【実施例】
【0031】
以下、実施例を挙げて、本発明をより詳しく説明する。これらの実施例は、単に本発明を例示するためであり、本発明の範囲は、これらの実施例に限定されない。
【0032】
実施例1.DO3Aコンジュゲート製造
DO3Aコンジュゲートを製造するための合成過程は、下記に詳しく示したが、合成されたそれぞれの化合物を、NMRを用いて確認した。
1H及び
13C NMRは、Bruker Advance 400又は500スペクトロメータ(Korea Basic Science Institute社製)を用いて行った。NMRの結果から化学的移動は、TMS(tetramethylsilane)を基準として、δ値で示した。結合定数(coupling constant)は、Hz単位で示した。
【0033】
1−1.DO3A−トラネキサム酸エステル誘導体1の合成
(1)トランス−4−(アミノメチル)シクロヘキサンエチルカルボキシレートハイドロクロライド(1b)の合成
まず、東京化成工業株式会社(Japan)から購入したトランス−4−(アミノメチル)シクロヘキサンカルボン酸を用いてトランス−4−(アミノメチル)シクロヘキサンエチルカルボキシレートハイドロクロライドを合成した。
【0034】
0℃で、エタノール(40mL)に、トランス−4−(アミノメチル)シクロヘキサンカルボン酸(1.57g、10mmol)を加えて撹拌し、ゆっくり塩化チオニル(0.9mL、12mmol)を加え、10分間冷たいまま保持ながら、撹拌した。この後、前記反応混合物を1時間70℃で還流した後、常温まで冷却した。溶媒を減圧下で完全に除去した後、残りの成分をヘキサン(25mL)で二回に分けて洗浄して、残留溶媒を除去した。溶媒が完全に除去された混合物を6時間真空下で乾燥させて、トランス−4−(アミノメチル)シクロヘキサンエチルカルボキシレートハイドロクロライドが得られた。収量は2.13g(96%)であった。
【0035】
1H NMR(d6−DMSO):δ=4.03(q,J=7.08,2H,OCH
2CH
3),2.61(m,1H,H13),2.21(m,1H,H10),1.85(m,2H,H9),1.27(m,4H,H12 H11),1.16(t,J=7.06,3H,OCH
2CH
3),0.96(m,4H,H12 H11).分析 C
10H
20ClNO
2に対する計算値:C,54.17;H,9.09;N,6.32.実測値:C,53.78;H,8.91;N,6.34.
【0036】
(2)エチル4−((2−ブロモアセトアミド)メチル)シクロヘキサンカルボキシレート(2b)の合成
0℃で合成されたトランス−4−(アミノメチル)シクロヘキサンエチルカルボキシレートハイドロクロライド(3.00g、13.5mmol)とK
2CO
3(3.73g、27.1mmol)とをCH
3CN(100mL)に加え、混合物を製造した後、前記混合物にブロモアセチルブロマイド(1.1mol eq in 20mL CH
3CN)を1時間にかけて、ゆっくり添加し、80℃で18時間撹拌した。撹拌が完了した後、混合物をろ過して無機塩を除去し、減圧下で有機溶媒を全て留去した。残りの成分を、30mLの蒸溜水で3回洗浄し、CH
2Cl
2を加え溶解した。この後、粗合成物質を得るために、前記物質をNa
2SO
4で乾燥し、ろ過し、蒸発させて、溶媒を完全に除去した。それから、シリカゲルクロマトグラフィー(勾配溶離 CH
2Cl
2から30%酢酸エチル(EA)−CH
2Cl
2、Rf=0.5(EA:CH
2Cl
2=4:6))を行って、完全に精製した。その結果、合成されたエチル4−((2−ブロモアセトアミド)メチル)シクロヘキサンカルボキシレートを白色固体として得た。収量は、2.49g(60%)であった。
【0037】
1H NMR(CDCl
3):δ=6.54(br,1H,−CON
H−),4.12(q,2H,−OC
H2CH
3),3.90(s,2H,BrC
H2CO−),3.16(t,2H,−CONHC
H2−),2.22(m,1H,CH
3CH
2COOC
H−,シクロヘキシル),1.80−2.10(m,4H,C
H2−,シクロヘキシル),1.52(m,1H,NHCH
2C
H−,シクロヘキシル),1.49−1.37(m,2H,−CH
2−,シクロヘキシル),1.24(t,3H,−COOCH
2C
H3),1.08−0.92(m,2H,−C
H2−,シクロヘキシル)。
13CNMR(CDCl
3):δ=175.79(BrCH
2CONH−),165.57(−
COOCH
2CH
3),60.23(−COO
CH
2CH
3),45.96(−COO
CH−,シクロヘキシル),43.17(−NH
CH
2CH−),37.12(−NHCH
2CH−,シクロヘキシル),29.68(Br
CH
2CO−),29.35(−
CH
2−,シクロヘキシル),28.34(−
CH
2−,シクロヘキシル),14.22(−COOCH
2CH
3).分析 C
12H
20BrNO
3に対する計算値:C,47.07;H,6.58;N,4.57。実測値:C,47.78;H,6.85;N,4.72(純度>95%)。FAB−MS(m/z):C
12H
21BrNO
3に対する計算値,306.07([MH]
+).実測値:306.20.
【0038】
(3)DO3A−(
tBuO)
3・HBrの合成
0℃で、CH
3CN(120mL)にシクレン(1,4,7,10−テトラアザシクロドデカン)(strem、USA)(5.34g、30mmol)とNaHCO
3(8.34g、99mmol)とを加えて撹拌しながら、tert−ブチルブロモアセテート(19.35g、99mmol)を30分にかけて、ゆっくり滴下して添加した。この後、前記反応混合物を常温で48時間撹拌した。反応が完了すると、前記混合物をろ過して無機固体を除去し、さらにろ過して溶媒を除去した。ろ過して残った固体状の物質をクロロホルムに加えた後、不溶の固体懸濁物をろ去した。この後、ろ過液を濃縮させて得た固体状物質をトルエンで再結晶させた。その結果、合成されたDO3A−(
tBuO)
3・HBrを白色固体として得た。収量は、11.30g(61%)であった。
【0039】
1H NMR(CDCl
3):δ=3.37(s,4H,2×C
H2 酢酸),3.29(s,2H,C
H2 ユニーク酢酸),3.10(br,4H,−C
H2C
H2−リング),2.88−2.93(brm,12H,−C
H2C
H2−リング),1.55(s,27H,C(C
H3)
3).
13CNMR(CDCl
3):δ=28.19(−C(
CH
3)),47.52(−
CH
2CH
2−,環状リング,非対称),49.15(−CH
2CH
2−,環状リング,非対称),51.31(−
CH
2CH
2−,環状リング,非対称),58.17(−
CH
2COO−,酢酸),81.66(−
C(CH
3)),169.62(−CH
2COO−,ユニーク酢酸),170.51(−CH
2COO−,酢酸).分析 C
26H
51N
4O
6・HBrに対する計算値:C,52.43;H,8.63;N,9.41.実測値:C,52.10;H,8.90;N,9.00(純度>95%).Maldi−TofMS(m/z):C
26H
51N
4O
6に対する計算値,515.38([MH]
+).実測値:515.39.
【0040】
(4)tert−ブチルN,N’,N’’−(N’’’−(2−((4−エトキシカルボニル)シクロヘキシル)メチルアミノ−2−オキソエチル)−1,4,7,10−テトラアザシクロドデカン−1,4,7−トリイル)トリアセテート(3b)の合成
前記において合成したエチル4−((2−ブロモアセトアミド)メチル)シクロヘキサンカルボキシレート(1.13g、3.69mmol)を加えて撹拌しながら、CH
3CN(50mL)にDO3A−(
tBuO)
3・HBr(2g、3.36mmol)と、K
2CO
3(1.4g、11.07mmol)とを加えて製造した混合物を、CH
3CN 10mLにゆっくり添加した。この後、前記混合物を常温で24時間撹拌した後、ろ過した。ろ過液を減圧下で留去して、黄色の固体状物質を得た。精製していない前記固体状物質をシリカゲルクロマトグラフィー(勾配溶離 CH
2Cl
2から10%MeOH−CH
2Cl
2、Rf=0.5(MeOH:CH
2Cl
2=1:9))を行い、完全に精製し、最終的に、合成されたtert−ブチルN,N’,N’’−(N’’’−(2−((4−エトキシカルボニル)シクロヘキシル)メチルアミノ−2−オキソエチル)−1,4,7,10−テトラアザシクロドデカン−1,4,7−トリイル)トリアセテートを白色固体として得た。収量は、2.11g(85%)であった。
【0041】
1H NMR(CDCl
3):δ=4.11(q,2H,−COOC
H2CH
3),3.38(s,4H,2×C
H2 酢酸),3.29(s,2H,C
H2 ユニーク酢酸),3.05−3.15(br m,6H,重複−C
H2C
H2−リング及びC
H2 酢酸アーム),2.85−2.94(br m,12H,−C
H2C
H2−リング),2.18−2.24(m,1H,CH
3CH
2COOC
H−),1.88−2.00(m,4H,−C
H2−,シクロヘキシル),1.60(m,1H,−NHCH
2C
H−,シクロヘキシル),1.46(s,27H,−C(C
H3)
3),1.41−1.45(m,2H,−C
H2−,シクロヘキシル),1.25(t,3H,−OCH
2C
H3),1.01−1.05(m,2H,−C
H2−,シクロヘキシル).FAB−MS(m/z):C
38H
70N
5O
9に対する計算値:740.52([MH]
+);C
38H
69N
5O
9Naに対する計算値:762.50([MNa]
+).実測値:740.40([MH]
+),762.40([MNa]
+).Maldi−TofMS(m/z):実測値,740.50([MH]
+),762.50([MNa]
+).純度<90%.
【0042】
(5)DO3A−トラネキサム酸エステル誘導体1(4b)の合成
前記において合成されたtert−ブチルN,N’,N’’−(N’’’−(2−((4−エトキシカルボニル)シクロヘキシル)メチルアミノ−2−オキソエチル)−1,4,7,10−テトラアザシクロドデカン−1,4,7−トリイル)トリアセテート(2.0g、2.70mmol)を、TFA(10mL)に加え、24時間常温で撹拌した。その後、前記溶液をジエチルエーテル(50mL)で希釈し、ろ過し、ジエチルエーテルで洗浄した後、真空下で乾燥して、白色の固体状物質を得た。前記物質をNaOHで酸滴定をした後、元素分析をして、合成された物質がC
26H
45N
5O
9・CF
3COOHであることを確認した。前記合成された物質の収量は、2.25g(91%)であった。
【0043】
1H NMR(D
2O):δ=3.95−4.01(q,2H,−OC
H2CH
3),3.62(br s,8H,酢酸アーム−C
H2−),3.14(br s,16H,−C
H2C
H2−環状リング),2.90−2.92(d,2H,−CONHC
H2−),2.13−2.20(m,1H,CH
3CH
2COOC
H−),1.79−1.82(m,2H,−C
H2−,シクロヘキシル),1.62−1.65(m,2H,−C
H2−,シクロヘキシル),1.31−1.35(m,1H,−NHCH
2C
H−,シクロヘキシル),1.19〜1.27(m,2H,−C
H2−,シクロヘキシル),1.06−1.10(t,3H,−OCH
2C
H3),0.79−0.89(m,2H,−C
H2−,シクロヘキシル).
13CNMR(500 NMR,D
2O):δ=13.3(−CH
2CH
3),28.10(−CH
2CH
2−,シクロヘキシル),29.10(−
CH
2CH
2−,シクロヘキシル),36.56(−(CH
2)
2CHCH
2NH−,シクロヘキシル),43.16(−(CH
2)
2CH
CH
2NH−),45.29(−(CH
2)
2CHCOOCH
2CH
3),49.12(−
CH
2CH
2−,環状リング,非対称),50.25(−CH
2CH
2−,環状リング,対称),52.22(−
CH
2COONH−),55.17(−
CH
2COOH,酢酸),171.01(−CH
2CONH−),179.32(−CH
2COOCH
2CH
3),181.36(−CH
2COOH).分析 C
26H
45N
5O
9・3CF
3COOHに対する計算値:C,42.06;H,5.29;N,7.66.実測値:C,42.09;H,5.85;N,8.26(純度>95%).Maldi−Tof−MS(m/z):C
26H
46N
5O
9に対する計算値:572.33([MH]
+),C
26H
45N
5O
9Naに対する計算値:594.31([MNa]
+).実測値:572.44([MH]
+),594.44([MNa]
+).
【0044】
1−2.DO3A−トラネキサム酸エステル誘導体2の合成
(1)アリル−トランス−4−(アミノメチル)シクロヘキサンエチルカルボキシレートハイドロクロライド(1c)の合成
まず、東京化成工業株式会社(Japan)から購入したトランス−4−(アミノメチル)シクロヘキサンカルボン酸を用いて、アリル−トランス−4−(アミノメチル)シクロヘキサンエチルカルボキシレートハイドロクロライドを合成した。
【0045】
0℃で、アリルアルコール(50mL)に、トランス−4−(アミノメチル)シクロヘキサンカルボン酸(3.93g、25mmol)を加え、撹拌しながら、ゆっくりチオニルクロライド(3.57g、30mmol)を加え、10分の間冷たいまま保持し、撹拌した。この後、前記反応混合物を、1時間75℃で還流した後、常温で冷却した。溶媒を減圧下で完全に除去した後、残りの成分をヘキサン(30mL)で3回洗浄して、残留溶媒を除去した。溶媒が完全に除去された混合物を6時間真空下で乾燥して、アリル−トランス−4−(アミノメチル)シクロヘキサンエチルカルボキシレートハイドロクロライドを得た。収量は、4.79g(82%)であった。
【0046】
1H NMR(d
6−DMSO,400 MHz):δ=7.81(br s,3H,N
H2HCl),5.71(m,1H),5.16(m,2H,OCH
2CH=C
H2),4.32(m,2H,OC
H2CH=CH
2),2.40(d,J=7.00,2H,H9),2.07(m,1H,H13),1.66(m,4H,H11/H12),1.33(m,1H,H10),0.92(m,4H,H11/H12).
13C NMR(d
6−DMSO,100 MHz):δ=174.77(C1),133.12(OCH
2CH=CH
2),117.78(OCH
2CH=
CH
2),64.46(O
CH
2CH=CH
2),44.01(
CH
2NH
2),42.32(C2),35.12(C4),29.02(C3,C5),28.20(C2,C6).分析 C
11H
19NO
2・HClに対する計算値:C,56.52;H,8.62;N,5.99.実測値:C,56.37;H,8.54;N,5.76%.FABMS(m/z):C
11H
20NO
2に対する計算値,198.28([MH]
+);実測値,198.10.
【0047】
(2)アリル4−((2−ブロモアセトアミド)メチル)シクロヘキサンカルボキシレート(2c)の合成
前記実施例1−1の(2)の合成過程において、トランス−4−(アミノメチル)シクロヘキサンエチルカルボキシレートハイドロクロライドの代わりにアリル−トランス−4−(アミノメチル)シクロヘキサンエチルカルボキシレートハイドロクロライド(3.02g、12.83mmol)を用いる以外は、同様の方法で合成した。得られた生成物は、白色固体であった。収量は、2.86g(70%)であった。
【0048】
1H NMR(CDCl
3):δ=6.54(br,1H,−CON
H−),5.87−5.92(m,1H,−OCH
2C
H=CH
2),5.24−5.32(m,2H,−OCH
2CH=C
H2),4.57(d,2H,−OC
H2CH=CH
2),3.89(s,2H,BrC
H2CONH−),3.16(t,2H,−C
H2NHCO−),2.27(m,1H,CH
2=CHCH
2COOC
H−),1.82−2.03(m,4H,−C
H2−,シクロヘキシル),1.52(m,1H,−NHCH
2C
H−),1.46−1.51(m,2H,C
H2−,シクロヘキシル),0.92−1.10(m,2H,−C
H2−,シクロヘキシル).
13C NMR(d
6−DMSO):δ=175.32(BrCH
2CONH−),165.33(−
COOCH
2CH=CH
2),132.29(−COOCH
2CH=CH
2),118.01(−COOCH
2CH=
CH
2),64.92(−COO
CH
2CH=CH
2),45.98(−COO
CH−,シクロヘキシル),43.17(−NH
CH
2CH−),37.12(−NHCH
2CH−,シクロヘキシル),29.68(Br
CH
2CO−),29.44(−
CH
2−,シクロヘキシル),28.35(−
CH
2−,シクロヘキシル).分析 C
13H
20BrNO
3に対する計算値:C,49.07;H,6.34;N,4.40.実測値:C,48.90;H,6.39;N,4.27(純度>95%).FAB−MS(m/z):C
13H
21BrNO
3に対する計算値:318.07([MH]
+).実測値:318.30.
【0049】
(3)tert−ブチルN,N’,N’’−(N’’’−(2−((4−アリルオキシカルボニル)シクロヘキシル)メチルアミノ−2−オキソエチル)−1,4,7,10−テトラアザシクロドデカン−1,4,7−トリイル)トリアセテート(3c)の合成
前記実施例1−1の(4)の合成過程において、エチル4−((2−ブロモアセトアミド)メチル)シクロヘキサンカルボキシレートの代わりに、アリル4−((2−ブロモアセトアミド)メチル)シクロヘキサンカルボキシレート(1.17g、3.69mmol)を用いる以外は、同様の方法で合成した。得られた生成物は、白色固体であった。収量は、2.10g(83%)であった。
【0050】
1H NMR(CDCl
3):δ=5.85−5.95(m,1H,−CH
2C
H=CH
2),5.19−5.31(m,2H,−CH
2CH=C
H2),4.54(d,2H,−C
H2CH=CH
2),0.95−1.05(m,2H,−C
H2−,シクロヘキシル),1.37−1.45(m,2H,−C
H2−,シクロヘキシル),1.46(s,27H,−C(C
H3)
3),2.21−3.51(br m,27H,重複−C
H2C
H2−環状リング(16H),−C
H2−酢酸アーム(8H),−NHC
H2CH−(2H),−NHCH
2C
H−(1H)),1.90−2.00(br m,4H,−C
H2−,シクロヘキシル),1.60(m,1H,−OOCCH
2C
H−).Maldi−Tof MS(m/z)C
39H
69N
5O
9Naに対する計算値:774.50([MNa]
+),C
39H
69N
5O
9Kに対する計算値:790.47([MK]
+).実測値:774.58[MNa]
+,790.60[MK]
+.純度<90%.
【0051】
(4)DO3A−トラネキサム酸エステル誘導体2(4c)の合成
前記実施例1−1の(5)の合成過程において、tert−ブチルN,N’,N’’−(N’’’−(2−((4−エトキシカルボニル)シクロヘキシル)メチルアミノ−2−オキソエチル)−1,4,7,10−テトラアザシクロドデカン−1,4,7−トリイル)トリアセテートの代わりに、tert−ブチルN,N’,N’’−(N’’’−(2−((4−アリルオキシカルボニル)シクロヘキシル)メチルアミノ−2−オキソエチル)−1,4,7,10−テトラアザシクロドデカン−1,4,7−トリイル)トリアセテート(2.03g、2.70mmol)を用いた以外は、同様の方法で合成した。得られた生成物は、白色固体であった。収量は、2.60g(89%)であった。
【0052】
1H NMR(D
2O):δ=5.84−5.94(m,1H,−OCH
2C
H=CH
2),5.18−5.28(m,2H,−OCH
2CH=C
H2),4.53−4.55(d,2H,−OC
H2CH=CH
2),3.61−3.72(m,8H,−C
H2−酢酸 アームs),3.14−3.27(br m,16H,−C
H2C
H2−環状リング),2.98−2.99(d,2H,−CONHC
H2−),2.27−2.34(m,1H,CH
3CH
2COOC
H−,シクロヘキシル),1.91−1.93(m,2H,−C
H2−,シクロヘキシル),1.72−1.74(m,2H,−C
H2−,シクロヘキシル),1.40−1.48(m,1H,−NHCH
2C
H−,シクロヘキシル),1.28−1.37(m,2H,−C
H2−,シクロヘキシル),0.88−0.98(m,2H,−C
H2−,シクロヘキシル).
13CNMR(500 NMR,D
2O):δ=28.09(−CH
2CH
2−,シクロヘキシル),29.05(−
CH
2CH
2−,シクロヘキシル),36.51(−(CH
2)
2CHCH
2NH−,シクロヘキシル),43.06(−(CH
2)
2CH
CH
2NH−),45.35(−(CH
2)
2CHCOOCH
2CH=CH
2),49.52(−
CH
2CH
2−,環状リング),52.21(−
CH
2COONH−),55.12(−
CH
2COOH,酢酸),65.58(−COO
CH
2CH=CH
2),118.03(−COOCH
2CH=
CH
2),132.06(−COOCH
2CH=CH
2),171.99(−CH
2CONH−),179.73(−CH
2COOCH
2CH=CH
2),181.28(−CH
2COOH).分析 C
27H
45N
5O
9・2.4CF
3COOHに対する計算値:C,43.76;H,5.65;N,8.28.実測値:C,43.65;H,6.03;N,9.07(純度>95%).Maldi−Tof MS(m/z):C
27H
46N
5O
9に対する計算値:584.33([MH]
+),C
27H
45N
5O
9Naに対する計算値:606.31([MNa]
+).実測値:584.36([MH]
+),606.32([MNa]
+).
【0053】
1−3.DO3A−トラネキサム酸(4a)の合成
DO3A−トラネキサム酸は、前記において合成したDO3A−トラネキサム酸エステル誘導体1を用いて合成した。
【0054】
エタノール(20mL)に、前記実施例1−1で合成した化合物4b(1.0g、1.0mmol)を加えた後、前記溶液に5NのNaOHを添加してpHを10まで滴定した。pH滴定が完了した後、減圧下で溶媒を除去し、メタノール(10mL)を加え溶解した。この後、溶液を、メタノールを通過させる短いシリカゲル(60メッシュ)クロマトグラフィーを行った後、さらに溶媒を除去した。溶媒が完全に除去されて残った物質をジエチルエーテルで粉砕し、真空下で乾燥させて白色の固体状合成物質を得た。このように合成されたDO3A−トラネキサム酸の収量は、0.50g(85%)であった。
【0055】
1H NMR(D
2O):δ=0.85−0.94(m,2H,−C
H2−,シクロヘキシル),1.20−1.29(m,2H,−C
H2−,シクロヘキシル),1.41(br s,1H,−NHCH
2C
H−,シクロヘキシル),1.68−1.71(m,2H,−C
H2−,シクロヘキシル),1.80−1.83(m,2H,−C
H2−,シクロヘキシル),1.98−2.04(m,1H,HOOCC
H−,シクロヘキシル),2.35−3.45(br m,26H,重複−C
H2C
H2−環状リング(16H),−C
H2−酢酸アーム(8H),−CONHC
H2−(2H).
13CNMR(D
2O):δ=29.02(−CH
2CH
2−,シクロヘキシル),29.74(−
CH
2CH
2−,シクロヘキシル),37.10(−(CH
2)
2CHCH
2NH−,シクロヘキシル),44.80(−(CH
2)
2CH
CH
2NH−),45.63(−(CH
2)
2CHCOOH),48.67(−
CH
2CH
2−,環状リング,対称),51.56(−CH
2CH
2−,環状リング,非対称),52.06(−CH
2CH
2−,環状リング,非対称),55.51(−
CH
2COONH−),55.80(−
CH
2COOH,ユニーク酢酸),57.12(−
CH
2COOH,酢酸(複数)),170.84(−CH
2CONH−),171.92(−CH
2COOH,ユニーク),177.02(−CH
2COOH),183.70(−(CH
2)
2CH
COOH).Maldi−Tof MS(m/z):C
24H
42N
5O
9に対する計算値:544.30([MH]
+),C
24H
41N
5O
9Naに対する計算値:566.28([MNa]
+);実測値,544.35([MH]
+),566.33([MNa]
+).純度<90%.
【0056】
実施例2.ガドリニウム錯体の製造
前記実施例1において合成したDO3Aコンジュゲートを用いて、ガドリニウム錯体を製造した。ガドリニウム錯体を製造するための合成過程は、下記に詳しく示されており、それぞれの合成された化合物は、FAB−Massを用いて確認した。FAB−Massスペクトルは、JMS−700 mass spectrophotometer(日本電子株式会社製、Japan)を用いて得た。
【0057】
2−1.ガドリニウム錯体1(5a)の合成
蒸溜水10mLに、前記において合成したDO3A−トラネキサム酸(4a)(0.5g、0.9mmol)を加えて溶液を作成し、前記溶液にGdCl
36H
2O(0.34g、0.92mmol)を添加した後、常温で18時間撹拌した。撹拌完了後、前記反応混合物をSephadex G−25に通過させ、反応しないGdイオンを除去した。この後、0℃で、生成物をエタノール溶液に溶解させ、ジエチルエーテルをゆっくり添加して、白色の固体状合成物質としてガドリニウム錯体を得た。最終生成物におけるGd
3+イオンの除去は、キシレノールオレンジ指示薬で確認した。前記ガドリニウム錯体の収量は、0.71g(90%)であった。
【0058】
分析 NaC
24H
37GdN
5O
9・CF
3COOH・H
2Oに対する計算値:C,36.66;H,4.73;N,8.22.実測値:C,36.86;H,4.97;N,7.50(純度>95%).FAB−MS(m/z):C
24H
38GdN
5O
9Naに対する計算値,721.18([MNa(H
2O)]
+).実測値:721.19.HR−FABMS(m/z):C
24H
39GdN
5O
9に対する計算値,699.1989([MH−(H
2O)]
+);実測値,699.1984.
【0059】
2−2.ガドリニウム錯体2(5b)の合成
前記実施例2−1の合成過程において、DO3A−トラネキサム酸(4a)の代わりに、DO3A−トラネキサム酸エステル誘導体1(4b)(0.913g、1mmol)を用いた以外は、同様の方法で合成した。収量は、1.12g(95%)であった。
【0060】
分析 C
26H
44GdN
5O
10・2.5CF
3COOH・8H
2Oに対する計算値:C,31.74;H,5.37;N,5.97.実測値:C,31.51;H,5.02;N,6.01(純度>95%).HR−FABMS(m/z):C
26H
42GdN
5O
9Naに対する計算値,749.2128([MNa−(H
2O)]
+).実測値:749.2126.
【0061】
2−3.ガドリニウム錯体3(5c)の合成
前記実施例2−1の合成過程において、DO3A−トラネキサム酸(4a)の代わりに、DO3A−トラネキサム酸エステル誘導体2(4c)(0.857g、1mmol)を用いた以外は、同様の方法で合成した。収量は、1.01g(90%)であった。
【0062】
分析 C
27H
44GdN
5O
10・2CF
3COOH・8H
2Oに対する計算値:C,33.01;H,5.54;N,6.21.実測値:C,32.69;H,5.22;N,6.70(純度>95%).HR−FABMs(m/z):C
27H
43GdN
5O
9に対する計算値,739.2308([MH−(H
2O)]
+);実測値,739.2307.
【0063】
実施例3.プロトン化定数(Protonation constants)、安定度定数、選択性定数、条件付安定度定数及びpM値測定
前記において製造したDO3Aコンジュゲート及びガドリニウム錯体のプロトン化定数、安定度定数、選択性定数、条件付安定度定数及びpM値を測定した。DO3Aコンジュゲート(4a〜4c)のプロトン添加反応によるプロトン化定数(K
iH)及びガドリニウム錯体(5a〜5c)の安定度定数は、下記したそれぞれの数式1及び2により定義した。下記の数式において、HiL(L=4;i=1、2、..)はプロトン化されたリガンドであり、Lは脱プロトン化された自由リガンドであり、Mは非加水分解されたアクア金属イオン(unhydrolyzed aqua metal ion;Gd、Ca、Zn,Cu)であり、MLは非プロトン化及び非加水分解された錯体を示す。
[数式1]
K
iH = [H
iL]/[H
i−1L][H
+]
[数式2]
K
ML(therm) = [ML]/[M][L]
【0064】
それぞれのDO3Aコンジュゲートのプロトン化定数及びそれらのガドリニウム(Gd(III))、カルシウム(Ca(II))、亜鉛(Zn(II))及び銅(Cu(II))錯体の安定度定数は、電位差滴定法により決定した。その結果は、下記の表1に示されており、対照群としてDOTA、DTPA、EOB−DTPA、BOTPA及びDTPA−BMAのような非環状類似体の値を比較のために用いた。
【0065】
表1に示したように、DO3Aコンジュゲート(4a〜4c)のプロトン化定数(logK
iH)及び全塩基性度(overall basicity;ΣpK
a)は、非環状や、開環したものより高いか、若しくは類似の値を示した。全塩基性度は、金属及びリガンドの供与原子との間の静電気的相互作用の強度と直接に相互関連があるため、キレートの安定性と関連がある。高い塩基性度のリガンドは、熱力学的な観点から、より安定した錯体を形成することが明らかであり、これはそれぞれのDO3Aコンジュゲートを用いて製造したガドリニウム錯体により証明される。
【0066】
また、DO3Aコンジュゲートのうち4aが、最も高いlogK
GdL値(18.73)を示し、これはDOTA(18.33)よりも高い。このことは、生理的条件においてGd−リガンド(L)の結合安定性がDOTAより高いことを意味する。4aにより得られた高い結合安定性は、4aとGd(III)イオン(L
4−⇔Gd
3+及びL
3−⇔Gd
3+)との静電気的相互作用が4b及び4cに比べて強いためであると説明される。
【0067】
そして、pM値(リガンドと金属間の結合力を表す値)は、リガンドの塩基度及び混合物のプロトン化を反映する。したがって、pM値が大きいと、与えられた条件下で金属イオンに対するリガンドの親和性が大きい。表1に示したように、GdのpM値がカルシウム(Ca(II))、亜鉛(Zn(II))及び銅(Cu(II))のpM値に比べて高いことが分かる。これは、DO3AコンジュゲートのGd(III)錯体が、他の内因金属(endogenous metal)イオンのものよりも影響を受けずに安定化されることを意味する。
【0068】
[表1]プロトン化定数、安定度定数、選択性定数、条件付安定度定数及びpM値
【表1】
bデータは参考文献1,2から得た。
cデータは参考文献3から得た。
dデータは参考文献4,5から得た。
fデータは参考文献7から得た。
【0069】
実施例4.金属交換反応速度
Gd錯体は、たとえ熱力学的に安定しても、速度論的には、生体内イオンによって金属交換が生じることもあり、この過程で常磁性ガドリニウム(Gd(III))イオンが錯体から抜け出すことになる。こうような生体内のイオンとしては、銅、カルシウム、マンガンなどがある。銅イオンは、生体内の血液にごく少量(1mol/L〜10mol/L)が存在し、カルシウムイオンは、DTPA又はDOTAに比べ、相対的に低い結合程度を示す(Gdに比べて略log10程度低い)。マンガンのみが、唯一、血液内において、ガドリニウムイオンとの交換ができるほど十分な量(55mol/L〜125mol/L)含まれているだけでなく、熱力学的にガドリニウムに比べて4倍程度低い。したがって、マンガンイオンが存在する状態においてのGd錯体の安定性は、非常に重要である。体内において生体内のイオンによって金属交換反応が発生すると、自由ガドリニウムイオンを生成し、腎臓を通して体外に排出される。
【0070】
もしマンガンイオンにより常磁性ガドリニウム錯体において金属交換反応が発生すると、リン酸塩緩衝溶液により自由ガドルリニウムイオンがGdPO
4形態となるが、水溶性が非常に低く(K
sp=10
−22.2mol
2/L
2)、これによって水プロトン緩和率に影響を及ぼさないようになる。したがって、時間による相対的な値、R
1P(t)/R
1P(0)は、金属交換を測定する良い方法である。時間に応じたR
1P(t)/R
1P(0)の変化は、反応速度について、ある程度の情報を提供し、理論的には時間が無限大(t=∞)になると、定常値となり、熱力学的な面を反映する。
【0071】
したがって、本発明に係るガドリニウム錯体の金属交換反応を確認するために、2.5mmol/LのGd錯体とZnCl
2とがリン酸塩緩衝溶液(pH7.4)中で、時間によって変化する水のプロトン緩和率(R
1P)を測定した。緩和率の変化を確認するために、1mLのGd錯体緩衝溶液に10μL(250mmol/L)のZnCl
2溶液を添加した後、十分に振とうして、よく混ざり合うようにした。また、対照効果を確認するために、ドータレム(登録商標)、オムニスキャン(Omniscan(登録商標))、マルチハンス(Nultihance(登録商標))、プリモビスト(Primovist(登録商標))及びエチルトラネキサメート(6)を酢酸亜鉛で前記と同様の実験を行った。実験結果は、室温で、3T whole body system(Magnetom Tim Trip;Simens社製、Germany)により測定した。測定結果を、
図2に示した。
【0072】
図2は、常磁性緩和率の変化(R
1P(t)/R
1P(0))を示す。
図2に示したように、緩和率の進行程度によって二つのグループに分けられる。即ち、(A)ドータレム(登録商標)、5a〜5cの大環状キレート、及び(B)その他の非環状キレートである。本発明により合成されたガドリニウム錯体1〜3(5a、5b及び5c)は、72時間を基準として、全て非常に良い速度論的な安定性(略98%以上)を示していることが分かる。このような特性は、ドータレム(登録商標)とほとんど類似する。これは、ガドリニウム錯体の構造的な類似性に起因すると考えられる。ガドリニウム錯体は、大環状モチーフで同数の5角の環を有している。最初の5分間で緩和率の上昇を見ることができるが、これは、ガドリニウムが脱錯化過程において水とよりよく接触して、上昇効果が生じたと見られる。その他のオムニスキャン(登録商標)、マルチハンス(登録商標)、プリモビスト(登録商標)においては、急激な減少効果が示されるが、これは、非環状開鎖DTPA−ビス(アミド)ミチーフによって、発生したと考えられる。特にオムニスキャン(登録商標)においては、同じ測定時間帯において、最初緩和率の30%まで減少することを確認することができた。また、エチルトラネキサメート(6)の位置は、二つのグループ(大環状と非環状)の中間的位置にある。これは、DTPA−ビス(アミド)において、トラネキサム部分が熱力学的な安定性だけでなく、速度論的に重要な役割をすると予想することができる。このことに関して、DTPA−BMAと比較して、トラネキサム部分の存在が回転相関時間を増加させ、R
1緩和率を非常に増加させたといえる。
【0073】
実施例5.緩和時間及び緩和率
前記のガドリニウム錯体の緩和時間(T
1、T
2)と緩和率(R
1、R
2)を測定した。高緩和率を有する造影剤は、相対的に少ない量を投与しても高いコントラスト増強効果を示す。
【0074】
T
1測定は、1.5Tにおいて、多様な反転時間(TI:inversion time)の反転回復法を用いて確認した。MRイメージは、35種類の異なるTI値(50msec〜1750msec)から得られた。T
1緩和時間は、各TI値で測定された信号強度の非線形最小二乗適合法によって得られた。T
2測定は、多様なスピンエコー測定のため、CPMG(Carr−Purcell−Meiboon−Gill)パルスシーケンスを適用して行われた。34種類の他の画像は、34種類の異なるエコー時間(TE)値から得られた。T
2緩和時間は、それぞれのエコー時間において、多様なスピンエコー測定のためのピクセルの中間値を非線形最小二乗適合法によって得られた。緩和率は、緩和時間当りmMの逆数(R=1/s・mM)で計算した。決定された緩和時間と緩和率とは、最終的にファントムmapに変換された。ファントムイメージは、比較の目的で、同一濃度でドータレム(登録商標)と、ガドリニウム錯体について得られた。測定結果は、
図3及び表2に示した。
図3は、本発明に係るガドリニウム錯体(5a〜5c)とドータレム(登録商標)との緩和時間と緩和率マップを示す図であり、表2には、本発明のガドリニウム錯体と他のガドリニウム錯体の緩和時間及び緩和率を示した。
【0075】
表2から、市販されている造影剤と比べて、5bと5cが非常に高いR1値を持っていることが確認でき、特に最も高いR1値を持つ5cは、ドータレム(登録商標)と比べて、2.6倍高い。現在のシステムにおいて、このような高いR1値は、ドータレム(登録商標)と比べて、増加した分子量のためであると考えられる。分子量の増加は、回転相関時間を増加させるため、R1緩和率を向上させる。また、追加的に、内圏水分子とカルボキシル基との相互作用も緩和率上昇の因子として作用するかもしれない。即ち、5b、5cの水分子交換率が疏水性アルキルエステル基によって増加したと見られ、対照的にカルボン酸のような親水性基(5a)は、水素結合により内圏水分子との交換速度が遅れ、緩和率が低いと考えられる。
【0076】
[表2]ガドリニウム錯体の緩和時間及び緩和率
【表2】
各値は平均値(±SD)である。
b出典は参考文献8から得た。
c出典は参考文献9から得た。
【0077】
実施例6.インビボ(In vivo)MRIテスト
本発明に係るMRI造影剤のコントラスト効果を調べるために6週齢の雄性のICRマウス(体重:29g〜31g)を準備した。テストのため、マウスを、酸素存在下で、1.5%イソフルランで麻酔した後、本発明のガドリニウム錯体(5c)を0.1mmol(Gd/kg)で注入処理した。処理完了後、麻酔から覚めたマウスをケージに入れ、水と食べ物を自由に摂取するようにして、動物を約37℃となるようにウォーターブランケットで温度を保持した。
【0078】
MRイメージは、1.5T(GE Healthcare社製、Milwaukee、WI、USA)で自作した動物用RFコイルを用いて測定した。このコイルは、内径が50mm程度のレシーバータイプである。3D fast SPGR(spoiled GRASS images)の定数を使用して、イメージを得た:反復時間(TR)=8.8 ms;エコー時間(TE)=3.9 ms;10mm視野(FOV);256×192マトリックスサイズ;1.0mm スライス厚み;取得数(number of acquisition;NEX)=4。スピンエコーのためのイメージ要素は、次の通りである:TR=500ms;TE=13ms;6mmFOV;192×128マトリックスサイズ;1.5mmスライス厚み;NEX=4。それぞれのイメージは、3分16秒の間隔で測定され、ガドリニウム錯体(0.1mmol/kgの5c)を注入した後、26時間までのMRイメージを得た。そして、得られたMRイメージ分析は、Advantage Window software(GE Medical社製、USA)を用いて、特定関心領域(region of interest;ROI)においての信号強度を測定した。また、CNR(コントラスト−ノイズ比)は、下記数式3を用いて計算し、数式3においてSNRは、信号−ノイズ比を意味する。
[数式3]
CNR = SNR
post − SNR
pre
【0079】
測定結果は、
図4A〜4B、
図5及び
図6に示した。
【0080】
まず、
図4A〜4B及び
図5は、測定されたMRイメージを示す。
図4Aから、ガドリニウム錯体を注入してから初期1時間以後肝臓で強い信号が観察され、同時間以後、心臓と動脈とも類似した血液プール効果が観察されることが分かる。そして、
図4Bから確認できるように、注入5分後、肝臓、腎臓、大動脈でコントラスト効果が同時に観察される。したがって、本発明に係るガドリニウム錯体は、肝臓だけでなく血液プールでの二重造影効果を示すことが分かる。
【0081】
また、
図5は、胆管を通して排出される姿を確認した結果である。初期には、胆管に造影剤が存在せず、画像が暗く見えるが、造影剤投与後、時間が経つにつれて肝臓の肝胆道吸収後に、ゆっくり胆管を通して、造影剤が腸へ排出されることが分かる。これは、造影剤(5c)が、肝臓を造影し、次いで排出されることを証明する明白な根拠である。
【0082】
そして、ICP(Inductively Coupled Plasma)測定を通して、投与時間によるGd(III)イオンの含有量を調べることにより、胆管を通しての排出の有無をさらに確認した。確認の結果、表3に示したように、時間が経つほど肝臓と腎臓でGd(III)イオンの含有量が減少することを確認することができ、投与して6時間以後には、腸においてもGd(III)イオンが測定されることから、肝臓と胆管を通して排出されることが証明された。
【0083】
[表3]ICP測定結果
【表3】
【0084】
係る本発明のガドリニウム錯体の二重造影効果は、ガドリニウム錯体の構造的な特異性に起因したと考えられる。既存の市販の造影剤と異なり、非環状DTPAの代りに、大環状キレートDO3Aが用いられている。特に、キレート骨格上に芳香族置換基を有する造影剤は、これまでに報告がない。前記芳香族置換基と臓器又は血球との間の親油性相互作用により、血液プールにおける強調が起こると予測される。一方、現在市販されているマルチハンス(登録商標)とプリモビスト(登録商標)とは、非環状DTPA部分を利用し、これらの骨格が芳香族残基によって誘導され、これらの存在は、MRI造影剤と臓器又は血球との間の非共有性の親油性相互作用を増加させると予想される。したがって、MRI造影剤と臓器又は血球との間の非共有性の親油性相互作用のためには、芳香族化合物の存在が必須要素ではないことを本発明を通して確認できる。
【0085】
また、前記測定されたMRイメージのCNR(コントラスト−ノイズ比)を測定した結果、
図6に示したように、強い肝細胞吸収が観察されるが、これは、投与されたMRI造影剤が膽管を通して、ゆっくり排出されるためであると考えられる。このような排出特性は、MRI造影剤の生体内における長い循環時間により説明される。
【0086】
実施例7.細胞生存率
HEK−293ヒト胎児腎臓細胞の生存率をMTT試験により測定した。
【0087】
まず、HEK−293細胞を加熱不活性化したFCS(10%)、ペニシリン(100IU/mL)、ストレプトマイシン(100mg/mL)及びゼンタマイシン(200mg/mL)を含むDMEM(Dulbecco’s modified eagle’s medium、Gibco社製)培地に、1×10
4細胞/ウェルの密度で96ウェルプレートに接種し、37℃、5%CO
2条件下で、培養した。培養1日後、本発明のガドリニウム錯体5a〜5c(ガドリニウム濃度;0.01mM〜1.0mM)をペニシリン(100IU/mL)、ストレプトマイシン(100mg/mL)及びゼンタマイシン(200mg/mL)を含むDMEM培地に希釈した後、培地を取り替え、24時間培養した。培養完了後、5mg/mLのMTT(3−[4、5−ジメチルチアゾル−2−イル]−2、5−ジフェニルテトラゾリウムブロマイド、Sigma社製)溶液10μLで処理し、同一条件下で4時間反応させた。反応完了後、上澄みを除去した細胞にDMSO(ジイメチルスルホキシド)100μLを添加して、MTTポルマザンを溶解し、マイクロプレートリーダー(Bio−rad 550 Reader、Molecular Device社製、USA)を用いて、570nmで吸光度(O.D.)を測定した。測定結果を、
図7に示した。
【0088】
図7に示したように、ガドリニウム錯体と24時間培養したときに、細胞増殖及び生存に影響を及ぼさないことが確認できる。即ち、試験群の細胞生存率が100%に近接することから、本発明のガドリニウム錯体造影剤は、細胞毒性を示さないことが確認できる。
【0089】
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