(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記ポリエチレン樹脂組成物が低分子量成分(A)と高分子量成分(B)とを含んでなり、該高分子量成分(B)の割合が25〜45質量%であることを特徴とする、請求項1または2に記載のポリエチレン樹脂組成物。
上記ポリエチレン樹脂組成物を構成するポリエチレン樹脂の少なくとも一部を、担持型幾何拘束型シングルサイト触媒を用いるスラリー重合法により重合する工程を有することを特徴とする、請求項1から3のいずれかに記載のポリエチレン樹脂組成物の、製造方法。
【背景技術】
【0002】
従来、炭酸飲料や清涼飲料水、お茶などのPETボトルに使用されているボトルキャップとしては、飲料充填時の耐熱性や、ボトル内圧に耐えうる素材として、アルミ製やポリプロピレン製のものが大半であった。しかしながら、低コスト化、成形サイクルの短縮、リサイクルなどの問題から、最近は、低温充填(アセプティック)用ボトルキャップはポリエチレン製が主流となってきた。
【0003】
ボトルキャップの素材であるポリエチレン樹脂組成物に求められる性能は、剛性、流動性、および耐ストレスクラック性である。最近はボトルキャップの形状も複雑になってくるとともに、これらの性能を高度にバランスさせるという強い要求がある。そしてさらに高速成形性を高めるために、流動性の高い樹脂組成物に加え、その結晶化速度を速めた樹脂組成物のニーズが高い。キャップを生産する成形法には射出成形とコンプレッション(圧縮)成形があるが、特にコンプレッション(圧縮)成形においては、生産性を上げるために押出機の吐出量を上げるとともに、ターンテーブルの回転速度を上げることが必要となる。回転速度を上げると、結果的に冷却時間が短くなり、冷却不足の状態となっていた。使用する樹脂が高流動性かつ結晶化速度が早くできれば高速で成形できるようになる。すなわち使用する樹脂が高流動であると、押出機負荷が低く、吐出量を上げることができるだけでなく、樹脂温度を低くすることができる。また、さらに結晶化速度を速くできれば樹脂を冷却するのに必要な時間が短くなり、型を抜く際にネジ部がつぶれることなく、高速で成形できる。
【0004】
しかし一般に流動性を高めるために分子量を低下させるが、この低分子量化により、キャップにした時の耐ストレスクラック性が低下する傾向にある。また、この場合ストレスクラック性を維持するためには、樹脂組成物の密度を低下させる必要があった。密度を低下させることは、即ちボトルキャップの剛性を低下させることになり、キャップとした時に外部からの力や内部からの圧力で変形が起こりやすくなると同時に、摩擦係数が大きくなり、滑り性が悪くなることから、キャップを開ける時の力(開栓トルク)が必要以上に高くなるという問題が起こる。このためお茶向け用途等、特に高速成形性を求められる用途には滑り性を維持するためにESCR性を多少犠牲にして高速成形性を維持していた。
他方、ホット向け用途や内圧のかかる用途には高いESCR性が求められるが、滑り性を維持するために、流動性を下げることでESCR性を確保したため、高速成形性が犠牲になって生産性が下がっていた。
【0005】
そしてさらに、キャップも樹脂量減少による環境への負荷低減とコストダウンの観点からキャップの薄肉化が要請されており、従来より薄いキャップでの内圧等での変形を抑えるために更に剛性を求められ、更なる高密度化が必要とされている。
【0006】
このようにペットボトルのポリエチレンキャップは高速成形重視のタイプとESCR性重視の2タイプに分けられているために物性の異なる2種類の樹脂を用意しなければならないために効率的な生産が出来ておらず、両タイプの統合が望まれていた。しかし従来、充分な高速成形性を付与するためにMFRが高くかつ結晶化速度が速く、他方加温や内圧上昇に耐えられるESCR性の高く、かつ密度を高く維持するといったすべての性能満たすポリエチレン樹脂組成物はかつて存在しなかった。
【0007】
高流動性で成形性に優れ、サイクルを短縮して、生産効率を上げることができるといった樹脂組成物がある(例えば特許文献1、2、3参照)。しかし高流動性とESCRは相反する関係にあり、要求されたMFRより高い系ではESCRが到底要求レベルに達し得ない。
【0008】
同様に、高流動性で成形性に優れ、サイクルを短縮して、生産効率を上げることができ、また、耐ストレスクラック性、剛性と耐衝撃性のバランスに優れた樹脂組成物がある(例えば特許文献4、5、6参照)。しかしバランスを維持するために密度を低く抑えていることから要求される剛性が不足していた。また成形性、高流動性、剛性、耐衝撃性、ESCR性と滑り性のバランスした樹脂組成物が提案されている(例えば特許文献7、8)が、まだ密度が不足し、ESCRがぎりぎりであることからこれ以上の密度アップはESCRの低下につながってしまう。
【0009】
環境応力下の試験である耐ドーミング割れ性に優れ、且つ剛性及び成形性に優れた容器用ポリエチレン樹脂組成物が提案されている(例えば特許文献9参照)。しかしながらやはり上記の物性のバランスを取るために密度とMFRが低く抑えられており、すべての要求特性を満たしているわけではなかった。
【0010】
さらに、ESCRを低下させることなく、優れた剛性と優れた高速成形性を有し、かつ、ボトルキャップに用いた場合、異方性がなく、寸法安定性にも優れ、開栓トルク等の要求性能にも優れた新規なボトルキャップ用ポリエチレン樹脂組成物が提案されている(例えば特許文献10、11参照)。この組成物は、所期の特性は満たしているが、結晶化速度の向上により更に高速成形をスピードアップすることが求められていた。
【0011】
昨今のコンプレッション成形における生産性の向上にはポリエチレン樹脂の結晶化速度が重要であり、特にESCR重視の樹脂は結晶化速度が不足し、高速化の妨げになっていた。
【0012】
そこで結晶化速度が速いポリオレフィン樹脂材料を選択することにより、成形ハイサイクル化ができ、かつ開栓性、閉栓性、成形性、高流動性、高速成形に優れ、剛性と耐衝撃性とのバランス、ESCR性、滑り性に優れた樹脂組成物が提案されている(例えば特許文献12参照)。結晶化速度は速く高流動性、ESCR性は所要物性を達成しているが剛性が不足しているという問題があった。
【0013】
また、ポリエチレン重合触媒をメタロセン系の触媒に変えてESCR性を向上する提案がある(例えば特許文献13参照)。しかしながらESCR性と衝撃性のバランスは改善されたが、なお結晶化速度の改善が求められていた。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明について更に詳細に説明する。
本発明に係るポリエチレン樹脂組成物を構成するポリエチレン樹脂は、チーグラー型触媒、フィリップス型触媒、担持型幾何拘束型シングルサイト触媒を用い、ベッセル型のスラリー重合法により製造することができ、特に担持型幾何拘束型シングルサイト触媒を用いることが好ましい。該ポリエチレン樹脂は、エチレンと炭素数3〜20のα−オレフィンから選ばれた1種または2種以上のコモノマーとを、所望の密度になるような割合で重合させることにより製造されることが好ましい。
その際、所望の分子量やMFRを得るには、水素のような分子量調節剤を用いればよい。
【0020】
本発明の好ましい実施形態である、エチレン単独重合体からなる低分子量成分(A)とエチレンと炭素数が3〜20のα−オレフィンとの共重合体からなる高分子量成分(B)とを含んでなるポリエチレン樹脂組成物は、低分子量成分(A)と高分子量成分(B)とを別々に重合し、それらを所定の配合比でブレンドすることによるパウダーブレンドやペレットブレンド、あるいは、直列に接続した2以上の重合器で順次連続的に重合して得られる多段重合法や、並列に接続した2つ以上の重合器で同時に重合して得られる各成分をスラリー状態などでブレンドする方法のいずれによって製造しても良い。
【0021】
なお本発明の好ましい実施形態で用いる高分子量成分(B)、低分子量成分(A)とはポリエチレン樹脂組成物を構成するそれぞれのポリエチレン樹脂の相対的な分子量の大小に基づき、高分子量成分(B)とはそれぞれのポリエチレン樹脂のうちより高分子量である成分を指す。
【0022】
その中でも、物性を安定的にコントロールでき、高品質のポリエチレンを製造するという点から、直列に接続した2以上の重合器で順次連続的に重合して得られる多段重合法が最も好ましい。
特に、一段目の重合槽で低分子量成分(A)を重合し、二段目の重合槽で高分子量成分(B)を重合することがより好ましい。密度およびESCR等の物性と成形性を両立させるためには、低分子量成分(A)を重合する一段目の重合槽には、コモノマーをフィードせずにエチレン単独重合体を重合し、続いて、高分子量成分(B)を重合する二段目の重合槽には、コモノマーをフィードさせて、共重合体を重合することが好ましい。
【0023】
一段目の重合槽で高分子量成分(B)を重合し、二段目の重合槽で低分子量成分(A)を重合することもできるが、一段目でコモノマーをフィードすると未反応のコモノマーが残留し、二段目の重合槽にそのままフィードされ、低分子量成分にもコモノマーが挿入し、コポリマーとなってしまう可能性があり、密度を高く保った上で、ESCRを高くすることができなくなる恐れがあり、この様な現象を防止しようとすると、制御が複雑になる。
【0024】
また、本発明の好ましい実施形態であるポリエチレン樹脂組成物は、好ましくはエチレン単独重合体からなる低分子量成分(A)が75〜55質量%、好ましくはエチレンと炭素数が3〜20のα−オレフィンとの共重合体からなる高分子量成分(B)が25〜45質量%であることが好ましい。さらに好ましくは、低分子量成分(A)が60〜70質量%、高分子量成分(B)が30〜40質量%である。好ましくはエチレン単独重合体からなる低分子量成分(A)の量が60質量%以上である場合、流動性が充分となり、押出機負荷が低くなるとともに結晶化速度が向上し高速成形性に優れる。70質量%以下の場合、高分子量成分(B)が充分となり、ESCRが優れる。
【0025】
二段連続重合における好ましくはエチレン単独重合体からなる低分子量成分(A)と好ましくはエチレンと炭素数が3〜20のα−オレフィンとの共重合体からなる高分子量成分(B)との割合は、樹脂の生産量から把握することが可能である。たとえば、最終的に得られるポリマー生産量から一段目の重合槽で得られるポリマー量を差し引いた値がニ段目の重合槽で得られるポリマー量に相当する。
【0026】
また、好ましくはエチレン単独重合体からなる低分子量成分(A)の密度は971kg/m
3以上であることが好ましい。更に好ましくは、密度を973kg/m
3以上とすることが望ましい。このことにより、好ましくはエチレンと炭素数が3〜20のα−オレフィンとの共重合体からなる高分子量成分(B)の密度を低下させることができ、高分子量成分(B)に多くのコモノマーを導入することができるようになるので、ESCR等の物性を高く維持することが可能となる。好ましくはエチレン単独重合体からなる低分子量成分(A)の密度が971kg/m
3未満である場合、好ましくはエチレンと炭素数が3〜20のα−オレフィンとの共重合体からなる高分子量成分(B)の密度を十分に低下させることができないので、ESCRが低下するおそれがある。
【0027】
本発明の好ましい実施形態で用いられる、好ましくはエチレン単独重合体からなる低分子量成分(A)のコードDのMFRは、通常、100〜500g/10minであり、好ましくは200〜400g/10minである。この低分子量成分(A)によって流動性を確保しているので、100g/10分以上の場合、キャップ成形時に押出機の樹脂圧があまり上がらず、高速成形に有利である。一方、500g/10min以下である場合には、ワックスのような低分子量成分が少なくなり、ボトル内の飲料に溶け出す恐れがなく、好ましい。
【0028】
本発明の樹脂組成物は、コードDのMFR(JIS K7210:1999、190℃、2.16kg荷重)が、3.5〜10.0g/10minの範囲にあり、好ましくは5.0〜10.0g/10minの範囲、さらに好ましくは、5.0〜7.0g/10minである。コードDのMFRの値が3.5g/10min以上である場合、成形時に充分な流動性が得られるばかりか、成形時の樹脂温度上昇等の変動が小さく高速成形性に優れる。また、10.0g/10min以下である場合は、キャップ割れに繋がる恐れがあるストレスクラックを防ぐ耐ストレスクラック性が充分で実用に耐える。
【0029】
また、コードGのMFR(JIS K7210:1999、190℃、21.6kg荷重)の値が120〜500g/10minであることが好ましい。さらに好ましくは、160〜400g/10minである。この値が120g/10min以上であれば高速成形性に優れ、500g/10min以下である場合は、良好な耐ストレスクラック性(ESCR)が得られる。
【0030】
ここでいう高速成形性とは、同一条件(特に同一温度)において押出機の負荷が低くなり、吐出速度を上げられることと、押出機の負荷が同一となるように温度がどこまで下げられるかによって判断できる。
【0031】
次に説明する物性である、コードGのMFRとコードDのMFRとの比、(コードGのMFR/コードDのMFR)の値は、一般的に分子量分布と相関のある数値であり、分子量分布が広くなると、この(コードGのMFR/コードDのMFR)の値は大きくなる傾向にあるが、本発明のポリエチレン樹脂組成物の(コードGのMFR/コードDのMFR)は、50以上100以下であることが好ましく、さらに好ましくは80以上100以下である。この値が50以上である場合、成形時の押出機の負荷が低くなり、高速成形性上好ましく、ESCR性も充分である。また、100以下である場合、衝撃強度が充分で、キャップ成形品の天面にフローマークがでることもなく、キャップの成形収縮率に異方性がなく、キャップの真円度が上昇する。
【0032】
JIS K7211に従って測定した本発明の樹脂組成物の密度は963〜967kg/m
3の範囲である。耐ストレスクラック性を改良するためには、樹脂の密度を低くすることが有効であるが、ボトルキャップ用の樹脂組成物においては、密度が963kg/m
3以上である場合、キャップの剛性が充分となり、ボトルへの装填時に変形が発生したり、飲料を充填したボトルを高温で保管した際にキャップが変形するなどの不具合を効果的に抑制できる。また、ネジ部でのボトル本体側との滑り性が良く、キャップを開けるときの力(開栓トルク)が高すぎて子供や女性の力ではキャップを開けることができないという問題も、効果的に抑制できる。一方、967kg/m
3以下である場合には、十分なESCRを維持できる。
【0033】
また、本発明のポリエチレン樹脂組成物は、JIS K6760に記載された定ひずみ環境応力亀裂試験方法により測定された耐環境応力亀裂性(以下、ESCRと記す。)が、20時間以上である。具体的な測定方法としては、試験液として、ローディア日華(株)製のイゲパルCO−630の10重量%水溶液を使用し、環境応力による亀裂が発生する確率が50%(以下f50と記載)となる時間を計測し、ESCRの値とした。単位は時間である。この値が20時間以上であると、ボトルの内圧によりキャップが破裂する可能性が低い。また、ボトルへの装填時に巻き締めすぎたままでも、長期保管した際のクラックの発生は希である。
【0034】
本発明のポリエチレン樹脂組成物は、密度が高いことから、キャップに成形した際に、剛性があり、ボトルの内圧による変形が効果的に抑制される。剛性を評価する一つの指標として、引張り降伏応力の測定がある。これは、JIS K7161に記載の方法に準拠して、210℃で成形した射出成形片を試料に用いて測定することができる。好ましい範囲は、25〜30MPaである。25MPa以上では、ボトルの内圧が上昇した際にも、変形して飲料が漏れる恐れが少ない。30MPa以下では、十分なESCRが得られる。
【0035】
本発明のポリエチレン樹脂組成物の好ましい実施形態は、好ましくは分子量分布の狭いエチレン単独重合体である低分子量成分(A)と好ましくは分子量分布の狭いエチレン共重合体である高分子量成分(B)からなるため、耐衝撃性に優れる。耐衝撃性は、例えば、JIS K7111に記載されているシャルピー衝撃強さを求めることで評価することができる。シャルピー衝撃強さとしては、4〜7kJ/m
2の範囲が好ましく、4kJ/m
2以上では充分な落下衝撃強度を示し、ボトルを落とした際に、キャップが割れて飲料が漏れ出す恐れもない。一方、7kJ/m
2以下である場合には、密度が適当でありESCRも充分な長さとなる。
【0036】
本発明のポリエチレン樹脂組成物の分子量分布を示す指標(Mw/Mn)は、高温ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(高温GPC)を用いて、標準ポリスチレンサンプルから検量線を作成して求めることができる。このMw/Mnの値は、8.0〜12.0であることが好ましい。さらに好ましくは、10.0〜12.0の範囲である。Mw/Mnが8.0以上では、高分子量成分が十分存在するので、ESCRの低下を抑制できる。Mw/Mnが12.0以下の場合には、ワックスのような低分子量成分が少ないので、ボトル内の飲料に溶け出しを防止できる。また、分子量分布が広がり過ぎないことにより、衝撃強度が維持され、落下の衝撃でキャップが割れにくくなる。さらに分子量分布が広がり過ぎないことで、成形時に異方性が生じ、キャップの真円度が低下し、ボトルとの密着性が不均一となる、等の現象を抑制できる。
【0037】
本発明のポリエチレン樹脂組成物のDSCによる等温結晶化時間測定で得られる124℃におけるピークの等温結晶化時間は10分以下であり、さらに、5分以下であることが好ましい。結晶化速度は射出成形では金型に射出してから固化するまでの時間、コンプレッション成形では金型に樹脂をいれコンプレッションしてから固化するまでの時間の長短に影響し、結晶化時間が短いほど速く固化する。昨今の射出成形やコンプレッション成形ではハイサイクル化により射出またはコンプレッションから成形品を取り出すまでの冷却時間が律速となっており、成形サイクルを早めるためには固化時間を早める必要がある。充分に固化しないで製品を取り出すと、キャップの金型構造がいわゆる無理抜きの構造になっているため、ネジだれと称する変形を起こしてしまい商品価値が損なわれる。そのため結晶化時間が長いことは、そのような樹脂を用いた場合のハイサイクル化の妨げになっている。結晶化時間は10分以下であれば充分短いハイサイクル性を達成できる。
【0038】
次に、本発明の好ましい実施形態である製造方法において用いる特定の触媒について説明する。
上記の重合法において用いられる担持型幾何拘束型シングルサイト触媒(以下「メタロセン担持触媒」ともいう。)とは、(ア)担体物質、(イ)有機アルミニウム、(ウ)環状η性結合性アニオン配位子を有する遷移金属化合物、及び(エ)該環状η結合性アニオン配位子を有する遷移金属化合物と反応して触媒活性を発現する錯体を形成可能な活性化剤から調製される。(ウ)の環状η結合性アニオン配位子を有する遷移金属化合物中の遷移金属原子としてチタニウムを用いることが特開平11−166009号公報に記載されている。
【0039】
担体物質(ア)としては、有機担体、無機担体のいずれでもよい。有機担体としては、好ましくは(1)炭素数2〜20のα−オレフィンの重合体、例えば、ポリエチレンや、ポリプロピレン、ポリブテン−1、エチレン・プロピレン共重合ポリマー、エチレン・ヘキセン−1共重合ポリマー、プロピレン・ブテン−1共重合ポリマー、エチレン・ヘキセン−1共重合ポリマー等、(2)芳香族不飽和炭化水素共重合ポリマー、例えば、ポリスチレン、スチレン・ジビニルベンゼン共重合ポリマー等、および(3)極性基含有重合体ポリマー、例えば、ポリアクリル酸エステル、ポリメタクリル酸エステル、ポリアクリロニトリル、ポリ塩化ビニル、ポリアミド、ポリカーボネート等が挙げられる。無機担体としては(4)無機酸化物、例えば、SiO
2、Al
2O
3、MgO,TiO
2、B
2O
3、CaO、ZnO、BaO、ThO,SiO
2−MgO、SiO
2−Al
2O
3、SiO
2−MgO、SiO
2−V
2O
5など、(5)無機ハロゲン化合物、例えば、MgCl
2、AlCl
3,MnCl
2等、(6)無機の炭酸塩、硫酸塩、硝酸塩、例えば、Na
2CO
3,K
2CO
3、CaCO
3、MgCO
3、Al
2(SO
4)
3、BaSO
4、KNO
3、Mg(NO
3)
2等、(7)水酸化物、例えば、Mg(OH)
2、Al(OH)
3、Ca(OH)
3等が例示される。最も好ましい担体はSiO
2である。
【0040】
担体の粒子径は任意であるが、一般的には1μm〜3000μm、粒子の分散性の見地から、粒子径分布は好ましくは10〜1000μmの範囲内である。なお粒子径の測定はフローセルを用いたレーザ回折式粒度分布測定装置により測定した。
【0041】
上記担体物質は必要に応じて(イ)有機アルミニウム化合物で処理される。好ましい有機アルミニウム化合物としては、一般式(−Al(R)O−)
nで示される直鎖状、あるいは環状重合体(一般式中、Rは炭素数1〜10の炭化水素基であり、一部ハロゲン原子及び/またはRO基で置換されたものも含む。nは重合度であり、5以上、好ましくは10以上である。)等が挙げられ、具体例としてRがメチル基、エチル基、イソブチルエチル基である、メチルアルモキサン、エチルアルモキサン、イソブチルエチルアルモキサン等が挙げられる。
【0042】
更にその他の有機アルミニウム化合物としては、トリアルキルアルミニウム、ジアルキルハロゲノアルミニウム、セスキアルキルハロゲノアルミニウム、アルメニルアルミニウム、ジアルキルハイドロアルミニウム、セスキアルキルハイドロアルミニウムなどが挙げられる。
【0043】
その他の有機アルミニウム化合物の具体例としては、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、トリヘキシルアルミニウム、トリオクチルアルミニウム等のトリアルキルアルミニウム、ジメチルアルミニウムクロライド、ジエチルアルミニウムクロライドなどのジアルキルハロゲノアルミニウム、セスキメチルアルミニウムクロライド、セスキエチルアルミニウムクロライド等のセスキアルキルハロゲノアルミニウム、エチルアルミニウムジクロライド、ジエチルアルミニウムハイドライド、ジイソブチルアルミニウムハイドライド、セスキエチルアルミニウムハイドライド等を挙げることができる。これらの中で最も好ましくは、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、ジエチルアルミニウムハイドライド、ジイソブチルアルミニウムハイドライドである。
【0044】
担持触媒は、例えば、下記一般式(2)で示される(ウ)環状η結合性アニオン配位子を有する遷移金属化合物を含む。
L
lMX
pX’
q −(2)
【0045】
一般式(2)中、Mは1つ以上の配位子Lとη
5結合をしている酸化数+2、+3、+4の長周期型周期律表第4族遷移金属であり、特に遷移金属としてはチタニウムが好ましい。
【0046】
また、Lは環状η結合性アニオン配位子であり、各々独立にシクロペンタジエニル基、インデニル基、テトラヒドロインデニル基、フルオレニル基、テトラヒドロフルオレニル基、またはオクタヒドロフルオレニル基であり、これらの基は20個までの非水素原子を含む炭化水素基、ハロゲン、ハロゲン置換炭化水素基、アミノヒドロカルビ基、ヒドロカルビオルオキシ基、ジヒドロカルビルアミノ基、ジヒドロカルビルフォスフィノ基、シリル基、アミノシリル基、ヒドロカルビルオキシシリル基及びハロシリル基から各々独立に選ばれる1〜8の置換基を任意に有していてもよく、さらには2つのLが20個までの非水素原子を含むヒドロカルバジイル、ハロヒドロカルバジイル、ヒドロカルビレンオキシ、ヒドロカルビレンアミノ、ジラジイル、ハロシラジイル、アミノシランなどの2価の置換基により結合されていてもよい。
【0047】
Xは各々独立に、60個までの非水素原子を有する1価のアニオン性σ結合型配位子、Mと2価で結合する2価のアニオン性σ結合型配位子、またはM及びLに各々1個ずつの価数で結合する2価のアニオンσ結合型配位子である。
【0048】
X’は各々独立に炭素数4〜40からなるフォスフィン、エーテル、アミン、オレフィン、及び/又は共役ジエンから選ばれる中性ルイス塩基配位性化合物である。
【0049】
また、lは1または2の整数である。pは0、1又は2の整数であり、Xが1価のアニオン性σ結合型配位子又はM及びLに各々1個ずつの価数で結合する2価のアニオン性σ結合型配位子であるときpはMの形式酸化数よりもl以上少なく、またはXがMと2価で結合する2価のアニオン性σ結合型配位子であるときpはMの形式酸化数よりもl+1以上少ない。又qは0、1または2である。遷移金属化合物(ウ)としては上記一般式(2)でl=1の場合が好ましい。
【0050】
例えば、遷移金属化合物(ウ)の好適な例は、下記一般式(3)で表される。
【化2】
一般式(3)中、Mは形式酸化数+2、+3又は+4のチタニウム、ジルコニウム、ハフニウムであり、特にチタニウムが好ましい。
【0051】
また、R
3は各々独立に、水素、炭化水素基、シリル基、ゲルミル基、シアノ基、ハロゲン、又はこれらの複合基であり、各々20個までの非水素原子を有することができる。又近接するR
3同士がヒドロカルバジイル、ジラジイル、またはゲルマジイル等の2価の誘導体を形成して環状となっていてもよい。
【0052】
X”は各々独立にハロゲン、炭化水素基、ヒドロカルビルオキシ基、ヒドロカルビルアミノ基、またはシリル基であり、各々20個までの非水素原子を有しており、また2つのX”が炭素数5〜30の中性共役ジエン、もしくは2価の誘導体を形成してもよい。
Yは、−O−、−S−、−NR
*−、−PR
*−であり、ZはSiR
*2、CR
*2、SiR
*2SiR
*2、CR
*2CR
*2、CR
*=CR
*、CR
*2SiR
*2またはGeR
*2であり、ここでR
*は各々独立に炭素数1〜12のアルキル基又はアリール基である。又、nは1乃至3の整数である。
さらに、遷移金属化合物(ウ)として、より好適な例は、下記一般式(4)及び下記一般式(5)で表される。
【化3】
【化4】
【0053】
一般式(4)及び(5)中、R
3は各々独立に、水素、炭化水素基、シリル基、ゲルミル基、シアノ基、ハロゲン、又はこれらの複合基であり、各々20までの非水素原子を有することができる。また、遷移金属Mはチタニウム、ジルコニウムまたはハフニウムであり、チタニウムが好ましい。
【0054】
Z、Y、X及びX’の定義は前出のとおりである。pは0、1又は2であり、qは0又は1である。但し、pが2でqが0のとき、Mの酸化数は+4であり、且つXはハロゲン、炭化水素基、ヒドロカルビルオキシ基、ジヒドロカルビルアミノ基、ジヒドロカルビルフォスフィド基、ヒドロカルビルスルフィド基、シリル基またはこれらの複合基であり、20個までの非水素原子を有している。
【0055】
また、pが1でqが0のとき、Mの酸化数は+3であり、且つXはアリル基、2−(N,N−ジメチルアミノメチル)フェニル基または2−(N,N−ジメチル)−アミノベンジル基から選ばれる安定化アニオン配位子であるか、もしくはMの酸化数が+4であり、且つXが2価の共役ジエンの誘導体であるか、あるいはMとXがともにメタロシクロペンテン基を形成している。
【0056】
また、pが0でqが1のとき、Mの酸化数は+2であり、且つX’は中性の共役或いは非共役ジエンであって任意に1つ以上の炭化水素で置換されていてもよく、又該X’は40までの炭素原子を含み得るものであり、Mとπ型錯体を形成している。さらに、本発明において、遷移金属化合物(ウ)として最も好適な例は、下記一般式(6)及び下記一般式(7)で表される。
【化5】
【化6】
【0057】
一般式(6)及び(7)中、R
3は各々独立に、水素または炭素数1〜6のアルキル基である。又Mはチタニウムであり、Yは−O−、−S−、−NR
*−、−PR
*−であり、Z
*はSiR
*2、CR
*2、SiR
*2SiR
*2、CR
*2CR
*2、CR
*=CR
*、CR
*2SiR
2またはGeR
*2であり、ここでR
*は各々独立に水素、或いは炭化水素基、ヒドロカルビルオキシ基、シリル基、ハロゲン化アルキル基、ハロゲン化アリール基またはこれらの複合基である。該R
*は20個までの非水素原子を有することができ、又必要に応じてZ
*中の2つのR
*同士またはZ
*中のR
*とY中のR
*が環状となっていてもよい。
【0058】
pは0,1又は2であり、qは0又は1である。但し、pが2でqが0のとき、Mの酸化数は+4であり、且つXは各々独立にメチル基またはヒドロベンジル基である。
また、pが1でqが0のとき、Mの酸化数は+3であり、且つXが2−(N,N−ジメチル)−アミノベンジル基であるか、或いはMの酸化数が+4であり且つXが2−ブテン−1,4−ジイルである。
また、pが0でqが1のとき、Mの酸化数は+2であり、且つX’は1,4−ジフェニル−1、3−ブタジエンまたは1,3−ペンタジエンである。
前記ジエン類は金属錯体を形成する非対称ジエン類を例示したものであり、実際には各幾何異性体の混合物である。
また、メタロセン担持触媒は(エ)遷移金属化合物と反応して触媒活性を発現する錯体を形成可能な活性化剤を含む。通常メタロセン担持触媒においては、遷移金属化合物(ウ)と上記活性化剤(エ)により形成される錯体が、触媒活性種として高いオレフィン重合活性を示す。
【0059】
活性化剤(エ)としては例えば、下記一般式(8)で表される化合物が挙げられる。
[L−H]
d+[M
mQ
t]
d− −(8)
但し一般式(8)中、[L−H]
d+はプロトン付与のブレンステッド酸であり、Lは中性ルイス塩基である。また[M
mQ
t]
d−は相溶性の非配位性アニオンであり、Mは周期律表第5族乃至15族から選ばれる金属またはメタロイドであり、Qは各々独立にヒドリド、ジアルキルアミド基、ハライド、アルコキサイド基、アリロキサイド基、炭化水素基、炭素数20までの置換炭化水素基であり、またハライドであるQは1個以下である。又mは1乃至7の整数であり、tは2乃至14の整数であり、dは1乃至7の整数であり、t−m=dである。
【0060】
活性化剤(エ)のより好ましい例は下記一般式(9)で表される化合物である。
[L−H]
d+[M
mQ
w(G
u(T−H)
r)
z]
d− −(9)
但し一般式(9)中、[L−H]
d+はプロトン付与のブレンステッド酸であり、Lは中性ルイス塩基である。また[M
mQ
w(G
u(T−H)
r)
z]
d−は相溶性の非配位性アニオンであり、Mは周期律表第5族乃至15族から選ばれる金属またはメタロイドであり、Qは各々独立にヒドリド、ジアルキルアミド基、ハライド、アルコキサイド基、アリロキサイド基、炭化水素基、炭素数20までの置換炭化水素基であり、またハライドであるQは1個以下である。又GはM及びTと結合するr+1の価数を持つ多価炭化水素基であり、TはO、S、NRまたはPRであり、ここでRはヒドロカルビル基、トリヒドロカルビルシリル基、トリヒドロカルビルゲルマニウム基、もしくは水素である。
又mは1乃至7の整数であり、wは0乃至7の整数でありuは0または1の整数であり、rは1乃至3の整数であり、zは1乃至8の整数であり、w+z−m=dである。
活性化剤(エ)のさらに好ましい例は下記一般式(10)で表される化合物である。
[L−H]
+[BQ
3Q
*]
− −(10)
但し一般式(10)中、[L−H]
d+はプロトン付与のブレンステッド酸であり、Lは中性ルイス塩基である。また[BQ
3Q
*]
−は相溶性の非配位性アニオンであり、Bはホウ素原子、Qはペンタフルオロフェニル基であり、Q
*は置換基としてOH基を1つ有する炭素数6〜20の置換アリール基である。
【0061】
非配位性アニオンの具体例としては、トリフェニル(ヒドロキシフェニル)ボレート、ジフェニル−ジ(ヒドロキシフェニル)ボレート、トリフェニル(2,4−ジヒドロキシフェニル)ボレート、トリ(p−トリル)フェニル(ヒドロキシフェニル)ボレート、トリス(ペンタフルオロフェニル)(ヒドロキシフェニル)ボレート、トリス(2,4−ジメチルフェニル)(ヒドロキシフェニル)ボレート、トリス(3,5−ジメチルフェニル)(ヒドロキシフェニル)ボレート、トリス(3,5−ジ−トリフルオロメチルフェニル)(ヒドロキシフェニル)ボレート、トリス(ペンタフルオロフェニル)(2−ヒドロキシエチル)ボレート、トリス(ペンタフルオロフェニル)(4−ヒドロキシブチル)ボレート、トリス(ペンタフルオロフェニル)(4−ヒドロキシ−シクロヘキシル)ボレート、トリス(ペンタフルオロフェニル)(4−(4’−ヒドロキシフェニル)フェニル)ボレート、トリス(ペンタフルオロフェニル)(6−ヒドロキシ−2−ナフチル)ボレート等が挙げられ、最も好ましいのは、トリス(ペンタフルオロフェニル)(ヒドロキシフェニル)ボレートである。
【0062】
他の好ましい相溶性の非配位性アニオンの具体例としては、上記例示のボレートのヒドロキシ基がNHRで置き換えられたボレートが挙げられる。ここでRは好ましくはメチル基、エチル基またはtert−ブチル基である。
【0063】
また、プロトン付与性のブレンステッド酸の具体例としては、例えば、トリエチルアンモニウム、トリプロピルアンモニウム、トリ(n−ブチル)アンモニウム、トリメチルアンモニウム、トリブチルアンモニウム、およびトリ(n−オクチル)アンモニウム、ジエチルメチルアンモニウム、ジブチルメチルアンモニウム、ジブチルエチルアンモニウム、ジヘキシルメチルアンモニウム、ジオクチルメチルアンモニウム、ジデシルメチルアンモニウム、ジドデシルメチルアンモニウム、ジテトラデシルメチルアンモニウム、ジヘキサデシルメチルアンモニウム、ジオクタデシルメチルアンモニウム、ジイコシルメチルアンモニウム、ビス(水素化タロウアルキル)メチルアンモニウム等のようなトリアルキル基置換型アンモニウムカチオンが挙げられ、又N,N−ジメチルアニリニウム、N,N−ジエチルアニリニウム、N,N−2,4,6−ペンタメチルアニリニウム、N,N−ジメチルベンジルアニリニウムなどのようなN,N−ジアルキルアニリニウムカチオンも好適である。
【0064】
本発明の好ましい実施形態で用いられる触媒系で重合するオレフィンとしては、エチレンおよび炭素数が3〜20のα−オレフィンが挙げられ、炭素数が3〜20のα−オレフィンの代表例としては、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセン、1−テトラデセン、1−ヘキサデセン、1−オクタデセン、1−エイコセン、ビニルシクロヘキサン等が挙げられ、このうちのいくつかを組み合わせて、共重合することもできる。
【0065】
重合溶媒としては、スラリー重合に通常使用される炭化水素溶媒が用いられる。具体的には、ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族系炭化水素、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等の脂環式炭化水素の単独あるいは混合物が用いられる。重合温度は室温〜100℃、好ましくは50℃〜90℃の範囲である。重合圧力は常圧ないし100気圧の範囲で実施される。得られる重合体の分子量は、重合系に水素を存在させるか、あるいは重合温度を変化させることによって調節することができる。
【0066】
本発明のポリエチレン樹脂組成物はESCRに優れ、結晶化速度も充分早いバランスがとれた樹脂組成物であるが、さらにバランスを保ったまま高機能化のために結晶核剤を添加することが好ましい。
【0067】
本発明の樹脂組成物ならびに該組成物をブロー成形してなるブローボトルは下記一般式(1)に示す構造を有する結晶核剤を10〜2000ppm(質量基準)含有することが好ましい。
【化7】
【0068】
一般式(1)中、M
1及びM
2は、カルシウム、ストロンチウム、リチウム、亜鉛、マグネシウム及び一塩基性アルミニウムからなる群より互いに独立して選択され、更に、R
1、R
2、R
3、R
4、R
5、R
6、R
7、R
8、R
9、及びR
10は、水素及びC
1〜C
9アルキルからなる群より互いに独立して選択され、更に、互いに隣接して位置した何れか2つのR
3〜R
10アルキル基は任意に結合して炭素環を形成していてもよい。
【0069】
一例としてR
1〜R
2が水素である下記一般式(11)に示す構造を有する化合物が挙げられ、ミリケン・ジャパン(株)より製品名EXP−20として入手することができる。
【化8】
【0070】
該結晶核剤の添加量は組成物の総質量に対していずれも質量基準で、好ましくは10ppm以上1000ppm以下、より好ましくは30ppm以上500ppm以下、さらに好ましくは50ppm以上100ppm以下である。とりわけ好ましくは50ppm以上80ppm以下である。10ppm以上で結晶化速度が充分に速くなるが、量が増えるに従いESCRは低下するのでESCRの低下が問題とならない様に添加量を調節することが好ましい。一方、1000ppm以下では添加量に見合った結晶化速度向上の効果が見られる。
【0071】
本発明の好ましい実施形態であるボトルキャップは、上記のポリエチレン樹脂組成物を用いて、主に射出成形、コンプレッション成形(圧縮成形)で好適に成形される。本発明のポリエチレン樹脂組成物を用いることにより高速成形ができハイサイクル化が可能となる。MFRが高く、結晶化速度も早いため特にハイサイクルのコンプレッション成形に好適である。またESCR性にすぐれることからホット飲料に用いられるキャップにも使用することができる。従来ホット飲料のキャップ用のポリエチレン樹脂は、ESCR性を高めるためにMFRを低く抑え、かつ結晶化速度も遅いため、特にコンプレッション成形では押出機の樹脂圧上昇や固化が遅くなることにより離型時のネジだれが発生していたが、本発明の樹脂組成物を用いることにより、例えば、お茶のペットボトル用のキャップのコンプレッション成形の成形速度と同等までハイサイクル化できる。このことにより、従来2本立てであったお茶用とホット飲料用のキャップの材料を統合することができる。
【0072】
また、キャップの開栓性を良くするために滑剤を少量添加しても良い。添加する滑剤としては、例えば、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウムなどが挙げられ、添加量としては、いずれも質量基準で、通常800ppm以下、好ましくは600ppm以下、さらに好ましくは300ppm以下である。
【0073】
上記本発明のポリエチレン樹脂組成物には、上記結晶核剤の他に、本発明の効果を損なわない範囲で、各種添加剤や充填剤等を少量添加しても良いが、ボトル内の飲料への溶出を抑えることを考慮すると、できる限り添加しないことが好ましい。使用される添加剤としては、フェノール系酸化防止剤が良く、リン系やイオウ系のような酸化防止剤を使用すると、ボトル内の飲料の味が変化することがあり、好ましくない。
【0074】
添加するフェノール系酸化防止剤の量としては、いずれも質量基準で、通常500ppm以下であり、好ましくは300ppm以下、さらに好ましくは、100ppm以下であり、フレーバー性の点からは、全く添加しない場合が最も好ましい。また、全く添加しない場合には、乳等省令にも適合することから、乳飲料のキャップにも用いることが出来る。
【0075】
ppm(質量基準)とは、質量の割合を示し、1ppm(質量基準)は質量1gに対し質量100万分の1gを示す。
【0076】
帯電防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、防曇剤、有機過酸化物などについては、できるだけ添加しないことが好ましい。充填剤としては、例えば、タルク、シリカ、カーボン、マイカ、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、木粉などが挙げられる。必要に応じて、酸化チタンや有機顔料を使用するためにマスターバッチで添加することも可能であるが、フレーバー性を低下させる原因にもなるため、これらの添加剤や充填剤、酸化チタン、有機顔料などの添加は、出来る限り避けるべきである。
【実施例】
【0077】
本発明を実施例及び比較例を用いて更に具体的に説明するが、本発明はこれら実施例などにより何ら限定されるものではない。
【0078】
本発明及び以下の実施例、比較例において、示す記号ならびに測定方法は以下の通りである。
(1)MFR(コードD):
メルトインデックスを表し、JIS K7210により温度190℃、荷重2.16kgの条件下で測定した。単位はg/10minである。
(2)MFR(コードG):
メルトインデックスを表し、JIS K7210により温度190℃、荷重21.6kgの条件下で測定した。単位はg/10minである。
(3)MFR(コードG)/(MFR(コードD):
上記のMFR(コードG)とMFR(コードD)との比を表す。
(4)密度:
JIS K7112に従いD法密度勾配管法にて測定した。単位はkg/m
3である。
(5)分子量分布(Mw/Mn):
高温ゲル・パーミエーション・クロマトグラフイー(GPC)を測定し、得られた分子量分布のチャートにおいて、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比から求めることができる。高温GPC測定は、Waters社製Alliance GPCV2000を用い、カラムには、昭和電工(株)製のAT−807S(1本)と東ソー(株)製GMHHR−H(S)HT(2本)を直列に接続し、移動相にトリクロロベンゼン(TCB)、カラム温度140℃、流量1.0ml/分、試料濃度20mg/溶媒(TCB)10ml、試料溶解温度140℃、試料溶解時間1時間の条件下で行った。
(6)耐環境応力亀裂性(ESCR):
定ひずみ環境応力亀裂試験であり、JIS K6760に記載の方法で実施した。試験液としては、ローディア日華(株)製のイゲパルCO−630の10重量%水溶液を使用し、環境応力による亀裂が発生する確率が50%(以下f50と記載)となる時間を計測し、ESCRの値とした。単位は時間である。
(7)シャルピー衝撃強度:
210℃で成形した射出成形片を試料に用い、JIS K7111に記載の方法で求めた。温度は23℃である。単位はkJ/m
2である。
(8)曲げ弾性率:
上記(7)の試験片を用い、JIS K7171に記載の方法で求めた。温度は23℃である。単位はMPaである。
(9)示差走査熱量計(DSC)法による融点(Tm)および結晶化温度(Tc):
Perkin Elmer社製Pyris1DSCを用いて、試料重量5mg、窒素雰囲気下、25℃〜180℃の温度範囲で、まず100℃/minで180℃まで昇温の後、180℃で5分保持してから、降温速度10℃/minで25℃まで冷却し、現れたピークについての補外結晶化開始時間を結晶化温度とした。さらに25℃で5分保持の後、昇温速度10℃/minで昇温し、生じたピークトップを融点(Tm)とした。
(10)示差走査熱量計(DSC)法による等温結晶化時間(分):
Perkin Elmer社製Pyris1DSCを用いて、窒素雰囲気下、試料重量5mgで測定した。50℃で1分間保持した後、昇温速度200℃/minで180℃まで昇温して5分間180℃で保ち、降温速度80℃/minで124℃まで冷却し、その温度で保持したときの当該温度到達時点からの結晶化時間(ピーク)を測定した。
【0079】
[メタロセン触媒の調製]
<メタロセン担持触媒[A]の調製>
シリカP−10[富士シリシア社(日本国)製](商標)を、窒素雰囲気下、400℃で5時間焼成し、脱水した。エトキシジエチルアルミニウムを表面水酸基と反応させてエタンガスを発生させ、ガスビュレットを用いて、発生したエタンガスの量を測定した。発生したエタンガスの量に基づいて脱水シリカの表面水酸基の初期量を求めたところ、1.3mmol/g−SiO
2であった。容量1.8リットルのオートクレーブにおいて、この脱水シリカ40gをヘキサン800cc中に分散させ、スラリーを得た。得られたスラリーを攪拌下50℃に保ちながら、トリエチルアルミニウムのヘキサン溶液(濃度1mol/リットル)を60cc加え、その後2時間攪拌し、トリエチルアルミニウムとシリカの表面水酸基とを反応させ、トリエチルアルミニウム処理されたシリカと上澄み液とを含み、該トリエチルアルミニウム処理されたシリカの全ての表面水酸基がトリエチルアルミニウムによりキャッピングされている成分[D]を得た。その後、得られた反応混合物中の上澄み液をデカンテーションによって除去することにより、上澄み液中の未反応のトリエチルアルミニウムを除去した。その後、ヘキサンを適量加え、トリエチルアルミニウム処理されたシリカのヘキサンスラリー800ccを得た。一方、[(N−t−ブチルアミド)(テトラメチル−η5−シクロペンタジエニル)ジメチルシラン]チタニウム−1,3−ペンタジエン(以下、「チタニウム錯体」という)200mmolをアイソパーE[エクソンケミカル社(米国)製の炭化水素混合物の商品名]1000ccに溶解し、予めトリエチルアルミニウムとジブチルマグネシウムより合成した組成式AlMg
6(C
2H
5)
3(n−C
4H
9)
12の1mol/リットルヘキサン溶液を20cc加え、更にヘキサンを加えてチタニウム錯体濃度を0.1mol/リットルに調整し、成分[E]を得た。
【0080】
また、ビス(水素化タロウアルキル)メチルアンモニウム−トリス(ペンタフルオロフェニル)(4−ヒドロキシフェニル)ボレート(以下、「ボレート」と略称する)5.7gをトルエン50ccに添加して溶解し、ボレートの100mmol/リットルトルエン溶液を得た。このボレートのトルエン溶液にエトキシジエチルアルミニウムの1mol/リットルヘキサン溶液5ccを室温で加え、さらにヘキサンを加えてトルエン溶液中のボレート濃度が70mmol/リットルとなるようにした。その後、室温で1時間攪拌し、ボレートを含む反応混合物を得た。
【0081】
ボレートを含むこの反応混合物46ccを、上で得られた、成分[D]のスラリー800ccに15〜20℃で攪拌しながら加え、ボレートを物理吸着によりシリカに担持した。こうして、ボレートを担持したシリカのスラリーが得られた。さらに上で得られた成分[E]のうち32ccを加え、3時間攪拌し、チタニウム錯体とボレートとを反応させた。こうしてシリカと上澄み液とを含み、触媒活性種が該シリカ上に形成されているメタロセン担持触媒[A]を得た。
【0082】
<液体助触媒成分[B]の調製>
有機マグネシウム化合物として、AlMg
6(C
2H
5)
3(n−C
4H
9)
12で示される有機マグネシウム化合物を使用した。これと反応させるシロキサン化合物として、メチルヒドロポリシロキサン(25℃における粘度20センチストークス)を使用した。200ccのフラスコに、ヘキサン40ccとAlMg
6(C
2H
5)
3(n−C
4H
9)
12を、MgとAlの総量として37.8mmolを攪拌しながら添加し、25℃でメチルヒドロポリシロキサン2.27g(37.8mmol)を含有するヘキサン40ccを攪拌しながら添加し、その後80℃に温度を上げて3時間、攪拌下に反応させることにより、液体助触媒成分[B]を調製した。
【0083】
上記のメタロセン担持触媒[A]及び液体助触媒成分[B]を組み合わせたものをメタロセン触媒として用い、メタロセン触媒系高密度ポリエチレンの調製を行った。
【0084】
〔
参考例〕
上記で得られたメタロセン触媒を用いて、連続スラリー重合法で、直列に接続した2つの重合槽による二段重合を行った。用いたコモノマーは1−ブテンである。一段目の重合槽には、モノマーとしてエチレンのみを供給し、温度70℃、分子量調節剤としての水素を1.01mol%の割合で供給し、全圧を3.0Kg/cm
2Gに保ち、二段目には温度75℃で、1−ブテンを0.23mol%、水素を550molppmの割合で供給し、全圧を6.2Kg/cm
2Gに保つことにより重合した。一段目の重合槽で得られるエチレン単独重合体からなる低分子量成分(A)の生産量の割合を70質量%、二段目の重合槽で得られる共重合体からなる高分子量成分(B)の生産量の割合を30質量%に設定した。得られたパウダーに添加剤としてステアリン酸カルシウムを800molppm加えて、ヘンシェルミキサーにてブレンドした。これを二軸押出機(日本製鋼社製;TEX44HCT−49PW−7V)を用い、シリンダー温度200℃、押出量35kg/時間の条件で混練しながら押出し、組成物ペレットを得た。
【0085】
前記した測定法に基づいて各物性値及び評価データを求めた。その結果を表に示す。
参考例で得られた樹脂組成物は、剛性、流動性、耐ストレスクラック性(ESCR)に優れ、等温結晶化時間も短かった。
【0086】
〔実施例2〕
参考例で得られたパウダーに添加剤としてステアリン酸カルシウム800ppmと結晶核剤としてミリケン・ジャパン(株)製EXP−20を60ppm(いずれも質量基準)加えた以外は
参考例と同様に押出してペレットを得た。
【0087】
前記した測定法に基づいて各物性値及び評価データを求めた。その結果を表1に示す。
参考例で得られた樹脂組成物は、剛性、流動性が高く、等温結晶化時間は充分短くなり、耐ストレスクラック性(ESCR)も良好であった。
【0088】
〔比較例1〕
参考例で得られたパウダーに添加剤としてステアリン酸カルシウム800ppmと結晶核剤としてミリケン・ジャパン(株)製EXP−20を100ppm(いずれも質量基準)加えた以外は
参考例と同様に押出してペレットを得た。
【0089】
前記した測定法に基づいて各物性値及び評価データを求めた。その結果を表1に示す。
参考例で得られた樹脂組成物は、剛性、流動性が高く、等温結晶化時間は充分短くなったが、耐ストレスクラック性(ESCR)は低下した。
【0090】
〔比較例2〕
二段重合の二段目に温度75℃で、1−ブテンを0.27mol%、水素を730molppmの割合で供給し、全圧を5.9Kg/cm
2Gに保つことにより重合した以外は
参考例と同様にしてペレットを得た。
【0091】
前記した測定法に基づいて各物性値及び評価データを求めた。その結果を表に示す。比較例2で得られた樹脂組成物は、剛性、流動性には優れるが、耐ストレスクラック性(ESCR)にやや劣り、等温結晶化時間は長かった。
【0092】
〔比較例3〕
一段目の重合槽には、モノマーとしてエチレンのみを供給し、温度70℃、分子量調節剤としての水素を0.69%の割合で供給し、全圧を2.8Kg/cm
2Gに保ち、二段目には温度75℃で、1−ブテンを0.26mol%、水素を820molppmの割合で供給し、全圧を8.6Kg/cm
2Gに保つことにより重合した以外は
参考例と同様にしてペレットを得た。
【0093】
前記した測定法に基づいて各物性値及び評価データを求めた。その結果を表に示す。比較例3で得られた樹脂組成物は、剛性、流動性に優れるが、耐ストレスクラック性(ESCR)に劣り、等温結晶化時間が長かった。
【0094】
(固体触媒成分[F]の調製)
(1)クロルシラン化合物との反応によるマグネシウム含有固体の合成
充分に窒素置換された15リットルの反応器に、トリクロルシラン(HSiCl
3)を2モル/リットルのn−ヘプタン溶液として2740ミリリットル仕込み、攪拌しながら65℃に保ち、組成式AlMg
6(C
2H
5)
3(n−C
4H
9)
10.8(On−C
4H
9)
1.2で示される有機マグネシウム成分のn−ヘプタン溶液7リットル(マグネシウム換算で5モル)を1時間かけて加え、更に65℃にて1時間攪拌下反応させた。反応終了後、上澄み液を除去し、n−ヘキサン7リットルで4回洗浄を行い、固体物質スラリーを得た。この固体を分離・乾燥して分析した結果、固体1グラム当たり、Mg8.62ミリモル、Cl17.1ミリモル、n−ブトキシ基(On−C
4H
9)0.84ミリモルを含有していた。
(2)固体触媒の調製
上記固体500gを含有するスラリーを、n−ブチルアルコール1モル/リットルのn−ヘキサン溶液2160ミリリットルとともに、攪拌下50℃で1時間反応させた。反応終了後上澄みを除去し、7リットルのn−ヘキサンで1回洗浄した。このスラリーを50℃に保ち、ジエチルアルミニウムクロリド1モル/リットルのn−ヘキサン溶液970ミリリットルを攪拌下加えて1時間反応させた。反応終了後上澄みを除去し、7リットルのn−ヘキサンで2回洗浄した。このスラリーを50℃に保ち、ジエチルアルミニウムクロリド1モル/リットルのn−ヘキサン溶液270ミリリットルおよび四塩化チタン1モル/リットルのn−ヘキサン溶液270ミリリットルを加えて、2時間反応した。反応終了後上澄みを除去し、内温を50℃に保った状態で、7リットルのn−ヘキサンで4回洗浄して、固体触媒成分をヘキサンスラリー溶液として得た。この固体触媒スラリー溶液上澄み液中の塩素イオン濃度は2.5ミリモル/リットル、アルミニウムイオン濃度は4.5ミリモル/リットルであった。
【0095】
〔比較例4〕
上記で得られた固体触媒を用いて、連続スラリー重合法で、直列に接続した2つの重合槽による二段重合を行った。用いたコモノマーは1−ブテンである。一段目の重合槽には、モノマーとしてエチレンのみを供給し、二段目にはエチレンと1−ブテンを供給することにより重合した。一段目の重合槽で得られるエチレン単独重合体からなる低分子量成分(A)の生産量の割合を60質量%、二段目の重合槽で得られる共重合体からなる高分子量成分(B)の生産量の割合を40質量%に設定した。得られたパウダーに添加剤としてステアリン酸カルシウムを800ppm(質量基準)加えて、ヘンシェルミキサーにてブレンドした。これを二軸押出機(日本製鋼社製;TEX44HCT−49PW−7V)を用い、シリンダー温度200℃、押出量35kg/時間の条件で混練しながら押出し、組成物ペレットを得た。
前記した測定法に基づいて各物性値及び評価データを求めた。その結果を表に示す。比較例4で得られた樹脂組成物は、剛性、流動性が高く、耐ストレスクラック性(ESCR)は良好であったが、等温結晶化時間が長かった。
【0096】
〔比較例5〕
比較例4で得られたパウダーに添加剤としてステアリン酸カルシウム800ppmと結晶核剤としてミリケン・ジャパン(株)製EXP−20を50ppm(いずれも質量基準)加えた以外は比較例4と同様に押出してペレットを得た。
前記した測定法に基づいて各物性値及び評価データを求めた。その結果を表に示す。比較例5で得られた樹脂組成物は、剛性、流動性が高く、等温結晶化時間は充分短くなったが、耐ストレスクラック性(ESCR)は大幅に低下した。
【0097】
〔比較例6〕
コードDのMFRが800g/10minとなる条件でエチレン単独重合体を重合した際に、そのMw/Mnが8.9となるチーグラー触媒を用いて、連続二段重合法にて実施した。一段目の重合槽で得られるエチレン単独重合体からなる低分子量成分(A)の生産量の割合を75質量%に増やし、二段目の重合槽で得られる共重合体からなる高分子量成分(B)の生産量の割合を25質量%に設定した。最終的に得られたポリエチレン樹脂組成物の物性を表に示す。ESCRは維持し、等温結晶化時間は充分短いものの、樹脂組成物のコードDのMFRが低く、高速成形性が不足していた。
【表1】