図4に示す急冷塔2は、各循環路にデカンタが設けられ、2種類の急冷剤を使用している以外、
図3に示す装置と同じである。噴霧装置23A、23Bからは有機アミン水溶液が供給され、噴霧装置23Cから芳香族溶剤が供給される。各噴霧装置から供給された急冷剤は、チムニー21A上に一体となって設置されたトレイ、21B上に一体となって設置されたトレイ及び塔底で回収された後、各循環路に設けられたデカンタ25A、25B、25Cで油相と水相とに分離される。噴霧装置23A、23Bには有機アミン水溶液が供給され、噴霧装置23Cには芳香族溶剤が供給されるようにデカンタ出口が設定されている。
 
【0052】
  前記急冷塔が上下複数の区画を有し、急冷剤として有機アミン水溶液と芳香族溶剤とを併用する場合、前記複数の区画中の最下区画の急冷剤としては芳香族溶剤を用い、前記最下区画より上の区画における急冷剤としては、有機アミン水溶液を用いることが好ましい。芳香族溶剤を急冷剤とする場合、反応副生成物を芳香族溶剤への溶解によって除去することになる。そのため、使用後の芳香族溶剤は蒸留等を行えば再利用可能である。その結果、全体的な製造コストが安くなり有利である。一方、有機アミン水溶液を急冷剤とする場合、反応副生成物を有機アミンと反応させることで、その除去が行われる。そのため、芳香族溶剤の場合と異なり、有機アミン水溶液と副生成物とを分離して有機アミン水溶液を再利用することは難しい。前記急冷塔が上下複数の区画を有する場合、反応副生成物の量は、通常反応生成ガスが急冷塔の塔底に導入された時点が最も多く、区画を上へ経る毎に除去されて減少する。したがって、急冷剤として有機アミン水溶液と芳香族溶剤とを併用する場合、反応生成ガスと最初に接触する最下区画の急冷剤として、再利用可能な芳香族溶剤を選択することが、急冷剤のコストの観点で有利である。以上のことから、前記急冷塔が上下複数の区画を有し、急冷塔の塔底側から反応生成ガスを導入する一般的な急冷塔の形態の場合、最下段の急冷剤として芳香族溶剤を使用し、比較的多く含まれる副生成物を溶解させることによって除去した後、残りの副生物を有機アミン水溶液と反応させて除去するのは、コスト的に好ましい態様である。なお、
図4に示す急冷塔2において、デカンタ25A、25Bの入口を変更すれば、噴霧装置23A、23Bのいずれかから芳香族溶剤を噴霧することもできる。
 
【0053】
  図5に示す急冷塔2は、チムニー及び充填床を3つずつ有し、噴霧装置を4つ有する4区画の急冷塔である以外、
図4に示す例と同じである。
図5に示す例では、噴霧装置23A、23B、23Cからは有機アミン水溶液が供給され、噴霧装置23Dからは芳香族溶剤が供給される。各循環路に設置されたデカンタ25A、25B、25Cの入口を変更すれば、噴霧装置23A、23B、23Cのいずれかから芳香族溶剤を噴霧することもできる。
  なお、
図1〜5においては、有機アミン水溶液等の急冷剤の補給管及び排出管、並びに噴霧装置の手前に設置される冷却手段は省略されているが、これらの手段は必要に応じて設けられてよい。
 
【0054】
  (5)精製工程
  急冷塔から流出した反応生成ガスは、公知の技術、例えば特公昭45−17407号公報、特開昭60−126235号公報及び特公平3−48891号公報、合成ゴムハンドブック(92〜100頁、1969年)、PETROTECH、第二巻、第四号(59〜65頁、1978年)などに記載の方法によって精製することができる。例えば合成ゴムハンドブックに記載のブタジエン抽出蒸留塔に急冷塔塔頂から流出したガスを導入し、ブタジエンとブタン・ブテン類とを分離した後、ブタジエン精製塔で2−ブテンなどの高沸成分を除去し、製品ブタジエンを回収することができる。この時、製品ブタジエンは純度98.0%以上、好ましくは99.0%以上に精製されることが好ましい。
 
【0055】
  (6)ブタジエン重合工程
  次に、共役ジオレフィンとしてブタジエンを製造した場合の、ブタジエンからポリブタジエンを重合する工程について説明する。
 
【0056】
  ブタジエンの重合には、公知の方法が使用可能であり、溶液重合、塊状重合を行うことができる。溶液重合の場合、重合反応器中に重合溶媒、ブタジエンモノマーを仕込み、所定温度に調整し、重合開始剤を添加することにより重合を行う。重合開始剤の例として、エチルリチウム、n−プロピルリチウム、イソプロピルリチウム、n−ブチルリチウム、sec−ブチルリチウム、tert−ブチルリチウム、tert−オクチルリチウム、n−デシルリチウム、フェニルリチウム、2−ナフチルリチウム、2−ブチル−フェニルリチウム、4−フェニル−ブチルリチウム、シクロヘキシルリチウム、シクロペンチルリチウム等のアルキルリチウム化合物が挙げられる。好ましい重合開始剤はn−ブチルリチウムである。重合溶媒は公知の溶剤を限定なく使用可能であり、トルエン、キシレン、テトラリン等の芳香族溶媒、n−ヘキサン、n−ペンタン、n−ヘプタン、シクロヘキサン、シクロペンタン、シクロヘプタン、デカリン等の脂肪族及び脂環族溶媒等を使用することができる。重合温度は−10℃〜150℃程度であり、温度と目的とする分子量に応じて、重合時間は適宜設定される。
 
【0057】
  重合開始剤にアルキルリチウム、重合溶剤にトルエン、n−ヘキサンやシクロヘキサン等の非プロトン性の炭化水素を用いると、アルキルリチウムの状態が重合末端においても維持され、リビングアニオン重合が進行する。リビングアニオン重合では、分子量分布が狭く、機械的物性や加工性等に優れたポリマーを得ることができる。ブタジエンのリビングアニオン重合を行う際、4−メチル−4−フォルミル−1−シクロヘキセンやメタクロレインが存在すると、重合開始剤の失活に加え、ポリブタジエンの重合末端の、4−メチル−4−フォルミル−1−シクロヘキセンやメタクロレインのカルボニル基に対する求核付加反応による重合末端の失活が生じ、重合反応の停止が引き起こされる。この結果、重合度の低い低分子量体の増加による分子量分布の拡大、即ち、合成ゴムや樹脂等に用いた時の機械的物性や加工性等の低下や、重合溶剤中の未反応ブタジエンの増加による溶剤再生工程の負荷加重といった問題が発生する。リビングポリマーは、重合後のカップリング反応によって、他のポリマーとブロック共重合体化できるという特徴があるが、この特徴も重合末端が失活した場合には当然、失われる。
 
【0058】
  重合反応の停止は、アルコール等の溶媒や重合禁止剤を含む溶媒を重合反応器に添加、撹拌することで行う。重合終了後のポリブタジエンは、ポリブタジエンの貧溶媒で容器内の溶液を再沈濾別後に乾燥、又は溶液からの溶媒除去によって、回収することができる。回収したポリブタジエンの分子量(重量平均分子量:Mw、数平均分子量:Mn)及び分子量分布(Mw/Mn)はGPC(ゲル浸透クロマトグラフィー)を用いて測定される。GPCの移動相として、テトラヒドロフラン(THF)、o−ジクロロベンゼンなどを使用することができる。
 
【0059】
  [2]触媒
  (1)構造
  本実施形態に用いる触媒としては、例えば、実験式:
Mo
12Bi
pFe
qA
aB
bC
cD
dE
eO
x
(式中、Aはニッケル及びコバルトからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素、Bはアルカリ金属元素からなる群より選ばれる少なくとも1種の元素、Cはマグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、亜鉛及びマンガンからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素、Dは希土類元素からなる群より選ばれる少なくとも1種の元素、Eはクロム、インジウム及びガリウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素、Oは酸素であり、p、q、a、b、c、d、e、及びxはそれぞれモリブデン12原子に対するビスマス、鉄、A、B、C、D、E及び酸素の原子比を表し、0.1≦p≦5、0.5≦q≦8、0≦a≦10、0.02≦b≦2、0≦c≦5、0≦d≦5、0≦e≦5であり、xは存在する他の元素の原子価要求を満足させるのに必要な酸素の原子数である。)
で表される金属酸化物及び担体を含む触媒を使用することができる。本明細書中、「実験式」は、当該式に含まれる金属の原子比と、その原子比及び酸化数の総計に応じて要求される酸素とからなる組成を表す。様々な酸化数をとりうる金属を含む酸化物において、酸素の原子数を特定することは実質的に不可能であるため、酸素の数は形式的に「x」で表すこととしている。例えば、Mo化合物、Bi化合物及びFe化合物を含むスラリーを調製し、それを乾燥及び/又は焼成して酸化物を得る場合、スラリーに含まれる金属の原子比と、得られる酸化物中の金属の原子比とは実質的に同じと考えてよいので、スラリーの仕込み組成式にO
xを付加したものが、得られる酸化物の実験式である。なお本明細書中、上述のスラリーの仕込み組成のように、意図的にコントロールした成分とその比率を表す式を「組成式」と呼ぶので、上述の例の場合、実験式からO
xを除いたものが「組成式」である。
 
【0060】
  A、B、C、D及びEで表される任意成分の役割は限定的ではないが、Mo、Bi及びFeを必須成分とする酸化物触媒の分野では、概ね次のように推定されている。すなわち、A及びEは触媒の活性を向上させ、B及びCはMo、Bi及びFeを含む合目的な酸化物の構造の安定化させ、Dは酸化物の再酸化という影響を与えると考えられている。p、q、a、b、c、d、eが好ましい範囲であると、これらの効果が一層高いと期待できる。
 
【0061】
  上記組成式において、より好ましい組成としては、0.1≦p≦0.5、1.5≦q≦3.5、1.7≦a≦9.0、0.02≦b≦0.5、0.5≦c≦4.5、0.02≦d≦0.5、0≦e≦4.5であり、さらに好ましい組成としては、Bがルビジウム、カリウム又はセシウム、Cがマグネシウム、Dがセリウムであり、0.15≦p≦0.4、1.7≦q≦3.0、2.0≦a≦8.0、0.03≦b≦0.3、1.0≦c≦3.5、0.05≦d≦0.3、0≦e≦3.5である。Aがニッケル、Bがルビジウム、カリウム又はセシウム、Cがマグネシウム、Dがセリウムの場合、共役ジオレフィン収率がより高く、また触媒に対して還元劣化に対する耐性を付与することができる傾向がある。
 
【0062】
  担体は、担体と酸化物との合計に対して好ましくは30〜70重量%、より好ましくは40〜60重量%の範囲で有効に用いることができる。Mo、Bi及びFeを含有する酸化物を含む担持触媒は、公知の方法、例えば原料スラリーを調製する第1の工程、該原料スラリーを噴霧乾燥する第2の工程、及び第2の工程で得られた乾燥品を焼成する第3の工程を包含する方法によって得ることができる。担体は、シリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニアが好ましい。より好適な担体はシリカである。シリカは他の担体に比べ不活性な担体であり、目的生成物に対する触媒の活性や選択性を低下させることなく、触媒と良好な結合作用を有する。加えて、酸化物を担体に担持することによって、粒子形状・大きさ・分布、流動性、機械的強度といった、特に流動層反応に供する場合に好適な物理的特性を付与することできる。
 
【0063】
  (2)製造方法
  原料スラリーを調製する第1の工程、該原料スラリーを噴霧乾燥する第2の工程、及び第2の工程で得られた乾燥品を焼成する第3の工程からなる、触媒の製造法の好ましい態様について説明する。
 
【0064】
  第1の工程では、触媒原料を調製して原料スラリーを得る。モリブデン、ビスマス、鉄、ニッケル、コバルト、アルカリ金属元素、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、亜鉛、マンガン、希土類元素、クロム、インジウム、ガリウムの各元素の元素源としては、水又は硝酸に可溶なアンモニウム塩、硝酸塩、塩酸塩、硫酸塩、有機酸塩などを挙げることができる。特にモリブデン源としてはアンモニウム塩が、ビスマス、鉄、ニッケル、アルカリ元素、マグネシウム、亜鉛、マンガン、希土類元素、各元素の元素源としては、それぞれの硝酸塩が好ましい。上述の通り、酸化物の担体としてシリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア等の酸化物を用いることができる。好適な担体としてはシリカが用いられ、シリカ源としてはシリカゾルが好ましい。シリカゾルの不純物に関して、好ましくは、ケイ素100原子当たり0.04原子以下のアルミニウムを含むシリカソゾルを用い、さらに好ましくは、ケイ素100原子当たり0.02原子以下のアルミニウムを含むシリカゾルを用いる。原料スラリーの調製は、水に溶解させたモリブデンのアンモニウム塩をシリカゾルに添加し、次に、ビスマス、希土類元素、鉄、ニッケル、マグネシウム、亜鉛、マンガン、アルカリ元素の各元素の硝酸塩を水又は硝酸水溶液に溶解させた溶液を加えることによって行うことができる。このようにして、原料スラリーを調製することができる。その際、上記の添加の順序を変えることもできる。
 
【0065】
  第2の工程では、上記の第1工程で得られた該原料スラリーを噴霧乾燥して、球状粒子を得る。原料スラリーの噴霧化は、通常工業的に実施される遠心方式、二流体ノズル方式及び高圧ノズル方式等の方法によって行うことができる。原料スラリーの噴霧化は、特に遠心方式で行うことが好ましい。次に、得られた粒子を乾燥する。乾燥熱源としては、スチーム、電気ヒーター等によって加熱された空気を用いることが好ましい。乾燥機入口の温度は100〜400℃、好ましくは150〜300℃である。
 
【0066】
  第3の工程では、第2の工程で得られた乾燥粒子を焼成することで所望の触媒を得る。乾燥粒子の焼成は、必要に応じて150〜500℃で前焼成を行い、その後500〜700℃、好ましくは550〜700℃の温度範囲で1〜20時間行うのが好ましい。焼成は回転炉、トンネル炉、マッフル炉等の焼成炉を用いて行うことができる。触媒の粒子径は、10〜150μmの範囲に分布していることが好ましい。
 
【0067】
  [3]共役ジオレフィンの製造装置
  本実施形態の共役ジオレフィンの製造装置は、
  金属酸化物及び担体を含む触媒が収容された反応器と、
  前記反応器に接続された急冷塔と、
を有する。
  当該製造装置は、上述した共役ジオレフィンの製造方法に好適に用いることができる。具体的には、当該製造装置における反応器に、炭素数4以上のモノオレフィンを含む炭化水素と、酸素とが供給され、生成した共役ジオレフィンを含む反応生成ガスは前記急冷塔に流入し、前記急冷塔内で前記反応生成ガスは急冷剤によって洗浄される。前記急冷剤としては、有機アミン水溶液を用い、芳香族系有機溶剤をさらに併用することが好ましい。
 
【0068】
  以下、
図6及び7を参照して本実施形態の共役ジオレフィンの製造装置の好適な態様を詳細に説明する。
 
【0069】
  図6は、本実施形態の共役ジオレフィンの製造装置の一例を概略的に示す図である。反応器から流出した反応生成ガスは、急冷塔に塔底から送入され、急冷塔内で有機アミン水溶液、又は有機アミン水溶液及び芳香族溶剤に接触して洗浄される。洗浄された反応生成ガスは、塔頂から流出し、吸収塔の塔底に導入される。吸収塔の塔底に導入された反応生成ガスは、吸収塔内で、溶剤(例えばキシレン、混合キシレン又はトルエン)に吸収され、共役ジオレフィン含有溶液として塔底から流出する。一方、オフガスが吸収塔塔頂から流出する。吸収塔の塔底から流出した共役ジオレフィン含有溶液はスタビライザに上部に導入される。原料成分中にイナートガス(不活性ガス)を含有させた場合、スタビライザでは共役ジオレフィン含有溶液からイナートガスが分離される。イナートガスが分離された共役ジオレフィン含有溶液は、スタビライザの塔底から流出してフラッシュ塔に導入される。フラッシュ塔で共役ジオレフィン含有溶液から溶剤を分離した後、共役ジオレフィンと水とを含む溶液が塔頂から流出し、冷却器に供給される。冷却器で水が分離された粗共役ジオレフィンは、第一の抽出蒸留塔の中段に供給される。第一の抽出蒸留塔では塔頂から溶剤(例えば、ジメチルホルムアミド)が噴霧されており、粗共役ジオレフィンの溶液が生成して塔底から流出する。流出した粗共役ジオレフィンの溶液は、放散塔に導入されると共に、例えばブタンが塔頂から分離される。放散塔では粗共役ジオレフィン溶液の溶剤が分離され、塔頂から流出した粗共役ジオレフィンが第二の抽出蒸留塔に導入される。第二の抽出蒸留塔でも、第一の抽出蒸留塔と同様に塔頂から溶剤が噴霧されており、粗共役ジオレフィン溶液が生成する。第二の抽出蒸留塔は、共役ジオレフィンを含む成分が塔頂から流出し、アセチレン等の不純物を溶解した溶剤が塔底から分離される温度で運転される。これにより粗共役ジオレフィンは第二の抽出蒸留塔の塔頂から流出する。第二の抽出蒸留塔から流出した粗共役ジオレフィンから、第一及び第二の蒸留塔で、低沸点化合物(例えばメチルアセチレン)及び高沸点化合物(例えば2−ブテン)が分離されると、精製共役ジオレフィンが得られる。
 
【0070】
  図7は、本実施形態の共役ジオレフィンの製造装置の別の例を概略的に示す図である。
図7に示す装置における反応器及び急冷塔並びに第一の抽出蒸留塔以降の塔は、
図6に示す例と同じであるので、相違点のみ次に説明する。急冷塔で洗浄された反応生成ガスは、モレキュラーシーブ等の脱水剤が充填された脱水塔に導入され、塔底から流出し、溶媒吸収塔に供給される。溶媒吸収塔で噴霧されている溶剤に反応生成ガスが接触し、共役ジオレフィン含有溶液が生成する。生成した共役ジオレフィン含有溶液が塔底から流出して脱気塔及び溶媒分離塔に導入される。原料成分中にイナートガス(不活性ガス)を含有させた場合、脱気塔で共役ジオレフィン含有溶液からイナートガスが分離される。そして、溶媒分離塔で共役ジオレフィン含有溶液から溶媒が分離され、粗共役ジオレフィンが得られる。
 
【0071】
  なお、
図6及び7に示す例では、コンプレッサー、ドレインポット、熱交換器等の記載を省略しているが、これらは装置の運転上の必要性又は効率性や、熱の有効利用等の目的で、適宜追加することができる。例えば、特開昭60−193931号公報、特開2003−128595号公報及び特開2010−90082号公報に記載の装置を参考にすることは、コンプレッサー、ドレインポット、熱交換器等を追加する上で有効である。また、これらの先行文献は、蒸留塔の運転温度、圧力や溶剤の種類等の面でも、参考にすることができる。
 
【実施例】
【0072】
  以下に実施例を示して、本発明をより詳細に説明するが、本発明は以下に記載の実施例によって制限されるものではない。
【0073】
  (反応成績)
  実施例及び比較例において、反応成績を表すために用いたn−ブテン転化率、1,3−ブタジエン選択率及び収率は次式で定義した。
【数2】
【数3】
【数4】
【0074】
  (反応装置)
  流動層反応方式の反応装置として、管径3インチ・高さ950mmのSUS304製流動層反応器を用いた。
【0075】
  (原料混合ガス)
  モル比組成がBBSS/空気/窒素=1/2〜12/97〜87/バランスの原料混合ガスを流量F=500〜2500NL/hr(NTP換算)で反応装置に供給した。用いたBBSSはC4成分組成として、1−ブテン:2−トランス−ブテン:2−シス−ブテン:イソブテン:n−ブタン:イソブタン:ブタジエン=41.3:17.7:13.5:5.6:16.1:4.7:1.1であった。
【0076】
  (反応条件)
  反応温度T=325〜370℃、反応圧力P=0.05MPaG、触媒充填重量W=1200gの条件で反応を行った。
【0077】
  (接触時間)
  接触時間は次式で定義した。
【数5】
(式中、Wは触媒充填量(g)、Fは原料混合ガス流量(NL/hr、NTP換算)、Tは反応温度(℃)、Pは反応圧力(MPaG)を表す)
【0078】
  (反応生成ガスの分析)
  反応生成ガスの分析は、流動層反応器に直結させたガスクロマトグラフィー(GC−2010(島津製作所製)、分析カラム:HP−ALS(アジレントJ&W製)、キャリアガス:ヘリウム、カラム温度:ガス注入後、100℃で8分間保持した後、10℃/分で195℃になるまで昇温し、その後195℃で40分間保持、TCD(熱伝導型検出器)・FID(水素炎イオン検出器)設定温度:250℃)用いて行った。
【0079】
  (急冷塔)
  急冷塔として、管径200mm・高さ300mmの缶部(塔底)とその上部に管径100mm・高さ1000mmの塔部(急冷部)を有するSUS304製の急冷塔を用いた。急冷部は三段に区画され、上段、中段及び下段へ塔底から抜出した液を、下記に示す場合を除き、それぞれ100、170、160L/Hrで噴霧した。
【0080】
  (急冷塔塔底液の分析)
  急冷塔塔底液の分析は、次の二通りで行った。
(1)ガスクロマトグラフィー(GC−2010(島津製作所製)、分析カラム:CP−Volamine(VARIAN製)、キャリアガス:ヘリウム、カラム温度:40℃で10分間保持後、300℃まで10℃/分で昇温・保持、FID(水素炎イオン検出器)設定温度:250℃)を用いて行った。
(2)ガスクロマトグラフ質量分析計(GCMS−QP2010Plus(島津製作所製);GC分析カラム:DB−WAX(アジレントJ&W製)、キャリアガス:ヘリウム、カラム温度:ガス注入後、60℃で11分間保持した後、7.5℃/分で135℃、続いて11.5℃/分で250℃になるまで昇温した後、20分間保持;イオン化モード:電子イオン化(EI)MSイオン源温度:200℃、MS試料室温度:250℃、)を用いて行った。
【0081】
  (ポリブタジエンの分析)
  ポリブタジエンの分析は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC−8020(東ソー製)、移動相としてテトラヒドロフラン(THF))を用い、測定温度40℃で分子量(標準ポリスチレン換算のMw、Mn)及びMw/Mnを求めた。
【0082】
  (実施例1)
  (a)触媒の調製
  組成がMo
12Bi
0.60Fe
1.8Ni
5.0K
0.09Rb
0.05Mg
2.0Ce
0.75で表される酸化物を、50重量%のシリカに担持して、触媒を次のようにして調製した。30重量%のSiO
2を含むシリカゾル3000gをとり、16.6重量%の硝酸675.5gに95.9gの硝酸ビスマス〔Bi(NO
3)
3・5H
2O〕、107.4gの硝酸セリウム〔Ce(NO
3)
3・6H
2O〕、239.8gの硝酸鉄〔Fe(NO
3)
3・9H
2O〕、479.6gの硝酸ニッケル〔Ni(NO
3)
2・6H
2O〕、169.2gの硝酸マグネシウム〔Mg(NO
3)
2・6H
2O〕、2.9gの硝酸カリウム〔KNO
3〕及び2.5gの硝酸ルビジウム〔RbNO
3〕を溶解させた液を加え、最後に水1407.2mlに698.6gのパラモリブデン酸アンモニウム〔(NH
4)
6Mo
7O
24・4H
2O〕を溶解させた液を加えた。ここに得られた原料調合液を並流式の噴霧乾燥器に送り、入口温度約250℃、出口温度約140℃で乾燥させた。該調合液の噴霧化は、乾燥器上部中央に設置された皿型回転子を備えた噴霧化装置を用いて行った。得られた粉体は、電気炉で空気雰囲気下350℃で1時間の前焼成の後、空気雰囲気下590℃で2時間焼成して触媒を得た。
【0083】
  (b)ブタジエンの製造反応
  上記(a)触媒の調製工程で得られた触媒1200gを、管径管径3インチ・高さ950mmのSUS304製流動層反応器に入れた。この反応管にモル比組成がBBSS/空気/窒素=1/3.7/95.3/バランスの原料ガス(n−ブテン濃度=7体積%)を流量F=920NL/hr(NTP換算)で供給し、反応温度T=360℃、反応圧力P=0.05MPaGの条件で反応を行って反応生成ガスを得た。この時、触媒と原料ガスとの接触時間は3.0(g・sec/cc)であった。尚、原料に用いたBBSSはC4成分組成として、1−ブテン:2−トランス−ブテン:2−シス−ブテン:イソブテン:n−ブタン:イソブタン:ブタジエン=41.3:17.7:13.5:5.6:16.1:4.7:1.1であった。
【0084】
  反応生成ガスの分析は、反応器及び急冷塔に直結させたガスクロマトグラフィーで上述とおり行った。反応開始から24時間後の反応成績は、n−ブテンの転化率が95.5%、ブタジエンの選択率が83.1%、ブタジエン収率が79.4%であった。
【0085】
  (c)反応生成ガスの急冷
  上記(b)の工程で得られた反応生成ガスを、急冷塔(ボトム(管径200mm、高さ300mm)の上部に急冷部(管径100mm、高さ1000mm)を有するSUS304製)の下段に導入し、該急冷塔の上段から室温の25重量%のモノエタノールアミン水溶液を急冷剤として500L/hrで噴霧し、該急冷塔の塔頂から排出ガスを得た。この時、急冷塔塔頂からの排出ガス温度は50℃であり、また、急冷塔塔底液中の4−メチル−4−フォルミル−1−シクロヘキセン及びメタクロレインの濃度は1140重量ppmであり、安息香酸の濃度は133重量ppmであった。3ヶ月間以上の運転を通じて、急冷塔の圧力は流動層反応器と同じ0.05MPaGを維持し、閉塞は発生しなかった。
【0086】
  (d)ブタジエンの精製
  
図7に示す装置を使用し、急冷後の排出ガスを脱水工程、回収工程、脱気工程、ブタジエン分離工程及び粗ブタジエンの精製工程に付した。より具体的には、特開2010−90082号公報の
図1のクエンチ塔より下流部分と同様に精製装置を組み、急冷塔塔頂からの排出ガスを、凝縮水を分離、圧縮機による昇圧、再冷却及び水分離を経た後、モレキュラーシーブを充填した脱水塔に導入した。脱水ガスは回収塔に導入し、液温30〜40℃に設定したジメチルホルムアミドと向流接触させた。得られたブタジエン溶液は抽出蒸留塔に導入して精製し、純度99.3%のブタジエンを得た。
【0087】
  (e)ブタジエンの重合
  窒素置換した1.5Lのオートクレーブに、上記(d)の工程で得られたブタジエン50g、シクロヘキサン200g、n−ブチルリチウム0.556mmol、THF0.1mol/Lを投入し、70℃で1時間重合を行ってポリブタジエンを得た。重合終了後、トルエンを除去してポリブタジエンを回収し、その分子量を求めたところ、Mw=21.6万、Mn=20.2万、Mw/Mn=1.07であった。
【0088】
  (実施例2)
  上記(c)の工程における反応生成ガスの急冷剤として25重量%のジエタノールアミン水溶液を用いた以外は、実施例1と同様にブタジエンの製造、反応生成ガスの急冷、ブタジエンの精製を行った。
【0089】
  運転を通じて、急冷塔の圧力は流動層反応器と同じ0.05MPaGを維持し、閉塞は発生しなかった。この時、急冷塔塔底液中の4−メチル−4−フォルミル−1−シクロヘキセン及びメタクロレインの濃度は834重量ppm、安息香酸の濃度は76重量ppmであり、純度99.3%のブタジエンを得た。得られたブタジエンを用いて実施例1と同様にして重合したところ、得られたポリブタジエンの分子量は、Mw=21.3万、Mn=19.7万、Mw/Mn=1.08であった。
【0090】
  (実施例3)
  上記(c)の工程における反応生成ガスの急冷剤として25重量%のトリエタノールアミン水溶液を用いた以外は、実施例1と同様にブタジエンの製造、反応生成ガスの急冷、ブタジエンの精製を行った。運転を通じて、急冷塔の圧力は流動層反応器と同じ0.05MPaGを維持し、閉塞は発生しなかった。この時、急冷塔塔底液中の4−メチル−4−フォルミル−1−シクロヘキセン及びメタクロレインの濃度は787重量ppm、安息香酸の濃度は55重量ppmであり、純度99.3%のブタジエンを得た。得られたブタジエンを用いて実施例1と同様にして重合したところ、得られたポリブタジエンの分子量は、Mw=21.4万、Mn=19.8万、Mw/Mn=1.08であった。
【0091】
  (比較例1)
  上記(c)の工程における反応生成ガスの急冷剤として水を用いた以外は、実施例1と同様にブタジエンの製造、反応生成ガスの急冷、ブタジエンの精製を行った。運転中に急冷塔の圧力は経時的に上昇し、0.09MPaGになった時点で、開放点検を行ったところ、急冷塔塔頂部で閉塞が認められた。この時、急冷塔塔底液中の4−メチル−4−フォルミル−1−シクロヘキセン及びメタクロレインの濃度は130重量ppm、安息香酸は検出されず、純度99.0%のブタジエンを得た。得られたブタジエンを用いて実施例1と同様にして重合したところ、得られたポリブタジエンの分子量は、Mw=19.2万、Mn=10.9万、Mw/Mn=1.76であった。
【0092】
  (比較例2)
  上記(c)の工程における反応生成ガスの急冷剤として25重量%の苛性ソーダ水溶液を用いた以外は、実施例1と同様にブタジエンの製造、反応生成ガスの急冷、ブタジエンの精製を行った。運転中に急冷塔の圧力は経時的に上昇し、0.08MPaGになった時点で、開放点検を行ったところ、急冷塔塔頂部で閉塞が認められた。この時、急冷塔塔底液中の4−メチル−4−フォルミル−1−シクロヘキセンとメタクロレインの濃度は317重量ppm、安息香酸の濃度は70重量ppmであり、純度99.0%のブタジエンを得た。得られたブタジエンを用いて実施例1と同様にして重合したところ、得られたポリブタジエンの分子量は、Mw=19.8万、Mn=13.9万、Mw/Mn=1.42であった。
【0093】
  (実施例4)
  C4成分組成として、1−ブテン:2−トランス−ブテン:2−シス−ブテン:イソブテン:n−ブタン:イソブタン:ブタジエン=42.6:18.3:13.9:2.5:16.6:4.9:1.1であるBBSSを炭化水素原料に用いた以外は、実施例1と同様にブタジエンの製造、反応生成ガスの急冷、ブタジエンの精製を行った。反応開始から24時間後、得られた反応生成ガスについて分析したところ、反応成績は、n−ブテンの転化率が97.2%、ブタジエンの選択率が82.3%、ブタジエン収率が80.0%であった。
【0094】
  運転を通じて、急冷塔の圧力は流動層反応器と同じ0.05MPaGを維持し、閉塞は発生しなかった。この時、急冷塔塔底液中の4−メチル−4−フォルミル−1−シクロヘキセン及びメタクロレインの濃度は572重量ppmであり、純度99.5%のブタジエンを得た。得られたブタジエンを用いて実施例1と同様にして重合したところ、得られたポリブタジエンの分子量は、Mw=21.7万、Mn=20.9万、Mw/Mn=1.04であった。
【0095】
  (実施例5)
  組成がMo
12Bi
5Fe
0.35Ni
2.7Co
2.7Na
0.35K
0.1B
0.2で表される酸化物を、50重量%のシリカに担持して、触媒を次のようにして調製した。30重量%のSiO
2を含むシリカゾル3680gをとり、16.6重量%の硝酸3600gに799.7gの硝酸ビスマス、46.6gの硝酸鉄、258.9gの硝酸ニッケル、259.1gの硝酸コバルト〔Co(NO
3)
2・6H
2O〕、9.81gの硝酸ナトリウム〔NaNO
3〕、3.33gの硝酸カリウム及び4.08gのホウ酸〔H
3BO
3〕を溶解させた液を加え、最後に水1407.2mlに698.6gのパラモリブデン酸アンモニウムを溶解させた液を加えた。得られた原料調合液を実施例1と同様の乾燥・焼成を行い、触媒を得た。
【0096】
  得られた触媒を用いて、実施例1と同様にブタジエンの製造、反応生成ガスの急冷、ブタジエンの精製を行った。反応開始から24時間後、得られた反応生成ガスについて分析したところ、反応成績は、n−ブテンの転化率が87.3%、ブタジエンの選択率が82.2%、ブタジエン収率が71.8%であった。
【0097】
  運転を通じて、急冷塔の圧力は流動層反応器と同じ0.05MPaGを維持し、閉塞は発生しなかった。この時、急冷塔塔底液中の4−メチル−4−フォルミル−1−シクロヘキセン及びメタクロレインの濃度は840重量ppmであり、純度99.2%のブタジエンを得た。得られたブタジエンを用いて実施例1と同様にして重合したところ、得られたポリブタジエンの分子量は、Mw=20.9万、Mn=19.0万、Mw/Mn=1.10であった。
【0098】
  (比較例3)
  実施例5で得られた触媒を用いた以外は、比較例2と同様にブタジエンの製造、反応生成ガスの急冷、ブタジエンの精製を行った。運転中、急冷塔の圧力は経時的に上昇し、0.09MPaGになった時点で、開放点検を行ったところ、急冷塔塔頂部で閉塞が認められた。この時、急冷塔塔底液中の4−メチル−4−フォルミル−1−シクロヘキセン及びメタクロレインの濃度は310重量ppmであり、純度98.9%のブタジエンを得た。得られたブタジエンを用いて実施例1と同様にして重合したところ、得られたポリブタジエンの分子量は、Mw=20.1万、Mn=13.4万、Mw/Mn=1.50であった。
【0099】
  (実施例6)
  上記(c)の工程における反応生成ガスの急冷剤として8重量%のモノエタノールアミン水溶液を用いた以外は、実施例1と同様にブタジエンの製造、反応生成ガスの急冷、ブタジエンの精製を行った。2ヶ月間の運転を通じて、急冷塔の圧力は流動層反応器と同じ0.05MPaGを維持し、閉塞は発生しなかった。この時、急冷塔塔底液中の4−メチル−4−フォルミル−1−シクロヘキセン及びメタクロレインの濃度は462重量ppm、安息香酸の濃度は43重量ppmであり、純度99.0%のブタジエンを得た。得られたブタジエンを用いて実施例1と同様にして重合したところ、得られたポリブタジエンの分子量は、Mw=20.4万、Mn=13.3万、Mw/Mn=1.53であった。
【0100】
  (実施例7)
  上記(c)の工程における反応生成ガスの急冷剤として15重量%のモノエタノールアミン水溶液を用いた以外は、実施例1と同様にブタジエンの製造、反応生成ガスの急冷、ブタジエンの精製を行った。運転を通じて、急冷塔の圧力は流動層反応器と同じ0.05MPaGを維持し、閉塞は発生しなかった。この時、急冷塔塔底液中の4−メチル−4−フォルミル−1−シクロヘキセン及びメタクロレインの濃度は881重量ppmであり、純度99.3%のブタジエンを得た。得られたブタジエンを用いて実施例1と同様にして重合したところ、得られたポリブタジエンの分子量は、Mw=21.5万、Mn=20.1万、Mw/Mn=1.07であった。
【0101】
  (実施例8)
  上記(c)の工程における反応生成ガスの急冷剤として80重量%のモノエタノールアミン水溶液を用いた以外は、実施例1と同様にブタジエンの製造、反応生成ガスの急冷、ブタジエンの精製を行った。運転を通じて、急冷塔の圧力は流動層反応器と同じ0.05MPaGを維持し、閉塞は発生しなかった。この時、急冷塔塔頂から流出した反応生成ガス中からモノエタノールアミンが検出された。また、急冷塔塔底液中の4−メチル−4−フォルミル−1−シクロヘキセン及びメタクロレインの濃度は1110重量ppm、安息香酸の濃度は311重量ppmであり、純度99.3%のブタジエンを得た。得られたブタジエンを用いて実施例1と同様にして重合したところ、得られたポリブタジエンの分子量は、Mw=21.6万、Mn=20.1万、Mw/Mn=1.07であった。
【0102】
  (実施例9)
  上記(c)の工程における反応生成ガスの急冷剤として、急冷塔の上段及び中段から25重量%のモノエタノールアミン水溶液をそれぞれ100L/hr、170L/hrで噴霧し、急冷塔の下段からm−キシレンを160L/hrで噴霧した以外は、実施例1と同様にブタジエンの製造、反応生成ガスの急冷、ブタジエンの精製を行った。各急冷剤はいずれも各段の抜出液を循環利用したが、各段の抜出液は油水分離後に各段に再供給した。なお、以下の実施例においても、急冷剤として芳香族系溶剤を採用した場合は、抜出液を油水分離した後で循環させた。
【0103】
  運転を通じて、急冷塔の圧力は流動層反応器と同じ0.05MPaGを維持し、閉塞は発生しなかった。この時、急冷塔上中段区画の抜出液中の4−メチル−4−フォルミル−1−シクロヘキセン及びメタクロレインの濃度は1367重量ppmであり、下段区画の抜出液中の安息香酸の濃度は2777重量ppmであり、純度99.4%のブタジエンを得た。得られたブタジエンを用いて実施例1と同様にして重合したところ、得られたポリブタジエンの分子量は、Mw=21.3万、Mn=19.7万、Mw/Mn=1.08であった。
【0104】
  (実施例10)
  上記(c)の工程における反応生成ガスの急冷剤として、急冷塔の上段及び中段から8重量%のモノエタノールアミン水溶液をそれぞれ100L/hr、170L/hrで噴霧し、急冷塔の下段からm−キシレンを160L/hrで噴霧した以外は、実施例1と同様にブタジエンの製造、反応生成ガスの急冷、ブタジエンの精製を行った。運転を通じて、急冷塔の圧力は流動層反応器と同じ0.05MPaGを維持し、閉塞は発生しなかった。この時、急冷塔上中段区画の抜出液中の4−メチル−4−フォルミル−1−シクロヘキセン及びメタクロレインの濃度は110重量ppmであり、下段区画の抜出液中の安息香酸の濃度は2828重量ppmであり、純度99.2%のブタジエンを得た。得られたブタジエンを用いて実施例1と同様にして重合したところ、得られたポリブタジエンの分子量は、Mw=21万、Mn=19.4万、Mw/Mn=1.08であった。
【0105】
  (実施例11)
  上記(c)の工程における反応生成ガスの急冷剤として、急冷塔の上段及び中段から80重量%のモノエタノールアミン水溶液をそれぞれ100L/hr、170L/hrで噴霧し、急冷塔の下段の循環液としてm−キシレンを160L/hrで噴霧した以外は、実施例1と同様にブタジエンの製造、反応生成ガスの急冷、ブタジエンの精製を行った。運転を通じて、急冷塔の圧力は流動層反応器と同じ0.05MPaGを維持し、閉塞は発生しなかった。この時、急冷塔塔頂から流出した反応生成ガス中からモノエタノールアミンが検出された。また、急冷塔上中段区画の抜出液中の4−メチル−4−フォルミル−1−シクロヘキセン及びメタクロレインの濃度は1288重量ppmであり、下段区画の抜出液中の安息香酸の濃度は2820重量ppmであり、純度99.3%のブタジエンを得た。得られたブタジエンを用いて実施例1と同様にして重合したところ、得られたポリブタジエンの分子量は、Mw=21.5万、Mn=20.1万、Mw/Mn=1.07であった。
【0106】
  (実施例12)
  上記(c)の工程における反応生成ガスの急冷剤として、急冷塔の上段及び中段から25重量%のモノエタノールアミン水溶液をそれぞれ100L/hr、170L/hrで噴霧し、急冷塔の下段からo−キシレンを160L/hrで噴霧した以外は、実施例1と同様にブタジエンの製造、反応生成ガスの急冷、ブタジエンの精製を行った。運転を通じて、急冷塔の圧力は流動層反応器と同じ0.05MPaGを維持し、閉塞は発生しなかった。この時、急冷塔上中段区画の抜出液中の4−メチル−4−フォルミル−1−シクロヘキセン及びメタクロレインの濃度は1355重量ppmであり、下段区画の抜出液中の安息香酸の濃度は2803重量ppmであり、純度99.2%のブタジエンを得た。得られたブタジエンを用いて実施例1と同様にして重合したところ、得られたポリブタジエンの分子量は、Mw=21万、Mn=19.4万、Mw/Mn=1.08であった。
【0107】
  (実施例13)
  上記(c)の工程における反応生成ガスの急冷剤として、急冷塔の上段から25重量%のモノエタノールアミン水溶液を100L/hrで噴霧し、急冷塔の中段及び下段からm−キシレンをそれぞれ170L/hr、160L/hrで噴霧した以外は、実施例1と同様にブタジエンの製造、反応生成ガスの急冷、ブタジエンの精製を行った。運転を通じて、急冷塔の圧力は流動層反応器と同じ0.05MPaGを維持し、閉塞は発生しなかった。この時、急冷塔上段区画の抜出液中の4−メチル−4−フォルミル−1−シクロヘキセン及びメタクロレインの濃度は2702重量ppmであり、中下段区画の抜出液中の安息香酸の濃度は1366重量ppmであり、純度99.5%のブタジエンを得た。得られたブタジエンを用いて実施例1と同様にして重合したところ、得られたポリブタジエンの分子量は、Mw=21.5万、Mn=20.9万、Mw/Mn=1.07であった。
【0108】
  (実施例14)
  上記(c)の工程における反応生成ガスの急冷剤として、急冷塔の上段から25重量%のモノエタノールアミン水溶液を100L/hrで噴霧し、急冷塔の中段及び下段からo−キシレンをそれぞれ170L/hr、160L/hrで噴霧した以外は、実施例1と同様にブタジエンの製造、反応生成ガスの急冷、ブタジエンの精製を行った。運転を通じて、急冷塔の圧力は流動層反応器と同じ0.05MPaGを維持し、閉塞は発生しなかった。この時、急冷塔上段区画の抜出液中の4−メチル−4−フォルミル−1−シクロヘキセン及びメタクロレインの濃度は2688重量ppmであり、中下段区画の抜出液中の安息香酸の濃度は1374重量ppmであり、純度99.5%のブタジエンを得た。得られたブタジエンを用いて実施例1と同様にして重合したところ、得られたポリブタジエンの分子量は、Mw=21.3万、Mn=19.9万、Mw/Mn=1.07であった。
【0109】
  (比較例4)
  上記(c)の工程における反応生成ガスの急冷剤として、急冷塔の上段及び中段から水をそれぞれ100L/hr、170L/hrで噴霧し、急冷塔の下段からm−キシレンを160L/hrで噴霧した以外は、実施例1と同様にブタジエンの製造、反応生成ガスの急冷、ブタジエンの精製を行った。運転中に急冷塔の圧力は経時的に上昇し、0.09MPaGになった時点で、開放点検を行ったところ、急冷塔塔頂部で閉塞が認められた。この時、急冷塔上中段区画の抜出液中の4−メチル−4−フォルミル−1−シクロヘキセン及びメタクロレインの濃度は244重量ppmであり、下段区画の抜出液中の安息香酸の濃度は2779重量ppmであり、純度99.0%のブタジエンを得た。得られたブタジエンを用いて実施例1と同様にして重合したところ、得られたポリブタジエンの分子量は、Mw=20万、Mn=14.3万、Mw/Mn=1.4であった。
【0110】
  なお、本出願は、2011年5月19日出願の日本特許出願(特願2011−112284号)に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。