特許第5763887号(P5763887)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5763887
(24)【登録日】2015年6月19日
(45)【発行日】2015年8月12日
(54)【発明の名称】銅カラム及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 23/50 20060101AFI20150723BHJP
   H05K 1/18 20060101ALI20150723BHJP
【FI】
   H01L23/50 P
   H05K1/18 H
【請求項の数】4
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2010-39096(P2010-39096)
(22)【出願日】2010年2月24日
(65)【公開番号】特開2011-176124(P2011-176124A)
(43)【公開日】2011年9月8日
【審査請求日】2012年5月15日
【審判番号】不服2014-14872(P2014-14872/J1)
【審判請求日】2014年7月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】000199197
【氏名又は名称】千住金属工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001209
【氏名又は名称】特許業務法人山口国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】千葉 豊
(72)【発明者】
【氏名】埜本 信一
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 光司
【合議体】
【審判長】 水野 恵雄
【審判官】 酒井 朋広
【審判官】 関谷 隆一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−249598(JP,A)
【文献】 特開平08−241950(JP,A)
【文献】 特開2002−009433(JP,A)
【文献】 特開2002−289761(JP,A)
【文献】 特開2000−030558(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L23/12-23/15
H01L23/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅線を所定の径にするために伸線する伸線工程と、
前記伸線工程で伸線した銅線を所定の長さに切断する切断工程と、
前記切断工程で切断されたカラム本体部としての銅線の長手方向の一端に向かってハンマを衝突させることにより、前記カラム本体部よりも大きい径を有するカラムヘッドが設けられた釘形状の銅カラム部材を形成するプレス工程と、
前記プレス工程で得られた前記銅カラム部材を、60℃以上の加熱温度で、かつ、0分間以上の加熱時間で保持して焼鈍することにより、ビッカース硬さ3HVのPb-Snはんだよりも硬く、ビッカース硬さが48HV以下となる銅カラムを形成する焼鈍工程とを有することを特徴とする銅カラムの製造方法。
【請求項2】
前記焼鈍工程で焼鈍した銅線若しくは銅カラム部材を、アミン系の表面処理剤で表面処理する表面処理工程を有することを特徴とする請求項に記載の銅カラムの製造方法。
【請求項3】
前記焼鈍工程で焼鈍した銅線若しくは銅カラム部材、又は、前記表面処理工程で表面処理した銅線若しくは銅カラム部材を、メタンスルフォン酸系のめっき液でめっきするめっき工程を有することを特徴とする請求項に記載の銅カラムの製造方法。
【請求項4】
請求項1から3の何れか一項に記載の銅カラムの製造方法により製造されることを特徴とする銅カラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミック基板とガラスエポキシ基板とを接合する銅カラム及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、通信機器の通信速度の高速化、集積回路の高密度化に伴い、これらに使用される電子部品のリード数が多くなる傾向にある。例えば、従来では、QFP(Quad Flat Package)、SOIC(Small Outline Integrated Circuit)等のリード数が多い電子部品が存在するが、近時の更なる多機能化を有する電子部品においては、QFP及びSOIC等であってもリード数が不足する。そこで、リード数を多くした電子部品としてBGA(Ball Grid Array)が使用されるようになってきた。このBGAには、PBGA(Plastic Ball Grid Array)、TBGA(Tape Ball Grid Array)及びCBGA(Ceramic Ball Grid Array)等の様々な種類がある。特に、CBGAは、スーパーコンピュータ等に使用されることが多く、高い信頼性が要求されている。
【0003】
CBGAは、セラミック基板及びプリント基板(例えば、ガラスエポキシ基板等)で構成され、電圧印加により発熱する。この発熱によりセラミック基板及びガラスエポキシ基板が膨張する。また、CBGAへの電圧印加が解除されるとセラミック基板及びガラスエポキシ基板は収縮する。このように、セラミック基板及びガラスエポキシ基板は、CBGAへの電圧印加及び該印加解除により膨張及び収縮を繰り返す。
【0004】
一般に、セラミック基板の熱膨張係数は、8ppm/℃であり、ガラスエポキシ基板の熱膨張係数は、15〜20ppm/℃である。従って、セラミック基板の熱膨張とガラスエポキシ基板の熱膨張との差に起因して、セラミック基板及びガラスエポキシ基板には熱ストレスが発生する。そこで近年、はんだボールよりも熱ストレスを吸収する能力が優れているカラムで形成されたセラミック・カラム・グリッド・アレイ(以下、CGAという)が、CBGAに替わって使用されるようになってきた。
【0005】
CGAの形成及びCGAをガラスエポキシ基板に実装する一般的な方法について説明する。図示しないが、まず、セラミック基板の電極部にソルダペーストを塗布する。次に、当該電極部にカラムを垂直に載置するための搭載治具をセラミック基板の上に置く。そして、搭載治具に穿設された貫通孔にカラムを貫通させて、電極上のソルダペースト中にカラムを立設させる。この状態を保持したままリフロー炉のような加熱装置に投入して、所定の温度条件で加熱する。すると、セラミック基板の電極部に塗布したソルダペーストが溶融して、セラミック基板とカラムとがはんだ付けされてCGAが形成される。
【0006】
ガラスエポキシ基板にCGAを実装するには、まず、ガラスエポキシ基板の電極部にソルダペーストを塗布する。次に、当該電極部にCGAのカラムを載置してから、リフロー炉で加熱する。すると、ソルダペーストが溶融して、カラムとガラスエポキシ基板とがはんだ付けされ、ガラスエポキシ基板にCGAが実装される。このように、CGAをガラスエポキシ基板に実装するまでに、リフロー炉によって二度加熱される。
【0007】
このため、リフロー炉による二度の加熱でカラムが溶融しないように、また、スーパーコンピュータ等に搭載されるICチップからの発熱でカラムが溶融しないように、CGAのカラムには高温はんだが用いられることが多い。
【0008】
また、カラムはセラミック基板とガラスエポキシ基板とを接続するので、当該カラムが硬いと、上述の熱ストレスが原因で、セラミック基板とカラムとの接合部、ガラスエポキシ基板とカラムとの接合部及びカラム自体にクラックが生じたり、破断を生じることもある。従って、カラムに用いられる高温はんだには、熱ストレスを吸収するために軟らかい材料が使用され、例えば、ビッカース硬さが低い95Pb-5Snや89.5Pb-10.5Sn等のPb(鉛)ベースのPb-Snはんだが用いられてきた。
【0009】
ところで、今日の環境問題に対する配慮からPbを含有しない、所謂鉛フリータイプのカラムが求められている。Pb-Snはんだの代替品とされているはんだには、Cu(銅)とSn(錫)を反応させて形成されるCu3SnやCu6Sn5等の金属間化合物や、Bi(ビスマス)を主成分としたBi-Snはんだ等が知られている。
【0010】
しかしながら、Cu3SnやCu6Sn5等の金属間化合物やBi-Snはんだ等は、硬く脆いために、CGAのようにセラミック基板とガラスエポキシ基板との接合するカラムとして用いると、熱ストレスを吸収できずに、上述のように、セラミック基板とカラムとの接合部、ガラスエポキシ基板とカラムとの接合部及びカラム自体にクラックが生じたり、破断を生じたりする。
【0011】
はんだ以外のカラムの材料として、導電性及び熱伝導性が良好なCu(銅)を用いた銅カラムが知られている。特許文献1にはCGA用ではないがCuに酸化防止のためにめっきされた電気ピンが開示されている。この電気ピンによれば、銅線にSn又はFeめっきした多数のピン部材を硬化性樹脂内で保持し、該保持したピン部材の一端をCuめっきし、他端をセラミック基板に載置する。そして、硬化性樹脂及びSn又はFeめっきをエッチングすることで、セラミック基板にピン部材を立設して接続させる。
【0012】
また、特許文献2にはCGA用ではないがCuを加熱して残留応力を除去したピンが開示されている。このピンによれば、銅線の一端をプレスしてヘッド部を形成して、該ヘッド部が形成された銅線を600℃〜900℃で5分間加熱する。この加熱により、プレスで生じた加工歪みによる残留応力が除去される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開平2−275660号公報
【特許文献2】特開2002−289729号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
ところで、Pb-SnはんだとCuとを比較すると、Cuのビッカース硬さが110〜120HVであるのに対して、Pb-Snはんだのビッカース硬さが3HVであるので、CuはPb-Snはんだに比べてはるかに硬い。そのため、従来の銅カラムは、セラミック基板及びガラスエポキシ基板に発生する熱ストレスを吸収することができず、セラミック基板とカラムとの接合部及びガラスエポキシ基板とカラムとの接合部にクラックが生じるという問題がある。
【0015】
特許文献1に記載の電気ピンは、上述のようにビッカース硬さが110〜120HVのCuを用いており、当該電気ピンの端面にCuめっきが形成されているために更に硬くなってしまい、CGAとして適用できない。
【0016】
また、特許文献2に記載のピンは、熱処理してプレスで生じた加工歪みによる残留応力を除去させているが、CGAとして適用できるまで軟化されていない。
【0017】
そこで、本発明は、このような従来例に係る課題を解決したものであって、セラミック基板とガラスエポキシ基板との接合の破壊を防止して、CGAに適用可能な銅カラム及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明者らは、伸線工程、切断工程及びプレス工程等で加工硬化した銅線を所定の温度及び時間で焼鈍すると、ビッカース硬さが55HV以下になって、セラミック基板と銅カラムとの接合部及びガラスエポキシ基板と銅カラムとの接合部にクラックが生じにくくなることを見出して、本発明を完成させた。
【0019】
上述した課題を解決するために、請求項1に係る銅カラムの製造方法は、銅線を所定の径にするために伸線する伸線工程と、前記伸線工程で伸線した銅線を所定の長さに切断する切断工程と、前記切断工程で切断されたカラム本体部としての銅線の長手方向の一端に向かってハンマを衝突させることにより、前記カラム本体部よりも大きい径を有するカラムヘッドが設けられた釘形状の銅カラム部材を形成するプレス工程と、前記プレス工程で得られた前記銅カラム部材を、670℃以上の加熱温度で、かつ、90分間以上の加熱時間で保持して焼鈍することにより、ビッカース硬さ3HVのPb-Snはんだよりも硬く、ビッカース硬さが48HV以下となる銅カラムを形成する焼鈍工程とを有することを特徴とする。
【0020】
請求項2に係る銅カラムは、セラミック基板の電極部とガラスエポキシ基板の電極部とを接合するカラムヘッドを含むカラム本体部がSnめっき皮膜により表面処理されていることを特徴とするものである。
【0021】
請求項1に係る銅カラムでは、釘形状のカラムヘッドを有する銅カラムがビッカース硬さ3HVのPb-Snはんだよりも硬く、当該銅カラムのビッカース硬さが55HV以下であるので、セラミック基板の電極部とガラスエポキシ基板の電極部とを当該銅カラムを介して接合する際に、セラミック基板の熱膨張とガラスエポキシ基板の熱膨張との差に起因する熱ストレスを吸収することができるようになる。
【0022】
請求項3に係る銅カラムは、カラムヘッドを含むカラム本体部の結晶サイズの平均粒径が0.05mmで、平均のビッカース硬さが45.4HVであることを特徴とするものである。
【0025】
請求項4に係る銅カラムは、請求項1〜3の何れか一項に記載の銅カラムの製造方法により製造されることを特徴とする。
【0026】
請求項4に係る銅カラムの製造方法では、銅線を所定の径にするために伸線する伸線工程と、伸線工程で伸線した銅線を所定の長さに切断する切断工程と、切断工程で切断した銅線の一端を長手方向に向かってハンマを衝突させて釘形状のカラムヘッドを形成するプレス工程とを有する。これを前提として、プレス工程で得られた銅カラム部材を、600℃以上の加熱温度で、かつ、60分間以上の加熱時間で保持して焼鈍することにより、ビッカース硬さ3HVのPb-Snはんだよりも硬く、ビッカース硬さが55HV以下となる銅カラムを形成する焼鈍工程を有する。
【0027】
銅カラム部材は伸線工程、切断工程及びプレス工程で当該銅カラム部材の銅組織が塑性変形して加工硬化を生じる。しかし、この加工硬化した銅カラム部材は、焼鈍工程で当該銅カラム部材の銅組織が再結晶化して結晶粒が成長し、柔軟性が良くなる。これにより、銅カラムが、ビッカース硬さ3HVのPb-Snはんだよりも硬く、そのビッカース硬さが55HV以下となるように銅カラムを軟化できるようになる。
【0028】
請求項5に係る銅カラムの製造方法は、請求項4記載において、焼鈍工程で焼鈍した銅線若しくは銅カラム部材を、アミン系の表面処理剤で表面処理する表面処理工程を有することを特徴とするものである。
【0029】
請求項5に係る銅カラムの製造方法では、銅線若しくは銅カラム部材をアミン系の表面処理剤で表面処理するので、当該銅線若しくは銅カラム部材の表面を粗くして、めっき液を付着しやすくできる。
【0030】
請求項6に係る銅カラムの製造方法は、請求項5の記載において、焼鈍工程で焼鈍した銅線若しくは銅カラム部材、又は、表面処理工程で表面処理した銅線若しくは銅カラム部材を、メタンスルフォン酸系のめっき液でめっきするめっき工程を有することを特徴とするものである。
【0031】
請求項6に係る銅カラムの製造方法では、銅線若しくは銅カラム部材をメタンスルフォン酸系のめっき液でめっきするので、銅カラムを防錆できる。
【発明の効果】
【0032】
本発明に係る銅カラムによれば、セラミック基板の熱膨張とガラスエポキシ基板の熱膨張との差に起因する熱ストレスを吸収するので、セラミック基板とガラスエポキシ基板との接合の破壊を防止できる。
【0033】
本発明に係る銅カラムの製造方法によれば、ビッカース硬さ3HVのPb-Snはんだよりも硬く、そのビッカース硬さが55HV以下となるように銅カラムを軟化するので、セラミック基板の電極部とガラスエポキシ基板の電極部とを当該銅カラムを介して接合する際に、セラミック基板の熱膨張とガラスエポキシ基板の熱膨張との差に起因する熱ストレスを当該銅カラムで吸収することができる。この結果、セラミック基板とガラスエポキシ基板との接合の破壊を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1】本実施の形態に係る銅カラムの使用例を示す断面の写真である。
図2】A,B,Cは、銅カラム部材の製造例(その1)を示す断面図である。
図3】A,B,Cは、銅カラム部材の製造例(その2)を示す断面図である。
図4】焼鈍工程の温度プロファイル例を示す説明図である。
図5】Aは、銅カラムの形状例を示す斜視図であり、Bは、銅カラムの形状例を示す正面図である。
図6】焼鈍後の銅カラムの組織例を示す拡大写真である。
図7】焼鈍前の銅カラムの組織例を示す拡大写真である。
図8】温度サイクル試験(1000サイクル)後の銅カラムの接続例を示す断面の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
図1に示すように、本発明に係る銅カラム30は、はんだフィレット60を介してセラミック基板40とガラスエポキシ基板50とを接合する。銅カラム30は、線形状に成形された銅線であって、無酸素銅で構成された銅線を所定の径にするために伸線する伸線工程と、伸線工程で伸線した銅線を所定の長さに切断する切断工程と、切断工程で切断された銅線の一端を、長手方向に向かってプレスして銅カラム部材を形成するプレス工程と、プレス工程で形成された銅カラム部材を、加熱温度が600℃以上で、60分間以上保持して焼鈍する焼鈍工程と、焼鈍工程で焼鈍した銅カラム部材を、アミン系の表面処理剤で表面処理する表面処理工程と、表面処理工程で表面処理された銅カラム部材を、メタンスルフォン酸系のめっき液でめっきするめっき工程とによって形成されたものである。
【0036】
銅カラム30は伸線工程、切断工程及びプレス工程で当該銅カラム30の銅組織が塑性変形して加工硬化を生じる。しかし、この加工硬化した銅カラム30は、焼鈍工程で当該銅カラム30の銅組織が再結晶化して結晶粒が成長し、柔軟性が良くなる。これにより、銅カラム30のビッカース硬さが55HV以下になる。
【0037】
このように、上述の銅カラムの製造方法によれば、ビッカース硬さが55HV以下になって、銅カラム30を軟化できる。従って、セラミック基板40とガラスエポキシ基板50とを、当該銅カラム30を介して接合する際に、セラミック基板40の熱膨張とガラスエポキシ基板50の熱膨張との差に起因する熱ストレスを、当該銅カラム30によって吸収することができる。この結果、セラミック基板40と銅カラム30との接合部、及びガラスエポキシ基板50と銅カラム30との接合部の、クラックや破断等の発生を防止できる。
【0038】
更に、焼鈍工程で焼鈍した銅カラム部材を、アミン系の表面処理剤で表面処理するので、当該銅カラム部材の表面を粗くして、めっき液を付着しやすくできる。また、表面処理工程で表面処理された銅カラム部材を、メタンスルフォン酸系のめっき液でめっきするので、銅カラムを防錆できる。
【0039】
以下、図面を参照して、本発明に係る実施の形態の一例として、銅カラムの製造方法について説明する。
[銅カラム30の製造例]
<伸線工程、切断工程及びプレス工程>
まずは、銅カラム30の製造方法に係る伸線工程、切断工程及びプレス工程について説明する。本実施の形態に係る銅線10は、予め伸線工程で伸線されていることを前提とする。伸線とは、銅線の側面を叩いた後ダイスを通すことにより、銅線を伸ばして所定の径に形成する処理のことである。
【0040】
図2Aに示すように、銅カラム部材の製造装置100は、銅線案内部1及び銅線切断部2で構成される。銅線案内部1には図示しない銅線供給部が接続されている。銅線供給部は、例えば、銅線10が多重に巻かれているスプールを回転させて、銅線案内部1に銅線10を供給する(例えば、図2Aの左矢印の方向に銅線10を供給する。)。
【0041】
銅線案内部1は、銅線10の径よりも少しだけ大きな径を有する案内路1aを備える。銅線案内部1は、銅線供給部のスプールが回転することにより供給された銅線10を、案内路1aに沿って摺動して銅線切断部2へ案内する。
【0042】
銅線案内部1には銅線切断部2が隣接して設けられる。銅線切断部2は、案内路2a及びカラムヘッド成形部2bを有する。案内路2aは、案内路1aと同様に、銅線10の径よりも少しだけ大きな径を有する。つまり、案内路2aは、案内路1aと同じ径を有する。カラムヘッド成形部2bは、図5で後述するカラムヘッド部30bを成形するために、カラムヘッド部30bと略同じ形状を有する。
【0043】
銅線切断部2は、銅線供給部のスプールが更に回転することにより、銅線案内部1から案内された銅線10を、案内路2aに沿って摺動してカラムヘッド成形部2bへ案内し、銅線10の先端をカラムヘッド成形部2bから所定の距離だけ突出させる。
【0044】
図2Bに示すように、銅線切断部2は、銅線10の径の半分程度、銅線10の搬送方向に対して直角に移動する(図2Bでは下矢印の方向に移動する。)。この移動は、後述する図2Cの銅線切断時に、切断部からバリが発生するのを防止するためのものであり、予め銅線の軸と直角方向(下方)に、銅線の径の半分だけ破断応力を与えておくものである。
【0045】
図2Cに示すように、銅線切断部2は、上述の銅線10の径の半分程度の移動方向と180度反対方向に所定の距離だけ移動する(図2Cでは上矢印の方向に移動する。)。すると、銅線10が切断(せん断)される。
【0046】
図3Aに示すように、ハンマ3がカラムヘッド成形部2bに向かって移動する(図3Aでは右矢印の方向に移動する。)。すると、ハンマ3が、カラムヘッド成形部2bから所定の距離だけ突出する銅線10の一端に衝突し、該衝突した銅線10がカラムヘッド成形部2bによってカラムヘッド部20bの形状に成形(所謂プレス加工である。)され、釘形状の銅カラム部材20が完成する。
【0047】
図3Bに示すように、ハンマ3がカラムヘッド成形部2bから離間する(図3Bでは左矢印の方向に移動する。)。そして、銅線切断部2は、銅線10を切断する前に待機していた位置に戻る(図3Bでは下矢印の方向に移動する)。
【0048】
図3Cに示すように、銅線供給部のスプールが回転することにより、案内路2a及びカラムヘッド成形部2bに待機していた銅カラム部材20が、銅線10で押し出される。すると、銅カラム部材20が銅線切断部2から排出される。この排出された銅カラム部材20は、図示しないトレイ等によって回収される。
【0049】
このように製造された銅カラム部材20は、上述の伸線工程、プレス工程及び切断工程により、当該銅カラム部材20の銅組織が塑性変形して加工硬化が生じる。この銅カラム部材20のビッカース硬さは110〜120HVである。
【0050】
<焼鈍工程>
次に、銅カラム30の製造方法に係る焼鈍工程について説明する。銅カラム部材の製造装置100で製造された銅カラム部材20は、焼鈍炉に投入され、図4に示す温度プロファイルで焼鈍される。図4の縦軸は焼鈍炉内の温度(℃)であり、横軸は銅カラム部材20を焼鈍炉に投入してからの経過時間(分)である。
【0051】
図4に示すように、銅カラム部材20の温度プロファイルは、室温から670℃までの昇温時間が52分、670℃での保持時間が90分、670℃から室温までの冷却時間が39分で構成される。焼鈍された銅カラム部材20は、当該銅カラム部材20の銅組織が再結晶化して結晶粒が成長し、柔軟性が向上する。これにより、銅カラム部材20のビッカース硬さは55HV以下になる。
【0052】
<表面処理工程及びめっき工程>
次に、銅カラム30の製造方法に係る表面処理工程及びめっき工程について説明する。上述のように焼鈍された銅カラム部材20をアミン系の表面処理剤で表面を処理する。すると、銅カラム部材20の表面が粗くなり、めっき液が付着しやすくなる。
【0053】
アミン系の表面処理剤で表面処理された銅カラム部材20を、メタンスルフォン酸系のめっき液でめっきする。すると、銅カラム部材20の表面がSnで覆われた銅カラム30が完成する。この銅カラム30は、Snめっき皮膜により防錆される。また、表面がSnであるために、はんだの濡れ性が向上し、セラミック基板40とガラスエポキシ基板50との接合がより強固になる。
【0054】
銅カラム30のめっき厚は、約0.5μmと薄いため、銅カラム30のビッカース硬さに影響を及ぼすものではなく、銅カラム30のビッカース硬さは55HV以下に保たれる。Snめっき厚が約0.3μm未満であると防錆効果が薄れてしまい、1μmより大きいとビッカース硬さが55HVより大きくなって銅カラムにクラック等が生じてしまう。そのため、Snめっきの厚さは0.3〜1μmが好ましく、0.5μm程度がより好ましい。
【0055】
[銅カラム30の形状例]
次に、上述の銅カラム30の製造方法で製造された銅カラム30の形状例について説明する。図5A及び図5Bに示すように、銅カラム30は、カラム本体部30a及びカラムヘッド部30bで構成される。本実施の形態では、銅カラム30の長さL1は、1.524mmであり、カラム本体部30aの径D1は、0.25mmであり、カラムヘッド部30bの長さL2は0.13mmであり、カラムヘッド部30bの径D2は、0.5mmである。このような銅カラム30は、カラム本体部30aの径D1が0.25mmと小さいので、端面が平坦なカラムヘッド部30bを設けることで、図1で説明したセラミック基板40とのはんだ付け強度を増強している。
【0056】
このように、本実施の形態に係る銅カラムの製造方法で製造された銅カラム30によれば、ビッカース硬さが55HV以下であるので、セラミック基板40とガラスエポキシ基板50とを当該銅カラム30を介して接合する際に、セラミック基板40の熱膨張とガラスエポキシ基板50の熱膨張との差に起因する熱ストレスを吸収できる。この結果、セラミック基板40と銅カラム30との接合部及びガラスエポキシ基板50と銅カラム30との接合部にクラックが生じたり、破断したりする等の接合の破壊を防止できる。
【0057】
なお、本実施の形態では、焼鈍工程で銅カラム部材20の温度を670℃にして、90分間保持して焼鈍したが、これに限定されず、銅カラム部材20の温度を600℃以上にして、60分間以上保持すれば良い。
【0058】
また、本実施の形態では、プレス工程でカラムヘッド部30bを形成したが、これに限定されず、銅カラムは、カラムヘッド部30bを設けないストレートの円柱形状であっても構わない。
【0059】
また、本実施の形態では、切断工程、プレス工程の順番で銅カラム30を製造したが、これに限定されず、プレス工程の後に切断工程を行っても構わない。
【実施例1】
【0060】
本実施例では、本発明に係る銅カラムの具体的な製造方法、及び、この方法で製造した銅カラム及び焼鈍前の銅カラムの銅組織や結晶粒子について説明する。
【0061】
本発明に係る銅カラムは、以下の(1)〜(7)で製造した。
(1)無酸素銅で構成された直径6mmの線形状の銅線の側面を叩き、ダイスを通して直径2.6mmまで伸線した。
(2)直径2.6mmまで伸線した銅線の側面を更に叩き、ダイスを通して直径0.25mmまで伸線した。
(3)図2及び図3に示したように、直径0.25mmまで伸線した銅線を長さ1.941mmに切断し、該切断した銅線の一端をハンマでプレスしてカラムヘッド部を形成して、銅カラム部材を作製した。この銅カラム部材の長さは1.524mmである。
(4)このように作製された銅カラム部材をSUS製バットに入れて、連続コンベア式電気抵抗加熱炉(焼鈍炉)に通して焼鈍した。この焼鈍条件は、コンベアスピードが30mm/分、670℃までの昇温時間が52分、670℃保持時間が90分、空冷ファンによる冷却時間が39分である。銅カラムの酸化防止のために焼鈍炉内を窒素ガス雰囲気にした。
(5)焼鈍された銅カラム部材をIPA(Isopropyl alcohol)で洗浄後、アミン系の表面処理剤で銅カラム部材の表面を処理した。
(6)メタンスルフォン酸系のSnめっき液に焼鈍済の銅カラム部材を投入し、めっき厚が略0.5μmになるように時間を設定して、Snめっきした。
(7)めっき後の銅カラム部材をIPAで洗浄後、乾燥した。
【0062】
図6は、焼鈍後の銅カラムの組織例を示す拡大写真であり、図7は、焼鈍前の銅カラムの組織例を示す拡大写真である。図6に示す焼鈍後の銅カラムの組織は、図7に示す焼鈍前の銅カラムの組織に比べてはるかに大きい。焼鈍前の銅カラムは、伸線工程、切断工程及びプレス工程によって銅組成が塑性変形している。これに対して、焼鈍後の銅カラムは、銅組織が再結晶化して結晶粒が成長している。
【0063】
焼鈍後の銅カラムの結晶サイズは、平均粒径は0.05mm、平均のビッカース硬さは45.4HVであった。また、焼鈍前の銅カラム結晶サイズは、組織が塑性変形して粒径の測定はできなかったが、平均のビッカース硬さは113.1HVであった。これにより、焼鈍後の銅カラムは、焼鈍前の銅カラムよりも遙かに軟らかいことが分かった。因みに、銅カラムの結晶サイズは、デジタルマイクロスコープで測定した。また、銅カラムのビッカース硬さは、「ビッカース硬さ試験−試験方法 JIS Z2144」に準じて測定した。
【実施例2】
【0064】
本実施例では、本発明に係る銅カラム(以下、実施例の銅カラムという)と特許文献2に記載された製造方法で製造したピン(以下、比較例のピンという)との温度サイクル試験結果について説明する。
【0065】
実施例の銅カラムを961本、ソルダペーストを介してセラミック基板に接続してCGAを作製した。このCGAをソルダペーストを介してガラスエポキシ基板に実装した(以下、実施例のCGAという)。また、比較例のピンも同様に、961本、ソルダペーストを介してセラミック基板に接続してCGAを作製し、この作製したCGAをソルダペーストを介してガラスエポキシ基板に実装した(以下、比較例のCGAという)。
【0066】
実施例のCGA及び比較例のCGAを、「温度変化試験方法 JIS C0025」に準じて、温度条件が−30〜130℃、保持時間10分である温度サイクル槽に投入して、当該実装品の銅カラムにクラックが生じるまでのサイクル数を求めた。その結果を下記の表1に示す。
【0067】
【表1】
【0068】
実施例の銅カラムのビッカース硬さは48HVとなり、比較例のピンのビッカース硬さが125HVであったので、比較例のピンのビッカース硬さに比べて1/2以下であった。また、実施例のCGAは、温度サイクル試験で、1000サイクルであってもセラミック基板と銅カラムとの接合部、及びガラスエポキシ基板と銅カラムとの接合部にクラックが生じなかった(図8参照)。これに対し、比較例のCGAでは、200サイクル後にガラスエポキシ基板とピンとの接合部にクラックが発生し、500サイクル後では破断に至った。
【0069】
このような実施例のビッカース硬さ及び温度サイクル特性は、銅カラムの焼鈍時間を長く保持するということによる。これにより、本発明に係る銅カラムは、CGAに適用可能である。
【符号の説明】
【0070】
1・・・銅線案内部、1a,2a・・・案内路、2・・・銅線切断部、2b・・・カラムヘッド成形部、3・・・ハンマ、10・・・銅線、20・・・銅カラム部材、30・・・銅カラム、30a・・・カラム本体部、30b・・・カラムヘッド部、40・・・セラミック基板、50・・・ガラスエポキシ基板、60・・・はんだフィレット
図2
図3
図4
図5
図1
図6
図7
図8