特許第5763797号(P5763797)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5763797分離固定面を備えた軟質充填プロテーゼシェル
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5763797
(24)【登録日】2015年6月19日
(45)【発行日】2015年8月12日
(54)【発明の名称】分離固定面を備えた軟質充填プロテーゼシェル
(51)【国際特許分類】
   A61F 2/12 20060101AFI20150723BHJP
【FI】
   A61F2/12
【請求項の数】10
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-30938(P2014-30938)
(22)【出願日】2014年2月20日
(62)【分割の表示】特願2011-523162(P2011-523162)の分割
【原出願日】2009年8月13日
(65)【公開番号】特開2014-158745(P2014-158745A)
(43)【公開日】2014年9月4日
【審査請求日】2014年3月24日
(31)【優先権主張番号】61/088,418
(32)【優先日】2008年8月13日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】591018268
【氏名又は名称】アラーガン、インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】ALLERGAN,INCORPORATED
(74)【代理人】
【識別番号】100081422
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 光雄
(74)【代理人】
【識別番号】100101454
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 卓二
(74)【代理人】
【識別番号】100104592
【弁理士】
【氏名又は名称】森住 憲一
(74)【代理人】
【識別番号】100162710
【弁理士】
【氏名又は名称】梶田 真理奈
(72)【発明者】
【氏名】デニス・イー・バン・エップス
(72)【発明者】
【氏名】トーマス・イー・パウエル
【審査官】 石田 宏之
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許第06203570(US,B1)
【文献】 国際公開第2008/053630(WO,A1)
【文献】 特公昭40−000909(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 2/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
人への移植用乳房プロテーゼであって、該プロテーゼが、
前面および後面により定められる外面を備えるエラストマーシェルを含む埋め込み部分、および
シェルの前面に形作られた微細構造により定められる固定領域を含み、該微細構造がシェルの外面の残領域とは異なり、前記固定領域が複数の固定領域を放射状配置で含み、
前記固定領域が第1テクスチャーを有し、前記残領域が第1テクスチャーと異なる第2テクスチャーを有するプロテーゼ。
【請求項2】
プロテーゼを人の乳房内に移植する場合に、固定領域が胸筋群と並ぶように配置および構成される、請求項1に記載のプロテーゼ。
【請求項3】
プロテーゼを人の乳房内に移植する場合に、固定領域が小胸筋群と並ぶように配置される、人の乳房に配置するために構成される請求項1に記載のプロテーゼ。
【請求項4】
固定領域が、前記前面を完全に横切って広がる請求項1に記載のプロテーゼ。
【請求項5】
複数の固定領域が、それぞれ、2mm〜15mmの一定の幅を有する請求項1に記載のプロテーゼ。
【請求項6】
外面の残領域が滑らかである請求項1に記載のプロテーゼ。
【請求項7】
前面、後面および前面と後面の間の周辺領域により定められる外面を含むシリコーンエラストマーシェルを含んでなる埋め込み部分を含む乳房プロテーゼであって、前記外面がシェルの外面の残領域とは異なるシェルの外面に形作られる微細構造により定められる少なくとも1つの細長い固定領域を含み、前記固定領域が周囲領域に沿って広がり、かつ、後面および前面の少なくとも1つを横切って広がる、乳房プロテーゼ。
【請求項8】
細長い固定領域が、放射状配置を形成する複数の細長い固定領域を含む、請求項に記載のプロテーゼ。
【請求項9】
外面の残領域が滑らかである請求項に記載のプロテーゼ。
【請求項10】
外面の残領域が、固定領域の微細構造よりも比較的微細構造化されていない表面である、請求項に記載のプロテーゼ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
〔関連出願の相互参照〕
本願は、2008年8月13日に出願された米国仮特許出願第61/088,418号の利益を主張するものであり、この特許出願の開示全体を具体的な参照により本願明細書に組み込むものとする。
【0002】
〔発明の分野〕
本発明は、軟質人工装具インプラント、とりわけ、そのようなインプラント(例えば乳房インプラント)の加工された外表面に関する。
【背景技術】
【0003】
移植型プロテーゼは、体内組織の置換または補強のために一般的に使用される。乳癌においては、乳腺およびその周辺組織の一部または全てを除去することが必要な場合があり、それは移植型プロテーゼで満たし得る空間を作り出す。インプラントは、周辺組織を支え、身体の外観を維持する働きをする。身体の正常な外観の再建は、術後の患者に非常に有益な心理的効果を有し、大規模な外科手術後にしばしば起こるショックや落ち込みの多くを排除する。移植型プロテーゼは、身体の様々な部位、例えば臀部、顎、ふくらはぎ等の軟組織の正常な外観を再建するためにも、より一般的に使用される。
【0004】
軟質移植型プロテーゼは、一般に、比較的薄く柔軟な外膜または加硫(硬化)シリコーンエラストマー製のシェルを包含する。そのシェルは、シリコーンゲルまたは生理食塩水のいずれかで満たされている。シェルの充填は、患者を切開してシェルを挿入する前または挿入後に行う。
【0005】
米国では、女性は乳房インプラントシェル表面の異なる2タイプ:滑らかな表面および加工された表面のどちらかを選ぶことができる。外科医は、一般に、彼または彼女の技術に基づいて表面のタイプを推薦し、また、各患者の要求に最も沿うように選択する乳房インプラントの形状を薦める。
【0006】
乳房インプラントには合併症がないわけではなく、その1つは被膜拘縮と呼ばれる。これはインプラントの周りに形成した線維性外被膜の収縮が生じる合併症であり、インプラントを球状の硬化した審美的に望ましくない状態にする傾向がある。米国食品医薬品局(FDA)のBreast Implant Consumer Handbook(2004年)によれば、その文献は、加工表面の乳房インプラントが被膜拘縮率を減少させ得ることを示す。
【0007】
微細構造化は種々の方法で行い得る。加工されたポリウレタンフォームの薄層で覆われたシリコーンゲル乳房インプラントは、その線維性被膜拘縮の初期発生に対する顕著な耐性のため、1980年代に多大な人気を得た。例えば、米国特許第3,293,663号は、組織内殖および胸壁へ固定するために裏面に多孔性ポリエステル構造を有する軟質ゲル充填プロテーゼを記載する。規制上の制約のため、これらの装具はもはや米国で利用できないが、それらの医学的および商業的成功はシリコーンインプラントの表面加工についての関心を呼び起こした。
【0008】
安全かつ快適な人工装具インプラントの開発における多くの進歩にもかかわらず、改善の余地が残っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許第3,293,663号明細書
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】米国食品医薬品局(FDA) Breast Implant Consumer Handbook、2004年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、人に移植するのに適したプロテーゼ、例えば、人の乳房の再建または豊胸における使用に適した乳房インプラントを提供する。このプロテーゼは、一般に、埋め込み部分、例えば、液体またはゲルで満たされているか、満たすことが可能なエラストマーシェルを含む。埋め込み部分は、外面上に規定され、増強または制御された組織内殖または接着を与えるために構成、配置または構造化された、1つ以上の固定領域を含有する外面を有する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の一態様によれば、固定面は、インプラントの前面または後面を横切って広がる、分離した一般的に細長い表面部分である。本発明において、しばしば「固定領域」と称されるこれらの固定面は、通常、インプラントの隣接表面部分の微細構造、粗さまたは光沢と異なる微細構造、粗さまたは光沢により定義される。
【0013】
幾つかの態様において、固定領域は、インプラントの前面または後面の残領域に対して、増加または増強された微細構造を有する。言い換えれば、外面の残領域は、固定領域よりも相対的に低い加工度であってよい。幾つかの態様において、固定領域は加工されており、隣接面、例えば、固定領域で定義されない面は実質的により加工度が低いか、または比較的に滑らかである。
【0014】
プロテーゼは、このような微細構造、粗さまたは光沢を有していない他の同様の面と比較して、固定領域で増強された組織内殖または接着を促進するために構造化され得る。
【0015】
本発明の一態様において、体内に移植後、プロテーゼが人体と共により自然に動くように、例えば身体の筋肉と比較的調和して動くように、固定領域は配置および/または構成される。インプラントが人体と共により自然に動くため、このインプラントは、従来のインプラント、例えば、このような固定領域を有さないインプラントと比較して、材料応力により磨耗する傾向を低くし得ると考えられる。さらに、本発明のインプラントは、より自然に身体と共に動くという点で、患者にとってより快適だろうと考えられる。
【0016】
本発明のより詳細な態様において、固定領域はシェルの前面(インプラントが適切に人体に移植された場合、人体の正面に面するシェルの表面)の特定の領域に設けてよい。その代わりに、または、それに加えて、1つ以上の分離した固定面をシェルの周囲(例えば円周に)および/またはシェルの後面(インプラントが人体に移植された場合に人体の背面に面するシェルの表面)に設けてよい。
【0017】
本発明のより具体的な態様において、固定領域はシェルの前面に位置する少なくとも1つの細長い領域を含む。少なくとも1つの細長い領域は、例えば、1つの帯状領域であるか、あるいは増強された微細構造、粗さまたは光沢を有する複数の帯状領域であってよい。
【0018】
インプラントを体内に移植する場合、細長い固定領域を、人体の大胸筋群または小胸筋群の1つと並ぶように配置し得る。例えば、本発明の一態様において、少なくとも1つの細長い領域は、インプラントが体内に移植された際に大胸筋群と並ぶように、対角線上に配置された帯状領域を含む。別の態様において、少なくとも1つの固定領域は、インプラントが体内に移植される小胸筋群の位置決めを概してまねた放射状配置における、複数の細長い領域を含む。
【0019】
本発明の別の広い態様において、プロテーゼは、第1テクスチャーを有する固定領域ならびに第1テクスチャーと異なる第2テクスチャーを有するシェル表面の残領域を含有するシェルを有する乳房インプラントを含む。言い換えれば、本発明の幾つかの態様において、乳房インプラントシェルの全外側または実質的に全外側は、加工された表面の残りの部分と比較してより高い微細構造加工度を有する特定領域を備えた加工表面である。
【0020】
このような異なる微細構造化は、異なる固定領域で、組織内殖または接着を異なる度合いで刺激または促進すると考えられる。例えば、一態様において、第1固定領域はインプラントの後面に位置し、第2固定領域はインプラントの前面に位置する。第1固定領域は、組織相互作用および接着をより促す微細構造により定義され得、一方、第2固定領域は、組織相互作用および接着を相対的により促さない微細構造により定義され得る。
【0021】
本発明のさらに別の態様において、プロテーゼは組織と接着するために構造化された外面を有するシェルを含み、このシェルは、第1オープンセル構造を有する第1固定面、ならびに第1オープンセル構造と異なる第2オープンセル構造を有する第2固定面を含有する。その上、第1固定面および第2固定面は、身体とシェルの接触面において、体内でそれぞれ異なる度合いの組織内殖または組織接着を促進するよう配置される。
【0022】
例えば、第1オープンセル構造は比較的に大きなオープンセルを含み、第2オープンセル構造は比較的により小さいオープンセルを含む。その代わりに、または、それに加えて第1オープンセル構造は第1セル分布を含んでよく、第2オープンセル構造は第2セル分布を含む(ここで、第1セル分布は第2セル分布よりも相対的により高密度である)。
【0023】
本発明のさらに別の具体的な態様において、第1オープンセル構造は相対的に大きな円形のオープンセルを含み、第2オープンセル構造は相対的に小さな円形のオープンセルを含む。あるいは、第1オープンセル構造は相対的に円形のオープンセルを含み、第2オープンセル構造は相対的に角張ったオープンセルを含む。
【0024】
有利には、特定の態様によれば、プロテーゼを体内に移植した後に、プロテーゼについて、被膜組織形成を中断または阻止するのに少なくともいくらかは効果的であるように、第1および第2固定面を配置および構造化する。
【0025】
さらに、本発明は、シェル前駆体を供給し、シリコーンエラストマー層をシェル前駆体に適用し、層が完全に硬化する前に、第1構造固体粒子をシリコーンエラストマー層の一部分に適用し、第2構造固体粒子をシリコーンエラストマー層の別の部分に適用する工程により製造される、人に移植するための乳房プロテーゼシェルを提供する。中に埋め込まれた固体粒子を含む層を硬化させた後、次いで、例えばいずれの感知され得る量のシリコーンエラストマーも溶解しない溶媒を用いて固体粒子を溶解させる。得られたエラストマーシェルは、上記の第1構造固体粒子の適用によって形成された第1オープンセルテクスチャー領域ならびに上記の第2構造固体粒子の適用によって形成された第2オープンセルテクスチャー領域を含有する。
【0026】
本発明のさらに別の態様において、人の乳房を豊胸または再建する方法を提供する。本方法は、本明細書の他の部分に記載するように、通常、少なくとも1つの細長い固定領域を含有する埋め込み部分を調製すること、および、固定領域が大胸筋群および小胸筋群の1つと通常並ぶように埋め込み部分を人の乳房に移植することを含む。本方法はさらに、移植工程の前または後に埋め込み部分を液体またはゲルで充填することを含んでよい。
【0027】
以下の記載および特許請求の範囲で、特に各参照番号が各部分を示す添付図面と合わせて考察する場合に、本発明の特徴および効果のさらなる理解はなされる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
明細書、特許請求の範囲および添付図面を参照することにより、本発明の特徴および効果は正しく認識され、またより理解されるであろう。図は以下のとおりである。
図1図1A−1Bは、それぞれ、本発明の典型的な円形乳房インプラントの正面図および側面図である。
図2図2A−2Bは、それぞれ、本発明の典型的な成形乳房インプラントの正面図および側面図である。
図3図3Aおよび3Bは、それぞれ、大胸筋群および小胸筋群の配置を示す女性の上胴の概略図である。
図4図4Aおよび4Bは、それぞれ、乳房インプラントの乳腺下配置(subglandular placement)および胸筋下配置(submuscular placement)を示す、女性の乳房および隣接胸部組織を通る垂直断面図である。
図5図5A−5Bは、一般に細長いまたは帯状の固定面を有する本発明の典型的な円形乳房インプラントの正面図および側面図である。
図6図6A−6Bは、一般に細長いまたは帯状の固定面を有する本発明の典型的な成形乳房インプラントの正面図および側面図である。
図7図7は、第1テクスチャーを有する第1固定領域および第1テクスチャーと異なる第2テクスチャーを有する第2固定領域を含む本発明による別の乳房インプラントの正面図である。
図8図8Aおよび8Bは、互いに異なる前面テクスチャーおよび後面テクスチャーを有する、本発明の典型的な円形乳房インプラントの正面図および背面図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明は、外面部に固定面を備えた、生理食塩水またはゲル充填軟質インプラントシェル、好ましくはシリコーンエラストマーシェルを提供する。このような軟質インプラントの第1の用途は、女性の乳房を豊胸または再建することである。別の潜在的用途は、他の部分の中で、臀部、睾丸またはふくらはぎ用のインプラントである。
【0030】
本明細書で用いられる用語「固定面」または「固定領域」は、身体/インプラントの接触面で組織内殖または接着を促進するように配置、構造化または構成されたインプラントの外面の領域または一部を指す。例えば、固定領域は、固定領域と同程度まで組織内殖または接着を促進しないインプラントの隣接表面と異なる微細構造、粗さまたは光沢であってよい(例えばより顕著であってよい)。例えば、インプラント外部の別の領域または表面は、固定領域と比較して相対的に滑らかであってよく、またはより低い加工度であってよい。
【0031】
このような固定領域は、任意の適当な方法によって成形でき、例えば限定するものではないが米国特許第5,007,929に記載されるような塩除去処理を適宜変化させて形成し得る。あるいは、加工された構成要素、例えば別の「滑らかな」または低い加工度のインプラントの外側に接着した加工されたパッチまたはフィルムを分離することによって固定面を形成してもよい。さらに、分離した固定領域を形成するための別の方法は、インプラント成形に使用される型の相対的に粗い面部分を用いてもよい。本固定領域を形成するための別の方法は、成形後にインプラント外面を微細構造化することを含む。本発明は、1つ以上のこれらの方法による特定の利点があり得るが、微細構造または固定面のいかなる特定の型にも限定して理解されるべきでない。
【0032】
次に、図を検討すると、図1Aおよび1Bは、本発明の典型的な円形乳房インプラント20の正面図および側面図である。通常、インプラント20は、相対的に滑らかな前面21、加工された後面22、および前面21と後面22の間に位置する加工された周囲領域24によって定義される外面を含む。相対的に滑らかな前面は、相対的により加工されていない表面(後面22のテクスチャーと比較して)、例えば、微細な加工表面または均一な艶消し仕上げであってよい。幾つかの態様において、インプラント20は、相対的に滑らかな後面、加工された前面および加工されたまたは滑らかな周囲領域を有する。固定面22、24自体が、異なる程度の微細構造を有してもよい。直径Dおよびインプラントの前−後面厚Tが示されており、これらは患者の胸部サイズおよび美的考慮にしたがって変化する。
【0033】
示される態様において、後方固定面22は頂端26またはインプラント20の凸状の外周の母線まで延びている。周囲固定面24は、前面または正面21上に、前方に短い距離Sで続く。幾つかの態様において、距離Sは厚さTの約10%〜約30%である。幾つかの態様において、周囲固定面24は、インプラント20が軸対称であるように、インプラント20の実質的に全周囲に広がる。別の態様において、周囲固定面24は、インプラントの周囲部分にのみ広がるように短縮されてよく(例えば下半分または上半分)、あるいは周囲固定面を相隔たる部分に分割してよい。幾つかの態様において、周囲固定面24は、交互に滑らかな部位と加工部位を生じる実質的に均等間隔で配置された部分を含む。
【0034】
図2A−2Bは、自然な乳房を模した下位正面ローブ32を有する、本発明の典型的な成形乳房インプラント30を図示する。インプラント20と同様に、インプラント30は後方固定面34および周囲固定面36を含む。インプラントの幅W、高さH、ならびに前−後面厚Tを示す。正面突出部が円形の場合、W=Hであり、そうでなければWは、Hより大きいか、H未満であってよい。自然な形を提供する場合、インプラント30は適切な方向性を有し、すなわち下方中心に下位ローブ32を有する。それにより、周囲固定面36はインプラント周囲を完全に囲んで広がっていてよく、あるいは、分離した部位に形成されていてもよく、インプラントの自然な形に対して配置されていてもよい。例えば、周囲固定面36を、インプラントの下部または下半分の周囲にのみ形成してもよく、あるいは、側面にのみ形成してよい。
【0035】
図3Aは、大胸筋群の配置および並びを概略的に示す片方の女性の上胴を図示し、一方、図3Bは小胸筋群の配置および並びを図示する。これら2つの筋群は、互いに重なり、通常、肩または鎖骨領域から乳房下の胸郭まで広がる。本発明の一態様は、インプラントが体内に挿入される際にこれらの筋群と実質的に並ぶ、本明細書の他の部分に記載するような固定面を含むインプラントを提供することである。
【0036】
いずれの特定の作用理論によっても縛られるものではないが、インプラントと主な胸部筋肉の接触領域または接触ラインは、筋肉に接していないインプラントの他の部位よりも、より大きな動きを受ける。本発明者らは、これらの筋群の1つ以上と実質的に一致する、あるいは、実質的に一直線上の配置であるインプラントの固定領域を与えることにより、より固定された状態を保ちやすい(すなわち、それらは筋肉と共に動く)と考える。その上、このような分離した固定領域は、被膜形成を中断および/または被膜拘縮の可能性を低減する利点を与え得ると考えられる。
【0037】
図4Aは、乳房インプラント40の乳腺下配置を示す、女性の乳房および隣接胸部組織を通る垂直断面図である。インプラント40は大胸筋群42の上面に配置され、同様に小胸筋群44を覆う。複数の肋骨50を示す胸壁48も、小胸筋44の下に示される。図4Bは、図4Aのような垂直断面図であるが、大胸筋群42下のインプラント40の胸筋下配置を示す。主に外科医の臨床的判断によって、これら2つのインプラント配置の両方が用いられ、患者と外科医間の対話ならびに所望する結果により影響される場合もある。インプラント配置によって、インプラント40は1つまたは両方の筋群と接触し得る。本発明の幾つかの態様において、インプラントは、明細書に記載し図示するような実質的に細長い固定領域を含み、この固定領域はインプラントが体内に挿入された際にインプラントと接する適当な筋群と実質的に一直線上にある。
【0038】
例えば、図5A−5Bは、後面62、周囲領域64、ならびに細長いまたは帯状固定領域66を含む前面を有する、本発明の典型的な円形乳房インプラント60の正面図および側面図である。帯状固定領域66は通常、対角線方向に沿って広がり、周囲固定面64の正面の縁で始まる。図示する態様、固定領域66は、図5Aの正面図からわかるように実質的に一定の幅Wを有する。一態様において、幅Wは約1mm〜約20mmであり、例えば約2mm〜約15mmである。あるいは、図示していないが、固定領域66は定幅以外の配置を有してもよい。
【0039】
一態様において、インプラントを乳房に移植する際、帯状固定面66は、通常、大胸筋群または小胸筋群のいずれかにより配向されるか並べられる。例えば、インプラント60が図4Bのような胸筋下配置をとる予定であれば、固定面66は、図3Aに見られるように、通常、大胸筋群と並ぶように配向させてよい。あるいは、挿入面66が配向される角度は、大胸筋群および小胸筋群での平均角度の概算であってよい。このようにして、インプラント60は、インプラントの主な応力ラインに沿って組織内殖または接着を促進するための固定面66を有する。好ましくは、固定面66はインプラント60を通る垂直面に対して約30〜60°の角度になっている。もちろん、インプラント60が図のように円形ならば、固定面66自体がその配置を定める。一態様において、帯状固定面66はインプラント60のほぼ中心に集中し、したがって、約180°離れた2つの対称的な配置を作る。この配置は、外科医にとって、2つの可能な配置を提供することにより、移植を容易にする。
【0040】
帯状固定領域66は、実質的にインプラントの前面を横切って広がっていてよく、前面の残領域と異なる微細構造によって定義され得る。固定領域66は、後方固定面62または周囲表面64と異なる、例えばよりはっきりとしたまたはより強い微細構造を有してもよい。
【0041】
図6A−6Bは、本発明の別の典型的な成形乳房インプラント70を図示する。インプラント70は、あらためて、後方固定面72、周囲固定面74、ならびに複数の分離した帯状固定面76a、76b、76cを特徴とする。これらの分離した固定面76a、76b、76cは1つ以上の前記筋群と並ぶように配置または構成される。例えば、3つの固定面76a、76b、76cは、通常、扇形の小胸筋群に対して配置され得る。成形インプラント70は配置特異的であるため、インプラントの適切な配置は、固定面76a、76b、76cを特定の筋群により正しい位置に配置させる。前述のように、種々の固定面72、74、76a、76b、ならびに76cは、同等程度の粗さで形成されてよく、あるいは、いくつかは、例えば艶消し仕上げによるように、よりざらつきがなくてもよい。例えば、後方および周囲固定面72、74は、微細な艶消し仕上げを有してよく、一方、正面固定面76a、76b、76cはより密に加工される。本発明は、微細構造選択の全ての置き換えを意図する。
【0042】
横断面において、本発明の加工インプラントシェルは、単層または多層であってよい。加工されたインプラントシェル壁の全厚は、追加される微細構造層のため、同様の滑らかな壁のシェルよりも幾分厚くなり得る。
【0043】
図7を検討すると、本発明の別の乳房インプラントの前面(正面)図を、概して110で示す。インプラント110は、第1テクスチャー116を有する第1固定領域114および第1テクスチャー116とは異なる第2テクスチャー122を有する第2固定領域118を含む外面を有するシェル112を含有する。示された態様において、第1テクスチャー116は第2テクスチャー122より「強い(aggressive)」微細構造である。第1テクスチャー116は、第2テクスチャー122よりも高い組織相互作用を促進するために構造化される。
【0044】
第2テクスチャー122の代わりに、第2固定領域118、ならびに、ことによるとシェル112の外面の全ての残領域が、低光沢面、例えば艶消し仕上げであってよいと考えられる。
【0045】
図8Aおよび8Bを検討すると、本発明による別の乳房インプラントの前面(正面)および後面(背面)図を、それぞれ、概して210で示す。インプラント210は、前面212aおよび後面212bを有し、第1テクスチャー216を有する第1固定領域214および第1テクスチャー216とは異なる第2テクスチャー222を有する第2固定領域218を含む、シェル212を含む。図示された態様において、第1テクスチャー216は、インプラント210の前面212a全体を、または実質的に全体を包含してよい。第1テクスチャー216は、第2テクスチャー222のものよりも相対的に低密度の細孔、隙間または空洞の第1分布により定義される。インプラント210の後面221b全体または実質的に全体を包含し得る第2テクスチャー222は、第1テクスチャー216よりも高い組織相互作用および接着度を促進するために構造化されてよい。
【0046】
シェル112および212は、シェル前駆体を与え、シリコーンエラストマー層をシェル前駆体に適用し、層が完全に硬化する前に第1構造固体粒子をシリコーンエラストマー層の一部に適用し、第2構造固体粒子をシリコーンエラストマー層の別の部分に適用する工程を含む本発明の方法により生産し得る。中に埋め込まれた固体粒子を含む層が硬化した後、次いで、例えばいずれの感知され得る量のシリコーンエラストマーも溶解しない溶媒を用いて固体粒子を溶解させる。得られたエラストマーシェルは、上記の第1構造固体粒子の適用により形成された第1オープンセルテクスチャー領域および上記の第2構造固体粒子の適用により形成された第2オープンセルテクスチャー領域を含む。
【0047】
移植型プロテーゼ用の柔軟なインプラントシェルを形成するための1つの方法は、適当な成形マンドレルをシリコーンエラストマー分散体中に浸すことを含む。多くのこのような分散体はこの分野において使用されている。基本的に、それらはシリコーンエラストマーおよび溶媒を含む。シリコーンエラストマーは、一般的に、ポリジメチルシロキサン、ポリジフェニル−シロキサンまたはこれら2つのいくつかの組合せである。典型的な溶媒は、キシレンまたは1,1,1−トリクロロエタンを含む。様々な製造者が、分散体中の成分の種類と量、分散体の粘度および分散体の固形分を変えている。それにもかかわらず、本発明は多種多様なシリコーンゴム分散体で有用性を有するよう適応できると期待される。
【0048】
マンドレルを分散体から取り出し、過剰のシリコーンエラストマー分散体をマンドレルから排出させる。過剰の分散体をマンドレルから排出した後、溶媒の少なくとも一部を揮発または気化させる。通常これは、制御された温度下および湿度下で被覆したマンドレルに空気を流すことにより成し遂げられる。様々な製造者が、種々の気流の量、流速または方向を用い、種々の値で空気の温度と湿度を設定する。しかしながら、所望する結果(溶媒を除去すること)は依然同じである。
【0049】
また、所望するシェル厚にするために、複数の層をマンドレル上に構築するために何度もこの浸漬と揮発手順を繰り返すことは、プロテーゼ製造者にとって一般的である。最新のシリコーンエラストマーシェルのような層状構造は、異なる分散体にマンドレルを連続的に浸すことにより製造し得る。あるいは、最終製品が単一の均質材料または層となるように、この工程を単独の分散体で繰り返してもよい。すなわち、浸漬工程は多段階または多工程(さらなる物質を添加する各工程)で行われ得るが、最終製品は区別のない層を示し、全てのシェル壁は均質組成または均一組成である。
【0050】
多層シェルまたは単層シェル上のいずれかに固定面を形成する典型的な方法を以下に記載する。マンドレルに付着した最終層となるべき層と共にマンドレルを分散体から引き上げ出した後、この層を安定化させる。すなわち、安定化は最終コーティングがもはや自由に動かなくなるまで行われる。これは、最終コーティングからいくらかの溶媒がその粘度を上昇させながら揮発する時起こる。
【0051】
さらに、微細構造化工程の前に柔軟なシェルを形成するために別の方法が考えられることを理解されたい。浸漬成形工程は、浸漬マンドレルにあらかじめ備えられた軟質シェルを有利にもたらし、その後微細構造化工程に使用できる。しかしながら、軟質シェルが別の技法、例えば回転成形によって製造される場合、その後軟質シェルを浸漬マンドレルに装着し、同様に工程を続けることができる。
【0052】
軟質シェルが安定化され、マンドレルに装着された時点で、いずれの緩い繊維または粒子もシェルの外面から、例えば帯電防止エアガンで除去される。タックコート層が次いで塗布される。タックコート層は噴霧してもよいが、望ましくは、マンドレル上の軟質シェルをタックコート分散体中に浸すことによって塗布する。操作者は、軟質シェルを分散体中に浸し、マンドレルを安定化用の台に戻す。安定化に必要な時間は、通常、5〜20分の間で変化する。適当なタックコート層は、望ましくは、ベース層で用いるものと同一物質を用いて作られる。
【0053】
この時点で、粒状の固体粒子(すなわち食塩結晶)が最終的に固定面となる外面の一部に塗布される。この固体粒子は、マンドレルを操作しながら表面に固体粒子を撒いて手作業で塗布してもよく、あるいは、適度な速度で絶え間なく固体粒子をマンドレル上のコーティングに提供するためにビーズブラストまたはサンドブラストのような機械操作を用いることもできる。しかしながら、固体粒子塗布の好ましい方法は、マンドレル/シェルを多数の固体粒子中につけるか、マンドレル/シェルを固体粒子の懸濁液にさらすかである。本発明は粒子適用のいずれの特定の方法にも限定すべきものではないことを理解されたい。シェルの全てでなく、一部に固体粒子を適用するための1つの可能な方法は、粒子が塗布されるべきでないシェルの部位を覆い隠し、その後、覆われていない部位に粒子を適用する方法である。
【0054】
粘着性の軟質シェルを、次いで、約10〜約600ミクロンの均一な立方晶系食塩結晶または約50〜2000ミクロンの円形結晶あるいはそれらの組合せを含む流動(空気混合)水性塩浴に浸し得る。シェルの異なる部位で、異なる大きさまたは形状の食塩粒子(例えば、円形食塩結晶に対して角状食塩結晶、大きい食塩結晶に対して相対的に小さい食塩結晶、食塩結晶の高密度分布に対して相対的に食塩結晶の低密度分布)を用いることにより、食塩除去工程でさまざまな加工度が形成され得る。シェルを、均一被覆のために回転させ、取り出し、次いで安定化させる。適当な時間(例えば約5〜20分間)安定化した後、軟質シェルを上塗り分散体中に浸漬させてよい。適当な上塗り分散体は、ベース層で用いられたものと同一物質を用いて作ってよい。マンドレル上の軟質シェルを、次いで台の上に備え付け、例えば約15分揮発させる。
【0055】
全シリコーンエラストマーシェル構造を、炉内で高温にて加硫処理または硬化される。炉の温度は、好ましくは約20分〜約1時間40分間の硬化時間に対して、好ましくは約華氏200度〜約華氏350度に維持される。炉から取り除き、マンドレル/シェルアセンブリを固体粒子に対する溶媒中に入れ、固体粒子を溶解させる。この溶媒は、シリコーンエラストマーの構造または品質に影響を与えない。固体粒子が溶解したら、アセンブリを溶媒から取り出し、溶媒を蒸発させる。次いで、シェルをマンドレルからはがすことができる。この時点で、全ての固体粒子の完全な溶解を確実にするために、シェルを固体粒子の溶媒中に設置し、静かに攪拌するのが好ましい。シェルを溶媒から取り出す際、溶媒を蒸発させる。
【0056】
固体粒子の溶解は、食塩があったシェルの表面に、開口し相互に連結した空洞を残す。
【0057】
上記の工程にしたがってシェルを仕上げた後、完成した乳房インプラントプロテーゼを作るのに必要な工程は、この技術分野で既知のものと同様であってよい。例えば、浸漬成形方法により残る裂け目は、通常シリコーンゴム製の未硬化シートで修繕される。その後、プロテーゼがシリコーンゲルで充填される場合、このゲルを添加し硬化させ、充填されたプロテーゼを包装し、そして包装したプロテーゼを滅菌する。プロテーゼを生理食塩水で膨らませる場合は、一方向弁を取り付けおよび組み込み、必要であればプロテーゼを後硬化させ、その後プロテーゼを洗浄し、包装し、滅菌する。ゲルで満たされた嚢が生理食塩水で囲まれるようにシェル内部に配置される、複合乳房インプラントプロテーゼを作ることもできる。
【0058】
上記の浸漬法に加えて、人工装具インプラント用の軟質シェルは、成形法を用いて形成してよい。例えば、Schuesslerによる米国特許第6,602,452号(その開示全体を本願明細書に組み込むものとする)に記載された回転成形法を用いてよい。外面へ微細構造を形成するための方法は、シェルを成形した後で浸漬法を用いて行ってよいが、別の方法は型の中で粗雑化することである。例えば、上記のような粗い部位を除けば概して滑らかな内部表面を有する型は、分離した固定面を有するインプラントシェルを生成する。インプラントシェル全体を比較的少ない製造工程で成形できるため、回転成形法が有利である。
【0059】
本発明をある程度詳細に記載および図示したが、本開示は例示に過ぎず、当業者によって、以下の請求項の本発明の範囲から逸脱することなく、組み合せおよび部位の配置における多数の変更を用いることができることを理解されたい。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8