(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
航空機の車輪の外周部分を構成するタイヤ本体の側面に飛行風圧を受ける突起を設け、該突起が受ける飛行風圧の作用により、着地前の車輪を、着地滑走時の車輪の回転方向と同一方向に予め回転させるようにした航空機用タイヤにおいて、
前記突起を中空状とし、該中空状の突起の内部に錘を組み込み、車輪の回転運動に伴って錘に作用する遠心力を利用して前記突起を変形させてその突起が受ける飛行風圧の受圧面積を変化させることにより、着地前の車輪の回転速度を、着地時の飛行速度に見合う車輪の回転速度に近づけるようにしたことを特徴とする航空機用タイヤ。
【背景技術】
【0002】
例えば超大型旅客機であるエアバスA380では、重量が560トンにもなり、その巨体を前脚2本、主脚20本の合計22本のタイヤで支えなければならない。このような航空機で使用されるタイヤは、その内圧が乗用車用タイヤの6倍以上であり、タイヤ自体の材質や表面構造の改良を加えるなどの手段が講じられている。
【0003】
ところで、航空機の着陸工程において、着地前の時点では航空機の車輪は停止しているため、車輪の回転速度が、着地時の飛行速度(例えば250km/h程度)に見合う回転速度(以下、「目標回転速度V
A」と称する。)と同一になるまでは、滑走路とタイヤとの間に大きな加圧摩擦が発生し、タイヤは相当の高温に加熱された状態で滑走路に接地するため、タイヤゴムの焦げ付き跡が滑走路に残るほどタイヤが摩耗するという問題があった。
【0004】
このような問題を解決し得るものとして、タイヤ本体の側面に飛行風圧を受ける複数枚の弯曲羽根を配設し、該弯曲羽根が受ける飛行風圧の作用により、着地前の航空機の車輪を、着地滑走時の車輪の回転方向と同一方向に予め回転させるようにした技術が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、前述のような問題点に鑑みてなされたもので、着陸時のタイヤゴムの摩耗を抑えることができるとともに、着地時に航空機を加速または減速させるようなショックを抑えることができる航空機用タイヤを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するために、本発明による航空機用タイヤは、
航空機の車輪の外周部分を構成するタイヤ本体の側面に飛行風圧を受ける突起を設け、該突起が受ける飛行風圧の作用により、着地前の車輪を、着地滑走時の車輪の回転方向と同一方向に予め回転させるようにした航空機用タイヤにおいて、
前記突起を中空状とし、該中空状の突起の内部に錘を組み込み、車輪の回転運動に伴って錘に作用する遠心力を利用して前記突起を変形させてその突起が受ける飛行風圧の受圧面積を変化させることにより、着地前の車輪の回転速度を、着地時の飛行速度に見合う車輪の回転速度に近づけるようにしたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の航空機用タイヤによれば、タイヤ本体の側面に設けられた突起が受ける飛行風圧の作用によって着地前の車輪が着地滑走時の車輪の回転方向と同一方向に予め回転されるので、航空機の着陸時における滑走路とタイヤとの間の加圧摩擦を大幅に低減することができ、着陸時のタイヤゴムの摩耗を抑えることができる。
また、タイヤ本体の側面に設けられた突起が中空状とされ、該中空状の突起の内部に錘が組み込まれ、車輪の回転運動に伴って錘に作用する遠心力を利用して突起を変形させてその突起が受ける飛行風圧の受圧面積を変化させることによって、着地前の車輪の回転速度が、着地時の飛行速度に見合う車輪の回転速度に近づけられるので、両者の回転速度差を減じることができ、着地時に航空機を加速または減速させるようなショックを抑えることができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
次に、本発明による航空機用タイヤの具体的な実施の形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0013】
<航空機の車輪の説明>
図1(a)〜(c)に示される航空機の車輪1は、ホイール2に航空機用タイヤ3が装着されて構成され、図中記号A矢印で示される航空機の飛行方向に対し、着地滑走時に図中記号R矢印方向に回転運動するものである。
【0014】
<航空機用タイヤの説明>
航空機用タイヤ3は、車輪1の外周部分を構成するタイヤ本体4を備え、このタイヤ本体4の側面に飛行風圧(
図1(b)中記号P矢印)を受ける複数の突起5がタイヤ本体4と一体成形で円周方向に所定ピッチで配設されてなり、突起5が受ける飛行風圧の作用により、着地前の車輪1を、着地滑走時の車輪1の回転方向(R矢印方向)と同一方向に予め回転させることができるようになっている。
【0015】
<突起の説明>
突起5は、車輪1の回転方向に対して後行する基端側に飛行風圧を受け止める半円状の風圧受け面部10を有している。
突起5において、風圧受け面部10から先端側の部分は、車輪1の回転方向に進むに従って先細るように幅が狭まるとともにタイヤ本体4の側面からの突出高さが低くなるような流線形状に形成されている。このように流線形状とすることにより、乱流が発生せず、異音の発生を未然に防ぐことができる。なお、流線形状部分の長さは、本例に示したものと比較して、長くしたり、短くしたりするなど、適宜に設定することができる。
【0016】
図2に示されるように、突起5において、風圧受け面部10から車輪1の回転方向に向かって中間位置に至る部分の内部には、タイヤ本体4の径方向およびタイヤ本体4の側面からの突出高さ方向のそれぞれに所要の広がりを有する略半円柱状空間よりなる中空部11が形成されている。
また、突起5における車輪1の回転方向に向かって先端部寄りの部位には、切込12が形成され、この切込12と中空部11とを繋ぐように錘挿入路13が形成されている。
【0017】
<錘の説明>
中空部11内には、両端部が半球状で中間部が円柱状の全体としてカプセル形状とされた鉄製の錘15が、切込12から錘挿入路13を通して組み込まれている。
ここで、錘挿入路13は、通常、突起5の弾性復元力によって閉じられる、あるいは錘15が通過不可な程細く絞られた状態とされており、錘15の先端部を切込12に押し付けてその切込12を押し広げ、突起5の弾性復元力に抗して錘15を切込12から錘挿入路13へと押し込み、錘挿入路13を押し広げながら錘15を更に奥へと押し進めていき、遂には中空部11内に錘15を入れることができる。そして、一旦、錘15が中空部11内に入ると、突起5の弾性復元力によって錘挿入路13が閉じられる、あるいは錘15が通過不可な程細く絞られるので、錘15が中空部11から外に出ることがない。
【0018】
<着陸時の車輪の回転運動の説明>
図1(a)〜(c)に示される車輪1を着陸工程において機外に張り出すと、
図1(b)に示されるように、突起5の風圧受け面部10が受ける飛行風圧(図中記号P矢印)の作用により、着地前の車輪1が、着地滑走時の車輪1の回転方向(図中R矢印方向)と同一方向に回転される。
【0019】
<飛行風圧の受圧面積の変化の説明>
着地前の車輪1の実際の回転速度V(以下、「実回転速度V」と称する。)が、着地時の飛行速度(例えば250km/h程度)に見合う回転速度V
A(以下、「目標回転速度V
A」と称する。)に達する前のある速度域までは、
図3(a)に示されるように、突起5の中空部11に対する錘15の位置が、車輪中心から半径r
1で示される径方向内側寄りの位置にある。また、突起5の突出高さHは、初期高さH
0であり、風圧受け面部10の受圧面積Sは初期面積S
0である。
【0020】
風圧受け面部10が受ける飛行風圧の作用で車輪1が増速するに伴い錘15に働く遠心力が増して、錘15が径方向外側へと移動し、実回転速度Vが目標回転速度V
Aに達すると、
図3(b)に示されるように、中空部11に対する錘15の車輪中心からの位置が、半径r
2で示される径方向外側寄りの位置まで移動する。このときの突起5の突出高さHは、初期高さH
0のままであり、風圧受け面部10の受圧面積Sも初期面積S
0のままである。
【0021】
実回転速度Vが目標回転速度V
AからV
Bを経てV
Cに達するまで増速すると、
図3(c)〜(d)に示されるように、中空部11に対する錘15の車輪中心からの位置が、半径r
2からr
3を経てr
4で示される径方向位置まで移動する。これにより、中空部11が錘15によって径方向外側へと押され、これに伴い、中空部11が押し潰されるように突起5が弾性変形されて、突起5の突出高さHが初期高さH
0からH
1を経てH
2にまで低められ、風圧受け面部10の受圧面積Sも初期面積S
0からS
1を経てS
2にまで減じられる。
【0022】
<作用効果の説明>
本実施形態の航空機用タイヤ3によれば、タイヤ本体4の側面に設けられた突起5が受ける飛行風圧の作用によって着地前の車輪1が着地滑走時の車輪1の回転方向と同一方向に予め回転されるので、航空機の着陸時における滑走路とタイヤとの間の加圧摩擦を大幅に低減することができ、着陸時のタイヤゴムの摩耗を抑えることができる。
【0023】
また、車輪1の実回転速度Vが目標回転速度V
Aに達する前においては、風圧受け面部10が受ける飛行風圧の受圧面積Sが初期面積S
0とされ、該飛行風圧の作用によって着地前の車輪1が目標回転速度V
Aに向けて増速される。
車輪1の実回転速度VがV
Aを超えてV
B,V
Cへと増速されると、風圧受け面部10が受ける飛行風圧の受圧面積Sが初期面積S
0からS
1,S
2へと減じられ、これに伴って車輪1の増速作用が減じられ、車輪1の機械的な摩擦抵抗等により、実回転速度Vが目標回転速度V
Aに向けて減速される。
かかる減速作用によって実回転速度Vが目標回転速度V
Aよりも下回れば、錘15に作用する遠心力が減じられて突起5が変形状態から元の形状に戻り、風圧受け面部10の受圧面積Sが初期面積S
0に復帰した状態で再度飛行風圧による増速作用を受けるので、再び車輪1が目標回転速度V
Aに向けて増速される。
このように、車輪1が目標回転速度V
Aを挟んで増速と減速を繰り返しながら着地時の飛行速度に見合う回転速度(目標回転速度V
A)に近づけられるので、実回転速度Vと目標回転速度V
Aとの回転速度差(V−V
A)を減じることができ、着地時に航空機を加速または減速させるようなショックを抑えることができる。
【0024】
以上、本発明の航空機用タイヤについて、一実施形態に基づいて説明したが、本発明は上記実施形態に記載した構成に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において適宜その構成を変更することができるものである。
【0025】
例えば、上記実施形態においては、中空部11内に組み込まれる錘15が一塊の固形状物としたが、これに限定されるものではなく、液体状、ゲル状あるいは粉粒状の錘(図示省略)を突起5の中空部11内に組み込むようにしてもよい。
【0026】
上記実施形態においては、風圧受け面部10の形状として半円状のものを例示したが、これに限定されるものではなく、
図4(b)に示されるように、三角形状や、
図4(c)に示されるように、四角形状(台形状)など、飛行風圧を受けることができれば任意の形状を採用することができる。
【0027】
上記実施形態においては、風圧受け面部10が、飛行風圧に対して垂直面をなすようにタイヤ本体4の側面から直角に起立された平面状のものである例を示したが、
図4(a)、(b)および(c)に示されるように、飛行風圧をより効果的に受け止めることができるように、風圧受け面部10を、車輪1の回転方向に向かって弯曲させてもよく、これに加えて、
図4(d)、(e)および(f)に示されるように、飛行風流れを良くするために、車輪1の回転方向に向かって斜めに傾ける、つまりタイヤ本体4の側面に対して鈍角を成すように傾斜させてもよい。
【0028】
上記実施形態においては、流線形状の突起を採用した例を示したが、これに限定されるものではなく、四角柱状(
図4(g)参照)、三角柱状(
図4(h)参照)、半球または半楕円球状(
図4(i)参照)、蒲鉾状(
図4(j)参照)、三角板状(
図4(k)参照)のブロック型の突起を採用することもできる。この場合、例えば、
図4(i)に示される突起5Iを代表例として説明すると、車輪1の回転方向下流側の図中記号D矢印で示される部分で気流が渦を巻くことによって車輪1の回転速度Vが目標回転速度V
Aにより速く到達することができる。
なお、
図4(g)〜(k)に示されるように、かかるブロック型の突起5G〜5Kにおいても、風圧受け面部10を、車輪1の回転方向に向かって弯曲させ、かつタイヤ本体4の側面に対して鈍角を成すように傾斜させるようにしてもよい。
【解決手段】航空機の車輪1の外周部分を構成するタイヤ本体4の側面に飛行風圧を受ける突起5を設け、該突起5が受ける飛行風圧の作用により、着地前の車輪1を、着地滑走時の車輪1の回転方向と同一方向に予め回転させるようにした航空機用タイヤ3において、突起5に形成された中空部11の内部に錘15を組み込み、車輪1の回転運動に伴って錘15に作用する遠心力を利用して突起5を変形させてその突起5が受ける飛行風圧の受圧面積を変化させることにより、着地前の車輪1の回転速度を、着地時の飛行速度に見合う車輪の回転速度に近づけるようにする。