特許第5763870号(P5763870)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5763870フィルダム管理支援装置、フィルダム管理支援方法およびプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5763870
(24)【登録日】2015年6月19日
(45)【発行日】2015年8月12日
(54)【発明の名称】フィルダム管理支援装置、フィルダム管理支援方法およびプログラム
(51)【国際特許分類】
   G01M 3/04 20060101AFI20150723BHJP
【FI】
   G01M3/04 Z
【請求項の数】7
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-516359(P2015-516359)
(86)(22)【出願日】2013年10月24日
(86)【国際出願番号】JP2013078827
【審査請求日】2015年3月31日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000211307
【氏名又は名称】中国電力株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】一色国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】仁科 晴貴
(72)【発明者】
【氏名】横田 英嗣
(72)【発明者】
【氏名】大山 裕聡
(72)【発明者】
【氏名】玉井 信也
(72)【発明者】
【氏名】二岡 克己
(72)【発明者】
【氏名】浅間 康史
【審査官】 萩田 裕介
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−085285(JP,A)
【文献】 特許第4366829(JP,B2)
【文献】 特開昭64−063835(JP,A)
【文献】 特許第4369065(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 3/00 − 3/40
E02B 7/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィルダムの管理を支援する装置であって、
前記フィルダムからの漏水に含まれる溶存イオン量に応じた値であるイオン値を取得するイオン値取得部と、
前記漏水に係る漏水量を取得する漏水量取得部と、
前記イオン値および前記漏水量に応じて前記フィルダムに異常が発生したことを検知する異常検知部と、
を備えることを特徴とするフィルダム管理支援装置。
【請求項2】
請求項1に記載のフィルダム管理支援装置であって、
過去の前記漏水の実績値および前記溶存イオン量の実績値を記憶する実績値記憶部と、
前記異常検知部は、前記漏水の実績値および前記溶存イオン量の実績値に基づいて、前記漏水量および前記溶存イオン量の関係を表す関係式を作成する関係式作成部と、
をさらに備え、
前記異常検知部は、前記取得したイオン値を前記関係式に適用して前記漏水量の理論値を算出し、前記取得した漏水量と前記漏水量の理論値との差に応じて前記異常が発生したことを検知すること、
を特徴とするフィルダム管理支援装置。
【請求項3】
請求項2に記載のフィルダム管理支援装置であって、
前記実績値記憶部はさらに前記貯水位の実績値、前記降水量の実績値および前記漏水の温度の実績値を記憶し、
前記漏水量を目的変数とし、前記イオン値、前記フィルダムの貯水位、降水量および前記漏水の温度を説明変数として含む関係モデルを記憶する関係モデル記憶部と、
前記貯水位を取得する貯水位取得部と、
前記降水量を取得する降水量取得部と、
前記漏水の温度を取得する漏水温取得部と、
をさらに備え、
前記関係式作成部は、前記漏水量の実績値、前記イオン値の実績値、前記降水量の実績値、前記貯水位の実績値、前記降水量の実績値および前記漏水の温度の実績値と前記関係モデルとに基づいて回帰分析を行い、前記説明変数についての回帰係数を推計し、推計した前記回帰係数を前記関係モデルに設定して前記関係式を作成すること、
を特徴とするフィルダム管理支援装置。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項に記載のフィルダム管理支援装置であって、
前記イオン値は、前記溶存イオン量または前記漏水の電気伝導度であること、
を特徴とするフィルダム管理支援装置。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1項に記載のフィルダム管理支援装置であって、
前記異常検知部は、前記差が所定の閾値を超えた場合に前記異常を検知すること、
を特徴とするフィルダム管理支援装置。
【請求項6】
フィルダムの管理を支援する方法であって、
コンピュータが、
前記フィルダムからの漏水に含まれる溶存イオン量に応じた値であるイオン値を取得するステップと、
前記漏水に係る漏水量を取得するステップと、
前記イオン値および前記漏水量に応じて前記フィルダムに異常が発生したことを検知するステップと、
を実行することを特徴とするフィルダム管理支援方法。
【請求項7】
フィルダムの管理を支援するためのプログラムであって、
コンピュータに、
前記フィルダムからの漏水に含まれる溶存イオン量に応じた値であるイオン値を取得するステップと、
前記漏水に係る漏水量を取得するステップと、
前記イオン値および前記漏水量に応じて前記フィルダムに異常が発生したことを検知するステップと、
を実行させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルダム管理支援装置、フィルダム管理支援方法およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
フィルダムにおける大きな災害の主原因の一つにパイピングがある。パイピングとは土粒子の自重および加わっている荷重からなる応力に比べて、堤体内を流れる地下水のもたらす浸透力が上回り、土中に筒状の浸食が生じる現象である。このような災害を未然に発見するべく堤体の定期的な観測が行われている。たとえば、特許文献1には、比抵抗トモグラフィ法を経時的に実施して堤体の異常部位を検出する手法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−338258号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の手法では、堤体内の遮水部に予め電極を埋設しておく必要があり、電極を埋設していないフィルダムの異常を検出することはできない。
【0005】
本発明は、このような背景を鑑みてなされたものであり、容易にフィルダムの異常を検出することのできる、フィルダム管理支援装置、フィルダム管理支援方法およびプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための本発明の主たる発明は、フィルダムの管理を支援する装置であって、前記フィルダムからの漏水に含まれる溶存イオン量に応じた値であるイオン値を取得するイオン値取得部と、前記漏水に係る漏水量を取得する漏水量取得部と、前記イオン値および前記漏水量に応じて前記フィルダムに異常が発生したことを検知する異常検知部と、を備えることとする。
【0007】
また、本発明のフィルダム管理支援装置は、過去の前記漏水の実績値および前記溶存イオン量の実績値を記憶する実績値記憶部と、前記異常検知部は、前記漏水の実績値および前記溶存イオン量の実績値に基づいて、前記漏水量および前記溶存イオン量の関係を表す関係式を作成する関係式作成部と、をさらに備え、前記異常検知部は、前記取得したイオン値を前記関係式に適用して前記漏水量の理論値を算出し、前記取得した漏水量と前記漏水量の理論値との差に応じて前記異常が発生したことを検知するようにしてもよい。
【0008】
また、本発明のフィルダム管理支援装置では、前記実績値記憶部はさらに前記貯水位の実績値、前記降水量の実績値および前記漏水の温度の実績値を記憶し、前記漏水量を目的変数とし、前記イオン値、前記フィルダムの貯水位、降水量および前記漏水の温度を説明変数として含む関係モデルを記憶する関係モデル記憶部と、前記貯水位を取得する貯水位取得部と、前記降水量を取得する降水量取得部と、前記漏水の温度を取得する漏水温取得部と、をさらに備え、前記関係式作成部は、前記漏水量の実績値、前記イオン値の実績値、前記降水量の実績値、前記貯水位の実績値、前記降水量の実績値および前記漏水の温度の実績値と前記関係モデルとに基づいて回帰分析を行い、前記説明変数についての回帰係数を推計し、推計した前記回帰係数を前記関係モデルに設定して前記関係式を作成するようにしてもよい。
【0009】
また、本発明のフィルダム管理支援装置では、前記イオン値は、前記溶存イオン量または前記漏水の電気伝導度であるようにしてもよい。
【0010】
また、本発明のフィルダム管理支援装置では、前記異常検知部は、前記差が所定の閾値を超えた場合に前記異常を検知するようにしてもよい。
【0011】
また、本発明の他の態様は、フィルダムの管理を支援する方法であって、コンピュータが、前記フィルダムからの漏水に含まれる溶存イオン量に応じた値であるイオン値を取得するステップと、前記漏水に係る漏水量を取得するステップと、前記イオン値および前記漏水量に応じて前記フィルダムに異常が発生したことを検知するステップと、を実行することとする。
【0012】
また、本発明の他の態様は、フィルダムの管理を支援するためのプログラムであって、コンピュータに、前記フィルダムからの漏水に含まれる溶存イオン量に応じた値であるイオン値を取得するステップと、前記漏水に係る漏水量を取得するステップと、前記イオン値および前記漏水量に応じて前記フィルダムに異常が発生したことを検知するステップと、を実行させることとする。
【0013】
その他本願が開示する課題やその解決方法については、発明の実施形態の欄および図面により明らかにされる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、容易にフィルダムの異常を検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】ロックフィルダムの構造を説明する図である。
図2】漏水中の溶存イオンを表す図である。
図3】本実施形態のダム管理支援装置10のハードウェア構成例を示す図である。
図4】本実施形態のダム管理支援装置10のソフトウェア構成例を示す図である。
図5】実績値記憶部132の構成例を示す図である。
図6】ロックフィルダムの異常を検知する処理の流れを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
==本実施形態の概要==
以下、本発明の一実施形態に係るダム管理支援装置10について説明する。本実施形態のダム管理支援装置10は、ロックフィルダムの異常を検知する。図1はロックフィルダムの構造を説明する図である。ロックフィルダムでは、堤体1の内部には遮水のためのコア2が設けられ、その両面にコア2を支えるフィルタ3が設けられる。その外側にはコア2およびフィルタ3を支えるロック4が設けられる。
【0017】
ロックフィルダムの異常として、たとえばパイピングが知られている。パイピングが生じる前兆として、貯水池から堤体1内のコア2を通過して堤体1下流に現れる漏水量が増加する。もっとも、降雨時にはロック4の上のリップラップを通過した雨水が漏水として混入することがあり、漏水量が多くても、必ずしもロックフィルダムにパイピングなどの異常が生じたとは限らない。
【0018】
しかしながら、一般に雨水に含まれる溶存イオンは少なく、一方ロックフィルダムからの漏水には浸透経路の地質の化学的組成および浸透時間に応じて溶存イオンが豊富に含まれる。したがって、図2に示すように、降雨時には漏水量が増加しつつも漏水における溶存イオン量が減少することになる。そこで、漏水量が多く、かつ、溶存イオン量が多い場合に、パイピング等によるロックフィルダムに異常が発生したと判定することができる。
【0019】
ここで、漏水量が多い場合とは、たとえば、漏水量が所定値以上となった場合や、漏水量の任意の単位時間あたりの増加量が所定値以上となった場合を含む。また、溶存イオン量が多い場合とは、溶存イオン量が所定の閾値以上となった場合を含む。所定の閾値は、漏水の温度(以下、漏水温という。)、降水量、気温、融雪量、貯水池の水位(以下、貯水位という。)、貯水池への流入量などに応じた値とすることができる。
【0020】
本実施形態では、漏水の電気伝導度を、溶存イオン量を表す値とし、過去の実績値から電気伝導度と漏水量との関係式を予め求めておき、漏水量と電気伝導度を測定して、測定した漏水量が、測定した電気伝導度を当該関係式に当てはめて求めた漏水量の理論値よりも所定値以上多くなった場合に、ロックフィルダムに異常が発生したものと判定する。これにより、堤体1の内部に電極等を設けることなく、堤体1からの漏水に着目してロックフィルダムの異常を検知することができる。
【0021】
図3は本実施形態のダム管理支援装置10のハードウェア構成例を示す図である。ダム管理支援装置10は、CPU101、メモリ102、記憶装置103、入力装置105、出力装置106を備える。記憶装置103は、各種のデータやプログラムを記憶する、たとえばハードディスクドライブやソリッドステートドライブ、フラッシュメモリなどである。入力装置105は、データを入力する、たとえばキーボードやマウス、タッチパネル、ボタン、マイクロフォンなどである。出力装置106は、データを出力する、たとえばディスプレイやプリンタ、スピーカなどである。
【0022】
図4は本実施形態のダム管理支援装置10のソフトウェア構成例を示す図である。ダム管理支援装置10は、漏水量取得部111、漏水温取得部112、降水量取得部113、貯水位取得部114、電気伝導度取得部115、関係式作成部116、漏水量理論値算出部117、異常検知部118、関係モデル記憶部131、実績値記憶部132を備える。
【0023】
なお、漏水量取得部111、漏水温取得部112、降水量取得部113、貯水位取得部114、電気伝導度取得部115、関係式作成部116、漏水量理論値算出部117および異常検知部118は、ダム支援装置10の備えるCPU101が記憶装置103に記憶されているプログラムをメモリ102に読み出して実行することにより実現され、関係モデル記憶部131および実績値記憶部132はダム支援装置10の備えるメモリ102および記憶装置103が提供する記憶領域の一部として実現される。
【0024】
関係モデル記憶部131は、電気伝導度と漏水量との関係を表す関係モデルを記憶する。本実施形態では関係モデルは、漏水量を目的変数とし、漏水の温度(以下、漏水温という。)、降水量、貯水池の水位(以下、貯水位という。)および漏水の電気伝導度を説明変数とする統計モデルである。関係モデルは次式(1)により表される。

ここで、Qは漏水量であり、Tは当日の漏水温、Ri(i=0〜28)はi日前の降水量、Wi(i=0〜28)はi日前の貯水位、Eは電気伝導度、X00およびX0は定数、Xj(j=0〜15)は偏回帰係数である。
【0025】
実績値記憶部132は、漏水量、漏水温、降水量、貯水位および電気伝導度のそれぞれの実績値を記憶する。図5は実績値記憶部132の構成例を示す図である。同図に示すように、実績値記憶部132は、日付に対応付けて、漏水量、漏水温、降水量、貯水位および電気伝導度のそれぞれの実績値を記憶する。
【0026】
漏水量取得部111は、漏水量の測定値を取得する。漏水量取得部111は、流量計などの計測器から測定された漏水量を取得するようにしてもよいし、入力装置105を介してユーザから漏水量の入力を入力装置105から受け付けるようにしてもよい。また、漏水量取得部111は、他のコンピュータが記憶している漏水量をそのコンピュータにアクセスして取得するようにしてもよい。漏水量取得部111は、現在の日付に対応付けて、取得した漏水量を実績値として実績値記憶部132に登録する。
【0027】
漏水温取得部112は、漏水温の測定値を取得する。漏水温取得部112は、水温計などの計測器から測定された漏水温を取得するようにしてもよいし、入力装置105を介してユーザから漏水温の入力を受け付けるようにしてもよい。また、漏水温取得部112は、他のコンピュータが記憶している漏水温をそのコンピュータにアクセスして取得するようにしてもよい。漏水温取得部112は、現在の日付に対応付けて、取得した漏水温を実績値として実績値記憶部132に登録する。
【0028】
降水量取得部113は、降水量を取得する。降水量取得部113は、雨量計などの計測器から測定された降水量を取得するようにしてもよいし、気象庁や気象会社などが運用するコンピュータから降水量の測定値を取得するようにしてもよいし、入力装置105を介してユーザから降水量の入力を受け付けるようにしても良い。また、降水量取得部113は、他のコンピュータが記憶している降水量をそのコンピュータにアクセスして取得するようにしてもよい。降水量取得部113は、現在の日付に対応付けて、取得した降水量を実績値記憶部132に登録する。
【0029】
貯水位取得部114は、貯水位を取得する。貯水位取得部114は、水位計などの計測器から測定された貯水位を取得するようにしてもよいし、入力装置105を介してユーザから貯水位の入力を受け付けるようにしてもよい。また、貯水位取得部114は、他のコンピュータが記憶している貯水位をそのコンピュータにアクセスして取得するようにしてもよい。貯水位取得部114は、現在の日付に対応付けて、取得した貯水位を実績値記憶部132に登録する。
【0030】
電気伝導度取得部115は、漏水についての電気伝導度の測定値を取得する。電気伝導度取得部115は、電気伝導度測定器から測定された電気伝導度を取得するようにしてもよいし、入力装置105を介してユーザから電気伝導度の入力を受け付けるようにしてもよい。電気伝導度取得部115は、現在の日付に対応付けて、取得した電気伝導度を実績値として実績値記憶部132に登録する。
【0031】
なお、漏水量取得部111、漏水温取得部112、降水量取得部113、貯水位取得部114および電気伝導度取得部115は、定期的に漏水量、漏水温、降水量、貯水位および電気伝導度を取得して実績値記憶部132に登録するものとする。
【0032】
関係式作成部116は、電気伝導度に基づいて漏水量を算出する関係式を作成する。関係式作成部116は、関係モデル記憶部131に記憶されている関係モデルと、実績値記憶部132に記憶されている実績値とを用いて、重回帰分析により偏回帰係数Xjおよび定数X00,X0を算出し、算出した偏回帰係数Xjおよび定数X00,X0を上記関係モデルに適用して関係式を作成する。関係式作成部116は、作成した関係式を関係モデル記憶部131に登録する。なお、関係式作成部116は、所定の期間(たとえば1日、1週間、1ヶ月など任意の期間とすることができる。)ごとに関係式を作成して関係モデル記憶部131に記憶される関係式を更新するものとする。
【0033】
漏水量理論値算出部117は、電気伝導度に応じて漏水量の理論値を算出する。漏水量理論値算出部117は、現在の日付に対応する漏水温、降水量、水位および電気伝導度を実績値記憶部132から読み出し、読み出した値を関係モデル記憶部131に記憶されている関係式に適用して漏水量の理論値を算出する。
【0034】
異常検知部118は、漏水量および電気伝導度に応じてロックフィルダムの異常を検知する。異常検知部118は、漏水量の実績値と理論値との差に応じてロックフィルダムに異常が発生したことを検知する。また、異常検知部118は、異常を検知した場合には、たとえばディスプレイに表示したり、スピーカから警報音を出力したりして、その旨をユーザに報知する。
【0035】
図6は、ロックフィルダムの異常を検知する処理の流れを示す図である。なお、図6の処理は、定期的に行うようにしてもよいし、ユーザからの指示に応じて行うようにしてもよい。
【0036】
漏水量理論値算出部117は、現在の日付に対応する漏水量、漏水温、降水量、貯水位および電気伝導度の実績値を読み出し(S201)、読み出した実績値を関係式に適用して漏水量の理論値を算出する(S202)。異常検知部118は、実績値が理論値に所定の閾値を加算した値よりも大きい場合に(S203:YES)、ロックフィルダムの異常を検知してその旨を報知する(S204)。実績値が理論値に閾値を加算した値以下であった場合には(S204:NO)、異常検知部118は、ロックフィルダムに異常はないと判断して処理を終了する。
【0037】
以上説明したように、本実施形態のダム管理支援装置10によれば、ロックフィルダムからの漏水に係る漏水量および電気伝導度(溶存イオン量)に応じてロックフィルダムの異常を検知することができる。したがって、ロックフィルダムに電極等を配置することなく、ロックフィルダムの異常検知を行うことができるので、既存のロックフィルダムに対して本発明を容易に適用することが可能となる。
【0038】
また、上述したように、堤体1中の浸透時間などによっても溶存イオン量は変化することから、漏水量が多い場合と少ない場合とでは同じ溶存イオン量であってもその意味するところが異なることがあるところ、本実施形態のダム管理支援装置10によれば、過去の実績値に基づいて漏水量と電気伝導度(溶存イオン量)との関係式を予め求めておき、関係式を用いて算出した漏水量の理論値と、漏水量の測定値との差に応じてロックフィルダムの異常を検知することができる。したがって、漏水量に応じて精度良くロックフィルダムの異常を検知することが可能となる。
【0039】
また、本実施形態では、関係式には、電気伝導度のみならず、漏水温、降水量および貯水位も説明変数として含まれている。漏水温の高低により地質から漏水へのイオンの溶出は変化し、また降水量が多ければ溶存イオンの少ない水が漏水に混入する。また、ロックフィルダムでは堤体1の内部への浸透水は0(ゼロ)にはならないことが考えられ、貯水位が高ければ堤体1からの漏水量も必然的に増加することになる。したがって、漏水量を求める関係式の説明変数として、電気伝導度に加えて漏水温、降水量および貯水位も含めることにより、漏水量の理論値をより正確に求めることが可能となる。よって、理論値と測定値とに基づく異常判定をより正確に行うことができる。加えて、漏水量、漏水温および漏水の電気伝導度は、ロックフィルダムからの漏水について流量計、温度計、電気伝導度測定器などを用いて測定することが可能であり、降水量および貯水位についても、ロックフィルダムの構造とは関係なく測定が可能である。したがって、堤体1の内部に電極などを設けることなく、堤体1を監視することができる。よって、予め電極などを配していないロックフィルダムであっても、パイピングなどの異常を監視することができる。
【0040】
また、本実施形態のダム管理支援装置10によれば、過去の実績値から重回帰分析により漏水温、降水量、貯水位および電気伝導度と漏水量との関係式を作成し、漏水温、降水量、貯水位および電気伝導度をこの関係式に適用した理論値と実績値との差に応じてロックフィルダムの異常を検知することができる。したがって、降水量や温度によって変化する溶存イオン量にも柔軟に対応することが可能となり、精度良く異常を検知することができる。
【0041】
なお、本実施形態では、関係モデルに偏回帰係数および定数を当てはめた関係式を予め作成するものとしたが、これに限らず、関係式を予め作成せず、偏回帰係数Xjおよび定数X00,X0を記憶しておき、漏水量の理論値を算出するたびに、偏回帰係数Xjおよび定数X00,X0ならびに実績値を関係モデルに適用するようにしてもよい。
【0042】
また、本実施形態では、ダム管理支援装置10は1台のコンピュータであるものとしたが、これに限らず、複数台のコンピュータが仮想的に1台のコンピュータを実現するようにしてもよいし、複数台のコンピュータがダム管理支援装置10の機能部および記憶部を分散して備えるようにしてもよい。たとえば、記憶部を別体のデータベースサーバとして実現するようにしてもよい。
【0043】
また、本実施形態では、漏水量、漏水温、降水量、貯水位および電気伝導度の実績値は定期的に取得して実績値記憶部132に登録しているものとしたが、これに限らず、実績値記憶部132には過去の実績値を予め登録しておくものの、追加は行わないようにしてもよい。この場合、関係式作成部116は、予め登録されている過去の実績値を重回帰分析することにより関係式を1度のみ作成し、漏水量理論値算出部117は、最新の実績値を関係式に適用して漏水量の理論値を計算する。
【0044】
また、本実施形態では、関係式作成部116は、定期的に関係式を作成して更新するものとしたが、これに限らず、過去の実績値に基づいて1度のみ作成するようにしてもよいし、オペレータからの指示に応じて関係式を作成するようにしてもよい。また、実績値が所定の日数分実績値記憶部131に登録されたときに関係式作成部116が関係式を作成するようにしてもよい。
【0045】
また、本実施形態では、関係モデルは、漏水量を目的変数とし、漏水温、降水量、貯水位および電気伝導度を説明変数とする統計モデルであるものとしたが、これに限らず、たとえば、説明変数として電気伝導度のみを用いるようにしてもよいし、説明変数として、降水量と電気伝導度のみを用いるようにしてもよい。すなわち、目的変数が漏水量であり、説明変数に漏水の電気伝導度が含まれていればどのような統計モデルを用いてもよい。
【0046】
たとえば、関係モデルの説明変数に融雪量を加えてもよい。この場合、関係モデルは次式(1’)のようにすることができる。

ここで、Pi(i=0〜28)はi日前の真の降水量であり、Mi(i=0〜28)はi日前の融雪量である。真の降水量とは、降水量から降雪量を差し引いた値である。このように融雪量を説明変数として加えることにより、融雪の影響を考慮した関係式とすることができる。これにより、漏水量の理論値の妥当性を向上することができる。
【0047】
以上、本実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に、本発明にはその等価物も含まれる。
【符号の説明】
【0048】
1 堤体
2 コア
3 フィルタ
4 ロック
111 漏水量取得部
112 漏水温取得部
113 降水量取得部
114 貯水位取得部
115 電気伝導度取得部
116 関係式作成部
117 漏水量理論値算出部
118 異常検知部
131 関係モデル記憶部
132 実績値記憶部
【要約】
【課題】容易にフィルダムの異常を検出することができるようにする。
【解決手段】ダム管理支援装置10は、ロックフィルダムからの漏水に含まれる溶存イオン量に応じた値である電気伝導度と漏水量とを取得し、電気伝導度および漏水量に応じてロックフィルダムに異常が発生したことを検知する。
図1
図2
図3
図4
図5
図6