(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5763860
(24)【登録日】2015年6月19日
(45)【発行日】2015年8月12日
(54)【発明の名称】浸水防止パネルシート
(51)【国際特許分類】
E04H 9/14 20060101AFI20150723BHJP
【FI】
E04H9/14 Z
【請求項の数】16
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2015-43549(P2015-43549)
(22)【出願日】2015年3月5日
【審査請求日】2015年3月6日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】597105924
【氏名又は名称】小池 栄
(74)【代理人】
【識別番号】100163533
【弁理士】
【氏名又は名称】金山 義信
(72)【発明者】
【氏名】小池 栄
【審査官】
新井 夕起子
(56)【参考文献】
【文献】
特開2013−151856(JP,A)
【文献】
特開2001−311284(JP,A)
【文献】
特開2007−218060(JP,A)
【文献】
登録実用新案第3189177(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04H 9/14
E04F 10/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
建物に設置して浸水を防止する浸水防止パネルシートにおいて、
建物の周囲に追従して変形可能な可撓性があり非透水性のシートと、
前記シートの下端部であり、折り曲げ可能とされたつば部と、
前記シートに覆われ、所定幅を有し、前記シートの長手方向に間隔を置いて配置された複数枚の板状のパネルと、
を備え、
前記パネルは前記シートに固定されており、
前記建物に設置する際、前記つば部を折り曲げて地面側に敷設し、前記パネルを前記建物側に立て掛けることを特徴とする浸水防止パネルシート。
【請求項2】
前記つば部の地面側となる面に前記シートより柔軟性の高い弾性体である下ゴムシートが設けられていることを特徴とする請求項1に記載の浸水防止パネルシート。
【請求項3】
前記シートの上部の左右両端に前記シートより柔軟性の高い弾性体である角部ゴムシートがそれぞれ配置され、前記角部ゴムシートは前記建物の角部に設置されることを特徴とする請求項1または2に記載の浸水防止パネルシート。
【請求項4】
前記シートの左右両端に接続ファスナが設けられ、複数の前記浸水防止パネルシートが前記接続ファスナ同士で接続されることにより、前記浸水防止パネルシートが長手方向に複数接続されることを可能とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の浸水防止パネルシート。
【請求項5】
前記シートの左右両端に前記シートより柔軟性の高い弾性体であり、浸水防止パネルシート同士を接続するとき、互いの密着を確実にする端部ゴムシートが設けられたことを特徴とする請求項4に記載の浸水防止パネルシート。
【請求項6】
前記シートを設置したときの高さHが50〜100cm、長さLが200〜300cm、前記つば部の幅Mが30〜50cmとされたことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の浸水防止パネルシート。
【請求項7】
前記シートの上端部に展開部を設け、前記展開部を持ち上げて前記シートの高さを大きくして前記建物側に立て掛け可能としたことを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の浸水防止パネルシート。
【請求項8】
前記パネルと前記シートの対応する位置にカシメ穴が設けられ、前記カシメ穴にブラインドリベットが挿入され、前記パネルと前記シートとが共に固定されていることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の浸水防止パネルシート。
【請求項9】
前記つば部の地面側となる面にゴム又はゴムスポンジとされた下ゴムシートが設けられたことを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の浸水防止パネルシート。
【請求項10】
前記下ゴムシートは前記つば部に接着又は融着されていることを特徴とする請求項9に記載の浸水防止パネルシート。
【請求項11】
前記シートは化学繊維の織物を含んだ膜材料であり、その表面にポリ塩化ビニルがコーティングされた防水シートであることを特徴とする請求項1〜10のいずれか1項に記載の浸水防止パネルシート。
【請求項12】
前記パネルの材質は樹脂製であり、前記シートの剛性よりも大きいことを特徴とする請求項1〜11のいずれか1項に記載の浸水防止パネルシート。
【請求項13】
前記パネルは袋状となった前記シートの中に配置されていることを特徴とする請求項1〜12のいずれか1項に記載の浸水防止パネルシート。
【請求項14】
前記パネルの下部が前記シートに固定されていることを特徴とする請求項1〜13のいずれか1項に記載の浸水防止パネルシート。
【請求項15】
前記展開部の高さは前記シートを設置したときの高さHと同等以下とされたことを特徴とする請求項7に記載の浸水防止パネルシート。
【請求項16】
前記シートの上端部と前記展開部との間に高さ折り曲げ部を設け、前記展開部まで水圧を受けた際に前記高さ折り曲げ部が変形するようにしたことを特徴とする請求項7に記載の浸水防止パネルシート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、台風、大雨、洪水、河川の決壊等の水害緊急時に家屋、工場などの建物に対して浸水を防止する浸水防止パネルシートに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、水害緊急時、特に現実的に被害の多い床下浸水、床上浸水程度の災害時において、浸水被害の防止策として、地盤を嵩上げしたり、土壌を積んだり、建物の開口部に防水板を設置したり、建物の周りを可撓性防水シートで取り囲んだりするようなことが行われている。
【0003】
また、建物等の開口部に設けられた開閉扉からの浸水を防止するため、開閉扉の前にシートを設置、あるいはその周囲と構造物とを一体に覆うことで、適切に止水し、水害による建物内部の被害を軽減すること、シートを保持部材によって保持し、保持部材を着脱自在とすることが知られ、例えば特許文献1に記載されている。
【0004】
さらに、必要な時に短時間で施工を完了させ、浸水の危険が去った後においては簡単に現状に復帰させるため、可撓性があり、ロール状の浸水防止シートを引き出しながら家屋等の外壁、シャッター、ドア、扉や玄関などを取り囲んで沿わせること、浸水防止シートに粘着手段又は接着手段を設けることが、例えば特許文献2に記載されている。
【0005】
さらに、防水シートの設置が容易で、迅速かつ確実に水の浸入を遮断できるように、防水シートを水密状態で固定できる縁加工構造とするため、可撓性防水シート材を自立形成支持するシート支持具を備え、係留金具を係留金具基礎の床部に固定し、係留金具に接する係留縁部に、弾性部材が装着された板状断面の帯芯材と係留フックと止水用リブを構成して、防水シートを水の圧力及び重さで圧着させることが特許文献3に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2014−231705号公報
【特許文献2】特開2013−151856号公報
【特許文献3】特開2008−88791号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記従来技術において、特許文献1に記載のものでは、保持部材を要するため、開閉扉等の決まった場所だけに設置するには良いが、異なる場所、建物を取り囲むように設置するなどにおいて柔軟性、汎用性が有るとは言い難く、浸水の危険が去った後の保管場所等の収納性も十分ではない。
【0008】
特許文献2に記載のものは、浸水防止シートを家屋等の外壁などを取り囲んで沿わせる際に、特に角部において密着性が十分でなく、浸水を防ぐには不十分であり、より改善が必要とされる。
【0009】
また、ロール状のシートを引き出して水平方向に曲げ、全幅の部分を家屋の壁面に沿って立ち上げる作業は、シート自体に剛体がないため、一人で作業することが困難であり、手助けを必要とする。そして、上端部に粘着層が必要であるなど、不要になったときの片付けにおいても、短時間で簡単にできるとは言い難かった。
【0010】
特許文献3に記載のものも同様であるばかりでなく、シートとは別体となったシート支持具を必要とするなどにより設置の容易性、収納性に難点があった。
【0011】
本発明の目的は、上記従来技術の課題を解決し、建物等への浸水をより確実に防ぎ、設置及び片付けが一人でも短時間で可能なように簡単にし、凹凸のあるような外壁等にも対応してより柔軟性を持たせると共に、一般家庭等でも災害に備えること、折り畳んで収納することも容易にすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するため、本発明は、建物に設置して浸水を防止する浸水防止パネルシートにおいて、建物の周囲に追従して変形可能な可撓性があり非透水性のシートと、前記シートの下端部であり、折り曲げ可能とされたつば部と、前記シートに覆われ、所定幅を有し、前記シートの長手方向に間隔を置いて配置された複数枚の板状のパネルと、を備え、前記建物に設置する際、前記つば部を折り曲げて地面側に敷設し、前記パネルを壁側に立て掛けるものである。なお、所定幅とは過去の水害状況において、被害の多い床下浸水、床上浸水程度の浸水深さに余裕寸法を加算し、あまり重たくならない範囲で決定される幅寸法を意味している。
【0013】
また、上記のものにおいて、前記つば部の地面側となる面に前記シートより柔軟性の高い弾性体である下ゴムシートが設けられていることが好ましい。
下ゴムシートは、地面の凹凸に沿って変形し、地面の凹凸によって生じる隙間からの水の浸入を防止できる弾性体で構成することができ、それら弾性体すべてが本発明の下ゴムシートに含まれるものであるが、それら弾性体の中で特に、クロロプレンゴム、クロロプレンゴムスポンジ、ニトリルゴム(NBR)、NBR系ゴムスポンジが望ましい。
【0014】
さらに、上記のものにおいて、前記シートの上部の左右両端に前記シートより柔軟性の高い弾性体である角部ゴムシートがそれぞれ配置され、前記角部ゴムシートは前記建物の角部に設置されることが好ましい。
角部ゴムシートは、凹凸に応じて変形し、凹凸の隙間を塞ぎうる弾性体すべてをその範囲として含むが、特に、クロロプレンゴム、クロロプレンゴムスポンジ、ニトリルゴム(NBR)、NBR系ゴムスポンジが望ましい。
【0015】
さらに、上記のものにおいて、前記シートの左右両端に接続ファスナが設けられ、複数の前記浸水防止パネルシートが前記接続ファスナ同士で接続されることにより、前記浸水防止パネルシートが長手方向に複数接続されることを可能とすることが好ましい。
【0016】
さらに、上記のものにおいて、前記シートの左右両端に前記シートより柔軟性の高い弾性体であり、浸水防止パネルシート同士を接続するとき、互いの密着を確実にする端部ゴムシートが設けられたことが好ましい。
端部ゴムシートは、凹凸に応じて変形し、凹凸の隙間を塞ぎうる弾性体すべてをその範囲として含むが、特に、クロロプレンゴム、クロロプレンゴムスポンジ、ニトリルゴム(NBR)、NBR系ゴムスポンジが望ましい。
【0017】
さらに、上記のものにおいて、前記シートを設置したときの高さHが50〜100cm、長さLが200〜300cm、前記つば部の幅Mが30〜50cmとされたことが好ましい。
【0018】
さらに、上記のものにおいて、前記シートの上端部に展開部を設け、前記展開部を持ち上げて前記シートの高さを大きくして前記建物側に立て掛け可能としたことが好ましい。
【0019】
さらに、上記のものにおいて、前記パネルは前記シートに固定されていることが好ましい。
【0020】
さらに、上記のものにおいて、前記パネルと前記シートの対応する位置にカシメ穴が設けられ、前記カシメ穴にブラインドリベットが挿入され、前記パネルと前記シートとが共に固定されていることが好ましい。
【0021】
さらに、上記のものにおいて、前記つば部の地面側となる面にゴム又はゴムスポンジとされた下ゴムシートが設けられたことが好ましい。
下ゴムシートは、凹凸に応じて変形し、凹凸の隙間を塞ぎうる弾性体すべてをその範囲として含むが、特に、クロロプレンゴム、クロロプレンゴムスポンジ、ニトリルゴム(NBR)、NBR系ゴムスポンジが望ましい。
【0022】
さらに、上記のものにおいて、前記下ゴムシートは前記つば部に接着又は融着されていることが好ましい。
【0023】
さらに、上記のものにおいて、前記シートは化学繊維の織物を含んだ膜材料であり、その表面にポリ塩化ビニルがコーティングされた防水シートであることが好ましい。
【0024】
さらに、上記のものにおいて、前記パネルの材質は樹脂製であり、前記シートの剛性よりも大きいことが好ましい。
【0025】
さらに、上記のものにおいて、前記パネルは袋状となった前記シートの中に配置されていることが好ましい。
【0026】
さらに、上記のものにおいて、前記パネルの下部が前記シートに固定されていることが好ましい。
【0027】
さらに、上記のものにおいて、前記展開部の高さは前記シートを設置したときの高さHと同等以下とされたことが好ましい。
【0028】
さらに、上記のものにおいて、前記シートの上端部と前記展開部との間に高さ折り曲げ部を設け、前記展開部まで水圧を受けた際に前記高さ折り曲げ部が変形するようにしたことが好ましい。
【発明の効果】
【0029】
本発明の浸水防止パネルシートは、非透水性のシートの下端部につば部を設け、シートに間隔を置いて複数枚の板状のパネルを配置し、つば部を折り曲げて地面側に敷設し、前記パネルを建物の壁側に立て掛けるので、設置が簡単となり収納も容易となると共に、水圧を受けた際に、シート全体に力が確実に掛かり、浸水を防ぐのに十分な建物への密着性が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】本発明の実施形態に係る浸水防止パネルシートの主要部を示す正面図。
【
図2】実施形態に係る浸水防止パネルシートを建物に装着した状態を示す斜視図。
【
図4】実施形態に係る浸水防止パネルシートの裏面図。
【
図5】実施形態に係る浸水防止パネルシートの接続状態を示す斜視図。
【
図6】実施形態に係る浸水防止パネルシートを折り畳む途中を示す斜視図。
【
図7】実施形態に係る浸水防止パネルシートの収納状態を示す斜視図。
【
図8】本発明の他の実施形態に係る浸水防止パネルシートの主要部を示す正面図。
【
図9】他の実施形態に係る浸水防止パネルシートの主要部の斜視図。
【
図11】他の実施形態に係る浸水防止パネルシートを建物に装着した状態を示す斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下に、本発明の実施形態に係るシートとパネルとを組み合わせた浸水防止パネルシート(AFPシート:Anti Flood Panel Tarpaulin)について図面を参照して詳細に説明する。この実施形態により発明が限定されるものでなく、実施形態における構成要素には当業者が容易に想定できるもの、あるいは実質的に同一のものも含まれる。
<実施形態1>
【0032】
図1は、本発明の浸水防止パネルシートの主要部を示す正面図(一部は斜視図)、
図2は浸水防止パネルシートを建物(又は家屋)30の壁に装着した例を示す斜視図である。
図1及び
図2を参照して、シート1は非透水性、遮水性であり、物体の表面形状に、特に建物30の周囲、柱等に追従して変形することができる十分な可撓性を有している。また、シート1は、樹脂材料で構成されることが好ましく、産業資材の用途で使用されている高密な織物からなる膜材料であってもよいし、織物に樹脂材料が覆われたものであっても良い。また、シート1を構成する織物に用いられる繊維基材としては、高強力で、耐水性、耐腐食性が良好であるナイロン、ポリエステル、あるいはガラスなどの化学繊維が望ましく、その表面の接着可能性を考慮すると、シート1は繊維基材にポリ塩化ビニルがコーティングされた防水シートであるターポリンが適している。
【0033】
シート1の鉛直方向の高さHは、被害の多い床下浸水、床上浸水程度の浸水深さに余裕寸法を加算して、設置の容易性の点であまり重くならない範囲の60〜70cm、70cm前後が良い。長さLは家屋等を取り巻くことができることが望ましいが、複数を接続、連結して長くして使用することを可能とし、取扱いの容易さを考慮した長さ、200〜300cm、250cm程度が良い。なお、高さHは浸水防止パネルシートを壁に設置した際の高さである。
【0034】
シート1の下端部であり、地面と接触する底面には、少なくともシート1の表面に対して180度以上折り曲げ可能とされたつば部3が設けられ、その幅Mは土嚢、レンガを重りとして乗せられるように30〜50cm、40cm前後とされている。
【0035】
また、シート1に覆われて板状とされた複数枚のパネル2が長さ方向に間隔を置いて配置され、パネル2の幅PLは10〜20cm、略15cmであり、間隔は4〜6cm、略5cmとし、シート1を長さ方向で折り畳むことを可能とし、屋内、軒下などに収納するのに適切な大きさとなっている。パネル2の高さ方向の寸法は、シート1の鉛直方向の高さH、つまり、シート1の上端部からつば部3の折り曲げ位置までの寸法と同等若しくはそれ以下であり、
図1に示すようにパネル2の上端部がシート1の上端部側に、ほぼ一致するように配置されている。
パネル2の下端は、つば部3との折り曲げ位置付近となるシート下部6まで到達している。これにより、建物30に立てかけるだけで自立することができ、外側から水圧を受けた際に、パネル2に力が確実に掛かると共に、シート1が壁側へ変形し、シート1全体が建物30へしっかりと密着するように働く。
【0036】
図3は
図1の縦断面を示し、シート1は上下がコの字形となった袋状となっており、その中にパネル2が配置され、その材質は水により腐食されないように塩ビ、ポリアセタール、ABS等の樹脂製であることが望ましく、その厚さはシート1の剛性よりも大きくなるように1〜2cmとしている。パネル2の下側はシート1の立ち上り部7で覆われ、パネル2、シート1の対応する位置、一枚のパネル2で2か所にカシメ穴が設けられ、ブラインドリベット8を穴に挿入しハンドリベッタで片側からの作業でパネル2、シート1を共にカシメ結合し固定している。ブラインドリベット8を用いるので浸水の恐れがない。ブラインドリベット8の材質は、アルミニウム、ステンレスであることが浸水に対して腐食を防ぐ点で望ましい。
【0037】
つば部3の下にはシート1に比べてより柔軟性の高い弾性体である下ゴムシート5が接着されている。シート1と下ゴムシート5との接着には塩化ビニル樹脂用の接着剤が望ましい。下ゴムシート5の厚さは設置個所となる地面の凹凸に沿うように1〜2cmであることが好ましい。また、下ゴムシート5は、地面の凹凸に沿って変形し、地面の凹凸によって生じる隙間からの水の浸入を防止できる弾性体で構成することができ、それら弾性体すべてが本発明の下ゴムシート5に含まれるものであるが、それら弾性体の中で特に、クロロプレンゴム、クロロプレンゴムスポンジ、ニトリルゴム(NBR)、NBR系ゴムスポンジが望ましい。
【0038】
図4は浸水防止パネルシートの裏面側を示し、建物側となる面である。下ゴムシート5はつば部3をほぼ覆うように下部がつば部3の幅と同じであり、上部はシート下部6の中央部まで延伸し、幅がつば部3よりも大きくT字形となっている。また、シート1の左右両端には下ゴムシート5と同じ材質、同じ厚さの角部ゴムシート9がそれぞれ配置されている。この角部ゴムシート9は建物等に浸水防止パネルシートを設置する際、柱等の角部に当て設置する部分となる。
図4のように角部ゴムシート9は、高さ方向で上端から下端部に至るまでとして角部からの浸水を確実に防止している。ここで、つば部3の幅(長手方向)をシート1の幅(長手方向)に合わせた構成とすることもできる。この場合、下ゴムシート5は、上部がシート下部6の幅(長手方向)と同じで、下部がつば部3の幅と同じ、即ち、長方形状になる。
【0039】
なお、
図4では左右両端に角部ゴムシート9をそれぞれ設けているが、シート1に左右の角部ゴムシート9を長手方向に繋げて設けても良い。また、角部ゴムシート9とシート1とは、シート1と下ゴムシート5との接着と同様に、塩化ビニル樹脂用の接着剤で接着することが望ましい。
【0040】
その他、浸水防止パネルシートには、左右両端部にハトメ穴10が高さ方向に数か所、4〜8個設けられ、収納するときに折り畳んだ後、紐などを通して縛ることに用いられる。さらに、
図1に示すように、本発明の浸水防止パネルシートの表面(
図1で示す面)には、その図面視左側端部の中央寄りに下ゴムシート5と同様の材質とされた端部ゴムシート4が、それより端部側に接続ファスナ11がそれぞれ配置されている。浸水防止パネルシートの裏面(
図4で示す面)には、
図4に示すように、その
図4図面視左側端部(
図1図面視では右側端部)の中央寄りに接続ファスナ11が、それより端部側に下ゴムシート5と同様の材質とされた端部ゴムシート4がそれぞれ配置されている。それら接続ファスナ11と、端部ゴムシート4は、シート1に接着あるいは高周波融着されており、浸水防止パネルシートを複数個長手方向に接続して利用する際に用いられる。
ここで、
図1に示される端部ゴムシート4と接続ファスナ11の位置は、入れ替わって配置されても良く、その場合は、
図4においても端部ゴムシート4と接続ファスナ11の位置が入れ替わって配置されることになる。
【0041】
なお、接続ファスナ11、端部ゴムシート4の高さはシート1の鉛直方向の高さHにほぼ等しく、接続ファスナ11は浸水防止パネルシートの貼り合わせに、端部ゴムシート4は接続部の密着を確実にするものである。
【0042】
複数の浸水防止パネルシートを接続する際は、1つ目の浸水防止パネルシートの表面の接続ファスナ11と、2つ目の浸水防止パネルシートの裏面の接続ファスナ11とを接続する。この際、1つ目の浸水防止パネルシートの表面の端部ゴムシート4と、2つ目の浸水防止パネルシートの裏面の端部ゴムシート4とが、対向して接触し、互いに押圧することになるので、1つ目の浸水防止パネルシートと2つ目の浸水防止パネルシートとの接続部からの浸水を防ぐことができる。同様にして、複数の浸水防止パネルシートをいくつでも接続することができる。
【0043】
浸水防止パネルシートの建物30への装着は、柱等の角部から開始することができる。つば部3を建物30の壁に対して垂直に折り曲げ、地面側に下ゴムシート5を介して水平に沿うように敷設し、つば部3の端部をほぼ角部に合わせる。シート1の残りの部分を立ち上げてパネル2を壁側に寄り掛けるようにして立て掛ける。このとき、パネル2の下側がシート1に固定されているので、パネル2はより壁側に倒れるようになる。
【0044】
次に、つば部3の端部の上に、まず、重りとして、土嚢、レンガ等を置く。そして、折り畳んだ状態からパネル2を持ってシート1を蛇腹状に繰り出して長さ方向へ伸ばして壁に沿わせて行く。このとき、パネル2は壁側に倒れて寄り添って立つので、シート1だけではしわ無く伸ばすのに一人では困難で手助けが必要であったものが、一人で簡単に壁側に立てかけることで装着が可能となる。
【0045】
また、パネル2は複数枚が長さ方向に間隔を置いて配置されているので、板を単に、壁側に立て掛けたものと異なり、密着性、遮水性を損なうことがない。
【0046】
さらに、下ゴムシート5の厚さと、その材質の柔軟性により、地面側に砂利が敷き詰められているような凹凸があったとしても沿うようになり、適切に変形、屈曲して隙間を閉塞することができる。また、舗装されているような場合には、摩擦力が大きくなり、水圧や風圧に対して抵抗力となる。
【0047】
壁に立て掛けた浸水防止パネルシートの上端部に配置された角部ゴムシート9を建物30の角部に当てる。これにより、柱部に凹凸があっても隙間を埋めることができ、建物30で浸水の恐れが最も高い角からの浸水を効果的に防ぐことができる。また、水圧が強くなれば、より一層に密着することとなる。
【0048】
シート1を伸ばした後、つば部3の上に長手方向に適宜、数か所、重りを置いて行く。建物30の入口等で浸水する場所が限られている場合には、一つの浸水防止パネルシートで長さが足りるので、これで作業は終了する。実際に、水圧を受けるようになれば、パネル2が既に壁に寄り添って立っているので、より密着することになる。建物30の浸水領域として全体に設置する必要がある場合は浸水防止パネルシートを長さ方向に接続していく。
【0049】
図5は、接続部を示す斜め上方から見た斜視図であり、手前側の浸水防止パネルシートと後側の浸水防止パネルシートの接続ファスナ11が重なるように位置合わせされる。接続ファスナ11は布に特殊な加工をした面的に着脱できる面ファスナ、又は粘着性のあるシート状のものであり、接続ファスナ11が重なることでそれぞれの端部ゴムシート4が重なる。したがって、接続ファスナ11の貼り合わせにより、さらには水圧によって接続部が隙間なく圧密され、水の浸入を遮断できる。また、多少の位置ずれが有ったとしても端部ゴムシート4の幅によって重なる部分が残り実用上の問題はなく、接続、取り外しも容易に行うことができる。ここで、接続ファスナ11は、長手方向に垂直な方向が開口しているコの字形状のものであっても良い。このコの字形状同士が互いに嵌合することにより接続されることができる。
【0050】
図6、7は浸水防止パネルシートの収納状態を示す斜視図であり、
図6は蛇腹状に折り畳みを開始した状態、
図7は最終的な収納状態を示している。つば部3はパネル2が設けられていないので、図のように二つ折りしてシート1と重ねることができる。パネル2は間隔を置いて配置されるので、隣接したパネル2の間は可撓性のあるシート1であり、蛇腹状に折り畳んで行くことができる。これにより、シート1を広げる必要もなく、狭い場所で収納操作が可能となる。最終的には
図7に示すように直方体状にすることができ、ハトメ穴10に紐などを通してしっかりと緻密にすることができるので、保管スペースも小さくて済み、複数重ねて収納することも容易となる。
【0051】
以上のように、本発明の浸水防止パネルシートによれば、大雨洪水警報がでた時点、あるいは浸水の恐れが現実的になった時点で、一人、あるいは二人位の少人数で取り出して、短時間に設置することができる。また、一般的な家屋では木造が多く、水害に対する抵抗力が乏しいが、浸水に備えて貴重品や水濡れによって使用不能となるような電気製品等を2階に慌てて運ぶ必要もなく、時間的な余裕もできる。なお、住居用の一般的な家屋に限らず、集合住宅、車庫、倉庫、工場、店舗等あるいは一般的に構造物の開口部の浸水を防止する止水板に効果を高めるために、補助的に適用できるのは言うまでもない。
<実施形態2>
【0052】
図8は、他の実施形態における浸水防止パネルシートの主要部を示す正面図(一部は斜視図)、
図9は水かさが低く、床上浸水程度の使用状態から高さ方向に展開する状態を示す斜視図、
図11は水かさが増す恐れがある場合、浸水防止パネルシートを建物(又は家屋)30の壁に装着した例を示す斜視図である。各図において、実施形態1と同一部分には同一符号を付して説明を省略し、異なる部分の詳細を主に説明する。
ここで、
図8においては、
図1における接続ファスナ11と端部ゴムシート4との位置が入れ替わった形態を示している。
【0053】
シート1は非透水性、遮水性であり、建物30の周囲、柱等に追従して変形することができる十分な可撓性を有している。
図1の浸水防止パネルシートに対して展開部15を設けた点が主に異なる。シート1の鉛直方向の高さHは、被害の多い床下浸水、床上浸水程度の浸水深さを基準にして決定されるが、展開部15の高さGは、浸水深さがそれ以上に予想される場合を考慮して決められる。通常は、高さHと同程度、あるいはその半分の長さとするのが実用上において適している。
【0054】
シート1に覆われて長さ方向に間隔を置いて配置されたパネル2に対して、幅、間隔が同じとなるように補助パネル14が配置されている。また、補助パネル14とパネル2との間にはいずれのパネルも無いシート1の高さ折り曲げ部13となっている。したがって、収納時には高さ折り曲げ部13で高さ方向に折り畳み、次に、シート1全体をパネル2と共に長さ方向に折り畳むことができる。
【0055】
また、床上浸水程度の浸水深さが予想される場合は、
図9に示すように、高さ折り曲げ部13で高さ方向に折り畳んで
図1のものと同様に、補助パネル14を建物30の壁に立て掛けて設置する。浸水深さが大きいと予想される場合は、
図9で矢印方向に補助パネル14を持って展開部15を持ち上げる。
【0056】
補助パネル14の高さは、パネル2の高さと同じ、あるいはその半分の長さとすることでも良く、設置の容易さの点、実用上の点だけでなく、補助パネル14とパネル2とを共通部品として低価格化する点でも適している。
【0057】
図10は、
図8において高さ折り曲げ部13で折り曲げた状態の縦断面を示している。
図10に示すように、シート1はつば部3から出発し、凹部が下向きのコの字を形成し、コの字の平行2辺にそれぞれパネル2と補助パネル14が配置されるように袋状に形成されている。補助パネル14の材質はパネル2と同じであることが好ましいが、その厚さはパネル2よりも薄くして軽くすることが望ましい。また、補助パネル14もシート1にブラインドリベット8でカシメ結合され固定されることが好ましいが、その位置は
図10に示すように、高さ折り曲げ部13側とする。これにより、壁に立て掛ける点、水圧を受けた際に建物へより密着し易くなる点で望ましい。
【0058】
図11は浸水防止パネルシートの展開部15を展開して建物(又は家屋)30の壁に設置した状態を示し、展開部15まで水圧を受けた際に、補助パネル14に力が確実に掛かると共に、高さ折り曲げ部13が壁側へ変形し、展開部15が建物30へしっかりと密着するように働く。
図11においては、実施形態1で備えている角部ゴムシート9が記載されていないが、実施形態2においても角部ゴムシート9を備えた方が好ましいことは言うまでもない。
【0059】
上記によれば、床上浸水程度の浸水深さに対して水かさが増す恐れがある場合に対応できるばかりでなく、浸水経過にしたがって、後からでも防水高さを高くすることが一人でも簡単にでき、収納状態もそれにより大きくなることもない。
【符号の説明】
【0060】
1 シート
2 パネル
3 つば部
4 端部ゴムシート
5 下ゴムシート
6 シート下部
7 立ち上り部
8 ブラインドリベット
9 角部ゴムシート
10 ハトメ穴
11 接続ファスナ
13 高さ折り曲げ部
14 補助パネル
15 展開部
30 建物
【要約】
【課題】建物等への水の浸水をより確実に防ぎ、設置及び片付けを簡単にし、凹凸のあるような外壁等にも対応してより柔軟性を持たせると共に、折り畳んで収納することも容易にする。
【解決手段】建物30へ設置して浸水を防止する浸水防止パネルシートにおいて、建物30の周囲に追従して変形可能な可撓性があり非透水性のシート1と、シート1の下端部であり、折り曲げ可能とされたつば部3と、シート1に覆われ、所定幅を有し、長さ方向に間隔を置いて配置された複数枚の板状のパネル2と、を備え、建物30に設置する際、つば部3を折り曲げて地面側に敷設し、パネル2を壁側に立て掛ける。
【選択図】
図1