(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
掘削流体とは、ロータリー式掘削や老朽化した坑井の改修作業中に、坑井内を循環する流体であり、次のような役割を果たしている。
(1)坑底から掘削くずを地上へ排出する。
(2)坑井内の圧力を制御することにより、地層流体の噴出を防止する。
(3)薄くて強靭な泥壁を作って、坑壁を保護し、地層の崩壊を防ぐ。
(4)坑井用の機器を冷却し、潤滑性を与える。
(5)循環を停止しても掘削くずが泥水中に沈降しないように保持する。
【0003】
掘削流体は、水をベースにした水系掘削流体と、油をベースにした油系掘削流体とに大別され、一般には、水−ベントナイト懸濁液を主体としたベントナイト泥水に、坑井条件に合うように、分散剤、加重剤、ポリマー類、塩類、潤滑剤などの調整剤を加えた掘削泥水が使用される。
【0004】
ベントナイトは、モンモリロナイトと呼ばれる粘土鉱物を主成分とし、さらに、長石、石英などの鉱物を含有するものである。このようなベントナイトは、掘削流体の粘度を増大させて掘削くずを地上へ効率的に排出する役割を果たすとともに、掘削中に、坑壁の表面に泥壁を形成して、地層崩壊を防止する役割を果たしている。すなわち、通常、地層圧よりも坑井内の泥水の圧力の方が大きくなるようにしているため、掘削中は、坑井から地層の孔隙の中へ泥水の成分である粘土鉱物(ベントナイト)が侵入することで、坑壁の表面に泥壁を形成している。この泥壁は、掘削中に地層が崩壊することを防止するほか、ドリルストリングとの摩擦を小さくするなどの役割を果たしている。
【0005】
しかしながら、単に、水にベントナイトを加えただけの泥水は、崩壊防止能力が小さい、塩分・セメントに弱い、温度に不安定などの短所があるため、浅層の掘削程度にしか用いることができない。大規模工事、地中連続壁工事においても、上記(1)〜(5)の役割を果たすことができる掘削泥水を提供するために、各種調整剤を添加する必要がある。
【0006】
代表的添加剤としては、カリウムイオンをはじめとする塩類や、アクリレート系ポリマー、カルボキシメチルセルロース、ポリサッカロイド、ポリビニルアルコール(PVA)などのポリマーが挙げられる。
カリウムイオンは、モンモリロナイトに電気的に吸着され得る陽イオンの中でも、モンモリロナイトの膨潤抑制力に優れることが知られている。上記ポリマーは、ベントナイト泥水のセメント汚染に対する抵抗力を高めることができ、また掘削泥水の分散剤としての役割を果たすことで、掘削泥水の高粘性化を防止できることが知られている。
【0007】
上記ポリビニルアルコールとしては、例えば、特開昭57−23671号公報(特許文献1)では、アニオン変性PVAであるカルボン酸変性PVAを用いる例が開示されており、特開平08−85710号公報(特許文献2)では特定構造のスルホン酸変性PVAを用いる例が開示されている。また、US2007/0129258号公報(特許文献3)では、カチオン変性PVAを、シェール水和阻害剤(shale hydration inhibitor agent)とともに用いると、シェール(頁岩粘土)の水和膨潤を防止して掘削流体のレオロジー特性を調節できることが示されている。
【0008】
しかしながら、上記のようなアニオン変性PVA、カチオン変性PVAは、スルホン酸基、アンモニウム塩等の官能基部分が、掘削流体に含まれる他の添加剤と反応する場合がある。かかる場合、掘削流体に対するポリマー本来の役割を果たせないおそれがある。
【0009】
ポリビニルアルコールと他の添加剤との反応性を防止するという見地からは、ノニオン性のPVAが好ましいと考えられる。掘削流体に用いられる代表的なノニオン性PVAとしては、未変性PVA、又は特開2011−57769号公報(特許文献4)で提案されているようなオキシアルキレン変性PVAが挙げられる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、これらの内容に特定されるものではない。
【0019】
本発明の掘削流体調整剤は、下記一般式(1)で表される1,2−ジオール構造単位を有するノニオン変性ポリビニルアルコール(以下、「側鎖1,2−ジオール含有PVA」という)系樹脂(A)を含有する。
【0021】
(1)式中、R
1,R
2,およびR
3は、それぞれ独立して水素原子または炭素数1〜5のアルキル基を示し、Xは単結合または結合鎖を示し、R
4,R
5,及びR
6はそれぞれ独立して水素原子または炭素数1〜5のアルキル基を示す。
【0022】
前記炭素数1〜5のアルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基等が挙げられ、必要に応じて、ハロゲン基、水酸基、エステル基、カルボン酸基、スルホン酸基等の置換基を有していてもよいが、R
1〜R
6のすべてが水素原子であることが好ましい。
【0023】
前記結合鎖としては、アルキレン、アルケニレン、アルキニレン、フェニレン、ナフチレン等の炭化水素(これらの炭化水素はフッ素、塩素、臭素等のハロゲン等で置換されていても良い)の他、−O−、−(CH
2O)m−、−(OCH
2)m−、−(CH
2O)mCH
2−、−CO−、−COCO−、−CO(CH
2)mCO−、−CO(C
6H
4)CO−、−S−、−CS−、−SO−、−SO
2−、−NR−、−CONR−、−NRCO−、−CSNR−、−NRCS−、−NRNR−、−HPO
4−、−Si(OR)
2−、−OSi(OR)
2−、−OSi(OR)
2O−、−Ti(OR)
2−、−OTi(OR)
2−、−OTi(OR)
2O−、−Al(OR)−、−OAl(OR)−、−OAl(OR)O−等(Rは各々独立して任意の置換基であり、水素原子、アルキル基が好ましく、またmは自然数である)が挙げられる。熱安定性の点や高温下/酸性条件下での構造安定性の点から、単結合が最も好ましい。
【0024】
したがって、上記一般式(1)で表わされる1,2−ジオール構造単位のうち、最も好ましい構造は、R
1〜R
6のすべてが水素原子で、Xが単結合である下記式(1a)で示される構造単位である。
【0026】
側鎖1,2−ジオール含有PVA系樹脂の製造方法は、特に限定しないが、例えば、(i)ビニルエステル系モノマーと下記一般式(2)で示される化合物との共重合体をケン化する方法や、(ii)ビニルエステル系モノマーと下記一般式(3)で示される化合物との共重合体をケン化及び脱炭酸する方法や、(iii)ビニルエステル系モノマーと下記一般式(4)で示される化合物との共重合体をケン化及び脱ケタール化する方法が好ましく用いられる。
【0028】
上記一般式(2)、(3)、(4)中のR
1、R
2、R
3、X、R
4、R
5、R
6は、いずれも一般式(1)の場合と同様である。また、R
7及びR
8はそれぞれ独立して水素原子またはR
9−CO−(式中、R
9はアルキル基、好ましくはメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基、又はオクチル基であり、かかるアルキル基は共重合反応性やそれに続く工程において悪影響を及ぼさない範囲で、ハロゲン、エステル基、カルボン酸基、スルホン酸基等の置換基を有していてもよい)である。R
10及びR
11はそれぞれ独立して水素原子またはアルキル基である。R
10、R
11のアルキル基としては特に限定しないが、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、tert−ブチル基等の炭素数1〜4のアルキル基が好ましい。当該アルキル基は、共重合反応性等を阻害しない範囲内において、ハロゲン、水酸基、エステル基、カルボン酸基、スルホン酸基等の置換基を有していてもよい。
【0029】
式(2)で示される化合物としては、具体的にXが単結合である3,4−ジヒドロキシ−1−ブテン、3,4−ジアシロキシ−1−ブテン、3−アシロキシ−4−ヒドロキシ−1−ブテン、4−アシロキシ−3−ヒドロキシ−1−ブテン、3,4−ジアシロキシ−2−メチル−1−ブテン、Xがアルキレン基である4,5−ジヒドロキシ−1−ペンテン、4,5−ジアシロキシ−1−ペンテン、4,5−ジヒドロキシ−3−メチル−1−ペンテン、4,5−ジアシロキシ−3−メチル−1−ペンテン、5,6−ジヒドロキシ−1−ヘキセン、5,6−ジアシロキシ−1−ヘキセン、Xが−CH
2OCH
2−あるいは−OCH
2−であるグリセリンモノアリルエーテル、2,3−ジアセトキシ−1−アリルオキシプロパン、2−アセトキシ−1−アリルオキシ−3−ヒドロキシプロパン、3−アセトキシ−1−アリルオキシ−2−ヒドロキシプロパン、グリセリンモノビニルエーテル、グリセリンモノイソプロペニルエーテルなどが挙げられる。
【0030】
式(3)で示される化合物としては、入手の容易性、共重合性の観点から、R
1、R
2、R
3、R
4、R
5、R
6がすべて水素原子であり、Xが単結合であるビニルエチレンカーボネートが好適に用いられる。
【0031】
式(4)で示される化合物としては、入手の容易性、共重合性の観点から、R
1、R
2、R
3、R
4、R
5、R
6がすべて水素原子であり、R
10、R
11がメチル基である2,2−ジメチル−4−ビニル−1,3−ジオキソランが好適に用いられる。
【0032】
(i)、(ii)、及び(iii)の方法については、例えば、特開2006−95825に説明されている方法を採用できる。
なかでも、共重合反応性および工業的な取り扱い性に優れるという点から、R
1〜R
6 が水素、Xが単結合、R
7及びR
8 がR
9−CO−であり、R
9 がアルキル基である、3,4−ジアシロキシ−1−ブテンが好ましく、さらにそのなかでも特にR
9がメチル基である3,4−ジアセトキシ−1−ブテンが好ましく用いられる。かかる3,4−ジアセトキシ−1−ブテンは、その共重合体をケン化する際に発生する副生物が、ビニルエステル系モノマーとして多用される酢酸ビニルに由来する構造単位からケン化時に副生する化合物と同一であり、その後処理や溶剤回収系に敢えて特別な装置や工程を設ける必要がなく、従来からの設備を利用出来るという点も、工業的に大きな利点である。
【0033】
なお、(ii)や(iii)の方法によって得られた側鎖1,2−ジオール含有PVA系樹脂は、ケン化度が低い場合や、脱炭酸あるいは脱アセタール化が不充分な場合には側鎖にカーボネート環あるいはアセタール環が残存する場合があり、その結果、かかる側鎖1,2−ジオール含有PVA系樹脂のベントナイトに対する分散剤としての機能が低下する傾向があり、これらの点からも、(i)の方法によって得られた側鎖1,2−ジオール含有PVA系樹脂が本用途においては最も好適である。
【0034】
以上のような側鎖1,2−ジオール構造単位を提供できるモノマーとともに共重合されるビニルエステル系モノマーとしては、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バレリン酸ビニル、酪酸ビニル、イソ酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、安息香酸ビニル、バーサチック酸ビニル等が挙げられるが、経済的にみて中でも酢酸ビニルが好ましく用いられる。
【0035】
従って、側鎖1,2−ジオール含有PVA系樹脂は、上記式(1)で表される側鎖1,2−ジオール構造単位のほか、下記(5)式で表されるビニルアルコール単位が含まれる。
【0037】
また、ケン化度が100%未満の場合には、さらに下記式(6)で表されるビニルエステル単位が含まれることになる。式(6)中、R
20は、炭素数1〜20のアルキル基、好ましくは炭素数1〜13のアルキル基、最も好ましくはメチル基である。
【0039】
また上述のモノマー(ビニルエステル系モノマー、一般式(2)、(3)、(4)で示される化合物)の他に、樹脂物性に大幅な影響を及ぼさない範囲であれば、その他の共重合成分として、エチレンやプロピレン等のα−オレフィン;3−ブテン−1−オール、4−ペンテン−1−オール、5−ヘキセン−1,2−ジオール等のヒドロキシ基含有α−オレフィン類、およびそのアシル化物などの誘導体;イタコン酸、マレイン酸、アクリル酸等の不飽和酸類あるいはその塩あるいはモノ又はジアルキルエステル;アクリロニトリル等のニトリル類、メタクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド等のアミド類、エチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、メタアリルスルホン酸、AMPS等のオレフィンスルホン酸あるいはその塩などの化合物などが共重合されていてもよい。
【0040】
その他の共重合成分が共重合される場合、その他の共重合成分に基づく構成単位が含まれることになる。
【0041】
以上のような構成を有する側鎖1,2−ジオール含有PVA系樹脂において、本発明で好適に用いられる側鎖1,2−ジオール含有PVA系樹脂の平均重合度は、通常、500〜4000であり、好ましくは1000〜3000であり、更に好ましくは1000〜2000のものが好適に用いられる。平均重合度はJIS K6726に準じて測定される。かかる平均重合度が小さ過ぎるとベントナイト等の頁岩粘土の水和膨潤に対する抑制効果が低下し、泥壁の崩壊防止性が低下する傾向がある。逆に大き過ぎると側鎖1,2−ジオール含有PVA系樹脂の生産性が悪くなる傾向がある。
【0042】
また、本発明で用いられる側鎖1,2−ジオール含有PVA系樹脂のケン化度は、通常、80〜100モル%、好ましくは88〜99.8モル%、より好ましくは90〜99.5モル%、さらに好ましくは95〜99.5モル%、特に好ましくは98〜99.5モル%である。ケン化度は、JIS K6726に準じて測定される。通常の未変性PVA系樹脂の場合、ケン化度が100%に近いと、結晶性が高いために常温の水には溶解しにくいが、側鎖1,2−ジオール含有PVA系樹脂では、側鎖1,2−ジオール構造単位が結晶性を乱すためか、ケン化度100%近くになっても、常温の水に対する溶解性が優れている。従って、側鎖1,2−ジオール含有PVA系樹脂では、これまで水溶性の点から不適当と考えられていた高ケン化物を用いることもできる。さらに好ましいことに、側鎖1,2−ジオール含有PVA系樹脂は、塩水に対しても溶解性に優れる。
高ケン化度の側鎖1,2−ジオール含有PVA系樹脂を用いることは、次のような利点がある。掘削流体が強酸性、強アルカリ性の場合であっても部分ケン化物のようにケン化反応が進行することはないので、掘削流体の特性が安定しているという点、また海水等の塩水や添加剤として塩類を必要十分量含有させた掘削流体に側鎖1,2−ジオール含有PVA系樹脂を溶解させる場合に、部分ケン化物と比べて、発泡が少なくて済むといった点である。一方、ケン化度が低くなりすぎると、モンモリロナイト等の層状化合物の膨潤抑制性が低下する傾向がある。
【0043】
本発明に用いられる側鎖1,2−ジオール含有PVA系樹脂中の一般式(1)で表される側鎖1,2−ジオール構造単位の含有率は、通常0.1〜20モル%であり、更には0.5〜10モル%、特には1〜8モル%であることが好ましい。かかる側鎖1,2−ジオール含有率が少なすぎると、未変性PVAに近づくため、水溶性が低下することになる。一方、側鎖1,2−ジオール含有率が高すぎると、製造コストが高くなる傾向がある。
【0044】
本発明の掘削流体調整剤は、以上のような構成を有する側鎖1,2−ジオール含有PVA系樹脂を含有する。掘削流体調整剤における、側鎖1,2−ジオール含有PVA系樹脂の含有量としては、通常、0.05〜20重量%、好ましくは0.1〜10重量%、さらに好ましくは、1〜8重量%である。掘削流体全体に対する側鎖1,2−ジオール含有PVA系樹脂の含有量としては、通常、0.01〜10重量%、好ましくは0.1〜3重量%、さらに好ましくは、0.3〜2重量%である。また、掘削流体中の粘土鉱物に対する含有量比率(粘土鉱物:側鎖1,2−ジオール含有PVA系樹脂(重量比))は、通常、30:1〜1:1、好ましくは10:1〜2:1、さらに好ましくは、6:1〜3:1である。側鎖1,2−ジオール含有PVA系樹脂の含有量が少なすぎると、粘土系鉱物の水和膨潤抑制性が低下する傾向があり、ひいては、ポリマー添加による十分な泥壁崩壊防止効果が得られにくくなる。
【0045】
本発明の掘削流体調整剤は、以上のような側鎖1,2−ジオール含有PVA系樹脂を含有し、さらに、必要に応じて、酸、摩擦低減剤、界面活性剤、塩類、ゲル化剤、pH調整剤、その他の水溶性高分子などが含有され得る。
【0046】
塩類としては、塩化カリウム、塩化ナトリウム、塩化カルシウムの他アンモニウム塩、リン酸塩、炭酸塩、硫酸塩が挙げられ、この中でも塩化カリウムが好ましい。特に、含有量としては、通常、掘削流体全体の0.1〜30重量%、好ましくは1〜20重量%である。カリウムイオンは、泥岩層の安定化、掘削くずの運搬能力に優れているが、凝集力が強すぎるため、含有量が多くなると、流動性のコントロールが難しくなることが知られている。この点、側鎖1,2−ジオール含有PVA系樹脂は、塩化カリウム等の金属塩水溶液に対して優れた溶解性を有し、しかも塩類共存下においても、本来の分散剤としての能力が損なわれずに済む。従って、ベントナイトを良好に分散させることができ、カリウムイオンによるモンモリロナイトの膨潤抑制能を有効に発揮させることができる。
【0047】
その他の水溶性高分子としては、カルボキシメチルセルロースや澱粉、ポリアクリル酸およびその塩、ポリアクリルアミドなどが挙げられ、本発明の効果を損なわない程度に含有することができる。
【0048】
本発明の掘削流体調整剤には、本発明の効果を損なわない範囲で、従来より掘削流体に用いられていた公知の分散剤を併用しても良い。公知の掘削流体調整剤としては、バライト、フミン酸系分散剤、リグニン系分散剤、逸水防止剤、マッドオイル、消泡剤等が挙げられる。併用する量としては、本発明の効果を損なわない範囲であれば特に制限はないが、本発明の掘削流体調整剤と等量以下の範囲が好ましい。
【0049】
〔掘削流体〕
本発明の掘削流体は、液性媒体としての水または油に、無機系粘土鉱物を含有する掘削泥水または掘削泥油に、上記本発明の掘削流体調整剤を添加したものである。水については特に限定せず、地下水、海水も含む概念である。塩類の含有率が高い水を使用する場合には、掘削流体調整剤の組成で調節すればよい。
【0050】
掘削流体調整剤の含有率は、掘削流体全体に対して、通常0.01〜5重量%、好ましくは0.1〜3重量%、特に好ましくは0.5〜2重量%である。
【0051】
無機粘土鉱物としては、従来公知の無機系粘土鉱物が用いられ、例えば、モンモリロナイト、石英、クリストバライト、長石類、ベントナイト系化合物やバイデライト、ノントロナイト、サポナイト、ヘクトライト、ソーコナイト、スチーブンサイト等のスメクタイト系化合物が挙げられる。これらの中でもベントナイト系化合物が好ましい。無機粘土鉱物は、通常、掘削流体全体の0.05〜20重量%、好ましくは0.1〜10重量%含有される。
【0052】
なお、ベントナイト等の無機粘土系鉱物は、粘度調整のために、掘削流体中に予め添加される他、掘削中に掘削くずとして混入する場合もある。しかしながら、掘削流体の循環中に坑底から押し上げられた余分なベントナイトはろ過されるので、通常、ベントナイト等の無機粘土系鉱物の含有率は一定に保たれている。
【0053】
本発明の掘削流体調整剤を用いた泥水を掘削工事に用いる際の好適な温度範囲は200℃以下であり、好ましくは180℃以下である。200℃を超える温度領域では、側鎖1,2−ジオール含有PVA系樹脂が熱分解したり、掘削流体の粘度が低下して、掘削くずが膨潤し地上でろ過できなくなるおそれがある。
【0054】
本発明の掘削流体調整剤を添加した掘削流体は、一般土木掘削工事に使用することができる。また、塩類を含有する掘削流体、特に塩類を含有するベントナイト泥水中でも優れた溶解性を示し、ベントナイトの分散剤としての機能を発揮することができるので、高深度の掘削工事、とりわけ油井掘削工事にも用いることができる。また、海水などが混入し得るような掘削工事に用いる掘削流体、さらには液性媒体の一部又は全部に海水を用いるような掘削流体としても好適に用いることができる。
【実施例】
【0055】
以下、実施例をあげて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。また、実施例中、「部」、「%」は断りのない限り、重量基準を意味する。
【0056】
〔測定評価方法〕
(1)膨潤率
PVA系樹脂1部を水99部に溶解し、1重量%PVA水溶液を得た。
方眼紙の上に、高さ20mm×直径90mmの透明の容器を置き、かかる容器の中に、縦×横×厚みが10〜25mm×10〜15mm×10〜15mmのモンモリロナイトペレット(産地サン・サルヴォ)を3個、均等に並べた。
その上から、調製したPVA水溶液を静かに流し入れ、モンモリロナイトがPVA水溶液に浸漬する状態で4時間静置した。
元のペレットの縦の長さL
0(mm)、4時間浸漬後のペレットの縦の長さL
4(mm)は、ペレットを載置した方眼紙の目盛から読み取り、下記式に基づいて、ペレット膨潤率(%)を算出した。3個のペレットの平均値を採用した。
膨潤率(%)=(L
4/L
0)×100
【0057】
(2)水溶解性
乾燥PVA系樹脂粒子約4g(S
1g)を、三角フラスコ中のイオン交換水200mlに分散させた後、20℃で30分間撹拌し、PVA系樹脂粒子を溶解させた。このPVA溶解液を、予め秤量してある35μmの金網(A
1g)で濾過した。三角フラスコ内に残存していたPVA未溶解分を、20℃の水400mlで洗浄し、洗浄液を金網上に移した。PVA未溶解分が付着した金網を、105℃の電気定温乾燥器で2時間乾燥を行い、その重量(B
1g)を測定して、下記式により、未溶解分の割合(%)を求めた。算出された未溶解分率を、100%から差引いた値を、水溶解性(%)とした。
未溶解分率(%)=[(B
1−A
1)/S
1]×100
【0058】
(3)塩水溶解性
乾燥PVA系樹脂粒子約4g(S
2g)を、三角フラスコ中の4%塩化カリウム水溶液200mlに分散させた後、20℃で30分間撹拌し、PVA系樹脂粒子を溶解させ、PVA溶解液を得た。このPVA溶解液を、予め秤量してある35μmの金網(A
2g)で濾過した。三角フラスコ内に残存していたPVA未溶解分を、20℃の水400mlで洗浄し、洗浄液を金網上に移した。PVA未溶解分が付着した金網を、105℃の電気定温乾燥器で2時間乾燥を行い、その重量(B
2g)を測定して、下記式により、未溶解分の割合(%)を求めた。算出された未溶解分率を、100%から差引いた値を、塩水溶解性(%)とした。
未溶解分率(%)=[(B
2−A
2)/S
2]×100
【0059】
(4)ケン化度
残存酢酸ビニル及び残存3,4−ジアセトキシ−1−ブテンの加水分解に要するアルカリ消費量から算出した。
【0060】
(5)平均重合度
JIS K6726に準じて測定した。
【0061】
(6)側鎖1,2−ジオール含有率
1H−NMR(内部標準:テトラメチルシラン、溶媒:DMSO−d6)で測定して算出した。
【0062】
(7)オキシアルキレン基含有率
モノマー仕込み量から算出した。
【0063】
〔実施例1:側鎖1,2−ジオール含有PVA系樹脂1の合成及び評価〕
還流冷却器、滴下漏斗、撹拌機を備えた反応缶に、酢酸ビニル3500部、メタノール520部、3,4−ジアセトキシ−1−ブテン405部を仕込み、アセチルパーオキサイドを0.0320モル%(対仕込み酢酸ビニル)投入し、撹拌しながら窒素気流下で温度を上昇させ、重合を開始した。酢酸ビニルの重合率が72.5%となった時点で、重合禁止剤としてメトキシフェノール100ppm(対仕込み酢酸ビニル)を加え、重合を終了した。続いて、メタノール蒸気を吹き込む方法により未反応の酢酸ビニルモノマーを系外に除去し共重合体のメタノール溶液を得た。
次いで、該溶液をメタノールで希釈して濃度30%に調整してニーダーに仕込み、溶液温度を40℃に保ちながら、水酸化ナトリウムの2%メタノール溶液を共重合体中の酢酸ビニル及び3,4−ジアセトキシ−1-ブテンの合計量1モルに対して12.6ミリモルとなる割合で加えてケン化を行った。ケン化が進行すると共にケン化物が析出して、粒子状となった時点で濾別し、メタノールでよく洗浄して熱風乾燥機中で乾燥し、側鎖1,2−ジオール含有PVA系樹脂1を得た。
【0064】
得られた側鎖1,2−ジオール含有PVA系樹脂1について、上記測定評価方法に基づいて、平均重合度、ケン化度、側鎖1,2−ジオール含有率、膨潤抑制性、水溶解性、塩水溶解性を測定評価した。結果を表1に示す。
【0065】
〔実施例2:側鎖1,2−ジオール含有PVA系樹脂2の合成および評価〕
還流冷却器、滴下漏斗、撹拌機を備えた反応缶に、酢酸ビニル6500部、メタノール260部、3,4−ジアセトキシ−1−ブテン268部を仕込み、アセチルパーオキサイドを0.0033モル%(対仕込み酢酸ビニル)投入し、撹拌しながら窒素気流下で温度を上昇させ、重合を開始した。酢酸ビニルの重合率が52%となった時点で、重合禁止剤としてメトキシフェノール30ppm(対仕込み酢酸ビニル)を加え、重合を終了した。続いて、メタノール蒸気を吹き込む方法により未反応の酢酸ビニルモノマーを系外に除去し共重合体のメタノール溶液を得た。
【0066】
次いで、該溶液をメタノールで希釈して濃度30%に調整してニーダーに仕込み、溶液温度を40℃に保ちながら、水酸化ナトリウムの2%メタノール溶液を共重合体中の酢酸ビニル及び3,4−ジアセトキシ−1-ブテンの合計量1モルに対して13ミリモルとなる割合で加えてケン化を行った。ケン化が進行すると共にケン化物が析出して、粒子状となった時点で濾別し、メタノールでよく洗浄して熱風乾燥機中で乾燥し、側鎖1,2−ジオール含有PVA系樹脂2を得た。
【0067】
得られた側鎖1,2−ジオール含有PVA系樹脂2について、上記測定評価方法に基づいて、平均重合度、ケン化度、側鎖1,2−ジオール含有率、膨潤抑制性、水溶解性、塩水溶解性を測定評価した。結果を表1に示す。
【0068】
〔実施例3:側鎖1,2−ジオール含有PVA系樹脂3の合成及び評価〕
還流冷却器、滴下漏斗、撹拌機を備えた反応缶に、酢酸ビニル350部、メタノール12部、3,4−ジアセトキシ−1−ブテン51部を仕込み、アセチルパーオキサイドを0.002モル%(対仕込み酢酸ビニル)投入し、撹拌しながら窒素気流下で温度を上昇させ、重合を開始した。酢酸ビニルの重合率が65%となった時点で、重合禁止剤としてメトキシフェノール100ppm(対仕込み酢酸ビニル)を加え、重合を終了した。続いて、メタノール蒸気を吹き込む方法により未反応の酢酸ビニルモノマーを系外に除去し共重合体のメタノール溶液を得た。
次いで、該溶液をメタノールで希釈して濃度35%に調整してニーダーに仕込み、溶液温度を35℃に保ちながら、水酸化ナトリウムの2%メタノール溶液を共重合体中の酢酸ビニル及び3,4−ジアセトキシ−1-ブテンの合計量1モルに対して9ミリモルとなる割合で加えてケン化を行った。ケン化が進行すると共にケン化物が析出して、粒子状となった時点で濾別し、メタノールでよく洗浄して熱風乾燥機中で乾燥し、側鎖1,2−ジオール含有PVA系樹脂3を得た。
【0069】
得られた側鎖1,2−ジオール含有PVA系樹脂3について、上記測定評価方法に基づいて、平均重合度、ケン化度、側鎖1,2−ジオール含有率、膨潤抑制性、水溶解性、塩水溶解性を測定評価した。結果を表1に示す。
【0070】
〔比較例1:オキシアルキレン変性PVA1の合成および評価〕
重合缶にオキシエチレン基の平均鎖長(n)が10のポリオキシエチレンモノアリルエーテル15.0部と酢酸ビニル85部、メタノール10.0部を仕込み、還流状態になるまで昇温した後30分間還流させてから、アゾビスイソブチロニトリルを全仕込酢酸ビニル量に対して0.08モル%仕込んで重合を開始した。反応開始後2時間目と4時間目にアゾビスイソブチロニトリルを全仕込酢酸ビニル量に対して0.08モル%ずつ追加した。
次いで、重合反応開始後約8時間目で、冷却用メタノール20部と禁止剤としてm−ジニトロベンゼンを0.2部加え、反応缶ジャケットを冷却して重合反応を停止して、ポリオキシエチレン基含有酢酸ビニル重合体を得た。かかる重合体の重合率は約95%であった。
【0071】
次いで、上記で得られたオキシエチレン基含有酢酸ビニル重合体の溶液から残存モノマーを追い出した後、メタノールで希釈して濃度49%に調整してニーダーに仕込み、溶液温度を40℃に保ちながら、水酸化ナトリウムの2%メタノール溶液を共重合体中の酢酸ビニル1モル単位に対して11ミリモルとなる量を加えてケン化を行った。ケン化が進行すると共にケン化物が析出し、遂には粒子状となった。生成した樹脂を濾別し、メタノールでよく洗浄して熱風乾燥機中で乾燥し、目的とするオキシアルキレン変性PVA1を得た。
【0072】
得られたオキシアルキレン変性PVA1について、上記測定評価方法に基づいて、ケン化度、平均重合度、オキシアルキレン基の含有率、膨潤抑制性、水溶解性、塩水溶解性を測定評価した。結果を表1に示す。
【0073】
〔比較例2:オキシアルキレン変性PVA2の合成および評価〕
重合缶にオキシエチレン基の平均鎖長(n)が10のポリオキシエチレンモノアリルエーテル15.0部と酢酸ビニル85部、メタノール10.0部を仕込み、還流状態になるまで昇温した後30分間還流させてから、アゾビスイソブチロニトリルを全仕込酢酸ビニル量に対して0.08モル%仕込んで重合を開始した。反応開始後2時間目と4時間目にアゾビスイソブチロニトリルを全仕込酢酸ビニル量に対して0.08モル%ずつ追加した。
次いで、重合反応開始後約8時間目で、冷却用メタノール20部と禁止剤としてm−ジニトロベンゼンを0.2部加え、反応缶ジャケットを冷却して重合反応を停止して、ポリオキシエチレン基含有酢酸ビニル重合体を得た。かかる重合体の重合率は約95%であった。
【0074】
次いで、上記で得られたオキシエチレン基含有酢酸ビニル重合体の溶液から残存モノマーを追い出した後、メタノールで希釈して濃度40%に調整してニーダーに仕込み、溶液温度を40℃に保ちながら、水酸化ナトリウムの2%メタノール溶液を共重合体中の酢酸ビニル1モル単位に対して11ミリモルとなる量を加えてケン化を行った。ケン化が進行すると共にケン化物が析出し、遂には粒子状となった。生成した樹脂を濾別し、メタノールでよく洗浄して熱風乾燥機中で乾燥し、目的とするオキシアルキレン変性PVA2を得た。
【0075】
得られたオキシアルキレン変性PVA2について、上記測定評価方法に基づいて、ケン化度、平均重合度、オキシアルキレン基の含有率、膨潤抑制性、水溶解性、塩水溶解性を測定評価した。結果を表1に示す。
【0076】
〔比較例3:未変性PVA〕
ケン化度88モル%、重合度2100の未変性PVAを用いて、膨潤抑制性、水溶解性、塩水溶解性を測定評価した。結果を表1に示す。
【0077】
【表1】
【0078】
オキシアルキレン変性PVAを用いた場合、99%程度の高ケン化物では水溶解性が低下するだけでなく、塩水に全く溶解しなかった(比較例2)。ケン化度を88モル%程度とすることにより、水溶解性、塩水溶解性を満足することができるが、水和膨潤率が高くなった(比較例1)。
未変性PVAを用いた場合(比較例3)、88%程度の部分ケン化物を用いても、膨潤抑制性は損なわれなかったが、塩水溶解性が80%と不十分なものであった。
【0079】
この点、側鎖1,2−ジオール含有PVA系樹脂を用いた場合(実施例1,2,3)、ケン化度98モル%にまで上げても、水溶解性、塩水溶解性のいずれも96%以上と高く、しかも膨潤抑制性の低下も認められなかった。