(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5763882
(24)【登録日】2015年6月19日
(45)【発行日】2015年8月12日
(54)【発明の名称】移植臓器保護剤
(51)【国際特許分類】
A61K 38/22 20060101AFI20150723BHJP
A61P 37/06 20060101ALI20150723BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20150723BHJP
【FI】
A61K37/24
A61P37/06
A61P43/00 101
【請求項の数】2
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2009-504020(P2009-504020)
(86)(22)【出願日】2008年3月7日
(86)【国際出願番号】JP2008054133
(87)【国際公開番号】WO2008111503
(87)【国際公開日】20080918
【審査請求日】2011年3月7日
【審判番号】不服2013-21540(P2013-21540/J1)
【審判請求日】2013年11月5日
(31)【優先権主張番号】特願2007-59632(P2007-59632)
(32)【優先日】2007年3月9日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】515018013
【氏名又は名称】鈴木 宏志
(74)【代理人】
【識別番号】100140109
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 新次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100075270
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 泰
(74)【代理人】
【識別番号】100101373
【弁理士】
【氏名又は名称】竹内 茂雄
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100157923
【弁理士】
【氏名又は名称】鶴喰 寿孝
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 宏志
(72)【発明者】
【氏名】斉藤 英樹
【合議体】
【審判長】
田村 明照
【審判官】
大久保 元浩
【審判官】
大宅 郁治
(56)【参考文献】
【文献】
特表2005−502584(JP,A)
【文献】
国際公開第2005/063965(WO,A1)
【文献】
Eur.J.Biochem.Vol.194,pp.457−462(1990)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 38/00−49/22
REGISTRY/CAPLUS/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
JSTPLUS/JST7580/JMEDPLUS(Jdream2)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アシアロ化されたエリスロポエチンを有効成分として含有する、移植臓器の生着促進用組成物であって、
前記組成物を移植臓器に直接投与することを特徴とし、そして前記移植臓器が卵巣である、前記組成物。
【請求項2】
移植臓器の、被移植対象への生着を促進するための医療用組成物を製造するためのアシアロ化されたエリスロポエチンの使用であって、
前記組成物を移植臓器に直接投与することを特徴とし、そして前記移植臓器が卵巣である、前記使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な移植臓器保護用組成物、特に移植臓器の生着促進効果を有する組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
エリスロポエチン(以下においてEPOと記載することもある)は、赤血球系前駆細胞の分化、増殖を促進する酸性糖タンパク質ホルモンであり、主として腎臓から産生される。EPOは生体の赤血球の恒常性維持において中心的な役割を担っており、臨床的にはEPOは貧血の治療や術前術後の管理に利用されている。
【0003】
EPOは、造血因子としての働きの他に、神経系細胞、心筋細胞、腎尿細管上皮細胞などでアポトーシス抑制や組織保護の作用をすることが知られている(PNAS 100:4802-4806, 2003他)。EPOの有するこのような2つの作用は、EPOが2つの異なるシグナル伝達経路によって作用するためであると考えられている。EPOがEPO受容体のホモダイマーに作用すると、細胞内のJAK2シグナル伝達経路を通じて造血作用を及ぼす。一方、EPOがEPO受容体とcommonβ受容体(βcR)とのヘテロダイマーに作用すると、細胞内のERK1/2シグナル伝達経路を通じて抗アポトーシス作用を及ぼす(PNAS 101:14907-14912, 2004)。
【0004】
近年、臓器移植手術が行われているが、臓器移植手術のために臓器提供者(ドナー)から摘出された移植用臓器は、血流が途絶し血流を介した酸素の供給がない状態(虚血状態)で、移植まで数分から数十時間保存される。このために、保存温度や保存液などの保存条件が適切に選択されなかったり、移植までに長時間を要すると、移植によって移植臓器内の血流が回復した際(再灌流時)に、移植臓器に基質的あるいは機能的な障害が生じる場合がある。
【0005】
これまでに移植臓器保護剤として、アミノベンゼンスルホン酸誘導体(WO 2004/022545)、4−トリフルオロメチルピリミジン誘導体(特開2005-350363)、プリン誘導体(特開2005-350364)等が知られている。
【0006】
しかしながら、EPOによる移植臓器に対する保護効果は知られていない。また、生着促進効果を有する移植臓器保護剤も知られていない。
【非特許文献1】PNAS 100:4802-4806, 2003
【非特許文献2】PNAS 101:14907-14912, 2004
【特許文献1】WO 2004/022545
【特許文献2】特開2005-350363
【特許文献3】特開2005-350364
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、新規な移植臓器保護用組成物、特に移植臓器の生着促進効果を有する組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を解決するために鋭意研究した結果、エリスロポエチンが移植臓器保護作用、特に移植臓器の生着促進効果を有することを見出して本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明は以下のものを提供する。
(1)エリスロポエチンを有効成分として含有する、移植臓器保護用組成物。
(2)エリスロポエチンを有効成分として含有する、移植臓器の生着促進用組成物。
(3)エリスロポエチンを有効成分として含有する、移植臓器保存用組成物。
(4)上記エリスロポエチンがアシアロ化されたエリスロポエチンである(1)〜(3)のいずれかに記載の組成物。
(5)エリスロポエチンを有効成分として含有する組成物を移植臓器に直接投与する工程を含む、移植臓器を移植時の再灌流障害から保護する方法。
(6)エリスロポエチンを有効成分として含有する組成物を移植臓器に直接投与する工程を含む、移植臓器の、被移植対象への生着を促進する方法。
(7)移植臓器を移植時の再灌流障害から保護するための医療用組成物を製造するためのエリスロポエチンの使用。
(8)移植臓器の、被移植対象への生着を促進するための医療用組成物を製造するためのエリスロポエチンの使用。
【発明の効果】
【0010】
後述する実施例に示すように、本発明の組成物は、移植時の血液再灌流によって生じる障害から移植臓器を保護し、被移植対象への生着の促進効果を示す。本発明の組成物は、移植する臓器に直接EPOを投与することで上記の効果を得ることができる。特にアシアロEPOの場合には優れた効果を確認することができた。
【0011】
また、移植臓器の保存用組成物としても使用することにより、移植後に、移植臓器の保護、生着の促進が考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】移植後の卵巣における0.64平方mmあたりの平均卵胞数および移植前卵巣の卵胞数に対する残存率を示すグラフである。結果は、平均±標準偏差で示す。星印は、試験群の間に有意差があることを示す(*:p<0.05)。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
エリスロポエチン
本発明に用いるエリスロポエチンは、どのようなエリスロポエチンでも用いることができるが、好ましくは高度に精製されたエリスロポエチンであり、より具体的には、哺乳動物EPO、特にヒトEPOと実質的に同じ生物学的活性を有するものである。
【0014】
本発明で用いるエリスロポエチンは、いかなる方法で製造されたものでもよく、例えば、ヒト由来の抽出物から精製して得られた天然のヒトEPO(特公平1-38800号公報、など)や、あるいは遺伝子工学的手法により大腸菌、イースト菌、チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO細胞)、C127細胞、COS細胞、ミエローマ細胞、BHK細胞、昆虫細胞、などに産生せしめ、種々の方法で抽出し分離精製したヒトEPOなどを用いることができる。本発明において用いられるエリスロポエチンは、遺伝子工学的手法により製造されたEPOが好ましく、哺乳動物細胞(特にCHO細胞)を用いて製造されたEPOが好ましい(例えば、特公平1-44317号公報、Kenneth Jacobs et al., Nature, 313 806-810 (1985)、など)。
【0015】
遺伝子組換え法により得られるエリスロポエチンには、天然由来のEPOとアミノ酸配列が同じであるもの、あるいは該アミノ酸配列中の1または複数のアミノ酸を欠失、置換、付加等したもので、天然由来のEPOと同様の生物学的活性を有するもの等であってもよい。アミノ酸の欠失、置換、付加などは当業者に公知の方法により行うことが可能である。例えば、当業者であれば、部位特異的変異誘発法(Gotoh, T. et al. (1995) Gene 152, 271-275;Zoller, M.J. and Smith, M. (1983) Methods Enzymol. 100, 468-500;Kramer, W. et al. (1984) Nucleic Acids Res. 12, 9441-9456;Kramer, W. and Fritz, H.J. (1987) Methods Enzymol. 154, 350-367;Kunkel, T.A. (1985) Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 82, 488-492;Kunkel (1988) Methods Enzymol. 85, 2763-2766)などを用いて、EPOのアミノ酸に適宜変異を導入することにより、EPOと機能的に同等なポリペプチドを調製することができる。また、アミノ酸の変異は自然界においても生じうる。一般的に、置換されるアミノ酸残基においては、アミノ酸側鎖の性質が保存されている別のアミノ酸に置換されることが好ましい。例えばアミノ酸側鎖の性質としては、疎水性アミノ酸(A、I、L、M、F、P、W、Y、V)、親水性アミノ酸(R、D、N、C、E、Q、G、H、K、S、T)、脂肪族側鎖を有するアミノ酸(G、A、V、L、I、P)、水酸基含有側鎖を有するアミノ酸(S、T、Y)、硫黄原子含有側鎖を有するアミノ酸(C、M)、カルボン酸及びアミド含有側鎖を有するアミノ酸(D、N、E、Q)、塩基含有側鎖を有するアミノ離(R、K、H)、芳香族含有側鎖を有するアミノ酸(H、F、Y、W)を挙げることができる(括弧内はいずれもアミノ酸の一文字標記を表す)。あるアミノ酸配列に対する1又は複数個のアミノ酸残基の欠失、付加及び/又は他のアミノ酸による置換により修飾されたアミノ酸配列を有するポリペプチドがその生物学的活性を維持することはすでに知られている(Mark, D.F. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA (1984) 81, 5662-5666;Zoller, M.J. & Smith, M. Nucleic Acids Research (1982) 10, 6487-6500;Wang, A. et al., Science 224, 1431-1433;Dalbadie-McFarland, G. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA (1982) 79, 6409-6413)。
【0016】
又、本発明のエリスロポエチンとして、EPOと他のタンパク質との融合タンパク質を用いることも可能である。融合ポリペプチドを作製するには、例えば、EPOをコードするDNAと他のタンパク質をコードするDNAをフレームが一致するように連結してこれを発現ベクターに導入し、宿主で発現させればよい。本発明のエリスロポエチンとの融合に付される他のタンパク質は、特に限定されない。
【0017】
又、本発明のエリスロポエチンとして、化学修飾したEPOを用いることも可能である。化学修飾したEPOの例として、例えば、ポリエチレングリコール等により化学修飾されたEPO(WO90/12874など)、糖鎖のついていないEPOをポリエチレングリコール等により化学修飾したもの、その他、ビタミンB12等、無機あるいは有機化合物等の化合物を結合させたEPOなどを挙げることができる。
【0018】
さらに、本発明のエリスロポエチンとしてEPO誘導体を用いることも可能である。EPO誘導体とは、EPO分子中のアミノ酸を修飾したEPO又はEPO分子中の糖鎖を修飾したEPOのことをいう。
【0019】
EPO分子中の糖鎖の修飾としては、糖鎖の付加、置換、欠失などが含まれる。本発明において好ましい糖鎖の修飾としては、EPO分子中のシアル酸の欠失を挙げることができる。
【0020】
通常、組換え動物細胞により生産したEPO、尿由来のEPOのいずれも、糖鎖構造の異なる多様なEPOを含むEPO組成物として得られる。EPO組成物中のEPO分子に付加しているシアル酸の数は、個々のEPO分子によって異なるが、通常、1つのEPO分子に11個〜15個のシアル酸が付加している。これらのシアル酸を除去することによりアシアロ化されたEPO(アシアロEPO)を作製することが可能である。アシアロ化の際に除去されるシアル酸の数は特に限定されず、全てのシアル酸を除去してもよいし、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、又は14個のシアル酸を除去してもよい。本発明において好ましいアシアロEPOは、EPO分子に付加しているシアル酸の数が10個以下であり、さらに好ましくは5個以下であり、特に好ましくは2個以下である。なお、本発明において用いられるシアル酸の数は、EPO組成物に含まれているEPO分子の平均数を用いる。1分子あたりのシアル酸の平均は当業者に公知の方法によって測定することが可能である(EP0428267公報、など)。
【0021】
シアル酸が除去されたEPO(アシアロEPO)は当業者に公知の方法で作製することができ、例えば、シアリダーゼなどの酵素でEPOを処理すること等により作製することが可能である。シアリダーゼは市販されているものを用いることが可能である。(特表2005-507426号、Nobuo Imai et al., Eur.J.Biochem, 194, 457-462 (1990)、など)
さらには、本発明のエリスロポエチンは、糖鎖改変体EPOであってもよく、これにはEPOのN末端にシアル酸が付着した糖鎖改変体EPOであるNESP(Novel Erythropoietin Stimulating Protein: WO85/02610、WO91/05867,WO95/05465等に記載)などの糖鎖の改変されたEPO類似体が挙げられる。
【0022】
EPO分子中のアミノ酸の修飾としては、カルバミル化、ビオチン化、アミジン化、アセチル化、グアニジン化、などを挙げることができる。
【0023】
修飾されるアミノ酸残基は特に限定されず、例えば、リジン、アルギニン、グルタミン酸、トリプトファンなどを挙げることができる。
組成物
本発明の組成物には、必要に応じて、懸濁剤、溶解補助剤、安定化剤、等張化剤、保存剤、吸着防止剤、界面活性剤、希釈剤、賦形剤、pH調整剤、無痛化剤、緩衝剤、含硫還元剤、酸化防止剤等を適宜添加することができる。
【0024】
懸濁剤の例としては、メチルセルロース、ポリソルベート80、ヒドロキシエチルセルロース、アラビアゴム、トラガント末、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート等を挙げることができる。
【0025】
溶液補助剤としては、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリソルベート80、ニコチン酸アミド、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、マグロゴール、ヒマシ油脂肪酸エチルエステル等を挙げることができる。
【0026】
安定化剤としては、デキストラン40、メチルセルロース、ゼラチン、亜硫酸ナトリウム、メタ亜硫酸ナトリウム等を挙げることができる。
【0027】
また、安定化剤としてある種のアミノ酸を添加することも可能である(例えば、特開平10-182481号公報など)。安定化剤として添加されるアミノ酸には、遊離のアミノ酸、そのナトリウム塩、カリウム塩、塩酸塩などの塩などが含まれる。アミノ酸は1種又は2種以上を組み合わせて添加することができる。安定化剤として添加されるアミノ酸は特に限定されないが、好ましいアミノ酸としては、ロイシン、トリプトファン、セリン、グルタミン酸、アルギニン、ヒスチジン、リジンを挙げることができる。
【0028】
等張化剤としては例えば、D−マンニトール、ソルビート等を挙げることができる。
【0029】
保存剤としては例えば、パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸エチル、ソルビン酸、フェノール、クレゾール、クロロクレゾール等を挙げることができる。
【0030】
吸着防止剤としては例えば、ヒト血清アルブミン、レシチン、デキストラン、エチレンオキサイド・プロピレンオキサイド共重合体、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリエチレングリコール等を挙げることができる。
【0031】
界面活性剤としては、非イオン界面活性剤、例えばソルビタンモノカプリレート、ソルビタンモノラウレート、ソルビタンモノパルミテート等のソルビタン脂肪酸エステル;グリセリンモノカプリレート、グリセリンモノミリテート、グリセリンモノステアレート等のグリセリン脂肪酸エステル;デカグリセリルモノステアレート、デカグリセリルジステアレート、デカグリセリルモノリノレート等のポリグリセリン脂肪酸エステル;ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノパルミテート、ポリオキシエチレンソルビタントリオレエート、ポリオキシエチレンソルビタントリステアレート等のポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル;ポリオキシエチレンソルビットテトラステアレート、ポリオキシエチレンソルビットテトラオレエート等のポリオキシエチレンソルビット脂肪酸エステル;ポリオキシエチレングリセリルモノステアレート等のポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル;ポリエチレングリコールジステアレート等のポリエチレングリコール脂肪酸エステル;ポリオキシエチレンラウリルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルエーテル;ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンプロピルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンセチルエーテル等のポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル;ポリオキシエチエレンノニルフェニルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル;ポリオキシエチレンヒマシ油、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油(ポリオキシエチレン水素ヒマシ油)等のポリオキシエチレン硬化ヒマシ油;ポリオキシエチレンソルビットミツロウ等のポリオキシエチレンミツロウ誘導体;ポリオキシエチレンラノリン等のポリオキシエチレンラノリン誘導体;ポリオキシエチレンステアリン酸アミド等のポリオキシエチレン脂肪酸アミド等のHLB6〜18を有するもの;陰イオン界面活性剤、例えばセチル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、オレイル硫酸ナトリウム等の炭素原子数10〜18のアルキル基を有するアルキル硫酸塩;ポリオキシエチレンラウリル硫酸ナトリウム等の、エチレンオキシドの平均付加モル数が2〜4でアルキル基の炭素原子数が10〜18であるポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩;ラウリルスルホコハク酸エステルナトリウム等の、アルキル基の炭素原子数が8〜18のアルキルスルホコハク酸エステル塩;天然系の界面活性剤、例えばレシチン、グリセロリン脂質;スフィンゴミエリン等のフィンゴリン脂質;炭素原子数12〜18の脂肪酸のショ糖脂肪酸エステル等を典型的例として挙げることができる。本発明の製剤には、これらの界面活性剤の1種または2種以上を組み合わせて添加することができる。好ましい界面活性剤は、ポリソルベート20,40,60又は80などのポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルであり、ポリソルベート20及び80が特に好ましい。また、ポロキサマー(プルロニックF−68(登録商標)など)に代表されるポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコールも好ましい。
【0032】
含硫還元剤としては例えば、N−アセチルシステイン、N−アセチルホモシステイン、チオクト酸、チオジグリコール、チオエタノールアミン、チオグリセロール、チオソルビトール、チオグリコール酸及びその塩、チオ硫酸ナトリウム、グルタチオン、炭素原子数1〜7のチオアルカン酸等のスルフヒドリル基を有するもの等が挙げられる。
【0033】
酸化防止剤としては例えば、エリソルビン酸、ジブチルヒドロキシトルエン、ブチルヒドロキシアニソール、α−トコフェロール、酢酸トコフェロール、L−アスコルビン酸及びその塩、L−アスコルビン酸パルミテート、L−アスコルビン酸ステアレート、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、没食子酸トリアミル、没食子酸プロピルあるいはエチレンジアミン四酢酸二ナトリウム(EDTA)、ピロリン酸ナトリウム、メタリン酸ナトリウム等のキレート剤が挙げられる。
【0034】
さらには、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、炭酸水素ナトリウムなどの無機塩;クエン酸ナトリウム、クエン酸カリウム、酢酸ナトリウムなどの有機塩などの通常添加される成分を含んでいてもよい。
【0035】
本発明のエリスロポエチン含有組成物における、有効成分の含有量は、移植臓器 の状態や大きさ、患者(移植者、非移植者)の症状、体重、年齢や性別等を考慮して適宜各有効成分毎に決定する。通常、10〜1000U/kg体重、好ましくは100〜600U/kg体重程度である。
【0036】
本発明のエリスロポエチン含有組成物は、被移植者(レシピエント)に対する移植手術中および/または術前・術後において被移植者に投与することができるが、好ましくは、移植臓器に直接投与することによって本発明の効果を得ることができる。投与は、移植者(ドナー)から摘出した臓器を移植前に当該組成物に直接接触させることで投与してもよいし、下記実施例に記載のように、スポンジ等に染み込ませて投与することもできる。また、移植前の保存液として使用してもよい。保存液の添加物として、例えば、生理食塩水、リン酸緩衝生理食塩水、クエン酸緩衝液などの生理的に許容される緩衝液や等張化液を用いることができる。また従来から移植用臓器の保存液として臨床的に用いられているユーロ・コリンズ液やUW液などと併用することも可能である。
【実施例】
【0037】
実施例1:凍結融解イヌ卵巣の異種移植時におけるEPOおよびアシアロEPOの投与効果
(1)目的
凍結融解イヌ卵巣をNOD-SCIDマウスの卵巣嚢内に異種移植した場合、イヌ卵巣の生着は高頻度に認められるが、移植後の血管再生前に原始卵胞の70%が死滅するという報告があり、またイヌ同種移植試験におけるイヌ卵巣においても原始卵胞およびその他の卵胞が移植前の卵巣より減少する傾向が観察された。
【0038】
そこで、EPOおよびアシアロEPOを局所投与し、移植後のイヌ卵巣の原始卵胞減少の抑制効果について検討した。
(2)材料と方法
4ヶ月齢のイヌの卵巣を、凍結融解しNOD-SCIDマウスの卵巣嚢内に移植した。凍結融解操作はMigishimaらの方法(Migishima F et al., Biol Reprod 2003 Mar;68(3):881-7)に準拠して行い、卵巣移植はIshijimaらの方法(Ishijima T et al., J Reprod Dev. 2006 Apr;52(2):293-9)に従って行った。
(2.1)凍結操作
イヌ卵巣組織を1.0mm-1.5mm角に細切し、室温下の1M DMSOに60秒程度浸漬した後、5μlの1M DMSOと共にクライオチューブ内へいれ、氷上にて5分冷却した。あらかじめ氷上で冷却しておいた95μlのDAP213を添加した後、氷上にて5分冷却し、液体窒素中に浸漬した。
(2.2)融解操作
液体窒素中よりチューブを取り出し、チューブ内の液体窒素を捨て、室温にて60秒放置した。37℃に加温しておいた900μlの0.25Mスクロースを添加し、すばやく緩やかにピペッティングし、PBIで5回洗浄した。
【0039】
また、摘出したイヌ卵巣の一部は移植前卵巣として、10%ホルマリンにて固定した。
(2.3)移植方法
マウス(n=9)はネンブタール腹腔内投与で麻酔後、背面を切開し卵巣を引き出した。卵巣側部の脂肪から切り込みを入れ、卵巣嚢内のマウス卵巣を、移植後のイヌ卵巣への血流確保のため、一部を残すように取り除き、そこ(卵巣嚢内)へ凍結融解したイヌ卵巣を入れた。その際、止血用スポンジ(以下スポンゼル)にEPO(n=3)およびアシアロEPO(n=3)を400U/kg染み込ませたものを卵巣嚢内に入れた。また、コントロールとして生理食塩水を使用し、同等量スポンゼルに染み込ませ、卵巣嚢内に入れた。
【0040】
4週間後、卵巣を取り出し、10%ホルマリンにて固定し、移植前卵巣とともにHE染色に供した。
(2.4)切片作成と卵胞検索
卵胞の分類はOktayら(Oktay K et al., Biol Reprod.1995 Aug;53(2):295-301)の分類に準拠し、卵子(卵母細胞)の実質が確認できるものについて以下の要領で数えた。
【0041】
原始卵胞(Primordial)は、卵母細胞が部分的あるいは完全に扁平な前顆粒膜細胞に覆われているもの;初期1次卵胞(Early primary)は、前顆粒膜細胞の少なくともひとつが円柱状に(巨大に)なっているもの;1次卵胞(Primary)は、すべての顆粒膜細胞が大きくなり、1層の顆粒膜細胞で成っているもの;初期2次卵胞(Transitional)は1〜2層の円柱状の顆粒膜細胞で覆われているもの;2次卵胞(Preantral)は、2層以上の顆粒膜細胞で覆われており、卵胞腔がない状態のもの;胞状卵胞(Antral follicle)は、2層以上の顆粒膜細胞で覆われており、卵胞腔を伴う状態のもの、とした。
(2.4.1)移植前卵巣組織
組織をランダムに10個選択し、その10組織について卵胞を数えた。選択したそれぞれの組織の一番卵胞が多い直径900μmの円の中、つまり0.64平方mm視野の卵胞を数えた(計10視野)。これを移植前卵胞数とした。
(2.4.2)移植卵巣組織
1組織(1ブロック)について段階的に5枚切片を作成した。その際の切片と切片は40μm〜50μmの間隔であった。その1切片のうち、一番卵胞が多い直径900μmの円の中、つまり0.64平方mm視野の卵胞を数えた(計5視野)。
(3)結果
得られた結果を表1および
図1に示す。
【0042】
【表1】
移植前の卵巣における0.64平方mmあたりの原始卵胞数は平均14.8個であったのに対し、移植後4週の無処理群では0.3個、EPO群では0.4個、およびアシアロEPO群では3.9個と特にアシアロEPO群の残存率(27%)が無処理群(2.3%)と比較して有意に高い値であった。
【0043】
また、初期一次卵胞については、無処理群の残存率が10.1%であったのに対し、EPO群では15.2%、アシアロEPO群では157.6%を示した。特にアシアロEPO群においては、原始卵胞の一部が初期一次卵胞へ成長していることが明確に示唆されている。さらに、一次卵胞、初期二次卵胞の残存率においても、特にアシアロEPO群が無処理群と比較して高い傾向を認めた。
【0044】
以上の成績より、EPO、特にアシアロEPO投与は移植臓器組織の生着に有効に利用し得ると判断された。