(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5763853
(24)【登録日】2015年6月19日
(45)【発行日】2015年8月12日
(54)【発明の名称】シューケース用乳化油脂組成物
(51)【国際特許分類】
A23D 7/00 20060101AFI20150723BHJP
A21D 2/16 20060101ALI20150723BHJP
A21D 2/26 20060101ALI20150723BHJP
A21D 2/02 20060101ALI20150723BHJP
A21D 13/08 20060101ALI20150723BHJP
【FI】
A23D7/00 506
A21D2/16
A21D2/26
A21D2/02
A21D13/08
【請求項の数】8
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2015-8615(P2015-8615)
(22)【出願日】2015年1月20日
【審査請求日】2015年1月20日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】591040144
【氏名又は名称】太陽油脂株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086759
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 喜平
(74)【代理人】
【識別番号】100123548
【弁理士】
【氏名又は名称】平山 晃二
(74)【代理人】
【識別番号】100154184
【弁理士】
【氏名又は名称】生富 成一
(72)【発明者】
【氏名】廣瀬 守
(72)【発明者】
【氏名】越智 幸恵
(72)【発明者】
【氏名】赤岡 優
【審査官】
戸来 幸男
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭62−244344(JP,A)
【文献】
特開平06−165632(JP,A)
【文献】
特開平07−115890(JP,A)
【文献】
特開平08−242766(JP,A)
【文献】
特開平10−007911(JP,A)
【文献】
特開2005−168416(JP,A)
【文献】
特開2006−191873(JP,A)
【文献】
特開2007−110917(JP,A)
【文献】
特開2014−014309(JP,A)
【文献】
特開2014−083015(JP,A)
【文献】
特開2015−002705(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23D 7/00−9/00
A21D 2/00−17/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS/
FSTA/FROSTI/WPIDS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機酸モノグリセリドを含む油相と、カゼインナトリウム及びリン酸塩を含む水相とを含有する、シューケース用乳化油脂組成物であって、
前記リン酸塩が、少なくともトリポリリン酸ナトリウム又はメタリン酸ナトリウムを含み、
但し、前記油相はステアロイル乳酸カルシウムを含まないシューケース用乳化油脂組成物。
【請求項2】
前記組成物の全重量を基準として、前記有機酸モノグリセリドを0.1〜1.0重量%含む、請求項1に記載のシューケース用乳化油脂組成物。
【請求項3】
前記組成物の全重量を基準として、前記リン酸塩を0.2〜0.6重量%含む、請求項1又は2に記載のシューケース用乳化油脂組成物。
【請求項4】
前記組成物の全重量を基準として、前記カゼインナトリウムを2.0〜6.0重量%含む、請求項1〜3のいずれかに記載のシューケース用乳化油脂組成物。
【請求項5】
前記油相が、さらに、香料、着色料、及び抗酸化剤からなる群から選択される一以上の油溶性物質を含む請求項1〜4のいずれかに記載のシューケース用乳化油脂組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載のシューケース用乳化油脂組成物を含有するシューケース。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれかに記載のシューケース用乳化油脂組成物を用いて製造されたシューケース。
【請求項8】
請求項1〜5のいずれかに記載のシューケース用乳化油脂組成物を用いるシューケースの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シューケース用乳化油脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
シュークリームやエクレア等の外皮であるシューケースを製造する際に小麦粉や卵等の原料とともに用いられる油脂組成物としては種々のものが知られている。
例えば、少量の卵量でも、ボリュームが大きく、食感や風味の良好なシューケースを製造することを目的として、特許文献1には有機酸モノグリセリドとジグリセリドを含有するシュー用乳化油脂組成物が開示され、特許文献2にはタマリンドガム及び有機酸モノグリセリドを含有する乳化油脂組成物が開示されている。
【0003】
また、特許文献3には、形状、焼色、食感、風味が良好なシュー皮を製造することを目的とした、アルカリカゼイン及びアルカリ性縮合リン酸塩を含む水相のpHを5.2〜5.9とした乳化油脂組成物が開示されている。
さらに、特許文献4には、全卵の量の多い配合のシュー皮の製造に使用することを目的とした、酸性のカゼイン分散液を含むシュー生地用油中水型乳化物が開示されている。
また、特許文献5には、薄皮、球状のシューケースを得ることを目的としたシュー用乳化油脂組成物であって、油相部がステアロイル乳酸カルシウムを含有し、水相部がカゼインナトリウムを含有するものが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6−165632号公報
【特許文献2】特開平8−242766号公報
【特許文献3】特許第3179260号明細書
【特許文献4】特開2007−110917号公報
【特許文献5】特開平10−7911号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
乳化油脂組成物にカゼインのアルカリ塩とリン酸塩を添加することにより、形状が安定したシューケースが得られることは一般に知られている。しかし、カゼインのアルカリ塩とリン酸塩の種類、使用量、配合比率、シューケースの配合によっては、生地の粘度が高くなり作業性が悪化したり、シュー皮の形状がゴツゴツとした形になったりする欠点がある。
【0006】
また、シューケースの工業的生産においては、食感の追及やコストダウンのため、一般的なシュー生地の原料配合に比べて卵や油脂の使用量を少なくする場合があり、従来のシューケース用油脂組成物では、シューケース生地の機械耐性が十分でなく、満足なボリューム(膨らみ)や良好な形状をもつシューケースが得られない。具体的には、デポジッタ内でシュー生地の分離やダレが発生したり、焼成したシューケースのボリュームが不均一であったり、穴あきが生じたりする。
【0007】
本発明の目的は、卵や油脂の使用量が少ない工業的生産向けの原料配合であっても、シューケース生地に良好な機械耐性を付与し、かつ、安定した形状と良好なボリュームをもつシューケースを得ることができる、新規なシューケース用乳化油脂組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、以下のシューケース用乳化油脂組成物等が提供される。
1.有機酸モノグリセリドを含む油相と、カゼインナトリウム及びリン酸塩を含む水相とを含有する、シューケース用乳化油脂組成物であって、
前記リン酸塩が、少なくともトリポリリン酸ナトリウム又はメタリン酸ナトリウムを含み、
但し、前記油相はステアロイル乳酸カルシウムを含まないシューケース用乳化油脂組成物。
2.前記組成物の全重量を基準として、前記有機酸モノグリセリドを0.1〜1.0重量%含む、1に記載のシューケース用乳化油脂組成物。
3.前記組成物の全重量を基準として、前記リン酸塩を0.2〜0.6重量%含む、1又は2に記載のシューケース用乳化油脂組成物。
4.前記組成物の全重量を基準として、前記カゼインナトリウムを2.0〜6.0重量%含む、1〜3のいずれかに記載のシューケース用乳化油脂組成物。
5.前記油相が、さらに、香料、着色料、及び抗酸化剤からなる群から選択される一以上の油溶性物質を含む1〜4のいずれかに記載のシューケース用乳化油脂組成物。
6.1〜5のいずれかに記載のシューケース用乳化油脂組成物を含有するシューケース。
7.1〜5のいずれかに記載のシューケース用乳化油脂組成物を用いて製造されたシューケース。
8.1〜5のいずれかに記載のシューケース用乳化油脂組成物を用いるシューケースの製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、卵や油脂の使用量が少ない工業的生産向けの原料配合であっても、シューケース生地に良好な機械耐性を付与し、かつ、安定した形状と良好なボリュームをもつシューケースを得ることができる、新規なシューケース用乳化油脂組成物を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[シューケース用乳化油脂組成物]
本発明のシューケース用乳化油脂組成物(以下、単に「組成物」ともいう。)は、有機酸モノグリセリドを含む油相と、カゼインナトリウム及びリン酸塩を含む水相とを含有する。但し、油相はステアロイル乳酸カルシウムを含まない。
本発明のシューケース用乳化油脂組成物を用いることにより、卵や油脂の使用量が少ない原料配合であっても、工業的生産に適した機械耐性(生地分離・ダレの防止)をシューケース生地に付与し、ゴツゴツとした不均一な形状にならず、良好なボリュームを有するシューケースを得ることができる。
【0011】
油相には有機酸モノグリセリドを含む。但し、油相はステアロイル乳酸カルシウムを含まない。油相に有機酸モノグリセリドを添加することにより、生地ダレを抑制し、生地伸展性の向上による生地粘度調整機能が得られ、良好な機械耐性を付与できる。
本発明に使用できる有機酸モノグリセリド(グリセリン有機酸脂肪酸モノエステル)は、グリセリン脂肪酸モノエステルの3位の−OH基を有機酸でエステル化した化合物である。有機酸モノグリセリドを構成する脂肪酸としては、炭素数14〜22の飽和脂肪酸が好ましい。この炭素数14〜22の飽和脂肪酸としては、例えば、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸等が挙げられる。これらの飽和脂肪酸は一種で構成されていてもよく、又は二種以上が混合されて構成されていてもよい。
【0012】
有機酸モノグリセリドを構成する有機酸の例としては、酢酸、プロピオン酸、酪酸等の低級脂肪酸で構成されるモノカルボン酸;シュウ酸、コハク酸等の脂肪族飽和ジカルボン酸;マレイン酸、フマル酸等の脂肪族不飽和ジカルボン酸;乳酸、リンゴ酸、酒石酸、ジアセチル酒石酸、クエン酸等のオキシカルボン酸;及びグリシン、アスパラギン酸等のアミノ酸等が挙げられるが、特に、クエン酸、コハク酸が好ましい。尚、市販の有機酸モノグリセリドは未反応の有機酸やグリセリン脂肪酸モノエステル等を一部に含むが、本発明に使用しても差し支えない。
【0013】
本発明のシューケース用乳化油脂組成物中の有機酸モノグリセリドの含有量は、組成物の全重量を基準として、好ましくは0.1〜1.0重量%、より好ましくは0.1〜0.5重量%、更に好ましくは0.1〜0.3重量%である。
【0014】
油相を構成する油脂の種類は限定されないが、25〜45℃の融点を持つものが好ましい。油脂としては、例えば、大豆油、菜種油、ヒマワリ油、オリーブ油、サフラワー油、カボック油、パーム油、コーン油、綿実油、ヤシ油、パーム核油等の植物油脂類;牛脂、ラード、魚油、鯨油、乳脂(バター、牛乳、濃縮乳、生クリームの乳脂肪分を含む)等の動物油脂類を挙げることができる。また、これらの油脂を分別、水添処理したもの、及びエステル交換したものも使用できる。これらの油脂は一種を単独で、又は二種以上を混合して使用することができる。
バター、牛乳、濃縮乳、生クリームを使用する場合、これらに含まれる乳脂肪分は乳化油脂組成物の油相を構成し、水分は乳化油脂組成物の水相を構成する。
本発明のシューケース用乳化油脂組成物中の油相の量は、組成物の全重量を基準として、好ましくは50〜80重量%、より好ましくは60〜80重量%、更に好ましくは70〜80重量%である。
【0015】
油相には、必要に応じて有機酸モノグリセリド以外の乳化剤を添加してもよい。乳化剤としては、例えば、グリセリンモノ又はジ脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、レシチン等が挙げられる。これらの乳化剤は一種を単独で、又は二種以上を混合して使用することができる。乳化剤の量は、特に限定されないが、好ましくは組成物の全重量を基準として0.1〜1.5重量%程度使用する。
また、油相には、必要に応じて、その他の油溶性物質を含んでいてもよい。油溶性物質としては、特に限定されないが、例えば、香料(又は油溶性呈味成分)、着色料、抗酸化剤、油溶性栄養成分(例えば、ビタミンA、D、E、K)等が挙げられる。油溶性物質の量は、特に限定されないが、油溶性物質を除く組成物の全重量を100重量部として、例えば、0.1〜1.5重量部程度使用する。
【0016】
水相には、カゼインナトリウム及びリン酸塩を含む。
カゼインナトリウムは、その添加量が過小では良好な膨らみが得られず、また過剰ではゴツゴツとした(暴れた)焼き上がりを呈するうえ、生地の粘度も高くなり、機械適性に劣る。
本発明のシューケース用乳化油脂組成物中のカゼインナトリウムの含有量は、組成物の重量を基準として、好ましくは2.0〜6.0重量%、より好ましくは3.0〜5.0重量%、更に好ましくは3.5〜4.5重量%である。
【0017】
リン酸塩は、シューケースのボリューム、特に横浮きに効果的に機能する。過剰に添加すると生地ダレにより縦浮きしにくくなる。
リン酸塩は、少なくともトリポリリン酸ナトリウム又はメタリン酸ナトリウムを含むことが好ましい。また、リン酸塩の追加の成分として、ピロリン酸ナトリウムを使用してもよい。即ち、本発明において使用するリン酸塩としては、トリポリリン酸ナトリウム一種のみ、メタリン酸ナトリウム一種のみ、トリポリリン酸ナトリウムとメタリン酸ナトリウムの二種の混合物、トリポリリン酸ナトリウムとピロリン酸ナトリウムの二種の混合物、メタリン酸ナトリウムとピロリン酸ナトリウムの二種の混合物、トリポリリン酸ナトリウムとメタリン酸ナトリウムとピロリン酸ナトリウムの三種の混合物が挙げられる。
【0018】
本発明のシューケース用乳化油脂組成物中のリン酸塩の含有量は、組成物の重量を基準として、好ましくは0.2〜0.6重量%、より好ましくは0.3〜0.6重量%、更に好ましくは0.4〜0.6重量%である。
リン酸塩としてピロリン酸ナトリウムを使用する場合、トリポリリン酸ナトリウム及び/又はメタリン酸ナトリウムの含有量は、リン酸塩の全重量を基準として、好ましくは51〜99重量%、より好ましくは60〜95重量%、更に好ましくは65〜90重量%である。
【0019】
水相を構成する媒体は、例えば、水、牛乳、濃縮乳、生クリーム等が挙げられ、これらのうち一種を単独で、又は二種以上を混合して用いることができる。牛乳、濃縮乳、生クリームを使用する場合、これらに含まれる水分は乳化油脂組成物の水相を構成し、乳脂肪分は乳化油脂組成物の油相を構成する。
また、水相には、必要に応じて、その他の水溶性物質を含んでいてもよい。水溶性物質としては、特に限定されないが、例えば、食塩、粉乳、香料、糖類、着色料(水溶性)、増粘剤等が挙げられる。水溶性物質の量は、特に限定されないが、例えば、水溶性物質を除く組成物の全重量を100重量部として、0.1〜3.0重量部程度使用する。
また、本発明のシューケース用乳化油脂組成物は、有機酸モノグリセリドとカゼインナトリウムとの比(重量)は、例えば、1:20〜1:60であり、好ましくは1:30〜1:50であり、より好ましくは1:35〜1:45である。
本発明のシューケース用乳化油脂組成物は、油相と水相とを混合して予備乳化した後に、急冷捏和することにより、製造することができる。
【0020】
[シューケースの製造]
シューケースは、本発明のシューケース用乳化油脂組成物と他のシューケース生地原料とを混合し、得られる生地を焼成することにより製造することができる。
シューケースの生地原料としては、通常用いられているものが使用でき、主な原料として、例えば、小麦粉(強力粉、中力粉、薄力粉等)、卵(全卵、卵黄、卵白等)、水等が挙げられる。上記の原料の他に、所望により、他の食品添加物を添加してもよい。使用できる食品添加物としては、例えば、香料、着色料、抗酸化剤等が挙げられる。
【0021】
シューケース生地原料の配合は、特に限定されないが、例えば、小麦粉100重量部に対して、油脂 100〜170重量部、卵 160〜220重量部、水 100〜150重量部を使用する。
【0022】
本発明のシューケース用乳化油脂組成物は、シューケース生地原料の小麦粉100重量部に対して、好ましくは100〜170重量部、より好ましくは110〜150重量部、更に好ましくは120〜130重量部用いる。
また、本発明のシューケース用乳化油脂組成物は、特に、卵の量の少ない原料配合、例えば160〜190重量部、好ましくは160〜180重量部の卵を含む原料配合に好適に使用することができる。
生地の調製及びシューケースの焼成は常法により行うことができる。
【0023】
本発明のシューケース用乳化油脂組成物を用いることにより、安定した形状と良好なボリュームをもつシューケースを得ることができる。
安定した形状は、例えば、シューケースの縦の寸法(シューケースの高さ方向の最も膨らんでいる頂点と底面との間の距離)、横の寸法(シューケース底面の一端から他端までの距離のうち最大距離)のバラつき(標準偏差)により評価することができる。
【0024】
縦の寸法及び横の寸法について平均値と標準偏差を算出する際の標本数は、少なくとも15個とする。通常卓上ミキサー(容量:5コート(4.73L))を使用して、シューケース1個あたり直径45mm(15g)の生地を絞るとおよそ15個のシューケースを得ることができる。
【0025】
良好なボリュームは、例えば、縦の寸法の平均値(T)と横の寸法の平均値(W)から算出するサイズ比(T:W)により評価することができる。サイズ比は、好ましくは1:1.3〜1:1.6である。
標準偏差は、ゼロに近いほどバラつきが小さく、シューケースの形状にバラつきが少なく安定して製造できることを示す。標準偏差は、好ましくは4.5以下である。
【実施例】
【0026】
以下に本発明の実施例を示し、本発明をより詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0027】
実施例1
水18重量%に脱脂粉乳0.1重量%、カゼインナトリウム(第一化成、カゼロンL)4重量%を添加し、トリポリリン酸ナトリウム(第一化成、トリポリリン酸ナトリウム)0.5重量%、食塩0.5重量%を加え加温溶解して水相を得た。脱脂粉乳、食塩は風味付けのためのものである。
加熱溶融した油脂(パーム油10重量%、ラード90重量%)76.5重量%、ステアリン系コハク酸モノグリセリド(理研ビタミン、ポエムB−10)0.1重量%、乳化剤として蒸留モノグリセリンエステル(理研ビタミン、エマルジーMS)0.2重量%及び大豆レシチン(昭和産業、昭和レシチン)0.1重量%、酸化防止剤としてビタミンE 0.02重量%を混合溶解して油相を得た。
得られた水相と油相とを混合乳化し、急冷して練り合わせ、シューケース用乳化油脂組成物を得た。乳化油脂組成物の配合を表2に示す。
【0028】
得られた乳化油脂組成物を用いてシューケースを製造した。具体的には、水と乳化油脂組成物をミキシングボールに計量して、加熱し、沸騰したら加熱を停止し、小麦粉を加えた。これをミキサーで一定時間ミキシングを行い、ペースト状にしてから、全卵を2〜3回に分けて加え、最後の卵を加えるときに炭酸アンモニウムを溶解して加え、均一に混合してシューケース生地を得た。シューケースの生地配合を表1に示す。
【0029】
【表1】
【0030】
シューケースの製造時における生地の安定性と、得られたシューケースについて、以下の項目を評価した。結果を表2に示す。
(生地分離、ダレ)
シューケース製造時にデポジッタ内でのシューケース生地の分離やダレの発生の有無を観察した。
(寸法[mm]及び体積[ml])
それぞれの実施例及び比較例について15個のシューケースの縦(シューケースの高さ方向の最も膨らんでいる頂点と底面との間の距離)、横(シューケース底面の一端から他端までの距離のうち最大距離)の寸法をノギスで測定した。縦の寸法、横の寸法それぞれについて平均値と標準偏差を算出し、縦の寸法の平均値(T)と横の寸法の平均値(W)からサイズ比(T/W)を算出した。
シューケースの体積を菜種置換法により測定した。具体的には、一定容量の容器に満杯に詰めた菜種種子(乾燥)の体積から、同じ容器に試料と菜種種子を詰めて満杯にしたときの菜種種子の体積を差引き、試料の体積を求めた。
【0031】
(形状)
シューケースの形状を評価した。十分な体積で縦と横の寸法のバランスがとれた均一な形状を○とし、小ぶりな大きさのもの(体積が不十分)や縦と横の寸法のバランスが悪く扁平で不均一な形状を×とした。
(穴あき)
シューケースの穴あきの有無を目視により観察した。穴あきの有無はシューケースの厚みの均一性を示す指標ともなる。
(生地あばれ)
シューケース表面の状態を目視により観察した。表面がほぼ丸く焼き上がったものは生地あばれ無し、表面が岩のようにゴツゴツしたり、一部だけ過剰な膨らみやへこみが出たりしたものは生地あばれ有りとした。
【0032】
実施例2〜4及び比較例1〜11
それぞれ表2に示す配合としたほかは実施例1と同様に乳化油脂組成物を調製し、シューケースを製造した。実施例4は、有機酸モノグリセリドとして、実施例1で使用したステアリン系コハク酸モノグリセリド(理研ビタミン、ポエムB−10)に代えて、ステアリン酸系クエン酸モノグリセリド(理研ビタミン、ポエムK−30)を使用した。評価結果を表2に示す。
尚、比較例11の水相のpHは、4.1であった。
【0033】
【表2】
【0034】
実施例1〜4では、シューケース製造時にデポジッタ内で生地を安定させることができ、また、得られたシューケースは縦と横の寸法のバランスがよく、形状が均一で、体積も十分であり、良好なボリュームを有するものであった。
比較例4では、カゼインナトリウムが水相において溶解しなかったため、シューケースの製造は行わなかった。
比較例6及び7では、得られたシューケースのサイズ比は良好であり形状は良好であったが、寸法の標準偏差が大きく安定で均一な焼成ができなかった。
比較例8では横寸法は良好であったが、縦寸法の標準偏差が大きく不均一でサイズ比も良好ではなかった。
比較例9では、縦寸法が小さいために、体積も小さく、ボリュームが充分ではなかった。
比較例10では、縦寸法の標準偏差が大きく、焼成後の生地あばれと穴あきが有り、良好な形状ではなかった。
比較例11では、穴あきがあり、良好なシューケースが得られなかった。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明のシューケース用乳化油脂組成物は、シュークリームやエクレア等の外皮であるシューケースを製造する際に好適に使用することができる。特に、卵や油脂の使用量が少ない工業的生産向けの原料配合である場合に、安定した形状と良好なボリュームをもつシューケースを得ることができる。
【要約】
【課題】卵や油脂の使用量が少ない工業的生産向けの原料配合であっても、シューケース生地に良好な機械耐性を付与し、かつ、安定した形状と良好なボリュームをもつシューケースを得ることができる、新規なシューケース用乳化油脂組成物を提供する。
【解決手段】有機酸モノグリセリドを含む油相と、カゼインナトリウム及びリン酸塩を含む水相とを含有する、シューケース用乳化油脂組成物であって、前記リン酸塩が、少なくともトリポリリン酸ナトリウム又はメタリン酸ナトリウムを含み、但し、前記油相はステアロイル乳酸カルシウムを含まないシューケース用乳化油脂組成物。
【選択図】なし