(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0018】
<実施の形態1>
図1は、本実施の形態に係る外部モータシステム10と、その外部モータシステム10に取り付けられた遠心血液ポンプ100とを示している。
遠心血液ポンプ100は、ケーシング110の内部に軸支されたインペラ120と、インペラ120に固定された内部磁石128とを含んでいる。
本発明の外部モータシステム10は、少なくとも、内部磁石128と磁気的に結合可能な外部磁石28と、外部磁石28を回転させる電気モータ22と、電気モータ22の回転トルクRTを検出できるトルクセンサ23と、を含んでいる。なお、一般的な外部モータ20は、外部磁石28と電気モータ22とから構成されており、トルクセンサ23を含んでいない。
【0019】
外部モータシステム10に遠心血液ポンプ100を取り付けると、電気モータ22の回転シャフト22aと、インペラ120の上側シャフト127及び下側シャフト126とが、同軸上(回転軸Rの軸上)に配列する。
インペラ120の内部には、複数個(例えば6個)の内部磁石128が、回転軸Rの周りに等間隔で配置されている。外部磁石28は、内部磁石128と対応する位置(
図1に示すように、内部磁石128の直下の位置)に配置されている。
【0020】
外部モータシステム10に遠心血液ポンプ100を取り付けて、電気モータ22を回転させると、外部磁石28が回転軸Rを中心として回転する。外部磁石28と磁気的に結合している内部磁石128も、外部磁石28の回転に合わせて回転軸Rを中心に回転する。その結果、内部磁石128を内包するインペラ120全体が、回転軸Rを中心にして回転する。インペラ120が回転すると、遠心血液ポンプ100の入口112から血液が流入し、出口(図示せず)から血液が流出する。この血液の流動により、患者の血液循環を維持することができる。このようにして、外部モータシステム10は、遠心血液ポンプ100の外部から、遠心血液ポンプ100を駆動させることができる。
【0021】
本発明の外部モータシステム10の特徴は、トルクセンサ23で検出された回転トルクRTの変化から、遠心血液ポンプ100内で発生した異常(特に、インペラ120の上側シャフト127への血栓の付着)を検出できることである。
そこで、まず、回転トルクRTから異常発生を検出できる理由を以下に詳しく説明する。
【0022】
図2は、トルクセンサ23で測定した回転トルクRTの測定値RTmを、時間Tに対してプロットしたグラフである。このグラフは、傾きの変化する3つの変化点P
1〜P
3に基づいて、4つの期間A〜Dに分けることができる。期間A〜Dと、遠心血液ポンプ100の内部の状況との間には密接な関係がある。
【0023】
(1)期間A(時間t
0〜t
1、変化点P
1より前)
この期間Aでは、回転トルクの測定値RTmはほぼ一定(初期値RT0)である。
このとき、遠心血液ポンプ100内では、回転用シャフト(上側シャフト127、下側シャフト126)と、軸受け部材(上側軸受け部材117、下側軸受け部材116)との間は、血液によって十分に潤滑されている。そのため、インペラ120は正常に回転することができる(つまり、遠心血液ポンプ100に異常は発生していない)。
【0024】
(2)期間B(時間t
1〜t
2、変化点P
1〜P
2の間)
期間Bでは、回転トルクの測定値RTmが、短時間(通常は数分間)で初期値RT0からRT1まで急激に上昇している。この期間Bのグラフの傾きは、最大である。
このとき、遠心血液ポンプ100内では、回転用シャフト(特に、上側シャフト127)に血栓が付着している。血栓により、回転用シャフトと軸受け部材との間への血液の浸入が阻害されて、それらの間の潤滑が不十分になる。その結果、回転用シャフトと軸受け部材との間の摩擦係数が急激に増加して、それに伴い、インペラ120を回転させている電気モータ22の回転トルクRTも急激に増大する。
期間Bでは、遠心血液ポンプ100の軸受け部の熱変形は、全く生じていない又はごく僅かに生じているだけである。そのため、遠心血液ポンプ100内には、「血栓付着」という異常が発生しているにも拘わらず、遠心血液ポンプ100により循環する血流量の減少も、遠心血液ポンプ100からの異音も観察されない。
【0025】
期間C(時間t
2〜t
3、変化点P
2〜P
3の間)
期間Cでは、回転トルクの測定値RTmが、RT1からRT2まで緩やかに上昇している。この期間Cのグラフの傾きは、期間Bの傾きよりも小さい。
このとき、遠心血液ポンプ100内では、付着した血栓が成長して、巨大な血栓が形成されている。回転用シャフトと軸受け部材との間に血液が浸入することは困難であり、回転用シャフトは、潤滑が不十分なまま高速回転している。その結果、回転用シャフトと軸受け部材との間には大きな摩擦熱が発生する。耐熱性の低い軸受け部は、この摩擦熱によって次第に熱変形してゆく。
期間Cでは、遠心血液ポンプ100の軸受け部(特に、上側軸受け部材117)の熱変形が進行しているので、インペラ120は、もはや正常に回転できる状態ではない。しかしながら、電気モータ22の回転トルクRTを上昇させることによって正常な血流量を維持できるため、血流量の変化から遠心血液ポンプ100の異常を発見することは難しい。また、遠心血液ポンプ100からの異音はまだ発生しない。
【0026】
期間D(時間t
3〜、変化点P
3より後)
期間Dでは、回転トルクの測定値RTmが、RT2からRT0近くまで低下している。つまり、この期間Dのグラフの傾きは負の値をとる。
このとき、遠心血液ポンプ100内では、軸受け部(特に、上側軸受け部材117)の熱変形が著しく進行して、インペラ120を回転させるのに必要な応力が増加する。必要な応力が、外部モータシステム10の外部磁石28と、遠心血液ポンプ100の内部磁石128との間の磁気的結合の結合力を上回ったときに、外部モータシステム10の電気モータ22は空回りする。その結果、電気モータ22の回転トルクRTと、インペラ120の回転数とが一気に低下する。
期間Dでは、インペラ120の回転異常により、血流量が低下するため、血流量の変化から遠心血液ポンプ100の異常を発見することができる。また、遠心血液ポンプ100からの異音が発生する。
【0027】
以上のことから、回転トルクRTから、異常発生(血栓の付着)を検出するには、
図2の期間B(回転トルクが急激に上昇する期間)を検出すればよいことがわかる。本発明の外部モータシステム10は、回転トルクRTを測定するためのトルクセンサ23を備えているので、回転トルクの測定値RTmの変化を観察することにより、期間Bを検出することができる。
【0028】
次に、期間Bを検出するための具体例を説明する。本実施の形態は、表示された回転トルクの測定値RTmを使用者が観察して、期間Bを検出する。
図3に示した本実施の形態の外部モータシステム10は、外部磁石28、電気モータ22及びトルクセンサ23に加えて、遠心血液ポンプ駆動装置32と、第1の記憶手段ME1と、第1の表示手段DP1と、とを備えている。
【0029】
遠心血液ポンプ駆動装置32は、電気モータ22の回転数を制御する装置である。遠心血液ポンプ駆動装置32に任意の回転数を入力すると、電気モータ22がその回転数を維持するように、電気モータ22に供給される電力を自動で制御する。
【0030】
第1の記憶手段ME1は、トルクセンサ23で測定された回転トルクの測定値RTmを、所定の時間間隔で記憶するための手段である。記憶する時間間隔は、期間B(つまり、t
2−t
1)より短い間隔にするのが好ましい。通常、期間Bは数分間であるので、例えば1分おきや、1秒おきに測定値RTmを記憶するとよい。これにより、期間Bを確実に検出することができる。
本実施の形態では、第1の記憶手段ME1は記憶装置MEに含まれている。
【0031】
本実施の形態では、第1の記憶手段ME1を省略することもできる。その場合には、回転トルクの測定値RTmを、以下に記述する第1の表示手段DP1に直接表示する。
【0032】
第1の表示手段DP1は、トルクセンサ23で測定された回転トルクの測定値RTm又は第1の記憶手段ME1に記憶された測定値RTmを表示するための手段である。第1の表示手段DP1は、測定値RTmの数値を表示する手段、及び測定値RTmを
図2のようなグラフとして表示する手段が含まれる。特に、測定値RTmをグラフとして表示する手段を用いると、期間Bが明確に判断できるので好ましい。
【0033】
次に、
図4を参照しながら、本実施の形態に係る外部モータシステム10を用いて、遠心血液ポンプ100の異常(血栓の付着)を検出する方法を説明する。
【0034】
<工程1:電気モータ22の駆動及び回転トルクRTの測定>
遠心血液ポンプ駆動装置32に、電気モータ22の回転数(遠心血液ポンプ100の回転数と一致)を入力する(S100)。このとき、遠心血液ポンプ100が所望の血流量を維持できるように、回転数を選択する。遠心血液ポンプ駆動装置32は電気モータ22に適切な電力を供給し、電気モータ22が回転する(S110)。
トルクセンサ23により、電気モータ22の回転トルクRTを測定する(S120)。
【0035】
<工程2a:測定値RTmの記憶及び表示>
外部モータシステム10が第1の記憶手段ME1を備えている場合には、回転トルクの測定値RTmを所定の時間間隔で保存する(S130)。そして、保存された測定値RTm(n)を第1の表示手段DP1に表示する(S140)。なお、ここでnは、任意の自然数であり、RTm(n)は、n番目に記憶された回転トルクの測定値を表す。
使用者は、第1の表示手段DP1に表示された測定値RTm(n)、又は測定値RTm(n)を時間に対してプロットしたグラフを観察する。そして、測定値RTm(n)が急激に増加するのを検出したら(つまり、
図2の期間Bを検出したら)、遠心血液ポンプ100に異常が発生したと判断する。
【0036】
<工程2b:測定値RTmの表示>
外部モータシステム10が第1の記憶手段ME1を備えていない場合には、回転トルクの測定値RTmを第1の表示手段DP1に表示する(S150)。
使用者は、第1の表示手段DP1に表示された測定値RTm、又は測定値測定値RTmを時間に対してプロットしたグラフを観察する。そして、測定値RTmが急激に増加するのを検出したら(つまり、
図2の期間Bを検出したら)、遠心血液ポンプ100に異常が発生したと判断する。
【0037】
本実施の形態では、比較的簡単な構成の遠心血液ポンプ用外部モータ10を提供できる点と、第1の表示手段DP1に表示されたグラフから、期間Bを直接観察することができる点で有利である。
【0038】
<実施の形態2>
本実施の形態では、期間Bを検出するための別の具体例を説明する。本実施の形態は、回転トルクの測定値RTmの変化率又は変化量を、それらの閾値と比較することにより、期間Bを検出することを特徴とする。
【0039】
図5に示した本実施の形態の外部モータシステム10は、実施の形態1に記載された外部磁石28、電気モータ22、トルクセンサ23、遠心血液ポンプ駆動装置32及び第1の記憶手段ME1に加えて、第1の演算手段CA1と、第2の記憶手段ME2と、信号発生手段33とを備えている。なお、実施の形態1に記載された第1の表示手段DP1は、本実施の形態には含まれていない。
【0040】
第1の演算手段CA1は、第1の記憶手段ME1に記憶された測定値RTmから、変化率CR又は変化量CMを算出するための手段である。具体的には、第n番目より前に記憶された測定値のうちの1つの測定値(例えば、n番目よりα番だけ前に記憶された測定値RTm(n−α))を基準として、第n番目に記憶された第n測定値RTm(n)の変化量CM又は変化率CRを算出する。なお、αはnより小さな任意の自然数である。
ここで、「変化率CR」とは、基準となる測定値RTm(n−α)に対する第n測定値RTm(n)の倍率であり、(変化率CR)=RTm(n)/RTm(n−α)で算出できる。また「変化量CM」とは、基準となる測定値RTm(n−α)に対する第n測定値RTm(n)の差であり、(変化量CM)=RTm(n)−RTm(n−α)で算出できる。
【0041】
変化率CRと変化量CMは、いずれも測定値TRmの変化の程度を示す指標であるため、いずれか一方を利用すれば十分であるが、変化率CRと変化量CMとを併用することもできる。
【0042】
第2の記憶手段ME2は、変化率の閾値CRt又は変化量の閾値CMtを記憶するための手段である。変化率の閾値CRt又は変化量の閾値CMtとは、
図2の期間Bで生じると予測される変化率CR又は変化量CMから決定する。このとき閾値CRt、CMtを小さくしすぎると、期間Aで観測されるノイズによる測定値RTmの変化率CR又は変化量CMであっても、閾値CRt、CMtを超える恐れがある。よって、閾値CRt、CMtは、期間Aで観測される(回転トルクの測定値RTmの)ノイズによる変化率CR又は変化量CMよりは大きく、期間Bで生じると予想される回転トルクの測定値RTmの変化率CR又は変化量CMよりは小さくなるように、決定する必要がある。
変化率の閾値CRtは、例えば1.5〜2.0とすることができる。また、変化量の閾値CMtは、例えば0.01N・M〜0.03N・Mとすることができる。
本実施の形態では、遠心血液ポンプを駆動させる前に、閾値CRt、CMtを予め設定して、第2の記憶手段ME2に記憶させておく。
【0043】
記憶させる閾値の種類は、第1の演算手段CA1で算出される値の種類に合わせて決定される。つまり、算出される値が変化率CRの場合には変化率の閾値CRtを記憶させ、算出される値が変化量CMの場合には変化量の閾値CMtを記憶させ、算出される値が変化率CRと変化量CMの両方であれば、変化率の閾値CRtと変化量の閾値CMtの両方を記憶させる必要がある。
【0044】
図5では、第2の記憶手段ME2は、第1の記憶手段ME1と同じ記憶装置MEに含まれている。しかしながら、第2の記憶手段ME2及び第1の記憶手段ME1が、それぞれ別の記憶装置に含まれていてもよい。
【0045】
信号発生手段33は、回転トルクRTの変化から
図2の期間Bに入ったと判断したときに、信号を発する手段である。具体的には、信号発生手段33は、第1の演算手段CA1によって算出された変化率CR又は変化量CMが、第2の記憶手段ME2に記憶されている閾値CRt、CMtよりも大きくなったときに、信号を発する。
【0046】
なお、算出される値が変化率CRと変化量CMの両方の場合、変化率CRが変化率の閾値CRtより大きくなったとき、及び/又は変化量CMが変化量の閾値CMtより大きくなったときに、信号発生手段33から信号を発するようにする。
【0047】
信号発生手段33としては、例えば、電気信号、視覚的信号、聴覚的信号などの信号を発することのできる手段を用いることができる。電気信号とは、電気配線を通じてモニタ等に送信可能な信号のことであり、モニタ等が警告を表示するのに利用できる。視覚的信号とは、ランプの点灯、点滅など視覚的に認識できる信号である。聴覚的信号とは、ブザー等の聴覚的に認識できる信号である。
【0048】
次に、
図6を参照しながら、本実施の形態に係る外部モータシステム10を用いて、遠心血液ポンプ100の異常(血栓の付着)を検出する方法を説明する。
【0049】
<工程1:閾値CRt、CMtの入力>
期間Bで生じると予想される変化率CR又は変化量CMから、変化率の閾値CRt又は変化量の閾値CMtを決定し、第2の記憶手段ME2に記憶する(S200)。
【0050】
<工程2:電気モータ22の駆動及び回転トルクRTの測定>
実施の形態1の工程1と同様に、遠心血液ポンプ駆動装置32に、電気モータ22の回転数(遠心血液ポンプ100の回転数と一致)を入力する(S210)。このとき、遠心血液ポンプ100が所望の血流量を維持できるように、回転数を選択する。遠心血液ポンプ駆動装置32は電気モータ22に適切な電力を供給し、電気モータ22が回転する(S220)。
トルクセンサ23により、電気モータ22の回転トルクRTを測定する(S230)。
【0051】
<工程3:測定値RTmの記憶>
回転トルクの測定値RTmを、所定の時間間隔で第1の記憶手段ME1に保存する(S240)。
【0052】
<工程4:変化率CR又は変化量CMの算出>
第1の演算手段CA1により、第n番目より前(例えば、n番目より1つ前)に記憶された測定値RTm(n−1)を基準として、第n番目に記憶された第n測定値RTm(n)の変化量CM又は変化率CRを算出する(S250)。
【0053】
<工程5:変化率CR又は変化量CMと、閾値CRt、CMtとの比較>
信号発生手段33により、第2の記憶手段ME2に保存された変化率の閾値CRt又は変化量の閾値CMtと、第1の演算手段CA1により算出された変化率CR又は変化量CMと、を比較する(S260)。算出された変化率CR又は変化量CMが、閾値CRt、CMtより大きくなったら、信号発生手段33は、信号(電気的信号、視覚的信号、及び/又は聴覚的信号)を発する(S270)。
使用者は、信号発生手段33から信号が発せられたことを確認して、遠心血液ポンプ100に異常が発生したと判断する。
【0054】
本実施の形態では、遠心血液ポンプ100の異常発生を自動化することができる点で有利である。また、本実施の形態では、回転トルクの「測定値RTm」そのものの値が不明であっても、期間Bにおける回転トルクの測定値RTmの変化の傾向が分かれば(つまり、閾値CRt、CMtを見積もることができれば)、異常発生を検出できる点で有利である。
【0055】
(変形例)
本変形例は、変化率CR又は変化量CMの算出において、第n番目より前に記憶された測定値のうちの2つ以上の測定値の平均値を基準とする点で、本実施の形態2と相違する。それ以外は、本実施の形態2と同様である。
【0056】
本実施の形態2では、変化率CR又は変化量CMは、「測定値RTm(n−α)」を基準として算出されていた。本変形例では、第n番目より前に記憶された測定値のうちの2つ以上の測定値(例えば、n番目よりα番だけ前に記憶された測定値RTm(n−α)から、N個の値)の平均値aveRTmを基準として算出される。平均値aveRTm=1/N ΣRTm(n−α)と表記することができる。Nは、2以上かつα以下の任意の自然数である。
【0057】
次に、
図7を参照しながら、本実施の形態に係る外部モータシステム10を用いて、遠心血液ポンプ100の異常(血栓の付着)を検出する方法を説明する。ただし、本実施の形態2(
図6)と、「工程4」のみが相違するため、工程4以外の説明は省略する。
【0058】
<工程4:変化率CR又は変化量CMの算出>
第1の演算手段CA1により、第n番目より前に記憶された測定値のうちの2つ以上の測定値(例えば、n番目より1つ前〜3つ前までの3つの測定値)の平均値aveRTm=1/3(RTm(n−1)+RTm(n−2)+RTm(n−3))を求める。
さらに、第1の演算手段CA1により平均値aveRTmを基準として、第n番目に記憶された第n測定値RTm(n)の変化量CM又は変化率CRを算出する(S250M)。
【0059】
本変形例は、本実施の形態2の有利な点に加えて、基準値を平均化することにより、
図2の期間Aで観測されるノイズの影響を低減できる点で有利である。
【0060】
<実施の形態3>
本実施の形態では、期間Bを検出するための別の具体例を説明する。本実施の形態は、回転トルクの測定値RTmを、その閾値と比較することにより、期間Bを検出することを特徴とする。すなわち、本実施の形態は、閾値の種類が回転トルクRT自体である点で、実施の形態2と相違する。
【0061】
図8に示した本実施の形態の外部モータシステム10は、実施の形態2に記載された外部磁石28、電気モータ22、トルクセンサ23、遠心血液ポンプ駆動装置32、第1の記憶手段ME1、第2の記憶手段ME2及び信号発生手段33を備えている。なお、実施の形態2に記載された第1の演算手段CA1は、本実施の形態には含まれていない
【0062】
本実施の形態では、回転トルクの測定値RTmと、回転トルクの閾値RTtとを比較する。そのため、第2の記憶手段ME2には、回転トルクの閾値RTtが記憶される。回転トルクの閾値RTtとは、
図2の期間Bで生じると予測される回転トルクの閾値RTtから決定する。このとき閾値RTtが不適切であると、期間Aで観測されるノイズによって測定値RTmが僅かに上昇しただけで、閾値RTtを超える恐れがある。よって、閾値RTtは、期間Aで観測される(回転トルクの測定値RTmのうち)ノイズによって上昇した測定値RTmよりは大きく、期間Bで観測される回転トルクの測定値RTmよりは小さくなるように、決定する必要がある。
本実施の形態では、遠心血液ポンプを駆動させる前に、閾値RTtを予め設定して、第2の記憶手段ME2に記憶させておく。
【0063】
次に、
図9を参照しながら、本実施の形態に係る外部モータシステム10を用いて、遠心血液ポンプ100の異常(血栓の付着)を検出する方法を説明する。本実施の形態では、「工程4:変化率CR又は変化量CMの算出」を含まない点が、実施の形態2と大きく異なる。
【0064】
<工程1:閾値RTtの入力>
期間Bで生じると予想される回転トルクの測定値RTmから、回転トルクの閾値RTtを決定し、第2の記憶手段ME2に記憶する(S300)。
【0065】
<工程2:電気モータ22の駆動及び回転トルクRTの測定>(S310〜S330)
<工程3:測定値RTmの記憶>(S340)
実施の形態2の工程2〜工程3と同様であるので、説明を省略する。
【0066】
<工程4:回転トルクの測定値RTmと、閾値RTtとの比較>
信号発生手段33により、第2の記憶手段ME2に保存された回転トルクの閾値RTtと、第1の記憶手段ME1に保存された回転トルクの測定値RTm(n)と、を比較する(S350)。保存された測定値RTm(n)が、閾値RTtより大きくなったら、信号発生手段33は、信号(電気的信号、視覚的信号、及び/又は聴覚的信号)を発する(S360)。
使用者は、信号発生手段33から信号が発せられたことを確認して、遠心血液ポンプ100に異常が発生したと判断する。
【0067】
本実施の形態では、遠心血液ポンプ100の異常発生を自動化することができる点で有利である。また、本実施の形態では、回転トルクの測定値RTmの閾値を利用することにより、(第1の演算手段CA1を必要としないため)装置を簡略化することができる点で有利である。
【0068】
<実施の形態4>
本実施の形態では、期間Bを検出するための別の具体例を説明する。本実施の形態は、実施の形態2の変化率CR又は変化量CMの算出において、血流値と回転数から算出された正常な回転トルクの正常値nRTを基準とする点で、実施の形態2と相違する。
【0069】
図10に示した本実施の形態の外部モータシステム10は、実施の形態2に記載された外部磁石28、電気モータ22、トルクセンサ23、遠心血液ポンプ駆動装置32、第1の記憶手段ME1、第1の演算手段CA1、第2の記憶手段ME2及び信号発生手段33に加えて、流量計40と、第3の記憶手段ME3と、第2の演算手段CA2とを備えている。
【0070】
流量計40は、遠心血液ポンプ10により循環する単位時間当たりの血流量を測定するためのものである。
図10では、流量計40は、例えば、遠心血液ポンプ10の出口に接続されたチューブBOに設置されて、遠心血液ポンプ10から流出する血流量を測定している。もちろん、流量計40は、遠心血液ポンプ10の入口112に接続されたチューブBIに設置されて、遠心血液ポンプ10に流出する血流量を測定してもよい。
【0071】
第3の記憶手段ME3は、電気モータ22の回転数と、流量計40で測定された血流量とに基づいて、回転トルクの正常値nRTを算出する換算式を記憶するための手段である。ここで、「正常値nRT」とは、正常な状態にある遠心血液ポンプ10を、とある回転数で回転する電気モータ22で駆動して、そのときに循環する血流がとある血流量である場合に、トルクセンサ23で測定される回転トルクの測定値RTmのことである。正常値nRTと、回転数及び血流量とは、
図11に示すような関係を有している。
【0072】
図11は、ある特定のタイプの遠心血液ポンプに対して、電気モータ22の回転数が(a)2000rpm、(b)3000rpm、(c)4000rpmの場合に、血流量(L/min)に対して回転トルクの正常値nRTをプロットしたものである。各グラフ(a)〜(c)の横には、血流量=y、正常値nRT=xとしたときの換算式が記載されている。このように、換算式は、回転数
と血流量の関数として記述することができる。
第3の記憶手段ME3には、これらの換算式が記憶されている。なお、換算式は、遠心血液ポンプのタイプに依存しており、タイプに合わせた換算式を選択して用いなければならない。
【0073】
図10では、第3の記憶手段ME3は、第2の記憶手段ME2及び第1の記憶手段ME1と同じ記憶装置MEに含まれている。しかしながら、第3の記憶手段ME3、第2の記憶手段ME2及び第1の記憶手段ME1が、それぞれ別の記憶装置に含まれていてもよい。
【0074】
第2の演算手段CA2は、第3の記憶手段ME3に記憶された換算式を用いて、電気モータ22の回転数と、流量計40で測定された血流量とから、回転トルクの正常値nRTを算出する手段である。具体的には、回転数に合わせて換算式を選択し、換算式に血流量を代入することにより、正常値nRTが算出できる。
図10では、第2の演算手段CA2は、第1の演算手段CA1と同じ演算装置CAに含まれている。しかしながら、第2の演算手段CA2及び第1の演算手段CA1が、それぞれ別の演算装置に含まれていてもよい。
【0075】
本実施の形態では、第1の演算手段CA1は、この正常値nRTを基準として、第1の記憶手段ME1に第n番目に記憶された第n測定値RTm(n)の変化量CM又は変化率CRを算出する。
【0076】
次に、
図12を参照しながら、本実施の形態に係る外部モータシステム10を用いて、遠心血液ポンプ100の異常(血栓の付着)を検出する方法を説明する。
【0077】
<工程1:閾値CRt、CMtの入力>(S400)
実施の形態2の工程1と同様であるので、説明を省略する。
【0078】
<工程2:換算式の入力>
回転トルクの正常値nRTを算出するための複数の換算式(
図11参照)を第3の記憶手段ME3に入力する(S410)。
【0079】
<工程3:電気モータ22の駆動及び回転トルクRTの測定>(S420〜S440)
<工程4:測定値RTmの記憶>(S450)
実施の形態2の工程2〜工程3と同様であるので、説明を省略する。
【0080】
<工程5:血流の測定>
流量計40により、循環している単位時間当たりの血流量を測定する(S460)。
【0081】
<工程6:回転トルクの正常値nRTの算出>
第2の演算手段CA2により、第3の記憶手段ME3に記憶されている複数の換算式から、(工程2で入力された)電気モータ22の回転数に基づいて最適な換算式を選択し、その後、選択された換算式に(流量計40で測定された)血流量を代入して、回転トルクの正常値nRTを算出する(S470)。
【0082】
<工程7:変化率CR又は変化量CMの算出>
第1の演算手段CA1により、算出された正常値nRTを基準として、第n番目に記憶された第n測定値RTm(n)の変化量CM又は変化率CRを算出する(S480)。
【0083】
<工程8:変化率CR又は変化量CMと、閾値CRt、CMtとの比較>(S490〜S495)
実施の形態2の工程5と同様であるので、説明を省略する。
【0084】
本実施の形態では、遠心血液ポンプ100の異常発生を自動化することができる点で有利である。また、本実施の形態では、実際の使用条件から回転トルクの正常値nRTを算出しているので、回転トルクの測定値RTmの異常を確実に検出することができる点で有利である。さらに、使用中に電気モータ22及び/又は血流量が変化しても、その時点での正常値を求めることができる点で有利である。
【0085】
<実施の形態5>
本実施の形態では、期間Bを検出するための別の具体例を説明する。本実施の形態は、回転トルクの測定値RTmを、その閾値と比較することにより、期間Bを検出する点で、実施の形態3と類似する。しかしながら、回転トルクの閾値を、回転トルクの正常値nRTから算出する点で、実施の形態3と相違する。
【0086】
図13に示した本実施の形態の外部モータシステム10は、実施の形態4に記載された外部磁石28、電気モータ22、トルクセンサ23、遠心血液ポンプ駆動装置32、第1の記憶手段ME1、信号発生手段33、流量計40、第3の記憶手段ME3及び第2の演算手段CA2に加えて、第4の記憶手段ME4と、第3の演算手段CA3とを備えている。なお、実施の形態4に記載された第1の演算手段CA1及び第2の記憶手段ME2は、本実施の形態には含まれていない。
【0087】
第4の記憶手段ME4は、回転トルクの正常値nRTから、回転トルクの閾値RTtを算出するための算出式を記憶するための手段である。
算出式とは、
図2の期間Bで生じると予想される回転トルクの変化率CR又は変化量CMに基づいて、回転トルクの閾値RTtを算出するための式である。例えば、変化率の閾値CRtを用いれば、算出式は(閾値RTt)=(正常値nRT)×(変化率CRt)となる。また、変化量の閾値CMtを用いれば、算出式は、(閾値RTt)=(正常値nRT)+(変化量CMt)となる。
【0088】
図13では、第4の記憶手段ME4は、第3の記憶手段ME3及び第1の記憶手段ME1と同じ記憶装置MEに含まれている。しかしながら、第4の記憶手段ME4、第3の記憶手段ME3及び第1の記憶手段ME1が、それぞれ別の記憶装置に含まれていてもよい。
【0089】
第3の演算手段CA3は、第4の記憶手段ME4に記憶された算出式を用いて、正常値nRTから閾値RTtを算出する手段である。
図13では、第3の演算手段CA3は、第2の演算手段CA2と同じ演算装置CAに含まれている。しかしながら、第3の演算手段CA3及び第2の演算手段CA2が、それぞれ別の演算装置に含まれていてもよい。
【0090】
次に、
図14を参照しながら、本実施の形態に係る外部モータシステム10を用いて、遠心血液ポンプ100の異常(血栓の付着)を検出する方法を説明する。
【0091】
<工程1:換算式の入力>(S500)
実施の形態4の工程2と同様であるので、説明を省略する。
【0092】
<工程2:算出式の入力>
回転トルクの正常値nRTから回転トルクの閾値RTtを算出するための算出式を第4の記憶手段ME4に記憶する(S510)。
【0093】
<工程3:電気モータ22の駆動及び回転トルクRTの測定>(S520〜S540)
<工程4:測定値RTmの記憶>(S550)
実施の形態2の工程2〜工程3と同様であるので、説明を省略する。
【0094】
<工程5:血流の測定>(S560)
<工程6:回転トルクの正常値nRTの算出>(S570)
実施の形態4の工程5〜6と同様であるので、説明を省略する。
【0095】
<工程7:回転トルクの閾値RTtの算出>
第3の演算手段CA3により、第4の記憶手段ME4に記憶されている換算式に(流量計40で測定された)血流量を代入して、回転トルクの閾値RTtを算出する(S580)。
【0096】
<工程8:回転トルクの測定値RTmと、閾値RTtとの比較>(S590〜S595)
実施の形態3の工程4と同様であるので、説明を省略する。
【0097】
本実施の形態では、遠心血液ポンプ100の異常発生を自動化することができる点で有利である。また、本実施の形態では、回転トルクの正常値nRTから回転トルクの閾値RTtを算出しているので、回転トルクの閾値RTtを予め推測することが困難であっても、期間Bにおける回転トルクの測定値RTmの変化の傾向が分かれば(つまり、閾値CRt、CMtを見積もることができれば)、閾値RTtを決定することができる点で有利である。そして、回転トルクの閾値RTtは、(実際の使用条件から算出した)回転トルクの正常値RTtに基づいているので、回転トルクの測定値RTmの異常を確実に検出することができる点で有利である。さらに、使用中に電気モータ22及び/又は血流量が変化しても、その時点での正常値を求めることができる点で有利である。
【実施例1】
【0098】
以下に、実施の形態の外部モータシステム10の構成部品及びその周辺機器について詳述する。
(電気モータ22)
電気モータ22には、一般的に知られている電気モータ(直流モータ、交流モータ)のうち、2000rpm〜6000rpmの範囲内で回転数を正確に制御できる電気モータが用いられる。
【0099】
(トルクセンサ23)
トルクセンサ23には、電気モータ22の回転シャフト22aを非接触的に又は接触的に測定できるものが用いられる。非接触タイプのトルクセンサ23では回転シャフト22aの磁歪効果を用いるものが利用できる。接触タイプのトルクセンサ23では、トルクセンサ23と回転シャフト22aとをベルト等で接続して、回転シャフト22aの回転トルクを測定するものが利用できる。
【0100】
なお、実施の形態1〜5では、電気モータ22とトルクセンサ23とが別体の例を示している。これらを別体にすることにより、既存の遠心電気モータ22に、トルクセンサ23を後付けできる点で有利である。
一方、本発明では、電気モータ22とトルクセンサ23とを一体にすることもできる。これにより、本発明の外部モータシステム10の取扱い(例えば、使用前のシステム組み上げや、使用後のメンテナンス等)が簡便になる点で有利である。
【0101】
(外部磁石28)
外部磁石28には、内部磁石128と強力に磁気的結合できる永久磁石が適しており、例えば希土類磁石(ネオジム磁石)などが好適である。
【0102】
(遠心血液ポンプ駆動装置32)
遠心血液ポンプ駆動装置32は、電気モータ22の回転数(=遠心血液ポンプ100のインペラ120の回転数)が所定値になるように、外部モータ20に供給する電力を制御する装置である。例えば、回転用シャフトに血栓が付着した場合、そのままの電力(=そのままの回転トルク)では電気モータ22の回転数が低下する。そこで、遠心血液ポンプ駆動装置32は、外部モータ20に供給する電力を増加させて、外部モータ20の回転数を一定に維持している。
【0103】
(信号発生手段33)
信号発生手段33は、閾値と測定値とを比較する機能と、比較結果に基づいて所定の信号を発する機能とを有している。ここで「信号」とは、ランプの点灯又は点滅等の視覚的に認識可能な信号、ブザー等の聴覚的に認識可能な信号だけでなく、監視モニタ等に送信される電気信号も含む。
信号が発せられると、使用者は、遠心血液ポンプ100に異常(例えば、回転用シャフトへの血栓の付着)が生じていると判断する。
【0104】
なお、実施の形態1〜5では、遠心血液ポンプ駆動装置32と信号発生手段33とが別体の例を示している。これらを別体にすることにより、既存の遠心血液ポンプ駆動装置32に、信号発生手段33を後付けできる点で有利である。
一方、本発明では、遠心血液ポンプ駆動装置32に信号発生機能を設けることにより、実質的に、遠心血液ポンプ駆動装置32と信号発生手段33とを一体化することもできる。これにより、本発明の外部モータシステム10の取扱い(例えば、使用前のシステム組み上げや、使用後のメンテナンス等)が簡便になる点で有利である。
【0105】
(流量計40)
流量計40は、遠心血液ポンプ100と患者とを繋ぐチューブに設けられており、循環している単位時間当たりの血流量を測定している。
【0106】
(遠心血液ポンプ100)
遠心血液ポンプ100には、遠心血液ポンプ100は、ケーシング110と、ケーシング110内に回転可能に軸支されたインペラ120と、インペラ120に固定された内部磁石128と、を備えた一般的な遠心血液ポンプが利用できる。
【0107】
(記憶装置ME)
記憶装置MEには、データの読み出しと書込みが可能な記憶装置(例えば、半導体メモリ、ハードディスク等)を用いることができる。1つの記憶装置MEに、第1〜第4の記憶手段ME1〜ME4を含んでいると、システムが簡略になるので好ましい。
【0108】
(演算装置CA)
演算装置CAには、記憶装置MEからのデータの読み出しと、データの演算と、演算結果の出力とが可能な処理装置(例えば半導体プロセッサ等)を用いることができる。1つの演算装置CAに、第1〜第3の演算手段CA1〜CA3を含んでいると、システムが簡略になるので好ましい。
【0109】
本発明の外部モータシステム10によれば、遠心血液ポンプ100に発生した異常を早期の段階で検出することができる。
なお、本明細書では、遠心血液ポンプ100に血栓が付着する異常を検出することを前提として記載している。しかしながら、その他の遠心血液ポンプ100の異常であって、インペラの摩擦係数を上昇させるような異常であれば、本発明の外部モータシステム10によって検出することが可能である。具体的には、遠心血液ポンプ100の軸受け部材に初期異常(変形、クラック)があり、使用中にそれらの初期異常が顕著化した場合などが考えられる。