【実施例】
【0032】
以下に実施例をもって本発明を更に具体的に示すが、本発明は以下の実施例の範囲のみに何ら限定されるものではない。
【0033】
実施例1 ヒト血清アルブミン(HSA)含有生理食塩水を用いた新鮮血からのPBMC分離
(1)PBMCの分離
インフォームド・コンセントの得られたヒト健常人ドナーより、60mL分のへパリン加採血を実施した。得られた血液を約15mLずつコニカルチューブ(ベクトン・ディッキンソン社製又はグライナ―社製)に分注後、700×g、室温で20分間遠心し、遠心後の上清である血漿画分とPBMCを含む細胞画分とに分離した。PBMCを含む細胞画分は、ダルベッコPBS(以下、DPBSと記載する。インビトロジェン社製又はニッスイ社製)、0.96%(W/V)HSAを含む生理食塩水(以下、0.96%HSA/生理食塩水と記載する)、RPMI1640(インビトロジェン社製又は和光純薬社製)、又は生理食塩水(テルモ社製)を用いて、それぞれ20mLにフィルアップし希釈した。得られた希釈細胞液を、Ficoll−Paque PREMIUM(GEヘルスケア バイオサイエンス社製)20mLの上にそれぞれ重層して、700×g、室温で20分間遠心した。遠心後、分離した層のうち、PBMC層をピペットで回収し、RPMI1640、0.96%HSA/生理食塩水又はリンパ球培養用培地GT−T551(タカラバイオ社製)をそれぞれ用いて30mLにフィルアップした後、650×g、4℃にて10分間遠心し、上清を除去した。同様に、600×g、500×gと段階的に遠心力を落としながら順次遠心操作を行い、計3回洗浄を繰り返した。得られたPBMCの生細胞数及び生存率(%)を自動血球計測装置(ヌクレオカウンター Chemometec社製)を用いて算出し、以下の式に準じて細胞回収率(%)を算出した。Ficoll重層時の希釈溶媒と洗浄時の溶媒との関係と得られた結果を表1に示す。表中、ドナー1及び2は異なるドナーの血液を用いて比較を行った結果である。
式:細胞回収率(%)=各条件で分離した際の回収PBMC細胞数/基本法
※で分離した際の回収PBMC細胞数×100(※基本法とは、Ficoll重層時の希釈溶媒としてDPBSを、洗浄時の溶媒としてRPMI1640を使用する方法を示す。)
【0034】
【表1】
【0035】
表1に示すように、Ficoll−Paque PREMIUM重層時及びその後の細胞洗浄時に0.96%HSA/生理食塩水、すなわち約1%のHSAを含有する生理食塩水を使用することで、基本法、RPMI1640の組合せ、生理食塩水とGT−T551の組合せと比較して、細胞の生存率への影響なく、細胞回収率を上げることができた。また、この効果は複数のドナー血液を用いたPBMC分離について確認された。従って、本発明の方法は血液からのPBMC分離時に好適に使用できることが明らかとなった。
【0036】
(2)回収PBMCの細胞集団の解析
実施例1−(1)で基本法により分離して得られたPBMC又は0.96%HSA/生理食塩水を用いて分離して得られたPBMCを、1%(W/V)ウシ血清アルブミン(BSA、シグマ社製)を含むDPBS(以下1%BSA/DPBSと記載する)で洗浄した。その後、それぞれのPBMCを1%BSA/DPBSに細胞を懸濁し、FITC標識マウス抗ヒトCD8抗体/RD1標識マウス抗ヒトCD4抗体/PC5標識マウス抗ヒトCD3抗体(ベックマンコールター社製)、あるいはFITC標識マウス抗ヒトCD3抗体(ベックマンコールター社製)及びRD1標識マウス抗ヒトCD56抗体(ベックマンコールター社製)を添加した。ネガティブコントロールとしてFITC標識マウスIgG
1抗体/RD1標識マウスIgG
1抗体/PC5標識マウスIgG
1抗体(ベックマンコールター社製)を添加した。氷上で30分間インキュベートした後、ACK Lysing Bufferを添加し、残存赤血球を溶血した。次に、0.1%(W/V)BSAを含むDPBSで細胞を洗浄し、再度DPBSに懸濁した。この細胞をフローサイトメトリー(Cytomics FC500:ベックマンコールター社製)に供し、各々の細胞集団について、CD3陽性細胞、CD4陽性細胞、CD8陽性細胞、CD3陰性CD56陽性細胞の含有率を算出した。ここで含有率(%)は、全細胞数に占める陽性細胞数の占める割合を示す。結果を表2に示す。表中、ドナー1及び2は異なるドナーのPBMCを用いて比較を行った結果である。
【0037】
【表2】
【0038】
表2に示すように、Ficoll−Paque PREMIUM重層時及びその後の細胞洗浄時に0.96%HSA/生理食塩水、すなわち約1%のHSAを含有する生理食塩水を使用して回収されたPBMCと、基本法で回収されたPBMCとの間では、そこに含有される各抗原陽性の細胞の割合にほとんど差はなかった。また、複数のドナー血液を用いた場合でも同様な結果であった。すなわち、基本法で回収されたPBMCと本発明の方法により分離されたPBMCは、細胞として同じ性質を有するものであることが明らかとなった。このことから、本発明の方法は血液からのPBMC分離回収時に好適に使用できることが明らかとなった。
【0039】
実施例2 HSA含有生理食塩水を用いた新鮮血からのPBMC分離
(1)PBMCの分離
実施例1−(1)と同様の方法でインフォームド・コンセントの得られたヒト健常人ドナー血液からPBMCを分離した。ただし、血漿分離後のPBMCを含む細胞画分は、DPBS、0.96%HSA/生理食塩水、生理食塩水又はソルデム3A(ブドウ糖、電解質液を含有する維持液、テルモ社製)を用いてそれぞれ別々に希釈を行った。中間層のPBMCの回収後の洗浄は、RPMI1640、0.96%HSA/生理食塩水、生理食塩水又はソルデム3Aをそれぞれ用いて3回行った。Ficoll重層時の希釈溶媒と洗浄時の溶媒との関係と、得られた結果を表3に示す。表中、Exp.A及びBは同一ドナーの血液を用いた実施時期の異なる実験の結果を示す。
【0040】
【表3】
【0041】
表3に示すように、Ficoll−Paque PREMIUM重層時及びその後の細胞洗浄時に0.96%HSA/生理食塩水、すなわち約1%のHSAを含有する生理食塩水を使用することで、基本法や生理食塩水又はソルデム3Aの組合わせと比較して、細胞の生存率への影響なく、細胞回収率を上げることができた。一方、生理食塩水及びソルデム3Aの組合せでは、細胞の生存率が低下した。このことから、本発明の方法は血液からのPBMC分離時に好適に使用できることが明らかとなった。
【0042】
実施例3 得られたPBMCからのT細胞拡大培養
(1)PBMCの分離回収
実施例1−(1)と同様の方法で、インフォームド・コンセントの得られたヒト健常人ドナー血液からPBMCを分離した。その結果を表4に示す。
【0043】
【表4】
【0044】
(2)回収したPBMCの細胞集団の解析
実施例3−(1)で得られたPBMCを実施例1−(2)と同様の方法で細胞集団の解析を行った。ただし、実施例1−(2)で使用した抗体に加え、FITC標識マウス抗ヒトCD19抗体(ベクトン・ディッキンソン社製)、FITC標識マウス抗ヒトCD14抗体(ベクトン・ディッキンソン社製)、FITC標識マウス抗ヒトCD15抗体(ベクトン・ディッキンソン社製)も使用した。その結果を表5に示す。すなわち表5は、各々の細胞集団について、CD3陽性細胞、CD4陽性細胞、CD8陽性細胞、CD3陰性CD56陽性細胞、CD19陽性細胞、CD14陽性細胞及びCD15陽性細胞の含有率を算出した結果である。
【0045】
【表5】
【0046】
表5に示すように、Ficoll−Paque PREMIUM重層時及びその後の細胞洗浄時に0.96%HSA/生理食塩水、すなわち約1%のHSAを含有する生理食塩水を使用して回収されたPBMCと、基本法で回収されたPBMCとの間では、そこに含有される各抗原陽性の細胞の割合に大きな差はなかった。このことから、本発明の方法は血液からのPBMC分離時に好適に使用できることが明らかとなった。
【0047】
(3)T細胞の拡大培養
実施例3−(1)で得られたPBMCを用いて、T細胞の拡大培養をおこなった。
抗CD3抗体OKT3(終濃度5μg/mL、ヤンセンファーマ社製)及びレトロネクチン(終濃度25μg/mL、登録商標、タカラバイオ社製)を含むACD−A液(テルモ社製)を培養面積86cm
2にしたガス透過性培養バッグCultiLife(登録商標)215(タカラバイオ社製)に10.4mL/バッグずつ添加し、CO
2濃度が5%(以下、5%CO
2と記載する)中、37℃で5時間インキュベートした。更に、上記のバッグは使用前にRPMI1640で3回洗浄した後、OKT3及びレトロネクチン固定化CultiLife215として実験に供した。
【0048】
実施例3−(1)で分離したPBMC 1.2×10
7cellsを、1.0%(V/V)非働化済み血漿を含むGT−T551(以下血漿含有GT−T551と記載)120mLに懸濁し、上記で作製したOKT3及びレトロネクチン固定化CultiLife215に添加した。終濃度200U/mLとなるようにIL−2(製剤名;Proleukin、カイロン社製)を添加し、5%CO
2中37℃で培養を開始した(培養0日目)。培養開始4日目に、各CultiLife215内の細胞液を均一な懸濁液とし、一部を希釈して、培養面積を430cm
2にした何も固定化していないガス透過性培養バッグCultiLife(登録商標)Eva(タカラバイオ社製)に移した。この際、細胞液を40mL添加し、血漿含有GT−T551を296mL添加した。終濃度200U/mLとなるようにIL−2を添加し、5%CO
2中37℃で培養した。培養を継続し、培養開始7日目には各CultiLifeEvaに細胞液と等量の血漿を含まないGT−T551を添加し2倍希釈した後、いずれも終濃度200U/mLとなるようにIL−2を添加した。培養開始10日目に自動血球計測装置(ヌクレオカウンター、Chemometec社製)を用いて生細胞数を計測し、培養開始時の細胞数と比較し、拡大培養率を算出した。また、得られた培養後の細胞の細胞集団を実施例1−(2)と同様の方法で解析し、CD3陽性細胞含有率、CD4陽性細胞含有率、CD8陽性細胞含有率、及びCD3陰性CD56陽性細胞含有率を算出した。その結果を表6に示す。
【0049】
【表6】
【0050】
表6に示すように、どちらの血液分離方法で得られたPBMCもスタート細胞数を同じとした拡大培養において、拡大培養率、培養後の細胞の構成に差はなかった。すなわち、基本法で回収されたPBMCと本発明の方法により分離されたPBMCは、細胞として同じ性質を有するものであることが明らかとなった。従って、本発明の方法は血液からのPBMC分離回収時に好適に使用できることが明らかとなった。
【0051】
実施例4 HSA含有生理食塩水を用いた新鮮血からのPBMC分離回収
(1)PBMCの分離回収
実施例1−(1)と同様の方法で、インフォームド・コンセントの得られたヒト健常人ドナー血液からPBMCを分離した。ただし、血漿分離後のPBMCを含む細胞画分は、DPBS、0.1%(V/W)HSAを含む生理食塩水又は0.3%(V/W)HSAを含む生理食塩水(以下、0.1%HSA/生理食塩水、0.3%HSA/生理食塩水とそれぞれ記載する)、0.96%HSA/生理食塩水を用いてそれぞれ別々に希釈した。中間層のPBMCの回収後の洗浄は、それぞれRPMI1640、0.1%HSA/生理食塩水、0.3%HSA/生理食塩水、0.96%HSA/生理食塩水を用いて3回行った。その結果を表7に示す。表中、ドナー3及び4は異なるドナーの血液を用いて比較を行った結果である。
【0052】
【表7】
【0053】
表7に示すように、Ficoll−Paque PREMIUM重層時及びその後の細胞洗浄時に0.1%〜約1%の範囲でHSAを含む生理食塩水を使用することで、基本法と比較して、細胞の生存率への影響なく、細胞回収率を上げることができた。また、複数のドナー血液を用いた場合でも同様な結果であった。このことから、本発明の方法は血液からのPBMC分離回収時に好適に使用できることが明らかとなった。
【0054】
実施例5 HSA含有生理食塩水を用いた成分採血液からのPBMC分離回収
インフォームド・コンセントの得られたヒト健常人ドナーより、成分採血を実施した。ここでいう成分採血とは、単核球採取を目的とした採血である。得られた成分採血液をDPBS又は0.96%HSA/生理食塩水で希釈後、Ficoll−paque PREMIUM上に重層して700×gで20分間遠心した。中間層のPBMCをピペットで回収後、それぞれRPMI1640又は0.96%HSA/生理食塩水を用いて3回洗浄した。その結果を表8に示す。表中、ドナー5及び6は異なるドナーの成分採血液を用いて比較を行った結果である。
【0055】
【表8】
【0056】
表8に示すように、Ficoll−Paque PREMIUM重層時及びその後の細胞洗浄時に0.96%HSA/生理食塩水、すなわち約1%のHSAを含有する生理食塩水を使用することで、基本法と比較して、細胞の生存率への影響なく、細胞回収率を上げることができた。また、複数のドナーの成分採血液を用いた場合でも同様な結果であった。このことから、本発明の方法は細胞含有液の違いに関係なく、成分採血液からのPBMC分離回収時においても好適に使用できることが明らかとなった。
【0057】
実施例6 HSA含有生理食塩水を用いた新鮮血からのPBMC分離回収
(1)PBMCの分離回収
実施例1−(1)と同様の方法で、インフォームド・コンセントの得られたヒト健常人ドナー血液からPBMCを分離した。ただし、血漿分離後のPBMCを含む細胞画分は、DPBS、0.96%HSA/生理食塩水又は4.2%(W/V)HSAを含む生理食塩水(以下、4.2%HSA/生理食塩水と記載する)を用いてそれぞれ別々に希釈した。中間層のPBMCの回収後の洗浄は、それぞれRPMI1640、0.96%HSA/生理食塩水、4.2%HSA/生理食塩水を用いて3回行った。その結果を表9に示す。
【0058】
【表9】
【0059】
表9に示すように、Ficoll−Paque PREMIUM重層時及びその後の細胞洗浄時に0.96%〜4.2%の範囲でHSAを含む生理食塩水を使用することで、基本法と比較して、細胞の生存率への影響なく、細胞回収率を上げることができた。このことから、本発明の方法は血液からのPBMC分離回収時に好適に使用されることが明らかとなった。
【0060】
実施例7 BSA含有生理食塩水を用いた新鮮血からのPBMC分離回収
(1)PBMCの分離回収
実施例1−(1)と同様の方法で、インフォームド・コンセントの得られたヒト健常人ドナー血液からPBMCを分離した。ただし、血漿分離後のPBMCを含む細胞画分は、DPBS、又は1%(W/V)BSAを含む生理食塩水(以下、1%BSA/生理食塩水と記載する)を用いてそれぞれ別々に希釈した。中間層のPBMCの回収後の洗浄は、それぞれRPMI1640、1%BSA/生理食塩水を用いて3回行った。その結果を表10に示す。
【0061】
【表10】
【0062】
表10に示すように、Ficoll−Paque PREMIUM重層時及びその後の細胞洗浄時に1%BSA/生理食塩水を使用することで、基本法と比較して、細胞の生存率への影響なく、細胞回収率を上げることができた。このことから、本発明の方法は血液からのPBMC分離回収時に好適に使用されることが明らかとなった。
【0063】
実施例8 HSA含有生理食塩水を用いた新鮮血からのPBMC分離回収
(1)PBMCの分離回収
実施例1−(1)と同様の方法で、インフォームド・コンセントの得られたヒト健常人ドナー血液からPBMCを分離した。ただし、血漿分離後のPBMCを含む細胞画分は、DPBS、5%(W/V)HSAを含む生理食塩水(以下5%HSA/生理食塩水と記載する)及びFicoll−Paque PREMIUMの添付資料に血液分離時の推奨バッファーとして記載されているBlanced solt solution(以下、推奨バッファーと記載する)を用いてそれぞれ別々に希釈した。推奨バッファーは、1gのD−グルコース(ナカライテスク社製)、0.0074gの塩化カルシウム2水和物(ナカライテスク社製)、0.1992gの塩化マグネシウム6水和物(ナカライテスク社製)、0.4026gの塩化カリウム(ナカライテスク社製)、17.565gのTris(ナカライテスク社製)を蒸留水(大塚製薬社製)で溶解し、5N塩酸(和光純薬社製)でpH7.6に調製後、蒸留水で1Lにメスアップしてからフィルターユニット(旭テクノグラス社製)で滅菌したバッファーAと、8.19gの塩化ナトリウム(ナカライテスク社製)を蒸留水で1Lにメスアップしてからオートクレーブ滅菌したバッファーBとを1:9の割合で混合して調製した。中間層のPBMCの回収後の洗浄は、それぞれRPMI1640、5%HSA/生理食塩水及び推奨バッファーを用いて3回行った。その結果を表11に示す。
【0064】
【表11】
【0065】
表11に示すように、Ficoll−Paque PREMIUM重層時及びその後の細胞洗浄時に5%のHSAを含む生理食塩水を使用することで、基本法と比較して、細胞の生存率への影響なく、細胞回収率を上げることができた。また、実施例4、実施例6及び実施例8の結果から、0.1%〜5%の範囲でHSAを含む生理食塩水を使用する事で、基本法と比較して、細胞の生存率への影響なく、細胞回収率を上げられることが明らかとなった。さらにはHSAを含む生理食塩水を使用することは、分離媒体(Ficoll−Paque PREMIUM)販売元が血液分離時に推奨するバッファーと比較して、細胞の生存率への影響なく、細胞回収率を上げることができた。このことから、本発明の方法は血液からのPBMC分離回収時に好適に使用できることが明らかとなった。
【0066】
(2)回収したPBMCの細胞集団の解析
実施例8−(1)で得られたPBMCを実施例2−(2)と同様の方法で細胞集団の解析を行った。ただし、ACK Lysing Bufferで残存赤血球の溶血処理は行わなかった。その結果を表12に示す。
【0067】
【表12】
【0068】
表12に示すように、Ficoll−Paque PREMIUM重層時及びその後の細胞洗浄時に5%HSA/生理食塩水、推奨バッファーを使用して回収されたPBMCと、基本法で回収されたPBMCとの間では、含有される各抗原陽性の細胞の割合にほとんど差はなかった。また同様に5%のHSAを含む生理食塩水を使用することは、推奨バッファーと比較しても、含有される各抗原陽性細胞の割合にほとんど差はなかった。すなわち、基本法で回収されたPBMCと本発明の方法により分離されたPBMCは、得られる各細胞の含有率がほぼ同じものであることが明らかとなった。このことから、本発明の方法は血液からのPBMC分離回収時に好適に使用されることが明らかとなった。
【0069】
実施例9 カゼインナトリウム含有生理食塩水を用いた新鮮血からのPBMC分離回収
(1)PBMCの分離回収
実施例1−(1)と同様の方法で、インフォームド・コンセントの得られたヒト健常人ドナー血液からPBMCを分離した。ただし、血漿分離後のPBMCを含む細胞画分は、DPBS、1%のカゼインナトリウム(和光純薬社製)を含む生理食塩水(以下、1%カゼインNa/生理食塩水と記載する)及び0.2%のカゼインナトリウムを含む生理食塩水(以下、0.2%カゼインNa/生理食塩水と記載する)を用いてそれぞれ別々に希釈した。中間層のPBMCの回収後の洗浄は、それぞれRPMI1640、1%カゼインNa/生理食塩水及び0.2%カゼインNa/生理食塩水を用いて3回行った。その結果を表13に示す。
【0070】
【表13】
【0071】
表13に示すように、Ficoll−Paque PREMIUM重層時及びその後の細胞洗浄時に1%又は0.2%のカゼインナトリウムを含む生理食塩水を使用することで、基本法と比較して、細胞の生存率への影響なく、細胞回収率を上げることができた。また、複数のドナー血液を用いた場合でも同様な結果であった。このことから、本発明の方法は血液からのPBMC分離回収時に好適に使用できることが明らかとなった。
【0072】
(2)回収したPBMCの細胞集団の解析
実施例9−(1)で得られたPBMCを実施例2−(2)と同様の方法で細胞集団の解析を行った。ただし、ACK Lysing Bufferで残存赤血球の溶血処理を行わなかった。その結果を表14に示す。
【0073】
【表14】
【0074】
表14に示すように、Ficoll−Paque PREMIUM重層時及びその後の細胞洗浄時に5%HSA/生理食塩水、1%又は0.2%のカゼインナトリウムを含有する生理食塩水を使用して回収されたPBMCと、基本法で回収されたPBMCとの間では、そこに含有される各抗原陽性の細胞の割合にほとんど差はなかった。また、複数のドナー血液を用いた場合でも同様な結果であった。すなわち、基本法で回収されたPBMCと本発明の方法により分離されたPBMCは、得られる各細胞の含有率がほぼ同じものであることが明らかとなった。このことから、本発明の方法は血液からのPBMC分離回収時に好適に使用できることが明らかとなった。
【0075】
(3)PBMCの保存
実施例9−(1)で得られたドナー8のPBMCをRPMI1640に懸濁後、CP−1(極東製薬工業社製)と25%HSA(製剤名ブミネート、バクスター社製)を17:8の割合で混合した保存液を等量加えて液体窒素中にて保存した。使用時には、これら保存PBMCを37℃水浴中にて急速融解し、10μg/mLのDNase(カルビオケム社製)を含むGT−T551(タカラバイオ社製)で洗浄後、各実験に供した。
【0076】
(4)T細胞の拡大培養
実施例9−(3)で得られたドナー8のPBMCを用いて、T細胞の拡大培養を行った。
OKT3(終濃度0.3μg/mL)を含むDPBSを培養面積3.8cm
2の12ウエルプレート(コーニング社製)に0.45mL/ウエルずつ添加し、5%CO
2中37℃で5時間インキュベートした。また、上記の12ウエルプレートは使用前に培養器材から当該DPBSを吸引除去後、各ウエルをDPBSで2回、RPMI1640で1回洗浄し各実験に供した。
【0077】
実施例9−(3)で得られたドナー8のPBMC 0.53×10
6cellsを、血漿含有GT−T551 5.3mLに懸濁し、上記で作製したOKT3固定化12ウエルプレートに添加した。終濃度200U/mLとなるようにIL−2を添加し、5%CO
2中37℃で培養を開始した(培養0日目)。培養開始4日目に、各12ウエルプレート内の細胞液を均一な懸濁液とし、一部を血漿含有GT−T551で約12倍希釈して、この希釈液約7.8mLを培養面積が10cm
2の何も固定化していないT25細胞培養フラスコ(コーニング社製)を立てたものに移した。終濃度200U/mLとなるようにIL−2を添加し、5%CO
2中37℃で培養した。培養を継続し、培養開始7日目には各フラスコに細胞液と等量の血漿を含まないGT−T551を添加し2倍希釈した後、いずれも終濃度200U/mLとなるようにIL−2を添加した。培養開始11日目にトリパンブルー染色法にて生細胞数を計測し、培養開始時の細胞数と比較し、拡大培養率を算出した。また、得られた培養後の細胞の細胞集団を実施例1−(2)と同様の方法で解析し、CD3陽性細胞含有率、CD4陽性細胞含有率、CD8陽性細胞含有率、及びCD3陰性CD56陽性細胞含有率を算出した。表中の基本法の値はN=2の平均値を示し、1%カゼインNa/生理食塩水はN=1の値を示す。その結果を表15に示す。
【0078】
【表15】
【0079】
表15に示すように、1%カゼインNa/生理食塩水を用いた血液分離方法で得られたPBMCもスタート細胞数を同じとした拡大培養において、拡大培養率、培養後の細胞の構成に差はなかった。すなわち、基本法で回収されたPBMCと本発明の方法により分離されたPBMCは、細胞として同じ性質を有するものであることが明らかとなった。従って、本発明の方法は血液からのPBMC分離回収時に好適に使用されることが明らかとなった。
【0080】
実施例10 NycoPrep 1.077での新鮮血からのPBMC分離回収
実施例1−(1)と同様の方法で、インフォームド・コンセントの得られたヒト健常人ドナー血液からPBMCを分離した。ただし、密度勾配形成用媒体としてFicoll−Paque PREMIUM、及びNycoPrep 1.077(AXIS−SHIELD社製)を用いた。また、血漿分離後のPBMCを含む細胞画分は、DPBS、5%HSA/生理食塩水を用いてそれぞれ別々に希釈した。中間層のPBMCの回収後の洗浄は、分離剤ごとにそれぞれRPMI1640、5%HSA/生理食塩水を用いて3回行った。その結果を表16に示す。
【0081】
【表16】
【0082】
表16に示すように、Ficoll−Paque PREMIUMを密度勾配形成用媒体として使用した場合と同等に、NycoPrep 1.077重層時及びその後の細胞洗浄時に5%HSA/生理食塩水を使用することで、細胞の生存率への影響なく、細胞回収率を上げることができた。このことから、密度勾配形成用媒体によらず本発明の方法は血液からのPBMC分離回収時に好適に使用できることが明らかとなった。
【0083】
実施例11 HSA含有生理食塩水を用いた成分採血液からのPBMC分離回収
(1)PBMCの分離回収
インフォームド・コンセントの得られたヒト健常人ドナーより、成分採血を実施した。得られた成分採血液を0.96%又は5%HSA/生理食塩水で希釈後、Ficoll−paque PREMIUM上に重層して700×gで20分間遠心した。中間層のPBMCをピペットで回収後、それぞれ0.96%又は5%HSA/生理食塩水を用いて3回洗浄した。結果を表17に示す。
【0084】
【表17】
*本実施例のみ、0.96%HSA/生理食塩水を使用した際の回収PBMC数と比較し算出した。
【0085】
表17に示すように、Ficoll−Paque PREMIUM重層時及びその後の細胞洗浄時に5%HSA/生理食塩水を使用することで、0.96%HSA/生理食塩水、すなわち約1%のHSAを含有する生理食塩水を使用した場合と比較して、細胞の生存率への影響なく、細胞回収率を上げることができた。なお両条件とも基本法に比べ高い細胞回収率を示した。これらのことから、本発明の方法は成分採血液からのPBMC分離回収時においても好適に使用できることが明らかとなった。
【0086】
実施例12 HSA含有生理食塩水を用いた新鮮血からのPBMC分離回収
(1)PBMCの分離回収
実施例1−(1)と同様の方法で、インフォームド・コンセントの得られたヒト健常人ドナー血液からPBMCを分離した。ただし、血漿分離後のPBMCを含む細胞画分は、DPBS、0.96%HSA(製剤名ブミネート、バクスター社製)/生理食塩水又は0.96%HSA(製剤名アルブミナー、CSLベーリング社製)/生理食塩水を用いてそれぞれ別々に希釈した。中間層のPBMCの回収後の洗浄は、表18記載の洗浄時溶媒を用いて3回行った。その結果を表18に示す。
【0087】
【表18】
【0088】
表18に示すように、Ficoll−Paque PREMIUM重層時及びその後の細胞洗浄時に0.96%HSA/生理食塩水、すなわち約1%のHSAを含有する生理食塩水を使用することで、HSAの製造元によらず、基本法と比較して、細胞の生存率への影響なく、細胞回収率を上げることができた。このことから、本発明の方法は血液からのPBMC分離回収時に好適に使用できることが明らかとなった。
【0089】
実施例13 Histopaque 1.077での新鮮血からのPBMC分離回収
(1)PBMCの分離回収
実施例1−(1)と同様の方法で、インフォームド・コンセントの得られたヒト健常人ドナー血液からPBMCを分離した。ただし、密度勾配形成用媒体としてFicoll−Paque PREMIUMとHistopaque 1.077(シグマ社製)を用いた。また、血漿分離後のPBMCを含む細胞画分は、DPBS、5%HSA/生理食塩水を用いてそれぞれ別々に希釈した。中間層のPBMCの回収後の洗浄は、分離剤ごとにそれぞれRPMI1640、5%HSA/生理食塩水を用いて3回行った。その結果を表19に示す。
【0090】
【表19】
【0091】
表19に示すように、Ficoll−Paque PREMIUMを密度勾配形成用媒体として使用した場合と同等に、Histopaque 1.077重層時及びその後の細胞洗浄時に5%HSA/生理食塩水を使用することで、細胞の生存率への影響なく、細胞回収率を上げることができた。このことから、密度勾配形成用媒体によらず本発明の方法は血液からのPBMC分離回収時に好適に使用できることが明らかとなった。
【0092】
実施例14 HSA含有生理食塩水を用いたPBMCの保存
(1)PBMCの分離回収と保存
実施例1−(1)と同様の方法で、インフォームド・コンセントの得られたヒト健常人ドナー血液からPBMCを分離した。ただし、血漿分離後のPBMCを含む細胞画分は、0.96%HSA/生理食塩水を用いて25mLにフィルアップし希釈し、中間層のPBMCの回収後の洗浄は、0.96%HSA/生理食塩水を用いて3回行った。この際、遠心はすべて室温で行った。得られたPBMCを3本のコニカルチューブに分注し、500×g、室温で5分間遠心し、上清を除去した。各コニカルチューブについて、細胞濃度が1×10
7cells/mLとなるように2.5%HSA/生理食塩水、CPS−1(細胞科学研究所社製)、2.5%HSA/CPS−1に懸濁し、4℃暗所で保存した。各溶媒で保存当日、1日後、2日後の細胞濃度及び生存率を表20に示す。
【0093】
【表20】
【0094】
表20に示すように、PBMCを4℃保存する際に、2.5%HSA/生理食塩水、2.5%HSAを添加したCPS−1溶液を使用することで、添加していないCPS−1と比較して、細胞濃度を高く保持した状態で保存可能であることが示された。このことから、2.5%HSAは細胞の4℃保存時に好適に使用できることが明らかとなった。PBMCの保存は、凍結状態で行われることが常法であるが、4℃という未凍結状態での保存時に本方法は好適に使用される。また、HSA/生理食塩水で保存可能なことから、保存後に細胞を使用する際、CPS−1の成分を除く洗浄工程が不要であり、保存していた細胞をそのまま使用可能であることが明らかとなった。
【0095】
(2)4℃保存PBMCの細胞集団の解析
実施例14−(1)で保存したPBMCを実施例1−(2)と同様の方法で細胞集団の解析を行った。ただし、FITC標識マウス抗ヒトCD3抗体、あるいはECD標識マウス抗ヒトCD4抗体及びPC5標識マウス抗ヒトCD8抗体を使用し、ネガティブコントロールとしてFITC標識マウスIgG
1抗体/RD1標識マウスIgG
1抗体/PC5標識マウスIgG
1抗体及びECD標識マウスIgG
1抗体を使用した。結果を表21に示す。
【0096】
【表21】
【0097】
表21に示すように、2.5%HSAを添加した保存液中のPBMCと添加していない保存液中のPBMCとの間では、含有される各抗原陽性の細胞の割合に大きな差はなかった。このことから、HSAはPBMC4℃保存時に好適に使用されることが明らかとなった。
【0098】
実施例15 カゼインナトリウム含有生理食塩水を用いた新鮮血からのPBMC分離回収(血液分離工程別)
(1)PBMCの分離回収
実施例1−(1)と同様の方法で、インフォームド・コンセントの得られたヒト健常人ドナー血液からPBMCを分離した。ただし、血漿分離後のPBMCを含む細胞画分は、DPBS、1%カゼインNa/生理食塩水及び1%HSA/生理食塩水を用いてそれぞれ別々に希釈した。中間層のPBMCの回収後の洗浄は、それぞれRPMI1640、1%カゼインNa/生理食塩水又は1%HSA/生理食塩水を用いて行った。このとき、各洗浄溶媒を用いて45mLにフィルアップし、遠心は全て室温で行った。結果を表22に示す。
【0099】
【表22】
【0100】
表22に示すように、Ficoll−Paque PREMIUM重層時及びその後の細胞洗浄時に1%カゼインナトリウムおよび1%HSAを含む生理食塩水を使用することで、基本法と比較して、細胞の生存率への影響なく、細胞回収率を上げることができた。また、1%カゼインNa/生理食塩水は、Ficoll−Paque PREMIUM重層時または細胞洗浄時のいずれかに使用した場合でも、基本法と比較して細胞回収率を上げることが示された。このことから、本発明の方法は血液からのPBMC分離回収の分離工程にかかわらず好適に使用されることが明らかとなった。